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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)4980号 判決

一 請求原因一、二及び五の各事実は、当事者間に争いがない。

二 右当事者間に争いのない本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、本件考案は、次の(1)ないし(5)の要件により構成されることが認められる。

(1) 吸水性に富んだ厚紙

(2) その表皮に防水性の薄紙を貼合わせた生地板

(3) その表面に耐水性接着剤を敷き

(4) これに短繊維をフロツク加工してなる

(5) 版画用彫刻板

三 右当事者間に争いのない別紙物件目録の記載に基いて、被告製品の構造を本件考案の構成要件に対応して分説すれば、次のとおりとなることが認められる。

(1´) 吸水性に富んだ厚紙

(2´) その表面に膠により貼合わされた王子片艶晒クラフト紙一連七一・五キログラム

(3´) その表面にクリヤーラツカー等を薄く塗布し乾燥させ

(4´) アマニ油の重合剤を主体とする接着剤を敷き

(5´) これに電気植毛(フロツク加工)して短繊維層を形成し

(6´) 右(1´)ないし(5´)の各層が順次積層してなる版画用彫刻板。

四 そこで、右認定の本件考案の構成要件及び被告製品の構造に基づいて、本件考案と被告製品とを対比する。

(一) 被告製品の構造(1´)が本件考案の構成要件(1)に該当することは明らかである。

(二) 被告製品の構造(2´)の膠は、本件考案の構成要件(2)の薄紙を貼合せるための接着剤に該当することは明らかである。

また、成立に争いのない甲第四、第五号証証人加藤利彦の証言によれば、被告製品の構造(2´)のクラフト紙は、厚みが平均〇・一〇二ミリメートルの薄紙であつて、コブ法と称する吸水度試験によるとその吸水性は室温摂氏二〇度、湿度六五パーセントにおける測定値が一平方メートル当り平均一九・七グラムであつて、官製ハガキよりも吸水性が少ないことが認められるところ、その紙面にはさらに被告製品の構造(3´)のクリヤーラツカ等を薄く塗布し乾燥させる処理がほどこされていることは、すでに判示したとおりである。そして、証人加藤利彦の証言、弁論の全趣旨を総合すれば、クリヤーラツカー等は防水作用をするものであること、クラフト紙の表面にクリヤーラツカー等の液状物が塗布されるならば、紙面に防水被膜を形成するばかりではなく、紙組織内部に浸透して紙質自体の防水性を向上させる作用を営むことが認められる。

以上の事実によれば、右(3´)のクリヤーラツカーを薄く塗布し乾燥させる処理のほどこされた右(2´)のクラフト紙は、構造及び防水作用のうえでも一体の防水性薄紙を構成するから、被告製品の構造(2´)及び(3´)は総合して本件考案の構成要件(2)を充足するものというべきである。

(三) 被告製品の構造(4´)のアマニ油の重合剤を主体とする接着剤が耐水性を有することが当事者間に争いのないことは、当事者双方の主張に徴し、明らかであるから、被告製品の構造(4´)は、本件考案の構成要件(3)に該当するものというべきである。

(四) 被告製品の構造(5´)が本件考案の構成要件(4)に該当することは、明らかである。

(五) 右のとおりであるから、被告製品の構造(6´)は、本件考案の構成要件(5)に該当するものというべきである。

(六) ところで、被告は、被告製品は、本件考案とは異なつた作用効果を有するから、本件考案の構成要件とは異なつた構造である旨主張するので検討する。すでに判示したところからすれば、本件考案の構成要件においては、(4)が保水作用、(2)、(3)が防水作用、(1)が吸水作用を営むから、版面に付着された絵具やインク等は(4)に滞留されるとともに、(2)、(3)が切除されると、(1)の露出した部分では余滴として(1)に吸収されるものであるところ、被告製品の構造においても、(5´)が保水作用、(2´)ないし(4´)が防水作用、(1´)が吸水作用を営むから、版面に付着された絵具やインク等は(5´)に滞留されるとともに、(2´)ないし(4´)が切除されると、(1´)の露出した部分では余滴として(1´)に吸収されるものであつて、被告製品は、本件考案と同一の作用効果を奏するということができる。したがつて、被告の右主張は、理由がない。

なお被告は、被告製品の構造(2´)、(3´)については、「吸水性クラフト紙の表面に防水剤を塗布する。」という構造であり、彫刻するにあたつては(3´)の防水被膜を取除いて(2´)のクラフト紙を露出せしめ、そこに絵具やインク等の余滴を吸収させるものである旨主張する。しかしながら、クリヤーラツカーの塗布されたクラフト紙は、前認定のように防水性薄紙となるものであるうえ、すでに判示したとおりの本件考案の構成要件、本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載、被告製品の構造、弁論の全趣旨を総合すれば、本件考案及び被告製品は、いずれも版面に付着された絵具やインク等を転写される分は短繊維層に滞留せしめながらその余滴を版材に吸収させるという目的を有するものであること、被告製品について、右目的を達成するためには、(2´)及び(3´)は一体のまゝで防水層として作用させ、(1´)の厚紙に吸収作用を営ませる方法でこれを使用することにより、最も有効にその作用効果を挙げられるうえ、版画彫刻の一般的技法にも適合したものであることが認められる。もつとも、(2´)のクラフト紙は、吸水性を全く喪失するものとはいえないと推認されるから、被告の主張するように、(3´)の防水被膜を取除いて(2´)のクラフト紙を露出させ、残存の吸水性を利用して絵具やインク等の余滴を吸収させるという技法をほどこす余地のあることもあながち否定できないわけではないが、(2´)の紙質と厚みに照らせばきわめて僅少な吸水力しか期待できそうにないし、また、かかる技法を行うためには相当の技術を要するであろうことが容易に推測されること等をも考え合わせると、被告の指摘する点は、あくまでも被告製品を用いた版画彫刻技法として実施しうる可能性の一つを示すにすぎないものというべく、前認定の(3´)と(2´)との構造及び防水作用のうえでの一体性を否定するための根拠とすることはできない。したがつて、被告の右主張は、理由がない。

(七) 以上のとおりであるから、被告製品は、本件考案の構成要件をことごとく具備するものであるから、本件考案の技術的範囲に属する。

五 次に、被告の先使用による通常実施権の抗弁について、判断する。

証人松原正信の証言及び被告代表者尋問の結果を総合すれば、本件考案の登録出願前の昭和四四年一〇月頃、被告が松原紙器に注文して、丸東から購入した商品名パイロンなるウールぺーパーを厚紙に貼合わせた構造を版画用彫刻板を約三〇〇枚試作させたことが認められる。

しかしながら、被告の右試作にかかる版画用彫刻板が被告製品と同一の構造のものであつたことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、右各証拠によれば、右試作品のパイロンなるウールペーパーにおいては、フロツク加工するために使用される接着剤には耐水性がないものが使用されていたことが認められるので、右試作にかかる版画用彫刻板は、被告製品の構造(4´)を欠如していたということができる。したがつて、被告の右試作品は、被告製品とは、同一の考案に属するものということができないので、被告製品については、先使用による通常実施権を認めることはできないから、被告の抗弁は理由がない。

六 以上のとおりであるから、被告の被告製品の製造、販売及び販売のための展示は、本件実用新案権を侵害するものというべきである。

七 してみれば、原告の本件請求は、理由があるから、これを認容する。

〔編註〕本件に関する目録は左のとおりである。

物件目録

イ号物件

吸水性に富んだ厚紙(1)の表面に、次の如きウールペーパーの裏面を接着剤(2)にて貼着してなる版画用彫刻板ウールペーパーは

(イ) 王子片艶晒クラフト紙一連七一・五kg(3)の表面に

(ロ) クリヤーラツカー(硝化綿を溶剤でとかしたもの)と可塑剤と炭酸カルシユムとの混合液を薄く塗布して乾燥(4)させた後

(ハ) その表面に、アマニ油の重合剤とナフテン酸マンガン、亜鉛華を混合してなる接着剤(5)を塗布し

(ニ) その表面に短繊維を電気植毛(フロツク加工)(6)したものである。

図面

平面図

<省略>

断面図

<省略>

(1) 吸水性厚紙

(2) 厚紙とウールペーパーとの接着剤

(3) クラフト紙

(4) クリヤーラツカー等を塗布乾燥させた層

(5) アマニ油の重合剤を主体とする接着剤

(6) 短繊維

((3)(4)(5)(6)はウールペーパーの構成部分)

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