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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)5881号 判決 1978年1月30日

原告

箭内光三

被告

森田尚男

主文

一  被告原嶋信夫は原告に対し金二一四万八四九四円およびこれに対する昭和四七年一一月一八日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告森田尚男、同山口順吉に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用中、原告と被告原嶋信夫との間に生じた分は同被告の負担とし、原告と被告森田尚男、同山口順吉との間に生じた分は原告の負担とする。

四  この判決第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

(一)  被告らは連帯して原告に対し金一一五万〇二四四円およびこれに対し被告森田尚男、同山口順吉は昭和四七年八月二五日から、被告原嶋信夫は同年一一月一八日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被告原嶋信夫は原告に対し金九九万八二五〇円およびこれに対する昭和四七年一一月一八日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(四)  仮執行の宣言。

二  被告森田尚男、同山口順吉

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

(一)  日時 昭和四七年二月三日午後三時三〇分頃

(二)  場所 千葉県君津市上二二八先路上

(三)  加害車 ダンプカー(埼玉一一す一二七号、以下、加害車という。)

右運転者 被告原嶋信夫(以下、被告原嶋という。)

(四)  被害車 ダンプカー(千葉一一に一七三三号、以下、被害車という。)

右運転者 原告

(五)  態様 被害車が前記場所を君津市方向に向つて進行していたところ、対向の加害車がセンターラインオーバーをして正面衝突してきたもの。

二  責任原因

(一)  被告森田尚男(以下、被告森田という。)は昭和四五年五月二九日頃多摩日野自動車株式会社(以下、多摩日野自動車という。)から加害車を所有権留保付割賦販売契約により買受けて使用権限を取得した加害車の使用権者であり、昭和四七年一月九日以降被告原嶋に加害車を使用させていたものであるから、加害車の運行供用者として自賠法三条に基づき本件事故によつて原告が受けた人的損害を賠償する責任がある。

(二)  被告山口順吉(以下、被告山口という。)は昭和四七年一月二〇日多摩日野自動車から加害車を所有権留保付割賦販売契約により買受けて使用権限を取得した加害車の使用権者であり、同日以降被告原嶋に加害車を使用させていたものであるから、加害車の運行供用者として自賠法三条に基づき本件事故によつて原告が受けた人的損害を賠償する責任がある。

(三)  被告原嶋は前方不注意、一時停止違反、追越不適当、車両通行方法違反、ハンドルブレーキ操作不適当の過失によつて本件事故を惹起させたものであるから、民法七〇九条に基づき本件事故によつて原告が受けた人的ならびに物的損害を賠償する責任がある。

三  損害

(一)  原告は本件事故のために昭和四七年二月三日から同年一〇月三一日までの間に実通院日数一四〇日間の通院加療を要した両膝関節挫創、膝関節包損傷を伴う右膝部挫創の傷害を受け、また、原告所有の被害車を損壊された。

(二)  右受傷および被害車損壊に伴う損害の数額は次のとおりである。

1 治療費 八万四三三四円

2 通院交通費 八万五四九〇円

3 休業損害 一四四万二四二〇円

原告はダンプカーの運転手で、本件事故前の昭和四六年六月二一日から同年一二月二〇日までの間に三〇二万八〇二二円の水揚をあげており、右水揚をあげるために必要な燃料費、修理費等の必要経費は一一七万三四三五円であつたから、原告は本件事故当時一日平均一万〇三〇三円の収入を得ていたことになるところ、本件事故による前記受傷のために昭和四七年二月三日から同年六月二二日まで一四日間の休業を余儀なくされたので一四四万二四二〇円の休業損害を蒙つた。

4 慰藉料 二〇万円

5 被害車修理代 九九万八二五〇円

6 弁護士費用 五万円

四  損害の填補

原告は被告原嶋より一九万二〇〇〇円の弁済を受け、自賠責保険から五二万円を受領したので、右合計額七一万二〇〇〇円を前項1ないし4の損害の一部に充当する。

五  結び

よつて、原告は被告らに対し一一五万〇二四四円およびこれに対し被告森田、同山口は同被告らに対する訴状送達の日の翌日である昭和四七年八月二五日から、被告原嶋は同被告に対する訴状送達の日の翌日である同年一一月一八日から各支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払と被告原嶋に対してはさらに九九万八二五〇円およびこれに対する前同日から前同割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告森田の認否および主張

一  認否

(一)  請求原因第一項は不知。

(二)  請求原因第二項(一)のうち、被告森田が昭和四五年五月三〇日多摩日野自動車から加害車を所有権留保付割賦販売契約により買受けてその使用権限を取得したことは認めるが、その余は争う。

(三)  請求原因第三、四項は不知。

二  主張

被告森田は昭和四六年一一月頃被告山口が加害車を買受けたいというので同被告に試乗してもらつたうえ同年一二月頃多摩日野自動車に右経過を話して同会社から被告山口への売却手続をすすめてもらうため売買契約を解約し、昭和四七年一月一三日加害車を正式に右会社に返還しており、これにより被告森田は加害車の運行供用者たる地位を喪失したものである。

第四請求原因に対する被告山口の認否および主張

一  認否

(一)  請求原因第一項は不知。

(二)  請求原因第二項は否認する。

(三)  請求原因第三、四項は不知。

二  主張

(一)  被告山口は昭和四六年一二月頃被告森田から加害車を多摩日野自動車に対する代金債務引継ぎで買取ることを求められ、とりあえず一二月だけ試用させてくれといつてその頃被告森田から加害車の引渡を受け、多摩日野自動車の社員岡部干男とも会つて同人から契約書、委任状等の用紙を手渡されていたが、修理代の月賦を合わせると毎月の支払が二〇万円にもなつて支払ができそうもなかつたので、昭和四七年一月七日被告森田に買受を断つたところ同被告はこれを承諾し、翌八日被告原嶋を同道してきて同被告が買受けることになつたと告げられたので、被告山口はその場で多摩日野自動車に電話して前記岡部に自分は買受を断念し被告原嶋が買受けることになつた旨連絡したところ、同人もこれを承諾した。そこで、翌九日被告森田の承認のもとに被告原嶋に加害車を引渡したが、被告森田および前記岡部から原嶋の信用調査の関係があるので被告山口と多摩日野自動車との関係はしばらくそのままにしておいてもらいたいと頼まれ、形式だけのものと思つて同年一月二〇日頃被告森田を通じて先に岡部より渡されていた契約書、委任状等に押印しただけのものを多摩日野自動車に交付し、さらに同年二月四日被告森田が手形も貸してもらいたいといつてきたので、被告山口の兄山口忠信の印を無断で押印した手形用紙を交付したものである。しかるに、被告原嶋が本件事故を起すや、被告森田および多摩日野自動車は本件事故の責任を免れるとともに代金回収の見込のない被告原嶋よりも被告山口から回収しようとして右書類の形式を整え本件事故より二ケ月余も後の昭和四七年三月二三日付で公正証書まで作成して加害車の買主は被告山口であると主張しているものである。

(二)  かりに、被告山口と多摩日野自動車との間に法律上売買契約が成立しているとしても、取引の安全という観点からの契約の成否は運行供用者たる地位に関係はなく、また、前記試用中運行供用者たる地位を取得していたとしても、前記のとおり被告山口は買受を中止して実質上の買主である被告原嶋に加害車を引渡したから、これにより被告山口は運行供用者たる地位を喪失したものである。

第五被告森田、同山口の主張に対する原告の認否

いずれも否認する。

第六被告原嶋について

被告原嶋は公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。

第七証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

原告と被告森田の間では成立に争いがなく、その余の被告に対する関係ではその方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一号証、原告本人尋問の結果によつて成立を認め得る甲第四号証および同尋問結果によると、昭和四七年二月三日午後三時三〇分頃、原告が被害車(ダンプカー千葉一一に一七三三号)を運転して千葉県君津市上二二八番地先路上に差しかかり、同所で連続して進行してきた対向車に道を譲るため一時停止していたところ、三、四台目に進行してきた対向車である被告原嶋運転の加害車(ダンプカー埼玉一一す一二七号)がセンターラインを越えてきて被害車の前部に衝突するという交通事故が発生したことが認められる。

二  責任

(一)  被告森田、同山口について

被告森田が昭和四五年五月三〇日多摩日野自動車から加害車を所有権留保付割賦販売契約により買受けてその使用権限を取得したことは原告と被告森田間で争いがない。

そして、成立に争いのない丙第二、三号証、同第一一号証の五、六、原本の存在と成立に争いのない丙第一一号証の一、同第一二号証、同第一三号証の一、同第一四号証の一、同第一五号証の一、被告原嶋の声を録音したテープから反訳したものであることに争いのない丙第二一号証、被告山口本人尋問の結果および前掲甲第四号証との対比によつて成立を認め得る丙第四号証、前掲丙第一四号証の一により成立を認め得る丙第一四号証の八、証人岡部干男の証言(後記措信しない部分を除く。)、被告森田本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)および被告山口本人尋問の結果を総合すると、被告森田は加害車を自己の営んでいる建材業に使用していたが、昭和四六年一二月頃加害車を維持できなくなつたので同じ運転手仲間で顔見知りであつた被告山口に多摩日野自動車に対する未払の月賦代金の引継ぎで加害車を買取つてくれないかと申し入れたところ、被告山口はしばらく試用したうえで決めたいということであつたので、その頃被告山口に加害車を引渡して試用させるとともに被告山口と二人で多摩日野自動車に行つて担当のセールスマンである岡部干男に会い、被告山口が加害車の買取りを希望している旨話して引受債務の額、支払方法、使用者名義の変更手続について説明を受け、被告山口は契約書等の用紙の交付を受けたが、右時点では契約の成立までには至らず、被告山口が買取を前提になお試用を続けていたこと、しかし、被告山口は加害車の修理代を合わせると毎月の支払額が二〇万円にもなつて支払が難しいと思つたので被告森田にその旨話して正式な契約締結や使用者名義変更の手続はとらないでいたところ、昭和四九年一月八日に被告森田が被告原嶋を同道してきて加害車は被告原嶋が買取ることになつたので返してもらいたいと要求されたので、多摩日野自動車に電話をして前記岡部に右事情を話して加害車の買受けを中止したいと申し入れたうえ、翌九日被告森田立会のもとに被告原嶋に加害車の鍵を交付して同被告を加害車の駐車してあつた青梅市内の空地まで同行して加害車を引き渡したこと。その後、被告山口は被告森田から被告原嶋の信用調査や自己の多摩日野自動車に対する債務の支払期日との関係もあるので被告山口と多摩日野自動車との間ではしばらく買受名義人は被告山口にしておいてもらいたいと頼まれて買受人欄に自己の印、連帯保証人欄に父の山口銀次郎と兄の山口忠信の印を押した前記契約書等の用紙と右山口忠信の印を振出人欄に押した手形用紙を交付し、多摩日野自動車から名義変更のため加害車を一たん返還するよう要求された際には被告森田とともに被告原嶋を捜して加害車を多摩日野自動車に入庫させ、さらに、被告原嶋から被告山口が行かないと加害車の引渡が受けられないので同行してもらいたいと頼まれて昭和四七年一月中旬頃同被告と多摩日野自動車に行つて前記岡部に会い名義変更手続費用の一部として被告原嶋が出損した五万円を支払つて加害車の引渡を受けるなどしているが、被告山口は右引渡を受けるとすぐ被告原嶋に加害車を引渡しており、その後も被告森田の使用者名義は変更手続がとられないままで残つており、被告山口は多摩日野自動車に対する関係では自己が買受名義人となつていることは承知していたが、右両被告とも加害車の運行には関与しておらず、被告原嶋も右引渡を受けた後は加害車を自己の車として自己の業務に使用していたことの各事実が認められ、証人岡部干男の証言および被告森田の尋問結果中右認定に反する部分は前掲他の証拠に照らして措信し難く、他に右認定を覆すにたりる証拠はない。

右認定事実および前示争いのない事実によると、被告森田は昭和四五年五月三〇日に多摩日野自動車から加害車を所有権留保付割賦販売契約により買受けて以来、被告山口は昭和四七年一二月頃被告森田から試用の目的で加害車の引渡を受けて以来それぞれ加害車を自己のために運行の用に供していたものであり、右被告山口の試用中も加害車に対する被告森田の運行支配、運行利益は失われていたと断定することはできないが、右両被告の加害車に対する運行支配、運行利益は被告山口が昭和四七年一月九日被告原嶋に加害車を引渡した時点か、遅くとも同月中旬頃に被告山口が多摩日野自動車から加害車の引渡を受けて実質上の買主である被告原嶋に引渡した時点で失われており、本件事故当時被告森田、同山口は加害車の運行供用者ではなかつたと認めるのが相当である。

(二)  被告原嶋の責任

前認定の本件事故の態様によれば、本件事故は被告原嶋の前方不注意、追越不適当ないしはハンドルブレーキ操作不適当の過失によつて惹起されたものであると推認されるので、同被告は民法七〇九条に基づき本件事故によつて原告が受けた人的ならびに物的損害を賠償する責任がある。

三  損害

原告本人尋問の結果によつて成立を認め得る甲第二、三号証、同第六号証、同第八ないし一一号証、および原告本人尋問の結果(第一回)によると、原告は本件事故のために膝関節関節包の損傷を伴う両下腿および両膝打撲挫傷を受け、事故当日の昭和四七年二月三日から同年一〇月三一日までの間に一四〇日間木更津市の石井病院に通院して治療を受けたが、右膝部にしびれ感があり、朝起きたとき右膝関節が回りにくく仕事を続けていると疼痛が出て一時仕事を中断しなければならないこともある膝関節症の後遺症が残つたこと、および本件事故のために原告所有の被害車の前部が破損したことがそれぞれ認められる。

そこで、以上の事実を前提に以下損害の数額について判断する。

1  治療費 八万四三三四円

前掲甲第六号証、第八ないし一一号証、原告本人尋問の結果(第一回)によつて成立を認め得る甲第七号証の一ないし一三および同尋問結果によると原告の前示治療のために八万四三三四円の治療費を要したことが認められる。

2  通院交通費 八万五四九〇円

前掲甲第八ないし一一号証および原告本人尋問の結果によると原告の前示通院のために八万五四九〇円の交通費を要したことが認められる。

3  休業損害 一四四万二四二〇円

原告本人尋問の結果(第一、二回)によつて成立を認め得る甲第一八号証の一ないし六および同尋問結果によると、原告は本件事故当時ダンプカーの運転手として車持込で千葉県君津市所在の有限会社正仁建設で働いていたものであり、本件事故前の昭和四六年六月二一から同年一二月二〇日までの間に三〇二万八〇二二円の水揚をあげており、右水揚をあげるために必要な燃料費、修理費等の必要経費の額は一一七万三四三五円をこえることはなかつたものと認められるから、原告は本件事故当時一日平均一万〇三〇三円を下らない収入をあげていたものと認められるところ、前認定の原告の受傷内容および治療経過に原告本人尋問の結果(第一、二回)を併せ考えると、原告は本件事故による前示受傷のために一四〇日を下らない期間休業を余儀なくされたものと認められるから、一四四万二四二〇円を下らない休業損害を蒙つたものと認められる。

4  慰藉料 二〇万円

前認定の原告の受傷内容、治療経過、後遺症の内容および程度を考慮すると、本件事故によつて原告が受けた精神的苦痛を慰藉するために相当な額は二〇万円を下らないと認める。

5  被害車修理代 九九万八二五〇円

原告本人尋問の結果(第一、二回)よつて成立を認め得る甲第一七号証および同尋問結果によると、原告は本件事故によつて破損した被害車を千葉いすず自動車株式会社で修理し、同会社に対し修理代として九九万八二五〇円を支払い、同額の損害を蒙つたことが認めれる。

四  損害の填補

原告が被告原嶋から一九万二〇〇〇円、自賠責保険から五二万円を受領し、右合計額七一万二〇〇〇円を前示三の一ないし四の損害の一部に充当したことは原告において自認するところである。

五  弁護士費用

原告本人尋問の結果(第一回)および弁論の全趣旨によると、原告は本件訴訟を原告訴訟代理人に委任し相当額の費用および報酬の支払を約しているものと認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額に鑑みると、原告が本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は五万円を下らないと認める。

六  結論

そうすると、被告原嶋は原告に対し二一四万八四九四円およびこれに対する同被告に対する訴状送達の日の翌日である昭和四七年一一月一八日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、同被告に対する原告の請求はすべて理由があるからこれを認容し、被告森田、同山口に対する原告の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 笠井昇)

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