大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和49年(ワ)6497号 判決 1975年1月29日

原告 破産者ジェー・ビー・エム株式会社 破産管財人 原長一

右訴訟代理人弁護士 田中清治

右同 青木孝

右同 桑原収

右同 安井桂之介

右同 小山晴樹

右同 中田重吉

被告 栗山アキノ

右訴訟代理人弁護士 栗山裕吉

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し金一三二万九三〇〇円およびこれに対する昭和四九年四月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告

主文と同旨の判決。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  ジェー・ビー・エム株式会社(以下、破産会社という)は、昭和四九年五月三〇日東京地方裁判所において破産宣告を受け、同日原告がその破産管財人に就任した。

2  破産会社は、昭和四八年六月二〇日被告との間で、被告から別紙物件目録記載の建物(以下、本件建物という)を、賃料一か月二二万一五五〇円、期間昭和四八年一一月一日から一〇年、敷金一三二万九三〇〇円の約定で賃借する旨の契約を締結し、同日右敷金を被告に支払った。

3  破産会社は、昭和四九年四月一〇日被告との間で右賃貸借契約を合意解除し、同日右建物を被告に対し明渡した。

4  よって原告は、敷金一三二万九三〇〇円と、これに対する右建物明渡の翌日である昭和四九年四月一一日から支払済に至るまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  本案前の抗弁

被告は、札幌市に住所地を有し、かつ、本件は不動産に関する訴であるところ、本件建物の所在地も札幌市であるから、東京地方裁判所には管轄権はない。

三  請求の原因に対する答弁

請求原因事実は、すべて認める。

四  抗弁

本件建物の賃貸借契約締結の際に、破産会社と被告は、破産会社が昭和五一年一〇月三一日までの間に右賃貸借契約を解約した場合、敷金は返還しない旨の特約をなした。

五  抗弁に対する答弁

抗弁事実は認める。

六  再抗弁

本件敷金は、賃借人たる破産会社の賃料債務の担保のために被告に差入れられたもので、賃料の前払の性質を有するところ、被告は、本件建物を破産会社から明渡を受けた後第三者に賃貸し収益をあげているから、賃料を二重どりしている結果になり、また破産会社が本件建物を明渡した以上、右目的のため本件敷金を被告が保有すべき理由はなく、したがって被告主張の特約は、借家人を保護する借家法の精神に反しており、借家法六条に違反して無効である。

七  再抗弁に対する答弁

争う。

理由

一、まず被告の管轄違いの抗弁から考えるが、本件敷金返還債務は、持参債務である(被告は取立債務の特約ある旨主張、立証していない)から、義務履行地の裁判所として当裁判所にも本訴につき管轄権があることは明らかである。故に、被告の右主張は理由がない。

二  請求原因事実および抗弁事実は、いずれも当事者間に争いがない。

そこで原告は、本件の敷金不返還の特約は無効であると主張する。しかしながら、前記争いのない事実にかんがみると、右不返還特約は、一定の時期以前に賃貸人側の帰責事実によらずに賃借人の都合で賃貸借契約が解約された場合に生ずべき賃貸人の損害を担保するとともに、その損害額を敷金から控除した残額を没収する旨の一種の損害賠償の予定であると解せられ、そしてさらに、本件賃貸借の約定期間が一〇年であるのに対し、右特約の効力を有する期間が賃借人において本件建物を使用収益しうる時から三年に限られていること、その期間中の解約によって賃借人が失うであろう敷金額が賃料の六か月分に該当し不当に高額とは必ずしもいえないこと等の事情も加えて考えると、右特約が借家法六条に直接違反しないことはむろんのこと、実質的にも反しないし、また借家法の精神に反するともいまだ解することはできない。したがって、原告の右主張は採用できず、他に主張、立証のない以上、被告において本件敷金を返還する義務はないといわざるをえない。

三  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することにし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大沢巌)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例