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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)7683号 判決 1976年5月28日

原告 北部信用組合

右代表者代表理事 斎藤重朝

右訴訟代理人弁護士 藤井英男

同 古賀猛敏

右復代理人弁護士 岩本洋一

被告 梁川正雄こと 梁京善

訴訟代理人弁護士 別府祐六

主文

被告は原告に対し、金四七四万八一三七円の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告において金一五〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

(申立)

一  原告の求めた裁判

主文第一、二項同旨の判決及び仮執行の宣言。

二  被告の求めた裁判

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

(原告の請求原因)

一  原告は、訴外金宮同元こと金同元との間で、昭和四一年一二月一五日、手形割引等を内容とする信用組合取引契約を結び、その債権額は、昭和四六年一月一四日現在で合計金一一八六万五〇〇〇円に達している。

二  被告は、左記により、右債務について連帯保証人としての責を負うべきである。

(一)  被告は、前記金同元を代理人として、昭和四一年一二月一五日原告との間に、本件取引につき連帯保証契約を結んだ。

(二)  仮に然らずとしても、右同日金同元は原告に対し、被告の代理人と称して被告の実印と権利証を持参呈示し、原告は右金と被告が義兄弟であること等よりこれを信頼したものであるから、被告は民法一〇九条によりその責を免れず、仮に右金の行為が越権行為であったとしても、被告は民法一一〇条によって責を負うべきである。

(三)  仮に以上が理由なしとしても、被告は、昭和四五年一二月一九日原告に対し念証をもって自己が連帯保証人であることを追認した。

三  しかるところ、前記債務は、その後金同元や被告の内入弁済ないし金同元の預金との相殺勘定等により元利残四七四万八一三七円に減じたが、金同元は、原告との間に昭和四七年三月一七日締結した「同年四月一〇日より毎月金五万円づつを返済する。」との約定を一回も履行しないので、本件取引約定書第五条により、金同元らは右四月一〇日限り期限の利益を失い、残額を一時に返済すべきである。

四  よって、連帯保証人たる被告に対し、右残金四七四万八一三七円の支払を求める。

(被告の答弁)

一  原告主張一の事実は不知。

二  同二の(一)の事実は否認する。本件は、金同元が、義妹である被告の妻から、寸借名下に被告の実印と権利証を入手し、これを冒用して為されたものである。

同二の(二)は争う。

同二の(三)の事実は否認する。原告主張の念証は、当日初めて本件の連帯保証人(なお物上保証人)となっていることを知って驚愕している被告に対し、原告方で署名を強く求めたので、被告は、未だ充分考えの定まらぬまま一応署名はしたものの、捺印はこれを拒否し、且つ原告に対し被告は保証したことのない旨を告げて辞去した位で、到底追認などという如きものではない。

三  同三の事実のうち、被告が内入弁済したとの点は否認し、その余は不知。

(立証)≪省略≫

理由

一  ≪証拠省略≫を総合すると、原告は、金同元との間で、昭和四一年一二月一五日信用組合取引契約を締結し、その後右の約定に従って手形割引等を行った結果、昭和四五年一二月一九日現在において、その債権額は、割引手形買戻債務分(但し昭和四六年一月中旬に手形貸付債務に振替)計金一一三六万五〇〇〇円及び証書貸付分金五〇万円の合計金一一八六万五〇〇〇円となったこと、金同元は原告に対し、昭和四六年一月一二日右債務を毎月一〇万円づつ返済する旨を約したが、同年四月及び五月に各一〇万円づつ計金二〇万円の返済を為したにとどまったこと、しかし原告はその後、金同元の原告に対する預金をもって右証書貸付分の残額全部と手形貸付分の対当額とを相殺勘定し、更に被告が原告に対して為した後記預金三〇万円の大半を振替控除した結果、昭和四七年三月一七日現在の残債務額は金四七六万〇〇六四円となったこと、金同元は右三月一七日原告に対し、右残債務につきあらためて同年四月一〇日より毎月五万円づつ返済する旨を約したが、右は一回も履行されず、その結果上記取引約定の第五条の定めにより、金同元はおそくとも昭和四七年四月一〇日の経過とともに期限の利益を失ったこと、なお右残債務については昭和四八年八月二三日被告の前記預金の残額一万一、九二七円が振替入金され、結局本件債務の元利残額は金四七四万八一三七円となったこと、以上の各事実が認められ、反証は存しない。

二  原告は、右信用組合取引につき、被告は代理又は表見代理により連帯保証人としての責を負うべきであると主張するので検討するに、≪証拠省略≫を総合し、甲第一、第一一、第一二号証の各存在及び外形を参酌すると、左の各事実が認められる。

(一)  金同元と被告は、金の妻が被告の妻の妹という義兄弟の関係にあり、且ついずれも鞄関係の同業者である。

(二)  金同元は、原告との本件取引につき、原告より保証人ないし担保の差入を求められた結果、右(一)の関係にある被告の名義等を使用することを企図し、被告の妻たる張承玉に対し、「銀行より金を借りるについて被告の実印や権利証がほしい。金は一年位で返すから心配は要らない。一寸貸してくれ。」等と申述べ、これを信用した張は、自己が保管していた被告の実印に印鑑証明を副え、これに同じく保管中の後記物件の権利証を合わせ、被告に無断で金同元に交付した。

(三)  被告は妻にかねて実印や権利証を保管させてはいたが、それは単に事実上管理させていたにすぎず、別段これらを利用して借財、保証等を為す権限を与えていたものではない。

(四)  金同元は、原告の担当者に対し、被告から代理権を授与されている旨を告げ、右実印や権利証等を使用し、被告名義をもって、本件取引についての連帯保証契約を為すと共に、被告所有の不動産(東京都荒川区町屋所在の宅地一筆及び地上の居宅一棟)について、元本極度額を二〇〇万円(後に四〇〇万円に変更)とする根抵当権設定等の担保契約をも締結した。

(五)  原告方においては、右金の言動を信用し、被告に対し照会を行う等の措置を講じなかった。

右の各事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

以上の各事実によれば、本件連帯保証につき、被告が金同元に代理権ないし代行権等の権限を授与したことは、これを認めることができない。又、被告の実印や権利証等を金同元が原告に呈示したからといって、それのみでは未だ民法一〇九条の代理権授与の表示には該当せざるものと解すべく、更に民法一一〇条の主張については、そもそも基本代理権の特定に関する主張を欠くのみならず、前叙のように証拠上もこれを認めることが出来ないから、右各表見代理の主張は、その信頼の正当性を判断するまでもなく、いずれも失当である。

三  よって、原告の追認の主張について判断する。

≪証拠省略≫を総合し、弁論の全趣旨を参酌すれば、左の各事実が認められる。

(一)  金同元と原告との本件取引は、前叙のとおり手形割引を主とするものであるが、昭和四五年に入り、金の差入れる割引用手形が殆んど不渡となり、しかもそのうち金は一時所在不明となるに至った。

(二)  そこで原告は、同年秋頃、被告に対し、まず文書をもって、連帯保証人としての責を果すことを求めると共に、前記担保権を実行する旨通知した。被告は、これにより初めて事態を知り、又妻を責めると共に、事情をも聴取していた。

(三)  同年一二月となり、金同元に対する債権額は前記のとおり金一一八六万五〇〇〇円に達したところ、被告は同月一九日原告方において原告担当者と会見したのであるが、右担当者より「金同元が主たる責任者とはいえ、被告も保証人として出来る限りのことはして貰いたい。例えば、金同元の返済不履行の場合にそれに充当する担保預金を始めるとか、担保物件の整備とかをして貰いたい。」と求められた被告は、右金と叙上のような関係にあることや、自己の実印及び権利証によってすでに連帯保証や担保権設定が為されていること等から、何らかの形で責任をとることを承知した。

そこで原告担当者は、被告の了解を得、その場で、被告は連帯保証人として、金同元とは別に、前記債務に関し、昭和四六年一月より毎月一〇万円づつ原告方に担保預金する旨、及び被告は担保物件のうち居宅をとりこわして新居を建築していたので、物上保証人として、右新居をあらためて担保物件に差出す旨の趣旨を代筆して記載した念証に、被告は、右文面を承知のうえ、自筆で署名し、印については、印鑑を持合わせないとして自ら指印した。

(四)  そして被告は、右の取極めに従い、原告方に被告の預金口座を設けたうえ、昭和四六年一月と三月、四月に各一〇万円づつ計金三〇万円を預金したが、その後は中止して現在に至っている(なお新居についての担保権設定も行われていない)。

右の各事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

四  以上認定の事実関係によると、被告の為した右念証による意思表示は、追認としては多少不充分な点がない訳ではないが、しかし、元来無効な行為をば新行為をもって将来有効ならしめる場合の追認(民法一一九条但書)などとは異り、末だ効力の確定せざるにとどまる無権代理行為を有効ならしめる場合の追認(同法一一三条ないし一一六条)については、被告の為した右の如き意思表示をもって、無権代理人たる金同元の行為を追認したものと解するのが法的に相当である。

そして被告は、右の意思表示について、他に特段の主張立証をしない(仮に被告のこの点に関する答弁中に、強迫((による取消))、心裡留保((民法九三条但書))等の主張を含んでいると善解しても、前認定の事実関係によれば、未だこれらの事実を肯認することは出来ない)。

そうしてみると、被告は右追認により、本件信用組合取引について当初よりその連帯保証人(及び物上保証人)の地位にたったものというべきである。

五  しかして、連帯保証人としての被告自身の履行方法につき、その態容、期限の利益等に関して被告は何ら主張をしないし、又結局はこれを通常の連帯保証人と同一に解すべきであるから、以上によれば、被告は、本件信用組合取引の連帯保証人として、原告に対し、前記残債務金四七四万八一三七円を支払うべき義務があるものというべく、よってその支払を求める原告の請求は理由あるものとして認容し、民訴法八九条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小谷卓男)

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