東京地方裁判所 昭和49年(ワ)844号 判決
一 原告らが原告ら主張の期間それぞれ本件特許権の特許権者であつたこと、本件明細書の特許請求の範囲の記載が別添公報(〔編註〕省略)の該当欄記載のとおりであること、及び被告が原告ら主張の期間被告製品1ないし3を製造販売したことは、いずれも当事者間に争いがない。
二 右争いのない本件明細書の特許請求の範囲の項の記載によれば、本件特許発明は次の構成要件から成るものと認められる。
A 酸素附加室と消泡室とを有する柔軟半透明の平坦に折畳まれる封筒状包体であること
B 酸素附加室に静脈血液と酸素とを導入するための通路装置と、消泡室から、ガスと、酸素を附加された血液とを除去するための別個の通路装置とを備えていること
C 単位式の血液用酸素附加装置であること
三 そこで本件特許発明の構成と被告製品1ないし3の各構造とを比較してみると、被告製品1ないし3の構造が別紙第一ないし第三目録(〔編註〕省略)記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、右記載によれば被告製品1ないし3はいずれも前記本件特許発明の構成要件A、B、Cのすべてを充足するものと認められる。
被告は、血液用酸素附加装置において、酸素附加室と消泡室を設けること、酸素附加室に静脈血液と酸素とを導入するための通路装置を設けること、消泡室からガスを除去するための通路装置を設けること、装置全体を柔軟半透明の素材で形成することは、本件特許発明の優先権主張日前すでに公知であり、かつ装置全体を平面的かつ単一に構成することは、当業者が容易に推考できるから、本件特許発明において新規性を有すると考えられるのは、結局、消泡室から酸素を附加された血液を除去するための通路装置が、従来螺旋状であつたものを本件明細書の実施例にある蛇行状とした点にあると認められ、従つて本件特許発明でいう別個の通路装置とは本件明細書の実施例として記載してあるような蛇行状通路装置をいい、かつそれに限定されるべきであるとの趣旨を主張し、右公知技術の点に関する証拠として乙第一、第二号証を提出する。
しかしながら、仮に前掲証拠によつて本件特許発明の優先権主張日前において、血液用酸素附加装置に関し、被告が主張するような点が公知であつたと認められるとしても、これに基づいて当業者が、本件特許発明におけるように、装置全体を平坦に折畳める封筒状包体に組み込んでこれを平面化しかつ単一化することを容易に推考できたということはいえないし、またこれを認めるに足りる証拠もない。
かえつて、成立に争いのない甲第二号証(公報)によれば、本件明細書の発明の詳細なる説明の項(公報一項左欄九行目ないし一七行目)には、本件装置が、面倒な組立てを必要とせず、即時使用できること、製作費が安いこと、小型に梱包かつ保管できることなど、従来のこの種の装置にない優れた効果を奏することが説明されており、更にこのような効果を奏するものとして本件装置の構成がとられたことが説明されており、そのような発明に対して特許権が与えられているものと認めることができるから、本件特許発明の技術的範囲が本件明細書に記載された実施例の蛇行状通路装置をもつものに限られるとする被告の主張は結局理由がないことになる。
更に被告は、本件明細書の特許請求の範囲中「消泡室から……酸素を附加された血液1を除去するための別個の通路装置」という表現は、機能的表現であつて、その機能を果す具体的構成は特許請求の範囲中に何ら記載されていないから、本件特許発明の技術的範囲は本件明細書記載の実施例に示された構成のもの、すなわち別個の通路装置が蛇行状のものに限定されるべきであるとの趣旨を主張する。
しかしながら、本件明細書は消泡室から酸素を附加された血液を除去するという機能を果すための構成として通路装置を設けるということを明らかにしているから、本件特許発明の特許請求の範囲は、被告主張の点において単に機能的な表現をしているにすぎないということはできず、被告の主張は結局その前提を欠き、採用できない。のみならず、被告製品1の消泡室3の中央底部の開口部13、左右傾斜案内線4、垂直仕切線5´、一対の接着仕切線4´、4´によつて形成される構造部分、被告製品2及び3の漏斗状部分3、血液酸素混合室2を形成する垂直溶着線、傾斜案内線12´、12´及び5´、5´によつて形成される構造部分は、いずれもこれを被告のいう蛇行状の通路装置部分であるといつて差支えがないから、仮に本件特許発明における右通路装置部分が被告主張のように蛇行状のものに限られるとしても、なお被告製品1ないし3はいずれも本件特許発明の構成要件を充足するものといわなければならない。
被告は、被告製品1ないし3の前記各構造部分は酸素を附加された血液を通過させる通路装置ではなく一たん右血液を貯える貯血室であると主張するが、これに貯血室という名称をつけようと、酸素を附加された血液が右部分を通ることは間違いないからこれを通路装置といつて一向差支えがない。
以上説明のとおり、被告製品1ないし3は、いずれも本件特許発明の技術的範囲に属する。
三 従つて、被告が被告製品1ないし3を製造販売する行為は、本件特許権を侵害するものであり、その侵害について被告に過失があつたものと推定されるところ、右推定をくつがえすに足る証拠はない。
しかして被告は原告らに対し、右行為により原告らが被つた損害を賠償すべき義務がある。
四 そこで原告らの損害額につき検討する。
被告が、昭和四二年一月一二日から昭和四八年五月二三日までの間、被告製品1を六、一七三個、同2、3を合計六、九五二個、昭和四八年五月二四日から同年一二月三一日までの間、被告製品1を七二七個、同2、3を合計八四八個それぞれ製造販売したこと、右各期間における被告製品1の一個あたりの販売利益がいずれも金一、四八八円、同2、3の各一個あたりの販売利益がいずれも金七三五円であることは、当事者間に争いがない。
右事実によると、被告が、昭和四二年一月一二日から昭和四八年五月二三日の間に受けた利益は、被告製品1の製造販売個数六、一七三に一個あたりの利益金一、四八八円を乗じた金九一八万五、四二四円及び同2、3の製造販売個数六、九五二に一個あたりの利益金七三五円を乗じた金五一〇万九、七二〇円、以上合計金一、四二九万五、一四四円であること、昭和四八年五月二四日から同年一二月三一日までの間に受けた利益は、被告製品1の製造販売個数七二七に一個あたりの利益金一、四八八円を乗じた金一〇八万一、七七六円及び同2、3の製造販売個数八四八に一個あたりの利益金七三五円を乗じた金六二万三、二八〇円、以上合計金一七〇万五、〇五六円であることは計算上明らかであるところ、原告トラベノールは、被告が昭和四二年一月一二日から昭和四八年五月二三日までの間に受けた利益金一、四二九万五、一四四円、原告バクスターは被告が昭和四八年五月二四日から同年一二月三一日までの間に受けた利益金一七〇万五、〇五六円とそれぞれ同額の損害を被つたものと推定されるところ、右推定をくつがえすに足りる証拠はない。
五 従つて原告トラベノールの被告に対する金一、四二九万五、一四四円、原告バクスターの被告に対する金一七〇万五、〇五六円及び右各金額に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四九年二月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は、理由がある。
六 よつて原告らの本訴各請求は、いずれも理由があるからこれを認容する。