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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)8841号 判決 1978年1月26日

原告 尹英慧

右訴訟代理人弁護士 石田駿二朗

被告 安岡江美子こと 崔斗伊

被告 安岡基浩こと 李基浩

右訴訟代理人弁護士 工藤祐正

同 新津勇士

主文

一  被告らは、原告に対し、各自昭和四五年一〇月八日から昭和四六年一二月三一日まで一か月金一八七六円、昭和四七年一月一日から同年一二月三一日まで一か月金四二六六円、昭和四八年一月一日から同年一二月三一日まで一か月金一万九四円、昭和四九年一月一日から同年一二月三一日まで一か月金一万五二一七円、昭和五〇年一月一日以降一か月金二万三一三七円の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告に対し、被告崔斗伊は、別紙物件目録(二)記載の建物のうち別紙図面斜線部分を収去して、被告李基浩は本件建物のうち別紙図面斜線部分から退去して、それぞれ同目録(一)記載の土地を明渡し、かつ各自、昭和四五年一〇月八日から昭和四九年一〇月二七日まで一か月金四万四〇〇〇円の割合による金員及び昭和四九年一〇月二八日から明渡済みまで一か月金一〇万七五〇〇円の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  別紙物件目録(一)記載一の土地はもと小杉忠太郎(以下小杉という。)の所有であり、同目録記載二の土地はもと菅沼か所有であったが、昭和三五年一二月一七日、訴外富士産業株式会社(以下富士産業という。)が買い受け、原告は、昭和四五年六月一二日、富士産業から、右各土地を買受け取得した。

2  被告崔斗伊(以下被告崔という。)は、別紙物件目録(二)記載の各建物を所有し、被告李基浩(以下被告李という)は、被告崔と共に右各建物を店舗として使用している。

3  右各建物のうち別紙図面斜線部分は、本件各土地上にあり、被告崔は右各建物の所有者として、被告李は右建物の使用者として、共同して、本件各土地を占有している。

4  被告らの本件各土地の占有により、原告は、昭和四五年一〇月八日から同四九年一〇月二七日まで一ヶ月金四万四〇〇〇円、同月二八日以降一ヶ月金一〇万七五〇〇円の割合による賃料相当の損害を蒙っている。

賃料相当損害金の算定の根拠は次のとおりである。損害金算定の方式としては「利回り方式」によることとし、まず、本件各土地の地価算定に当たっては、本件各土地と公租公課、立地条件等が類似しており、同一価値の土地と認められる東京都新宿区新宿三丁目四八番一外二筆(公示番号新宿五の二)の土地の公示価格を基準とし、右土地の昭和四五年一月一日及び昭和四九年一月一日現在の公示価額は、それぞれ、一平方メートル当り金八八万円及び金二一五万円であるところ、土地の時価は、公示価額の二割増とするのが土地取引の慣行であるから、昭和四五年における本件各土地の地価は一平方メートル当たり金一〇五万六〇〇〇円、昭和四九年における本件土地の地価は一平方メートル当たり金二五八万円となる。本件各土地は合計一〇、〇一平方メートルであるが、端数を切捨て一〇平方メートルとして計算し、これに、民事法定利率年五分を乗じて、年額損害金を算定し、これを一二で除して月額損害金を算出した。

よって、原告は、被告崔に対し、本件建物のうち別紙図面斜線部分を収去して、被告李に対して本件建物のうち別紙図面斜線部分から退去して、それぞれ本件土地の明渡を求めるとともに、被告両名に対し、各自、被告両名が本件土地の占有を開始した昭和四五年一〇月八日から同四九年一〇月二七日まで一ヶ月金四万四〇〇〇円、同月二八日から本件土地明渡済まで一ヶ月金一〇万七五〇〇円の各割合による賃料相当の損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は不知。

2  同2の事実中、被告崔が本件各建物を所有し、店舗として使用していることは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同3の事実は否認する。本件建物の一部が本件各土地上にあるとしても、本件各土地の一部の上にあるに過ぎない。

4  同4の事実中、原告が損害を蒙っていることは否認し、その余は争う。

三  抗弁

仮りに、被告らにおいて、本件土地を本件建物の敷地の一部として占有していたとしても、原告の被告らに対する本件土地明渡請求は権利の濫用であって許されない。

1  被告崔が本件建物を取得するに至った経緯は、次のとおりである。

(一) 本件各建物はいずれも戦前から存在する建物であるが、原告の夫である金谷鐘太郎こと金鐘英(以下金谷という。)が代表取締役をしていた富士産業が、昭和三五年一二月一七日、当時の所有者である小杉忠太郎から買受け取得した。

(二) 被告李は、昭和三七年一一月頃、右金谷と朝鮮料理店金剛園を共同経営する旨を約し、その際同人は、本件建物を提供することとなり、昭和四一年まで本件建物において朝鮮料理店の共同経営を行った。

(三) ところで、本件各建物は、別紙物件目録(一)記載三の土地(以下五番三の土地という。)、同四の土地(以下五番一二の土地という。)をもその敷地としていたが、五番三の土地所有者であった訴外小平四郎(以下小平という。)及び五番一二の土地所有者であった訴外小菊株式会社(代表取締役小平。以下小菊という。)は、昭和三三年頃、当時の本件建物所有者であった小杉を相手取り、土地明渡請求訴訟を提起し、当庁に係属していたため(当庁昭和三三年(ワ)第七四七〇号事件)、富士産業は本件建物を買受けるや、右訴訟に被告として参加した。

(四) 右訴訟においては、昭和三八年一〇月四日、当事者及び和解参加人有限会社金剛苑、同被告李、同金谷らと次の各条項を含む訴訟上の和解が成立した。

(1) 富士産業、和解参加人有限会社金剛苑、同金谷、同被告李らは、小平所有の五番三の土地、小菊所有の五番一二の土地につき、何らの占有権限のないことを確認する。

(2) 富士産業は、現在、小平に対し金八五万円、小菊に対し金一五万円の各損害金(前記各土地の不法使用による損害並びにその他の損害)支払義務のあることを承認する。

(3) 富士産業は、小平らに対する前記各損害金支払債務の弁済に代えて富士産業所有の本件各建物の所有権を小平らに譲渡し、直ちに右各建物につき所有権移転登記手続をする(なお、右各建物に対する小平らの持分は、小平が一〇〇分の八五、小菊が一〇〇分の一五とする。)。

(4) 富士産業は、本件各建物の一部が小杉所有の本件各土地上に存することに鑑み、小平らが爾今右各土地の使用をなしうるよう小平らと共同で処理(訴訟行為を含む。)する(和解条項第六項)

(5) 小平らは、富士産業、金谷、被告李らに対し、本件各建物の明渡しを昭和四一年一二月二一日まで猶予することとし、富士産業らは、右期限までに本件各建物から退去してこれを小平らに明渡す。

(6) 小平らが小杉より本件各土地所有権に基づき本件各建物の一部収去右土地明渡請求訴訟を受け、この訴訟に敗訴し、右建物の収去命令が発せられたとき等の場合においては、小平らは、明渡猶予期間中といえども、富士産業らは、直ちに、右建物から退去してこれを小平らに明渡す。

(五) 被告李は、右和解条項に基づき、昭和四一年一二月二一日本件建物から退去し、これにより右和解に基づく本件各建物使用の関係は終了することになった。

(六) 一方被告らは、右和解とは別に、小平らと本件建物並びに敷地買取りの交渉をなし、その結果、本件各建物明渡後である昭和四二年一月四日、被告崔は、小平らから本件建物並びに五番三及び五番一二の各土地を買受けた。なお、右売買による所有権移転登記は、昭和四五年になされているが、これは、それまでの間に、小平らにおいて、売買物件について存する第三者のための制限登記の抹消登記手続をなし得なかったことによるものである。

2  被告崔は、本件建物等を取得する際、本件土地と本件建物との利用関係については、次に述べる事情から、問題がないものと信頼していたのである。

すなわち、本件土地の利用関係については、前記和解において、富士産業は、小平らが本件各土地の使用をなしうるよう小平らと共同して処理するよう義務づけられており、右の義務履行を確保するため過怠約款まで定められていたので、本件各土地に関する問題はすでに解決されているものと考えたのである。

3  金谷は、富士産業の代表取締役であり、本件各土地に関し、従前より専らその衝に当たり、その権利義務の内容等一切を知悉していたものであり、殊に、昭和四二年一月一五日被告李が金谷から本件建物明渡当時使用していた営業上の什器備品を買受けた際、本件建物等を買受けた事実を知らされていた。

4  しかるに、金谷は、富士産業の代表者として、前記和解により、将来本件建物所有者が安心して本件各土地を使用できるよう処理すべく義務づけられているのに拘らず、その義務を尽さず、かえって、被告崔が本件建物等を小平らから取得したことを知るや、本件土地について富士産業と小平との間でなんら土地利用関係について法律上の取極めをしていないことを奇貨として、望外の利益を追及するため、被告が本件建物を買受けたのちの昭和四五年六月に至り、小杉から、原告名義で本件各土地を買受け、格別の使用の必要もないのに、被告らに対し、本件各土地の明渡しを求めているものである。

5  加うるに、本件各土地は、僅かに三坪程度の土地であって、その形状からみても、独立して使用にたえるものではなく、本件各土地のみを他の第三者等が買取ることは、考えられないところである。これに対し、本件土地を明渡すことによって、被告は、本件建物全部を取り壊さなければならなくなり、被告の蒙る損害は甚大である。

6  以上の諸事情に照せば、原告の被告らに対する建物収去土地明渡請求は、明らかに権利濫用であって、許されない。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)の事実中、本件各建物が戦前から存在するものであることは不知、その余の事実は認める。

(二) 同(二)の事実は否認する。被告ら主張の共同経営契約は、被告李と富士産業との間でなされたものであり、その期間は、昭和三七年一一月二八日頃から昭和四一年一二月頃までである。

(三) 同(三)の事実は認める。

(四) 同(四)の事実は認める。

(五) 同(五)の事実は否認する。富士産業は、被告李が本件建物を明渡さなかったことを理由に、前記訴訟上の和解の和解条項第一二項により、金三〇万円を没収された。

(六) 同(六)の事実中、被告崔がその主張の土地建物を小平らから買受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。被告崔が、本件建物及び五番一二の土地を買受けたのは、昭和四五年一〇月七日であり、五番三の土地を買受けたのは、同年九月二五日である。

2  同2の事実中、被告ら主張の和解に、その主張の条項があったことは認めるが、その余の事実は否認する。富士産業は、被告李に対し、前記訴訟係属当時、本件各土地は、小杉らの所有名義となっているが、富士産業において買受けている旨話しており、被告崔もこのことは知悉していた。

3  同3の事実中、金谷が富士産業の代表取締役であり、本件各土地につきその処理に当たっていたこと、昭和四二年一月中旬頃、富士産業が被告ら主張の営業上の什器備品を被告李に売却したことは認めるが、その余の事実は否認する、小平らが、本件各建物や五番三の土地及び五番一二の土地を富士産業や被告李らには絶対売却していないといっていたところから、金谷としては、被告李はその後小平らから本件各建物を借受けて営業しているものと思っていたものであり、被告崔が本件建物等を買受け取得したことを知ったのは昭和四五年暮頃のことである。

4  同4の事実は否認する。被告ら主張の和解条項は、当時本件各建物の所有者となった小平、小菊と富士産業との間を律するもので、これと本件における原告と被告との関係は別のものである。

5  同5の事実は否認する。

6  同6の主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  《証拠省略》によると、別紙物件目録(一)記載一の土地はもと小杉忠太郎の所有であり、同二の土地はもと菅沼か所有であったこと、右各土地を昭和三五年一二月一七日に訴外富士産業株式会社(以下富士産業という。)が小杉らから買い受けたこと、原告が、昭和四五年六月一二日、富士産業から右各土地を買受け、同月一五日付で中間省略のうえ、小杉らから直接原告への各所有権移転登記がなされたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

二  次に、被告崔斗伊(以下被告崔という。)が別紙物件目録(二)記載の各建物(以下本件各建物という。)を所有し、店舗として使用していることは被告らの自認するところであり、被告李基浩(以下被告李という。)本人尋問の結果によると、同人も右各建物を占有使用していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

三  次に、《証拠省略》によると、本件各建物の一部が本件各土地とにあることが認められ、右認定に反する証拠はない。

四  そこで、被告の抗弁について判断する。

まず、抗弁1(一)の事実中、原告の夫である金谷鐘太郎こと金鐘英(以金下谷という。)が代表取締役をしていた富士産業が、被告ら主張のとおり、本件各建物を買受け取得したこと及び抗弁1(三)(四)の各事実は、いずれも、当事者間に争いがない。

次に、《証拠省略》を総合すると、被告李は、昭和三七年一一月二八日、富士産業と、富士産業が本件各建物のうち地下を除くその余の部分を提供し、被告李が富士産業に権利金三〇〇万円を支払うと共に、所要の什器用品を提供する等して、両者共同して朝鮮料理店金剛園を経営する旨の共同経営契約を締結し、同日から昭和四一年一二月頃まで本件各建物において朝鮮料理店を共同経営したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

また、《証拠省略》を総合すると、被告李は、前示の和解で定められた期限に本件各建物を明渡すことができず、昭和四二年一月八日まで明渡の猶予を得たが、その間に、小平らの代理人である瀬川某との間に、本件各建物並びにその敷地の一部である別紙物件目録(一)記載三の土地(以下五番三の土地という。)、同四の土地(以下五番一二の土地という。)の売買の交渉が行われ、その頃、右瀬川との間で、右土地建物を代金七八三〇万円、三か月以内に売買代金全額を支払い、同時に所有権移転登記手続をする約定で買い受ける旨の売買契約が成立し、被告李は、同月一五日、右瀬川に内金一五〇〇万円を支払ったこと、ところが、右土地建物については、第三者のための各種の制限登記がなされており、小平らにおいて右登記の抹消登記手続を了するまでの間、残代金の支払いは延引されることとなり、結局昭和四五年頃に右売買代金が完済され、本件各建物及び五番一二の土地については、同年一〇月七日受付をもって同日付売買を原因とする被告崔のための所有権取得登記が、五番三の土地については、同年一〇月七日受付をもって、同年九月二五日売買を原因とする被告崔のための所有権取得登記が、それぞれなされるに至ったこと、被告李は、右の如く、本件各建物等を買受け、取得するに至ったので、富士産業との朝鮮料理店共同経営契約を解約することとし、昭和四一年一月一五日頃、金谷と共同経営にかかる損益の積算をなし、備品什器類についても評価したうえその半額に相当する金員を金谷に支払い、両者合意により共同経営契約を解約したこと、その際、被告李は金谷に対し本件各建物等の買得について話をしたことが認められ(る。)《証拠判断省略》

更に、《証拠省略》によると、本件各建物は、もと全日本相互株式会社の所有であったところ、国税滞納処分により公売に付され、小杉はこれを買受け取得したものであること、本各土地は、国税滞納処分の対象とはなっていなかったが、小杉は、本件各建物取得の約一年後に本件各土地を買受けたこと、その後、小杉は、仲介人を通じ、本件各建物及び本件各土地を売りに出し、富士産業が買受けることとなったが、金繰りの都合と称して、本件各建物のみを買受けたこと、その後約一〇年程経て、金谷は、小杉に対し、金繰りがついたからと称して、本件土地の買受け方を申し入れ、代金一二〇万円を支払い、原告が本件各土地を取得するに至ったこと、その後、金谷は、被告李に対し、本件各土地の買取方を要求したことが認められ(る。)《証拠判断省略》

そして、本件弁論の全趣旨によると、本件各土地が間口四九センチメートル、奥行二〇・四七メートルの細長い形状の土地であること、前記和解条項第六項により、本件各土地の利用関係については富士産業と小平らとが共同で処理することとされていたが、被告崔が本件各建物を取得するまで、本件各土地の利用関係については、法律上、権利、義務関係が明確にされていなかったことが認められる。

以上認定の事実に徴すると、金谷は、富士産業の代表者として、前記和解条項第六項により、小平らと共同して、本件各建物のため、本件各土地を利用することができるよう処理すべき義務を負っていながら、これを怠り、その結果、被告崔が小平らから本件建物を取得していながら本件土地の利用権を取得し得なかったことを奇貨とし、被告崔に本件各土地を買い取らせるために、昭和三五年一二月一七日以来放置していた本件各土地の売買契約を小杉らとの間で再然させ、原告をして本件各土地を取得させたうえ、被告らに対し、本件土地を買取るか、明渡すかを要求し、原告は、この間の事情を十分知悉していながら、望外の利益を追求するため、格別の必要もないのに本訴を提起したものであり、これに対して、被告崔は、本件建物を取得するについては本件土地と本件建物との利用関係については、従来の経緯から、何ら問題がないものと考えていたのであり、しかも、被告崔において本件各土地を明け渡すためには、本件建物の全部を取り壊さなければならなくなり、その被害は甚大であると認めるのを相当とする。

右認定によれば、原告の本件建物収去、土地明渡の請求は到底信義誠実の原則に則った権利行使ということはできず、権利の濫用に該当するものといわなければならない。

従って、原告の本訴請求中、被告らに対し建物収去(退去)土地明渡を求める部分は、失当として排斥を免れない。

五  次に、原告の本訴請求中、損害賠償請求の部分について、判断する。

被告らが本件各建物を所有又は使用し、本件各土地を占有していることは、前認定のとおりである。

そして、被告らにおいて本件各土地を占有する権原については、何ら主張立証がない。

してみれば、被告らは、共同して、本件各土地を占有することにより、原告をしてその利用収益を妨げ、少なくとも、賃料相当の損害を蒙らしめているものといわなければならない。

そこで、右損害額について検討するのに、原告は利回り方式を採用することを主張し、本件各土地の地価算定に当たり、本件各土地と公租公課、立地条件が類似しており、同一価値の土地と認められる東京都新宿区新宿三丁目四八番一外二筆(公示番号新宿五の二)の土地の公示価格を基準とし、土地の時価は公示価格の二割増とするのが土地取引の慣行である旨主張するが、《証拠省略》によっても、右土地と本件各土地とが同一価値の土地と認めることはできず、他に右原告主張事実を認めるに足る証拠はない。

そして、本件各土地の地代算定の資料としては、《証拠省略》以外には何らの資料のない本件においては、昭和四五、四六年の地代については、昭和三九年三月三一日建設省告示第一〇七二号による昭和三九年四月一日からの地代統制額に代るべき算式、昭和四七年以降の地代については昭和四六年一二月二八日建設省告示第二一六一号による昭和四七年一月一日からの地代統制額に代るべき額の算式に準じて算出する外なく、《証拠省略》によると、昭和四五年、同四八年、同四九年、同五〇年における本件各土地の固定資産税調整額は、五番の二の土地については、金九八万七〇四一円、金二三三万五三三七円、金三五〇万三〇〇五円、金五二五万四五〇八円であり、五番一一の土地については、金三万六九八二円、金八万七四九七円、金一四万九二九二円、金二九万八五八四円であることが明らかであり、本件各土地についての当該各年度における固定資産税額及び都市計画税額について何らの主張立証のない以上、本件各土地の昭和四五年ないし昭和五〇年の各年度の地代月額は、前記各算式により、五番二の土地については、金一八〇九円、金一八〇九円、金四一一二円、金九七三〇円、金一万四五九五円、金二万一八九三円であり、五番一一の土地については、金六七円、金六七円、金一五四円、金三六四円、金六二二円、金一二四四円(いずれも円以下切捨。)であると認めるのを相当とする。

してみると、被告らは、各自、原告に対し、昭和四五年一〇月八日から昭和四六年一二月三一日までは一ヵ月金一八七六円、昭和四七年一月一日から同年一二月三一日までは、一ヵ月金四二六六円、昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までは一ヵ月金一万九四円、昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までは一ヵ月金一万五二一七円、昭和五〇年一月一日以降は一ヵ月金二万三一三七円の各割合による本件各土地の賃料相当の損害金を支払う義務があるものといわなければならない。

六  以上の次第であるから、原告の本訴請求は、右の限度において正当として認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条一項を認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口繁)

<以下省略>

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