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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)898号 判決 1978年8月24日

原告

及川銀次郎

ほか一名

被告

高橋吉男

ほか一名

主文

一  被告高橋吉男は原告及川銀次郎に対し金四四一万七〇円及びこれに対する昭和四九年一一月一〇日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告及川銀次郎の被告高橋吉男に対するその余の請求及び被告松本育信に対する請求ならびに原告及川てるの被告らに対する各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告及川銀次郎に生じた費用の四分の一と被告高橋吉男に生じた費用の二分の一を被告高橋吉男の負担とし、原告及川銀次郎及び被告高橋吉男に生じたその余の費用と被告松本育信に生じた費用は原告及川銀次郎の負担とし、原告及川てるに生じた費用は原告及川てるの負担とする。

四  この判決は一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告及川銀次郎に対し金七三九万三八二一円、原告及川てるに対し金四五万五五八円及び右各金員に対する被告高橋吉男は昭和四九年一一月一〇日から、同松本育信(以下被告松本という。)は昭和五一年七月二日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告及川銀次郎(以下原告銀次郎という。)は、昭和四九年三月二日午後六時三〇分ころ、普通貨物自動車(足立四四せ六四三五号、以下原告車という。)を運転し、東京都中央区銀座一丁目二三番地先首都高速道路環状線内廻り車線京橋インターチエンジ付近の車線変更区間を進行中、原告車の左側車線を走行していた被告松本運転の普通乗用車(習志野五五も四一八九号、以下松本車という。)が急に原告車の前に割り込んできたうえ、急ブレーキをかけ停車したため、原告銀次郎も急ブレーキをかけ停車したところ、原告車に後続していた被告高橋運転の普通乗用自動車(埼五六ち六八六五号、以下高橋車という。)に追突され、その衝撃によつて、さらに原告車が松本車に追突し、よつて、原告銀次郎は頸椎捻挫、原告車に同乗していた原告及川てる(以下原告てるという。)は頸椎捻挫、右手関節捻挫の各傷害を負つた。

2  責任原因

(一) 被告高橋

被告高橋は、高橋車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるうえ、本件事故は同被告が前方をよく注視せず、また、当時本件道路は渋滞していたのであるから徐行して運転すべきであるのに制限時速五〇キロメートルの本件道路を毎時六〇キロメートルの速度で漫然と進行した過失により、原告車が急停車したのに対応しきれずに追突したものであるから、自動車損害賠償保障法三条もしくは民法七〇九条により、原告らの被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告松本

被告松本は、松本車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるうえ、本件事故現場付近は車線変更禁止区間のため進行車線の変更が禁止されていたにもかかわらず、原告車の左側車線を進行していた松本車が車線を変更して原告車の直前に割り込んだうえ急停車したために原告銀次郎が急停車し、そのため原告車に追従していた高橋車が原告車に追突したものであるから、自動車損害賠償保障法三条もしくは民法七〇九条により原告らが被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

3  損害

(一) 原告銀次郎 金七三九万三八二一円

(1) 治療費 金一六万九九六一円

原告銀次郎は、本件事故による前記傷害の治療費として、温泉マツサージ代金一〇万五八一七円を含め金一六万九九六一円を支出した。

(2) 通院交通費 金七万一〇四〇円

原告銀次郎は本件事故後、前記傷害の治療のため国府田整形外科に七九日、村上病院、北里研究所附属病院に各一日通院し、その交通費として金一万四九四〇円を支出した外、温泉マツサージのための交通費として金五万二五〇〇円を支出した。

(3) 通院雑費 金一万円

原告銀次郎は右通院期間中雑費として金一万円を支出した。

(4) 休業損害 金三八〇万円

原告銀次郎は本件事故前妻の原告てるとともに、機械修理業を営み、一か月金二〇万円の収入を得ていたところ、本件事故による前記傷害のため昭和四九年三月三日から同五〇年九月二五日までの一九か月間休業を余儀なくされ、右休業による損害は金三八〇万円となる。

(5) 後遺症による逸失利益 金二四〇万円

原告銀次郎は本件事故当時満五七歳であつたが、本件事故による前記傷害の後遺症のためその労働能力は本件事故前よりも二〇パーセント減退し、この状態は昭和五〇年九月二六日以降少なくとも五年間は継続すると思われるので、右期間中の逸失利益は金二四〇万円となる。

(6) 慰藉料 金二五〇万円

原告銀次郎は、本件事故により前記のような傷害を受け、現在もその後遺症に悩まされているうえ、原告らで営んできた機械修理業も廃業に追込まれたものであつて、右精神的苦痛を慰藉するには金二五〇万円が相当である。

(7) 損害の填補 金二二三万二一八〇円

原告銀次郎は右損害のうち、被告高橋からの支払金五万七五二〇円を含め、自賠責保険金等合計金二二三万二一八〇円の支払を受けた。

(8) 弁護士費用 金六七万五〇〇〇円

原告らは本件訴訟の提起追行を原告代理人に依頼し、手数料及び謝金として金六七万五〇〇〇円を支払うことを約したが、右金員については原告銀次郎において同てるの負担分も含め全額支払うことを約した。

よつて、原告銀次郎の損害の残は合計金七三九万三八二一円となる。

(二) 原告てる 金四五万五五八円

(1) 治療費 金一〇万三七九八円

原告てるは本件事故による前記傷害の治療費として、マツサージ代金二八〇〇円を含め金一〇万三七九八円を支出した。

(2) 通院交通費 金四万三四二〇円

原告てるは本件事故による前記傷害の治療のため国府田整形外科に一五六日通院し、その交通費として金二万八〇八〇円を支出した外、温泉治療のための交通費として金一万五三四〇円を支出した。

(3) 通院雑費 金一万円

原告てるは右通院期間中雑費として金一万円を支出した。

(4) 休業損害 金三六万円

原告てるは夫の経営する機械修理業を手伝つていたが、本件事故による前記傷害のため昭和四九年三月三日から同年一二月二八日までの一〇か月間働くことが出来なかつたから、一か月金三万六〇〇〇円として、その損害は金三六万円となる。

(5) 後遺症による逸失利益 金四万三二〇〇円

原告てるは本件事故当時満四三歳であつたが、本件事故による前記傷害の後遺症のためその労働能力は本件事故前よりも五パーセント減退し、この状態は昭和四九年一二月二九日以降少なくとも二年間は継続すると思われるので、右期間中の逸失利益は金四万三二〇〇円となる。

(6) 慰藉料 金一〇〇万円

原告てるは、本件事故により前記のような傷害を受け、現在もその後遺症に悩まされており、右精神的苦痛を慰藉するには金一〇〇万円が相当である。

(7) 損害の填補

原告てるは右損害のうち、被告高橋からの支払金六万一〇〇円を含め自賠責保険金等合計金一一〇万九八六〇円の支払を受けた。

よつて、原告てるの損害の残は合計金四五万五五八円となる。

4  結論

よつて、被告ら各自に対し、原告銀次郎は金七三九万三八二一円、原告てるは金四五万五五八円及び右各金員に対する、被告高橋に対しては本件訴状が同被告に送達された日の翌日である昭和四九年一一月一〇日以降、被告松本に対しては本件訴状が同被告に送達された日の翌日である昭和五一年七月二日から各支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告高橋

(一) 請求原因1の事実は認める。但し、原告らの受傷は高橋車の追突によるものだけではなく、原告車が急停車したこともその原因となつている。

(二) 同2(一)の事実中、被告高橋が高橋車を所有し、自己のために運行の用に供していたことは認めるが、その余の事実は否認する。本件事故は車線変更区間にかかわらず原告車の直前に割り込んだ被告松本の過失も原因をなしている。

(三) 同3の事実中、損害の填補は認め、その余は否認もしくは争う。

2  被告松本

(一) 請求原因1の事実中、原告ら主張の日時、場所において、被告松本運転の松本車が停止したところ、後続していた原告銀次郎運転の原告車が急ブレーキをかけ停車したため、原告車に追従していた被告高橋運転の高橋車が追突し、その衝撃によりさらに原告車が松本車に追突したことは認めるが、本件事故現場付近が車線変更禁止区間であつたこと、原告らが受傷したことは不知。その余の事実は否認する。被告松本は本件事故現場の約一キロメートル手前から右側の同一車線を法定速度内で原告車の前を走行していたところ、松本車の前を走行していた車両が停車したので前車に従つて、自然に停車したものであつて、原告ら主張のように被告松本において原告車の直前に割り込んだことも急に停車したこともない。

(二) 同2(二)の事実中、被告松本が松本車を所有し、運行の用に供していたことは認めるが、本件現場付近が車線変更禁止区間であることは不知。その余は否認もしくは争う。本件事故は被告高橋においてスピードを出しすぎていたうえ、車間距離を保持せず前方の注視を怠つた同被告の一方的過失により発生したものである。

(三) 同3の事実中、原告らの入通院状況、慰藉料についての特別事情及び損害の填補は不知。その余は否認もしくは争う。

三  抗弁

1  被告高橋

原告らの受傷は、原告銀次郎の急ブレーキによる衝撃もその一因をなしているのであるから、原告らの損害の算定にあたつては、右原告銀次郎の過失も斟酌すべきである。

2  被告松本

本件事故の発生について被告松本に過失のないことは前記のとおりであり、松本車に構造上の欠陥または機能の障害はなかつた。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実はいずれも否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  原告銀次郎が昭和四九年三月二日午後六時三〇分ころ、原告車を運転し、東京都中央区銀座一丁目二三番地先首都高速道路環状線内回車線京橋インターチエンジ付近を進行中、被告松本の運転する松本車が停車したため、後続の原告車が停止したところ、被告高橋の運転する高橋車が原告車に追突し、その衝撃により原告車が松本車に追突したことは全当事者間に争いがない。

二  ところで、原告らは、本件事故は原告車の左車線を走行していた松本車が車線変更禁止区間であるにもかかわらず、原告車の直前に割り込んできたうえ、急ブレーキをかけて停車したこともその一因となつた旨主張するのに対し、被告松本においてこれを争つているので、以下この点について判断する。

成立に争いのない甲第一号証、第一三ないし第一六号証、乙第一号証、丙第五ないし第九号証、本件現場付近を撮影した写真であることに争いのない甲第一七号証の一ないし四、第一九号証の一、二、証人松本育信(併合前)、同石田省吾、同秋葉勝勇、同井上覚、同吉田浩の各証言、原告及川銀次郎、同及川てる、被告高橋吉男、同松本育信各本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、本件事故当時、被告松本は勤務先の同僚らとともに、伊豆方面を見物して千葉県八千代市の自宅へ帰る途中であり、一方、原告らは神奈川県川崎市の仕事先から東京都江戸川区の自宅へ帰る途中であつたこと、本件事故現場付近は土曜日の夕方ということもあつて、車の流れが渋滞していたこと(本件事故当時、現場付近が渋滞していたことは原告らと被告高橋間では争いがない。)、被告松本は前記のように千葉県八千代市の自宅へ帰宅するために事故現場の先の江戸橋インターチエンジを右に曲り、京葉道路へ出るため、本件事故現場の手前約一キロメートル付近から片側二車線の右側車線を走行し、時速五、六〇キロメートルで進行していたところ、本件事故現場付近で五、六台の先行車が順番にブレーキをかけたため、被告松本も先行車と同様に通常のブレーキ操作で停止し、続いて松本車に追従していた原告車が急ブレーキをかけて停止したが、それをみて原告車に約一〇メートルの車間距離で時速約五五キロメートルで追従していた高橋車もあわてて急ブレーキをかけたが間に合わずに原告車に衝突し、そのため原告車が押されて松本車に衝突するに至つたものであることが認められる。

原告ら及び被告高橋は、松本車が車線変更禁止区間であるにかかわらず原告車の直前に割り込んだうえ急ブレーキをかけた旨主張し、証人吉田浩の証言、原告及川銀次郎、同及川てるの各本人尋問の結果中に、右の趣旨に沿う部分があるが、証人松本育信(併合前)、同石田省吾の各証言、原告及川銀次郎、被告高橋吉男、同松本育信各本人尋問の結果によれば、本件事故後、原告車、高橋車、松本車の三台を、事故現場近くの左側の路側帯に停め、原告銀次郎と被告両名の三者で事故原因等について話合つた際には、原告銀次郎から松本車の割り込みの話は出ておらず、右話合の途中でたまたま現場を通りかかつた警察官が現場で事情を聴取した際にも原告銀次郎から松本車が原告車の直前に割り込んだとの話は出ていないこと、さらに、成立に争いのない丙第九、第一〇号証によれば、本件事故後の昭和四九年三月一〇日に原告車に同乗していた訴外吉田浩が、また、同月一四日には原告てるがそれぞれ警視庁高速道路交通警察隊の係官から本件事故について事情を聴取された際に、同人らはいずれも渋滞のため停止したところ高橋車に追突された旨供述しているのみで、松本車が原告車の前に割り込んだとの供述はしていないことが認められ、これらの事実及び証人秋葉勝勇、同井上覚、同松本育信(併合前)の各証言、被告松本育信本人尋問の結果に照らすと、前記証人吉田浩の証言、原告及川銀次郎、同及川てるの各本人尋問の結果部分はたやすく措信することができず、他に前記認定を左右する証拠はない。

そうだとするならば、本件事故の発生について被告松本には全く過失がないものというべく、しかも前掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると松本車に構造上の欠陥ならびに機能の障害はなかつたことが認められるから、被告松本は本件事故につき責任がないものといわざるを得ない。

三  次に被告高橋の責任について判断する。

本件事故により、原告銀次郎は頸椎捻挫の、原告車に同乗していた原告てるは頸椎捻挫、右手関節捻挫の傷害を負つたこと、被告高橋が高橋車を所有し、自己のために運行の用に供していたことは原告らと被告高橋間に争いがない。したがつて、被告高橋は自動車損害賠償保障法三条にもとづき原告らの被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

ところで被告高橋は、原告らの受傷は原告車の急ブレーキ停車による衝撃もその一因となつており、原告らの損害の算定にあたつては原告銀次郎のブレーキ操作の過失を考慮すべきであると主張する。前記認定にかかる本件事故の態様からするならば、確かに、原告銀次郎において松本車の動静を十分注視し、松本車と同様のブレーキ操作を行なつていれば急ブレーキの操作をしなくともすんだ筈であるといえなくはないが、前記のような事故の態様、事故前の高橋車の速度、高橋車と原告車との車間距離等を併せ考えると、原告銀次郎の右過失は過失相殺として斟酌する必要をみない程度のものであると考えるのが相当である。

四  そこで原告らの被つた損害について判断する。

1  原告銀次郎

成立に争いのない甲第四号証、第六号証、第八ないし第一〇号証、第二〇号証の一ないし四、丙第一二号証(甲第二〇号証の一ないし四は原本の存在とも争いがない。)、原告及川銀次郎本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告銀次郎は本件事故の二日後の昭和四九年三月四日に京葉病院で診察を受けたところ、全治二週間を要する頭部打撲、頸椎捻挫と診断され、その後右傷害の治療のため、同月八日から同年一二月二五日までの間国府田整形外科に合計一二二日間通院し、その間同年五月一六日に村上病院に、また同年六月一日に北里研究所附属病院へそれぞれ通院して治療を受けたが、同年一二月二五日国府田整形外科で后頭神経に圧痛があり、頸部筋に緊張、左肩胛部に圧痛が残つているものの症状は固定した旨診断され、そのころ自動車損害賠償責任保険の関係で後遺症の程度は自動車損害賠償保障法施行令別表一四級に該当すると認定されたこと、しかし、その後も原告銀次郎の症状は好転せず、耳鳴りとふるえがあつたため、昭和五〇年五月二五日からは国立医療センターに通院して治療を受けるようになり、同年六月一〇日には同センターで頭頸部外傷のため今後頸椎用軟性コルセツトを装用し安静加療を要する旨診断され、同年九月二五日まで一〇日間通院して治療を受けたが、同日、同センターの医師訴外村岡勲により後頭部痛、頂部痛、手指振戦が著しく細かい手先の仕事は不能であり、重い物を持ち上げないことが望ましい程度の症状が残つているが症状は固定し、右後遺症の程度は前記施行令別表一一級に該当する旨診断されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

なお、被告高橋は原告銀次郎の右傷害が同原告の急ブレーキによる衝撃もその一因をなしている旨主張するが、原告及川銀次郎本人尋問の結果によれば、同原告は原告車の急停車によつては怪我をしていないことが認められる(右認定に反する証拠はない。)から、右主張は採用できない。

(一)  治療費

前掲甲第一〇号証、第二〇号証の一ないし四、原告及川銀次郎本人尋問の結果を総合すると、原告銀次郎は本件事故による治療のため、その治療費として国府田整形外科に金四万九五二二円、村上病院に金一四一〇円、北里研究所附属病院に金二〇七一円、国立病院医療センターに金一万一一四一円、合計金六万四一四四円を支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

なお、原告及川銀次郎本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一ないし七及び同本人尋問の結果によれば、原告銀次郎は、昭和四九年一二月二日、同月三日ならびに昭和五〇年一月二八日、同月二九日に山形県米沢市所在の最上整体治療院で、また同年三月一三日、同月一五日、同月一九日には東京都新宿区所在の一本堂横山鍼灸療院で鍼灸、マツサージの治療を受け、合計金一万二六〇〇円を支払つていること、また、昭和四九年三月一八日、同月一九日、同年六月三日から同月五日、同年一一月五日から同月七日、同月一九日には福島県の東山温泉に、同年一二月二一日には神奈川県湯河原温泉にいずれも温泉療養として宿泊していることが認められるが、原告及川銀次郎本人尋問の結果によつても、前記鍼灸、マツサージは医師の指示によるものではなく、また、温泉療養も医師から勧められたと同原告が供述するのみであり、いずれも前記傷害の治療費として認めるには十分でない。

(二)  通院交通費、通院雑費

原告銀次郎が本件事故による前記傷害の治療のため、国府田整形外科へ一二二回、村上病院、北里研究所附属病院へ各一回それぞれ通院したことは前記認定のとおりであるところ、弁論の全趣旨によると、国府田整形外科への通院には一回金一八〇円のバス代を要し、村上病院及び北里研究所附属病院への通院には一回各金三八〇円を要することが認められ、したがつて、原告銀次郎の通院交通費は金二万二七二〇円となる。

原告銀次郎は右通院のための雑費として金一万円を要したとしてこれを請求しているが、右主張自体その内容が明らかでないうえ、本件全証拠によるも右事実を認めるに足る証拠はない。

(三)  休業損害

原告及川銀次郎、同及川てる各本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告銀次郎は本件事故当時満五七歳で、機械の修理、据付け等の業を営んでいたが、前記傷害のために昭和四九年三月三日から昭和五〇年九月二五日まで五七二日間休業を余儀なくされたことが認められる。そこで損害額について判断するに、原本の存在及び成立に争いのない甲第一一号証、原告及川銀次郎本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証ならびに同本人尋問の結果を総合すると、原告銀次郎は本件事故前の昭和四八年四月から昭和四九年一月末日までに前記機械修理等の業により金二九三万一〇六七円の収入を得ているが、同年度の所得税の確定申告において所得は金二一八万八一六五円であると申告していることが認められ、右事実によれば、同原告の収入のうち、三割五分が必要経費であるとみられ、したがつて同原告の本件事故直前の実収入は一か月金一九万五一九円と認められるから、これを基礎に同原告の休業損害額を計算すると、金三五八万二八〇一円(一円未満切捨)となる。

(四)  後遺症による逸失利益

前記認定の原告銀次郎の年齢、後遺症の内容、程度等によると、同原告は前記後遺症により昭和五〇年九月二六日以降三年間にわたり平均一〇パーセント程度の労働能力を喪失したものと認めるのが相当であるから、前示収入を基礎にライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して同原告の後遺症による逸失利益の現価を計算すると、金六二万二五八五円(一円未満切捨)となる。

(五)  慰謝料

前記認定の原告銀次郎の受傷内容、治療経過、後遺症の内容及び程度、その他本件に顕われた諸般の事情を考慮すると、本件事故によつて同原告が受けた精神的苦痛に対する慰藉料は金二〇〇万円が相当である。

(六)  損害の填補

原告銀次郎が被告高橋からの支払金五万七五二〇円を含め自賠責保険金等合計金二二三万二一八〇円の支払を受けたことは同原告の自認するところである。

(七)  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、原告らは本件訴訟の提起、追行を原告代理人に委任し、原告銀次郎において相当額の報酬の支払を約束していることが認められるが、本件事案の性質、審理の経過、認容額に鑑みると、被告高橋に対して賠償を求め得る弁護士費用は金三五万円と認めるのが相当である。

よつて、本件事故による原告の未だ填補されていない損害は金四四一万七〇円となる。

2  原告てる

成立に争いのない丙第一四号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第五号証、第七号証、第二一号証の一ないし四、原告及川銀次郎、同及川てる各本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告てるは本件事故後昭和四九年三月四日に京葉病院で診察を受け、全治二週間を要する頸椎捻挫、右手首捻挫と診断され、その後同月七日からは国府田整形外科で治療を受け、同年一二月二八日までの間に一五六日通院し、同日同整形外科で后頭神経圧痛、左肩胛部圧痛、右手関節部圧痛の後遺症が残るものの症状は固定したとされ、そのころ自動車損害賠償責任保険の関係で、右後遺症の程度は自動車損害賠償保障法施行令別表一四級に該当すると認定されたことが認められる。

ところで、被告高橋は原告てるは原告車が急停車した際に受傷した旨主張する。そして、原告及川てる本人尋問の結果によると、原告てるは原告車が急停車した際に前にのめり、頭部を室内のバツクミラーに強打するとともに、右手首を灰皿がこわれる程に強打し、同原告が前のめりの姿勢から起き上がろうとした際に高橋車に追突されたこと、しかし、同原告は前のめりになつた際に強打した頭部の痛みのため、高橋車に追突されたことに気づかなかつたこと、すなわち、同原告にとつてそれほど急停車の衝撃が大きかつたこと、そして、高橋車の追突によつて背中を痛めたことが認められ、右事実によれば同原告の受傷は高橋車の追突とともに原告車の急ブレーキによる停止もその一因をなしていることが推認される。そうであるならば、前記のような同原告の傷害の部位、程度を考えると、同原告の後記損害のうち七割を被告高橋に負担させるのが相当であると推認される。

(一)  治療費

原告てるが本件事故により頭頸部外傷、右手関節捻挫の傷害を負い、京葉病院に一日、国府田整形外科に一五六日通院したことは前記のとおりであるが、前掲甲第二一号証の一ないし四によれば、同原告はその治療費として金一〇万九九八円を支払つたことが認められる。

前掲甲第二号証の一、三、原告及川銀次郎本人尋問の結果を総合すると、原告てるは前記傷害の治療のため、昭和五〇年一月二八、二九の両日前記最上整体治療院で鍼灸の治療を受け、金二八〇〇円支払つたこと、しかしながら、右鍼灸の治療は医師の指示によるものではないことが認められ、前記傷害の治療費として認めるには十分でない。

(二)  通院交通費、通院雑費

原告てるが前記傷害のため国府田整形外科に一五六日通院したことは前記認定のとおりであるところ、弁論の全趣旨によれば、右通院一回について金一八〇円のバス代を要することが認められ、同原告の通院交通費は金二万八〇八〇円となる。

同原告は右通院のための雑費として金一万円を要したとしてこれを請求しているが、右主張自体その内容が明らかでないうえ、本件全証拠によるも右事実を認めるに足る証拠はない。また、同原告の主張する温泉治療のための交通費は、本件全証拠によるも同原告が治療のために温泉へ行つたと認めるに足る証拠がないから、失当である。

(三)  休業損害

原告及川銀次郎、同及川てる各本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告てるは本件事故当時当時夫の原告銀次郎とともに機械の修理、据付業を営んでいたが、その主体は原告銀次郎で、原告てるは手伝いといいながら家事労働が中心であつたが、同原告は前記傷害のため本件事故の翌日から昭和四九年一二月二八日までの三〇一日間全く労働ができなかつたこと、したがつて少くとも一か月金三万六〇〇〇円の休業損害(同金額は当裁判所に顕著な昭和四九年度の賃金センサス中全産業の女子労働者中、学歴計の年齢階層別平均給与額を上廻ることはない。)を被つたものというべく、右金額を基礎として同原告の休業損害を算出するとその額は金三五万六二五二円(一円未満切捨)となる。

(四)  後遺症による逸失利益

前記認定の原告てるの後遺症の内容等によると、同原告は前記後遺症により昭和四九年一二月二九日以降一年間にわたり平均五パーセント程度の労働能力を喪失したものと認めるのが相当であるから、前示収入を基礎にライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して同原告の後遺症による逸失利益の現価を計算すると、金二万五六九円(一円未満切捨)となる。

(五)  慰藉料

前記認定の原告てるの受傷内容、治療経過、後遺症の内容及び程度その他本件に顕われた諸般の事情を考慮すると、本件事故によつて同原告が受けた精神的苦痛を慰藉するには金九〇万円が相当である。

(六)  損害の填補

原告てるが被告高橋からの支払金六万一〇〇円を含め自賠責保険金等合計金一一〇万九八六〇円の支払を受けたことは同原告の自認するところである。

前記(一)ないし(五)によると、原告てるが本件事故によつて被つた損害は合計金一四〇万五八九九円となるところ、前記2の冒頭において判示した被告高橋に賠償を求めることが出来る金額はその七割にあたる金九八万四一二九円であるところ、同原告は既に金一一〇万九八六〇円を受領しているから、同原告の損害はすべて填補されていることになる。

五  以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、原告銀次郎の被告高橋に対し金四四一万七〇円及びこれに対する本件訴状が同被告に送達された日の翌日であること本件記録上明らかな昭和四九年一一月一〇日以降支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし、原告銀次郎の同被告に対するその余の請求及び被告松本に対する請求ならびに原告てるの被告らに対する各請求はいずれも理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し、仮執行免脱の宣言は付するのが相当でないので付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川昭二郎 片桐春一 金子順一)

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