大判例

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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)9880号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

六被告田上の責任原因について

一般に犯罪により被害を被つたとして捜査機関に対し申告を行う者は、被害内容を真実に基いて申告をなすべきことは当然である。

原告らは、被告田上は原告らに対し刑事処分を受けさせる目的をもつて故意に虚偽の事実を申告したと主張する。原告らが被告田上の供述中明らかに虚偽であると指摘する点は、前認定の同人の供述中、(一)原告大森が小金井一家の大幹部であり、同岡もまた暴力団員であると供述したこと、(二)原告岡が示談屋の先生であるとの供述をしたこと、(三)スナック「ネム」で原告岡と会談中、店の外に暴力団員風の男が中を覗いていたこと、及びその際ネムのママが原告岡の言うことを聞いた方がよいと告げたこと、(四)原告大森が「孝良」で被告田上に脅しながらビールをかけたこと等である。確かに原告両名の本人尋問の結果及びその供述調書(K、L)、証人杉江義男、同佐野千枝子の各証言、<証拠>(上申書等)は、右(一)ないし(四)の各点の他、前認定の被告田上の供述を全面的に否定するものであり、従つて被告田上の供述が虚偽であることをさし示すものではある。

しかしながら、右(一)、(二)の点について被告田上の供述は、前認定のとおり、いずれも、「……だという」、「……と聞いている」、「……だと思いました」というものにすぎず、断定を与えたものではなく、本件警察官証人の各証言及び捜査報告書(H)によれば、警察の裏付捜査の結果においてもその旨の風評のあることが判明したことを認めることができる。それに、前掲被告田上の供述が虚偽であることをさし示す各証拠は、原告ら本人もしくは原告らと親交の深い者の証言等であり、また本件事件で重要な立場を占める証人町田豊四郎の証言は全体的にあいまいで前後矛盾している個所が少くないので、前認定の裏付捜査の結果に照らして、いずれもにわかに採用することができない。

もつとも、被告田上の被害申告及び供述内容の中には、被告田上自身が原告岡らに解決の仲介を頼もうと相談をもちかけながら、原告岡らの言動が予期したものでなかつたため、幾分誇張していると言える部分もみられるものの、事件の性質上全体的に考えれば、右被告田上の供述等が虚偽であると認めるに足る証拠はないというべきである。

七本件警察官らの責任原因について

1 警察官らの職務上の義務

一般に逮捕状を請求する司法警察員の職にある者は、当該犯罪についての証拠資料の収集を誠実に行い、その得られた資料(なお、捜査段階での証拠には必ずしも刑訴法所定の厳格な証拠法則が適用されるものではなく、伝聞供述であつても適宜判断資料となしうるものと解される。)を総合的に検討のうえ、法定の要件である「罪を犯したことを認めるに足る相当な理由」及び「逮捕の必要性」の存否を慎重に判断し法定の要件を逸脱しないようにすべき職務上の義務を負うのは当然である。

ところで、逮捕状の請求にあたつて責任原因(違法性と故意過失)があるか否かは、逮捕状の請求にあたつた警察官について、その証拠の評価に関し通常考えられる個人差を考慮に入れても、逮捕の手続をとつたことに関して右職務上の義務の懈怠がなかつたか否かを検討し、その責任原因の存否を判断すべきものと考える。

2 原告らの主張についての検討

原告らは、本件捜査に当つた警察官らは、被告田上の供述の真偽を確かめるため十分な裏付捜査を行うべきであつたにかかわらず、これを怠り、かえつて現実に捜査の結果得た内容と異なる内容の捜査報告書(H)を作成したと主張する。すなわち原告らが右捜査報告書の記載が現実の捜査結果の内容と異なるとする点は、(一)原告大森を「都内の暴力団」である、(二)原告岡を「示談屋の先生と異名を取つている顔役」である、(三)飲食店「すぎえ」、「孝良」を暴力団のたまり場である、(四)本件の示談金一〇万円は原告両名によつて分配されたと、それぞれ断定していることである。

しかしながら、前認定のとおり、捜査報告書の右事実についての記載は、いずれも聞き込みの結果そのような事実が得られたという報告の記載であつて、事実が確定できたものとして記載されているものではなく、かつ本件警察官証人の各証言によれば、同人らがその記載にそう内容の聞き込みを得ていたものと認めることができる。そうであれば、なるほど捜査報告書の記載に一部正確性を欠く表現のあることは否めないとしても、なお全体として信用性のないものと認めるに足りる証拠はないというべきである。

3 結局、捜査報告書の記載についてその信用性を否定するに足る証拠のない以上、逮捕状の請求を行つた本件警察官らに、前記の職務上の義務の懈怠があつたと認めることはできない。

八逮捕状の発付裁判官の責任原因について

一般に逮捕状を発付する裁判官が、その発付に際し記録を精査し、慎重に法定要件の判断に当るべきことは当然のことである。

原告らは本件担当裁判官二川武志は右職務上の義務を怠り、記録を精査すれば原告ら両名に「罪を犯したことを疑うに足る相当の理由」のないことを知りえたにもかかわらず、これを看過したと主張するが、その理由は、被告田上の供述及び捜査報告書の記載が信用できないとすることであり、これについて特に信用性を疑う事情のないことは前認定のとおりであり、従つて右裁判官の判断に前記の義務の懈怠のあつたことを認めるに足りる証拠はないというべきである。

九勾留請求の検察官並びに勾留状発付の裁判官の責任原因について

勾留状の請求に当る検察官及びその発付に当る裁判官の負うべき義務の内容については、先に逮捕について判示したところと同様である。

原告らは、本件担当検察官野村貴興は原告らの言い分を十分に聞くことなく、当時の捜査資料によれば、原告らを勾留すべき事由のないことが明らかであるのに勾留請求をなし、また裁判官小原卓雄は十分な記録の検討を行うことなく慢然と勾留状を発付した旨主張する。

そこで、本件について、右検察官、裁判官らの判断に、職務上の義務の懈怠があつたか否かについて検討すべきところ、本件について勾留段階での捜査資料は別紙AないしNであり、逮捕段階でのそれと異なるのは、原告両名の供述調書(ことにKとL)が加わることであつて、前認定のとおり原告ら両名の供述内容は被告田上の供述内容をほぼ全面的に否認するものであつた。

ところで、一般に恐喝被疑事件については、その事案の性質上被疑事実の立証について多くを関係者の証言に頼らざるを得ず、被疑者が事実を全面的に否認する場合には、結局被害者側の証言・供述内容と被疑者のそれとのいずれに信用性を置くべきかの検討が最も重要な点とならざるを得ないのである。

これを本件についてみるに、被告田上の供述と原告両名の供述がほぼ全面的にくい違うことは前記のとおりであり、そのいずれを信用すべきか(より正確には、加害者側の供述にもかかわらず、被害者側の供述を基礎として相当の嫌疑があると言いうるか。)の問題につき当るが、前認定の裏付け捜査の結果に照らして考えるならば(その信用性を否定するに足る証拠のないこと前認定のとおり。)、被告田上の供述によつて法定要件が充足されたとする判断に、前記の職務上の義務の懈怠があつたと認めることはできない(田上の供述が明らかに信用性を欠くものとは言えないことは、前認定のとおり。)。

一〇結論

以上のとおり、原告らの被告らそれぞれに対する不法行為の各主張は、いずれもこれを認めることができない。

(山田二郎 久保内卓亞 内田龍)

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