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東京地方裁判所 昭和49年(行ウ)13号 判決 1976年3月26日

原告 株式会社商大自動車教習所

右代表者代表取締役 谷岡剛

右訴訟代理人弁護士 久世勝一

同 杉山博夫

同 平田薫

被告 中央労働委員会

右代表者会長 平田冨太郎

右指定代理人 雄川一郎

<ほか三名>

参加人 総評全国一般労組大阪地連全自動車教習所労働組合

右代表者執行委員長 新島重吉

参加人 同盟交通労連関西地方本部商大自動車教習所労働組合

右代表者組合長 中口忠久

右参加人両名訴訟代理人弁護士 河村武信

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

(一)  被告が中労委昭和四七年(不再)第九八号不当労働行為再審査申立事件について、昭和四八年一二月一九日付でした別紙命令書(以下「命令書」という。)記載の命令(以下「本件命令」という。)を取り消す。

(二)  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二請求原因

一  本件命令

参加人総評全国一般労働組合大阪地連全自動車教習所労働組合(以下「全自教」という。)及び参加人同盟交通労連関西地方本部商大自動車教習所労働組合(以下「労組」という。)は、昭和四七年六月一二日(以下とくに年を示さないときは、昭和四七年を意味する。)、原告を相手方として、大阪府地方労働委員会(以下「大阪地労委」という。)に対し、不当労働行為救済の申立をしたところ、同委員会は、一二月二一日付で「被申立人(本件原告)は、団体交渉の場所、時間及び交渉人員数に関する被申立人提示の団体交渉ルールが確立されないことを理由に、申立人ら(本件参加人ら)との団体交渉を拒否してはならない。」との救済命令(以下「初審命令」という。)を発し、右命令書の写は、その頃、原告に送達された。

原告は、これを不服として、一二月二六日、被告に対し、再審査の申立てをしたが、被告は、中労委昭和四七年(不再)第九八号不当労働行為再審査申立事件として、審査のうえ、昭和四八年一二月一九日付で「本件再審査申立てを棄却する。」との本件命令を発し、右命令書の写は、昭和四九年一月七日、原告に送達された。

二  本件命令の違法性

本件命令は、原告が昭和四七年春闘について、原告の従業員をもって組織する全自教の商大分会(以下「分会」という。)及び労組との間で、団体交渉の場所、時間及び交渉人員の三条件を一体として、ルール化し、それを確立しなければ、団体交渉に応じられないとしたのは、不当労働行為であるとして、初審命令を維持して、原告の再審査申立てを棄却したが、これは、事実の認定及び法令の適用を誤ったもので違法である。よって、本件命令の取消しを求める。

≪以下事実省略≫

理由

一  本件命令

請求原因第一項の事実及び第二項の事実のうち、本件命令が原告主張のとおり不当労働行為を認定し、初審命令を維持して、原告の再審査申立てを棄却したことは、当事者間に争いがない。

二  昭和四七年春闘前における団体交渉の経過等

(一)  命令書理由第1、1、(1)ないし(5)記載事実は、当事者間に争いがない。

(二)  命令書理由第1、2、(1)、(3)記載事実及び(2)記載事実のうち、分会が昭和四四年の春闘において、原告に対し、団体交渉を原告会社内で就業時間内に行うことを要求したとの点を除くその余の事実は、当事者間に争いがない。

また、≪証拠省略≫を総合すれば、原告は、昭和四三年及び昭和四四年の春闘に際しては、分会及び労組との団体交渉を、ほとんど就業時間外の二時間(交渉委員が遅出勤務の場合は午前九時頃から二時間、早出勤務の場合は午後六時頃から二時間)程度のうちに労働セッツルメントで行って来たこと、ところが、分会は、昭和四四年の春闘において、原告に対し、団体交渉を就業時間(早出勤務は午前八時二〇分から午後五時二〇分まで、遅出勤務は午前一一時二〇分から午後八時二〇分までの時間)内に原告会社内で行うことを要求し、この結果、団体交渉の場所については、同年年末からは原告会社の所長室が使用されるようになったことが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

三  昭和四七年春闘における団体交渉の経過等

(一)  昭和四七年春闘における団体交渉

≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実が認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

1  昭和四六年五月、上部団体の系列を問わず、各自動車教習所単位の労働組合の共闘を目的として、大阪地方自動車教習所労働組合共闘会議が発足したところ、分会は同年五月、労組は同年九月、それぞれ、同共闘会議に参加したが、これに伴い、両組合は、相互に資料、情報などの交換を行うようになり、昭和四七年三月に至り、原告会社内で共闘体制を組むようになった。

2  右のような共闘関係を結んだ分会及び労組は、三月一三日、原告に対し、春闘の要求として、書面をもって、両組合に共通して、基本給一律金一万八、五〇〇円の賃上げ、諸手当の支給などを含む五項目にわたる要求を提出し、その後、これについて、原告との間で命令書理由第1、3、(2)の一覧表(命令書(5)頁)記載のとおり、団体交渉を行い、右交渉は、いずれも、原告会社二階にあって、教室をベニヤ板で仕切って作られた面積約二〇平方メートルの小会議室で行われた。

なお、右団体交渉のうち、四月一九日の原告と分会との交渉及び五月一〇日の原告と労組との交渉は、いずれも就業時間内にも及び、また、右五月一〇日の交渉においては、午前一〇時五〇分から午前一一時四五分までの間の中断があった。

3  ところで、この間四月二六日に行われた原告と労組との団体交渉において、労組側は、労組員一〇名のほか、全国交通運輸労働組合総連合会(以下「交通労連」という。)のオルグ、交通労連関西地方本部の翼下にあって、同盟系の自動車教習所関係労働組合で構成される同盟学校労協の役員及び支援労働組合員ら約一〇名、以上合計約二〇名を出席させた。しかして、労組側の出席者のうちには、団体交渉の途中から出席して、そのたびごとに原告側に説明を求め、また、勝手な発言をし、大きな声を出す者などがあったため、その声が冷房用のダクトを通じて、学科教習中の教室に流れ、授業に支障を来たした。

4  次に、五月一〇日に行われた原告と労組との団体交渉において、原告は、基本給一律金一万二、五〇〇円の賃上げを回答し、これに対し、労組は、賃上げ額については、大体了解する意向を示したが、賃金体系中の能率給を廃止して、固定給とする要求について、原告からの回答がなかったため、分会との共闘関係上も賃上げのみの回答に応ずるのは好ましくないとして、妥結しなかった。右団体交渉の途中、労組組合長中口忠久は、小会議室外の廊下において、交通労連のオルグと口論をし、原告から、学科教習中の教室における授業に支障を来たすとして、注意を受けた。

5  次に、五月一一日午前九時から原告と分会との団体交渉が予定されていたところ、その直前の同日午前八時五〇分頃に至り、原告は、分会に対し、原告の自動車教習所長訴外雄谷治男の病気(風邪)を理由として、同日の団体交渉の開催を同日夕刻又は翌日に延期したい旨を申し入れた。これに対し、分会並びに同日の団体交渉に出席するため、原告会社に来ていた全自教役員及び支援労働組合員らは、原告に対し、抗議し、さらに、全自教副執行委員長訴外三谷良平は、雄谷所長宅を訪れ、同人と折衝した。

この結果、同日午後二時から原告と分会との団体交渉が行われたが、その際、原告側は雄谷所長ほか三名が出席したのに対し、分会側は分会員六名、全自教役員、労組員四名のほか、支援労働組合員約三〇名、以上合計約四〇名を出席させた。そして、その席上、分会側は、原告に対し、団体交渉の遅延したことについて、責任を追及するとともに、支援労働組合員に対する賃金の補償を要求するなどして、強く抗議し、団体交渉は紛糾したため、春闘問題の内容について、交渉することなく、約四〇分間で打ち切られた。右団体交渉の間、組合員の声が冷房用のダクトを通じて小会議室隣で学科教習中の教室に流れ、授業に支障を来たし、一時中断しなければならなかった。

6  原告は、右3ないし5にみたような著しく喧噪で業務の運営を阻害するような労組及び分会の団体交渉の態度に不満を抱き、かかる団体交渉には応じられないとして、五月一一日後は、分会又は労組からの団体交渉の申入れに応ぜず、また、大阪地労委が五月二〇日頃、全自教及び労組からの賃上げなどについてのあっせん申請に基づいてしたあっせんに対しても、自ら解決したいとして、これに応じなかった。

かくて、原告は、五月二三日、分会及び労組に対し、それぞれ、「団体交渉ルール確立に関する申入書」と題する書面をもって、今後の団体交渉の開催にあたっては、団体交渉のルールの確立を要件とする旨を申し入れ、右書面は、同日、両組合に交付された。右書面によれば、原告は、右ルールとして、次の三点を提示した。

(1) 時間を定めること。時間外を原則とし、二時間以内とする。時間を超過する場合は打ち切り、次回継続とする。

(2) 場所の指定。教習所の目的を損うことなく、十分に交渉できる場所を教習所施設外に指定する。

(3) 交渉人員。組合側五名以内、原告側四名以内で、それぞれ権能を有する者とする。

7  分会及び労組は、原告の右申入れに対し、六月七日及び同月九日、原告に対し、それぞれ、連名の文書をもって、団体交渉については、一切の条件を付さないで、原告会社内において、権能を有する者で行い、労使間において、春闘問題の解決に鋭意努力するようにされたい旨の団体交渉の申入れをし、右各文書は、右各同日、原告に交付された。これに対し、原告は、同月九日、分会及び労組に対し、文書をもって、春闘に関する要求については、すでに具体的に最終回答をしており、また、団体交渉については、すでに提示した交渉ルールの確立についての分会及び労組の保証が得られるならば、早期に開催するので、これについて、文書で回答されたい旨の回答をし、右文書は、同日、両組合に交付された。

次いで、分会及び労組は、六月一〇日、原告に対し、連名の文書をもって、前記同様の団体交渉の申入れをし、右文書は、同日、原告に交付されたが、これに対し、原告は、すでに提示した交渉ルールの確立についての分会及び労組の保証が得られないとして、これに応じなかった。そこで、全自教及び労組は、同月一二日、連名で大阪地労委に対し、原告を相手方として、団体交渉及びその他の問題について、不当労働行為の救済申立てをした。

8  前述のとおり、五月一一日をもって、原告と分会及び労組との間の団体交渉は、決裂状態となったが、その後、両組合は、ストライキ権を確立したところ、このような労組の姿勢に批判的であった班長を中心とする労組員二三名は、同月二六日、連名で労組を脱退し、翌二七日、脱退者のうちの二二名は、職組を結成し、その結果、労組員は一二名に減少した。職組は、六月二八日、原告と団体交渉を行い、四月分から基本給一律金一万二、五〇〇円の賃上げを実施することなどで妥結し、四月に遡って、その支給を受けた。

そこで、全自教及び労組は、七月一三日、原告に対し、連名の文書をもって、春闘については、原告と職組間の解決内容と同一の条件で妥結したい旨を申し入れ、右書面は、同日、原告に交付されたが、原告は、これに応じなかった。

なお、原告は、その後、職組との間で、昭和四七年度夏季一時金についても妥結し、職組の組合員に対し、これを支給したが、分会及び労組の組合員に対しては、団体交渉が行われないとの理由で、いまだこれを支給していない。

(二)  救済申立て後の予備折衝等

≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実が認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

1  大阪地労委は、七月六日、原告に対し、分会及び労組との団体交渉に応じて、右交渉において、団体交渉のルールについて、話し合うことを説得したので、分会及び労組は、同日、原告に対し、同月八日、原告会社内で団体交渉を開催する旨の申入れをしたが、原告は、これに応じなかった。

2  次いで、大阪地労委は、七月二〇日、労使双方に対し、団体交渉のルールに関する予備折衝を開催することを勧告したので、これに基づいて、原告と分会及び労組は、八月四日から九月五日までの間、五回にわたり、右予備折衝を行ったが、その経過は、次のとおりであった。

(1) 第一回目は、八月四日、原告と分会及び労組との間で、労働セッツルメントにおいて、行われ、労使双方がそれぞれの主張を述べ、今後の団体交渉は労働組合法の精神に基づいて行い、問題の解決に双方が努力することを確認した。

(2) 第二回目は、八月二五日、原告と労組との間で行われ、原告は、右(一)、6の五月二三日付の団体交渉のルール確立に関する申入れとは別個に、新たに団体交渉運用上の問題点として、一週間前の団体交渉の申入れ、第三者の交渉人員参加の排除、過当団体交渉の拒否などを盛り込んだ合計一四項目の事項を提示した。

(3) 第三回目は、八月二五日、原告と分会との間で行われ、原告は、右(2)と同様の一四項目の事項を提示した。

(4) 分会及び労組は、原告の右(2)、(3)の各提示に対して、八月三一日、原告に対し、文書をもって、右提示は右五月二三日付の団体交渉のルールを改善するものではなく、一層改悪するものであり、すみやかに団体交渉を開催されたい旨の抗議をし、右文書は、同日、原告に交付されたところ、原告は、九月一日、分会及び労組に対し、文書をもって、団体交渉の早期開催のため、労使双方の理解を集約するための予備折衝を行うべきことを申し入れ、右文書は、同日、両組合に交付された。

かくて、第四回目は、九月四日、原告と労組との間で行われたところ、開催後約一五分を経過した際、分会長茅野広治がこれに出席したため、労組側が原告に対し、同人の出席について、了承されたい旨を申し入れたが、原告側は、これを拒否して、退席した。

(5) 分会及び労組は、九月四日、原告に対し、連名の文書をもって、原告の右(4)の九月一日付の予備折衝開催に関する申入れに対する回答として、①場所、時間については了解する、②交渉委員は両組合合わせて五名程度が出席する、③団体交渉をすみやかに開いて、問題を解決する旨の次回の予備折衝開催に関する申入れをし、右文書は、同日、原告に交付された。

かくて、第五回目は、九月五日、原告と分会及び労組との間で行われ、原告は、両組合に対し、先に第二、第三回目の予備折衝で提示した団体交渉運用上の問題点に関する一四項目中、場所、時間及び交渉人員の三項目を除くその余の項目は今後の検討事項としたい旨を述べたため、当面の問題点は、右の三項目にしぼられた。

3  ところで、原告は、その後の予備折衝を行わないでいたところ、九月九日に至り、分会及び労組に対し、文書をもって、同月一二日午前九時から午前一一時までの間、労働セッツルメントにおいて、原告側は自動車教習所長以下四名、組合側は両組合合わせて五名程度で賃上げなどに関する団体交渉を開催したい旨の団体交渉の申入れをし、右文書は、同日、両組合に交付された。これに対し、両組合は、九月九日、原告に対し、連名の文書をもって、原告申入れのような条件のもとで団体交渉を行うことには応じられず、大阪地労委の勧告のとおり、条件を全部撤回して、団体交渉を行うことを要求する旨を回答し、右文書は、同日、原告に交付された。

4  次いで、原告は、九月一一日、再度、分会及び労組に対し、文書をもって、団体交渉のルールについては、今後の協議にまつこととして、今回は原告提示の条件で団体交渉を行っても、直ちに、これを将来にわたって及ぼそうとするものではないので、右条件のもとで団体交渉を行うことを申し入れ、同日、両組合に交付されたが、両組合は、右条件を付した団体交渉には応じられないとして、結局、団体交渉は行われず、現在に至っている。

なお、分会員六名及び労組員一二名は、八月一一日、大阪地方裁判所に対し、原告を相手方として、昭和四七年度賃上げ分の金員支払仮処分申請をし、同裁判所は、九月一一日、右申請を認容する旨の仮処分決定をした。

(三)  団体交渉又は予備折衝のルール設定についての合意の成否

原告は、右(二)、2、(5)の分会及び労組から原告に対する九月四日付の予備折衝に関する前記回答文書によって、両組合が原告申入れの団体交渉のルールに合意したものであり、仮にそうでないとしても、予備折衝のルールに合意したから、実質的には団体交渉のルールに合意したものである旨主張するので、検討するのに、右(二)、1、2、(1)ないし(5)に認定したとおりの原告と両組合間の予備折衝に関する経過からすれば、両組合の右回答文書は、九月五日の予備折衝開催に関する申入れに対する回答にすぎず、これをもって、団体交渉のルールが原告と両組合との間で合意されたものと解することはできない。また、両組合の右回答文書によって、原告と両組合との間に予備折衝のルールについて、合意が成立したと解することはできるが、右(二)、2の冒頭、(1)ないし(5)に認定したところからすれば、予備折衝は、あくまでも団体交渉のルールを設定するためのものにすぎず、右予備折衝開催のためのルールの設定をもって、直ちに団体交渉のルールが設定されたものと解することはできない。したがって、原告の右主張は、理由がない。

(四)  結び

以上の事実によれば、原告は、五月一一日後は分会及び労組の団体交渉の申入れに対し、場所、時間及び交渉人員の三条件に関する団体交渉のルールが一体として、設定されないことを理由として、これを拒否しているというに帰着するものというべきである。

四  不当労働行為の成否

(一)  労働組合の団体交渉の申入れに対しては、使用者は、これを拒否すべき正当な理由のない限り、これに応ずべき義務があるところ、本件においては、原告は、団体交渉拒否の理由として、前述のとおり、場所、時間及び交渉人員の三条件に関する団体交渉のルールが設定されないことを挙げているので、これが果して正当と認められるかどうかについて、検討する。

ところで、本件のように、使用者が団体交渉を拒否することに正当な理由があるかどうかは、従前の団体交渉の経過、団体交渉のルール提案の時期、その合理性などの具体的事情を勘案して判断すべきものであるが、そのほか、使用者がその提案にいたずらに固執し、団体交渉における誠実義務に反すると認められるような場合には、なお右正当な理由があるということはできず、不当労働行為を構成するものと解するのが相当である。

(二)  そこで、以上の見地に立って、本件について、検討する。

1  右三、(一)、3ないし6に判示したところからすれば、四月二六日及び五月一〇日の原告と労組との団体交渉、五月一一日の原告と分会との団体交渉は、これに多数の組合員が参加するなどして、著しく喧噪で、いわゆる大衆団交化し、原告の業務に支障を生ずる事態を招来したため、原告が団体交渉制度の趣旨からみて、かかる事態を容認しなければならない理由はなく、これを是正する必要があるとして、その後五月二三日、前記のような団体交渉のルールを提示したことは、正常な労使関係の維持に寄与しようとするもので、それ自体としては、何ら違法なものではなく、合理性を欠くものでもない。

2  次に、原告の提案する団体交渉のルールの三条件について、その合理性を考えてみる。

(1) まず、場所の点についてみるのに、右二、(二)及び三、(一)、(2)に判示したとおり、原告は、分会及び労組との団体交渉の場所として、昭和四三年から昭和四四年末にかけては、原告会社外の労働セッツルメントを使用していたが、その後、分会の要求により、昭和四四年末から昭和四六年にかけては、原告会社の所長室を使用し、次いで、昭和四七年春闘においては、原告会社の小会議室を使用するようになったものであるところ、右団体交渉が行われる時間は、両組合側の交渉委員には就業時間外であっても、原告の営業時間内であるうえ、右小会議室においては少し大きな声を出すと隣接の学科教習室などに、その声が流れ、時に業務や授業に支障を生ずる事態が発生したこともあった。そこで、原告としては、場所を原告会社施設外(主として、労働セッツルメントを予定していることは、弁論の全趣旨から明らかである。)に求めることには無理とはいえない点があり、また、両組合側としても、右のように、従来、使用されていた場所を使用することになっても、さして負担となるものではないと考えられる。したがって、交渉の場所の変更を求める原告主張の条件は、合理性を有するものというべきである。

(2) 次に、時間の点についてみるのに、右二(二)に判示したとおり、原告は、従来から分会及び労組との団体交渉の時間として、そのほとんどを就業時間外の二時間(交渉委員が遅出勤務の場合は午前九時頃から二時間、早出勤務の場合は午後六時頃から二時間)程度のうちに行っており、時には交渉時間が延長して、就業時間にくい込み、配車変更の措置をとらなければならないこともあったが、右延長が意図的にされたものと認めるに足りる証拠はないから、団体交渉が右のような時間内に行われるべきことは、労使間に存在した慣行ともいうべきである。しかし、交渉の時間は、交渉進展の如何にかかわらず、常に一定の時間で打ち切ろうとすることには無理があり、合理的な延長を必要とする場合もあることは明らかであるところ、原告主張の時間に関する条件については、右のような合理的な延長を容認するものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、交渉の時間を常に二時間以内と制限し、交渉の進展如何にかかわらず、これを打ち切ろうとする原告主張の条件は、合理性を有しないものというべきである。

(3) 次に、交渉人員の点についてみるのに、右二、(二)及び三、(一)、2に判示したとおり、従来、原告との団体交渉において、分会は、分会員六名全員のほか、全自教の役員約二ないし三名を加えた約八名程度を参加させ、また、労組は、執行委員約一〇名を参加させていたものである。ところで、団体交渉の人員数としては、必ずしも多人数を要するものではなく、合理的な一定の人員で足りるから、原告主張の組合側五名以内という条件は、分会及び労組の組合員数からみて、直ちに不当な制限であるとは解し難い。しかし、他方、分会及び労組にとってみれば、原告主張の交渉人員は、両組合の従来の交渉人員数よりも減少するのであるから、直ちに、これに応じ難いところがあり、また、右三、(一)、3、5に判示したとおり、四月二六日及び五月一一日の団体交渉が多数組合員の参加により、喧噪状態を生じたが、かかる事例は、原告と両組合との従来の団体交渉において、数多くみられたことは認めるに足りる証拠はなく、昭和四七年春闘においても、右三、(一)、1ないし5に判示したところからすれば、四月二〇日までの四回の団体交渉においては、みられなかったところである。したがって、交渉人員を常に組合側に五名以内と制限することとする原告主張の条件は、合理性を有しないものというべきである。

3  以上の事実によれば、分会及び労組の団体交渉の態度にも非難されるべき点はなくはないが、それにもまして、原告の態度は、場所の点は格別、時間及び交渉人員の点について、原告提案の条件の維持を一貫して主張して、譲らず、とくに右三条件を一体として、直ちにルール化しようとして、右ルールを設定した後でなければ、団体交渉には応じられないとし、その結果、両組合員に対し、昭和四七年度の賃上げの実施や夏季一時金の支給をもしないのであって、とうてい首肯し難いところがある。原告のかかる態度は右各条件にいたずらに固執し、団体交渉における誠実義務に違反したものと評価されてもやむをえないものがあるといわなければならず、他方、両組合が右各条件を一体としては受け入れ難いとしたことには無理からぬ理由があるというべきであるから、結局、原告の本件団体交渉の拒否には正当な理由が認められないといわなければならない。したがって、原告の両組合に対する団体交渉の拒否は、労働組合法第七条第二号の不当労働行為にあたるというべきである。

五  結論

してみれば、原告に不当労働行為の責任があるとして、初審命令を維持した本件命令は、正当であり、これを取り消すべき事由は存しないといわなければならない。

よって、本件命令の取消しを求める原告の本訴請求は、失当として、棄却されるべきであるから、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九四条後段を適用して、主文のとおり、判決する。

(裁判長裁判官 宮崎啓一 裁判官 佐藤栄一 仙波英躬)

<以下省略>

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