東京地方裁判所 昭和49年(行ウ)146号 判決 1974年11月26日
原告 有限会社太建
右代表者代表取締役 岩切勉
被告 法務大臣 中村梅吉
主文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実および理由
一 被告の本件訴えは、要するに、「原告は昭和四八年六月五日付で被告に対し別紙目録記載のとおりの証明申請をしたのであるが、被告はこれに対し何らの応答をもしない。しかしながら、右証明申請に対し被告が何らの応答をもしないのは違法であるので、その確認を求める。」というにある。
二 行政事件訴訟法において、不作為の違法確認の訴えとは、行政庁が法令に基づく申請に対し相当の期間内に何らかの処分または裁決をすべきであるにもかかわらずこれをしない場合に、その違法の確認を求める訴訟である(同法三条五項)。そして、右訴えの対象となるのは、法令に基づく申請に対する行政庁の不作為のみであり、法令に基づかない申請に対する行政庁の不作為は、右訴えの対象となる資格を欠くと解するのが相当である。けだし、法令に基づく申請をした者のみがこれに対する行政庁の何らかの応答を期待しうる正当な利益を有するものであり、この利益が違法に侵害されている場合の救済こそ不作為の違法確認の訴えの目的であるからである。
ところで、本件訴えにおいて、原告は被告に対し、仲裁判断に基づき登記権利者が単独で登記申請をする場合に執行判決を要するかどうかという法律問題、右問題について執行判決を要する旨の法務省民事局第三課名での昭和四八年五月二四日付回答が被告の回答としての効力があるかどうかという法律問題、右回答が被告の意思に反しているかどうかという事実問題について、別紙目録記載のような原告の見解が正当であることの証明の申請をしたというのであるが、右のような法律問題ないし事実問題について特定の見解が正当であることの証明を被告に対し求めうる法的根拠はないと解するほかはない。してみれば、原告主張の申請は法令に基づくものとはいえないので、本件訴えは、訴えの対象となる不作為を欠き、不適法というべきである。
三 のみならず、行政事件訴訟法三七条によれば、不作為の違法確認の訴えは、処分または裁決についての申請をした者に限り、提起することができるのである。しかるに、本件訴えにおいて、原告主張の申請にかかる被告の行為は、前記のとおり法律問題ないし事実問題について特定の見解が正当であることを証明するというものであり、それはその証明により直接国民の権利義務に影響を及ぼすものではないので行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為ではないと解すべきである。してみれば、原告主張の申請は処分または裁決についてなされたものとはいえないので、結局、原告は処分または裁決について申請をした者とはいえず、不作為の違法確認の訴えの原告適格を欠くということになる。したがって、本件訴えはこの点においても不適法である。
四 以上のとおり本件訴えは不適法であり、その欠缺を補正することはできないので、民事訴訟法二〇二条によりこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき同法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高津環 裁判官 上田豊三 慶田康男)
<以下省略>