大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和49年(行ウ)76号 判決 1978年1月26日

原告 ハナシン株式会社

被告 荒川税務署長

訴訟代理人 坂本由喜子 比嘉毅 ほか三名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和四七年七月三一日付でした原告の昭和四四年一〇月二一日から昭和四五年一〇月二〇日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取消す。

2  被告が昭和四七年七月三一日付でした原告の昭和四五年一〇月二一日から昭和四六年一〇月二〇日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は寝具、衣類等の販売を業とする株式会社であるが、その昭和四四年一〇月二一日から昭和四五年一〇月二〇日までの事業年度(以下「昭和四四年度」という。)及び昭和四五年一〇月二一日から昭和四六年一〇月二〇日までの事業年度(以下「昭和四五年度」という。)の法人税について、原告のした確定申告、これに対する被告の各更正処分(以下、これらを「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定並びに各事業年度について国税不服審判所長がしたた審査裁決の経緯は次のとおりである。

(昭和四四年度) (単位 円)

区分

年月日

所得金額

税額

過少申告加算税

確定申告

45・12・19

二〇九、二二七、八六七

七三、一八九、五〇〇

更正及び賦課決定

47・7・31

二四八、一八六、二七七

八五、三五六、〇〇〇

六〇八、三〇〇

審査請求

47・9・29

同裁決

49・3・4

棄却

(昭和四五年度)

区分

年月日

所得金額

税額

過少申告加算税

確定申告

46・12・20

三一二、〇一八、八四九

一〇三、九七〇、四〇〇

更正及び賦課決定

47・7・31

三四四、一〇一、八一三

一一五、一一〇、七〇〇

五五七、〇〇〇

審査請求

47・9・29

同裁決

49・3・4

棄却

2  しかし、被告がした本件各更正処分のうち、昭和四四年度については所得金額二〇九、二二七、八六七円を超える部分、昭和四五年度については所得金額三一二、〇一八、八四九円を超える部分はいずれも原告の所得を過大に認定したもので違法であるから、その取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認否及び主張

(認否)

原告の請求原因1の事実は認める。同2の主張は争う。

(主張)

1 被告が原告の昭和四四年度及び昭和四五年度の法人税についてした課税処分の内容は次のとおりである。

(昭和四四年度) (単位 円)

区分

所得金額または税額等

確定申告

所得金額

二〇九、二二七、八六七

税額

七三、一八九、五〇〇

所得金額

二四八、一八六、二七七

更正

申告所得金額

二〇九、二二七、八六七

交際費損金不算入額

三七、五八三、三三〇

繰越資産償却超過額

五八〇、〇〇〇

給料中否額

三四、〇〇〇

器具備品認定損戻入

七五七、〇八〇

退職給与引当金取りくずし洩

四、〇〇〇

税額

八五、五五六、〇〇〇

賦課決定

過少申告加算税

六〇八、三〇〇

(昭和四五年度) (単位 円)

区分

所得金額または税額等

確定申告

所得金額

二一二、〇一八、八四九

税額

一〇三、九七〇、四〇〇

更正

所得金額

三四四、一〇一、八一三

申告所得金額

三一二、〇一八、八四九

交際費損金不算入額

三五、六〇四、二〇四

退職給与引当金起過額認容否認

九九八、四〇六

減価償却超過額

一一、四六二

減価償却超過額認容否認

一八、八五二

認定賞与

七二五、〇〇〇

繰越資産償却超過額認容

△ 一二〇、〇〇〇

保証金認定損

△ 四八〇、〇〇〇

未払事業税認定額

△ 四、六七四、九六〇

税額

一一五、一一〇、七〇〇

過少申告加算税

五五七、〇〇〇

2 被告は、前記1の課税処分の内容のうち、原告が本訴において争う租税特別措置法(昭和四二年法律第二四号、以下「法」という。)六三条五項に定める「交際費等」(以下「交際費等」という。)の損金不算入額について、その処分の適法性につき次のとおり主張する。

(昭和四四年度)

(一) 当年度における交際費等の損金不算入額は五五、〇三二、六四〇円である。

右の計算根拠となる原告の「支出交際費等の額」の内訳は次のとおりである。

(1) 会議費のうち婦人団体等の役員等を温泉地へ一泊旅行に招待した費用

四二、〇九三、九一九円

内訳 宿泊代  二六、二八二、八〇〇円

バス代      九、五七三、五〇〇円

昼食代      三、四七八、二一五円

諸雑費        八五九、四〇四円

芸人報酬     一、九〇〇、〇〇〇円

(2) 販売促進費のうち婦人団体等の役員等に贈呈した肌掛ふとん等の費用

一一、三〇〇、五三〇円

(3) 交際接待費(原告の申告分)

六、六四六、二三二円

(4) 以上合計金額((1)ないし(3)の合計)

六〇、〇四〇、五八二円

右合計金額に法六三条を適用して別表(一)のとおり算出された金額が損金不算入額である。

(二) 右のとおり、交際費等の損金不算入金は五五、〇三二、六四〇円であるところ、被告が本件更正処分において認定した不算入金額は三九、二二一、五二一円(原告が申告した金額一、六三八、一九一円に更正による増加額三七、五八三、三三〇円を加算した金額)であり、本来不算入とすべき金額の範囲内にあるから昭和四四年度分本件更正処分は適法である。

(昭和四五年度)

(一) 当年度における交際費等の損金不算入額は五四、一〇一、二一九円である。

右の計算根拠となる原告の「支出交際費等の額」の内訳は次のとおりである。

(1) 会議費のうち婦人団体等の役員等を温泉地へ一泊旅行に招待した費用

四四、五一五、一〇〇円

内訳 宿泊代  二六、三九五、七一六円

バス代     一三、四二九、五〇〇円

昼食代      三、七四五、二〇〇円

諸雑費        九四四、六八四円

(2) 販売促進費のうち婦人団体等の役員等に贈呈した肌掛ふとん等の費用

一七、〇八五、九一二円

(3) 支店経費(会議費)のうち

八、一二七、一五〇円

(4) 会場費のうち 二六〇、〇〇〇円

(5) 交際接待費(原告の申告分)

一一、八五〇、一〇二円

(6) 以上合計金額((1)ないし(5)の合計)

八一、八三八、二六四円

右合計金額に法六三条を適用して別表(二)のとおり算出された金額が損金不算入額である

(二) 右のとおり交際費等の損金不算入額は五四、一〇一、二一九円であるところ、被告が本件更正処分において認定した不算入金額は四二、一四二、九三〇円(原告が申告した金額六、五三八、七二六円に更正による増加額三五、六〇四、二〇四円を加算した金額)であり、本来不算入とすべき金額の範囲内にあるから昭和四五年度分本件更正処分は適法である。

3 しかして、前記両年度における支出交際費等のうち、原告が争つている「会議費のうち婦人団体等の役員等を温泉地へ一泊旅行に招待した費用」(以下「招待旅行費用」という。)及び「販売促進費のうち婦人団体等の役員等に贈呈した肌掛ふとん等の費用」(以下「贈呈品費用」という。)は、以下のとおり、いずれも法六三条五項にいう交際費等に該当するものというべきである。

(一) 招待旅行費用について

本件招待旅行は、もつぱら婦人団体等の役員等との親睦をはかるために行われた慰安旅行であつて、研修とは認められない。右費用は、原告とその事業関係者(婦人団体等の役員は、最終購買者である会員の紹介、あつせん等を行つている。)との間の親睦の度を密にして、取引関係の円滑な進行を図るために支出されたものであるから、交際費等に該当するというべきである。

(二) 贈呈品費用について

本件贈呈は、特定商品の販売促進期間において販売に貢献した婦人団体等の役員等に対して当該商品と同一の物品を交付して行われたものであるところ、右贈呈品の費用は、当該役員等に対する謝礼のための支出というべきであるから交際費等に該当するというべきである。

三 被告の主張に対する原告の認否及び主張

(認否)

1 被告の主張1の事実は認める。

2 同2の(昭和四四年度)の(二)は否認する。

3 同2の(昭和四五年度)の(二)は否認する。

4 同3の冒頭の主張及び(一)、(二)の主張はいずれも争う。

5 なお、同2の(昭和四四年度)(一)の(1)、(昭和四五年度)(一)の(1)の招待旅行費用中、被告が更正処分で交際費と認定したのは「宿泊代」のみであつた。

(主張)

1 被告主張の「招待旅行費用」は、原告が婦人団体の役員等を対象として開催した研修会のために支出した費用であり交際費に該当しない。

原告は右研修会を次のような事情のもとに開催したものである。

(一) 原告の販売・集金方法が特殊であること

原告は婦人呉服・寝具・装飾品等の月賦販売を目的とする会社であるが、その販売方法は店頭売りではなく次の三方法によつている。

(1) 展示販売

各種の婦人団体等の役員を通じて、その団体の会員を対象として展示会に招待し、その場で即売する。

(2) 委託販売

婦人団体等の役員へ品物を渡して、その団体の会員を対象に販売を委託する。

(3) カタログ販売

婦人団体等の役員を通じてその会員へ品物のカタログを配付し、右役員を通じて品物を注文させる。

なお、いずれの販売方法をとる場合も、購入希望者には現品先渡しで代金は一〇か月の月賦払とし、集金もすべて婦人団体の役員に委託している。

(二) 原告の販売方法等が右のとおり特殊であるため、婦人団体等の役員に対する研修会の開催は、原告の販売等の営業活動に必要不可欠であること

(1) 婦人団体等の役員は、原告と取引を開始した場合の展示会への招待者の人選(展示販売の場合)、販売の斡旋(委託販売・カタログ販売の場合)、月賦代金の集金事務手続(総ての販売方法に共通)等、原告の営業活動の一部を分担することになるため、これらの団体役員に対する研修なくして原告の販売活動は円滑に遂行しえない。

(2) 婦人団体等及びその役員が原告と取引を開始した場合には、原告から右役員に対し、物品による販売促進費、金員による集金手数料を支給することになつているが、原告は研修会を通じて右役員に対し、いかなる内容の業務を遂行すればいかなる内容の利益が与えられるかを説明し、もつて原告との取引開始を勧誘しようとするものであり、かつ研修会を開催することによつて取引先及び取引額を拡大し、事業を拡張してきたものであるから、本件研修公は原告の事業の存続及び拡大のために必要であるのみならず、その根幹をなしているものである。

(3) 研修会の、参加者は、原告がこれから新規に取引を開始しようとする婦人団体等の役負を対象とするもので、一団体より三役及び世話役等の五名を限度とし、男子及び子供の参加は認めていない。そのため、原則として同一人が二度以上参加することはない。したがつて、本件研修会は、原告の事業関係昔としての新たなる販売・集金員の獲得のため開催されたものであり、慰安のためのものではない。

(三) 婦人団体等の役員に対しては実質的にも研修が行われていること

原告は、別紙研修会日程表及び研修内容のとおり、研修第一日目は右役員らに織物工場の見学をさせ、夕食前に原告会社役員の紹介を行い、研修第二日目は各種の販売方法、商品の説明及び集金伝票の書き方等の集金事務手続等について説明をするなどの研修を実施した。

(四) 原告が研修会を実施するには熱海、箱根等の温泉地の旅館を使用する必要があること

(1) 研修対象である婦人団体等の役員の居住が関東から中部地方に及んでいるため、一堂に集めるには熱海、箱根等を研修地に選定するのが原告にとつて最も有利である。

(2) 研修会参加者に対し、原告の信用力を示すこと、新規取引を開始しようとする団体の役員に対する説明の統一、商品の展示、参加者に対する能率的な勧誘等の諸要請をみたすには、参加者は一回につき二五〇名から四五〇名程度の研修会にする必要があり、これらの者を収容する比較的大きな会場が必要である。

(3) 日程は一回を二日単位で行うが、商品展示、原告の経費第約等のため、研修会は連続して数一〇回行わねばならない。

以上の理由から比較的長期間連続して専属的に商品展示と会議のため大規模な会議場を必要とするが、このような条件に適う場所は熱海、箱根では閑散期の旅館以外には存しない。

なお、研修会場に温泉地を利用することにより、参加する婦人団体等の役員にとつては、研修会というわずらわしく、堅苦しいものに参加するという印象が薄れ、参加しやすくもなるため、原告としては研修会参加者の人員確保が容易になるという利点もある。

(五) 研修会を実施するためには一泊する必要があること

(1) 研修第一日目の工場見学は、原告の取扱い商品が生産されていく過程を団体役員に見せ、役員及びこれを通して一般の団体員に商品に対する信用を与える等、広告宣伝上も必要不可欠である。原告の取引会社のうち、設備が完備し、多人数の者が見学できるのは、美ささ織株式会社八王子工場以外に適当なところが存しない。

(2) 別紙研修日程表からも明らかなように、八王子の工場見学を行えば、研修地である熱海、箱根等到着は夕刻になる。その後引き続き、夕食、説明会等を実施すると、終了は早くとも午後九時を過ぎてしまい、その時点で研修会を解散したとすると、団体役員が各地から集つている関係上、帰宅が深夜になり、このような日程で研修会を開くことは研修参加者が中年の婦人であることも考えると不可能である。

(六) 以上のとおり、原告の開催した本件研修会は、原告の販売外交・集金員としての役割を果す婦人団体等の役員に対する研修として必要なものであり、また、実質的な研修が行われているのであるから、右研修会開催に要した費用は、被告主張の交際費等とみるべきではない。

なお、被告は後記のとおり、本件研修会に芸人等が出演したことをもつて研修会全体が、きよう応、慰安の目的でなされたと主張するが、芸人等出演の一事をもつて、研修会すべてがそのような目的で開催されたとみるべきではない。原告の商品の展示がフアツシヨン・シヨーのような形式でなされる場合もあり、また研修対象者が中年の婦人であるため、研修会の堅苦しさを取り除くためもあつて、夕食時に多少の娯楽を加味したにすぎない。

2 被告主張の「贈呈品費用」は、以下のとおり、販売促進費ないし販売手数料とみるべきであつて、交際費等には該当しない。

(一) 贈呈品費用(販売促進費)は、原告の販売方法のうち、委託販売の場合に商品を販売した婦人団体等の役員に対し、物品を交付するための費用であり、一種の販売手数料である。

(二) 右物品の交付先は、婦人団体等の役員であつて団体ではない。物品の交付は一定の割合(ハナシンソフト毛布の場合には委託販売枚数一〇枚ごとに一枚、ハナシン洋掛布団の場合には五枚ごとに一枚)によつてなされており、原告は事前にその旨を役員に通知している。原告はこれ以外に婦人団体等の役員に対し、委託販売に関する手数料等の報酬を支払つてはいない。したがつて、物品の交付は、右役員の斡旋、販売の対価であり、販売手数料ないしセールスマンに対する売上歩合金の如きものである。

なお、原告は集金に関しては別途、集金手数料を交付しているが、右手数料の交付先は集金事務を委託している婦人団体等であつてその役員個人ではない。集金手数料は、原告の三種類の販売方法のすべての場合に集金を委託した婦人団体等に交付されるものであるが、本件販売促進のための物品の交付は、委託販売の場合に限り、販売の委託をした右団体の役員に対しなされるものである。

四 原告の主張に対する被告の反論

1 本件招待旅行費用は、法六三条五項にいう交際費等に該当するものというべきである。

(一) 交際費等とは、法人が得意先、仕入先その他事業に関係ある者との間の親睦の度を密にして、取引関係の円滑な進行を図るために支出するものをいうと解すべきであり、当該支出が交際費等に該当するには、支出の相手方が事業に関係のある者であり、かつ、支出の目的が接待、きよう応、慰安、贈答その他これらに類する行為を目的とすることを必要とするが、支出の目的が接待等を意図しているかどうかは、その動機、金額、態様、効果等の具体的事情を総合的に判断しなければならない。

そして、企業会計上、事業経費に属すべきものは、税法上損金として取り扱われるべきであるが、法人の支出する交際費用等のうち一定の基準を超えるものを所得計算上、損金に算入しないとする課税所得計算上の特例は、法人の交際費支出の状況にかんがみ、他の資本蓄積策と並んでその濫費を抑制し、経済発展に資することを目的とするものであり、交際費等に該当するか否かは法六三条五項の要件に該当するか否かにより決定されることがらであつて、当該支出が事業遂行に不可欠であるか否か、定額的な支出であるか否かを問わないものと解すべきである。

(二) 本件についてみるに、原告は本件招待旅行を研修旅行である旨主張するが、右旅行は原告の事業関係者たる婦人団体等の役員の慰安を目的として行われたものであつて、原告が主張するような研修の事実はない。

(三) 本件招待旅行の費用が損金性を有する事業経費といいうるためには、その内容が研修としての実体をそなえていることが必要である。しかしながら、本件招待旅行においては、およそ一般の企業において行われる職員の研修とは異り、その内容は極めて短時間の会社の概況説明、新製品の説明等が行われる程度のものであり、研修としての実体をそなえていなかつた。なお、このことは、右の機会に原告から婦人団体に支払われる手数料や集金にトラブルが生じた場合の処理、原告が交付する物品(原告が販売促進費と主張しているもの。)等販売上重要な事柄の説明がされていない点からも首肯されるべきである。

(四) 原告は、婦人団体等の役員に対する説明、研修を簡単にしたのは、役員らに対し研修会というわずらわしく堅苦しいものに参加するとの印象を薄れさせるつもりで、あつたと主張するが、本来の研修は参加者に研修の趣旨を徹底させて行うべきものであり、慰安旅行のような印象を与えたり、研修会であることを隠したりして行うものであつてはならないし、履修させるべき内容を簡略化したりせず、これを参加者に周知徹底して習得させるべきものである。原告がこれをあいまいにしていたのは、参加者が購買者、あるいは購買者になりうる者であるから、これらの参加者の歓心を買うこと、即ち、接待、きよう応、慰安の意図を有していたからにほかならない。

(五) 研修参加者の人選は、専ら婦人団体に任されており、原告はその者が原告の営業活動を分担しているか否か、あるいは将来分担しうるか否か見定めることなく参加させている。これは、原告が本件招待旅行で新しい得意先を獲得することを主眼としていたからである。

原告は、本件招待旅行参加者は婦人団体の新規役員ばかりである旨主張するが、右のとおり、参加者の人選は専ら婦人団体に委されており、都合のつく人が参加していたものである。なかには二、三度参加する者もあり、かつ参加者は招待旅行、慰安旅行と認識していた。

(六) 原告は、原告の販売方法が特殊であるから、婦人団体等の役員に対する研修は必要不可欠であると主張するが、右役員には、取引の開始にあたつて、原告の担当セールスマンから説明がなされているところで十分であり、ことさら一定のシーズンに一堂に集めて説明を行う必要はなく、本件招待旅行が原告の販売活動に必要不可欠であるとは到底認められない。仮に、招待旅行の際、商品の説明や集金に関する説明があつたとしても、それはたまたま慰安旅行の機会を利用して附随的に説明されたにすぎず、本件招待旅行が慰安、接待を目的とした旅行であることを妨げるものではない。

通常の慰安旅行においても、招待会社の役員紹介、会社の概況の報告及び商品の説明は行われているところである。

また、仮に、本件招待旅行が原告の販売上、不可欠であるとしても、それに要した費用を交際費等と認定する妨げにはならないものというべきである。

(七) 原告は研修会を熱海や箱根等の温泉旅館で実施する必要があつたと主張するが、原告主張のような短時間のものであれば都内あるいは近県の都市でも十分行いうるものであり、集金方法等について細部にわたつて懇切な研修を実施しようとすれば、二五〇人から四五〇人も一堂に会するような研修は適当ではないはずである。

(八) 原告は、本件招待旅行の第一日目に八王子の美ささ織工場経常的に立ち寄つている旨主張するが、係争年度中は右工場へ殆んど立ち寄つてはいない。

仮に、立寄つていたとしても、それは原告の客(購買者)である役員の希望を入れた見学というべきものであり、役員の研修のためではない。

(九) なお、本件招待旅行においては別表(三)記載の各日時に、同表記載の各芸人らが出演していることからも、右旅行がきよう応、慰安を目的としていたことは明らかである。

(一〇) 以上のとおりであるから、本件招待旅行費用は交際費等に該当するための二要件(支出の相手方、支出の目的)を充足しているというべきである。

2 本件贈呈品費用も交際費等に該当するものというべきである。

(一) 原告は、販売促進費と称して婦人団体等の役員に交付した物品が、委託販売の場合のみに交付される手数料であると主張するが、原告の販売所管規程によれば、「販売斡旋及び集金に係る手数料」は金銭で支払う旨の規定があり、物品による旨の規定はない。

右規程によると、「販売集金手数料」は販売活動を行う婦人団体に支払われるべきものであり、その団体の特定の役員に支払われるものではない。原告は、本件贈呈品が販売だけの手数料として役員個人に交付されたものであると主張するが、本件の委託販売は婦人団体に委託されているものであり、役員個人に手数料が支払われる根拠はない。役員個人は、婦人団体の活動として販売にあたつていただけであり、個人としてこれをなしたものではない。委託先は婦人団体であり、これに対しては「販売集金手数料」が支払われているから、団体の役務(販売、集金両活動)の対価は決済されており、このような物品の交付は、専ら婦人団体の役員個人の歓心を買うために行われたものである。

(二) 原告は当初、原処分時から審査請求時の途中まで、本件物品は見本品ないし試供品である旨主張していた。このことから明らかなように、原告は、本件物品の交付の時点において、販売手数料であるとの認識はなかつたものというべきである。

(三) 原告は物品交付の基準があつたと主張するが、被告の調査では必ずしも交付の基準は一定しておらず、一枚も交付を受けていない者もいるし、原告の主張する基準よりも少ない販売枚数でもらつている者もいる。

仮に、交付の基準があつたとしても、これのみで販売手数料ということはできない。

第三証拠 <省略>

理由

一  請求原因1及び被告の主張1の事実はいずれも当事者間に争いがない。

被告の主張2の(昭和四四年度)においては、原告が同(一)の(1)ないし(3)の各費用を支出したこと、うち、(3)の支出が交際費等に該当すること及び(昭和四五年度)においては同(一)の(1)ないし(5)の各費用を支出したこと、うち、(3)ないし、(5)の各支出が交際費等に該当することは、原告の明らかに争わないところであるから自白したものとみなすべきである。

二  そこで、本件の争点は、被告の主張2の(昭和四四年度)及び(昭和四五年度)における各(一)の(1)会議費のうち婦人団体等の役員等を温泉地へ一泊旅行に招待した費用(以下「本件一泊旅行費用」という。)及び(2)販売促進費のうち婦人団体等の役員等に贈呈した肌掛ふとん等の費用(以下「本件贈呈品費用」という。)が交際費等に該当するか否かにある。

ところで、法六三条五項が交際費等の範囲について、「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者に対する接待、きよう応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」をいうと規定しているから、当該支出が交際費等に該当するというためには、第一に支出の相手方が事業に関係のある者であること、第二に支出の目的が接待、きよう応、慰安、贈答等の行為により、事業閉係者との間の親睦の度を密にして、取引関係の円滑な進行を図るのを目的とすることを必要とするものというべきであり、以下この点について検討する。

三  本件一泊旅行費用について

1  <証拠省略>を総合すれば以下の事実が認められる。

(一)  原告は婦人呉服・寝具・装飾品等の月賦販売を目的とする株式会社であるが、その販売方法は店頭売りの方法によらず次の三種の方法によつている。

(1) 展示販売

各種の婦人団体等の役員を通じて、その団体の構成員を原告の行う展示会に招待し、その場で即売する。

(2) 委託販売

婦人団体等の役員に原告の取扱商品を見本として預け、その団体の構成員に回覧し、そのなかから購人希望者を募つてもらう。

(3) カタログ販売

婦人団体等の役員を通じてその団体の構成員へ原告の取扱商品のカタログを配付し、役員を通じて商品を注文させる、

以上、いずれの場合も、購入希望者には商品先渡しとし、代金は一〇か月の月賦払で、集金は婦人団体ないし婦人グループの代表者(プロリーダー)に委託している。

(二)  原告は、右の特異な販売方法を円滑に行い、営業の拡大を図るため、本件一泊旅行を多数回・催したのであるが、その参加対象者を婦人団体で中心的に活動している役員であつて、新たに原告の商品を取扱う者を原則とし、男子、子供は参加させないこととしていたが、その人選は婦人団体に一任されており、現実には役員のうち都合のつく者だけが参加し、役員改選後留任する等の理由で数回参加した役員もいた。なお、参加人数は一回の旅行につき二五〇ないし四五〇名位であつた。

(三)  本件一泊旅行の日程第一日目は、右婦人団体等の役員らに八王子市所在の美ささ織の工場見学を一時間程度行わせたが、右見学を行い始めたのは昭和四六年二月頃からであり、参加者のうち右見学を行わなかつた者も一割程度おり、また、右見学は原告が婦人団体等の希望に副つて日程に入れたものであつた。

(四)  右婦人団体等の役員らは、右見学後、バスで箱根、熱海等の温泉地へ行き、原告が手配した温泉旅館に宿泊し、夕食前には原告会社の役員が参加者に対し一〇分間程度のあいさつ等を行い、その後、ただちに酒肴をともなつた夕食となり、昭和四五年二月初めから、三月の終りにかけての旅行については、夕食中、別表(三)記載の芸能人が出演して参加者に歌謡曲等のシヨウを被露した。

(五)  日程第二日目は、午前中に原告の営業担当の役員が参加者に対し、原告取扱商品の販売・集金方法、商品の説明をスライド等を利用して一時間半程度行い、正午前には参加者は帰途についている。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  以上認定の事実に基づき判断するに

(一)  前記1の(一)で認定した事実から明らかなように、原告が本件一泊旅行に招待した婦人団体等の役員は、婦人団体等が原告と取引を行う場合に、その会員に対する展示会への招待、販売の斡旋、月賦代金の集金等の原告の営業活動の一部を担当するとともに、自らも会員として原告の商品を購買する得意先でもあるから、法六三条五項の原告の「事業に関係のある者」と認められる。

なお、参加者のうち新規に原告と取引を開始しようとする者も、「事業に関係のある者」に該当することはいうまでもない。

(二)  前記1の(二)ないし(五)の各事実によれば、本件一泊旅行において、原告の業務のために行われたとみうるものは、わずかに日程第一日目の美ささ織工場見学(一時間程度)と第二日目午前中に行われた原告取扱商品の販売・集金方法、商品の説明(一時間半程度)とがあるにすぎないし、右見学についても、本件旅行参加者が全員参加したのではないこと、原告が本件旅行参加者(すべて女性)の関心を忖度して日程に入れたものであること等の前記認定事実に照らすと、実質的な原告の業務研修ということはできない。また、第二日目の原告会社役員の参加者に対する説明も、その所要時間、内容(スライド等を利用するだけの簡単なもの。)等からみて、別段二五〇ないし四五〇名を温泉地の旅館に集めて行わねばならぬほどのものではなく、また、参加者の中には数回参加し、既に原告と取引関係に入つている者もおり、このような者には右説明の必要もないこと等の事実に照らすと、右の程度では、本件一泊旅行が原告主張のような業務研修のための旅行であつたとは到底認められず、原告が前記一で認定した多額の費用(なお、<証拠省略>によれば、本件一泊旅行の一回あたりの費用は、参加者、二六〇名程度であれは、約一、六〇〇、〇〇〇円であつたことが認められる。)を本件一泊旅行に支出した主たる目的は、婦人団体等の役員を接待して、原告との親睦を深め、その歓心を買うことによつて取引関係の円滑を図ることにあり、廷いては旅行に参加した役員を通じてその婦人団体等の構成員を原告の得意先に獲得し、販路の拡大を図ることにあつたものと認めるのが相当である。<証拠省略>中、右認定に抵触する部分は採用しがたい。

したがつて、本件一泊旅行費用は、交際費等に該当するものと解すべきである。

なお、原告は本件一泊旅行を行うことが原告の営業活動にとつて必要であつた旨縷々主張するが、法六三条五項の交際費等課税の趣旨は、法人の交際費等の濫費を抑制し、経済の発展に資するため、本来、事業遂行上必要な損金性を有する支出のうち、同条項に該当するものを政策的に一定の限度で損金に算入しないこととしたのであるから、前記認定のとおり、本件一泊旅行費用が交際費等課税の要件に該当する以上、さらに右費用が原告の営業活動にとつて必要であつたか否かを検討する必要はないというべきである。

さらに付言するに、前記認定のように本件一泊旅行費用支出の目的は、主として取引先、得意先との親睦を図るという点にあり、不特定多数の者に対する宣伝的効果を意図したものではないから広告宣伝費には該当せず、また本件一泊旅行参加者は婦人団体等の役員であり、原告の従業員であるともいえないので福利厚生費にも該当しないものというべきである。

四  本件贈呈品費用について

1  <証拠省略>を総合すれば以下の事実が認められる。

(一)  原告は、前記認定の委託販売を春秋の年二回行い、その委託先は大要次の三つの団体等であつた。

(1) 組織団体得意先

婦人会、思想団体、趣味同好会等組織の目的を明らかにし、会員制度で構成されている団体で会員数二〇人以上のもの

(2) 組織化グループ得意先

組織団体得意先及び特殊団体を除くもので、原告の定める個人を主催者(プロリーダー)として原告の販売目的に活用、組織化した団体

(3) 特殊団体

美容院、編物教室、茶華の会等女性客を顧客として営業している組織団体をいい、原告が集金手数料として売上高の一〇パーセントを支払つている団体

(二)  本件係争年度中の原告の委託販売計画についてみると、原告は昭和四四年下期(同年一〇月下旬から一二月下旬にかけての期間)において、前記各販売委託先(但し、(3)の特殊団体を除く。)の販売斡旋役員に対し、その販売枚数を点数で評価し、これに応じ中性洗剤、電気毛布等を贈呈すること、その際、役員は任意に右贈呈商品のなかから点数に応じ希望のものを選定できることとなつていた。原告は昭和四五年上期(同年三月下旬から六月下旬頃にかけての期間)において、右役員に対し、販売枚数五枚につき販売商品である肌掛布団一枚を進呈すること、その進呈基準は得意先の形態により異なり、前記(一)の(1)の委託先については斡旋役員個人ではなく会組織に対して進呈するのを原則とし、その処分方法には一切関与しないこと、また、前記(一)の(2)の委託先については斡旋者個人に進呈の基準を置き、前記(一)の(3)の委託先については一切進呈しないこととしていた。

(三)  原告は、右に述べたような贈呈の基準についての指示を営業を担当する各支店に与えてはいたものの、各支店の従業員が右基準を実際に適用する場合は、二個の団体の販売枚数を合算して適用するなど右基準を弾力的に運用し、その裁量が認められていた。また、販売を斡旋した役員のなかには交付を受けなかつた者もいた。

なお、原告は、本件贈呈品を交付する基準について前記(一)の(1)及び(2)の委託先との間で書面等による明確な事前の取り決めはせず、このようにして交付された本件贈呈品は、たいていの場合、前記役員が受け取り、自ら消費することが多かつた。

(四)  本件贈呈品とは別途に、原告は前記(一)の(1)の委託先に対し、販売斡旋及び集金にかかる手数料として売上高の五パーセント相当額を現金で支払い、前記(一)の(2)及び(3)の委託先の右手数料については、そのグループの主備者(プロリーダー)との契約により売上高の五ないし一〇パーセントを現金で支払つた。

なお、原告は本件処分時から審査請求時の途中に至るまで、本件物品は見本品ないし試供品として交付したものと主張し、審理の中途に至つて販売手数料である旨その主張を変更している。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  以上認定の事実に基づき判断するに、

(一)  原告が本件贈呈品を交付した相手方は原告が販売委託した前記婦人団体ないしその役員であり、いずれも原告の「事業に関係のある者」と認められる。

(二)  次に、本件贈呈品の支出の目的を検討すると、原告は前記各委託先に対し、販売斡旋及び集金にかかる手数料として売上高の五ないし一〇パーセント相当額を現金で支払つており、右手数料の支払により原告の各委託先に対する債務は決済されたものとみるべく、本件贈呈品の交付には対価性がないこと、交付基準につき、事前に委託先である婦人団体及びその役員に周知させていたと認めるに足りる証拠はないこと、右基準の運用は原告の各支店の従業員の裁量に事実上委ねられており、弾力的であつたこと(<証拠省略>には右交付基準が実際に守られていた旨の記載が存するが、右<証拠省略>によつても、本件各事業年度の全般にわたつて、原告が右基準を厳守していたものと認めるに足りない。)、本件贈呈品の内容は中性洗剤、電気毛布、肌掛布団等であり、受け取つた役員の多くは家庭の主婦であるから、いわば家庭向の消費材であり、事業用資産(たな卸資産)ではないこと、その他、原告が本件物品交付の趣旨につき、当初は見本品ないし試供品と主張していたのに、審査請求の審理の中途から販売手数料である旨その主張を変更したこと等の事実を併せ考えれば、本件贈呈品費用の支出の主たる目的は、原告の事業関係者である婦人団体等の役員に対し、謝礼的な贈与を行うことによつてその歓心を買い、原告との親睦の度を密にして取引関係を円滑にし、延いては販路の拡大を図ることにあつたものというべきであり、原告の主張するような「販売手数料」ないし将来の販売促進に対する直接的な効果を目的としたいわゆる「販売促進費」として支出したものとはいいがたい。

したがつて、本件贈呈品費用も交際費等に該当すると認めるのが相当である。

五  以上の次第であるから本件各更正処分には原告主張の違法はないといわなければならない。

よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安部剛 山下薫 高橋利文)

別表(一)、(二)及び(三) <省略>

別紙 <省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例