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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)10452号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一請求原因1(編注、原告吉川は、昭和三一年から本件宅地のうち89.1平方メートル(二七坪)を賃借し、昭和四一年同地上に木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建居宅共同住宅を建築し、右建物に同人の妻、長女、甥と共に居住しているもの、原告飯田は、昭和三五年以来本件建物に長男、次男、内縁の夫と共に居住するかたわら、右建物の一部を一階三世帯、二階四世帯に賃貸しているものである。)は、付近の状況を除いて当事者間に争いがなく、付近の状況については、<証拠>により、付近には若干の工場等もあるもののほとんど住宅地となつており、コンクリート造の中高層アパートが点在する他はほぼ木造二階建の建物が軒を接するように密集している状況であることが認められ、右認定に反する証拠はない。<中略>

三請求原因3のうち、原告古川宅が本件建物の北側に隣接し本件建物北側部分と軒を接する状態にあること、本件建物の建つている敷地の面積、原告飯田が居宅の一部を賃貸していること、原被告ら間で数度話し合いを持つたがまとまらなかつたこと、原告らが仮処分申請をしたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、本件建物の敷地は245.91平方メートルのほぼ東西に長い矩形に近い形で、その東側は公道に、その西側は原告飯田宅その他に、その北側は原告古川宅その他に接しており、従前は日本フエルトの平家建の倉庫(但し、高さは普通の平屋建の一倍半程度)が建つていたこと、被告らは自動車運送業を営み、当初右敷地に東側の公道に面して総三階建の建物を建築し敷地西側部分を駐車場に利用する計画を立てたものの、近隣に対する自動車の騒音を考えて公道に面した東側を駐車場とし建物を西側に移すと共に、建物自体も近隣との関係を考えて一部だけを三階建に変更し、三階部分を北側の原告古川宅、西側の原告飯田宅から遠ざけて東方にずらせたこと、被告中一郎他は本件建物の建築に当り、原告らを含む近隣に手土産を持つて挨拶に行き、その際原告らは不在であつたため家人に伝言を依頼して帰つたもののその夜原告飯田から設計図を持つてこないのは非常識だと抗議されたこと、その後、原・被告ら間には、昭和五〇年九月一五日頃本件建物の上棟式後数日たつて本件建物の設計図、日影図の提示を求めたり、同月末頃北区役所の職員も交えて右設計図、日影図を提示して補償金等について話し合う等数回にわたり交渉が持たれたが成立せず、原告らが同年一〇月末頃工事禁止の仮処分を申請したこと(なお、右仮分は取下げられている。)、右交渉のうちにも本件建物の工事は、概ね工事期間午前九時頃から午後五時頃まで、日曜、休日は休止のペースで進められ、途中原告古川宅に鉄板の小片や溶接用防護面が落下したり、同人宅の窓ガラスを溶接の火花が汚損するという出来事はあつたものの昭和五〇年一二月頃無事完成したこと、完成した本件建物の形状および原告ら宅その他近隣との位置関係は概ね別紙(編注、略)のとおりであつて、本件建物は建築基準法の建蔽率等の規制を全て満しているが、本件建物による原告ら宅に対する日照阻害は、原告古川宅の南側開口部の場合、冬至において午後二時以降一部の開口部で日照がある以外有効日照時間帯における日照が阻害され、原告飯田宅の東側開口部の場合、同条件で午前九時から同一〇時にかけ一部に日照阻害が生ずる以外有効日照時間帯での日照は妨げない状態であつて(但し、付近は木造二階建の建物が軒を接するように密集しているので、他の建物による複合的な日照阻害があり現実に右の時間以外日照があるとはいえない。)、従来の日本フエルトの倉庫に比し原告古川宅の日照は若干悪化していること、なお右の日照阻害は本件建物を全部二階建にしても大差はないこと、また、通風の点も本件建物(高さ約九メートル)が従前の倉庫の場合と比較して阻害がひどくなつたとは認められないこと、被告らは原告飯田宅他の西側境界に従前の板塀に代えてブロツク塀を新たに設置し、その高さを北側境界の塀等との均衡を考え本件建物への観望を防ぐためブロツク八段積みとしたが、原告飯田宅の南隣りの宮本宅との境界部分は同宅の窓が境界にごく近接しているため圧迫感を緩和するため特に五段積みとしていること、本件建物の揚水用モーターが本件敷地の北西隅にありそれが揚水時に回転音を発するが、その騒音の程度は長時間にわたる高い音響とは認められず、また右モーターの設置位置も水道関係施設を近くに集める必要から本件敷地の北西隅におかれたことの各事実が認められる。<証拠判断略>

右認定事実により、被告らの本件建物の建築が被告らの権利の濫用に該当し原告らに対する不法行為を構成するかを考察するに、まず本件建物による日照阻害の点は、原告古川宅については確かにかなりの程度であり、原告飯田についても程度は低いが日照阻害を受けているのであるが、もともと本件敷地には倉庫が建つていて日照阻害を受けており、従前と比較して、原告飯田宅については殆んど変りのないものであり、原告古川宅についても若干悪化したという程度のものにすぎないこと、本件敷地の周囲は概ね木造二階建の建物が軒を接するように密集している地域で、準工業地域に指定されている場所であること、本件建物は建築基準法の規制に違反しておらず周囲の建物に比しても特に高い建物でもなく、その位置の選定や設計変更も近隣との関係から日照阻害等をできるだけ少なくするように配慮して進められた経緯のあること、および日照阻害の原因は本件建物と軒を接する位に境界に接近して建つている原告古川宅にもあることから考えて、日照阻害は原告らにおいて当然受忍すべき程度のものである。また、通風の点は、本件建物が従前の倉庫に比し特に通風を妨げ受忍限度を越えているとする証拠はないから理由がない。次にブロクツ塀の高さや揚水用モーターの騒音であるが塀の高さ、モーターの設置場所はいずれも本件建物の利用上必要としたものと認められるうえ、その騒音、通風阻害等の程度が受忍限度を越えているとする証拠はなく、理由がない。工事や交渉の経過についても不法行為として慰藉料を支払わねばならぬような点は認められず、この点も理由がない。そうであれば被告らの本件建物の建築は被告らの権利濫用とはいえず、原告らの主張はその余の点につき判断するまでもなく失当となる。

(山田二郎 矢崎秀一 有吉一郎)

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