東京地方裁判所 昭和50年(ワ)3288号 判決 1977年4月13日
甲事件原告兼乙事件被告(以下、原告という) 株式会社泰平物産
右代表者代表取締役 倉沢厚
右訴訟代理人弁護士 青柳健三
甲事件被告(以下、被告という) 高野機工株式会社
右代表者代表取締役 高野元嗣
甲事件被告(以下、被告という) 佐田建設株式会社
右代表者代表取締役 佐田武夫
甲事件被告兼乙事件原告(以下、被告という) 馬渡平八郎
右訴訟代理人弁護士 橋本和夫
甲事件被告(以下、被告という) 福本政雄
右訴訟代理人弁護士 円山潔
主文
一 原告の各請求をいずれも棄却する。
二 被告馬渡平八郎の請求を却下する。
三 訴訟費用中、甲事件について生じたものは原告の、乙事件について生じたものは被告馬渡平八郎の、各負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
(甲事件)
一 原告
(一) 原被告ら間において、別紙目録記載の債権(以下、本件債権という)が原告に帰属することを確認する。
(二) 被告佐田建設株式会社は原告に対し、金三三六万二五五七円およびこれに対する昭和五〇年四月二七日以降完済まで年六分の割合による金員の支払いをせよ。
(三) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(四) 第二項につき仮執行の宣言。
二 被告ら
(一) 原告の各請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする(被告福本政雄を除く被告らの申立)。
(乙事件)
一 被告馬渡平八郎
かりに甲事件について原告の請求が認容されるときは、次の判決を求める。
(一) 原告は被告馬渡平八郎に対し、金三一二万五五五七円およびこれに対する昭和五一年六月二五日以降完済まで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
(三) 仮執行の宣言。
二 原告
(一) 被告馬渡平八郎の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は同被告の負担とする。
第二甲事件における当事者の主張
一 請求の原因
(一) 本件債権の存在
被告高野機工株式会社(以下、被告高野機工という)は被告佐田建設株式会社(以下、被告佐田建設という)に対して本件債権を有していた。
(二) 本件債権に対する債権差押および転付命令
原告は、債権者を原告、債務者を被告高野機工、第三債務者を被告佐田建設とする本件債権に対する当庁昭和五〇年(ル)第八四七号債権差押および転付命令事件において右各命令を得て、右転付命令は債務者に対し昭和五〇年三月二一日、第三債務者に対し同月一九日、それぞれ送達されて本件債権を取得するに至った(以下、本件転付命令という)。
(三) 確認の利益
しかるに、被告らは原告に対する本件債権の帰属を争っている。
(四) よって、原告は被告らに対する関係で本件債権が原告に帰属することの確認を求めるとともに、被告佐田建設に対し、本件債権額三三六万二五五七円およびこれに対する甲事件訴状送達の翌日である昭和五〇年四月二七日以降完済まで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する答弁
(一) 被告高野機工
1 請求原因第一項の事実は認める。
2 同第二項の事実は否認する。
3 同第三項の事実は認める。
(二) その余の被告ら
請求原因事実はすべて認める。
三 被告高野機工を除く被告らの抗弁
被告馬渡は、昭和五〇年二月二六日被告高野機工から同被告の被告佐田建設に対する本件債権を含む金三〇〇〇万円の請負代金債権の、被告福本も右同日被告高野機工から同じく同被告の被告佐田建設に対する本件債権を含む金二二〇〇万円の請負代金債権の、各債権譲渡を受け、いずれも被告高野機工から被告佐田建設に対して右同日付内容証明郵便をもって各債権譲渡通知がなされ、右各通知は翌二七日、同時に被告佐田建設に到達したのであるが、原告においても同様に、被告高野機工から同被告の被告佐田建設に対する本件債権を含む金五〇〇万円の債権の譲渡を受けたとしてその旨の被告高野機工名義の昭和五〇年二月二六日付内容証明郵便が翌二七日、被告馬渡、同福本に対する前記債権譲渡通知と同時に被告佐田建設に送達された。
従って、本件債権は譲受人に平等に帰属し、債権額に応じて按分されるべきものであって、原告のみに単独に帰属するいわれはない。
四 抗弁に対する答弁
抗弁事実は認める。
原告、被告馬渡、同福本に対する本件債権の譲渡通知が同一日付の内容証明郵便をもって、しかも被告佐田建設に同時に到達している以上、同被告に対しては右三者ともに債権譲渡に基づく請求権を主張しえないのであって右各債権譲渡はいずれも無効であり、従って、本件債権の帰属については、本件転付命令を得た原告が、右両被告に優先するというべきである。
第三乙事件における当事者の主張
一 請求の原因
(一) 原告の本件転付命令による本件債権の取得
原告は本件債権に対する本件転付命令を取得した。
従って、かりに原告の取得した本件転付命令が被告馬渡らに対する債権譲渡に優先するとすれば、原告は、右命令によって本件債権を取得したことになる。
(二) 原告の被告高野機工に対する債権額と不当利得
しかしながら、原告が被告高野機工に対して有していた債権額は、消費貸借による金八〇万円の貸金にすぎないうえ、昭和五〇年一月二九日戸田建設株式会社から右貸金の弁済として金五六万三〇〇〇円の支払いを受けたから、その貸金残額は二三万七〇〇〇円にすぎない。
従って、原告が本件転付命令によって得た本件債権額三三六万二五五七円から右債権額を控除した残額三一二万五五五七円は被告高野機工に対する不当利得によるというべきである。
(三) 債権者代位権の行使
被告馬渡は被告高野機工に対して金三〇〇〇万円を超える債権を有しているところ、同被告は昭和五〇年二月二六日手形不渡りを出して倒産して無資力であるから、右債権に基づいて同被告に代位して原告に対し、前記不当利得返還請求権を行使する。
(四) 結論
よって、原告は被告馬渡に対し金三一二万五五五七円およびこれに対する乙事件訴状送達の翌日である昭和五一年六月二五日以降完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する答弁
(一) 請求原因第一項の事実は認める。
(二) 同第二項中、原告が昭和五一年一月二九日戸田建設株式会社から被告高野機工に対する貸金の弁済として金五六万三〇〇〇円の支払いを受けたことは認めるがその余の事実は否認する。
(三) 同第三項の事実は争う。
第四証拠関係《省略》
理由
一 原告による本件転付命令の取得および確認の利益
請求原因事実は、原告による本件転付命令の取得の点について原告と被告高野機工の間に争いがあるほかはすべて当事者間に争いがなく、右事実も《証拠省略》によってこれが認められ、その反証はない。
二 本件債権の帰属に関する優劣について
そこで、甲事件における被告高野機工を除く被告らの抗弁について判断するに、原告、被告馬渡、同福本が、ともに被告高野機工から本件債権の譲渡を受け、同被告から被告佐田建設に対する債権譲渡通知がすべて昭和五〇年二月二六日付内容証明郵便をもって発せられ、それが翌二七日、同時に右被告に到達したことは当事者間に争いがない。
これに対して、原告は、右三件の債権譲渡が債務者である被告佐田建設に同時に到達したものであるから右債権譲受人はいずれも同被告に対して債権者であることを主張しえず、従って右債権譲渡はすべて無効であって、その後の昭和五〇年三月一九日被告佐田建設に送達された本件転付命令によって原告が本件債権を取得するに至ったと主張する。
しかしながら、債権譲渡における譲渡人から債務者に対する確定日付ある証書による債権譲渡の通知は、債務者以外の第三者に対する関係での対抗要件にすぎず、債権譲渡の効力要件ではないから、たまたま本件の場合のように同一確定日付による三件の譲渡通知が、しかも同時に債務者に送達されたような場合においても、右各譲受人に対する債権譲渡が無効になるものではなく、後順位の債権譲受人および債務者に対する関係では等しく債権者たる地位を取得しているものの、互に他の同順位の譲受人に対する関係で自分のみが唯一の債権者であると主張できない関係にあり、その結果債務者に対しても同様の主張ができなくなるにすぎないと解すべきであって、右各債権譲渡をすべて無効とする原告の主張は理由がないのみならず、原告の取得した本件転付命令の被告佐田建設に対する送達も、被告馬渡、同福本に対する関係では同被告らに対する前記債権譲渡通知の送達におくれている以上、右転付命令は既に譲渡されて対抗力の備えられた債権に対する転付命令としてその効力を否定される関係にあるというべきである。
従って、本件債権の帰属につき本件転付命令の効力が被告馬渡、同福本に対する前記債権譲渡に優先することを前提とする原告の甲事件各請求は、既に本件転付命令の効力が否定される以上、その余の点について判断を加えるまでもなく、理由がないものといわなければならない。
三 結論
よって、甲事件における原告の各請求はいずれも理由がないから失当として棄却することとし、また甲事件における原告の被告馬渡に対する請求認容を前提とする乙事件における同被告の請求も、その訴訟要件を欠くことになるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 鷺岡康雄)
<以下省略>