東京地方裁判所 昭和50年(ワ)3731号 判決
一 被告が本件発明及び本件考案についていわゆる仮保護の権利(特許法第五二条、実用新案法第一二条)を有すること、本件発明の特許請求の範囲及び本件考案の実用新案登録請求の範囲の各記載が原告主張のとおりであること、原告が原告装置を製造販売していること、被告が原告に対し、昭和五〇年四月一八日付の内容証明郵便で、原告の製造販売する原告装置が、本件発明及び本件考案のいずれの技術的範囲にも属するから直ちにその製造販売を中止せよとの催告をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこでまず、原告装置が本件発明の技術的範囲に属するかどうかについて検討する。
1 前記当事者間に争いのない本件発明の特許請求の範囲の記載によれば、本件発明は、次の構成要件からなる植物育成用炭酸ガス発生装置であると認められる。
A 炭酸ガス発生機の外筒内に、周囲に空隙をおいて燃焼筒を装置すること。
B 燃焼筒の後部外周縁に空気旋回羽根を設けること。
C 燃焼筒の中心に燃焼器を装置すること。
D 燃焼器本体の、
(a) 外側に空気供給口を設けてダンパーによつて開閉するようにすること、
(b) 中央には燃料噴出ノズル及び点火電極を配設すること、
(c) その前方に燃料旋回羽根を設けること、
(d) 着火確認用の光電管を装置すること。
E 燃料噴出ノズルに対しては電磁弁を介して燃料ポンプを連結すること。
F 燃焼器の後方に送風機を設置すること。
G これらをそれぞれマグネツトスイツチ及びリレーを介して端子板に連結すると共にタイマーに連通させること。
2 そこで、本件発明と原告装置とを対比検討すると、本件発明の前記構成要件Bは「燃焼筒の後部外周縁に空気旋回羽根を設けること」であるところ、原告装置の後部外周縁には空気旋回羽根がないから、原告装置は本件発明の右要件を充足しない。
被告は、本件発明において空気旋回羽根の存在は、本件発明の目的ないし作用効果に何らの影響をも及ぼすものではなく、この空気旋回羽根は特許請求の範囲に記載はされているが、その存在は本件発明としてみれば付加的性質のものとみることができ、従つてこの羽根の有無は本件発明と原告装置との比較においてみる限り、構造上の微差の域をこえないもので、結局、原告装置は本件発明の技術的範囲に属する、との主張をする。
しかしながら、特許請求の範囲に記載された事項は発明の構成に欠くことができない事項であるから(特許法第三六条第五項)、本件発明の特許請求の範囲に記載のある空気旋回羽根をもつて本件発明にとつてはあつてもなくてもよいものであるとか、付加的性質のものであるということはできず、その存在は本件発明においては必須のものであるといわなければならない。被告の主張するように仮に原告装置における燃焼筒の底部<11>の広い壁が、本件発明における空気旋回羽根の存在と同一の作用効果を奏する(その立証はないが)としても、そのことのゆえに燃焼筒後部外周縁に空気旋回羽根のない原告装置をもつて本件発明の技術的範囲に属するものとすることはできない。被告の主張は理由がない。
3 以上のとおりであるから、その余の点についての対比をするまでもなく、原告装置は本件発明の技術的範囲に属しないことが明らかである。
三 次に、原告装置が本件考案の技術的範囲に属するかどうかについて検討する。
1 前記当事者間に争いのない本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、本件考案は、次の構成要件からなる植物育成用炭酸ガス供給装置であると認められる。
A 外筒の先端に放熱筒を設け、その内部に適当な間隔をおいて燃焼内筒を装置すること。
B 燃焼内筒の、
(a) 後端中心に燃焼機を装置すること、
(b) 後端外周には後方に装置した送風機から送られる空気を旋回させる旋回羽根を設けること、
(c) 先端に集焔筒を設置すること。
C 集焔筒の出口に対応して円錐状受焔笠を前後に調節し得るように脚片によつて支承すること。
2 本件考案と原告装置とを対比検討する。
(1) 本件考案の前記構成要件B、(b)は、「燃焼内筒の後端外周には後方に装置した送風機から送られる空気を旋回させる旋回羽根を設けること」であるところ、原告装置の燃焼筒<3>の後端外周にはそのような旋回羽根はないから、原告装置は本件考案の右構成要件を充足しない。
被告の、原告装置は本件考案の構成要件B、(b)を充足するとする理由のとり得ないものであることは二2で説明したところと同様である。
(2) 本件考案の前記構成要件Cは、「集焔筒の出口に対応して円錐状受焔笠を前後に調節し得るように脚片によつて支承すること。」であるところ、原告装置においては受焔笠<7>は支持杆<6>を介して輻射筒<2>の先端に固定されていて、前後に調節し得るようになつていないから、原告装置は本件考案の右構成要件を充足しない。
被告は、本件考案においては受焔笠が脚片によつて前後に調節し得るように支承してあればよく、その調節の態様においてはなんらの限定もないところ、原告装置においても燃料の燃焼中は受焔笠を支承する脚片(支持杆)も高温に加熱されその結果受焔笠を前後に調節し得るようになるから、結局原告装置も本件考案の前記構成要件Cを充足するという趣旨の主張をする。
しかしながら、本件実用新案登録請求の範囲中における「円錐状受焔笠5を、前後に調節し得るように脚片6……によつて支承」するという文字を通常どおりに読めば、本件考案においては受焔笠は高温加熱中でなくても容易に前後に調節され得るように脚片によつて支承されていることが構成要件の一つであると理解されるところであり、本件明細書中には、高温加熱することによつて始めて受焔笠が前後に調節されるようになる場合であつても、そのような装置はなお本件考案の技術的範囲に属するものであることを示唆するような記載はなく、また、本件明細書添付の図面には受焔笠がく字状に屈曲した脚片によつて集焔筒に支持されていることが図示してあり、このことからすれば、本件考案においては、受焔笠は容易に屈伸し得る脚片によつて集焔筒に支持されるものであることが理解されるのである。
右のとおりであるから、原告装置が本件考案の構成要件Cを充足するという被告の主張は理由がない。
四 そうすると、被告が特許出願公告昭五〇―五七六号及び実用新案出願公告昭五〇―三四六三号の各出願公告に基づく権利によつて、原告が原告装置を製造、販売することを差止める権利を有しないことの確認を求める原告の各請求は理由がある。
五 よつて、原告の被告に対する本訴各請求を正当として認容する。
〔編註〕 本件における主文は左のとおりである。
1 被告は、特許出願公告昭五〇―五七六号及び実用新案出願公告昭五〇―三四六三号の各出願公告に基づく権利によつて、原告が別紙目録記載の装置を製造、販売することを差止める権利を有しないことを確認する。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。