東京地方裁判所 昭和50年(ワ)5464号 判決 1979年3月29日
原告
松田破魔男
ほか三名
被告
国
主文
一 被告は原告らに対し、各金五三四万七七五〇円及びこれに対する昭和五〇年七月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は、第一項にかぎり仮に執行することができる。ただし、被告において各原告らに対して各金一五〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告らに対し、各金五五九万七七五〇円及びこれに対する昭和五〇年七月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 担保を条件に仮執行免脱の宣言
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 事故の発生
昭和四〇年九月六日午前九時一〇分ころ、北海道千歳市上長都先国道三六号線上において、東千歳駐屯地から真駒内駐屯地へ向け進行中の陸上自衛隊第七通信大隊装備の訴外松井辰夫三等陸曹(以下松井三曹という。)運転の四分の三トントラツク(〇六―五一一二、以下本件事故車という。)が時速約六〇キロメートルもしくはそれを超える速度で道路中央線上で先行車を追越した後、左側に進路を変更しようと左にハンドルを切つたところ、降雨でアスフアルト舗装の路面が湿潤していたために滑走して、ハンドル操作が不能となり、斜行状態となつてブレーキも効かないまま、左側路肩を越えて道路下に転落し、車の前部を軸に転覆した。そのため、本件事故車の荷台に乗車していた訴外亡松田眞壽夫三等陸曹(以下亡眞壽夫という。)は、車外に投げ出され、頭部打僕、脳挫傷の傷害を負い、同年一一月一二日午後八時五五分脳幹部損傷により死亡した。
2 責任
(一) 本件事故当時亡眞壽夫はその所属する第七通信大隊本部中隊長訴外関口哲夫二等陸尉(以下関口二尉という。)の命により、訴外前薗修一等陸曹(以下前薗一曹という。)、同遠藤兼由一等陸士(以下遠藤一士という。)らとともに本件事故車に乗車し、第一一通信大隊へ通信機材を借用に行く途中に本件事故に遭遇したものである。
(二) ところで、被告は公務遂行にあたる国家公務員に対し、その遂行する公務の管理にあたつて、国家公務員の生命及び健康を危険から保護するよう配慮すべきいわゆる安全配慮義務を負つていると解すべきであるが、本件事故は次のとおり被告ならびにその履行補助者において右義務を怠つたために発生したものであるから、被告は本件事故によつて生じた後記損害を賠償すべき義務がある。
(三) 本件事故車は本来武器運搬車として製造されたもので、人員輸送を目的とした車両ではなく、後部荷台の乗車設備としては、その左右両端に折たたみ式の長椅子式腰掛があるだけで、座席ベルト等急ブレーキ操作等の場合に身体の安定を保つような設備は全くないばかりか、荷台の最後部には布製バンドが一条張つてあつたのみで、扉その他転落を防止する装置が全く備えられていない危険な車両であり、そのため亡眞壽夫は転覆の際車外に放り出され、前記のような傷害を受けて死亡したものである。右のように被告が危険な車両を業務に使用したために本件事故が発生したのであるから、前記安全配慮義務を怠つたものというべきである。
なお、本件事故車は防衛庁長官が訓令により定めた保安基準には一応適合し、現行の運輸省令でも本件事故車両に設置されていたような座席については座席ベルトの設置が義務づけられてはいないが、だからといつて被告において安全配慮義務を尽していたことにはならない。
(四) 本件事故当日は、かなり強い雨が断続的に降り続いており、事故現場付近の道路は油分の多いアスフアルト舗装のため、非常にスリツプしやすい状態にあつたにもかかわらず、松井三曹が時速六〇キロメートルもしくはそれ以上の危険な速度で先行車を追越し、減速もせずに急にハンドルを左に転把したために本件事故が発生したものである。
(1) ところで、関口二尉は亡眞壽夫らの所属する中隊の中隊長として、被告の負つている安全配慮義務の履行補助者であつたにもかかわらず、同二尉は本件事故当日の朝、松井三曹に運行指令書を渡す際同人に対し抽象的一般的な注意を与えたのみで、多発している雨天の国道三六号線における事故の発生を防止するための指導教育を十分行なわず、特に事故当日のような激しい雨の日には無謀な追越をしないよう徹底すべきであつたのにこれを怠つたうえ、本件事故車のタイヤの摩耗程度の検査及びタイヤの空気圧を増加するよう指示しなかつた。
(2) また前薗一曹は、亡眞壽夫らの所属する小隊の先任陸曹で、小隊長不在の場合には小隊の指揮官たる立場にあり、本件事故当時小隊長が不在で、関口二尉から本件業務について指揮を命ぜられ、指揮官として本件事故車の助手席に乗車していたのであるから、被告の負つている前記安全配慮義務の履行補助者として、運転者が交通法規を無視したり、危険な運転をした場合にはこれを制止すべきであつたにもかかわらず、前記のように松井三曹が雨天のためスリツプしやすいアスフアルト舗装の道路を時速六〇キロメートルもしくはそれ以上の高速度で追越しを行うのを漫然と黙認し、これを注意制止しなかつたために本件事故が発生した。
以上のとおり、本件事故は被告の負つている前記安全配慮義務の履行補助者である関口二尉及び前薗一曹において同義務を怠つたために発生したものである。
3 損害
(一) 亡眞壽夫の逸失利益
亡眞壽夫は昭和一〇年一一月一七日生れ(事故当時二九歳)の男子で、郷里の中学校を卒業後昭和二九年八月一一日に陸上自衛隊に入隊し、死亡当時は三等陸曹であつたが、本件事故により死亡しなければ五〇歳の定年までは自衛隊に勤務し、定年後は六七歳まで稼働し、その間別紙記載のとおりの収入を得られた筈であるから、生活費として右収入の五割を、またライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息をそれぞれ控除して、亡眞壽夫の逸失利益の本件事故当時の現価を求めると、別紙記載のとおり金一八〇四万九一五三円となる。
(二) 慰藉料
亡眞壽夫は本件事故により死亡し、多大な精神的苦痛を被つたが、これが慰藉料は金四〇〇万円が相当である。
(三) 相続及び損害の填補
亡眞壽夫は死亡当時独身であつたため、実父の訴外亡松田茂穂(以下亡茂穂という。)が亡眞壽夫の右損害賠償債権を相続し、その後被告から同人の退職手当金として金三六万一五〇円及び遺族補償金として金一二九万八〇〇〇円、合計金一六五万八一五〇円の支払を受けた。ところが、昭和四二年一月九日亡茂穂が死亡し、昭和五三年六月六日同人の相続人である原告ら及び訴外浦田伊都子との間で、右訴外人は亡茂穂の有する右損害賠償債権について相続権を放棄し、原告らにおいてこれを各四分の一宛(各金五〇九万七七五〇円)相続する旨の遺産分割協議が成立した。
(四) 弁護士費用
原告らは本件訴訟の提起、追行を原告訴訟代理人に依頼し、手数料、謝金の支払を約したが、右は本件事故による損害というべきで、その額は原告らにつき各金五〇万円が相当である。
4 結論
よつて、原告らは被告に対し、被告の安全配慮義務の不履行による損害の賠償として各金五五九万七七五〇円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和五〇年七月六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1の事実は認める。但し、本件事故車の事故当時の速度は時速五〇キロメートルであつた。
2 同2、(一)の事実及び(二)の被告が原告主張の義務を負つていることは認める。
3 同2、(三)のうち、本件事故車に原告ら主張のような座席ベルトが設置されていなかつたことは認めるが、その余は否認もしくは争う。被告が公務遂行にあたり、使用する自動車につき公務員の生命等を危険から保護するよう配慮すべき義務は、社会通念上通常自動車を使用、走行することによつて発生する危険から安全を確保するために必要と認められる措置をとれば足り、想定しうるあらゆる危険性から安全性を確保するまでの必要はない。
本件事故車は名称はトラツクでも人員輸送を主用途とした車両で、その保安基準については自衛隊の任務等の特殊性から自衛隊法一一四条一項、同施行令一三三条で、一般の自動車に適用される道路運送車両法、道路運送車両の保安基準(昭和二六年運輸省令第六七号)の適用が除外され、防衛庁長官の定めた「自衛隊の使用する自動車に関する訓令」(昭和三五年二月二二日防衛庁訓令第四号)が適用されるのであるが、右訓令によると、前記運輸省令と同一の内容の保安基準が定められており、本件事故車は右保安基準に適合しているものである。原告らは本件事故車に座席ベルトが設置されていなかつたから義務の不履行があると主張するが、運輸省令で座席ベルトの設置が規定されたのは本件事故後の昭和四三年であり、しかも本件事故車のような座席については現行法令上もその設置は義務づけられていないから、これをもつて安全配慮義務の不履行とはいえない。
4 同2、(四)の冒頭の事実中、本件事故現場付近の道路が、油分の多いアスフアルト舗装であり、路面が湿潤していたことと相まつて、スリツプしやすい状態であつたこと、本件事故が先行車を追越す際に発生したことは認め、その余は否認する。
5 同2、(四)、(1)は否認もしくは争う。被告の負つている安全配慮義務の履行補助者となりうるのは、被告の右義務を具体化するための任務に従事している者でなければならず、関口二尉はそのような立場にはおらず、被告の右義務の履行補助者とはいえない。仮に、同二尉が右履行補助者だとしても、第七通信大隊本部中隊においては、自衛隊車両の操縦手に指定された者に対して、年一回技能試験を実施し、運転に関する知識技能の向上を図るとともに、一週間程度の計画的な操縦訓練を実施していた外、朝礼時には、(1)基礎動作の励行及び喚呼操縦(2)法定速度及び適切な車両間隔の厳守(3)安全確認の励行(4)北海道におけるアスフアルト道路に油分が多くスリツプしやすいこと(5)操縦前後の車両点検の励行を指導、教育していたうえ、関口二尉は当日同三曹に運転を命ずるにあたり、特に雨で路面がスリツプしやすくなつているから気をつけるよう注意を与えている。また、自衛隊においては保有車両を良好な状態に維持するとともに故障の発生を未然に防止するため二週間ごと、二五〇キロメートル、六〇〇〇キロメートル各走行ごとにそれぞれの段階に応じた整備を実施するとともに、車両の使用前後にも点検修理をすることになつており、本件事故車の場合もこれらの点検整備を確実に実施し、松井三曹が事故当日出発前に実施した点検の際にも何ら異常はなかつた。したがつて、関口二尉が被告の負つている安全配慮義務の履行補助者であるとしても、同二尉に債務不履行はない。
6 同2、(四)、(2)の事実中、前薗一曹が本件事故当日の通信機材搬送作業の指揮官で、事故当時事故車の助手席に乗車していたことは認めるが、その余は否認もしくは争う。前薗一曹は、通信機材搬送作業の指揮官として本件事故車に乗車していたにすぎず、同一曹が被告の負つている安全配慮義務の履行補助者とはいえない。仮に、前薗一曹が被告の安全配慮義務の履行補助者であるとしても、自動車の運行によつて生ずる危険の発生を未然に防止すべき注意義務は運転者自身が負つており、松井三曹が運転経験豊富な有資格者で最高度の運転技量を有していて、事故当時の運転ならびに事故直前の追越しについても事故発生の具体的危険が予見されるような状況になかつた以上、前薗一曹が同三曹に何ら注意を与えなかつたからといつて被告の安全配慮義務の履行補助者として同義務を怠つたとはいえない。
7 同3、(一)の事実は全部認める。
8 同3、(二)の主張は争う。
9 同3、(三)の事実は認める。
10 同3、(四)の主張は争う。
第三証拠〔略〕
理由
一 原告ら主張の日時、場所において、東千歳駐屯地から真駒内駐屯地へ向け進行中の陸上自衛隊第七通信大隊装備の松井三曹運転の本件事故車が、道路中央線上で先行車を追越した後、左側に進路を変更しようとハンドルを左に転把したところ、降雨でアスフアルト舗装が湿潤していたためスリツプしてハンドル操作が不能となり、斜行状態のままブレーキも効かずに左側路肩を越えて道路下に転落したうえ前部を軸として転覆し、同車の荷台に乗車していた亡眞壽夫が車外に投げ出され、頭部打僕、脳挫傷の傷害を負い、同年一一月一二日午後八時五五分脳幹部損傷により死亡したことは当事者間に争いがない。
二 そこで被告の責任について判断する。
1 本件事故当時、亡眞壽夫は、その所属する第七通信大隊本部中隊長の関口二尉の命により、前薗一曹、遠藤一士らとともに本件事故車に乗車し、第一一通信大隊へ通信機材を借用に行く途中で本件事故に遭遇したこと及び被告が公務の遂行にあたる国家公務員に対し、その遂行する公務の管理にあたつて国家公務員の生命及び健康を危険から保護するよう配慮すべき義務を負つていることは、いずれも被告の認めるところである。
2 ところで、原告らは、亡眞壽夫が死亡したのは被告において本件事故車の荷台に乗車した者が車外へ転落するのを防止すべき設備を設けなかつたためであり、かかる車両を使用させた点において被告に前記義務の債務不履行がある旨主張するので、以下この点について判断する。
成立に争いのない甲第一六号証、昭和五三年一〇月二四日本件事故車と同型車を撮影した写真であることについて当事者間に争いのない甲第一五号証の一ないし六、証人関口哲夫、同前薗修の各証言を総合すると、本件事故車は本来武器輸送を目的に製造された車で、全長五・一二メートル、全幅一・八メートル、そのうち荷台は全長(内法)二・三一メートル、全幅(内法)一・七四五メートルで、荷台には天蓋がなく、また人が乗ることも予定して両側に折畳み式の長椅子が設置されていたが、右長椅子には乗員の身体の安定を保つための座席ベルト等は設置されておらず、後端部は床面からの高さ約〇・五メートルのあおりがあるのと〇・九メートルの高さの箇所に布製のバンドが横に一条張られているだけであつたこと、本件事故当時、本件事故車の荷台には床面からの高さ約一・五八メートルの四本の鉄製の幌骨を両側に渡し、幌を被せていたが、荷台の後端部には幌は被さつておらず、前記ロープが張つてあつただけであつたため右ロープの上方幅一・七四五メートル、高さ約〇・七メートルの部分が空いていたこと、亡眞壽夫は遠藤一士とともに荷台に乗車し、右長椅子に座つていたが、本件事故車が道路外に転落、転覆した衝撃で車外約五メートルの地点まで投げ出されて死亡したが、遠藤一士は転覆後も幌内に留まり、大した怪我もしなかつたことが認められ(荷台の長椅子に座席ベルト等が設置されておらず、亡眞壽夫が荷台から車外に投げ出されて死亡したことは当事者間に争いがない。)、右認定に反する証拠はない。
そして、以上の事実を総合するならば、亡眞壽夫は、本件事故車が転落転覆した際、その衝撃で、車両の後部から車外に投げ出され、そのため受傷して死亡するに至つたもので、もし本件事故車の荷台の後端部に高い扉を設けてあるか、もしくは幌をおろして縛着するかなどしておけば、亡眞壽夫は車外に投げ出されることも、したがつて死亡に至ることもなかつたものと推認される。もつとも前記認定のように亡眞壽夫と同じく荷台に乗車していた遠藤一士が転落転覆後も車外に投げ出されずに車内に留つていた事実が存在するが、同人はたまたま車外に投げ出されなかつたとみるべきで、右事実が存在するからといつて、右推認を妨げるものではないし、また前掲各証言によると、本件事故車を運転していた松井三曹が運転席に留つたまま本件事故により即死したことが認められるが、前記のように本件事故車は転落後前部を軸として転覆したもので、証人関口哲夫の証言によると、運転席の屋根が事故の衝撃により潰れていたことが認められるうえ、遠藤一士がそれ程受傷しなかつたことなどを併せ考えると、松井三曹が運転席に留つたまま即死した事実も前記推認を妨げるものではなく、他に前記推認を左右する証拠はない。
そうだとするならば、本件事故車には設備上の不備があり、それがために亡眞壽夫の死亡という結果を招来したもので、右の点において被告に安全配慮義務の不履行があつたものといわざるを得ない。
被告は、本件事故車は法令の定める保安基準に適合していたから、安全配慮義務を怠つたとはいえない旨主張するが、保安基準に適合していたからといつて、直ちに安全配慮義務の不履行がないとはいえず、その使用目的及び使用態様との関連においては債務不履行となる場合もあるのであつて、本件事故時の運行が戦闘行動ないしは演習中のものであるなら格別、前掲各証言によると、本件事故時の運行は防衛庁長官の来訪に備えて拡声装置を他部隊に借用に行くためのものであつたことが認められるから、本件事故車が安全設備上不備があるとされてもやむを得ないところであり、したがつてかかる車両を使用した点において被告ないしは被告の安全配慮義務の履行補助者である関口二尉(前掲各証言によると、同人は前記中隊の長として中隊員を指揮監督し、車両使用の場合操縦手及び車両の選定について最終決定権限を有していたことが認められるから、同人は被告の安全配慮義務の履行補助者にあたるものというべきである。)に債務不履行があり、いずれにしても被告がその責任を負うべきものというべきである。
三 そこで、損害について判断する。
1 亡眞壽夫の逸失利益
亡眞壽夫が昭和一〇年一一月一七日生れ(事故当時二九歳)の男子で、郷里の中学校を卒業後昭和二九年八月一一日に陸上自衛隊に入隊し、事故当時は三等陸曹八号俸の給与を受けており、本件事故に遭遇しなければ、五〇歳、一等陸曹で定年を迎えるはずで、その間に別表記載のとおりの給与、賞与、退職金が得られた筈であり、生活費として右収入の五割を、また年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式によりそれぞれ控除すると、亡眞壽夫の死亡後右定年までの間の逸失利益の死亡当時の現価が金一三六〇万一二五五円であり、定年後は六七歳に至るまで稼働し毎年別表記載の収入を得た筈であり、前記方法により生活費及び中間利息を控除して亡眞壽夫の自衛隊定年後六七歳に至るまでの逸失利益の死亡時の現価が金四四四万七八九八円であり、亡眞壽夫の逸失利益の死亡時の現価が合計金一八〇四万九一五三円であることは当事者間に争いがない。
2 慰藉料
亡眞壽夫は本件事故により死に至る傷害を負い、多大な精神的苦痛を被つたことは容易に推認されるところであり、これが慰藉料は金四〇〇万円が相当である。
3 相続及び損害の填補
亡眞壽夫は死亡当時独身であつたため、実父の亡茂穂が亡眞壽夫の右損害賠償債権を相続により取得し、被告から退職手当金、遺族補償金として合計金一六五万八一五〇円の支払を受けたが、昭和四二年一月九日に亡茂穂が死亡し、同人の相続人である原告ら及び訴外浦田伊都子との間で右訴外人は亡茂穂の右債権の相続権を放棄し、原告らにおいて右債権を各四分の一ずつ取得したことは当事者間に争いがなく、原告らの未だ填補されない損害の残は各金五〇九万七七五〇円となる。
4 弁護士費用
弁論の全趣旨によれば、原告らが本件訴訟の提起、追行を原告ら訴訟代理人に依頼し、相当額の報酬の支払を約していることが認められ、本件事案の性質、審理の経緯、認容額に鑑みると、被告に対して支払を求めうる弁護士費用は、原告らにつき各金二五万円が相当である。
四 以上のとおりであるから、原告らの被告に対して被告の安全配慮義務不履行を理由に、損害の賠償を求める本訴請求は原告らそれぞれにつき各金五三四万七七五〇円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であること本件記録上明らかな昭和五〇年七月六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、仮執行免脱の宣言につき同法一九六条三項を各適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 小川昭二郎 片桐春一 金子順一)
別紙 <省略>