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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)5630号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一事故の発生

1 治行が、珪砂を積載した貨物自動車を運転して、昭和四九年八月二一日午前二時三〇分ころ、東京都墨田区東墨田一丁目一番一六号所在の被告会社構内に到着し、直ちに、同所の移動式ベルトコンベアを利用して、運送してきた珪砂を珪砂集積場に荷下ろしする作業に取り掛かり、同日午前三時ころ右作業を完了した事実及びその直後に治行が右構内において死亡するに至つた事実は、当事者間に争いがない。

2 <証拠>を総合すると、本件事故の状況は次のとおりであつたものと認められる。

(一) 治行は、右被告会社構内に到着すると、直ちに、助手の訴外加藤義行(以下「加藤」という。)と共に、珪砂荷下ろし用の七号コンベア(本件コンベア)をその置場から所定の位置に移動させたうえ、その一方の端が被告会社工場内の配電盤に接続した状態で右工場のブロック塀のフックに丸めて掛けられていた本件コードを取り出して本件コンベアのソケットにつなぎ、配電盤のスイッチを入れて本件コンベアを始動させ、珪砂の荷下ろし作業を行つた。

(二) 前同日午前三時ころ、右荷下ろし作業を終えて後片づけに入り、ベルトコンベアの周辺にこぼれた珪砂をスコップですくい取る作業をしていたところ、治行が加藤に対し、「スイッチを切るぞ。」と声をかけ、加藤は「切つてもいいよ。」と答えた。その直後、治行が何か大声をあげたので、加藤が振り返つたところ、治行は、その場にあつた水たまりの中に転倒し、右手で本件コードのコンセント部分を持ち、左手で本件コードをつかんで、もがき苦しんでいた。そして、加藤に対して「コードを引つぱつてくれ。」と頼んだので、同人が本件コードを引つぱつて治行の手からはずしてやつたところ、治行は、一旦立ち上がつたものの、そのままその場に転倒し、間もなく救急車が到着した時には既に死亡していた。治行は、この時パンツ一枚と軍手のほかは何も身につけておらず、サンダルを履いていた。

(三) 当日行われた警察の実況見分の結果によれば、本件コード先端(コンセント)部分から約1.25メートルの付近にゴム被覆の損傷部分(以下「本件損傷部分」ということがある。)があり、その補修のために巻かれていたグリーン色のビニールテープがはがれており、右損傷部分内部の芯線が約3.3センチメートルにわたり露出していた。右損傷は、スコップによるものと推定できるものであつたが、古いものであり、本件事故当日にできた損傷ではなかつた。

(四) 治行の死体検案の結果によれば、左拇指背側に米粒大暗赤色の皮膚損傷が、また、右足背中央部にあずき大赤褐色の皮膚損傷があり、いずれも電流斑と判定された。

(五) 本件コードを配電盤に接続してスイッチを入れると、本件コードには、電圧二〇〇ボルトの電流が通じるようになつていた。

3 以上の事実によれば、治行は、配電盤のスイッチを切らないまま本件コードを本件コンベアからはずして巻き取ろうとしたところ、たまたま左手が本件コードの前記損傷部分から露出していた芯線に接触し、しかもその時同人が素足にサンダル履きのまま水溜りの中に立つていたため、本件コードに通じていた二〇〇ボルトの電流に感電し、死亡するに至つたものと認められる。

二被告会社の責任

1 <証拠>を総合すれば、本件コンベアは、昭和四五年ころ、被告会社への珪砂納入業者である市川鉱業の下請業者浅井運送がキャップタイヤコード付きで被告会社構内に持ち込み、被告会社の了解のもとに被告会社工場の配電盤に接続して、珪砂の荷下ろし用に使用していたものであるが、昭和四七年八月ころ浅井運送が右下請業務をやめた際、被告会社と市川鉱業が代金を折半して浅井運送から本件コンベアを買い取り、市川鉱業は、浅井運送の跡を継いで下請業者となつた金村に自己の出捐した右代金半額分を負担させたこと、本件コードは、本件事故の約二年前に、被告会社製造部技術課勤務の訴外星今朝治(以下「星」という。)が、同社の工場長訴外大久保鞍之助の指示に基づいて、同社の電気室に補修用として置いてあつたものを取り付けたものであること、本件コンベアをその置場から所定の位置に移動させてセットし、キャップタイヤコードを接続して本件コンベアを作動させる作業は、珪砂を運搬してきたトラックの運転手等が行つていたが、被告会社の従業員が手伝うこともあり、初めての運転手等には被告会社の従業員が作動方法等を指導していたこと、本件コンベア又は本件コードに故障や損傷が生じたことを発見した下請業者等は、市川鉱業を通じあるいは直接被告会社従業員に対して補修方を申し入れ、電気設備の保守管理等を担当する被告会社製造部技術課電気主任の前記星とその部下の訴外森田仲市(以下「森田」という。)がその補修に当つていたこと、星及び森田の職務内容は、被告会社内の電気設備全般の運転作業、日常巡視・点検・保守等であり、同人らは、本件コンベア及び本件コードについても当然巡視・点検・保守の対象となるものと考えていたが、実際には、他の電気設備の保守管理に追われて、本件コンベア及び本件コードの巡視・点検にまでは手がまわらず、前記のようにして補修要求があつた場合にのみ、その補修に当つていたこと、森田が本件コードを最後に修理したのは、昭和四九年三月ころで、被告会社の調合係からの連絡によつてこれを点検したところ、ゴム被覆が刃物で切つたように損傷しており、内部の四本の電線のうち一本が断線していたので、これをつないだうえ、赤色のビニールテープを巻いて修理したが、その後は何らの点検も修理もしていないこと、本件コードは、珪砂の荷下ろし作業の際、こぼれた珪砂をすくい上げるスコップの先が本件コードの地上にはつている部分にあたるために、損傷を受ける危険があり、現に、右森田の修理個所及び前記本件損傷部分もスコップによつて損傷されたものと考えられること、星は、本件コードのいたみ方がはげしいことに気づいていたこと、本件事故前日の八月二〇日未明、珪砂を被告会社に搬入した金村が、本件コードの本件損傷部分のゴム被覆が長さ数センチメートルにわたつて切れており、中の被覆線が刃物のような物で一、二ミリメートルえぐられたようになつていて、その部分の芯線が露出しているのを発見し、夜勤していた被告会社の調合係訴外長谷川伊勢吉に対して危いから補修しておくよう申し入れたが、同人は、これを了承しておきながら、失念して帰宅してしまつたこと、被告会社にガレットを納入している有限会社坂本商店の社員である訴外坂本徳男が、同日の午後、右損傷に気づき、被告会社製造部熔解課の大橋久次組長にその旨申し出たところ、同人から「適当に直しておいてほしい」旨言われたので、本件コードのソケット寄りの部分に以前から巻いてあつたグリーン色のビニールテープをはがし、右損傷部分に右テープを巻きつけて修理したこと、本件事故後の警察の実況見分によれば、右テープははがれて垂れ下がつており、スコップ等による新たな損傷は見当らず、他方本件コンベア周辺に落ちていた珪砂が若干湿つていたことなどから、右ビニールテープは粘着力の喪失と珪砂の湿り気等によつて自然にはがれて垂れ下がつたものと推定されたこと、以上の事実が認められる。

2 以上の事実によれば、本件コードはもともと被告会社の所有であり、本件コンベアは、浅井運送から譲渡を受けたことにより、被告会社と金村又は市川鉱業との共有に帰したものというべきであり、被告会社は、その工場内の動力用電源をも利用させて、本件コード及び本件コンベアを珪砂納入業者及びその下請業者等の使用に供していたのであるから、電気設備全般の点検・保守等を業務とする前記星及び森田としては、本件コードの絶縁被覆が損傷し又は老化することにより感電等の事故が発生することがないよう、本件コードを定期的に点検し、損傷部分があつたときは直ちに修理し、老化した場合には直ちに新しいものと交換する等の適切な事故防止措置を講ずべき注意義務があつたというべきであり、また、前記長谷川伊勢吉は本件事故発生の前日未明に金村から本件コードに損傷があることを指摘され、危いから補修しておくよう申入れを受け、更に、前記大橋久次は、同日午後前記坂本徳男から同様の指摘を受けたのであるから、右長谷川及び大橋としては、直ちにそのことを星又は森田に連絡して、同人らをして所要の補修措置をとらせるべきであつたものというべきである。しかるに、星及び森田は、右注意義務に違反して、森田が昭和四九年三月ころ本件コードを修理した後は、本件コードを一度も点検することなく漫然放置していたものであり、また、長谷川及び大橋は右の連絡措置をとることを怠り、大橋において、出入りの業者である坂本に前記のような不十分な補修措置をとらせた(以前から本件コードに巻いてあつたビニールテープをはがしてもう一度巻きつけるだけでは、ビニールテープが粘着力の低下によりはがれやすく、補修として十分でないことは、経験則に照らして明らかである。)にとどめたために、本件事故が発生したものというべきである。

したがつて、被告会社は、民法第七一五条の規定により、その被用者たる右星らが被告会社の事業につき右過失によつて生じさせた本件事故による損害を賠償する責任がある。

三過失相殺<中略>

四損害

1 逸失利益<前略>

ところで、被告は、治行の自動車運送事業の経営は運輸大臣の免許を受けていない違法なものであるから、そのような違法な事業による逸失利益は保護するに値しない旨主張する。

なるほど、道路運送法第一二八条の規定によれば、同法第四条第一項の規定に違反して、運輸大臣の免許なくして自動車運送事業を経営した者に対しては、一年以下の懲役若しくは三〇万円以下の罰金、又はその併科という必ずしも軽からざる罰則が規定されており、かかる無免許営業が違法であることは明らかである。しかし、無免許営業といえども、その事実としてなす第三者との個々の運送契約が私法上当然無効となるものではないから、無免許営業者にも損害の実体が現存することは明白であり、しかも、自動車運送事業を免許制として同法の根本趣旨は、自動車運送事業の公共的な性格とその危険性にかんがみ、不当競争の防止を図ることによつて道路における輸送秩序を確保せんとするにあつて(同法第一条)、右処罰もまたその目的を達成するための一手段にすぎず、運送事業の営利自体を規制することを直接の目的とするものではないから、右程度の違法行為をもつて不法行為における損害賠償としての逸失利益算定の基礎とすることを否定しなければならない程の反道徳的かつ醜悪な行為ということはできず、また、損害の公平な分担を図るという不法行為制度の目的に照らしても、被害者に損害の実体が現存すればこれを逸失利益として計上し、加害者に対してその賠償を命ずることが公平に適うというべきである。しかし、かかる無免許営業者は、道路運送法との関係において、免許営業者に比し、その将来の営業の継続、収益の確実性、永続性の点において不安定であることは明白であるから、逸失利益の算定にあたつてはこの点を考慮する必要があるところ、逸失利益の全体に対する右不確実要素を三五パーセントとみて、これを控除するのが相当である。

(菅原晴郎 魚住庸夫 川口代志子)

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