東京地方裁判所 昭和50年(ワ)6452号 判決
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【判旨】
新考科学は、被告亀田雅昭が家庭用電気治療器等の販売等を目的として昭和四七年一二月二二日設立した資本金二〇〇万円の株式会社であり、<中略>被告亀田雅昭および真崎の両名と新規に雇い入れた男子外交員二名、女子事務員一名というメンバーで、昭和四八年一月から家庭用電気治療器等販売の営業活動を開始したものであるが、その月間売上額は、右営業活動開始当時においては金一〇〇万円にも満たなかつたが、その後営業成績を伸ばし、六ケ月を経過した同年七月当時においては金三〇〇万円程度に達し、爾来本件手形振出当時に至るまで同程度の売上を維持しており、新考科学は取引上の支払の便宜のため訴外朝日信用金庫に当座預金口座を開設していたが、昭和四八年五月二五日から本件手形振出当時までの間における右当座預金の残高は、最高金一七一万七、七三三円、最低マイナス(赤字)金四二万〇、七一五円であり、平均して金一〇〇万円前後というところであり、そして、新考科学の資産としては、右金庫に対する若干の定期預金と前記事務所に備えつけた什器備品の外には見るべきものはなかつた。
新考科学代表取締役であつた被告亀田雅昭は、昭和四八年八月ころ、真崎の紹介の下に、伸光代表取締役根岸秀治(以下根岸という。)に対し、伸光の製作にかかる本件商品が今後有望であるから新考科学において新たに販売させて買いたい旨申し入れ、爾来交渉を重ねていたところ、同年一〇月ころに至り、右根岸は同被告に対し代金前払その他の条件で新考科学に対し本件商品を継続的に売渡すことを承諸したので、同被告は、新考科学の代表取締役として、右根岸に対しとりあえず本件商品二〇〇台を注文し、その納入時期については確約をとりつけないまま、その代金の前渡として、現金約一〇〇万円を交付するとともに、額面合計約七〇〇万円にのぼる約束手形数通を振出し、さらに、そのころ、右根岸との間において、相互に金融を得るため融通手形を交換することに合意し、右根岸から小竹印刷所その他の振出にかかる見返りの融通手形数通を受取るのと引換に新考科学振出にかかる額面合計約五〇〇万円にのぼる約束手形数通を同人に交付した。本件手形は新考科学の振出にかかる以上の額面合計約一、二〇〇万円にものぼる約束手形数通のいずれかの一通である。
前記のような新考科学の資産および取引の状況からすれば、新考科学が資金的に破綻することなく本件手形を含め額面合計約一、二〇〇万円にものぼる前記各約束手形の支払を完了するためには、そのうち各商品代金手形につき、その支払期日到来前において、間違いなく、右各手形に見合う本件商品が伸光から新考科学に納入され、かつ新考科学においてこれを他に販売し、その販売代金の集金を終えていることが、また、各融通手形につき、見返りとして受領した各融通手形が間違いなく支払期日に支払われることが絶対に必要であり、仮に右各条件が一つでも調わない場合には新考科学において右各手形の支払ができず倒産に至ることが明らかであつた。ところが、同被告は、伸光と本件商品の継続的売買契約の締結を急ぐあまり、伸光の経営の実態や見返りとして受領する各融通手形の信用度等につき殆ど調査をなさず、そのため、当時伸光は資金繰りのため不健全な会社と融通手形を交換するなど不健全経営に陥つていたうえ、見返りとして受領する各融通手形の信用度も低いものであり、従つて前記各条件が調わないおそれが多分にあつたのに、右事実を看過し、安易に右各条件が調うものと軽信して本件手形を含む前記各手形を振出したものである。
ところが、伸光は、新考科学に対し前記注文にかかる本件商品を全く納入しないまま、昭和四九年二月下旬倒産してしまつたため、新考科学はそのころ支払期日の到来した本件手形を含む前記各手形の支払をすることができず、自らも遂に倒産するに至つた。<証拠判断略>
右認定の事実によれば、被告亀田雅昭は、本件手形を含む前記各手形を振出すに当つては、伸光の経営の実態や見返りとして受領する各融通手形の信用度を十分に調査し、いささかでも前記各条件が調わないおそれがあるときは、新考科学の代表取締役として本件手形を含む前記各手形の振出を思いとどまるべき当然の注意義務があつたものというべきところ、同被告が殆ど右調査をなさず、そのため前認定の事実を看過し安易に前記各条件が調うものと軽信して本件手形を含む前記各手形を振出したことには、新考科学の代表取締役としての業務の執行上重大な部類に属する注意義務違反、すなわち商法二六六条の三にいわゆる重大なる過失があつたものというべきである。
(松尾政行)