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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)6912号 判決 1980年4月18日

主文

一  被告は、釣具の製造販売の営業につき「ダイワ釣具有限会社」なる商号を使用してはならない。

二  被告は、その製造販売にかかる釣竿につき別紙第二目録1ないし3記載の標章を使用してはならない。

三  被告は原告に対し、金九六万九、七四四円及びこれに対する昭和五〇年九月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は第三項につき、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

主文第一ないし第四項同旨の判決及び仮執行の宣言

二  被告

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  不正競争防止法第一条第一項第二号に基づく請求

(一) 原告の営業表示とその周知性

(1) 原告は、昭和二〇年一二月二六日設立された株式会社であるが、昭和四四年五月二八日までは「大和精工株式会社」という商号を使用し、昭和四四年五月二九日以降は商号変更により「ダイワ精工株式会社」すなわち現商号を使用して釣具の製造販売をしている。

(2) 原告の釣具の製造販売の実績は、国内において第一位を下らず、世界においても第二位を占めていて、原告が釣具の製造販売業界において占めている地位は、他の業者の追随を許さず、またその販路は広く海外にも伸長しており、海外からの注文も多い。

(3) ところで、一般に取引業界においては、会社の商号がいわゆるフルネームで通用するだけでなく、その主要部分において略称され、それが慣用されることによつて、その略称自体が当該会社の営業を表示する機能を有するに至ることが通常である。

しかして、原告は、長年にわたり、「ダイワ精工株式会社」という商号及びその略称としての「ダイワ」を、新聞、週刊誌、テレビジヨン、釣雑誌等を通じて、釣具の製造販売業界、小売店及び消費者に広く知られるように巨額の宣伝費を用いて宣伝してきた。

右のような宣伝と原告の業界における地位ないし販売実績とが相俟つて、商号「ダイワ精工株式会社」及びその略称としての「ダイワ」は、原告の営業表示として、日本全国にわたり、取引者及び需要者間に広く認識されるに至つている。

(二) 被告の営業表示

被告は、昭和五〇年一月一一日の会社設立時から、釣具の製造販売の営業について「ダイワ釣具有限会社」の商号を使用している。

(三) 原告の営業表示と被告の営業表示との類似性

原、被告の両営業表示は、「ダイワ」の部分を共通にし、更に原告が「釣具のダイワ」として広く知られていることと相俟つて、被告の営業表示の要部である「ダイワ釣具」は釣具の製造販売業界における原告を観念させるから、被告の営業表示「ダイワ釣具有限会社」は原告の営業表示「ダイワ」と類似する。

(四) 営業上の施設又は活動の混同と営業上の利益を害されるおそれ

被告は、肩書住所地において、店舗を構えて釣具の販売等を行つており、かつ、原、被告の営業活動はいずれも釣具の製造販売であるから、市場において競業関係に立ち、したがつて、被告の「ダイワ釣具有限会社」という営業表示の使用は、被告の営業上の施設又は活動を原告のそれであるかのように取引者及び需要者間に混同を生ぜしめるものであり、これがため原告は営業上の利益を害され、あるいは害されるおそれがある。

(五) よつて、原告は主文第一項と同旨の判決を求める。

2  不正競争防止法第一条第一項第一号に基づく請求

(一) 原告の商品表示とその周知性

原告はその製造販売にかかる釣竿に別紙第一目録1ないし3記載の標章(以下、「本件商標1ないし3」という。)を使用している。しかして、原告は、長年にわたり、本件商標1ないし3を、新聞、週刊誌、テレビジョン、釣雑誌等を通じて、釣具の製造販売業界、小売店のみにとどまらず、消費者にも広く知られるように巨額の宣伝費を用いて宣伝してきた。その結果、本件商標1ないし3は、原告の製造販売にかかる釣竿であることを示す、いわゆる商品表示として、おそくとも本訴提起前の昭和四九年中には、日本国内において取引者及び需要者間に広く認識されるに至つている。

(二) 被告の使用する標章

被告は、その製造販売にかかる商品名「振出しパワー」、「いそ」、「アタツク」なる釣竿に、別紙第二目録1ないし3記載の標章(ただし、数字はいずれも例示であり、これに限定されない。以下、「被告標章1ないし3」という。)を使用している。仮に現在は被告標章1ないし3を使用していないとしても、将来再び使用するおそれがある。

(三) 本件商標1ないし3と被告標章1ないし3との類似性

(1) 本件商標1ないし3において、取引上、商品の出所表示機能を有している部分は、(イ)上部に描き出されている、正方形の輪郭の内部に釣竿を持つた影絵風の人物を表わした図形、(ロ)正方形内に太陽の図形を配した図柄及び「DAIWA」の欧文字並びにその釣竿の種類により、それぞれ「サーフパワー360」、「いそかぜ330B」、「サーフスポーツ360」の文字である。

(2) 被告標章1ないし3において、取引上、商品の出所表示機能を有している部分は、(イ) 上部に描き出されている、正方形の輪郭の内部に釣竿を持つた影絵風の人物を表わした図形、(ロ) 「ダイワ釣具〔有〕」の文字及びその釣竿の種類によりそれぞれ「振出しパワー360」、「いそ330」、「アタツク330」の文字である。

(3) 本件商標1ないし3、被告標章1ないし3に表わされているその他の文字は、いずれも、これを使用する釣竿の品質、性能、用途、価格を表示するものであるから、商品の出所表示機能を有しない。

(4) そこで、本件商標1ないし3とこれに対応する被告標章1ないし3の類似性を考えると、まず最も特徴的な重要な部分である、両者の上部に描かれている図形であるが、これはいずれも影絵風の人物が釣竿を投げている姿である点で酷似している。もつとも、本件商標1ないし3の影絵風の人物は右向きであるのに対し、被告標章1ないし3のそれは左向きであり、また人物の姿勢の角度にも若干の相違があるけれども、これらの点は微細な差異であつて、両者が酷似していることに変わりはない。また、正方形の輪郭内の下方の白色部分にも若干の相違が認められるけれども、両者の上部に描かれている図形は、構図上その独特の表現態様を同じくするものであり、正方形の輪郭内部の地色も同一であるから、両者を全体的に観察すれば、前記若干の相違点を考慮しても、これを見る者の脳裡に形成されるイメージは全く同じであり、まして、時と場所を異にする、いわゆる離隔的観察をすれば、なお一層そのイメージは同一となる。加えて右の両図形は、いずれも黒色の太線の正方形の輪郭の内部に表わされているのみならず、右両図形の下部にはいずれも二本の太目の横線が引かれていて、その中間及び上下に書かれている文字の配列が類似しており、また製造販売元を表わしかつ共通の音声を有する「DAIWA」、「ダイワ」の文字や、「サーフパワー360」に対し「振出しパワー360」、「いそかぜ330B」に対し「いそ330」というように、「パワー」、「いそ」という釣用品の観念をおこさせる文字が使用されている。

以上の本件商標1ないし3とこれに対応する被告標章1ないし3の各構成をそれぞれ全体的に観察した場合には、両者は外観上類似している。

(四) 商品の混同及び営業上の利益を害されるおそれ

被告の被告標章1ないし3の使用行為は、取引の実際において、被告の製造販売にかかる釣竿を原告の製造販売にかかるそれであるかのように取引者及び需要者間に混同を生ぜしめるものであり、これがため原告は営業上の利益を害され、あるいは害されるおそれがある。

(五) よつて、原告は、主文第二項と同旨の判決を求める。

3  不正競争防止法第一条ノ二に基づく請求

(一) 不正競争行為と損害賠償義務

被告は、被告標章1ないし3の使用行為が、取引の実際において、被告の釣竿を原告のそれであるかのように取引者及び需要者間に混同を生ぜしめることを知り、又は過失によりこれを知らないで、釣竿を販売し、よつて原告の釣竿と混同を生ぜしめたものであり、これがため、原告は営業上の利益を害された。したがつて被告は原告がこれにより被つた損害を賠償すべき義務がある。

(二) 損害

被告が、釣竿の販売により挙げた利益の額が、被告の不正競争行為によつて原告の被つた損害の額と考えられるところ、被告は、昭和五〇年一月一一日から同年六月三〇日までの間、被告標章1ないし3を使用した別表「品名」欄記載の釣竿を同表「販売数量」欄記載の本数だけ販売したが、その販売により得た利益の額は、同表の「一本当たりの販売価額」に「利益率」一〇〇分の一五及び右販売数量を乗じて得られた金額すなわち同表「利益額」欄記載の金額の合計金九六万九、七四四円である。

(三) よつて、原告は被告に対し、右損害金九六万九、七四四円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五〇年九月三日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の答弁と仮定抗弁

1  答弁

(一) 請求の原因1(一)(1)の事実は認める。

(二) 同1(一)(2)の事実は不知、(3)の事実は争う。

(三) 同1(二)の事実は認める。

(四) 同1(三)の事実は争う。原告は、釣具の製造販売業界において「ダイワ精工」として知られているのに対し、被告は、同業界でも特に東北地方において「ダイワ釣具有限会社」として知られているのであるから、「ダイワ」の文字のみに力点があつてそれのみで全て原告を想起せしめるということはできないのであつて、このことは、原告の商号が昭和四四年五月二八日まで「大和精工株式会社」であつて、「ダイワ」の文字が使用されていなかつたことからも裏付けられるのである。

(五) 同1(四)の事実は争う。

(六) 同2(一)の事実中、原告がその製造販売にかかる釣竿に本件商標1ないし3を使用していることは認め、その余は不知。

(七) 同2(二)の事実については、かつて被告がその製造販売にかかる商品名「振出しパワー」、「いそ」、「アタツク」なる釣竿に被告標章1ないし3を使用したことがあることは認めるが、被告は、本訴提起時以降、被告標章1ないし3を使用していないし、将来も使用する予定はない。

(八) 同2(三)の事実は争う。本件商標1ないし3と被告標章1ないし3とは、それぞれ構図態様、色彩等から、個別具体的に観察した場合はもとより、全体的に観察しても、類似しておらず、混同を生じるおそれはない。

(九) 同2(四)の事実は争う。

(一〇) 同3(一)の事実は争い、(二)の事実中、被告が別表「品名」欄記載の釣竿を販売し、原告主張の期間中に同表「利益額」欄記載の利益を得たことは認め、その余は争う。

2  不正競争防止法第一条第一項第二号に基づく請求(請求の原因1)についての仮定抗弁

(一) 【A】(被告会社代表者。以下同じ)は昭和四六年六月一七日「ダイワ釣具店」なる商号で釣具の小売店として営業を始めたが、この「ダイワ釣具店」という商号を使用することについて昭和四五年一〇月中に原告の仙台営業所長【B】と【A】との間で話合いがなされ、昭和四六年六月中に右商号を表示した看板が原告から【A】に送付された。この看板が送付された時点で、【A】が右商号を使用することについて原告の承諾があつたものである。しかして、右看板送付後においても、原告は【A】と取引を継続していること、右看板の製作と送付の手続が原告の後記(三1)主張のとおりであつて、原告は防府市内の釣具の小売店である「ダイワ釣具店」にも同様の看板を送付していることからも、原告が【A】に「ダイワ釣具店」という商号を使用することを承諾していたことは明らかである。しかして、被告は、【A】が同人の個人営業にかかる釣具の製造販売を便宜上有限会社組織にして行うために設立したものであるから、被告の営業と【A】のそれとの間には実質的に営業の同一性があるものというべく、【A】の使用していた右商号の要部である「ダイワ」をその商号中に取入れて「ダイワ釣具有限会社」という商号を被告が使用することは適法である。

もつとも、原告は、【A】が「ダイワ釣具店」という商号の使用について、原告の東京本社に対して、何らの要請もしていないこと等から、東京本社としては「ダイワ釣具店」という商号の存在を知らなかつたかのごとき主張をするけれども、看板の費用の半額は東京本社において負担し、しかも取付け先である小売店の商号は年度毎に添付写真とともに東京本社に記録されているのであるから、原告の右主張は失当である。また、「ダイワ釣具店」という商号の使用について原告の承諾のあつたことは、原告と【A】との間の取引の継続的な過程における外形上の事実からも推定されるのであつて、右承諾について原告の取締役会の決議とか代表者名義の契約書が存在しなければならないというものではない。

(二) 防府市内に、昭和三〇年ごろから「ダイワ釣具店」という商号を使用して釣具の販売をしている小売店があり、原告は右小売店と取引をしていてその存在を熟知していたので、昭和四四年五月二八日まで「大和精工株式会社」という商号を使用していた原告は、右「ダイワ釣具店」なる商号にヒントを得て同月二九日現商号に変更したものと推認されることと、前記のとおり、原告が【A】に対し、「ダイワ釣具店」という商号の使用を承諾したことを総合すれば、原告は、少なくとも被告と前記防府市内の「ダイワ釣具店」に対しては、その商号の使用を認め、不正競争防止法第一条第一項第二号に基づく商号使用差止請求権を放棄したものというべきである。

三  仮定抗弁に対する原告の答弁

1  抗弁事実(一)は否認する。

原告が【A】に対し、その主張する看板を送付した経過は、次のとおりである。すなわち、原告は、自己の商品を扱う日本各地の釣具販売店に対し、「ダイワ」と表示した看板を送付して、自己の宣伝の一手段としていた。そして昭和四六年当時、原告は釣具のトツプメーカーとしての地位を維持するため、他の業者との間で激しい競争を展開していたが、原告の商品の販売は各地に所在する原告の特約店あるいは代理店を通じて行つており、右特約店あるいは代理店が小売店から原告の商品の注文を聞き、納品していた。したがつて、右特約店等の意向は原告の商品の販売量の増減に極めて強い影響をもつているとともに、右特約店等は原告の宣伝方法に強い関心を有しており、原告の宣伝用の看板を商品の納入先である小売店に渡してほしいとの強い希望を原告の各営業所に持ち込んでくることが多く、また、小売店が右特約店を経由することなく、直接右宣伝用の看板を申し受けたい旨の依頼を原告の各営業所へ申出てくる例もあつた。このような場合、原告の各営業所では右看板の送付依頼のあつたものを東京本社の販売促進課へ連絡し、連絡を受けた同課は、独自の判断を介入させることなく、営業所の指示どおりに右看板の取付け業者である株式会社フクスイに対し、右看板の取付け方を依頼し、同社が実際の取付け工事を担当していた。そして、右看板の下方に取付け先の販売店名(商号)を記入する取扱いは、当該販売店からの要望に応じて行つており、原告は販売店からの申出がない限り、看板に販売店名を記入すべき旨の指示を株式会社フクスイに出すことはなかつた。しかして、【A】に対する「ダイワ釣具店」という表示をした看板の送付は、【A】の強い希望があつたことに基づいて、東北地方における原告の特約店株式会社竹の皮屋商店を通じて、あるいは【A】自から原告の仙台営業所に対して申出たことにより、株式会社フクスイからなされたものである。他方、【A】に対する前記看板の送付当時、同人がその後において本件商標1ないし3と類似する被告標章1ないし3を使用した釣竿を販売するという不正競争行為をすることを、原告の仙台営業所員は勿論、販売促進課においても予見することは不可能であつて、もし予見していれば、【A】に対し看板を送付しなかつたばかりでなく、そもそも仙台営業所長は商号の使用に対し承諾を与える権限はなく、かつ、【A】もそのことを容易に知りえたであろうし、加えて、【A】は東京本社との間において、その商号の使用についての契約書をはじめとするなんらかの文書を取り交わしているわけでなく、また、東京本社に対し、その商号の使用について何も要請していない。

以上の看板送付の実情、【A】による不正競争行為の存在、【A】と原告との関係等を総合すれば、原告が【A】に対し、「ダイワ釣具店」という商号を表示した看板を送付したことをとらえて右商号の使用につき原告の承諾があつたとする被告の主張は失当である。ところで、原告は、【A】に対する右看板送付後においても、同人と取引をしていたけれども、その取引額は極めてわずかであつて、しかもそれは特約店である株式会社竹の皮屋商店を通じてのものであつたため、「ダイワ釣具店」の存在は昭和四六年当時原告の関心事とはなつておらず、それ故原告の取締役会をはじめとするいかなる部課においても、【A】に対する商号使用の承諾をめぐつて議論されたことはなかつたのである。

2  抗弁事実(二)は否認する。

原告が昭和四四年五月二九日に商号を「大和精工株式会社」から現商号「ダイワ精工株式会社」に変更した理由は、被告が主張するようなものではない。すなわち、原告の商号変更の理由は、「大和精工株式会社」という商号使用の当時から、原告は釣具の出所を明示するため広く「ダイワ」の文字を使用していた結果、原告の製造販売にかかる釣具は問屋、小売店、需要者間で「ダイワ」の釣具として広く認識されるに至つたため、右「ダイワ」の文字を商号中にとり入れることにより、より一層の宣伝効果の向上を企図したことにある。なお防府市内に「ダイワ釣具店」という商号の小売店のあることは認めるけれども、原告は右小売店と直接の取引をしたことはない。

四  仮定抗弁(一)に対する仮定再抗弁

仮に、原告が【A】に対し、「ダイワ釣具店」という商号の使用について承諾を与えたとしても、右承諾は、原告と正常な取引関係が継続し、協調関係の存在することを前提としてなされたものであり、不正な方法による競業行為を行うことを解除条件としてなされたものである。そして、被告は【A】の個人営業を法人組織に改めたものであること被告主張のとおりで、その間実質的に営業の同一性を保持する被告は、おそくとも昭和五〇年三月三日以降において本件商標1ないし3と類似する被告標章1ないし3を使用した釣竿の販売を行い、原告との間において、不正な方法により競業関係に立つたのであるから、前同日右解除条件は成就したものというべく、したがつて、原告の【A】に対する右承諾はその効力を失つた。

五  仮定再抗弁に対する被告の答弁

再抗弁事実は否認する。

原告と【A】との間の正常な取引関係を消滅するに至らしめたのは、原告自らの行為によるものである。すなわち、原告は、会社発展の途上において、販売実績をあげるため各地方の問屋を最大限に利用したが、一たび業績が波に乗り力がつくや、利益率の向上のため各地方の要所に卸販売を行う子会社を設立するに至り、被告の営業地域である仙台市にも東北ダイワ株式会社を設立した。そして、昭和四八年以降は、原告の製造にかかる釣具は一手に東北ダイワ株式会社を通じて小売業者に卸売されることとなつたため、原告にとつて、各地方の問屋は不要となり、これを切り捨てるに至つたのである。【A】は、開業後一年位で東北一円の小売業者を顧客とする卸売業者となつていたが、右「東北ダイワ株式会社」の設立によつて原告の商品の取扱いを断念せざるをえなくなつた。

以上から明らかなように、原告と【A】との取引関係の消滅は原告の行為に原因するものである。もつとも、被告は被告標章1ないし3を使用した釣竿を取扱つたことはあるけれども、これは、たまたま他の業者から持ち込まれたものを少量販売したにすぎず、被告としては、前記のとおり現在、その製造販売にかかる釣竿に被告標章1ないし3を使用していないし、将来においても使用する予定はない。よつて、いずれにしても原告の右主張は失当である。

第三  証拠関係(省略)

理由

第一  不正競争防止法第一条第一項第二号に基づく請求について

一  原告の営業表示とその周知性

1  原告が昭和二〇年一二月二六日設立された株式会社であり、昭和四四年五月二八日までは「大和精工株式会社」という商号を使用し、昭和四四年五月二九日以降は商号変更により「ダイワ精工株式会社」すなわち現商号を使用して、釣具の製造販売をしていることは当事者間に争いがない。

2  証人【C】の証言により真正に成立したものと認められる甲第七号証、第一〇号証の一、二、第一九号証、第二〇号証、同証人の証言、本件口頭弁論の全趣旨を総合すれぱ、次の事実が認められ、これが認定を左右するに足る証拠はない。

(一) 原告の昭和四五年度における釣具用品の販売量、販売実績をみると、ロツド(投竿、磯竿、舟竿、トローリング竿、渓流竿、ヘラ竿、ルアー竿)の販売数量は九一万五、○○○本でオリンピツク釣具株式会社に次いで国内第二位を占め、リールの販売数量は一一二万八、○○○個でオリンピツク釣具株式会社の三九万二、〇八三個を凌いで国内第一位を占めており、また、右期間におけるわが国全体のロツドの輸出量に占める原告のシェアは約三五パーセント、同様にリールのそれは約五四パーセントで、いずれも国内第一位を占めていること、その輸出先はアメリカ、イギリスをはじめとして世界の殆んどの国に及んでいること、更に昭和四六年度におけるロツドについての国内市場占有率(金額による。)は約三二パーセントで国内第二位を占め、同様にリールについてのそれは約三六パーセントで国内第一位を占めていること、

(二) 原告は、昭和三九年以前に発行した原告のカタログに「大和精工株式会社」の表示とともに「釣具の総合メーカーダイワ」と併記してこれを配布、宣伝したのをはじめ、昭和四〇年から四三年にかけ原告が発行したカタログに「大和精工株式会社」の表示のほか「ダイワ総合カタログ」と表示し、また原告製品リールの紹介記事に例えば「ダイワエース」、「ダイワパイオニア」のように記載し、「ダイワ」の文字を他の文字より大きく、明瞭に視覚に訴える態様で表示し、昭和四四年発行のカタログには「釣具のトツプメーカー」の表示に「ダイワ」と大きく併記し、昭和四五年発行のカタログには原告現商号の表示のほか昭和四四年発行のカタログと同様の右表示及び併記をして、いずれも配布、宣伝し、例えば昭和四一年二月発行の釣雑誌「つりの旅2」には「大和精工株式会社」の表示とともに「ダイワ」の文字を大きく表示したほか「中型リールの決定版ダイワサンデー」と表示して広告文を掲載して宣伝する等、その頃以降釣具関係雑誌に「ダイワ」の表示を原告名(旧商号)又は原告商品を示す広告として継続的に掲載し、更におそくとも昭和四四年九月五日頃以降テレビ放送を通じて原告名又は原告商品を表示する趣旨で「ダイワ」と表示して全国にその宣伝活動を行い、加えておそくとも昭和四五年五月以降、宣伝の一環として、原告の釣具を取扱う日本各地の釣具の小売店等に「ダイワ」と表示した看板を送付して掲げさせていること。

3  右2(一)、(二)の事実に徴すれば、「ダイワ」の表示は原告の旧商号時代、既に、原告商号の略称とされるとともに原告の営業であることを示す表示として使用され、原告の取引先・顧客もそのように理解していたものであつて、このことは現商号に変更された後も変らなかつたものと認めることができ、右事実に前掲当事者間に争いのない事実、前掲証人の証言、本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、「ダイワ」は原告商号の略称どされるとともに原告の営業たることを示す表示として、おそくとも後記認定の、【A】が「ダイワ釣具店」なる商号を使用して営業を始めた日時より以前の、昭和四六年五月には、既に日本国内において、この種営業の取引者及び需要者に広く認識されるに至つていたと認めるのが相当である。

二  被告の営業表示

被告が、昭和五〇年一月一一日の会社設立時から、釣具の製造販売の営業について「ダイワ釣具有限会社」の商号を使用していることは当事者間に争いがない。

三  原告商号の略称及び原告の営業たることを示す表示としての「ダイワ」と被告商号との類似性

被告の商号中、「有限会社」の部分は単に会社の種類を表わすものであり、また「釣具」の部分は普通名詞であつて、いずれも商号の主体を個別化する機能はないから、「ダイワ」の部分が被告の商号の要部であると解されるところ、これと原告商号の略称及び原告の営業たることを示す表示としての「ダイワ」とは同一である。したがつて、被告の商号「ダイワ釣具有限会社」は、全体として、原告商号の略称及び原告の営業たることを示す表示である「ダイワ」と類似するといわなければならない。

四  営業上の施設又は活動の混同

以上一ないし三で確定した事実に、被告の店舗を撮影した写真であることについて当事者間に争いがない乙第一号証の二、三、被告会社代表者尋問の結果によつて認められる、被告が釣具の販売等の営業を行つている店舗に「ダイワ釣具有限会社」と表示した看板を掲げている事実と本件口頭弁論の全趣旨とを併せ考えると、被告が釣具の製造販売の営業について「ダイワ釣具有限会社」という商号を使用する行為は、被告の営業上の施設である店舗もしくは営業上の活動と原告のそれらとの混同を生ぜしめるものと認められ、右認定に反する証人【D】、同【E】の各証言はにわかに採用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

五  営業上の利益を害されるおそれ

前記四認定のように、被告の前記行為により被告の営業上の施設あるいは活動と原告のそれらとが混同されることに照らせば、他に特段の事情の認められない本件にあつては、原告は営業上の利益を害されるおそれがあるものというべきこととなる。

六  そこで進んで抗弁について判断する。

1  抗弁(一)について

被告は、昭和四五年一〇月中に原告の仙台営業所長【B】と【A】との間で、【A】が釣具の小売店として営業を行うにつき「ダイワ釣具店」という商号を使用することについて話合いがなされ、昭和四六年六月中に右商号を表示した看板が原告から【A】に送付されたが、右看板が送付された時点で【A】が右商号を使用することについて原告の承諾があつた旨主張し、被告会社代表者尋問の結果中には右主張に沿う供述部分があるが、にわかに措信し難い。却つて、証人【C】の証言により真正に成立したものと認められる甲第二二号証の一、二、証人【B】の証言、被告会社代表者尋問の詰果(ただし前記措信しない部分を除く。)によれば、【A】がそれまで勤務していた釣具店を退職して自から釣具の販売等の営業をする決意をしたのは昭和四六年二月あるいは三月頃であつたこと、右営業をする際に使用する名称を「ダイワ釣具店」とすることに【A】が決めたのは右営業を開始する直前のことであること、【A】が「ダイワ釣具店」という名称ないし商号で釣具の小売販売の営業を開始したのは昭和四六年六月一七日であること、昭和四五年一一月頃、当時仙台営業所長であつた【B】は仙台から東京へ転勤したこと、以上の事実が認められる(右認定を覆すに足る証拠はない。)ところ、右認定事実によれば、【A】は昭和四五年一〇月当時いまだ独立して自から釣具の販売等の営業を行う決意をしていなかつたのであるから、そうであれば同人と当時の原告の仙台営業所長である【B】との間で、名称ないし商号を「ダイワ釣具店」とするという具体的な話合いがなされたとはいささか合点がいかない不自然なことであるばかりでなく、右認定事実からすれば、【A】が自己の店舗の名称ないし商号を「ダイワ釣具店」と決めたのは営業を開始する直前すなわち早くても昭和四六年四月あるいは五月頃と解することができるところ、右【B】は前記認定のように既に昭和四五年一一月頃には仙台から東京へ転勤しているのであるから、そうとすれば【A】が自己の店舗の名称ないし商号を「ダイワ釣具店」と決める過程において右【B】が関与したとも断じ難いところである。もつとも、【A】が昭和四六年六月一七日自から釣具の販売等の営業を始めた当時の店舗を撮影した写真であることについて当事者間に争いのない乙第一号証の一、証人【B】、同【F】、同【D】、同【E】の各証言、被告会社代表者尋問の結果によれば、原告は、【A】が釣具の販売等の営業を開始した昭和四六年六月一七日より少し前に、株式会社フクスイをして、「ダイワ」の文字を大きく横書きし、その下方に【A】のえらんだ名称ないし商号である「ダイワ釣具店」の文字を小さく横書きしてなる看板を、【A】の経営する店舗に送付取付けさせたことが認められるのであるが、なお、前掲各証拠を総合すれば、昭和四六年当時、既に、釣具の製造販売業界においては、その製造販売業者の製品を販売している小売業者等から前記認定のような販売店名入りの看板の送付、取付けの依頼を受けた釣具の製造販売業者は、自社及び自社製品の宣伝活動の一環として、その依頼に応じて右看板を送付、取付けすることが慣例となつていたこと、【A】に対し送付、取付けされた右看板も、同人から、原告の仙台営業所に対し昭和四五年九月頃送付、取付けを希望した結果、右慣例に基づいて右趣旨のもとに原告から送付し、取付けられたものであることが認められ、以上認定の事実を彼此検討し、被告会社代表者尋問の結果によれば、【A】は、当初自己の店舗の名称ないし商号を「ワールド」としてその製品を販売しようと考えてもみたが、ワールドが倒産したこともあつて販売取扱商品を原告すなわち「ダイワ」の製品とすることにした結果「ダイワ釣具店」としたことも、【A】が自己の店舗の名称ないし商号を決めた一つの動機であつたことが認められることを斟酌すれば、原告が【A】に対し前記認定の看板を送付し、取付けたのは、前記認定のような釣具の製造販売業界の慣例に従い原告の宣伝活動の一環としてなした措置にすぎず、「ダイワ」すなわち原告の製造にかかる釣具を販売する小売店舗である旨を強調することにその主眼がおかれたのであつて、原告商号の略称ないし営業表示としての「ダイワ」を、【A】においてその営業の名称ないし商号として使用することを原告が許容し、「ダイワ釣具店」なる名称ないし商号とすることを承諾する趣旨のもとに、右看板を送付、取付けたもりではないし、ましてや【A】が右営業を法人組織とするに及んでその商号中に「ダイワ」を使用することを承諾したものではないと解するのが相当である。

なお、成立に争いがない乙第二号証の一ないし一二、証人【F】の証言、被告会社代表者尋問の結果、本件口頭弁論の全趣旨によれば、原告の仙台営業所は、【A】に対し、同人が釣具の小売業を始めて以後釣用品を直接販売し、その販売に際し【A】宛の仮納品書及び領収書には「ダイワ釣具店」と表記していたこと、その取引量及び取引額は僅少であることが認められるところ、右認定事実によれば、なるほど原告の仙台営業所と【A】との間で、仮納品書及び領収書において同人を「ダイワ釣具店」と表記して売買取引がなされていたとはいうものの、その規模は極めて小さいものというべく、しかも取引が長期間にわたりかつ継続してなされたことを認めるに足る的確な証拠がないことに鑑みれば、右認定事実の存在は、いまだ前記判断を左右するに至らない。

よつて、抗弁(一)は、採用することができない。

2  抗弁(二)について

前説示のとおり、【A】が釣具の販売等の営業を行うにつき「ダイワ釣具店」という商号を使用することを原告において承諾したことが認められない以上、抗弁(二)はその前提を欠くばかりでなく、抗弁(二)の基礎とするその他の事実が仮に認められたとしても、そのことから直ちに原告が被告に対する不正競争防止法第一条第一項第二号に基づく商号使用差止請求権を放棄したものとは断定し難い。

よつて、抗弁(二)も採用の限りではない。

七  結び

以上のとおりであるから、不正競争防止法第一条第一項第二号に基づき、被告に対し、釣具の製造販売の営業についての「ダイワ釣具有限会社」なる商号の使用の差止めを求める原告の請求は理由がある。

第二  不正競争防止法第一条第一項第一号に基づく請求について

一  本件商標1ないし3の各構成とその周知性

1  本件商標1ないし3を表示するものであることについて当事者間に争いがない別紙第一目録1ないし3の各記載、成立に争いがない甲第三〇号証の一ないし九、証人【C】の証言により真正に成立したものと認められる甲第七号証、第一三号証の一ないし一四、第一四号証の一ないし七を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 本件商標1は、(イ)、縦長の長方形のうちの上部約二分の一の部分に、外周から若干内側に黒色の太い枠からなる正方形の輪郭を設け、その内部は、下方に小さな白い台形部分を残す他は橙色の地とし、内部中央に、帽子をかぶり両手で投釣り用釣竿を持ち、両足をやや開いた人物を右向きにして黒色で大きく影絵風に描き、左上隅に「投竿」の文字を左から右へ小さく横書きし、(ロ)、右正方形の輪郭の外側下方に、地が黒色で内部に図案化した太陽を橙色で表わした正方形と、「Ⅰ」の文字の上方に「<12165-001>」の模様を附した「DAIWA」なる欧文字を左から右へ順に配しかつ、(ハ)、右(ロ)の下方に、若干の間隔を設けて二条の黒色の太い横線を引き、これに挾まれた部分を橙色としたうえ、この部分に左から右へ「投竿6330-36サーフパワー360」の文字及び数字を横書きし、更にその下方に、小さく「全長3.60m/自重410g/先径2.6mm」、「元径25.0mm/継数4本/仕舞寸法106cm」、「錘負荷約25号」の各文字及び数字をそれぞれ上、中、下の三段に表わしてなるものであること、

(二) 本件商標2は、右(一)の(イ)、(ロ)と同一であるほか、更に、(ハ)、右(ロ)の下方に、若干の間隔を設けて二条の黒色の太い横線を引き、これに挟まれた部分に左から右へ「投竿 9600-33Aいそかぜ330 B」の文字及び数字を横書きし、更にその下方に、小さく「全長3.30m/自重500g/先径3.0mm/元径24.0mm」、「継数3本/仕舞寸法116cm/錘負荷約15号」の各文字及び数字をそれぞれ上下二段に表わしてなるものであること、

(三) 本件商標3は、右(一)の(イ)、(ロ)と同一であるほか、更に、(ハ)、右(ロ)の下方に若干の間隔を設けて二条の黒色の太い横線を引き、これに挟まれた部分を橙色としたうえ、この部分に左から右へ「投竿9020-36サーフスポーツ 360」の文字及び数字を横書きにし、更にその下方に、小さく「全長3.60m/自重720g/先径3.5mm/元径28.0mm」、「継数3本/仕舞寸法126cm/錘負荷約30号」の各文字及び数字をそれぞれ上下二段に表わしてなるものであること、

(四) 原告は、昭和四五年四月より、本件商標1ないし3の各構成(イ)及び(ロ)並びに(ハ)のうち「サーフパワー」、「いそかぜ」、「サーフスポーツ」及びその他の文字とその配列が同一で数字のみが異なる構成からなる標章を使用した釣竿を製造し、これを日本各地で販売していること、これらの標章を使用したものを含む投竿の販売数量は、昭和四五年度において二二万九、〇〇〇本、昭和四六年度において二四万八、〇〇〇本であつて、いずれも国内第二位の地位を占めていること、右標章は昭和四七年四月頃には、原告の商品であることを示すものとして、日本国内において取引者及び需要者に広く認識されるに至つたこと、原告は、本件商標1、同2を使用した釣竿を昭和四八年二月一日から、そして本件商標3を使用した釣竿を昭和四九年二月一日から各製造販売していること。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  以上の認定事実によれば、黒色の太い枠からなる正方形の輪郭、その内部の地色を下方部分において白色、その他の部分において橙色とし、内部中央に、帽子をかぶり両手で投釣り用釣竿を持ち、両足をやや開いた人物を黒色で大きく影絵風に描いてある点及び「DAIWA」の文字の点(以上の点が本件商標1ないし3の要部であることは、後に説示するとおりである。)において同一であり、かつ、その他の部分においてもほぼ同一である標章が、既に、昭和四七年四月当時、日本国内において周知となつていたのであるから、このことと本件商標1ないし3を使用した釣竿を販売した期間を併せ考えれば、本件商標1ないし3は、おそくとも昭和四九年中には原告の商品であることを示すものとして、日本国内において、取引者及び需要者に広く認識されていたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

二  被告標章1ないし3の使用態様及び構成

1  被告がその製造販売にかかる商品名「振出しパワー」、「いそ」、「アタツク」なる釣竿にそれぞれ被告標章1ないし3を使用したことがあることは当事者間に争いがない。

ところで、被告は、本訴提起時以降、被告標章1ないし3を使用していないし、将来も使用する予定はない旨主張するけれども、仮に現在被告標章1ないし3を使用していないとしても、被告は右のとおりかつてこれを使用したものであり、そして、被告標章1ないし3の使用行為は不正競争防止法第一条第一項第一号に該当しないとしてこれを争つていることが本件口頭弁論の全趣旨により明らかである以上、被告はその製造販売にかかる釣竿に被告標章1ないし3を使用するおそれがあるものといわざるをえない。

2(一)  被告標章1を表示するものであることについて当事者間に争いがない別紙第二目録1の記載によれば、被告標章1は、(イ)、縦長の長方形のうちの上部約二分の一の部分に、外周から若干内側に黒色の太い枠からなる正方形の輪郭を設け、その内部のうち下方の台形様の部分を白色の、その他の部分を橙色の地色とし、内部中央に、帽子をかぶり両手で投釣り用釣竿を持ち、両足をやや開いた人物を左向きにして黒色で大きく影絵風に描き、右上隅に肉太に表わした「投」の文字を細線の二重の円で囲んだものを配し、(ロ)、右正方形の輪郭の外側下方に「高級グラスロツド」と横書きし、(ハ)、右(ロ)の下方に、若干の間隙を設けて二条の黒色の太い横線を引き、これに挾まれた部分に「振出しパワー360」と横書きし、更にその下方の空白部分を二本の細い横線で三等分し、その上段に、小さく「全長3.6m/継数4本」、「仕舞寸法106cm/錘負荷約25号」と上下二段に横書きし、中段に「¥5200」、下段に「ダイワ釣具〔有〕」とそれぞれ横書きしてなるものである(ただし、アラビア数字は、いずれも例示であり、これら特定の数字に限定されるものではない。後記(二)、(三)についても同様。)ことが認められる。

(二)  被告標章2を表示するものであることについて当事者間に争いがない別紙第二目録2の記載によれば、被告標章2は、右(一)の(イ)、(ロ)と同一であるほか、更に(ハ)、右(ロ)の下方に、若干の間隙を設けて二条の黒色の太い横線を引き、これに挟まれた部分に「いそ330」と横書きし、更にその下方の空白部分を二本の細い横線で三等分し、その上段に、小さく「全長3.3m/継数3本」、「仕舞寸法116cm/錘負荷約15号」と上下二段に横書きし、中段に「¥」と記し、下段に「ダイワ釣具〔有〕」と横書きしてなるものであることが認められる。

(三)  被告標章3を表示するものであることについて当事者間に争いがない別紙第二目録3の記載によれば、被告標章3は、右(一)の(イ)、(ロ)と同一であるほか、更に(ハ)、右(ロ)の下方に、若干の間隙を設けて二条の黒色の太い横線を引き、これに挟まれた部分に「アタツク 330」と横書きし、更にその下方の空白部分を二本の細い横線で三等分し、その上段に、小さく「全長3.3m/継数3本」、「仕舞寸法118cm/錘負荷約25号」と上下二段に横書きし、中段に「¥」と記し、下段に「ダイワ釣具〔有〕」と横書きしてなるものであることが認められる。

三  本件商標1ないし3と被告標章1ないし3の類似性

本件商標1ないし3の要部は、商標の構成の態様、すなわち図形と多数の文字の結合からなつていること、図形と文字の配置及びその大小、色彩の有無等に鑑みれば、黒色の太い枠からなる正方形の輪郭、その内部の地色を下方部分において白色、その他の部分において橙色とし、内部中央に、帽子をかぶり両手で投釣り用釣竿を持ち、両足をやや開いた人物を黒色で大きく影絵風に描いている点及び「DAIWA」の文字の点にあるものと解するのが相当であるところ、被告標章1ないし3は、それぞれ、本件商標1ないし3の要部であるところの、黒色の太い枠からなる正方形の輪郭及びその内部の図柄において同一であり、かつ、正方形の輪郭内部の地色においてもほぼ同一であること、また本件商標1ないし3の「DAIWA」と被告標章1ないし3の「ダイワ」とは称呼において同一であることに照らせば、被告標章1ないし3は、それぞれ全体として、本件商標1ないし3と類似するものというべきである。

四  商品の混同及び営業上の利益を害されるおそれ

1  被告標章1ないし3が、前記のとおりそれぞれ本件商標1ないし3に類似すること及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、被告がその製造販売にかかる釣竿に被告標章1ないし3を使用する行為は、被告の商品である釣竿と原告のそれとの混同を生ぜしめるものと認められ、右認定に反する証拠はない。

2  前記1認定のように、被告の前記行為により被告の商品と原告のそれとが混同されることがあることに照らせば、他に特段の事情の認められない本件にあつては、原告の営業上の利益が害されるものといわなければならない。

五  結び

以上のとおりであるから、不正競争防止法第一条第一項第一号に基づき、被告に対し、その製造販売にかかる釣竿についての被告標章1ないし3の使用の差止めを求める原告の請求は、理由がある。

第三  不正競争防止法第一条ノ二に基づく請求について

一  不正競争行為と損害賠償義務

被告がその製造販売にかかる釣竿に被告標章1ないし3を使用して被告の商品である釣竿と原告のそれとの混同を生ぜしめる行為をしたこと、すなわち不正競争防止法第一条第一項第一号に該当する行為をしたこと及び被告の右行為により原告が営業上の利益を害されたことは、前記第二で判断したところがら明らかである。

しかして、特段の事情の認められない本件では、被告は少なくとも過失によつて原告の商品である釣竿と混同を生ぜしめる行為をして原告の営業上の利益を害したものと解されるから、被告は原告に対してその被つた損害を賠償すべき義務があるといわなければならない。

二  損害

そこで、原告の損害額について検討するに、不正競争防止法第一条第一項第一号に該当する行為によつて受けた損害の額を算定するについては、商標法第三八条第一項の規定を類推し、不正競争行為をした者がその行為によつて得た利益の額をもつて、不正競争行為によつて利益を害された者の損害の額と推定することができるものと解するのが相当である。これを本件につきみるに、被告が被告標章1ないし3を使用した別表「品名」欄記載の釣竿を販売して昭和五〇年一月一一日から六月三〇日までの間に挙げた利益の額は、当事者間に争いがない同表「利益額」欄記載の各利益額を合計した金九六万九、七四四円であるから、これをもつて原告の被つた損害の額と推定すべく、この推定を覆すに足る主張、立証はない。

三  結び

以上のとおりであるから、不正競争防止法第一条ノ二に基づき、被告に対し、損害金九六万九、七四四円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和五〇年九月三日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は、理由がある。

第四  結論

よつて、原告の請求はすべて理由があるからこれを認容することとし、金員の支払を命じる部分以外の仮執行の宣言の申立については、相当でないから却下することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、金員の支払を命じる部分の仮執行の宣言につき同法第一九六条の各規定をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

第一目録

<12165-002>

第二目録

<12165-003>

別表

<12165-004>

<省略>

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