大判例

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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)9945号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

基地開庁記念行事としての展示飛行中、飛行機の墜落によりその搭乗員が死亡した事案

【判旨】

三請求原因3について判断する。

1 <証拠>及び弁論の全趣旨によれば、航空自衛隊第七航空団は、昭和四二年一一月一二日の百里基地開庁記念行事として展示飛行を実施するため計画をたてていたが、正二郎所属の第七航空団二〇六飛行隊においては、中林啓之三佐が中心となつて右計画立案に当つていたところ、本件事故発生の昭和四二年一〇月二九日の約一週間前には右中林と竹山実二尉とが右計画に含まれていたロールを銚子沖海上で実施するなどして、本件事故当時には二〇六飛行隊としての展示飛行計画は別紙図面記載のとおり確定していたこと、東京における自衛隊記念日の観閲飛行の帰途、百里飛行場上空において二〇六飛行隊として右展示飛行計画を実施することが決まつたこと、事故前日(昭和四二年一〇月二八日)のブリーフイングにおいて、稲葉二佐からは観閲飛行に関して、中林三佐らからは別紙図面記載のとおりの展示飛行訓練計画(但し、ロールを含む)に関してそれぞれ二〇六飛行隊操縦士等に指示があつたこと、本件事故当日の午前八時すぎごろ、稲葉二佐は第五群パイロツト(二〇六飛行隊操縦士全員と二〇七飛行隊操縦士の一部)に対し、観閲飛行に関する指示とともに「二八ノツトの突風が吹くとの予報があつたが、風が強ければ横田基地に降りることがある。横田基地へ行くときは展示飛行訓練は実施しない。曲技飛行はやらない。」旨伝達したこと、しかし、風は余り強く吹かなかつたので、稲葉二佐は同日午前一〇時ごろ第二回目のブリーフイングを開き、二〇六飛行隊全操縦士に対し「横田基地へ行く可能性は少くなつた。横田へ行かなければ展示飛行訓練を実施するが、そのうち曲技飛行はやらない。本件展示飛行訓練は主としてタイミング等を検討するのが目的である。」旨を指示したこと、もつとも、二〇六飛行隊C編隊長正二郎、右C編隊二番機竹山二尉らはその直後、ブリーフイングルームにおける雑談でロールの話をしたこと、観閲飛行からの帰途、稲葉二佐の命令により二〇六飛行隊は展示飛行訓練を実施することになり、別紙図面記載のとおりの訓練飛行が行われたところ、右図面その2記載のとおり正二郎塔乗のC1機(事故機)、竹山二尉塔乗のC2機は南から北へ進入し、飛行場上空を過ぎたころ、正二郎は突如竹山二尉に対し「ロール打つよ」と呼びかけるや機首を上げてすぐロールを開始したこと、竹山二尉は前記のようにロールは行わないことになつていたので、意外に思いながらもC編隊二番機として編隊長機に従わざるをえず、正二郎塔乗の事故機に続いてロールを行つたこと、事故機は背面になつたころから降下角約四〇度でゆつくりと降下していき、回復操作も間に合わないまゝ松林に墜落したこと、竹山二尉は墜落直前に編隊長機の追従をやめ、編隊から離れて墜落を免れたこと、(本件事故につき正二郎の直近の上司であり、二〇六飛行隊長であつた稲葉二佐も減給一日という軽微な処分を受けたにとどまること)を各認めることができ、右認定を左右する証拠はない。

2 国は国家公務員に対し、公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負う(最高裁昭和五〇年二月二五日第三小法廷判決・民集二九巻二号一四三頁)こと勿論である。

ところで、原告は、百里基地開庁記念行事の一つとして予定された展示飛行を実施するに当つては、これに先立ち自衛隊員の飛行の安全のために展示飛行計画を十分に検討したうえ、これを確定し、しかる後に訓練計画を実施すべきであると主張するが、前示認定のとおり正二郎の所属する第七航空団二〇六飛行隊においては同隊の展示飛行計画は、中林啓之において予行飛行のうえ、慎重に立案確定されていたのであるから、安全配慮につき欠けるところはない。

仮に第七航空団全体の展示飛行計画及びその訓練計画が十分でなく観閲飛行指揮官の承認が得られていなかつたとしても、本件事故は展示飛行(曲技飛行を除く)訓練によつて惹起したものでないこと前示認定のとおりであるから、原告の右安全配慮義務違反の主張は採用できない。

つぎに、原告は正二郎らが実施を予定していた上昇回転(ズーム・アツプ・ロール)は低い高度でなす場合や編隊で実施する場合には高度の飛行技術を要し、かつ非常な危険を伴うから、被告はその飛行訓練を実施させるに当つては、初歩的で、かつ危険の低いものから徐々に危険性の高いものへと訓練を重ねて練度の向上を計れるように配慮すべきであると主張するが、本件全証拠によるも被告が正二郎に上昇回転飛行をするように指示または命令した事実を認めることはできない。そうすると右ズーム・アツプ・ロールの飛行が上司の指示または命令による公務であることを前提とするこの主張も採用のかぎりでない。

かえつて右ロールは事故当日、稲葉二佐により二度にわたり禁止する旨伝達されたにもかかわらず、正二郎は右命令に違反して、あえてこれを実施したものであること前記認定のとおりである。

そうすると、本件事故は正二郎の一方的過失によつて生じたものであつて、被告に安全配慮義務違反はない。

(小川正澄 若林昌俊 中嶋秀二)

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