東京地方裁判所 昭和50年(行ウ)169号 判決 1978年9月27日
原告 小沢弘道 ほか四名
被告 練馬税務署長
代理人 国吉良雄 ほか三名
主文
1 被告が昭和四九年二月二八日付で原告小沢弘道に対してした相続税の再更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち課税価格二億一九六二万円を超える部分を取り消す。
2 被告が昭和四九年二月二八日付で原告小沢一志に対してした相続税の再更正のうち更正を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
3 被告が昭和四九年二月二八日付で原告小沢惟美に対してした相続税の再更正のうち更正を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
4 被告が昭和四九年二月二八日付で原告小沢兼八に対してした相続税の再更正のうち更正を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
5 被告が昭和四九年二月二八日付で原告五十嵐照江に対してした相続税の再更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち課税価格七一二万五〇〇〇円を超える部分を取り消す。
6 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告ら
主文と同旨の判決
二 被告
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決
第二原告らの請求原因
一 原告らはいずれも亡小沢藤助の子であるところ、同人が昭和四七年一一月二五日に死亡したので、原告ら及び亡藤助の妻小沢とよが相続人となつた。
二 右相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について原告らがした各申告、原告らがした各更正の請求を認容して被告がした各更正、更に被告がした各再更正及び過少申告加算税の各賦課決定、並びにこれを不服として原告らがした各異議申立てに対して被告がした各異議決定の経緯は、別表記載のとおりである。
三 しかしながら、原告小沢弘道に対する右再更正(右異議決定により維持された部分をいう。以下同様であり、その余の原告らに対する右各再更正についても同様である。)のうち課税価格二億一、九六二万円を超える部分、原告小沢一志、同小沢惟美及び同小沢兼八に対する右各再更正のうち各更正を超える部分、並びに原告五十嵐照江に対する右再更正のうち課税価格七一二万五〇〇〇円を超える部分は、いずれも原告らの相続税の課税価格を過大に認定したもので違法である。また、右過少申告加算税の各賦課決定(右各異議決定により維持された部分をいう。以下同様である。)のうち過大認定に係る課税価格に対応する部分は、いずれも右違法な各再更正を前提としてされたもので違法である。
よつて、原告小沢弘道は同原告に対する再更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち課税価格二億一九六二万円を超える部分の、原告小沢一志、同小沢惟美及び同小沢兼八はそれぞれ同原告らに対する各再更正のうち各更正を超える部分及び過少申告加算税の各賦課決定の、原告五十嵐照江は同原告に対する再更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち課税価格七一二万五、〇〇〇円を超える部分の各取消しを求める。
第三請求原因に対する被告の認否及び主張
一 請求原因に対する認否
請求原因一及び二の事実は認めるが、同三の主張は争う。
二 被告の主張
原告らの相続税の課税価格及びその計算根拠は、次のとおりである。
1 原告小沢弘道
(一) 更正に係る課税価格(端数計算前)
二億〇八一二万八五一一円
(二) 取得財産価額に加算すべきもの
(1) 練馬区高松三丁目三七二一番所在の家屋
一四五万六〇〇〇円
(2) 同所三丁目三五六二番外所在の庭園設備
一〇四万二八四四円
(3) 小沢弘道に対する預け金
四七五万三一八〇円
(4) 稲穂秀吉に対する貸付金
四〇万円
(5) 岩沢大陸外三名(以下「岩沢ら」という。)からの未収金
三九一万九六〇〇円
後記7のとおりである。
(三) 取得財産価額から減算すべきもの
(1) 練馬区高松三丁目三六九三番一所在の土地(以下「本件土地」という。)
二六九万一三九一円
後記6のとおりである。
(2) 小沢弘道に対する貸付金
五〇〇万円
(四) 債務控除額に加算すべきもの
(1) 関文商事外一名に対する未払仲介料等
五万三四一二円
後記8のとおりである。
(2) 未納所得税
八二万四一二〇円
後記9のとおりである。
(五) 債務控除額から減算すべきもの
(1) 埼玉銀行練馬支店からの借入金
三八四万円
(2) 練馬農協中村橋支店からの借入金
五〇〇万円
(3) 岩沢らからの預り金
一六〇〇万円
後記10のとおりである。
(六) したがつて、原告小沢弘道の相続税の課税価格は、(一)の金額に(二)の(1)ないし(5)及び(五)の(1)ないし(3)の各金額を加算し、(三)の(1)、(2)及び(四)の(1)、(2)の各金額を減算した二億三五九七万一〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)となるから、同原告に対する再更正に違法はない。
2 原告小沢一志
(一) 更正に係る課税価格(端数計算前)
二一一四万〇七一八円
(二) 右に加算、減算すべき金額は、1の(二)の(5)、(三)の(1)、(四)の(1)、(2)と同じである。
したがつて、原告小沢一志の相続税の課税価格は、二一四九万一〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)となるから、同原告に対する再更正に違法はない。
3 原告小沢惟美
(一) 更正に係る課税価格(端数計算前)
一九九〇万四六七二円
(二) 右に加算、減算すべき金額は、1の(二)の(5)、(三)の(1)、(四)の(1)、(2)と同じである。
したがつて、原告小沢惟美の相続税の課税価格は、二〇二五万五〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)となるから、同原告に対する再更正に違法はない。
4 原告小沢兼八
(一) 更正に係る課税価格(端数計算前)
二三四四万九八〇一円
(二) 右に加算、減算すべき金額は、1の(二)の(5)、(三)の(1)、(四)の(1)、(2)と同じである。
したがつて、原告小沢兼八の相続税の課税価格は、二三八〇万円(一〇〇〇円未満切捨て)となるから、同原告に対する再更正に違法はない。
5 原告五十嵐照江
(一) 更正に係る課税価格(端数計算前)
七〇三万〇〇八八円
(二) 右に加算、減算すべき金額は、取得財産価額に加算すべきものとして生命保険契約に関する権利九万五四八四円を加算するほかは、1の(二)の(5)、(三)の(1)、(四)の(1)、(2)と同じである。
したがつて、原告五十嵐照江の相続税の課税価格は、七四七万六〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)となるから、同原告に対する再更正に違法はない。
6 本件土地について
(一) 更正に係る原告らの取得財産価額には、いずれも本件土地の相続分(三分の二を五分した一五分の二。以下、未収金、未払仲介料等、未納所得税についても同じ。)の価額として本件土地の価額二〇一八万五四三八円の一五分の二に当たる二六九万一三九一円が算入されていた。
(二) しかしながら、本件土地は以下に述べるとおり本件相続財産に属しないので、原告らの取得財産価額からいずれも二六九万一三九一円を減算すべきである。すなわち、
(1) 亡藤助は、同人所有の本件土地につき昭和四七年七月七日岩沢らとの間で、代金四、五三九万七〇〇〇円、同日手付金六〇〇万円、同年九月三〇日内金一〇〇〇万円、同年一一月三〇日残金の各支払いを受ける旨の売買契約を締結した(以下「本件売買」という。)が、右契約には特約条項として次のとおり定められていた。
<1> 買主は、本契約期間中該土地を任意分割し、他に転売した時はこの分割した土地の地目変更を行なう。又本契約期間中に所有権移転登記を行う時は、移転登記を行う坪数に坪単価を乗じた価格を支払い精算し最終土地残金に充当することとする。
<2> 本日より該物件に買主が宅地及道路を造成することを売主は承諾した。
<3> 中間金支払後買主が当該地上に建物を建築することを売主は承諾した。
<4> 公道面の道路敷分は売主の負担とする。
<5> 売主は道路指定許可に必要な書類と印鑑を提供し協力する。
(2) 右特約条項<2>、<3>及び<5>からすると、岩沢らは中間金を支払うことにより本件土地を使用収益するためその引渡しを受けることが合意されていたものであるところ、岩沢らは、右契約日に手付金六〇〇万円、同年九月三〇日に内金(中間金)一〇〇〇万円を支払つているから、同日本件土地の引渡しを受けたものである。
(3) そして、岩沢らは、同日本件土地を西武建設株式会社(以下「西武建設」という。)に転売し、かつ、その引渡しをしたのであり、西武建設は、これにより前記売買契約における買主の権利を譲り受け、同年一〇月二六日本件土地に建物を建築するため練馬区長に対して建築確認申請をし、本件土地の中央部に道路を造成し、同月一七日右道路につき建築基準法の規定による道路位置の指定を練馬区長に対し申請し、同年一一月一三日に申請どおり道路位置の指定がされた。
(4) ところで、本件土地は市街化区域内にある農地(畑)であるから、右土地を農地以外のものにするためその所有権を移転する場合には農地法第五条第一項第三号の規定による届出を経なければならないので、亡藤助及び西武建設は、同年一〇月七日本件土地につき東京都知事に対して、譲渡人を亡藤助、譲受人を西武建設、転用目的を住宅用地として農地法第五条第一項第三号の規定による届出をして、同月二〇日受理された。
(5) したがつて、本件土地の所有権は右届出の効力の生じた同日亡藤助から西武建設へ移転したというべきであり、本件土地は本件相続財産に属しないものである。
7 未収金について
本件相続開始時において本件売買代金のうち二九三九万七〇〇〇円が未収の状態にあり、右未収金は本件相続財産に属するところ、更正に係る原告らの取得財産価額にはいずれも右未収金の額の相続分相当額が算入されていない。
したがつて、原告らの取得財産価額にそれぞれ右未収金の原告らの相続分として右未収金の額二九三九万七〇〇〇円の一五分の二に当たる三九一万九六〇〇円を加算すべきである。
8 未払仲介料等について
本件相続開始時において本件売買に関する仲介料及び登記手数料(以下「仲介料等」という。)四〇万〇六〇〇円が未払いの状態にあり、右未払仲介料等は本件相続債務に属するところ、更正に係る原告らの債務控除額にはいずれも右未払仲介料等の額の相続分相当額が算入されていない。
したがつて、原告らの債務控除額にそれぞれ右未払仲介料等の原告らの相続分として右未払仲介料等の額四〇万〇六〇〇円の一五分の二に当たる五万三四一二円を加算すべきである。
9 未納所得税について
本件売買による亡藤助の分離長期譲渡所得に係る所得税額は六一八万〇九〇〇円であり、右所得税債務は本件相続債務に属するところ、更正に係る原告らの債務控除額にはいずれも右税額の相続分相当額が算入されていない。
したがつて、原告らの債務控除額にそれぞれ右所得税債務の原告らの相続分として右税額六一八万〇九〇〇円の一五分の二に当たる八二万四一二〇円を加算すべきである。
10 預り金について
(一) 更正に係る原告小沢弘道の債務控除額には、亡藤助が受領していた本件売買に係る手付金及び内金の合計額一六〇〇万円が岩沢らからの預り金として同原告が承継負担するものとして算入されていた。
(二) しかしながら、前記6に述べたように右金員は預り金ではなく本件相続債務に属しないので、同原告の債務控除額から右一六〇〇万円を減算すべきである。
第四被告の主張に対する原告らの認否及び反論
一 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1のうち、(一)の金額並びに同金額に(二)の(1)ないし(4)及び(五)の(1)、(2)の各金額を加算し、(三)の(2)の金額を減算すべきことは認めるが、その余は争う。
2 被告の主張2ないし4のうち、各(一)の金額は認めるが、その余は争う。
3 被告の主張5のうち、(一)の金額及び同金額に生命保険契約に関する権利九万五、四八四円を加算すべきことは認めるが、その余は争う。
4 被告の主張6の(一)の事実は認める。同(二)のうち、(1)の事実、(2)のうち岩沢らが本件売買契約の日に手付金六〇〇万円、昭和四七年九月三〇日に内金一〇〇〇万円を支払つた事実及び(4)の事実は認め、(2)のその余の事実及び(3)のうち岩沢らが同日西武建設に本件土地の引渡しをし、西武建設が本件土地の売買契約における買主の権利を譲り受けた事実は否認し、(3)のその余の事実は知らない。(5)は争う。
5 被告の主張7のうち、本件相続開始時において本件売買代金のうち二九三九万七〇〇〇円が未収の状態であつたこと及び更正に係る原告らの取得財産価額にはいずれも右未収金の額の相続分相当額が算入されていないことは認めるが、その余は争う。
6 被告の主張8のうち、本件相続開始時において本件売買に関する仲介料等四〇万〇六〇〇円が未払いの状態であつたこと及び更正に係る原告らの債務控除額にはいずれも右未払仲介料等の額の相続分相当額が算入されていないことは認めるが、その余は争う。
7 被告の主張9のうち、被告が本件売買による亡藤助の分離長期譲渡所得に係る所得税額と主張する六一八万〇九〇〇円の相続分相当額が更正に係る原告らの債務控除額にいずれも算入されていないことは認めるが、その余は争う。
8 被告の主張10の(一)の事実は認めるが、同(二)は争う。
二 原告らの反論
本件土地の所有権は本件相続開始時においていまだ岩沢らに移転しておらず、原告ら及び小沢とよは本件相続により本件土地を取得したものである。そして、本件土地の所有権が岩沢らに移転した時期は、亡藤助と岩沢らとの間の本件売買契約において定められているとおり、売買代金の残金二九三九万七〇〇〇円が支払われて本件土地の引渡しがされた昭和四七年一二月一五日である。
したがつて、本件土地は本件相続財産に属するし、本件相続開始時に未収であつた本件売買代金二九三九万七〇〇〇円は本件相続財産に属しないし、本件売買に関する仲介料等四〇万〇六〇〇円は本件相続債務に属しないし、被告が本件売買による亡藤助の分離長期譲渡所得に係る所得税額と主張する六一八万〇九〇〇円も本件相続債務に属することはなく、亡藤助が岩沢らから受領していた本件売買に係る手付金及び内金の合計額一六〇〇万円は預り金として本件相続債務に属するものというべきである。
第五原告らの反論に対する被告の認否
原告らの反論のうち、本件土地の売買代金の残金二九三九万七〇〇〇円が昭和四七年一二月一五日に支払われたことは認めるが、その余は争う。
第六証拠関係 <略>
理由
一 請求原因一及び二の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告らに対する各再更正及び過少申告加算税の各賦課決定に原告ら主張の違法が存するか否かについて判断する。
1 原告小沢弘道の相続税の課税価格について、被告の主張1の(一)の金額並びに同金額に同(二)の(1)ないし(4)及び同(五)の(1)、(2)の各金額を加算し、同(三)の(2)の金額を減算すべきこと、原告小沢一志、同小沢惟美及び同小沢兼八の相続税の課税価格について、被告の主張2ないし4の各(一)の金額、原告五十嵐照江の相続税の課税価格について、被告の主張5の(一)の金額及び同金額に生命保険契約に関する権利九万五四八四円を加算すべきことは、いずれも当事者間に争いがない。
2 本件土地について
(一) 被告の主張6の(一)の事実は当事者間に争いがない。
(二) 被告は、本件土地は本件相続財産に属しないと主張するのに対し、原告はこれを争うので、この点について判断する。
被告の主張6の(二)の(1)の事実及び岩沢らが本件売買契約の日に手付金六〇〇万円、昭和四七年九月三〇日に内金一〇〇〇万円を支払つたことは当事者間に争いがない。
そして、<証拠略>の結果を合わせると、本件売買契約において、残金は昭和四七年一一月三〇日限り所有権移転登記の申請をすると同時に支払う旨、本件土地の引渡しは売買代金の全額が支払われた時とする旨、本件土地の諸税公課及びその他の賦課金は取引期日(すなわち、売買代金が完済され、所有権移転登記の申請及び本件土地の引渡しがされるべき昭和四七年一一月三〇日)をもつて区分し精算する旨が約されていること、亡藤助は、当初本件土地を即金で売買することを欲していたが、本件土地が市街化区域内にある農地であり(この点当事者間に争いがない。)、買主側が建売業者であつて、本件土地を農地以外のものにするためその所有権を取得する場合であるので、農地法第五条第一項第三号の規定による届出を要し、また本件土地上に建売住宅を建築するためには建築基準法上の道路位置の指定を受ける必要があることから、それら手続に必要な期間をみて、前記のとおり売買残代金の支払期日を昭和四七年一一月三〇日とし、同日所有権移転登記の申請及び本件土地の引渡しをすることとしたこと、右のとおり本件売買取引の完結までに数か月を要することとなつたので、その間に前記のとおり内金(中間金)を支払うこととし、また建売業者である買主側の要望によりその便宜を計り、売買取引の完結前においても宅地及び道路の造成、建売住宅の建築及び売買等ができるようにするため前記のとおり特約条項(<1>ないし<3>及び<5>)を定めたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実からすると、本件売買契約においては、本件土地の所有権移転の時期を売買代金の残金が支払われた時(同時に所有権移転登記の申請及び本件土地の引渡しがされることとされている。)とする旨の特約が存したと推認するのが相当である。
そして、本件売買代金の残金二九三九万七〇〇〇円が支払われたのは昭和四七年一二月一五日に至つてからであることは当事者間に争いがない(<証拠略>によれば、本件土地につき亡藤助から西武建設への所有権移転登記が同月一六日受付でされていることが認められ、<証拠略>によれば、右のとおり売買残代金の支払い及び所有権移転登記の申請が遅れたのは、亡藤助が同年一一月二五日に至り急死したため、亡藤助の相続人(原告ら及び小沢とよ)の印鑑証明書その他右所有権移転登記の申請に必要な書類を用意することなどに日時を要したためであることが認められる。)。
そうすると、本件土地の所有権は、本件相続開始の時点までにはいまだ何人にも移転しておらず、右所有権は亡藤助の遺産として本件相続により同人の相続人である原告ら及び小沢とよに承継され、同年一二月一五日に至り右相続人から岩沢らに移転したものというべきである(なお、<証拠略>によれば、同月一六日受付の右所有権移転登記は、原因同年一一月二四日売買、所有者西武建設としてされていることが認められるが、<証拠略>によれば、右登記の申請は、便宜上相続登記を経由することなく、登記権利者西武建設(岩沢らからの本件土地の買受人であること後記のとおりである。)、登記義務者亡藤助相続人原告ら及び小沢とよとし、同年一二月一五日右相続人名義で作成された売渡証書を登記原因証書とし、司法書士生田目正重を代理人としてされたものであることが認められ、右登記は真実の所有権移転の過程を反映していないものというべきであるから、所有権の移転時期及びその当事者に関する前記認定の妨げとはならない。)。
これに対し、被告は、本件土地の所有権は亡藤助及び西武建設が昭和四七年一〇月七日本件土地について東京都知事に対してした農地法第五条第一項第三号の規定による届出が受理された同月二〇日に亡藤助から西武建設へ移転したと主張するところ、本件土地が市街化区域内にある農地(畑)であること及び右主張の届出及び受理の事実は当事者間に争いがない。しかしながら、亡藤助と岩沢らとの間の本件売買契約において本件土地の所有権移転時期について特約の存すること前記のとおりであるから、被告の右主張は失当である。
被告は、特約条項<2>、<3>及び<5>からすると岩沢らは中間金を支払うことにより本件土地の引渡しを受けることが合意されていたものであると主張するが、右特約は建売業者である買主側の便宜を計つての措置であつたことは前記認定のとおりであり、右特約条項は本件売買契約における本件土地の所有権移転の時期に関する約定についての前記認定とは矛盾するものではなく、右特約条項をもつて被告主張のような合意が存すると認めることはできず、また<証拠略>も右認定を覆えすに足りず、被告の右主張は失当である(また、<証拠略>によれば、岩沢らは昭和四七年九月三〇日本件土地を西武建設に売り渡す旨の契約をしたことが認められ、<証拠略>によれば、右は本件売買契約において売主が了承しているところであるが、亡藤助からの本件土地の買受人でる岩沢らが同土地を西武建設に売り渡す旨の契約をするにつき、必ずしも亡藤助から所有権の移転を受けていることを要するものではないから、これをもつて本件土地の所有権移転の時期に関する前記認定を左右することはできない。)。
以上の次第であるから、本件土地は本件相続財産に属するものである。
(三) したがつて、本件土地の価額の原告らそれぞれの相続分相当額は、これを原告らの取得財産価額から減算すべきではない。
3 未収金について
本件相続開始時において本件売買代金のうち二九三九万七〇〇〇円が未収の状態にあつたこと及び更正に係る原告らの取得財産価額にはいずれも右未収金の額の相続分相当額が算入されていないことは当事者間に争いがない。
被告は、右未収金は本件相続財産に属すると主張するが、本件土地が本件相続財産に属すること前記のとおりであるから、その売買代金である右未収金は相続開始時にはいまだ被相続人の債権として確定していなかつたというべきであり、右未収金は本件相続財産に属しない。
したがつて、右未収金の額の原告らそれぞれの相続分相当額を原告らの取得財産価額に加算すべき理由はない。
4 未払仲介料等について
本件相続開始時において本件売買に関する仲介料等四〇万〇六〇〇円が未払いの状態にあつたこと及び更正に係る原告らの債務控除額にはいずれも右未払仲介料等の額の相続分相当額が算入されていないことは当事者間に争いがない。
被告は、右未払仲介料等は本件相続債務に属すると主張するが、本件相続開始時にはいまだ本件売買契約による本件土地の所有権移転がなかつたこと前記認定のとおりであるから、右未払仲介料等はいまだ被相続人の債務として確定していなかつたというべきであり、右未払仲介料等は本件相続債務に属しない。
したがつて、右未払仲介料等の額の原告らそれぞれの相続分相当額を原告らの債務控除額に加算すべき理由はない。
5 未納所得税について
被告が本件売買による亡藤助の分離長期譲渡所得に係る所得税額と主張する六一八万〇九〇〇円の原告らそれぞれの相続分相当額が更正に係る原告らの債務控除額に算入されていないことは当事者間に争いがない。
被告は、右所得税債務は本件相続債務に属すると主張するが、本件相続開始時にはいまだ本件売買契約による本件土地の所有権移転がなかつたこと前記認定のとおりであるから、亡藤助に本件売買による譲渡所得があつたということはできない。
したがつて、右税額の原告らそれぞれの相続分相当額を原告らの債務控除額に加算すべき理由はない。
6 預り金について
被告の主張10の(一)の事実は当事者間に争いがない。
被告は、原告小沢弘道が預り金とした金員は本件相続債務に属しないと主張するが、本件相続開始時にはいまだ本件売買契約による本件土地の所有権移転がなかつたこと前記認定のとおりであるから、当時右金員はいまだ亡藤助に帰属することに確定していなかつたというべきであり、右金員は岩沢らからの預り金として本件相続債務に属するものである。
したがつて、右預り金の額を原告小沢弘道の債務控除額から減算すべき理由はない。
7 以上の次第であるから、原告小沢弘道の相続税の課税価格は、被告の主張1の(一)の金額に同(二)の(1)ないし(4)及び同(五)の(1)、(2)の各金額を加算し、同(三)の(2)の金額を減算した二億一九六二万円(一〇〇〇円未満切捨て、以下この項において同じ。)であり、原告小沢一志、同小沢惟美及び同小沢兼八の相続税の各課税価格は、それぞれ被告の主張2ないし4の各(一)の金額である二一一四万円、一九九〇万四〇〇〇円及び二三四四万九〇〇〇円であり、原告五十嵐照江の相続税の課税価格は、被告の主張5の(一)の金額に九万五四八四円を加算した七一二万五〇〇〇円である。
8 したがつて、原告小沢弘道に対する再更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち課税価格二億一九六二万円を超える部分、原告小沢一志、同小沢惟美及び同小沢兼八に対する各再更正のうち各更正を超える部分及び過少申告加算税の各賦課決定、並びに原告五十嵐照江に対する再更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち課税価格七一二万五〇〇〇円を超える部分は、いずれも違法であり、取消しを免れない。
三 よつて、原告らの本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 三好達 菅原晴郎 成瀬正巳)
別表 <略>