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東京地方裁判所 昭和50年(行ウ)17号 判決 1981年10月06日

原告 財団法人冨士霊園

被告 東京国税局長

訴訟代理人 藤村啓 奥原満雄 村上憲雄 外二名

主文

1  被告が昭和四四年一二月五日付納付通知書(東局徴特庶第一四四八号)をもつて原告に対してした金一億七五七八万二〇九〇円を限度とする第二次納税義務告知処分のうち、被告が昭和四五年一二月二六日付異議決定(東局徴訟特第三四号)によつて取り消した部分以外の部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文同旨の判決

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  被告は、昭和四四年一二月五日付納付通知書(東局徴特庶第一四四八号)をもつて原告に対し、国税徴収法(以下「法」という。)第三九条に基づき、三星観光株式会社(以下「三星」という。)の滞納にかかる法人税、源泉所得税、加算税及び延滞税につき金一億七五七八万二〇九〇円を限度とする第二次納税義務告知処分をした。原告は、これを不服として同月二二日異議申立てをしたところ、被告は、昭和四五年一二月二六日付(東局徴訟特第三四号)をもつて、三星の昭和三九年八月一日から昭和四〇年七月三一日までの事業年度分法人税にかかる滞納国税以外の部分を取り消す旨の異議決定をし(以下この異議決定によつて一部取り消された後の右第二次納税義務告知処分を「本件処分」という。)、原告は、昭和四六年一月一〇日その送達を受けた。そこで原告は、更に同年二月五日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、昭和四九年一二月二五日付で審査請求棄却の裁決がなされ、原告は、同月二七日裁決書の送達を受けた。

2  しかしながら、本件処分は、その基本債権とされた三星の納税義務自体が不明であるし、後記のとおり法第三九条の要件を欠くものであるから違法であり、その取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

請求原因1の事実は認めるが、同2の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件処分がなされた当時、三星が滞納していた国税は左記<1>ないし<4>の合計一億二四三一万五八九九円及びこれに附帯する延滞税であつた。

<1> 芝税務署長が昭和四一年一一月二八日付で納税告知した昭和四一年分源泉所得税の不納付加算税二一五〇円

<2> 芝税務署長が昭和四二年四月一九日付で納税告知した昭和四二年分源泉所得税のうち四万九四四九円及び不納付加算税五九〇〇円

<3> 芝税務署長が昭和四二年六月三〇日付で更正及び賦課決定した昭和三九年八月一日から昭和四〇年七月三一日までの事業年度分法人税四一八七万一二〇〇円及び同重加算税一二五六万一三〇〇円

<4> 芝税務署長が右<3>と同じ日付で更正及び賦課決定した昭和四〇年八月一日から昭和四一年七月三一日までの事業年度分法人税六三四一万四四〇〇円、同重加算税六三八万七六〇〇円及び過少申告加算税二万三九〇〇円

被告は、本件処分をもつて、右国税のうち法定納期限を昭和四〇年九月三〇日とする右<3>の法人税四一八七万一二〇〇円、重加算税一二五六万一三〇〇円及びこれに対する国税通則法所定の延滞税(以下「本件滞納国税」という。)について、以下のとおり法第三九条に基づき、原告に対し限度額を一億七五七八万二〇九〇円とする第二次納税義務の告知処分をしたものである。

2  原告は、墓地の造成管理等を行なうことを目的とし昭和三九年一〇月六日設立された財団法人であるが、三星は、同年九月二九日静岡県駿東郡小山町大御神字角取山九四一番一一八外の別表一の番号1ないし35記載の土地合計二二三町九反九畝二八歩(以下「本件土地」という。)につき同表記載の所有者らと賃貸借契約を締結し、右契約に基づく賃借権(以下「本件賃借権」という。なお、右権利は形式上は賃借権とされているが、その実体は地上権である。)を同年一〇月六日原告の設立と同時に寄附により原告に帰属せしめた。

右のとおり、三星は、本件滞納国税の法定納期限の一年前の日である昭和三九年一〇月一日以後に本件賃借権を無償で譲渡した。

3  三星は、昭和四一年七月ころ倒産し、本件処分がなされた当時めぼしい財産をほとんど有しておらず、1記載の国税(これに対する本件処分時までの延滞税は四四九六万〇一一九円であり、これを1の国税に加算すると、本件処分当時における三星自身の負担していた国税は一億六九二七万六〇一八円であり、これとは別に三星は三甲株式会社の第二次納税義務者として八四四六万五四六七円を納付する義務を負担していた。)の徴収が不足する状態にあつたが、右の徴収不足は、膨大な資本を投じて得た資産である本件賃借権を右のとおり無償で原告に譲渡したことに基因している。

なお、被告は前記1記載の国税のうち本件滞納国税以外について、その後の調査によつても三星の所有財産を把握できなかつたので、昭和四六年三月一六日法第一五三条第一項第一号により滞納処分の停止をしている。

4  本件賃借権は、その評価額を一億七五八七万二〇九〇円として原告に寄附されたものであり、本件処分も原告が同額の利益を得たものとして、同額を限度として原告に第二次納税義務を負わせたものであるが、本件賃借権の寄附時における客観的な評価額は、土地の更地価額が一平方メートル当り三七〇円を下らず、賃借権割合を三五%とみても、二億八八三〇万円を下らないのであり、その後これが霊園として開拓、整備されたことを考慮するならば、本件処分時における原告の現存利益は同額を下廻るものではない。

5  よつて、原告は法第三九条に基づき第二次納税義務を負うべきものであるから、本件処分は適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1の事実は不知。原告は本件処分の有効性を争つているのであるから、被告としては本件処分の原因となつた三星に対する国税債権の発生事由を主張立証すべきである。

2  同2の事実中、原告が墓地の造成管理等を行なうことを目的として昭和三九年一〇月六日設立された財団法人であること及び三星が同年九月二九日本件土地につき賃貸借契約を締結したことは認めるが、その余は否認する。

3  同3の事実中、三星に対する徴収不足が本件賃借権を寄附したことに基因しているとの点は否認し、その余は不知。

4  同4の事実中、三星が寄附した賃借権の評価額が形式上一億七五七八万二〇九〇円とされたことは認めるが、その余は争う。

5  同5の主張は争う。

五  原告の主張(本件処分の違法事由)

1  法第三九条の規定は、滞納者の外に第三者の存在を前提とし、この両者間の譲渡行為、債務免除等の行為について規定したものであることは法文上明らかであるところ、財団法人設立のためにする寄附者の財産出捐の行為は、ある目的のために寄附者の特定の財産を他の財産と分離する行為であつて、そのときに第三者の存在なく、従つて第三者に利益を与える行為ではない。なるほど、財団法人設立のためにする財産の出捐も対価なくして自己の固有財産を減少させるもので、寄附者の側から見れば経済的には無償譲渡と類似の結果を生ずることにはなるが、両者は法律上別個のものであり、租税法律主義を採用する我が憲法下にあつては、租税法規の解釈は厳格に行なうべきであつて、納税者の不利益に類推、拡張解釈することは許されない。

2  法第三九条の滞納者の処分行為に財団法人設立のための寄附が含まれるとしても、該財団法人が同条により第二次納税義務を負うためには、滞納者の処分行為が滞納国税の法定期限の一年前の日以後の行為であることを要するところ、三星が原告設立のために賃借権を寄附したのは、本件滞納国税の法定納期限の一年前の日である昭和三九年一〇月一日より前であるから、同条に該当しない。

(一) 財団法人の設立は寄附者の財産出捐の意思表示(寄附行為の作成を含む)と主務官庁の許可がその主たる要件であるが、寄附者が寄附行為を作成し、自己の財産の一部をその固有財産と分離し、これを一定の目的に捧げた後、この分離された財産に対して法人格が付与されるものであることに照らせば、滞納者の処分の時期は財産出捐という法律行為が行なわれたときをいうべきであり、出捐された財産に対し官庁の許可により法人格が付与されたときをいうものでないことは法文上明らかである。けだし、財団法人の設立においては寄附者の行為は寄附行為を作成し、財産を出捐し、設立許可を申請することにより完了するのであつて、その後は寄附者の意思とは関係のない主務官庁の許可を待つのみであるから、もし法第三九条の処分の時期を主務官庁の許可のときとするならば、官庁の事務手続の都合や遅延等寄附者のあずかり知らない事柄によつてその時期が左右されるという不当な結果となる。

(二) 本件の場合、三星は、霊園の建設、霊園の附帯事業及び観光事業等を営む目的で静岡県駿東郡小山町大御神所在の合計五六万坪弱に及ぶ広大な土地につき、昭和三九年五月一七日付でその地主との間で賃貸借契約を締結し、同年五月二五日設立中の財団法人冨士霊園(設立代表者安井謙)に対し、右契約に基づいて発生した賃借権及び現金一〇〇〇万円を寄附する旨の書面による意思表示をした。そうして同日静岡県御殿場市において、安井謙外六名が設立総会を開催し、寄附行為を作成し、かつ設立後の理事、監事を選出し、次いで理事の互選により、安井謙を理事長に選任するなど、設立許可に必要なすべての要件を充足したうえ、同年六月四日設立許可申請をしたものである。右の経緯によれば、三星が財産を処分した時期は、賃借権を財団のため拠出する意思表示をした同年五月二五日である。しかもこのときにおいてすでに権利能力なき財団が成立し、右賃借権は三星の手から分離され、以後設立中の財団に帰属するものとして管理されていたものであつて、三星が財産を処分した時期が、本件滞納国税の法定納期限の一年前の日より以前であることは明らかである。

(三) なお、前記昭和三九年五月一七日付賃貸借契約の契約書には「土地賃貸借仮契約書」なる標題が付されていたが、その内容は通常の土地賃貸借契約であり、ただ立木補償等については、なお当事者協議のうえ定めることとし、これが決定した後あらためて賃貸借契約書を作成することとしたものであるところ、その後立木補償等について決定を見たので、あらためて同年九月二九日付で賃貸借契約書を作成したものであつて、これが被告の主張2記載の賃貸借契約である(以下前者を「仮契約」と、後者を「本契約」という。)。しかしながら、両者は別個のものではなく、本契約は仮契約の内容を確認、整備し、かつ補償料等の条項を付加し、また目的土地は物理的には特定していたものの富士山麓の広大な山岳地帯の一部であるため、地番に若干の錯誤があり、これを修正して別表一の番号1ないし35の本件土地としたもので、仮契約によつて発生した賃借権は同一性を維持して本件賃借権に移行したのである。

3  三星がした賃借権の寄附は対価なき無償のものではないから、法第三九条の処分には該当しない。

(一) 本件において拠出された賃借権は、反面において賃料等の債務を伴う権利であり、寄附者による出捐の結果、財団は該土地を将来にわたつて使用する権利を取得すると同時に、一方において賃料、補償料という債務も負担することとなつたのであり、寄附者の側から見れば、権利の出捐と同時にその対価たる債務もなくなつたのである。契約時における賃料の額は反当り年間九〇〇〇円、年間総額一七〇一万円であつて、原告はこれを将来にわたつて負担するわけであり、この外原告は三星が地主に支払うことを約した二五五一万一一〇〇円の補償料の支払義務を承継して地主に支払いをしたのである。

(二) 三星が賃借権を拠出したのは単なる一方的な出捐ではなく、諸々の利益を受けるための三星の事業のための出費であり、三星はこの見返りとして実質上多額の利権を取得しているのであつて、滞納者による対価なき無償譲渡又は著しく低廉な価額による譲渡ではない。すなわち、三星の代表取締役星均は、大規模な霊園を建設経営し、墓石の売上げを始めとして墓地関係のサービス等の諸事業を行ない、収益を挙げることを計画したが、現在墓地経営は宗教法人又は公益法人以外には許可されないため、財団法人を設立して墓地を経営させ、三星としては墓石の販売その他関連事業を行なつて収益を挙げることとした。例えば、三星は、法人設立後原告との間で、原告の経営する霊園の墓石総数二〇万基につき三星が製造する星式墓石のみを使用する旨の契約を結び、その納入価額を日本型一基三万三〇〇〇円、西洋型一基三万円と定めたのであるが、三星としては一基について約一万円の利潤を得ることができるようになつていたのであつて、二〇万基につき総額二〇億円の利益を受ける権利を獲得していたのである。このように三星は賃借権を拠出しても、反面莫大な利権を取得したのであるから、三星のした寄附は無償譲渡又は著しく低額な対価による処分というを得ない。

4  仮に三星の滞納国税につき滞納処分の執行をしてもなお徴収不足の状態にあるとしても、それは三星が原告に対し賃借権を寄附したことに基因するものではない。

(一) 三星が原告設立のために寄附した賃借権は、原告が当該土地において霊園を建設経営する目的をもつて使用すべく、地主と三星との間で締結された契約に基づくものであり、契約上も、民法第六一二条からしても、原告以外には譲渡性のない、また借地法の適用もない通常の土地賃借権である。このような賃借権は財産的価値を有するものではないし、三星がこれを保有していたとしても何らの効用もない。ことに墓地、埋葬等に関する法律(昭和二三年法律第四八号)の規定によれば、墓地を経営するには都道府県知事の許可を要するところ、現在墓地経営は公益法人又は宗教法人にのみ許可されているので、三星がこれを保持していたとしても何らの使用価値もなく、かえつて賃料の支払いを要するので、たちまちその支払いに窮し、賃貸借契約は解除され、賃借権は消滅してしまうのである。このような性格の賃借権を提出したとしても、賃料の負担が解消されこそすれ、租税支払能力喪失の原因となるものでないことは明らかである。

また、仮に三星が賃借権を保有し、かつ被告がこれに対し滞納処分を執行したとしても、換価性はなく、国税の満足を得ることはできないのであつて、三星の租税負担能力の喪失は、本件賃借権の拠出ではなく、三星が賃貸借契約締結に当つて多額の金銭を補償料の名目で地主に支払つたことにあるものと考えるべきである。

(二) 法第三九条を適用し得るのは、滞納者の処分行為によつて他に執行する資産がなくなつたとき又は滞納税額に不足するときであつて、滞納者の処分行為があつても他に資産があるときは徴収可能であり、徴税当局がこれを看過し、漫然と時間が経過するうちに滞納者の資産状態が悪化し、徴収不足の状態が生じた場合には、右徴収不足は滞納者の処分行為に基因するものとはいえず、法第三九条は適用されないものというべきである。本件において、三星は昭和四二年一二月一三日東日本開発株式会社(以下「東日本開発」という。)に対し、左記資産を合計二億六七〇〇万円で売渡したものであつて、三星が当時右金額を超える資産を有していたことは明らかであり、これに対して執行していれば、三星からの徴収は可能であつたのである。従つて、仮にその後約二年を経過した本件処分当時三星からの徴収が不足する状態にあつたとしても、それは三星が賃借権を原告に寄附したことに基因するものではない。

(1) 次の土地の賃借権(但し、土地は静岡県駿東郡小山町大御神所在のものであるから、字名及び地番のみによつて表示し、以下この例による。)

字名     地番     地積

<1> 中野八九三番    一一八四一九

<2> 人穴八八三番一   一一一七〇八

<3> 林の上八八六番    四六六〇四

<4>  〃 八八五番一   四二一二七

<5> 角取山九四一番一九  四〇八二八

<6>  〃 九四一番一    七二一七

<7>  〃 九四一番二五    九〇〇

<8>  〃 九四一番六七    九〇〇

<9>  〃 九四一番二七      一

<10>  〃 九四一番二六    八二九

<11>  〃 九四一番二八    八二二

<12>  〃 九四一番二九      八

なお、右土地のうち<1>ないし<5>の土地は別表記載の番号32、31、3、4及び9の土地であり、従つて本契約の対象とされていたが、地番に錯誤があり、これを修正した結果、最終的には寄附の対象とされていないし、<6>ないし<12>の土地はもともと霊園用地ではない。

(2) 実用新案権(第五五六〇六八号、出願公告昭三六―一六四七八号)

(3) 冨士霊園内に所在する左記建物八棟(庭園設備、建物内の什器、備品、家具等を含む)

家屋番号        構造         面積(平方メートル)

<1> 八八五番一の一 木造草葺平家建居宅   一二六・一五

<2> 同  番一の二 木造杉皮葺平家建居宅   一七・八四

<3> 同  番一の三 木造草葺平家建店舗   一〇四・三四

<4> 同  番一の四 木造瓦葺平家建居宅    三六・二二

<5> 同  番一の五 木造瓦葺平家建工場    八九・九一

<6> 同  番一の六 木造草葺二階建店舗(一階)六四・八〇

(二階)四〇・五〇

<7> 九四一番四   木造草葺平家建店舗    一九・八七

<8> 八八二番    木造草葺平家建店舗    一九・八七

5  原告が寄附を受けた賃借権は無価値であつて、原告は右寄附により被告主張のような利益を受けていない。

第二次納税義務は滞納者の処分により譲り受けたものの物的価額に限定されるべきものであるところ、原告が寄附を受けた賃借権は前記のとおり借地法の適用のない通常の民法上の賃借権であり、かつ原告のみが墓地経営のみに使用し得る権利であつて、法律上も事実上も換価性なく、客観的価値、交換価値もなく、従つて担税力はない。前記のとおり、寄附にかかる賃借権の評価額は形式上一億七五七八万二〇九〇円とされたのであるが、これは、あたかも会社の資本金と同様、計算上の抽象的な価値額であり、ことに本件では財団法人にとつての主観的な価値額であつて、同額の交換価値、客観的価値を有することを意味するものではない。

六  原告の主張に対する被告の認否及び反論

1  原告の主張1のうち、法第三九条の規定が滞納者の第三者に対する財産の無償譲渡等の処分行為に基因して徴収不足となつた場合を要件としていることは認めるが、その余は争う。

三星のした賃借権の寄附は国税徴収法施行令(以下「令」という。)第一四条の適用除外の場合に該当しないし、財団法人設立のための寄附は無償による財産の処分行為である点において贈与に類似し、寄附財産は主務官庁の法人設立許可により財団法人に帰属するから(民法第四二条第一項)、利益を受ける第三者も存在しており、寄附が法第三九条の処分行為に該当することは明らかである。

2  同2の冒頭の事実のうち、本件滞納国税の法定納期限の一年前の日が昭和三九年一〇月一日であるとの点は認めるが、賃借権の寄附が同日より前に行なわれたとの点は否認する。(一)のうち、財団法人設立の主たる要件が寄附者の財産出捐の意思表示と主務官庁の許可であることは認めるが、主張は争う。(二)のうち、三星が昭和三九年五月一七日付で地主と契約を締結し(但し、仮契約である。)、同年五月二五日付で右契約に基づく権利と現金一〇〇〇万円を寄附する旨の書面を作成し、同日設立総会が開かれたものとして、安井謙らが寄附行為を作成し、同年六月四日付で財団法人設立許可申請がなされたとの外形的事実は認めるが、その余は争う。(三)のうち三星が同年五月一七日付で「土地賃貸借仮契約書」を作成し、また同年九月二九日付で本契約を締結したことは認めるが、その余は争う。

法第三九条にいう滞納者の財産処分とは、単に滞納者が財産の無償譲渡等の意思表示をしただけでは足りず、その財産が滞納者の帰属を離れ、第三者に移転した場合を意味するものと解すべきである。これを本件についていえば、本件賃借権が三星の帰属を離れ、原告に帰属した時点で、三星は資力を喪失し、同条の処分があつたものというべきところ、その時点は原告が法人として設立許可を受けた昭和三九年一〇月六日であり、それ以前には右財産権につき三星以外にいかなる帰属主体も存在せず、従つて同日をもつて法第三九条にいう処分の日とみるべきである。

原告は、財団法人設立前に原告の前身として権利能力なき財団が成立していたと主張する。しかしながら、権利能力なき財団が成立するには、その財団とされるものが個人財産から分離独立した基本財産を有し、かつその運営のための組織を有し、もつていわゆる権利能力なき財団として社会生活において独立した実体を有していると認められなければならないところ、原告が主張する仮契約に基づく賃借権は、あくまで厚生大臣の設立認可を受けんがための便法として急拠三星が地主と仮契約した霊園対象予定地に過ぎず、原告の基本財産としての本件賃借権は、厚生省から右仮契約に基づく権利を基本財産とすることが不適当との指示を受け、本契約を締結して生じたものであるし、各契約の条項によつても原告設立前にあつて右賃借権が三星の個別財産から分離され、何らかの第三者に帰属するということはあり得ないのである。また、寄附されたという現金一〇〇〇万円は、昭和三九年六月二日はじめて預金され、しかも三星の代表取締役星均の借入金の担保として質権が設立され、同年七月三一日には同人の借入金と全額相殺されているのである。以上によれば三星が同年五月二五日財産を寄附し、同日設立総会が開かれたこと自体も疑わしく、同年一〇月六日までは、原告の基本財産に予定されていたものの管理はすべて三星が行なつていたものであり、原告主張の権利能力なき財団はもちろん、他のいかなる第三者もその管理、運営を行なつていたものではない。従つて、原告主張の権利能力なき財団を認める余地はない。

3  原告の主張3(一)のうち、三星が原告に寄附した賃借権が賃料支払義務のあるものであることは認めるが、原告が補償料を支払つたとの点は不知、その余の主張は争う。将来における賃料支払義務があるからといつて、賃借権それ自体の財産的価値が否定されるものでないことはいうまでもない。

同(二)の主張は争う。寄附行為の目的財産に原告主張のような墓石納入権なるものを設定しなければならないという特別の負担があるとはいえないし、寄附者に原告主張のような事実上の利益があつたとしても、寄附という処分行為が有償となるものではない。

4  原告主張4の冒頭の主張は争う。

同(一)のうち、原告が寄附を受けた賃借権が民法上の賃借権であつて、借地法の適用もないこと(但し、本契約の条項によれば、実質は地上権というべきものである。)、墓地、埋葬等に関する法律によれば、墓地を経営するには都道府県知事の許可を要すること及び三星が地主に対し補償料の名目で金銭を支払つたことは認めるが、現在墓地の経営は公益法人又は宗教法人にのみ許可されることになつているとの点は不知、その余の主張は争う。本件賃借権は右のとおり、その実質は地上権というべきものであり、三星は契約に際し補償料の名目で権利金の支払いをしているのであるから、予め譲渡、転貸の承諾が与えられているのであり、十分価値あるものといえる。

同(二)の主張は争う。法第三九条の徴収不足の判定時期は第二次納税義務の告知処分時とすべきであり、右告知処分時に徴収不足であれば、そのときから遡つて法定納期限一年前の日以後の滞納者の処分は徴収不足と基因関係があるというべきである。三星が東日本開発に売却したものとして原告が主張する資産のうち、(1)の土地賃借権は本件寄附にかかる財産であつて、昭和四二年一二月一三日当時すべて原告に帰属していたものあり、また(2)の実用新案権については、当時の登録名義人は泰宝商事有限会社であつて、三星に帰属していた財産ではなく、いずれにしても三星が処分し得るものではない。また(3)の建物については、三星が三甲株式会社の滞納国税(法人税等一億〇二九九万二二〇〇円)の第二次納税義務者であつたため、その滞納処分として被告が昭和四一年一〇月二一日差押えたのであるが、すでに右差押国税に優先する債権があり、公売を実施しても配当を得られる見込みもなかつたので右差押えを解除した。右のとおりであるから、三星が東日本開発に資産を処分したから、三星が徴収不足の状態になかつたとの原告の主張は失当であり、その他三星の所有の資産につき、右(3)の建物と同様に差押え又は参加差押えをしたが、いずれも配当を受けられず、又はその見込みもないので、これを解除したのである。

5  原告の主張5は争う。賃借権が借地法の適用を受けるか否かによつてその財産的価値及び譲渡手続などに差異が生ずるとしても、借地法の適用のない賃借権が財産的に無価値となつたり、譲渡性が失われるということになるものではない。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一、二号証によれば、昭和四五年一二月二六日付異議決定によつて一部取消された後の本件処分において原告に対する第二次納税義務の基本債権とされた国税は、三星の本件滞納国税、すなわち法定納期限を昭和四〇年九月三〇日とする昭和三九年八月一日から昭和四〇年七月三一日までの事業年度分法人税四一八七万一二〇〇円、同重加算税一二五六万一三〇〇円及びこれに対する延滞税であることが認められ、この認定を左右する証拠はない。

原告は、右三星の納税義務の存否が不明であるというが、第二次納税義務の基本となる国税の納税義務については、これを確定した課税処分が不存在又は無効でない限り、その瑕疵が第二次納税義務告知処分の効力に影響を及ぼすものではなく、従つて第二次納税義務告知処分の取消訴訟においては、基礎となる課税処分の不存在又は無効を主張立証するのであれば格別、そうでない限り滞納者の納税義務の存否又は数額を争うことはできないものというべきである。しかるに原告はかかる主張立証をしていないのであるから、原告の前記主張は理由がない。

二  そこで、以下法第三九条の要件の存否について判断するに、原告が墓地の造成管理等を目的とし、昭和三九年一〇月六日厚生大臣の設立許可により成立した財団法人であることは当事者間に争いがなく、また被告は、三星に対する本件滞納国税を含む国税の徴収が不足する状態にあるとし、右徴収不足は三星が右設立許可の日に本件賃借権を原告に寄附したことに基因するとして本件処分をしたものである旨主張し、他方原告は、三星が寄附したのは同年五月一七日付仮契約に基づく賃借権であると主張するのであるが、同時に右権利は同年九月二九日付本契約に基づく賃借権に同一性を保ちながら移行したというのであるから、結局、その時期はさて措き、本件賃借権が原告設立のために三星から寄附されたこと自体は当事者間に争いがないものと解される。

1  原告は、財団法人設立のためにする滞納者の寄附は法第三九条の処分に当たらないと主張する。

しかしながら、法第三九条は、滞納者が国税債務の引当てになるべき財産を無償又は著しく低い価額で処分した結果、滞納国税の徴収に不足を来たした場合において、右処分の相手方に国税の納付義務を負わせるものであるところ、財団法人設立のための寄附はその無償性において贈与に類するものであるし(民法第四一条参照)、設立許可前といえども後記のとおり権利能力なき財団の存在を肯定し得る場合があり、その場合税法上も独立の納税義務の主体として扱われること(国税通則法第三条及び法第三条、第四一条等参照)、そうでなくても、けつきよくは設立許可により財団法人が寄附財産を取得するに至ることに照らせば、寄附によつて利益を受ける相手方も存在するものということができ、従つて寄附は法第三九条にいう処分に当たるものというべきである。また、右処分の相手方が本件の場合、令第一四条によつて除外される場合に当たらないことは明らかである。

2  そこで進んで本件賃借権の寄附がなされた時期について判断する。

(一)  先ず、原告が設立された経緯について検討するに、成立に争いのない甲第三号証の一ないし一二、同号証の一三の一、二、同号証の一四の一ないし七、同号証の一五ないし一九、同号証の二〇の一ないし五、同号証の二一の一ないし三七、同号証の二二、乙第一号証の一ないし一〇、第五号証、第八号証、第一一号証の一ないし一〇〇(但し、乙第一号証の二ないし一〇及び第五号証については原本の存在についても争いがない)、証人小林新之助の証言により真正に成立したものと認められる乙第一二号証、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる乙第一三号証、証人高山朗、同勝又省吾、同神成昇造、同清水元信及び同星均の各証言(但し証人星均の証言中、後記措信しない部分を除く)によれば、次の事実が認められる。

(1) 静岡県駿東郡小山町の富士山麓に広大な公園墓地を作る計画は、三星の代表取締役星均が昭和三三年ころから構想していたものであるが、これを財団法人として設立することが具体化したのは、昭和三八年ころからであつて、星均は、同年四月に小山町長に就任した神成昇造、地元出身の代議士遠藤三郎、参議院議員安井謙ら有力者の賛同を得、これらの者を推進母体とし、三星の職員を動員して、財団法人設立のための準備を行なつた。

(2) 当時、小山町には右公園墓地建設計画の外、自動車レース場を建設する計画があり、同町としてもこの両開発計画を積極的に進めることにより町の発展を図ろうとし、昭和三九年初旬には同町の調整によつて、同町大御神地区の山林原野のうち、東西に走る公道の北側で、同地区を南北に区切る沢の東側を自動車レース場(現在の「富士スピードウエイ」)の、西側のほぼ五〇万坪余にのぼる区域を公園墓地の各敷地とすることが確定した。

(3) このように計画が具体化するにつれ、東京都港区芝公園二五号地八番七所在の三星の本社内に設立事務所が置かれた外、現地に近い三星所有の御殿場ホテル内に設立事務所が置かれ、三星の職員数名が財団設立のための事務に当たり、昭和三九年二月からは前記遠藤三郎の紹介で、財団設立のための業務に専従する職員として勝又省吾が三星に採用され、同人は右推進母体となつた者らの指揮の下で用地確保のため多数地主らとの交渉を行なつた。

(4) これに対して地主らとしては、買収よりも賃借権設定にして貰いたいとの意向が強く、小山町としてもその方向で用地確保について全面的に協力することとし、同町役場の企画室長及び同室係員数名が地主らに対する側面からの説得に当たり、同年五月一七日には小山町大御神地区の前記予定された区域内の合計一八六町二反八畝二〇歩(五五万八八六〇坪)に及ぶ土地につき、三星が借主となつて地主らとの間で「土地賃貸借仮契約書」と題する契約書に調印するに至つた(この仮契約が締結されたことは当事者間に争いがない。)。右契約書によると、その目的とされた土地の明細は別表一、二の<2>欄に○印を付した土地であつて、同記載の地主らは三星に対し、その経営する霊園建設及びこれに附帯する観光事業のために右土地を賃貸する旨を約し、但し、財団法人冨士霊園の設立が認可されたときは借地権をこれに譲渡することができるものとして、設立後の原告が賃借人となることが予定されており、また一か年以内に立木補償料を決定のうえ本契約を締結するものとし、期間は本契約締結時より二〇年、賃料は一反当り一か年九〇〇〇円とする旨の定めがなされた。

(5) 次いで、同年五月二五日御殿場市において、推進母体となつた安井謙ら七名が出席して設立総会を開催し、星均が前記土地の賃借権(坪当り一〇〇円として合計五五八八万六〇〇〇円と評価された。)及び現金一〇〇〇万円(第一銀行尾久支店通知預金)を設立しようとする財団に寄附する旨の書面による意思表示をし、要旨左記のような寄附行為が可決された。

<1>名称  財団法人冨士霊園という。

<2>事務所 静岡県御殿場市東田中一六一五番地に置く。

<3>目的  無縁仏の供養をするとともに墓地の経営を通じ社会一般大衆の福祉に寄与する。

<4>資産  前記寄附にかかる財産を基本財産とし、その他寄附金品、資産から生ずる収入、事業に伴う収入等をもつて構成する。

<5>役員  理事は五名以上八名以内、うち一名は静岡県知事の推薦する県職員をもつてあて、任期は三年とする。監事は二名以上五名以内、うち一名は歴代の小山町長をもつてあて、任期は二年とする。

<6>職務  理事は理事会の議決に基づいて会務を執行し、理事の互選により理事長を定め、理事長はこの法人を代表し、会務を統轄する。

そうして同日、理事に安井謙、山田隆禧、遠藤三郎、山田光成及び星均が、監事に松平勇雄及び河本喜与之が選任され、また設立代表者兼設立後の初代理事長に安井謙が選任された。

(6) その後、前記勝又省吾ら三星の職員が各地主の指示を受けて目的土地の境界を確定し、面積を実測し、そのために必要な立木を伐採し、更に補償額決定のために立木を調査するなどの作業を行なう一方、星均の指示を受けた三星の東京本社職員が設立許可申請に必要な書類を整え、設立代表者安井謙が同年六月四日付で静岡県知事を経由して厚生大臣宛に設立許可申請書を提出した(同日付で設立申請書が提出されたことは当事者間に争いがない。)。そうして、同人及び前記神成昇造町長らが厚生大臣に陳情するなどして設立許可が下されるよう運動し、また前記理事に選任された者らも、それぞれの立場で財団運営のための組織作りや、事業計画策定の作業を指揮するなどして、財団法人設立のための準備が行なわれた。

(7) このようにして、同年九月には目的土地の確定、立木の調査等の作業が進み、小山町の斡旋もあつて地主らに対する補償金についての交渉がまとまつたため、同月二九日付で別表一の番号1ないし35記載の本件土地につき、同記載の地主らを貸主とし三星を借主とする賃貸借契約(本契約)が締結された(本契約締結の事実は当事者間に争いがない。)。その契約書によると、期間が本契約締結の日から三〇年とされ、特別補償料として反当り四万円ないし六万円を地主に支払うことが約束され、また財団法人冨士霊園の設立が許可されたときは賃借権をこれに譲渡することができるものとし、地主は右譲渡を承諾するが、右以外の者に対する譲渡転貸については別途承諾を得なければならないものとし、設定された権利は賃借権であるが「賃貸借の目的が霊園建設であることからみて実質は地上権であることを承諾する。」旨の文言が加えられた外、その内容は前記仮契約とほぼ同一である。右の本契約の目的土地と仮契約におけるそれとの異同を比較対照すると別表一、二の<2>及び<3>欄にそれぞれ○印で示すとおりであつて、仮契約の目的とされていた土地のうち保安林が含まれている字上の山及び人穴地区等の二一町九反八畝二歩を除外し、代りに字角取山及び林の上地区等から五九町六反九畝一〇歩を加えたもので、霊園の敷地全体から見れば、南東隅の部分が除かれ、やや北東側に移動したものの、大部分は重なり合つているのであつて、ほぼ同一性を保つて本契約に移行したものということができる。また、本契約において右のとおり地上権なる文言が入つたのは、墓地の永続性を確保すべきであるとの観点から難色を示していた厚生省及び静岡県当局の意向に添つたものであるが、契約書の記載全体から見れば、設定された権利が賃借権であることには変りがないものと解される。

(8) このようにして、同年一〇月六日厚生大臣から財団法人設立の許可がなされた(この事実は当事者間に争いがない。)。

(9) 以上の経過において、寄附行為作成前はもちろん作成後においても、財団法人設立のために要する諸費用は主として三星において賄つていたのであつて、(5)のとおり同年五月二五日付で寄附の意思表示があつた一〇〇〇万円については、同日現在第一銀行尾久支店には預金されていなかつたが、同年六月二日付で財団法人冨士霊園名義の通知預金口座が開設され、一〇〇〇万円が預け入れられ、その後同年七月三一日付で全額払い出されている。

(10) なお、本件賃借権の大部分については賃借権設定登記がされているが、右登記は原告が設立された後の別表一の<5>欄記載の日付で、すべて原告が直接各地主らとの間で締結した昭和三九年九月二九日付設定契約(但し、別表一の番号1の土地については同月二〇日付とされている。)を原因としてなされている。

以上のとおり認められ、証人小林新之助及び同星均の各証言中、右認定に反する部分は採用できず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  ところで、滞納者の財産処分行為によつて利益を受けた者が法第三九条に基づき第二次納税義務を負うためには、滞納者の処分行為が当該滞納国税の法定納期限の一年前の日以後に行なわれた場合に限られるところ、右にいう処分行為の時期については、処分行為によつて該財産が国税債権の引当てとなるべき滞納者の一般財産から離脱し、相手方に帰属したときを基準として判断するのが相当であり、そうすると、不動産の処分のように登記を対抗要件とする物権変動については、その対抗要件を具備したときに完全に滞納者の一般財産から離脱したものといい得るのであるが、本件のようにいまだ対抗力の付与されていない賃借権を処分した場合にはその実態に即して判断する外はない。そうして、民法による財団法人の設立は、寄附者が目的財産を設定し、これが独立の存在をもち得るための内部規則を定める行為、すなわち寄附行為に基づき、これに主務官庁が許可を与えることによつて成立するものであり、寄附行為が生前処分であるときは、目的財産は右設立許可のときから法人に帰属し、法人の財産を組成するものとされており(民法第四二条第一項)、本件賃借権が遅くとも原告につき設立許可のあつた昭和三九年一〇月六日には原告に帰属したことは当事者間に争いがないのであるが、寄附行為と設立許可との間には通常時間的間隔があり、この間目的財産が寄附者の財産から分離せられ、その管理体制が確立されて設立許可申請手続が推進されている場合には、いわゆる権利能力なき財団としての実態を認め、目的財産は寄附者の帰属を離れて設立中の権利能力なき財団に帰属しているといえる場合があり得るものというべきである。そこでこれを前段認定の事実に基づいて考察するに、三星が昭和三九年五月二五日付で寄附の意思表示をした財産のうち一〇〇〇万円については、証人高山朗の証言によると、そのうち八〇〇万円は財団事務所の敷金として、その余は諸費用の支払いのために充てられたことが認められるし、土地の賃借権については、同月一七日付の仮契約によつて土地の範囲、契約の目的、賃料、期間等が一応定められ、一か年以内に本契約を締結するとされたのであり、この事実と寄附書(前掲甲第三号証の一九)の文言からすれば、寄附の対象は仮契約によつて特定され、かつ本契約によつて確定されるべき賃借権であつたものと解されるのであり、これを基本財産として設立すべき財団法人の寄附行為が作成され、設立総会が開催されて設立代表者及び設立後の役員となるべき者が選任され、設立中の財団のための事務に専従する職員(勝又省吾)が現地に近い御殿場ホテル内に置かれた設立事務所に常駐し、これらの者が設立のための諸活動を推進し、ことに拠出された賃借権にかかる土地については右勝又省吾が中心となつて土地に立入り、測量その他の調査をし、地主と補償金の交渉をし、その結果同年九月二九日付で本契約が締結され、これによつて拠出された権利が確定し、次いで設立の許可がなされたのである。以上の事実に照らすならば、本件賃借権は同年五月二五日付の寄附の意思表示に基づき、遅くとも同年九月二九日付の本契約締結の段階において確定的に三星の資産から分離せられ、設立中の財団法人に帰属するものとして、社会的にも独立した実体を備え、その者のために管理されるに至つたものと認めるのが相当である。

してみると、本件賃借権は、本件滞納国税の法定納期限の一年前の日(昭和三九年一〇月一日)より前に三星の寄附により設立中の財団に帰属したものというべきである。

(三)  証人小林新之助の証言及び同証言により真正に成立したものと認められる乙第二〇号証並びに前掲乙第一二号証によれば、三星は昭和三九年八月一日から昭和四〇年七月三一日までの事業年度の損益計算書に寄附にかかる賃借権を五五八八万六〇〇〇円として、これを「寄付金」の欄に計上したことが認められるのであるが、この事実は必ずしも以上の認定と矛盾するものではない。また、原本の存在及び成立に争いのない乙第二号証、第六号証、第七号証の一、二及び証人高山朗の証言によれば、昭和四一年一〇月一二日付で三星から原告に対し寄附財産の一部について変更の申出があり、昭和四二年四月二七日行なわれた原告の理事会においてこれが承認され、同年五月八日付書面によつてその旨厚生大臣に報告されたこと、これによれば本件土地から別表一の番号3、4、9、31及び32の土地が除かれ、その代りに別表二の番号47及び50ないし53の土地が加えられ、その結果寄附された賃借権は別表一、二の<4>欄に○印を付した土地合計一九〇町一反六畝四歩(実測面積一八九町一畝九歩)の上に存することとなつたことが認められるのであるが、右は事後的な修正であつて、寄附された本件賃借権の全体としての同一性を損ずるものとはいえず、以上の認定を左右するものではなく、他に以上の認定を覆すに足りる証拠もない。

3  してみると、三星の本件賃借権処分の時期が本件滞納国税の法定納期限の一年前の日以後であるとの被告の主張は理由がないこととなるが、なお、三星に対する本件滞納国税の徴収不足及びこれが本件賃借権の寄附に基因するものか否かの点について検討する。

(一)  前掲甲第三号証の一一、乙第二号証、第六号証、第一二号証、成立に争いのない甲第二六号証の一ないし一〇(四ないし一〇については原本の存在も争いがない)、乙第九号証の一ないし一二、第一〇号証、第一五、一六号証、第二二ないし第二九号証、証人高山朗の証言により真正に成立したものと認められる甲第四ないし第六号証、証人高山熊雄の証言により真正に成立したものと認められる甲第九、一〇号証、第一五ないし第二〇号証、第二二号証の一ないし四、第二三、二四号証の各一、二、第二五号証の一ないし三(但し、第二二号証の一、四及び第二三、二四号証の各二のうち各官公署作成部分の成立(第二三、二四号証の各二については原本の存在を含む。)は争いがなく、また第二五号証の三については原本の存在も肯定できる。)、証人高山朗、同清水元信、同大石守男及び同高山熊雄の各証言によると、次の事実が認められる。

(1) 前記のとおり、三星が昭和三九年五月二五日付でした寄附の意思表示において、仮契約に基づく権利の評価額を五五八八万六〇〇〇円とし、この額は右権利の取得に要した費用を坪当り一〇〇円と見積つて算定したものであつたところ、その後地主らに対する補償額が決定され、その支払いがなされた結果、前記のとおり昭和四二年四月二七日の原告の理事会において承認された寄附にかかる賃借権の価額は、右支払額を基礎として積算し、坪当り三一〇円、合計一億七五七八万二〇九〇円と評価された。本件賃借権の客観的評価額はさて措き、三星がこれを寄附したことにより相当額の資産が三星から流出したことは明らかである。

(2) これに対して、原告においては昭和三九年一二月六日霊園の起工式をし、昭和四〇年二月から墓地使用の権利の分譲を始めたのであるが、三星はそのころ原告との間で、原告の一般墓苑内に設置する墓石は三星が製造する「星式墓石」のみを使用するものとし、三星が原告に納入する代金は「日本型」の単価三万三〇〇〇円、「西洋型」の単価三万円とし、納入予定総数を二〇万基とする旨の独占的墓石納入契約を締結した。ところで、原告の設立許可申請書に添付された事業計画書によると、原告は五年間で二〇万基の墓石の納入を受けてこれを売却することを計画していたのであり、ちなみに三星が昭和四〇年六月から昭和四一年一月までの間、東京都品川区の墓石業者に発注して納入させた墓石は、「日本型」が二六七八基(単価二万七九〇〇円)、「西洋型」が四六四五基(単価二万三三〇〇円)であり、他に実用新案権使用料として一基につき五〇〇〇円宛が支払われたのであつて、このことからすれば三星は原告に「星式墓石」を納入することにより一基について約一万円の利益を見込むことができたのである。そうして三星及びその関連企業は、霊園に附帯した観光サービス業を行なうことを予定していたので、原告の霊園経営が順調に運べば、三星としては本件賃借権の寄附によつて生じた損失を上廻る利益をあげ得るものとの目論見を立てていたのである。

(3) ところが、原告は、前記のとおり昭和四〇年二月から墓地使用の権利の分譲を始め、同年中の売り上げは順調に伸びたものの、翌四一年春ころからは売り上げが伸びず、それとともに三星は借入金に対する利息の支払いにも窮するようになり、ついに同年八月一五日満期の金額三〇〇〇万円の約束手形の決済ができず、同月一八日銀行取引停止処分を受け、またその後原告も四億六〇〇〇万円余の債務超過となり、破産宣告の申立てを受けるに至つた。なお、被告は、被告の主張1記載の国税債権のうち、本件滞納国税を除く国税につき、執行することができる財産がないとの理由で昭和四六年三月三〇日付をもつて三星に対する滞納処分の停止(法第一五三条第一項第一号)をしている。

(4) そこで昭和四二年四月二七日行なわれた原告の理事会において、原告の経営を全面的に他に委譲して再建を図ることが決せられ、当時すでに経営の引受けについて三井不動産株式会社と折衝していたが、これが不首尾に終つた後、結局星均の懇請と地元政界の有力者の口添えにより、三菱地所株式会社が三星及びその関連企業の資産を引取ることを条件として原告の経営を引受けてこれを再建することとなり、その一環として同年一二月一三日同会社の傘下にある東日本開発が三星から前記実用新案権及び原告の主張4(二)(1)記載の土地<1>ないし<12>に設定されている賃借権を合計二億五二〇〇万円として買受ける旨並びに原告の主張4(二)(3)記載の建物八棟を、庭園設備、建物内にある什器、備品、家具等を含めて一五〇〇万円として買受ける旨の契約を締結した。そうして、前者の契約に基づく代金のうち一億〇五八九万三二二四円は、現実の支払いに代えて三星及びその関連企業並びに星均個人等の原告に対する債務を東日本開発が引受けることにより決済し、残金一億四六一〇万六七七六円については、同年一二月二〇日から昭和四三年一月一二日までの間、数回に分けて現実に支払われた。また、後者の契約に基づく代金については、昭和四四年一月二〇日ころ三星の代理人河本喜与之の依頼により、内六二五万円が三星の国税(但し、内六二三万七二〇〇円は三甲株式会社の第二次納税義務の履行分)の代納として東京国税局へ、内五〇万円が三星の地方税の代納として東京都へ、残金八二五万円は三星の債権者横田秀三に対する弁済として、それぞれ東日本開発によつて支払いがなされた。

右売買契約の目的となつたもののうち、実用新案権については当時泰宝商事有限会社の名義であつたところ、昭和四二年一二月二〇日付で東日本開発に移転登録がなされ、建物八棟については昭和四四年一月一六日付で東日本開発に移転登記がなされた。

以上のとおり認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  ところで、法第三九条は、前示のとおり滞納者がその国税債務の引当てとなるべき一般財産を処分することにより、その財産を減少させ、これに基因して滞納国税の徴収が不足する場合において、右処分の相手方に対して右滞納国税の納付義務を負わせようというものであるから、その相手方がかかる納付義務を負うためには、少くとも、もし滞納者の該財産処分がなければその限度で滞納者からの徴収不足を来たさなかつたであろうとの関係が存在することを要するのであり、かかる関係が肯定されるためには、該財産に対する滞納処分の施行による徴収可能性の存在を前提とするものであると解される。しかるに、本件寄附にかかる賃借権は前記のとおりであつて、当初から原告に権利を帰属させることを予定し、従つて三星が原告に賃借権を譲渡することは予め承諾が与えられていたものの、原告以外の者に譲渡転貸することは予定されていず、特に明文でそのような場合には別途承諾を得る必要があるとされていたのであるから、一般的な譲渡性は付与されていなかつたこと、賃貸借の目的が墓地の経営及びこれに附帯する事業に限定されていたところ、墓地、埋葬等に関する法律第一〇条第一項の規定によると、墓地を経営するには都道府県知事の許可を要するものとされ、成立に争いのない甲第一一号証によれば、右許可が与えられる者は、地方公共団体のほかは宗教法人又は公益法人に限定されるべきであるとの厚生省の通知(昭和二一年九月三日付内務省警保局長及び厚生省衛生局長通知、昭和二三年九月一三日付厚生次官通知及びその後昭和四三年四月五日付厚生省環境衛生局環境衛生課長通知)が発せられていることが認められるから、営利を目的とする株式会社である三星が墓地経営の許可を申請しても許可される可能性はほとんどないと考えられること等に照らすならば、もし三星が本件賃借権を原告に寄附せず、自己の権利として保持していたとしても(そうなれば原告の設立許可もあり得なかつたと考えられるのであるが)、本件土地を契約で定めた用法に従つて使用収益することもできず、このような賃借権に対し滞納処分を実施して、これを換価し得るかどうかについても疑問の存するところである。しかも三星はこれを寄附したことの反面において、原告との間で締結した独占的墓石納入契約及び附帯する観光事業により、右賃借権を取得するに要した費用を上廻る収益をあげ得る地位を獲得していたところ、こと志と異なり、その後右営業のための資産を二億六七〇〇万円で東日本開発に譲渡し、右代金のうち一億四六一〇万円余は現実に三星に対して支払いがなされているのであるから、右(一)の(3)の事実を考慮に入れても、本件賃借権の寄附によつて直ちに本件滞納国税合計五四四三万二五〇〇円(なお、成立に争いのない乙第一四号証によれば、本件処分の日までの延滞税の額は一九七一万二八六六円であることが認められるから、これを加算しても七四一四万五三六六円である。)の徴収が不足する状態になつたとすることにも疑問の余地があるのであつて、結局本件賃借権の寄附に基因して本件滞納国税の徴収が不足するに至つたことの証明が十分でない。

三  以上のとおりであるから、本件処分は、法第三九条の要件のうち、滞納者の財産処分の時期が滞納国税の法定納期限の一年前の日以後であるとの点及び右処分に基因して滞納国税の徴収不足を来たしたとの点のいずれについてもこれを肯定するに足りる立証がないことに帰するので、その余の点を判断するまでもなく違法という外はない。

よつて、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤田耕三 原健三郎 北澤晶)

別表一、二<省略>

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