東京地方裁判所 昭和50年(行ウ)57号 判決 1976年7月28日
原告
本原和満
同
本原幸
右両名訴訟代理人
鍵尾丞治
被告
芝税務署長
右指定代理人
竹内康尋
外三名
主文
1 原告らの本件訴えのうち、被告が原告本原和満の昭和四八年分所得税について昭和四九年六月二九日付でした更正及び原告本原幸の同年分所得税について同日付でした更正の取消しを求める訴えをいずれも却下する。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一、原告ら
1 被告が原告本原和満の昭和四八年分所得税について昭和四九年六月二九日付でした更正及び過少申告加算税賦課決定並びに同年一二月一七日付でした再更正をいずれも取り消す。
2 被告が原告本原幸の昭和四八年分所得税について昭和四九年六月二九日付でした更正及び過少申告加算税賦課決定並びに同年一二月一七日付でした再更正をいずれも取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決
二、被告
1 本案前の申立て
主文第一項及び第三項と同旨の判決
2 本案の申立て
(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決
第二 原告らの請求原因
一、原告らの昭和四八年分所得税について、原告らのした各確定申告、これに対して被告のした各更正(以下「本件各更正」という。)及び各過少申告加算税の賦課決定(以下「本件各決定」という。)並びに各再更正(以下「本件各再更正」という。)の経緯は、別表記載のとおりである。
二、しかし、被告が本件各更正及び本件各再更正において、原告らの所得につき、所得税法(昭和五〇年法律第一三号による改正前のもの。以下単に「法」という。)第九六条ないし第一〇一条の規定を適用して、いわゆる資産所得の合算課税を行つたのは、以下に述べる理由により違法であり、右各更正を前提としてされた本件各決定も違法であるから、原告らは本件各更正及び本件各決定並びに本件各再更正の取消しを求める。
1 法第九六条ないし第一〇一条は、次に述べるとおり憲法第一三条、第一四条、第二九条、第三〇条及び第八四条に違反するから本件各更正及び本件各再更正は違法である。
(一) 憲法第一三条及び第二九条違反について
憲法第一三条と第二九条を併せ考えてみると、個人の尊厳を害する財産権の侵害は、たとえ租税のためとはいえ許されないところであり、民法第七六二条が夫婦別産制を採用したのも、まさに、この趣旨である。資産所得合算課税制度は、所得税の累進課税制を回避するため、家族の名前を利用して脱税を図るのが常態であるという、いわば人間性悪説の立場を前提として理解できるものであつて、正当に申告、納税しようとする納税者の良識を否定するものである。したがつて、資産所得合算課税制度は、個人の尊厳と人間の平等を規定する憲法の精神に反するものであり、今なお資産所得に限つて合算制度を残存しているのは理解できない。
財産関係諸法等に基づき正当な固有財産として資産所得を取得した個人に対し、一方の所得を否定して、これを他方の所得とし、累進的に高額の税を課すのは、個々人の個別的財産権を保障する憲法第一三条及び第二九条に違反し許されない。
法第九六条ないし第一〇一条を適用した結果、原告本原和満は、その妻たる原告本原幸に固有の配当所得があつたというだけで、所得税を一二万一五〇〇円多く納付しなければならなくなつたのである。これは法律上は他人である原告本原幸の所得の影響により不当な支出を強要されるものであつて、憲法第一三条及び第二九条に違反する。
(二) 憲法第一四条違反について
憲法第一四条は社会的身分により経済的関係において差別することを禁止している。したがつて、合理的理由のない限り、一定の身分者の存在により一定の所得の種類についてのみ税額の計算に差別を設けて、他と不平等な取扱いをする法律は許されない。ところが、法第九六条ないし第一〇一条は、生計を一にする夫や妻等の一定の身分者が存在する場合につき、画一的かつ普遍的にその資産所得を主たる所得者の総所得に合算させて累進的に高額な所得税を課している。一定の身分者の存在が何故に高額課税の合理的理由となるか。何故に資産所得に限つて合算課税制度が採用されるのか。資産所得以外の所得については何故に合算しないのか。右の不平等を許容するだけの個人主義的、民主主義的理念に照らした合理的理由はない。したがつて法第九六条ないし第一〇一条は憲法第一四条に違反する。
(三) 憲法第三〇条及び第八四条違反について
憲法下において個人の財産権が平等に保障されている以上、当該憲法体制を運営する財源たる租税もまた個々人の実質的な担税力に応じて課されるものであるとする実質課税の原則が、憲法第三〇条及び第八四条の実質的要件をなしている。してみれば法第九六条ないし第一〇一条による累進的な高額課税は、その個人において実際にはその税額に見合うだけの所得がないのにこれを負担させられることとなり、右実質課税の原則、すなわち憲法第三〇条及び第八四条に反する。のみならず、法第九六条ないし第一〇一条は課税回避の目的で他人名義を利用した場合に限つて適用されるべきであるが、それは法定すべきことではなく、右実質課税の原則に従つて処理されれば足りることであり、何ら資産所得への支配力等について文理上制限を設けず、画一的かつ普遍的にすべての対象者に適用しようとするかの如き、法第九六条ないし第一〇一条は、法文の曖昧さ、解釈の多義性・漠然性のゆえに憲法第三〇条及び第八四条に違反し無効である。
2 法第九六条ないし第一〇一条の規定は、課税回避の目的で他人名義を利用した場合にのみ適用されるべきであるところ、原告本原幸の本件係争年分の資産所得は、同原告が亡父から相続した株式の配当金であり、それは同原告自身の固有の資産から生じた所得というべきものである。したがつて、夫たる原告本原和満の支配力の及ぶ、あるいは同原告が原告本原幸の名義を利用した所得ではない。よつて、法第九六条ないし第一〇一条の規定を適用してされた本件各更正及び本件各再更正は違憲ないし法令の解釈を誤つたものである。
3 原告本原和満の総所得金額のうちには資産所得の金額を有しないから、以下に述べるとおり、同原告は法第九六条第三号の「主たる所得者」に該当せず、したがつて、原告本原幸も同条第四号の「合算対象世帯員」に該当しないから、資産所得の合算課税を行つた本件各更正及び本件各再更正は、同条の解釈を誤つた違法がある。
すなわち、法第九六条第三号は「主たる所得者」の用語の意義につき三段階にわけて規定しているが、そのいずれの段階においても、「主たる所得者」はその総所得金額のうちに必ず資産所得の金額を含み有するものとされている。
(一) その第一段階の規定である法第九六条第三号は「主たる所得者」の用語の意義につき、「次条第一項に規定する親族のうち、総所得金額から資産所得の金額を控除した金額が最も大きい者をいい」(以下「前段」という。)と規定しているところ、その者の総所得金額に資産所得の金額を含まない場合は、「総所得金額から資産所得の金額を控除した金額」を求めることは不可能であるから、「主たる所得者」になり得る者の総所得金額には、必ず資産所得の金額を含まなければならないと解すべきである。仮に、零が資産所得の金額になり得たとしても、総所得金額から零を控除してもしなくても、その結果は同一であるから、「資産所得の金額を控除した」その控除の意義がないことになり、法の趣旨に反する。
また、法第九六条第三号前段において総所得金額から控除する資産所得の金額は、同号の「当該控除した金額のある者がいないときは、資産所得の金額が最も大きい者をいい」(以下「中段」という。)の資産所得の金額と同一であるから、この点からも「主たる所得者」はその総所得金額に資産所得の金額を含み有する者をいうことがわかる。
(二) その第二段階の規定である法第九六条第三号中段は、「当該控除した金額のある者がいないときは、資産所得の金額が最も大きい者をいい」と規定しているから、この場合「主たる所得者」はその総所得金額にそれと同額の資産所得の金額を含み有することがわかるし、また「資産所得の金額が最も大きい者をいい」とあることからみても、親族が夫と妻のみの場合はいずれも資産所得の金額を有することがわかる。
(三) その第三段階として、法第九六条第三号は「これらの最も大きい者が二人以上あるときは、政令で定める者をいう」(以下「後段」という。)とし、これをうけて規定された所得税法施行令(以下「施行令」という。)第二二八条の規定も、「主たる所得者」は常にその総所得金額のうちに資産所得の金額を含み有している者であることが明らかである。
第三 被告の本案前の申立ての理由並びに請求原因に対する認否及び主張
一、本案前の申立ての理由
本件各更正は、本件各再更正がされたことにより、本件各再更正に吸収され独立の存在を失つたものと解すべきであるから、右各更正の取消しを求める訴えは、その利益を欠く不適法な訴えであり、却下せらるべきである。
二、請求原因に対する認否
請求原因一の事実は認める。
同二のうち原告本原幸が原告本原和満の妻であること、原告本原幸の本件係争年分の資産所得は、同原告が亡父から相続した株式の配当金であることは認めるが、その余の主張はすべて争う。
三、被告の主張
1 本件各再更正の根拠は、次のとおりである。
原告本原和満及び同本原幸は、生計を一にする夫と妻であり、原告本原和満の総所得金額のうちには資産所得の金額がなく、原告本原幸の総所得金額は資産所得の金額のみであるから、原告本原和満は、法第九六条第三号前段に規定する主たる所得者であり、原告本原幸は、同条第四号に規定する合算対象世帯員である。したがつて、原告らの納付すべき税額は、主たる所得者である原告本原和満の総所得金額二、〇九二、三二二円(課税標準四、二九六、三八七円から課税長期譲渡所得の金額二、二〇四、〇六五円を差し引いたもの)と合算対象世帯員である原告本原幸の資産所得の金額四、五四九、五〇〇円の合計額六、六四一、八二二円を基として法第九八条第一項第一号、同条第二項第一号に定めるところによりそれぞれ計算された額である。
2 資産所得の合算課税制度の合憲性について
資産所得の合算課税制度を定めた法第九六条ないし第一〇一条の規定は、課税単位を個人とする租税制度の根幹は崩すことなく、単に税額計算の特例として定めたものであり、租税の理念である応能負担の原則に照らし、きめの細かい配慮をした上で、極めて合理的に制定されたものである。したがつて、法第九六条ないし第一〇一条の規定は、立法府の裁量権の範囲を逸脱していないことは勿論、裁量権を濫用したものでもなく、適法かつ合憲的なものである。
(一) 憲法第一三条及び第二九条違反の主張について
所得税の課税方式がどのようにあるべきかという問題は、もつぱら課税理論的見地から決定せらるべき問題である。もとより、一国の財産権に関する私法規定の態様を十分考慮に入れてなされるべきことはいうまでもない。しかしながら、必ずしも、私法規定と租税法の規定が論理必然的な意味において一体的なものでなければならないというものではない。
ところで、法第九六条ないし第一〇一条は、各世帯員に帰属する所得であることを否定するものではなく、単に各世帯員の負担すべき税額の計算に関する特例にすぎないものであり、手続上も各世帯員の所得として申告され、税額も各世帯員の負担すべきものとして納付されるのであり、また主たる所得者を常に夫又は妻に限定しているものではないから、右の課税方式は何ら個人の尊厳を規定した憲法の精神に反せず、憲法第一三条及び第二九条に違反するものではない。
(二) 憲法第一四条違反の主張について
法第九六条ないし第一〇一条の規定は、累進課税制度の下における応能負担の原則に合致し、合目的性を有し、かつ合理的であり、しかも両性の本質的平等に反していないから、憲法第一四条に違反するものではない。
(三) 憲法第三〇条及び第八四条違反の主張について
法第九六条ないし第一〇一条の規定は、担税力の測定単位はいかにあるべきかという所得税制の基本に関する問題を検討した上で制定されたものであり、また、実質所得者課税の原則は、当該所得が世帯員のいずれに帰属するかに関する原則であつて、税額の計算上世帯員の所得を主たる所得者の所得とみなす以前に適用される原則であるから、合算課税の問題は本来実質所得者課税の原則によつて代用できない問題である。このように右制度は資産所得それ自体が、世帯単位の課税に適合した性格をもつことから、担税力に応じた負担になると認めた上で設けられたものである。
原告らの違憲の主張は、原告らの独自の見解を前提としたものであり、理由がない。
3 法第九六条ないし第一〇一条の規定を適用したのは違憲ないし法令解釈の誤りであるとの主張について
法第九六条ないし第一〇一条の規定の目的は、課税回避防止に限られないから、原告らの主張は、独自の見解に基づくものであつて、理由がない。
4 原告本原和満は法第九六条第三号の「主たる所得者」に該当せず、したがつて原告本原幸は同条第四号の「合算対象世帯員」に該当しないとの主張について
(一) 法第九六条第三号に規定する「総所得金額から資産所得の金額を控除した金額」とは、所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの。)第一一条の三第二項第二号に規定する「総所得金額中資産所得以外の所得の金額」と同義であり、資産所得合算課税制度の趣旨及び目的は右規定の文言改正により変わるものではないので、「主たる所得者」の総所得金額には常に資産所得の金額がなければならないということにはならず、原告らの主張は、その前提において誤つている。
(二) 法第九六条第三号に規定する総所得金額の意義は、法第二二条第二項に規定されているとおり同項第一号及び第二号に規定する各種所得の金額の合計額であるから、総所得金額に資産所得の金額を含む場合と含まない場合とがあることは、規定上からも当然である。
また、法第九六条第三号の「控除し」というのは、単に総所得金額から資産所得の金額を差し引くことを意味内容とする計算方法を規定したにすぎないのであるから、法第九六条第三号前段は、総所得金額に資産所得の金額を含み有する場合と、含み有しない場合との双方を当然に予定している。
(三) 同号中段は前段によつて「主たる所得者」を判定できない場合、すなわち各世帯員の総所得金額が、資産所得の金額のみから成る場合には、資産所得の金額が大きい者をもつて「主たる所得者」とすることを規定しているにすぎず、右中段の規定から「主たる所得者」の総所得金額に必ず資産所得の金額を含み有するとの解釈は導き得ない。
(四) 施行令第二二八条の規定は、法第九六条第三号前段及び中段の規定によつて「主たる所得者」と判定された者には適用されないものであるので、右の規定を前提とする原告らの主張は失当である、
5 以上のとおり本件各再更正は適法であるので、これを前提とする本件各決定も適法である。
第四 被告の主張に対する原告らの認否
原告らが生計を一にする夫と妻であり、原告本原和満の総所得金額のうちには資産所得の金額がなく、原告本原幸の総所得金額は資産所得の金額のみであること及び法第九六条ないし第一〇一条を適用した場合の原告らの所得税額が被告主張のとおりであることは認めるが、その余の主張はすべて争う。
第五 証拠関係<略>
理由
一原告らは、本件各再更正とあわせて本件各更正の取消しをも求めているが、本件各更正は、本件各再更正がなされたことにより、右各再更正の処分内容としてこれに吸収されて一体的なものとなり、独立の存在を失うにいたると解すべきである。よつて、本件訴えのうち、本件各更正の取消しを求める訴えは、不適法であり、却下を免れない。
二請求原因一の事実(本件課税処分の経緯)並びに原告らが生計を一にする夫と妻であり、原告本原和満の総所得金額のうちには資産所得の金額がなく、原告本原幸の総所得金額は資産所得(同原告の亡父から相続した株式の配当金)の金額のみであること及び法第九六条ないし第一〇一条を適用した場合の原告らの各所得税額が被告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
三1 原告らは、本件各再更正につき適用された法第九六条ないし第一〇一条の規定が憲法に違反すると主張する。
そこで、まず、これらの規定が設けられた趣旨について検討すると、わが国の所得税制は、個人を課税の単位として捉えてその所得に対して累進税率を適用することとしているのであるが、担税力に応じて所得税を負担するという見地からみると、一つの世帯に一人の所得者がある場合と二人の所得者がある場合とではその世帯の所得の総額が同額でも累進税率の構造上、所得税負担の総額は後者の方が前者よりかなり少額となることとなり、特に世帯員の中に資産所得者がいる場合には、このような所得税負担の差異は適当でなく、むしろ世帯単位に担税力を考える方が生活の実態に合致すること、及び資産所得は資産の名義の分割等により税負担の軽減を図ることが容易であるから、世帯を課税の単位とする方が課税の公平を図ることができることが指摘せられ、その解決のためには、資産所得についてはこれを合算して累進税率を適用する方が担税力に応じた公平な税負担が実現できるという理由に基づくものと解することができる。
以下、原告らの各違憲の主張につき判断する。
(一) 原告らは、法第九六条ないし第一〇一条の規定は憲法第一三条及び第二九条に違反すると主張する。
しかしながら、法第九六条ないし第一〇一条は、前記のような合理的な理由に基づき各世帯員の負担すべき税額の計算に関する特例を定めているものであつて、各世帯員に帰属する所得を否定するものではなく、いわんや一方の世帯員の所得を否定してこれを他方の所得とするものでないことはいうまでもない。
また法第九六条ないし第一〇一条の規定が適用されることにより結果的に税負担が重くなるとしても、前記のとおり、むしろ担税力に応じた公平な税負担を実現するための措置である以上、これをもつ憲法第一三条及び第二九条に違反するということはできない。よつて、原告らの右主張は理由がない。
(二) 原告らは、法第九六条ないし第一〇一条の規定は憲法第一四条に違反すると主張する。
しかしながら、法第九六条ないし第一〇一条の規定の適用を受ける場合には、その適用を受けない場合より多額の所得税を負担することとなつたとしても、それは担税力に応じた公平な税負担を実現するための制度を適用した結果であつて、右の差別は合理的な理由に基づくものであるから、憲法第一四条に反するとはいえない。よつて、原告らの右主張は理由がない。
(三) 原告らは、法第九六条ないし第一〇一条の規定は、個々人の実質的な担税力に応じて課税されるという実質課税の原則を変更するもので、憲法第三〇条及び第八四条に違反すると主張する。
しかしながら、資産所得の合算課税制度は、原告らの主張する実質課税の原則を変更するものでもないし、またこれと矛盾するものでもないことは、前述の本制度が設けられた趣旨からも明らかである。また原告らの主張するように資産所得への支配力等について文理上制限を設けないからといつて、法第九六条ないし第一〇一条の規定が著しく不合理であるとはいえない。のみならずこれらの規定は原告らが主張するように不明確であるとは到底いえない。原告らの右主張はいずれも独自の見解であつて採用できない。
2 原告らは、法第九六条ないし第一〇一条の規定は課税回避の目的で他人名義を利用した場合にのみ適用されるべきであると主張する。
しかしながら、法第九六条ないし第一〇一条の規定の趣旨は先に述べたとおりであつて、租税回避行為を防止するためにのみ規定されているものではなく、また、租税回避行為が存在する場合にのみ適用されるものでないことも文理上明らかである。よつて原告らの右主張は、その前提において理由がない。
3 原告らは、法第九六条第三号の前段及び中段並びにその後段をうけての施行令第二二八条の各規定からすると、「主たる所得者」になりうる者は、その総所得金額に必ず資産所得の金額を含むものでなければならないから、原告本原和満は主たる所得者に該当せず、したがつて原告本原幸は合算対象世帯員に該当しないと主張する。
しかしながら、同号にいう総所得金額とは法第二二条第二項第一号第二号に規定する各種所得金額の合計額であるから、総所得金額中に法第九六条第一号に規定する資産所得の金額を含む場合と含まない場合のあることは当然である。したがつて、同条第三号の総所得金額には、資産所得の金額を含む場合と含まない場合の双方を予定していることは明らかである。
原告らは、右のように解すると、同条第三号の「総所得金額から資産所得の金額を控除した金額」を求めることが不可能であると主張するけれども、資産所得の金額を有しない場合は控除額が零となるにすぎないから、右主張は理由がない。
もつとも同号中段の「当該控除した金額のある者がいないときは、資産所得の金額が最も大きい者をいい」との規定及び施行令第二二八条の規定からすれば、これらによつて「主たる所得者」を判定する場合には「主たる所得者」は、必ず総所得金額のうちに資産所得の金額を含み有する者となることが、右各規定から明らかであるが、これらは、法第九六条第三号前段の規定によつて「主たる所得者」を判定し得ない場合に、これを判定するための規定であるから、これらの規定から、右前段によつて判定する場合も含めて、常に「主たる所得者」は、その総所得金額のうちに資産所得の金額を含み有する者であるとの解釈を導くことはできない。
また原告らは、同号前段の「資産所得の金額」と同号中段の「資産所得の金額」とは同一であるから、「主たる所得者」の総所得金額には必ず資産所得の金額を含むと主張する。
しかしながら、同号中段の規定は、主たる所得者を含む各世帯員の総所得金額が資産所得の金額のみから成る場合についての規定であつて、同号前段の予定している場合とは異るから、右中段の規定から原告ら主張のような解釈を採ることはできない。
よつて、原告らの主張は理由がない。
四以上のとおり、本件各再更正には原告ら主張の違法はなく、これを前提とする本件各決定にも違法はない。
よつて、本件訴えのうち、原告らの本件各更正の取消しを求める訴えはこれを却下し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(三好達 時岡泰 成瀬正己)
別表 <省略>