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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)10265号 判決 1978年1月26日

原告 井口進 外二八名

被告 株式会社都民住宅協会

主文

一  被告を東京都新宿区新宿一丁目二六番一二号の四谷御苑マンシヨン管理者から解任する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

主文同旨

二  被告

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  原告らの地位

原告瓜生恒孝は、東京都新宿区新宿一丁目二六番一二号四谷御苑マンシヨン(以下、本件マンシヨンという)内の区分建物のうち六〇四号室の、その余の原告らは前記肩書記載の各室の、それぞれ区分所有者である。

(二)  本件管理委託契約

被告は本件マンシヨンを八〇室の区分建物に区分し、昭和四四年三月以降、本件マンシヨン敷地の借地権とともに区分建物を分譲したが、その際、原告らを含む右買受人らとの間に、敷地の賃貸借契約とともに本件マンシヨンの共用部分管理のため、被告を管理者として次の内容の業務を委託し、これに対して買受人は地代・管理費として、室番号末尾一、五、八号室の者は年額六万円、同三、六号室の者は年額四万八〇〇〇円、同二、四、七号室の者は年額四万二〇〇〇円を支払うこととし、右地代・管理費を五年毎に金六〇〇〇円宛増額する旨の管理委託契約(以下、本件管理委託契約という)を締結した。

(1)  共用部分の光熱費(電燈代・動力費・水道代)の支出

(2)  共用部分の清掃

(3)  エレベーター設備の維持

(4)  給排水設備の保守

(5)  消火設備の管理

(三)  管理業務の懈怠と背信行為

(1)  被告は年毎に本件マンシヨンの管理業務を怠り、昭和四九年に至つてはこれをしなくなつた。

(2)  昭和四九年一〇月ころ、エレベーターのロープが耐用年数の経過によつて危険な状態になり、保守担当業者および原告らからの再三の要請にもかかわらず、原告ら区分所有者が右補修費を負担しなければこれを行わないとして右補修を拒否した。

(3)  昭和五〇年には、揚水ポンプ、排水設備等の補修を申入れたが、右同様の理由で拒否した。

(4)  原告らは、昭和五〇年、被告に対して過去六年間における管理費の収支明細の報告、地代・管理費の区分による責任範囲の明確化を申入れたが、これを拒否した。

(5)  被告は原告ら本件マンシヨン区分所有者に対し、昭和五〇年六月三日、地代のみ月額四六万円に増額すると通知し、次いで同年一〇月二七日、地代のみ室番号末尾一、五、八号室は年額七万二〇〇〇円に、同三、六号室は年額六万六〇〇〇円に、同二、四、七号室は年額六万円に増額すると通知したうえ、さらに同五一年七月一四日には地代のみ同じく一、五、八号室は年額九万六〇〇〇円、同三、六号室は年額八万四〇〇〇円、同二、四、七号室は年額七万二〇〇〇円に、いずれも同五〇年一〇月二七日に遡つて増額(年額六七二万円)すると通知し、右要求を認めない限り管理をしないし、従来の地代・管理費は全部地代としても不足するから管理費の不足分を支払えと要求している。

(6)  被告は原告らから昭和四九年度分の地代・管理費を受領しながらこれを同四八年度分であると偽つたほか、原告ら本件マンシヨン区分所有者が昭和四九年一〇月株式会社大野宗太郎商店(以下、大野商店という)との間で、同社が本件マンシヨンの隣地に高層ビルを建設しようとしたことから生じた同社の本件マンシヨン区分所有者に対する補償金の支払いについてこれを妨害し、同社に対して補償金支払請求訴訟を提起し、あるいは同社が本件マンシヨン区分所有者に対して支払義務を負つている補償金残額一〇〇万円の支払いをなすときは、さらに同社に対する別訴を提起すると脅している。

(四)  解任請求権の行使

以上のとおり、被告には本件マンシヨンの管理者としての業務に不正があり、かつ任務の懈怠、区分所有者との信頼関係の破綻等管理者として職務を行うに適しない事情があるというべきであるから、原告らは本訴において被告を本件マンシヨンの管理者から解任することを求める。

二  請求原因に対する答弁

(一)  請求原因第一、二項の事実は認める。

(二)  同第三項の事実は争う。すなわち、

(1)  同(1) については、被告は本件マンシヨン八〇八号室に管理担当者を常駐させて日夜、管理業務に当らせている。

(2)  同(2) 、(3) については、原告らにおいて大野商店から得た補償金によつてこれを補修すると述べたからこれを行わなかつたに過ぎない。

(3)  同(4) については、本件管理委託契約はいわゆる請負管理に属するものであるから被告は区分所有者に対する管理明細の報告義務はない。

(4)  同(5) については、本件マンシヨンの敷地約五〇〇平方メートルの地代は、底地価額に対して年六パーセントの利回りを乗じた割合による月額九〇万円が相当であつて、一方、本件マンシヨンの管理費としては月額五二万円を要する実情からみて原告らの支払つている地代・管理費は地代にも満たない以上、被告において地代の増額請求をなすことは、何ら不当といえない。

(5)  同(6) については、被告が大野商店の依頼でその主張の訴を提起したにすぎず、また、補償金は地主たる被告と本件マンシヨン居住者たる原告らに対するものであつて、被告にもその受領権がある。

(三)  同第四項の主張は争う。

三  抗弁

本件管理委託契約においては、原告らは被告の承諾なくして管理者を変更できない旨の特約がある。

四  抗弁に対する答弁

抗弁事実は認めるが、本件は建物区分所有等に関する法律一七条による解任請求事件であつて、右特約に左右されない。

第三証拠関係<省略>

理由

一  原告らの地位および本件管理委託契約

請求原因第一、第二項の事実は当事者間に争いがない。

二  本件マンシヨンの管理状況等

成立に争いのない乙第二号証の一ないし三、弁論の全趣旨によつて成立が認められる乙第二号証の四、五、原告本人井口進の供述ならびにこれによつて成立が認められる乙第一号証の一ないし三、原告本人瓜生恒孝の各供述によると、被告による本件マンシヨンの管理業務は、エレベーターの保守、共用部分の清掃等については他の業者にこれを委託するほか、本件マンシヨン八〇八号室に被告代表者南方康男の弟で他の会社に勤める靖弘の一家を住まわせ、その家人の手によつて業者による保守点検等の確認をするほか、留守宅への配達物の保管、電燈の交換等を行わせ、また被告において共用部分の電気料等の支払いをなすなどの方法によつて行われていたこと、これに対して、本件マンシヨンの区分所有者は、区分建物の規模に応じて、本件マンシヨンの敷地五一一平方メートルについてそれぞれ一〇五五分の一〇、一〇五五分の一二・五、一〇五五分の一五の各割合による借地の地代と管理費を併せた地代・管理費を昭和四九年度分まで被告に支払つていたことなどの事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、成立に争いのない甲第四、第六、第八、第一〇号証、同第二九号証の一ないし四、同第三五号証、原告本人井口進の供述ならびにこれによつて成立が認められる甲第一ないし第三号証、同第五、第七、第九、第一一号証(いずれも官署作成部分の成立は争いがない)、同第一七ないし第二二号証の各一・二、同第二三号証の一ないし三、同第二四、第二五号証の各一・二、原告本人瓜生恒孝の供述ならびにこれによつて成立が認められる甲第二六号証ならびに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一)  被告は、昭和四九年春頃から、従来、週二回程度行われていた本件マンシヨン共用部分の清掃業務を怠りはじめた。

(二)  被告は、昭和四九年一〇月頃、エレベーターのロープの耐用年数が経過して危険になり、保守担当の業者からその補修の勧告があつたのを機会に、原告ら区分所有者に対してその補修費用として各戸当り一万円宛の負担をなし、さらに翌年から管理費用を月額一〇〇〇円程度増額することを申入れ、さらに翌五〇年三月ころ、再び右申入れをして、これが認められない限りエレベーターの補修を行わない旨を告げた。

(三)  原告ら本件マンシヨン区分所有者の殆んど全員で構成されていた御苑マンシヨン自治会(以下、自治会という)は、右申入れに対して、エレベーターの補修については過去六年間の管理費の蓄積分によつてこれをなすべきであり、また、本件管理委託契約における約定とは異る管理費の値上げを要求するのであれば、その理由を明らかにするため過去の管理費の収支明細を報告するよう求めたが被告は自治会の右申入れをすべて拒否し、昭和五〇年四月二二日頃、本件マンシヨン共用部分の電源スイツチを切るなどの挙に出たため、被告と自治会との対立が表面化するに至つた。

(四)  自治会は、被告による従来の管理の不備をただすべく共用部分の点検を行い、昭和五〇年五月七日ころ、被告に対してエレベーターの補修のほか、過去六年間一度も清掃のされていない地下および屋上の貯水タンクの清掃、破損のため使用に耐えない消火用ホースの交換、駐車場の漏水箇所、テレビ用共同アンテナ、電気室のモーター等の補修を申入れたところ、被告は、その費用を区分所有者において負担するならばこれを履行するし、従来の地代・管理費は全部を地代としてもこれに不足すると述べて右申入れを拒否した。

(五)  そこで、自治会は、昭和五〇年五月一五日前記補修および本件マンシヨンの管理を自治会の手で行うことを決議し、自治会が以後の地代・管理費を集金のうえ、同年六月ころから同五一年四月ころまでの間に、右集金分をもつてエレベーターの修理をはじめ前項記載の補修の一切を行い、さらに同五一年六月ころから管理担当者を定め、従来、被告が行つて来た管理よりも更に充実した管理業務を行わせているが、その費用としては、本件管理委託契約に定める地代・管理費をもつて十分であるのみならず、昭和五二年度上半期において、右集金分について地代積立分を含めてなお金三二〇万円程度の預金を有している。

(六)  被告は、自治会に対して、昭和五〇年六月三日ころ、本件マンシヨンの地代を月額四六万円に増額すると通知し、次いで同年一〇月二七日ころ、地代を、本件マンシヨンの室番号末尾一、五、八号室について年額七万二〇〇〇円に、同三、六号室について年額六万六〇〇〇円に、同二、四、七号室について年額六万円にそれぞれ値上げを要求し、さらに同五一年七月一四日ころ、地代を右各号室のグループ別に、それぞれ年額九万六〇〇〇円、八万四〇〇〇円、七万二〇〇〇円(年額合計六七二万円)に増額するよう要求した。

そして、自治会の構成員数名に対して地代不払いを理由に土地の明渡を求め、仮処分決定を得てその執行をなしたが、ことに、原告瓜生に対しては、同原告が入居後、五年ごとに地代・管理費を年額六〇〇〇円増額するとの本件管理委託契約に従つて昭和四九年度分として従来の地代・管理費四万八〇〇〇円に金六〇〇〇円を加えた金五万四〇〇〇円の支払いをなしたにもかかわらず、これは昭和四八年度分の支払分に過ぎず、昭和四九年度分は未払いであるとして右仮処分決定を得ていたところ、その異議訴訟において右仮処分決定が取消された。

(七)  本件マンシヨン類似の土地賃貸借形式による近隣の区分所有マンシヨンにおける地代は、昭和五一年ないし五二年において坪当り月額二四一円ないし五〇〇円程度であるのに対して、被告の最近に行つている要求額年額合計六七二万円は本件マンシヨンの敷地面積五一一平方メートル(約一五五坪)に対して坪当り月額三六〇〇円を超える。

以上の事実が認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。

ところで、区分所有建物である本件マンシヨンの管理者たる被告は、共用部分を保存し、本件管理委託契約に定められた管理業務を善良なる管理者の注意義務をもつて誠実に履行すべき義務を負い、かつ、少くとも毎年一回一定の時期に区分所有者に対してその事務についての報告をなすべき義務があるというべきところ、前認定の事実関係によれば、被告は本件マンシヨンの管理について、当初の間は共用部分の清掃、エレベーターの保守について一応の管理はこれをしていたと認めうるものの、補修を要する共用部分についてはこれを放置してその保存を怠つていたほか、管理事務については区分所有者の要求があつてもなお一度もその報告をせず(乙三号証によれば、被告は本訴提起後である昭和五二年二月二四日ころ、自治会に対して本件マンシヨンの管理費として月額五二万円を要する旨の通知をしているが、右内容は前認定の被告および自治会による管理の実績と対比して到底信用できず、その記載の形式からみても管理事務の報告に価しない)、さらには本件マンシヨンの敷地賃貸人たる地位を兼併していることから地代を増額させることによつて管理費の内容を不明確ならしめるのみならず、地代・管理費の支払いに関して区分所有者との間に徒らに抗争を深めている事情が認められるのであつて、被告には管理者としての共有部分の保存義務、管理事務の報告義務に反する債務不履行があるうえに土地賃貸人と管理者の地位を兼併することによる弊害が著しく、しかもこれによつて区分所有者との信頼関係が失われてその回復が困難な状況にあるとみられるから、もはや本件マンシヨンの管理者としてその職務を行うに適しない事情があるというべきである。

なお、被告は本件管理委託契約が請負に属するからその事務の報告義務はなく、また右契約によつて被告の承諾なくして管理者を変更できない特約があると主張するが、右報告義務は、管理者たる地位が各区分所有者との契約関係に由来するかあるいは集会の選任決議に由来するかを問わず、建物区分所有等に関する法律に基づいて管理者たる者が区分所有者に対して負担する義務というべきであり、さらに本訴における管理者の解任請求が、同法一七条二項に基づいてなされた裁判所に対する請求である以上、右主張もまた理由がないといわなければならない。

三  結論

以上の次第で、原告らが被告について本件マンシヨンの管理者からの解任を求める本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鷺岡康雄)

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