東京地方裁判所 昭和51年(ワ)11411号 判決 1977年5月31日
原告 山本信之
被告 堀口正憲 外二名
主文
一 原告に対し
(1) 被告堀口正憲は別紙目録記載の建物に対する昭和五一年一一月二二日東京法務局新宿出張所受付第二七五五四号による乙区第一六番の抵当権設定仮登記の、
(2) 被告佐藤明は前記建物に対する前同日前同出張所受付第二七五五五号による乙区第一七番の根抵当権設定仮登記の、
(3) 被告出口裕は前記建物に対する前同日前同出張所受付第二七五五六号による乙区第一八番の根抵当権設定仮登記の、
各抹消登記手続をせよ。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
第一申立
一 原告
主文と同旨
二 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二主張
一 請求の原因
1 原告は昭和五一年九月二七日訴外春山志づ越から別紙目録記載の建物(以下、本件建物という)を、代金四六五〇万円とし、契約成立時に内金二一一〇万円を支払い所有権移転仮登記を受け、残金二五四〇万円は遅くとも同年一二月三一日までに地主の承諾を得て本登記手続をなすのと引換えに支払という約定のもとに買受けた。
2 原告は契約成立日に金二一一〇万円を支払い、同年九月二八日受付で前記春山から原告に対する所有権移転請求権仮登記手続を了した。
3 その後、借地権の譲渡に対する地主の承諾が得られたので原告は前記春山に対し残代金二五四〇万円を支払い、同年一一月二五日同人から前記仮登記にもとづく所有権移転の本登記を得た。
4 ところが前記仮登記後右本登記までの間に被告らはそれぞれ主文第一項(1) ないし(3) の各仮登記をなしている。
5 被告らの各仮登記は原告の本登記に対抗しえないから、これが抹消登記手続を求める。
二 認否
(被告堀口、同出口)
1 請求原因1は否認
2 同2は仮登記のなされたことを認め、その余は不知
3 同3は原告主張の日付で所有権移転登記のなされたことを認め、その余は否認する。
4 同4は認める。
5 同5は争う。
(被告佐藤)
1 請求原因1は不知
2 同2は仮登記のなされたことを認め、その余は不知
3 同3は原告主張の日付で所有権移転登記のなされたことを認め、その余は不知
4 同4は認める。
5 同5は争う。
三 抗弁
(被告堀口、同出口)
仮登記に基き本登記手続をなす場合には不動産登記法の定めるところに従い登記簿上の利害関係人の承諾を必要とするが、被告らは原告が仮登記に基く本登記手続をなすにつき承諾を与えたことはない。したがつて、たとえ原告のため仮登記に基き本登記がなされたとしても、それは登記官の過誤による無効の登記である。
(被告佐藤)
仮登記に基き本登記手続をなす場合には不動産登記法の定めにより被告の承諾が必要であるが、被告は原告の本登記手続に承諾を与えたことはない。したがつて、たとえ原告のため仮登記に基く本登記がなされたとしても、その効力は単なる所有権移転登記以上のものではなく、登記上の利害関係人である被告に対抗できない。
四 抗弁に対する認否
いずれも争う。
第三証拠<省略>
理由
一 原告が昭和五一年九月二八日付で本件建物につき訴外春山志づ越から所有権移転仮登記をうけたこと、その後同年一一月二二日付で被告らがそれぞれ主文第一項掲記の(1) ないし(3) の各仮登記を得たこと及び更にその後同月二五日付で原告のため所有権移転登記がなされたことは当事者間に争がない。
二 成立に争のない甲第一号証、弁論の全趣旨からいずれも真正に成立したと認められる甲第二(確定日付印部分はその方式及び趣旨から公証人が職務上押捺したものと認められる)、第三号証によれば、原告の前記仮登記は、同人が訴外春山から本件建物を買受けた際所有権移転請求権を保全するためになされたものであり、また、原告のためなされた前記所有権移転登記は原告主張の条件成就により右仮登記に基く本登記としてなされたものであることが認められる。
三 不動産登記法(昭和三五年法律第一四号により改正)第一〇五条、第一四六条第一項によれば、所有権に関する仮登記に基き本登記を申請する場合には登記上利害の関係を有する第三者の承諾書またはこれに対抗し得る裁判の謄本を添付してなし、本登記がなされると右第三者の登記は職権により抹消されることになつているが、さきに明らにした事実経過(前記一、二)によれば、本件の場合には法の予定した前示手順を踏むことなく、登記上の利害関係人である被告らの各仮登記の存在を看過して原告のため仮登記に基く本登記がなされたことが明らかである。
四 右のような本登記の効力については、従前、仮登記の効力に関して存在した学説、判例の混乱を整理し、これを立法的に解決した法改正の趣旨を尊重して登記上の利害関係人の承諾書もしくはこれに対抗しうる裁判の謄本の添付を必須の有効要件と解し、登記上の利害関係人の存在を看過して仮登記に基き本登記がなされた場合右本登記を無効と解する見解がないわけではない。しかしながら登記手続上の過誤と、一旦、なされた登記の効力とはこれを区別し、既になされた登記の効力は実体関係に符合するか否かによつてその効力を判定するのが相当であるし、もともと仮登記の主たる効力は順位の保全にあるから第三者に対する対抗力は本登記の出現を待つのが本則であるが、改正法は問題の混乱を解決するため第三者に対して承諾請求という一種の対抗力を付与したものと解される。実質的にみても、仮登記の段階で承諾請求をするか、本登記を経て抹消請求をするかによつて第三者である登記上の利害関係人の権利保護に径庭があるとは思えないし、承諾請求の方法を固就して、一旦、なされた本登記を無効とし、再度、承諾請求からやり直しをさせることの迂遠さ、予想される別個の紛争(登記官の過誤を理由とする国家賠償など)の可能性を考えると訴訟経済に反することは明らかであつて承諾請求の方法によるべき必然性があるとはいえないし、本来、仮登記後に登記を得た第三者は早晩自己の権利登記の抹消されるかも知れない危険を承知のうえで法律関係に介入してきたものといわねばならないから、登記上の利害関係人の存在を看過した過誤ありとしても、一旦、これに基いてなされた本登記を直ちに無効としたり、仮登記に基かない単なる所有権移転登記以上の効力を有しないと解することは相当でない。したがつて本登記の効力に関する被告らの抗弁は失当たるに帰する。
五 よつて原告の請求は正当であるからこれを認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 麻上正信)
(別紙)
物件目録
新宿区高田馬場四丁目参四七番地
家屋番号 同町参四七番壱五
木造瓦葺弐階建店舗兼居宅
床面積 一階 五五・七六平方メートル
二階 参五・弐参平方メートル