東京地方裁判所 昭和51年(ワ)11422号 判決 1977年10月06日
原告 オカダ商事こと 岡田武亮
原告 寿貿易株式会社
右代表者代表取締役 石黒寿一
右両名訴訟代理人弁護士 岡田泰亮
被告 株式会社ドウイツトユアセルフ
右代表者代表取締役 田熊利三郎
右訴訟代理人弁護士 萩原平
同 村越進
同 横山弘美
主文
一 被告は原告岡田武亮に対し金一七〇万円、同寿貿易株式会社に対し金五〇万円及び右各金員に対する昭和五二年二月二日から各支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文第一、二項と同旨
2 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は日曜大工用品を販売することを目的とする会社である。
2 原告岡田武亮は昭和五〇年六月頃、原告寿貿易株式会社は昭和五〇年九月頃、それぞれ被告会社との間で左のとおり契約した(以下「本件契約」という。)。
(一) 原告らは被告会社より被告会社が訴外東京急行電鉄株式会社から賃借し、経営する東京都目黒区碑文谷六丁目七番二二号所在(東急ショッピングコリドール「学芸」第一五ブロック)の「学芸大駅店」店舗内に被告会社指定の一定の場所(以下単に「ブース」という。)を期間五年(ただし、更新予定)の約束で提供してもらい、同所に日曜大工商品を納品陳列し、被告会社に右商品の販売を委託する。
(二) 被告会社は原告らに月末日迄に販売された商品の代金を翌月五日に支払う。
(三) 原告らは右ブースを被告会社から提供してもらうために、被告会社に対し「学芸大駅店テナント保証金」名下のもとに金五〇万円を預託する。
3 原告岡田は被告会社に対し、日曜大工商品を昭和五〇年九月八日に金一七四、七六五円相当分、昭和五一年七月二四日から同年八月一四日迄の間に金八二九、一九〇円相当分及び同年八月二七日から同年九月九日迄の間に金一九六、九四〇円相当分を納品して販売を委託し、被告会社は右商品をいずれも既に顧客に売却した。
4 原告岡田武亮は昭和五〇年六月一二日に、同じく原告寿貿易株式会社は昭和五〇年九月一〇日に前記2の預託金各五〇万円をそれぞれ被告会社に預託した。
5 原告らは昭和五二年一〇月初め頃被告会社との間で右契約を合意解除した。
よって、原告岡田武亮は、被告に対し右契約に基づき商品代金のうち金一二〇万円の支払及び右解除による原状回復請求に基づき預託金五〇万円の返還並びにこれらに対する弁済期以降である昭和五二年四月一日から支払ずみまで商事法定利息年六分の割合による遅延損害金の支払を、原告寿貿易株式会社は、被告に対し、右解除による原状回復請求に基づき預託金五〇万円と、これに対する弁済期以降である昭和五二年四月一日から支払ずみまで商事法定利息年六分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 請求原因2のうち預託金を預ける旨の約束があったことは否認し、その余の事実は認める。「学芸大駅店テナント保証金」名下のもとに原告らより被告会社が受領することを約した金五〇万円は返還義務のない権利金であって、預託金ではない。
3 請求原因3の事実は否認する。
4 請求原因4のうち、被告会社が原告ら主張の日に各金五〇万円を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。右各受領金五〇万円は前記のとおり権利金であって、預託金ではない。
5 請求原因5の事実は否認する。
三 抗弁
前記預託金に関し、原告らと被告会社の間には、本件契約が途中で解約された場合、昭和五六年九月一四日までの解約については、解約後三年間返還を据置く旨の約定がある。従って、未だ預託金の返還を要しない。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実は認める。
五 再抗弁
前記合意解除は、被告会社が不渡を出して事実上倒産したため、「学芸大駅店」店舗の賃貸借契約を右店舗の賃貸人たる訴外東京急行電鉄株式会社より解除されるに至り、右店舗において被告会社が商品販売を行うことができなくなったことから、被告会社からの申入れに基づいてやむなくなされたものであり、このような事情の下での合意解除には前記据置の約定は適用がない。
第三証拠《省略》
理由
一 被告が日曜大工用品を販売することを目的とする会社であることは当事者間に争いがない。
二 商品代金について
1 原告岡田が昭和五〇年六月頃に、同原告会社が昭和五〇年九月頃に、被告会社との間で、原告らが被告会社より、被告会社が訴外東京急行電鉄株式会社から賃借し経営する東京都目黒区碑文谷六丁目七番二二号所在(東急ショッピングコリドール「学芸」第一五ブロック)の「学芸大駅店」店舗内に、被告会社指定の一定の場所(ブース)を一定期間(五年、ただし更新を予定)提供してもらい、同所に日曜大工商品を納品陳列し、被告会社に右商品の販売を委託し、被告会社は原告らに月末日迄に販売された商品代金を翌月五日に支払うとの内容の契約を締結したことは当事者間に争いがない。
2 《証拠省略》によると、原告岡田が、被告会社に対し、日曜大工商品を昭和五〇年九月八日に金一七四、七六五円相当分、昭和五一年七月二四日から同年八月一四日迄の間に金八二九、一九〇円相当分及び同年八月二七日から同年九月九日迄の間に金一九六、九四〇円相当分を納品し、右の商品はいずれも被告会社において九月末ごろまでの間に顧客に売却されていることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
三 預託金の返還について
1 本件契約を締結するに当り、原告らがブースを被告会社から提供してもらうために、被告会社が原告らより「学芸大駅店テナント保証金」名下のもとに金五〇万円を受領する約定が存したこと、被告会社が原告岡田より昭和五〇年六月一二日に、原告会社より昭和五〇年九月一〇日に右「保証金」名下に各金五〇万円を受領したことは当事者間に争いがない。
《証拠省略》によれば、被告会社は右「保証金」の受領に関し預託を受けた旨の預り証を発行し、かつ、右「保証金」はブースの提供期間の満了の際、あるいは、本件契約が途中解約の場合には解約後一定期間据置後返還する旨約されていることが認められ、右認定に反する証拠はない。
従って、右「保証金」は明らかに、返還を予定しており、返還義務のない権利金との被告の主張は失当である。
2 《証拠省略》によれば、原告らが昭和五二年一〇月初め頃、被告会社の申入れにより本件契約を合意解除した事実が認められ、右の認定を左右するに足りる証拠はない。
3 前記預託金に関し、本件契約が途中で解約された場合、昭和五六年九月一日までの解約については、解約後三年間据置の上返還するとの約定があることは当事者間に争いがない。
4 《証拠省略》によれば、被告会社は昭和五一年九月中頃手形の不渡を出して事実上倒産し、それに伴い前記「学芸大駅店」店舗の賃料を支払えなくなったことから、賃貸人たる訴外東京急行電鉄株式会社より賃貸借契約を解除され、それ以降同店舗において、商品販売活動を行うことができなくなったことから、原告らに対し突然、当時、原告らが各自のブースに陳列し、被告会社に販売を委託していた商品の引取りを申入れ、原告らとしても、他にとるべき方法もないためやむなくこれに応じて商品を引取ると共に、本件契約を合意解除したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
ところで、前記「保証金」授受の趣旨について考えるに、前記本件契約の内容に照らせば、原告らと被告会社間の右ブース提供を含む継続的な委託販売契約に伴い、生ずることのあるべき被告会社の損害を担保する趣旨で授受されたものと解するのが相当であり、前記、返還に関する据置期間の約定も右のような観点から理解されるべきである。従って、専ら、被告会社において債務不履行の事実があり、その故に、契約の維持が不可能となり、やむなく、契約が解除(合意解除も含め)され、被告会社における損害の発生を考慮する必要がなくなり、通常取引が全く期待されなくなったような場合には、据置期間の約定の存在を理由に保証金を被告会社の手元に止めておく合理的理由がないといわざるを得ず、かかる場合は、右据置期間の約定は適用されないというべきである。
しかして、前記認定の事実によれば、原告らと被告会社の合意解除は、被告会社が店舗の賃借権を失ったことにより被告会社の販売活動が不可能となり、結局、原告らに対し債務の履行が不能となったため他にとるべき方法もないため、解除されたものと認められるから、前記据置に関する約定は適用されない場合に該当するものというべきであり、被告会社は原告らに対し前記預託にかかる「保証金」各金五〇万円を支払うべき義務がある。
四 結論
以上のとおり原告らの本訴請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 小田泰機)