東京地方裁判所 昭和51年(ワ)11509号 判決 1981年3月31日
原告
日本住宅公団
右代表者理事
堺徳吾
右訴訟代理人
大橋弘利
外三名
被告
学校法人大沢学園
右代表者理事
大沢浜次郎
被告
大沢浜次郎
右両名訴訟代理人
鈴木守
被告
木更津信用金庫
右代表者代表理事
泉水貞好
右訴訟代理人
高橋守雄
外一名
主文
一 被告学校法人大沢学園は原告に対し別紙物件目録記載(二)の建物を明渡し、かつ同建物につき昭和五〇年一一月七日売買を原因として千葉地方法務局昭和四五年一一月二〇日受付第七八八六四号所有権移転請求権仮登記に基づく本登記手続をせよ。
二 被告大沢浜次郎は別紙物件目録記載(三)の建物を収去して、被告学校法人大沢学園は同建物から退去して各自原告に対し別紙物件目録記載(一)の土地を明渡せ。
三 被告学校法人大沢学園及び同大沢浜次郎は各自原告に対し別紙債権目録記載(一)及び(二)の金員を支払え。
四 被告学校法人大沢学園は原告に対し別紙債権目録記載(三)ないし(八)の金員を支払え。
五 被告木更津信用金庫は原告に対し別紙物件目録記載(二)の建物につき、原告が被告学校法人大沢学園との間で第一項記載の所有権移転本登記手続をすることを承諾せよ。
六 訴訟費用は被告らの負担とする。
七 この判決は第三及び第四項に限り仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨の判決並びに主文第一項(但し登記手続を求める部分を除く。)、第二ないし第四項につき仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は昭和四四年一二月六日被告学校法人大沢学園(以下「被告学園」という。)と以下の如き幼稚園施設譲渡契約(以下「譲渡契約」という。)を締結した。
(一) 原告は被告学園に別紙物件目録記載(二)の建物(以下「本件建物(二)」という。)を譲渡し、被告学園は原告に対し譲受代金として負担金三四一万九、八五〇円及び別に幼稚園施設譲渡代金確定契約(以下「確定契約」という。)で定める割賦金総額を所定の方法にて支払う。
(二) 被告学園は本件建物(二)を幼稚園以外の目的のために使用しない。
(三) 被告学園が幼稚園を閉鎖し、もしくは本件建物(二)の譲渡、第三者への使用貸付、現状変更等をする際は、原告の承諾を要する。
(四) 被告学園が正当な理由なく、すみやかに本件建物(二)の使用を開始しないとき、割賦金の支払を三ケ月以上滞納したとき、強制執行、保全処分、競売の申立等を受けたとき等、その他本契約に違反し又は契約の履行不能となつたときは、原告はその選択により割賦金総額の支払残額の一時支払を請求し、又は右請求をすると共に本件建物(二)を被告学園から譲受けることができる。
(五) 原告が本件建物(二)を譲受ける旨の意思表示をしたときは、原告を譲受人、被告学園を譲渡人とする本件建物(二)の譲受契約が成立し、その所有権は原告に移転し、被告学園はこれを直ちに原告に明渡す。
(六) 被告学園は原告が契約を解除し又は本件建物(二)を譲受けたときは違約金として五〇六万三、七六〇円を原告に支払う。
(七) 原告が本件建物(二)を被告学園から譲受けたときは、原告は被告学園に本件建物(二)の代金として(四)記載の一時支払請求時における被告学園の支払済割賦金の額と割賦金総額の支払残額の合計額を本件建物(二)の原告への所有権移転登記手続完了後(登記手続完了後も使用しているときは明渡完了後)に支払うものとするが、右代金と被告学園が原告に対して支払うべき未払金債務とを対当額にて相殺することができる。
(八) 原告は(五)記載の所有権移転請求権を保全するため本件建物(二)に仮登記をすることができる。
(九) 被告学園は(五)記載の譲受契約が成立したときは、被告学園が原告から本件建物(二)の引渡しを受けた日の属する月から(七)記載の同建物の原告に対する所有権移転登記手続完了日(登記手続完了後も使用しているときは明渡完了日)の属する月まで原告に対し別紙使用料相当額算定基準による使用料相当額を支払う。
(一〇) 被告学園が各債務金の支払を遅延したときは日歩五銭の割合による遅延損害金を支払う。
2 原告は昭和四五年六月二日被告学園と確定契約を締結し、本件建物(二)の割賦金総額を三、五七一万四、二〇〇円と定め、同月三日を第一回とし毎年六月三日と一二月三日に毎回一七八万五、七一〇円を二〇回に分割して昭和五四年一二月三日に完済することを約して、昭和四五年六月二日被告学園に本件建物(二)を引渡し、同学園のため本件建物(二)につき所有権保存登記手続に協力すると共に、千葉地方法務局昭和四五年一一月二〇日受付第七八八六四号をもつて売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記手続をした。
3 原告は昭和四五年六月二日被告学園に対し以下の如き約定にて原告の所有する別紙物件目録記載(一)の土地(以下「本件土地」という。)を賃貸して引渡した。
(一) 使用目的は本件建物(二)所有のため。
(二) 期間は昭和四五年六月二日から三〇年。
(三) 賃料は一ケ月一六万五、〇〇〇円とし、これと原告の定める共益費を毎月末日までに支払う。
(四) 前項の賃料等の支払を遅延したときは日歩五銭の割合による遅延損害金を支払う。
(五) 右賃料等の支払を三ケ月以上遅延したとき、被告学園が強制執行、保全処分、競売、和議の申立を受けたとき等には原告は催告することなく賃貸借契約を解除することができ、この場合は被告学園は本件土地の明渡済まで賃料等額の1.5倍相当額を原告に支払う。
4 被告大沢浜次郎(以下「被告大沢」という。)は昭和四七年三月五日、本件土地上に別紙物件目録記載(三)の建物(以下「本件建物(三)」という。)を建築した。
本件建物(三)は本件建物(二)に接して建築せられ、専ら幼稚園経営のため利用されており、周囲に柵などもなく、敷地部分も特定されていない。又本件建物(三)の出入も本件建物(二)から行なわれている。このことから本件建物(三)を使用収益する場合の土地の範囲は本件土地全部に及んでおり、被告大沢は被告学園と共に本件土地全部を共同占有しているというべきである。
5(一) 被告学園は、昭和四九年六月三日支払期日の第九回割賦金一七八万五、七一〇円以降第一一回割賦金までと、昭和四八年九月三〇日支払期日の本件土地賃料等一ケ月一六万五、〇〇〇円以降同五〇年九月三〇日支払期日の本件土地賃料等(同年四月三〇日以降は一ケ月一六万六、六二〇円と改定された。)を支払わず、又昭和四九年四月三日付で国(木更津税務署)から本件建物(二)を差押えられ、昭和五〇年八月七日には被告木更津信用金庫(以下「被告金庫」という。)から千葉地方裁判所に同建物に対する競売申立がされ、同裁判所昭和五〇年(ケ)第一二二号事件として係属中である。
(二) 原告は昭和五〇年一〇月三〇日被告学園に対し割賦金残額及び本件土地賃料を同年一一月六日までに支払うよう求め、右期日までに支払のないときは何らの意思表示をせずに本件建物(二)につき譲受予約の完結権を行使し、本件土地につき賃貸借契約を解除する旨通知した。
6 被告金庫は本件建物(二)につき原告の仮登記に遅れて千葉地方法務局昭和四八年八月二〇日受付第七二八四九号による所有権移転請求権仮登記、同庁同日受付第七二八四七号をもつて根抵当権設定登記、同庁同日受付第七二八四八号をもつて停止条件付賃借権設定仮登記をそれぞれなし、5(一)記載のとおり千葉地方裁判所に対し本件建物(二)につき競売の申立をした。
7 原告は昭和五五年三月二六日の本訴第二五回口頭弁論期日において被告学園に対し、(イ)前記1(六)記載の違約金五〇六万三、七六〇円、(ロ)本件土地賃料の滞納分として昭和四八年九月から昭和五〇年一一月六日までの合計金四三三万四、六六〇円(昭和四八年九月から昭和五〇年三月まで一ケ月金一六万五、〇〇〇円、昭和五〇年四月からは一ケ月金一六万六、六二〇円の割合)と右各賃料に対して日歩四銭の割合による遅延損害金六六万四、一〇〇円の合計金四九九万八、七六〇円、(ハ)本件建物(二)の前記1(九)記載の使用料相当額として昭和四五年六月から昭和四七年四月まで合計金六四七万一、九六〇円と昭和四七年五月分の内金一六万八、九二〇円の以上(イ)ないし(ハ)の合計金一、六七〇万三、四〇〇円と、原告が被告学園に前記1(七)記載の本件建物(二)の譲受代金として支払うべき金一、六七〇万三、四〇〇円(前記1(一)記載の負担金三四一万九、八五〇円及び被告学園の支払済割賦金一、四二八万五、六八〇円の合計金一、七七〇万五、五三〇円から滞納割賦金についての日歩四銭の割合による遅延損害金一〇〇万二、一三〇円を控除した額。)とを相殺する旨の意思表示をした。
よつて原告は被告学園に対し売買の成立による本件建物(二)の明渡及び仮登記に基づく本登記手続を(主文第一項)、被告大沢に対し本件土地所有権に基づき本件建物(三)を収去しての本件土地の明渡、被告学園に対し本件土地所有権ないし賃貸借契約終了に基づき本件建物(三)から退去しての本件土地の明渡を(主文第二項)、被告学園及び同大沢に対し各自別紙債権目録記載(一)及び(二)のとおり(イ)昭和五〇年一一月七日から昭和五四年一二月末日まで一ケ月金二四万九、九三〇円の割合(土地賃料一ケ月一六万六、六二〇円の1.5倍)による本件土地の使用損害金合計金一、二四四万六、五二〇円、(ロ)昭和五五年一月一日から本件土地明渡済まで一ケ月金二四万九、九三〇円の割合による本件土地の使用損害金の支払を(主文第三項)、被告学園に対し別紙債権目録記載(三)ないし(八)のとおり(イ)本件建物(二)についての昭和四七年五月分の使用料相当額の残額金一〇万六、八四〇円と同年六月一日以降昭和五〇年一一月末日までの使用料相当額の合計金一、〇七二万四、四四〇円、(ロ)右一、〇七二万四、四四〇円に付昭和五〇年一二月一日以降完済まで日歩四銭の割合による遅延損害金、(ハ)本件建物(二)についての昭和五〇年一二月一日以降昭和五四年一二月末日までの使用料相当額の合計金一、〇七二万八、五四〇円、(ニ)右一、〇七二万八、五四〇円のうち昭和五〇年一二月一日以降各月の使用料相当額につき各月の翌月一日から完済まで日歩四銭の割合による遅延損害金、(ホ)本件建物(二)についての昭和五五年一月一日以降本件建物(二)明渡の日又は所有権移転本登記の完了日のうち何れか遅い日の属する月までの別紙使用料相当額一覧表記載の算定方式により算定した使用料相当額、(ヘ)右(ホ)の使用料相当額のうち昭和五五年一月一日以降各月の使用料相当額につき各月の翌月一日から完済まで日歩四銭の割合による遅延損害金の支払を(主文第四項)、被告金庫に対し本件建物(二)についての被告学園から原告への所有権移転登記手続に対する承諾を(主文第五項)それぞれ求める。
二 請求原因に対する認否<省略>
三 抗弁
1 被告大沢
原告は被告大沢が本件土地上に本件建物(三)を新築所有しその敷地の一部を使用していることを新築時に承知しており、その後も土地の占有使用について何の異議も述べなかつたので、被告大沢と原告との間に本件建物(三)新築時に同建物敷地部分についての土地使用賃借もしくは土地賃貸借契約が成立した。
2 被告金庫
(一) 原告の行為は日本住宅公団法、同法施行規則、日本住宅公団業務方法書によつて覊束されているところ、右施行規則三八条三号、右業務方法書四二条には譲受人が(イ)正当な理由なくすみやかに施設を使用開始しないとき、(ロ)使用目的に違反したとき、(ハ)法令によつて施設を収用又は使用されたとき、(ニ)その他譲渡契約に違反し又は契約の履行不能になつたときは、原告は施設の譲渡契約を解除し、又は施設を買戻すことができると定められている。
しかるに原告と被告学園は請求原因1記載のとおり、本件建物(二)につき買戻の特約をするに替え再売買の予約をしているのであるから、右再売買の予約は前規定に違反して無効というべきである。
(二) 譲渡契約において原告、被告学園間でなされた本件建物(二)の譲受予約は、原告が被告学園に売り渡した本件建物(二)の売買代金の割賦金支払債権を担保するためのもので、原告はそのため本件建物(二)につき所有権移転請求権仮登記のほかに右割賦金の支払を担保するための抵当権の設定を受けこれを登記している。
従つて原告の本件建物(二)についての売買予約はいわゆる仮登記担保契約であるから、(イ)原告が本件建物(二)につき被告金庫に対し仮登記の本登記手続の承諾を求める前に、後順位抵当権者である被告金庫が本件建物(二)の競売を申立てた以上、原告は右競売手続に参加して債権の満足を受ければ足りるし、(ロ)原告は被告学園に対する被担保債権(割賦金)以外の金銭債権をもつて自己の負担する清算金債務と相殺することはできないから、請求原因7記載の相殺は後順位抵当権者たる被告金庫に対する関係では効力を生じない。
(三) 被告金庫は被告学園に対し金七、〇七二万二、六一〇円及びこれに対する昭和四九年一〇月一六日以降支払済まで年14.50パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める債権を有しているところ、原告は被告学園に対し請求原因7記載のとおり金一、六七〇万三、四〇〇円の債務を負担しており、右債務は仮登記担保契約による清算金の一部であるというべきであるから、被告金庫は被告学園に代位してその支払を請求し、支払完了までは原告の被告金庫に対する本登記の承諾請求を拒絶する。
四 抗弁に対する認否及び反論
1 抗弁1の事実は否認する。
2(一) 同2(一)は争う。
原告と被告学園間の本件建物(二)の譲受予約はその目的において日本住宅公団法施行規則、同業務方法書に定める買戻の特約と異ならず、原告は単に本件建物(二)につき被告学園に所有権保存登記手続をするためその他により譲受予約をしたに過ぎない。
(二) 同2(二)中原告が本件建物(二)につき所有権移転請求権仮登記のほか抵当権設定登記を経由していることは認めるが、その余は争う。
原告と被告学園間でなされた本件建物(二)の譲受予約は本来型売買予約であつて債権担保のためのものではない。<以下、事実省略>
理由
一(本件建物(二)の譲渡と本件土地の賃貸)
請求原因1ないし3の事実は原告と被告学園、同大沢間においてはいずれも争いがなく、原告と被告金庫間においては<証拠>により認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
なお、被告金庫は本件建物(二)についてなされた原告の所有権移転請求権仮登記は昭和四五年六月二日の原告、被告学園間の売買予約を原因とするもので、譲渡契約とは全く別個のものである旨主張するが前掲各証拠によれば原告、被告学園の譲渡契約は右当事者間の契約の基本をなすもので、昭和四五年六月二日に締結された確定契約と土地賃貸借契約は譲渡契約を補充する契約たる性質を有するものと認められる。即ち譲渡契約二条三項には「割賦金総額の確定ならびに割賦金の支払場所、金額、回数、期日および支払期間の確定は、原告の指定する日時、場所で、別紙の割賦金総額確定契約書(様式)による契約締結によつて行ないます。この場合、割賦金総額および割賦金の額の算定は、原告所定の割賦金総額算定基準によるものとします。」とされ、末尾に別紙として割賦金総額確定契約書(様式)が添付され、一条二項には「原告は、前項に基づく施設の建設(本件建物(二)の建設)が完了し、二条三項に基づく被告学園との割賦金総額確定契約を締結すると同時に、被告学園との間に別紙の土地賃貸借契約書(様式)による契約締結を行ない、前項の土地を被告学園に賃貸するものとします。」とされ、末尾に別紙として土地賃貸借契約書(様式)が添付されていることからも、右仮登記手続も建物代金が確定した日付をもつてなしたもので譲渡契約中でなされた譲受予約を原因とするものと認められるから、被告金庫の主張は理由がない。
二(被告学園の債務不履行等)
1 請求原因5の事実は原告と被告学園、同大沢間においてはいずれも争いがなく、原告と被告金庫間においては右事実中被告金庫が昭和五〇年八月七日千葉地方裁判所に本件建物(二)に対する競売を申立て、同裁判所昭和五〇年(ケ)第一二二号事件として係属中であることは争いがなく、その余の事実は<証拠>により認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 同6の事実は原告と被告金庫間においてはいずれも争いがなく、原告が請求原因7記載のとおりの相殺の意思表示をしたことは訴訟上明らかである。
三(譲受予約の効力等)
1 <証拠>によると次の事実が認められ、右認定を覆する足りる証拠はない。
(一) 原告は日本住宅公団法一条の目的を達成するため、同法三一条五号で「原告が賃貸し又は譲渡する宅地に建設される住宅の居住者の利便に供する施設の建設、賃貸その他の管理及び譲渡を行なうこと」が業務の一つとされ、本件建物(二)も原告の経営する千葉幸町団地(戸数約六、〇〇〇戸、居住者数約二万四、〇〇〇人)の居住者に幼稚園として利用させるため建設され、被告学園に譲渡されたもので、同様の幼稚園は同団地内に合計三ケ所存する。右施設は契約をもつて定めた用途以外の用途に供しないこと(同法施行規則三八条二号)とされ、譲渡契約の条項に違反した場合には当該施設の譲渡契約を解除し又は当該施設を買戻すことができ(同規則三八条三号)、原告が施設の譲渡契約を解除した場合においては譲受人に当該施設を返還させなくてはならず(同規則四〇条一項)又同法三三条に基ずき定められた日本住宅公団業務方法書三七条では分譲施設の譲受人については分譲施設をその設置の目的に応じて経営する能力を有することが要求され、本件建物(二)の敷地たる本件土地の賃貸借契約に関しても同法施行規則三一ないし三三条に同様の趣旨の規定が存し、本件建物(二)についての譲渡契約(但し、これは前認定のとおり本件建物(二)の譲渡に関するもののほかに本件土地賃貸借契約、確定契約の基本となる契約としての性格も有する。)、確定契約、本件土地賃貸借契約も、日本住宅公団法、同法施行規則、日本住宅公団業務方法書の規定にそつて締結されたものである。
(二) 原告と被告学園間の譲渡契約においては被告学園が(1)施設の引渡を受けた後、正当な理由なくすみやかに使用を開始しないとき、(2)割賦金の支払を三ケ月以上滞納したとき、(3)強制執行、保全処分、競売の申立等を受けたとき、(4)破産の申立を受けたとき、(5)公租公課を滞納しこれによつて原告が被告学園は割賦金総額の支払能力がないと認めたとき、(6)施設を幼稚園以外の目的に使用したとき、(7)法令によつて施設を収用又は使用されたとき、(8)その他この契約に違反し又は被告学園がこの契約の履行不能となつたときは原告はその選択により割賦金総額の支払残額の一時支払を請求し又は右請求をすると共に本件建物(二)を被告学園から譲受けることができると定められ、本件建物(二)には前認定のとおり譲受予約を原因とする所有権移転仮登記がなされ、その他右割賦金の支払を担保するための抵当権設定登記もなされ(本件建物(二)に原告に対する抵当権設定登記の存することは原告と被告金庫間に争いがない。)ている。又譲受予約を完結した場合に原告が被告学園に支払う代金も前認定のとおり一時支払請求時における被告学園の支払済割賦金の額と割賦金支払残額の合計額であり、右代金は原告が被告学園に対して有する割賦金総額の支払残額、違約金使用料相当額、遅延損害金その他の金銭債権と相殺することができることとなつている。
2 ところで、仮登記担保契約とは、金銭債権を担保するためその不履行があるときは、債務者又は第三者に属する所有権その他の権利を債権者に移転すること等を目的としてなされた代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約、売買の予約等の契約で、その契約による権利について仮登記又は仮登録のできるものをいうところ、通常の仮登記担保契約は担保物件の所有権を評価した価額で確定的に債権者に帰属させるか、又はこれを第三者に売却することにより換価処分し、右評価額又は売却代金から債権者が自己の債権額の満足を受けることを主眼とするものであり、従つて「いわゆる仮登記担保権者がその権利の実行として訴訟により仮登記の本登記手続又はその承諾を請求する前に既に第三者の申立により目的不動産につき競売手続が開始されている場合は、右の請求をすることは原則として許されない。」(最高裁昭和四九年一〇月二三日大法廷判決。民集二八巻七号一四七三頁参照)ものと解される。
判旨しかしながら、本件譲受予約について考察するに、右譲受予約の完結権を行使し得る場合は1において認定したとおり単に被告学園が本件建物(二)の割賦金の支払を遅延した場合ないしはこれに付随する場合のほか、譲渡契約の基本理念である本件建物(二)を被告学園が幼稚園として使用していくことが困難と思われる事情が生じたときも含まれ、一方被告学園が割賦金の支払は遅延せずあるいはこれを完済したとしてもその他の金銭債務たとえば本件土地地代の支払を遅延した場合も譲渡契約に違反した場合に該当すると判断できれば完結権を行使し得るものと解され(土地賃貸借契約の大綱は譲渡契約添付の別紙土地賃貸借契約様式において定められていること前掲甲第一号証により認められ、土地賃貸借契約は譲渡契約の補充契約たる性質のものであること前認定のとおり。)ることなどによれば、本件譲受予約は本来型売買予約たる側面と担保型売買予約たる側面の二面を有し、かつ担保型売買予約たる側面においてもその被担保債権には、これと併存する抵当権とは異なり、本件建物(二)の割賦金債権のみにとどまらず、原告と被告学園間に譲渡契約に関連して生ずる違約金、土地使用料、建物使用相当額、遅延損害金などの金銭債権も含まれるものと解するを相当とする。
又単に原告は被担保債権の満足を受ければ目的を達するものではなく、本件建物(二)の所有権を回復し、その後に原告において再び健全な幼稚園経営者にこれを譲渡するなどして幼稚園として団地居住者の利用に供するとの公共的な必要性があり、右必要性は法の趣旨に照らし是認されるべきものと認められるから、後順位抵当権者(被告金庫)により本件建物(二)につき競売の申立がなされこれが裁判所に係属しているといえども原告は民事訴訟法六四八条四号又は競売法二七条四項四号に基づき当該権利が仮登記担保権であること及び被担保債権とその全額を明らかにして競売裁判所に届出る方法により目的不動産の競売手続に参加して配当を受けることでは足らず、自己固有の権利を実行し被告金庫に対し仮登記に基づく本登記手続の承諾を求める正当な法的利益を有するものと認められる。
3 なお、被告金庫は日本住宅公団法、同法施行規則、日本注宅公団業務方法書には債務者に1(二)(1)、(6)ないし(8)の事由があるときは原告は譲渡契約を解除し又は施設を買戻すことができると定められているのに反し、原告は被告学園と買戻ではなく再売買の予約をしたもので、右予約は法令違反により無効である旨主張するが、買戻と再売買の予約とはその法的性質が異なることは論を待たないが、本件においてはその果すべき作用には格別の差異は認められず、又原告が買戻特約に民法上加えられる制約をことさら潜脱する目的をもつて売買予約をしたものと認めるに足りる証拠はないから、被告金庫の右主張は理由がない。
4 よつて
(一) 原告は本件建物(二)について自己固有の権利の実行をすることができ、
(二) 原告は被告学園に対し請求原因7記載の(イ)違約金五〇六万三、七六〇円(この点は前認定のとおり)、(ロ)本件土地賃料の滞納分として昭和四八年九月から昭和五〇年一一月六日までの合計金四三三万四、六六〇円(この点は前掲甲第九号証の一ないし三により認める。)と右各賃料に対して日歩四銭の割合による遅延損害金六六万四、一〇〇円の合計金四九九万八、七六〇円(この点は計算により明らか)、(ハ)本件建物(二)の使用料相当額として昭和四五年六月から昭和四七年四月まで合計金六四七万一、九六〇円と昭和四七年五月分の内金一六万八、九二〇円(この点は前認定のとおり計算上明らか)の以上(イ)ないし(ハ)合計金一、六七〇万三、四〇〇円の債権を有し、右債権は原告と被告学園間の譲受予約の被担保債権を構成するものであること前認定のとおりであるから、後順位抵当権者が存するか否かに拘らず、右債権をもつて原告が被告学園に本件建物(二)の譲受代金として支払うべき金一、六七〇万三、四〇〇円(負担金三四一万九、八五〇円((この点は前認定のとおり))、及び被告学園の支払済割賦金一、四二八万五、六八〇円の合計金一、七七〇万五、五三〇円から滞納割賦金についての約定の範囲内である日歩四銭の割合による遅延損害金一〇〇万二、一三〇円((この点は被告学園、同大沢においては明らかに争わないから自白したものと看做し、被告金庫と原告間においては弁論の全趣旨により認める。))を控除した額)と相殺することができ、右意思表示のあつたこと前認定のとおりであるから、その結果右金一、六七〇万三、四〇〇円の被告学園に対する債務は消滅したものと認められ、
被告金庫の主張はいずれも理由がない。
四(被告大沢の本件土地の占有)
請求原因5の事実中、被告大沢が本件建物(三)を建築したこと、被告学園は同建物を本件建物(二)と一体のものとして使用していることは原告と被告学園、同大沢間において争いがなく、右争いのない事実及び<証拠>によれば被告大沢は本件建物(三)を所有することにより被告学園所有の本件建物(二)と一体の建物として幼稚園の園舎としての使用に供し、その結果敷地である本件土地全体を園庭として使用し占有しているものと認められ、本件建物(三)の敷地部分に限定して区分使用していることを認めるものではないので被告大沢は被告学園と共同して本件土地全部を占有しているものと解されるから、被告大沢は被告学園と共に本件土地を占有していることにより原告に生ずる損害を賠償する義務がある。
なお抗弁1の事実はこれを認めるに足りる証拠はない。
五以上認定の事実によれば被告学園及び同大沢が原告に対し別紙債権目録記載(一)及び(二)の金員を、被告学園が同じく原告に対し同目録記載(三)ないし(八)の金員を各支払うべき義務のあること計算上明らかである。
六(結論)
以上の次第で原告の被告らに対する請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を仮執行宣言につき同法一九六条を(なお主文第一項、第二項については仮執行の必要はないものと認め、この点の申立を却下する。)それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(岡田潤 並木茂 高林龍)
物件目録、債権目録、使用料相当額一覧表、使用料相当額算定基準、配置図《省略》