東京地方裁判所 昭和51年(ワ)1395号 判決
二 成立に争いのない甲第一号証(本件公報)の図面の記載及び本件登録意匠(〔編註〕登録三三七六三二号)が時計文字盤に係るものであることを総合すれば、本件登録意匠は概ね次のとおりであることが認められる。
(1) ほぼ正方形の輪郭を有する薄い平板状の時計文字盤であること。
(2) 文字盤の中央部に小円孔があること。
(3) 文字盤の正面において、輪郭の一辺の長さの三分の一強の半径を有し右(2)の小円孔と同心円となる円周上に、時刻を表示する数字に代えて、一二個の円形凹所をその中心が等間隔になるように配置し、右一二個の円形凹所のうち、一二時及び六時に該る位置のものが最も大きくその直径が輪郭の一辺の長さの約六分の一、三時及び九時に該る位置のものがその次に大きくその直径が同約八分の一、その他の位置のものが最も小さくその直径は同約一〇分の一となつていること。
(4) 文字盤の正面に、前記(2)の小円孔と同心円状の、これより若干大きい歯車形の表示があること。
(5) 右歯車形の表示の中心から前記(3)の各円形凹所の中心に向けて、右歯車形の表示の外周から右各凹所の外周近傍まで、一二組の幅の狭い平行線を放射状に表示していること。
ところで、原告は、本件登録意匠が文字盤の前記円形凹所に相応の大きさの硬貨その他の画像表示板をはめ込んだ状態のものであると主張する。
しかしながら、右主張を肯認すべき資料はなく、かえつて、前顕甲第一号証(本件公報)によれば、本件登録意匠の願書中の「説明」欄には「本物品は時計の組立てに際して図の12個の円形凹所へ硬貨その他の画像表示板を嵌め込むようになつている。」と記載されていることを認めうべく、この記載は硬貨その他の画像表示板を嵌め込んだ状態を表現するものではないといわざるをえず、右願書に添附した図面においても、右円形凹所は文字どおり凹所としてのみ表示され、これに硬貨等がはめ込まれた状態は表示されていないのであるから、これらの点を合わせ考えれば、本件登録意匠は、文字盤の一二個の円形凹所に硬貨等をはめ込む以前の形態に係るものであつて、これをはめ込んだ状態のものではないというべく、原告の右主張は採用し難い。
三 次に、請求の原因3の事実は当事者間に争いがなく、またイ号意匠が別紙図面表示のとおりであることは、その意匠にかかる文字盤がいわゆるヘヤーライン模様を有するか否かの点を除き、被告において明らかに争わないから自白したものとみなされるところ、以上の事実に本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、イ号意匠及びロ号意匠は概ね次のとおりであることが認められる。
(1) ほぼ正方形の輪郭を有する薄い平板二板を貼り合わせた時計文字盤であること。
(2) 文字盤の中心部と四隅部に各一個の小円孔があること。
(3) 文字盤の正面において、輪郭の一辺の長さの約三分の一の半径を有し右(2)の中心部の小円孔と同心円となる円周上に、一二個の円形凹所をその中心が等間隔になるように配置し、右一二個の円形凹所の直径は、一二時、三時、六時及び九時に該る位置のものが輪郭の一辺の長さの約八分の一、その他の位置のものはこれより小さく同約一〇分の一となつていること。
(4) 右一二個の円形凹所には、相応の大きさの硬貨がその厚さの約半分まで没するようにはめ込まれていること。
(5) 文字盤の正面全体に、網状のヘヤーライン模様(イ号意匠)又は大理石模様(ロ号意匠)を有すること。
四 そこで、以上の各事実に基づき、本件登録意匠とイ号意匠及びロ号意匠とを対比してみると、前者と後者とは、(1)ほぼ正方形の輪郭を有する薄い平板状の時計文字盤であること、(2)文字盤の中央部に小円孔を有すること、(3)文字盤の正面に、時刻を表示する数字の代わりに、硬貨その他の画像表示板をはめ込むべき一二個の円形凹所を配置しており、かつこれら凹所のうち一二時、三時、六時及び九時に該る位置のものがその他の位置のものより若干大きいことの点では同一であるものの、(1)前者が硬貨を有しないのに対し、後者は右円形凹所に硬貨をはめ込んだものであること、(2)前者が歯車形の表示及びこれから前記円形凹所に向けて放射状に延びる一二組の平行線の表示を有するのに対し、後者はこれを有しないこと、(3)後者がヘヤーライン模様(イ号意匠)又は大理石模様(ロ号意匠)を有するのに対し、前者はこれを有しないことの点で相違することが明らかである。
そして、右共通点のうち、(1)のほぼ正方形の薄い平板状であるとの点は時計文字盤としてありふれた形状であるし、(2)の中央部に小円孔を有するとの点も指針を取り付けるという技術上の要請に基づく当然の形態にすぎないが、(3)の時刻を表示する数字の代わりに前記のような大きさの一二個の円形凹所を環状に配置するとの点は、それ自体としてかなり看者の注意を惹くべき部分であることは否定しえない。しかしながら、一方、本件登録意匠が文字盤の中央部の歯車模様から前記円形凹所の中心に向けてその外周付近まで放射状に延びる一二組の平行線の表示を有するとの点は、同意匠において最も看者の注意を惹くべき特徴的な部分というべきであつて、これを欠くイ号意匠及びロ号意匠と本件登録意匠とは、その余の相違点につき検討するまでもなく、前記各共通点を考慮してもなお全体としてその美感を異にし、類似しないものといわなければならない。
五 以上の次第であつて、イ号意匠及びロ号意匠が本件登録意匠に類似することを前提とする原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。