東京地方裁判所 昭和51年(ワ)1805号 判決 1980年1月30日
原告
大和博行
外1名
被告
旭工業株式会社
上記当事者間の昭和51年(ワ)第1805号特許権侵害行為差止等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
1 被告は原告大和博行との間において別紙物件目録記載の物件を製造し、販売してはならない。
2 被告は原告大和博行に対し、その所有にかかる別紙物件目録記載の物件並びにその半製品(別紙物件目録記載の構造を具備しているが、自動蒸し茹上装置として完成するに至つていないもの)を廃棄せよ。
3 被告は原告大和博行に対し、金504万円及びこれに対する昭和50年11月22日から支払ずみまで年5分の割合による金員の支払をせよ。
4 被告は原告自動製麺機管理株式会社に対し、金468万円及びこれに対する昭和52年5月12日から支払ずみまで年5分の割合による金員の支払をせよ。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 この判決は第3、第4項につきそれぞれ仮に執行することができる。
事実
第1当事者の求めた裁判
1 原告ら
主文第1ないし第5項同旨の判決及び第3、第4項につき仮執行の宣言
2 被告
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決
第2請求の原因
1 原告大和博行(以下、「原告大和」という。)は下記各特許権(以下、(1)の特許権を「本件第1特許権」といい、その特許発明を「本件第1特許発明」という。(2)の特許権を「本件第2特許権」といい、その特許発明を「本件第2特許発明」という。)の特許権者であり、原告自動製麺機管理株式会社(以下、「原告会社」という。)は、本件第1特許権及び本件第2特許権について、昭和49年8月9日設定契約、昭和50年9月11日登録された、期間・昭和49年8月9日から3か年、内容・製造及び販売(ただし茹麺)、地域・日本全国、とする専用実施権の権利者であつた(昭和52年8月9日専用実施権の期間満了)。
1 発明の名称 茹麺の製造装置
出願日 昭和41年1月28日
出願公告日 昭和45年9月8日
登録日 昭和46年4月30日
特許番号 第604281号
2 発明の名称 麺線連続茹上装置
出願日 昭和43年5月29日
出願公告日 昭和48年12月7日
登録日 昭和49年7月13日
特許番号 第735636号
2 本件第1特許発明及び本件第2特許発明の各願書に添附した明細書(以下、それぞれ「本件第1明細書」、「本件第2明細書」という。)の各特許請求の範囲の欄の記載は、それぞれ、次の(1)、(2)の各記載のとおりである。
1 「1閉鎖湯槽内を上段から下段に瓦つて循環する無端チエン又は金網に麺線収容バケツトケースを取付け、上段側のバケツトケースは熱湯水面と湯槽上面閉鎖部の間を蒸気の中を移行し、かつ下段側のバケツトケースは熱湯水面下を移行させるようにし、バケツトケースに収容した麺線を先ず蒸気で蒸熱し、次に熱湯に浸漬して連続して同一湯槽内にて加温するようにしたことを特徴とする茹麺の製造装置。」(別添特許公報(甲)参照)
2 「1茹槽の上部から茹槽の内部に至り、水面下を横向に移動した後上下反転して反対向となりさらに横向に水面下を移動した後再び茹槽の上部に至る循環動作を繰返す回動チエンに多孔容器を架設し、多孔容器には開閉自在の蓋を枢着し、水面に向う上向多孔容器の蓋を開閉して生麺を多孔容器に収容する装置と、反転して水面から上方に向う下向多孔容器の蓋を開閉して茹麺を排出する装置を設けてなる麺線連続茹上装置。」(別添特許公報(乙)参照)
3 本件第1特許発明は、次の構成要件からなる茹麺の製造装置である。
A 閉鎖湯槽内を上段から下段にわたつて循環する無端チエン又は金網に麺線収容バケツトケースを取付け、
B 上段側のバケツトケースは熱湯水面と湯槽上面閉鎖部の間の蒸気の中を移行し、かつ、下段側のバケツトケースは熱湯水面下を移行させるようにし、
C バケツトケースに収容した麺線をまず蒸気で蒸熱し、次に熱湯に浸漬して連続して同一湯槽内にて加温するようにしてあること。
4 本件第1特許発明の作用効果は、次のとおりである。
A バケツトケースに収容された生麺線は湯槽の熱湯水面と閉鎖蓋の中間の蒸気部を通過する間に蒸気によつて完全に蒸熱された後スプロケツトを回つて連続して熱湯の中に入るので蒸気室装置を別に設ける必要がない。
B 1個の閉鎖湯槽だけで蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げをきわめて順序よく迅速に、かつ、連続的に行うことができるので設置するのに場所をとらず装置をきわめて簡潔に形成しえて設備費を著しく節減できる。
C 上段側のバケツトケースも下段側のバケツトケースも往復ともに加温されて工程及び熱の無駄がなく、かつ、茹湯に浸漬する麺線は予め上段側で蒸熱加温されているので茹湯の温度の低下が少なくしかも茹湯から出る蒸気は逃げずに槽内に有効に利用されるので熱効率を著しく向上しうる。
D 蒸熱によつて予めα化した麺線が茹湯に入れられるので麺線の溶出が少なく製品の歩留りを著しく向上しうるとともに美味でつやのあるきわめて品質のよい製品が得られる。
5 本件第2特許発明は、次の構成要件からなる麺線連続茹上装置である。
A 茹槽の上部から茹槽の内部に至り、水面下を横向きに移動した後上下反転して反対向きとなり更に横向きに水面下を移動した後再び茹槽の上部に至る循環動作を繰返す回動チエンに多孔容器を架設し、
B 多孔容器には開閉自在の蓋を枢着し、
C 水面に向う上向多孔容器の蓋を開閉して生麺を多孔容器に収容する装置を設け、
D 反転して水面から上方に向う下向多孔容器の蓋を開閉して茹麺を排出する装置を設けること。
6 本件第2特許発明の作用効果は、次のとおりである。
A 麺線が水面上に浮上するおそれがなく、きわめて均一に茹上げられるとともに品質のよい麺線が得られる。
B 多孔容器は茹湯の中を往復するから装置を小型にできる。
7 被告は別紙物件目録記載の物件(以下、「本件物件」という。)を製造し、販売している。
8 本件第1特許発明と本件物件とを対比すると、次のとおりである。
1 本件物件中、上蓋2を有する第1槽1は本件第1特許発明の「閉鎖湯槽」に該当し、チエン11がチエンホイル8aを通じて第1槽1内に入り、チエンホイル81、82、83、84、85、86を迂回しつつ第1槽1の上段から下段にわたつて移行し、次いで以下順次第2槽3ないし第n槽、冷却シヤワー室6、殺菌槽7を経て茹麺排出シユート22bの上を通り、麺線収容シユート21cの下を通つて再びチエンホイル8aの所へ戻るように循環する構造部分は、本件第1特許発明の「上段から下段にわたつて循環する無端チエン」に該当し、そしてチエン11にバケツト10が架設されている構造部分は、本件第1特許発明の「無端チエンに麺線収容バケツトケースを取付け」に該当するから、本件物件は本件第1特許発明の構成要件Aを充足する。
2 本件物件においては、(1)給水管13と蒸気管12がエジエクター19(気水混合器)で合流して熱湯を作り、これを給湯管14で第1槽1の内部に導き、これにより熱湯を第1槽1内に供給する。他方一端をボイラーに連結する蒸気管12は第1槽1内に設けた蒸気噴出管9と連結し、蒸気噴出管9は第1槽1内の下部から上部にかけ五段に分かれ、各レベルにおいて蒸気を噴出できるようになつている。そして第1槽1内に供給された熱湯は蒸気噴出管9のうち、第1槽1内の下部に位する蒸気噴出管により第1槽1内で加温を継続されるようになつており、(2)第1槽1の正面には水面計24が設けられており、また同槽の裏側面には外側に突き出した水位調節装置23のバルブ23aがあり、このバルブ23aから水位調節管23bが連結突出し、その端部23cにおいて更に排水管23dと連結している。水位調節管23bを回動するとその端部23cの位置が上下に動く。水位調節管23bを垂直に立てた場合その端部23cの位置が最も高くなる。これによつて、バルブ23aの位置を最低位置とし、水位調節管23bを垂直に立てた場合のその端部23cの位置を最高位置とする調節が可能なようになつている。このバルブ23aの位置はチエンホイル85と86の間にあるバケツト10の位置よりも高く、水位調節管23bの端部23cの位置は最高位置において81及び82のチエンホイルの間にあるチエン11の位置よりも低くなつている。したがつて、この水位調節装置23による水位調節の範囲は、高い場合でも第1槽1内の熱湯水面がバケツト10を架設したチエン11の少なくとも最上段の一列より下にあり、また低い場合でも少なくとも最下段の一列より上にあるような範囲になつている。(3)以上の構造により明らかなとおり、本件物件の第1槽1内には、レベルの異なる数段の蒸気噴出管9より噴出する蒸気により、上部に蒸気を噴出し、下部に熱湯を供給し、かつ、この熱湯の蒸熱加温を継続するようになつている。しかも本件物件の正常作動時において、水位調節装置23により調節可能の範囲は、常に最上段側のチエン11が熱湯水面の上にあり、最下段側のチエン11が熱湯水面の下にあるような範囲である。したがつて、本件物件の第1槽1の右(1)(2)の構造部分は本件第1特許発明の構成要件Bに該当するから、本件物件は本件第1特許発明の構成要件Bを充足する。
3 本件物件の第1槽1内において、バケツト10は、チエンホイル8aを通じて順次チエンホイル81、82、83、84、85、86と上段から下段にわたつて移行するにつれて、前記(2)で述べたような第1槽1内の水面の調節により、熱湯水面と第1槽1の上蓋2の間をまず移行し、次いで熱湯水面下を移行するから、バケツト10に収容された麺線は、まず上段において蒸気で蒸熱され、次に熱湯水面下を移行して熱湯に浸漬して連続して同一湯槽内で加温されるようになつており、したがつて、上記第1槽1の構造部分は、本件第1特許発明の「バケツトケースに収容した麺線をまず蒸気で蒸熱し、次に熱湯に浸漬して連続して同一湯槽内にて加温するようにしたこと」に該当するから、本件物件は本件第1特許発明の構成要件Cを充足する。
4 本件物件は、本件第1特許発明の構成要件AないしCを充足する茹麺の製造装置である。
5 よつて、本件物件は、本件第1特許発明の技術的範囲に属する。
9 本件第2特許発明と本件物件とを対比すると、次のとおりである。
1 本件物件中、上蓋2を有する第1槽1は本件第2特許発明の「茹槽」に該当し、チエン11は本件第2特許発明の「回動チエン」に、バケツト10は本件第2特許発明の「多孔容器」にそれぞれ該当し、そして、チエン11は、チエンホイル8aを経てチエンホイル81、82、83、84、85、86と順次第1槽1の上部から同槽の内部に至り、同槽の上部のチエンホイル8bに至るが、この間各チエンホイル81-82、82-83、83-84、84-85、85-86の間ではそれぞれチエン11は横向きに移動するので、下段の熱湯水面下の部分では熱湯水面下を横向きに移動し、そして上記各チエンホイルの位置で上下反転しつつ次のチエンホイルまで横向きに熱湯水面下を移動するようになつているから、上記構造部分は、本件第2特許発明の「茹槽の上部から茹槽の内部に至り、水面下を横向きに移動した後上下反転して反対向きとなり更に横向きに水面下を移動」するという要件部分に該当し、またチエン11は上記に述べたような第1槽1内の横向き移動、各チエンホイルでの上下反転を繰返し、更にチエンホイル8bを経て第2槽3ないし第n槽などを通り茹麺排出装置22、麺線収容装置21を経て再びチエンホイル8aから第1槽1に入る循環動作を繰返すようになつているから、この構造部分は本件第2特許発明の「再び茹槽の上部に至る循環動作を繰返す回動チエン」という要件部分に該当し、またチエン11にバケツト10が架設されている構造部分は、本件第2特許発明の「回動チエンに多孔容器を架設し」という要件部分に該当するから、本件物件は本件第2特許発明の構成要件Aを充足する。
2 本件物件においては、バケツト10に蓋開閉用の発条10bの力で閉じる蓋10aが蝶番10cによつて開閉自在に枢着されているから、本件物件は本件第2特許発明の構成要件Bを充足する。
3 本件物件は、チエン11の循環経路のうち、第1槽1の直前に麺線収容装置21が設けられていて、この麺線収容装置21は生麺を細切りにするカツター20から出てきた生麺線を麺線収容シユート21cから下へ落とすようになつており、チエン11に取付けられたバケツト10はここで上向きになつており、麺線収容シユート21cの直前でバケツト10の蓋10aの位置に案内ガイド21a・21bが設けられていて、この案内ガイド21a・21bが蓋10aの端部から幾分突起したロツド10dと係合することにより、チエン11が進行するにつれてこの蓋10aが自動的に開くように構成されている。そして上向きになり蓋10aを開いたままのバケツト10が麺線収容シユート21cの下を通過するとき、生麺線がバケツト10の中に落下し、通過し終ると蓋10aが閉じるようになつている。したがつてこの麺線収容装置21は、本件第2特許発明の「水面に向う上向多孔容器の蓋を開閉して生麺を多孔容器に収容する装置」に該当するから、本件物件は本件第2特許発明の構成要件cを充足する。
4 本件物件において、熱湯水面下を横向きに移動したバケツト10は、チエン11の移動につれてチエンホイル86からチエンホイル8bに向けて熱湯水面から上方に向い、その後第2槽3ないし第n槽などを経て茹麺排出装置22の位置に至り、この位置において下向きとなる。ところで、茹麺排出装置22はバケツト10の蓋10aの案内ガイド22aと漏斗状の茹麺排出シユート22bとからなり、案内ガイド22aは、バケツト10が下向きで通過する際、バケツト10の蓋10aの端部のロツド10dの両端の突起部と係合し、バケツト10がチエン11によつて移動するにつれて蓋10aが自動的に開かれ、バケツト10内の茹麺が茹麺排出シユート22b内に落下し、バケツト10がこの位置を過ぎるとバケツト10の蓋10aのロツド10dと開閉装置の案内ガイド22aの係合がはずれ自動的に蓋10aが閉じるようになつている。したがつて、この構造部分は本件第2特許発明の「反転して水面から上方に向う下向多孔容器の蓋を開閉して茹麺を排出する装置」に該当するから、本件物件は本件第2特許発明の構成要件Dを充足する。
5 本件物件は、本件第2特許発明の構成要件AないしDを充足する麺線連続茹上装置であるから、本件第2特許発明の技術的範囲に属する。
10 被告は、本件第1特許権及び本件第2特許権(ただし、本件第2特許権については昭和49年7月12日まで仮保護の権利)並びにこれらの専用実施権の存在を知りながら、あるいは過失によりこれを知らないで、昭和49年6月ころから昭和50年8月末日ころまでの間に、本件物件を合計14台販売して、原告大和の本件第1特許権及び本件第2特許権を侵害し、また昭和50年9月11日以降昭和51年3月8日までの間に本件物件を合計13台販売して原告会社の上記各専用実施権を侵害したものであるところ、原告らは本件第1特許発明及び本件第2特許発明の通常受けるべき各実施料相当額をもつてその損害額と主張するが、本件物件の販売価額はいずれも1台につき金1200万円であり、また本件第1特許発明及び本件第2特許発明の実施に対する通常受けるべき各実施料は販売価額の3パーセントである。したがつて、原告大和については、1台当たりの販売価額金1200万円に販売台数14を乗じ、更に実施料率100分の3を乗じた金504万円が各実施料相当額であるから、同原告は上記と同額の損害を被つたものであり、また原告会社については、1台当たりの販売価額金1200万円に販売台数13を乗じ、更に実施料率100分の3を乗じた金468万円が各実施料相当額であるから、同社は上記と同額の損害を被つたものである。
11 よつて、(1)原告大和は被告に対し、主位的に本件第1特許権に基づき、予備的に本件第2特許権に基づき、本件物件の製造販売の差止め、その所有にかかる本件物件及び半製品(別紙物件目録記載の構造を具備しているが、自動蒸し茹上装置として完成するに至つていないもの)の廃棄並びに前記損害金504万円及びこれに対する不法行為の後の日(本訴状送達の日の翌日)である昭和50年11月22日から支払ずみまで民事法定利率5分の割合による遅延損害金の支払を求め、(2)原告会社は被告に対し、主位的に本件第1特許権についての専用実施権に基づき、予備的に本件第2特許権についての専用実施権に基づき、前記損害金468万円及びこれに対する不法行為の後の日(訴変更の申立書送達の日の翌日)である昭和52年5月12日から支払ずみまで民事法定利率年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第3被告の答弁及び主張
1 答弁
1 請求の原因1ないし5の各事実は認める。
2 同6の事実は争う。
3 同7の事実は認める。
4 同8の事実中、(1)につき、本件物件が原告ら主張のような構造であることは認め、その余は争う。しかして第1槽1のみを本件第1特許発明にいう「閉鎖湯槽」としてとらえるならば、本件物件におけるチエン11は、第1槽1以外の第2槽3ないし第n槽、冷却シヤワー室6、殺菌槽7にもそれぞれ連結部のチエンホイル8bを介して各槽(室)内を上下縦方向に移動する如く張架されているのであるから、本件第1特許発明にいう「閉鎖湯槽内を循環する」とはいえない。(2)(1)につき、本件物件が原告主張のような構造であることは認め、その余は争い、(2)(2)(3)は否認する。ただし(2)のうち第1槽1の正面に水面計24が設けられていることは認める。本件物件の第1槽1における水位は水位調節装置23により零から満の範囲で多様に調節できるのである。したがつて、第1槽1の最上段側のチエン11が常に熱湯水面の上にあるものでもなく、また最下段側のチエン11が常に熱湯水面下にあるというものでもない。(3)につき本件物件の第1槽1が原告主張のような構造であることは認め、その余は争う。(4)は争う。第1槽1だけでは本件第1特許発明にいう「茹麺の製造装置」に該当しない。
5 同9の事実中、(1)は争い、(2)は認め、(3)のうち本件物件が原告主張の構造であることは認め、その余は争う。(4)は争う。
本件物件は茹槽(第1槽1ないし第n槽)、冷却シヤワー室6、殺菌槽7が全体として1個の装置(本件第1特許発明の発明の名称に従えば茹麺の製造装置)を形成するものであり、いわゆる茹麺の場合には第n槽を経て加温(熱)工程が完了し、またいわゆる蒸茹麺(ソフト麺、スパゲテイ)の場合でも第2槽3を経てはじめて加温(熱)工程が完了するのであるから、第2槽3以下を第1槽1に対する単なる附加的装置とみることはできない。したがつて、本件物件を本件第1特許発明及び本件第2特許発明と対比するにあたつては、第1槽1ないし第n槽を通じての茹上げ機構と本件第1特許発明及び本件第2特許発明の構成とを対比すべきであつて、第1槽1のみの構造と本件第1特許発明及び本件第2特許発明の構成とを対比する原告らの主張は失当である。
6 同10の事実中、その主張の期間中の本件物件の販売台数、1台当たりの販売価額、実施料が販売価額の3パーセントであることは認め、その余は争う。
2 主張
1 本件第1特許発明
(1) 本件第1特許発明は唯1個の閉鎖湯槽内において蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げを連続して行うことにより茹麺製造のための加温(熱)工程を完了することを特徴とするものである。本件第1特許発明の構成要件C自体上記の趣旨を示しているばかりでなく、本件第1明細書の次の各記載、すなわら「このようにして生麺線を収容したバケツトケース5は入口15から湯槽2の上段蒸気部に入り矢印6の方向に蒸気の中を移動する間に麺線は高温蒸気で加温されて同麺線の温度は上昇し表面から順次α化されてゆく。その後バケツトケース5がスプロケツト9の回りを回動すると同ケース5は下段側に移り茹湯3の水面下に浸漬しさらに矢印7の方向に移行する間に麺線は充分加温されて茹上げられるものである。」(別添特許公報(甲)2欄12行ないし20行)、「茹湯3の内部を通過した下段側のバケツトケース5はスプロケツト8を回つて出口16から槽外に移行し誘導スプロケツト13に誘導されて冷水シヤワー19の下を通過して冷水を浴びて冷却され自動開口装置によつてバケツトケース5の蓋が自動的に開き茹上げられた製品を落下シユート17に排出することができる。」(同公報(甲)2欄22行ないし28行)との記載からも明らかである。すなわち、麺線は湯槽2だけで充分加温されて茹上げられ、後は冷却工程を残すのみとなるのであり、だからこそ本件第1特許発明においては「蒸気室装置を別に設ける必要はなく1個の閉鎖湯槽2だけで蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げをきわめて順序よく迅速にかつ連続的に行うことができるので設置するのに場所を取らず装置をきわめて簡潔に形成し得て設備費を著しく節減し得る。」(同公報(甲)3欄2行ないし7行)という効果を達成しうるのであつて、もし数個の湯槽における加温を重ねてはじめて加温(熱)工程を完了するというのではこの効果を達成することはできない。加えて本件第1特許発明の出願人である原告大和が出願過程において審査官に提出した意見書にも「本発明のものは………このような茹上作業を湯槽1槽で行うことができるようにし」たことが特徴である旨、強調されている事実からも前記解釈は裏付けられるのである。
また本件第1特許発明においては、構成要件Bも本件第1特許発明の特徴を示すところの不可欠のものである。しかして、このことは、本件第1明細書に「本発明は閉鎖湯槽内を1端部から他端部に瓦りかつ上段から下段に瓦つて循環する無端チエン又は金網に麺線収容バケツトケースを取付け、上段側のバケツトケースは熱湯水面と湯槽上面閉鎖部の間の蒸気の中を移行し、かつ下段側のバケツトケースは熱湯水面下を移行させるようにし、バケツトケースに収容した麺線を先ず蒸気で蒸熱し、次に熱湯に浸漬して連続して同一湯槽内にて加温するようにしたことを特徴とする茹麺の製造装置に関するものであつて茹麺の歩留および品質を向上すると共に、熱効率を向上しかつ設備費を軽減することを目的とするものである。」(同公報(甲)1欄15行ないし26行)、「茹湯3の水位は湯槽2の中程に位置するものである。」(同公報(甲)1欄29、30行)、「又上段側(行き側)のバケツトケース5も下段側(戻り側)のバケツトケース5も往復共に加温されて工程および熱の無駄がなくかつ茹湯3に浸漬する麺線は予め上段側で蒸熱加温されているので茹湯3の温度の低下が少くかつ茹湯3から出る蒸気は逃げずに槽内で有効に利用されるので熱効率を著しく向上し得る効果がある。」(同公報(甲)3欄8行ないし14行)と繰返し強調されていることからも首肯しうるところである。以上の説明から明らかなように、本件第1特許発明は1個の閉鎖湯槽内において常に蒸熱と茹上げという連続工程のみを行うように構成された装置であつて、かかる構成を採用した点に本件第1特許発明の特徴があるものというべきである。
(2) ところで、本件物件は、数個の湯槽からなるものであり、第1槽1においては、麺の素材に応じて、第1槽1全部に湯を充たして熱湯による加温茹上げのみを行うこともできるし、第1槽1の中段まで湯を入れて蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げを行うこともできるし、更には湯を殆んど入れずに蒸気による蒸熱加温のみを行うこともできるのであり、例えば太麺を製造するときには第1槽1全部を湯で充たし加温茹上げのみを行い、またスパゲテイを製造するときは第1槽1の中段まで湯を入れて蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げを行うというように用途により適宜使い分けうるのである。しかもいずれの場合にも第1槽1のみで加温(熱)工程は完了せず、引き続き第2槽3ないし第n槽においても熱湯に浸漬して茹上げるという構造を採つている。
(3)(1) 本件物件は、まず第1槽1が前記のように麺の素材、用途に応じて任意に、(イ)熱湯による加温茹上げのみ(ロ)蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げ(ハ)蒸気による蒸熱加温のみの3種類に使い分けることができるという可変性を有するから、本件第1特許発明の構成要件Bを具備しない。ただし、本件第1特許発明は前記のとおり、上段側のバケツトケースは常に熱湯水面と湯槽上面閉鎖部の間の蒸気の中を移行し、かつ、下段側のバケツトケースは常に熱湯水面下を移行するように構成されているのに対し、本件物件は、かかる構成をとるものではなく、前記(イ)、(ロ)又は(ハ)の工程を可変的に行いうるものであり、熱湯の注入度合により、上段側のバケツト10が熱湯水面下を移行することもあるし、逆に下段側のバケツト10が蒸気の中を移行することもあり、いずれの用法も可能だからである。もつとも、原告らは本件第1明細書の実施例として示されている閉鎖湯槽を用いたとしても、その用法として給水を止め、蒸気噴出パイプにより蒸気だけを出した場合、上下に区別する区画はないのであるから、蒸気のみによる処理は当然可能であり、また逆に熱湯を一杯に充たせば、加温茹上げのみも可能であるから、このように他の用法も可能かどうかということは本件第1特許権侵害の有無の判断基準とはならない旨主張するが、かかる主張は本件第1明細書の記載を逸脱し、その技術的範囲を不当に拡大するものといわざるをえない。すなわち、本件第1明細書には原告の主張する他の用法が可能であることは開示されていないし、これを示唆する文言もない。
加えて本件第1特許発明が、その技術的範囲として熱湯を一杯に充たして加温茹上げのみも可能な装置も含むというのであれば、本件第2特許発明と明らかに抵触することになる。本件第1特許発明と本件第2特許発明とはそれぞれ別個独立の物(装置)に関する特許発明であることはいうまでもなく、したがつて、その対象たる装置は全く別個のものというべきであるところ、本件第1特許発明と本件第2特許発明とを対比すると、両者の差異は、結局湯槽の中に湯が半分までしかないか又は上部まで充たされているかの点にあるにすぎない。しかしてこのことを、本件第1明細書及び本件第2明細書の「特許請求の範囲」の記載に即していえば、本件第1明細書においては、常に「上段側のバケツトケースは熱湯水面と湯槽上面閉鎖部との間の蒸気の中を移行し、かつ下段側のバケツトケースは熱湯水面下を移行させるようにし」た構成を採ることが必須の要件であり、他方本件第2特許発明においては、多孔容器は、常に茹槽内で「水面下を横向に移動した後上下反転して反対向となりさらに横向に水面下を移動した後」再び茹槽の上部に至る構成を採ることが必須の要件であることを意味している。けだし、もしそうでないとすれば、本件第1特許発明と本件第2特許発明とは物(装置)の発明として別個独立であるにもかかわらず、結局は同一の装置を対象としているという不合理な結果になるからである。換言すれば、本件第1特許発明はいわば蒸し茹で専用の装置に関するものであり、本件第2特許発明は茹で専用の装置に関するものであるのに対し、本件物件は蒸し茹でと茹でとの兼用の装置であり、装置としては本件第1特許発明及び本件第2特許発明のいずれとも異なるいわば第3の範ちゆうに属するものというべきである。よつて、原告らの前記主張は失当である。
しかして、更に原告らは、本件物件が本件第1特許権に抵触侵害するかどうかは、本件物件が本件第1特許発明の構成要件を充足するかどうかの点にかかつているところ、本件物件は本件第1特許発明の構成要件Bを充足する機構を有し、かつ、蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げを行うのは最も通常の用法である旨主張するが、本件第1特許発明は構成要件AないしCの構成をとるものとして具体的一義的に構造を特定された物(装置)の発明であり、かかる装置と前記(イ)、(ロ)又は(ハ)の工程を可変的に行いうる装置とは、装置として別個のものであるから、原告らの上記主張は失当である。
(2) 本件物件は、前記1(2)のとおり、第1槽1のみで加温(熱)工程は完了せず、引き続き第2槽3ないし第n槽においても熱湯に浸漬して茹上げるという構造であるから、本件第1特許発明の構成要件Cを具備しない。すなわち、本件物件においては、バケツト10に収容した麺線の蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げとを同一湯槽内において行うという構成を採つておらず、熱湯に浸漬しての茹上げは引き続き別湯槽においても行うという構成を採るものである。その結果、本件物件は「1個の閉鎖湯槽2だけで蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げをきわめて順序よく迅速にかつ連続的に行うことができる。」(別添特許公報(甲)3欄3行ないし5行)という本件第1特許発明の特徴を欠如し、「設置するのに場所を取らず装置をきわめて簡潔に形成し得て設備費を著しく節減し得る。」(同公報3欄6、7行)という作用効果を奏しないのである。ところで、原告らは、本件物件はその第1槽1それ自体だけで蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げが可能なように構成されている装置であり、更に必要ならば加温茹上げを完了することができる構造となつている以上、第2槽3ないし第n槽は第1槽1の単なる附加的装置にすぎない旨主張するけれども、その失当であることは以上の説明により明らかである。すなわち、本件物件において、いわゆる蒸茹麺(ソフト麺、スパゲテイ)を製造する場合には、第1槽1に熱湯を入れるとしても、その水位は最下段の蒸気噴出管9の位置までで、その余は蒸気を噴出して蒸気を充満させておき、第2槽3内には熱湯を充満させておくものであるが、第1槽1内における麺線の熱湯中の通過は実質的には麺をほぐす機能を有するにすぎず、茹上げは第2槽3において行われるものである。それであるから、第2槽3における熱湯加温は「可能」であるのではなく、まさに「必要」なのであり、本件物件においては第2槽3を経てはじめて加温(熱)工程が完了するのである。のみならず、蒸茹麺につき、もしこれを第1槽1のみで蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げという加温(熱)工程を完了しえたとしても、上記加温(熱)工程において麺線の癒着を避けることはできないから、第1槽1のみの蒸し茹ででは癒着の生じた、商品価値のない蒸茹麺しか製造することができない。したがつて、本件物件においては、麺線に癒着を生じさせないために、第1槽1の茹で時間の不足の補充と癒着状態のぼぐし作用をするように設計されている第2槽3ないし第n槽は必須の装置であつて、第1槽1に対する附加的装置とみることはできない。
(4) 本件第1特許発明は、先願にかかる「実用新案出願公告昭43-5594号公報」(別添実用新案公報参照)の考案と実質的に同一である。なるほど、本件第1特許発明は麺線収容装置として「バケツトケース」を用いている点で上記考案と相違しているが、麺線収容装置として「バケツトケース」を用いること自体は現に上記公報にも記載されているとおり、周知の技術であつて、これに何らの発明性も認めることはできないし、また本件第1特許発明の出願当時に公知となつていた特許出願公告昭39-20203号公報にも麺線収容装置として「バケツトケース」を用い、これを無端チエンに取付けた構成が開示されている。それ故上記相違は当業技術者が普通に採用すると認められる程度の変更であり、単なる慣用手段への転換にほかならないというべきである。してみると、本件第1特許発明についての特許は特許法第39条第3項の規定に違反してなされたもので、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とされるべきものといわざるをえないところ、かかる明白な無効原因を有する本件第1特許発明の技術的範囲は明細書の記載に従い最も狭く実施例そのものに限定して解釈すべきである。しかして、このような解釈の仕方は、構成要件が当該特許発明の特許出願前全て公知である特許発明の技術的範囲の解釈について一般的に承認されているところであるが、この理は、構成要件の全てが先願にかかる考案のそれと同一である特許発明の技術的範囲の解釈についても妥当するものというべきである。
ところで、本件物件が本件第1明細書記載の実施例とは構成を異にしていることが明らかである。
よつて、本件物件は本件第1特許発明の技術的範囲に属しない。
2 本件第2特許発明
(1) 本件第2特許発明に関して、審査官は、昭和47年10月31日付拒絶理由通知書をもつて、特許出願公告昭39-20203号公報を引用して拒絶理由を示したが、これに対し出願人である原告大和は昭和47年12月22日付意見書を提出し、同意見書中において「第1の御引例の特公昭39-20203号の公報記載の自動ゆで麺製造装置では半円筒形バケツト13が湯槽6内を上下方向に幾度も反転蛇行するので収容麺が水中で幾度も繰返し反転し麺線の表面に無理な力が加わり、表面が荒れて澱粉質が溶出し、製品の歩止りを低下させると共に麺の品質を低下させる欠陥があるし装置を小型に形成し得ない欠陥があります。」「本願の発明は上述の欠陥がないし、………特許法第29条第2項の規定には該当しないものと恩料致します。」と述べている。すなわち、本件第2特許発明の出願人たる原告大和は、特許庁における出願審査の過程において、審査官の引用した公知技術との相違を明確にするために、前記意見書によつてその「特許請求の範囲」を意識的に限定したものであり、この限定によれば、上記特許発明の特徴は多孔容器に収容された麺線が湯槽内で上下反転することを少なくするように構成した点にあるということができる。換言すれば、本件第2明細書の特許請求の範囲の記載から明らかなように、多孔容器が茹槽に入る際は上向きでそのまま水面下を横方向に移動し、しかる後上下反転して下向きとなり、そのまま横方向に移動して水面上に出るという、回動チエンのわずか1回の上下反転にとどめた点に本件第2特許発明の特徴があり、前記公知技術(特許出願公告昭39-20203号公報)と対比すれば本件第2明細書の特許請求の範囲にいう回動チエンの「上下反転」とは、唯一回の上下反転を意味し、まさにこの「唯1回の上下反転にとどめる」ということが本件第2特許発明の必須の構成要件をなすものといわなければならない。しかして、このように1回の「上下反転」にとどめたために、麺線の表面に無理な力が加わることがなく、したがつて、麺線の表面が荒れて澱粉質が溶出し、歩留りが低下するということがないという出願人の主張する作用効果を達成することができるのである。ところで、原告らは昭和47年12月22日付意見書に関して、本件第2特許発明では多孔容器が熱湯水面下を横方向に移動するのに対し、公知技術(特許出願公告昭39-20203号公報)では半円筒形バケツト13がチエンホイルの部分を迂回する以外は熱湯水面下をすべて上下方向に移動する点で両者が相違していること及び上下反転の意義からすれば、本件第2特許発明において多孔容器したがつて回動チエンが実質的に横方向へ行く限り、スプロケツトにおける上下反転が1回に限定されなければならない理由は上記意見書から見出しえない旨主張する。しかしながら、上記意見書によれば、「麺線の表面に無理な力が加わり、表面が荒れて澱粉質が溶出し、製品の歩止りを低下させると共に麺の品質を低下させる欠陥」は、「収容麺が水中で幾度も繰返し反転」することの結果として述べられていることは文脈上明らかである。しかして、「収容麺が水中で幾度も繰返し反転」するのは「半円筒形バケツト13が湯槽6内を………幾度も反転」することによるものであつて、「上下方向に蛇行」することによるものではない。してみると、上記意見書において、「本願の発明は上述の欠陥がない」とされているのは、本件第2特許発明においては多孔容器したがつて回動チエンが茹槽内を幾度も上下反転しないこと、換言すれば、唯1回の上下反転にとどめた結果であるといわざるをえず、上記意見書は本件第2特許発明の特徴としてこのことを強調したものというべき点ある。事実、「麺線の表面に無理な力が加わる」のは多孔容器の上下反転が数回繰返し行われることによるものであつて、多孔容器の移動方向が上下方向であるか横方向であるかには関係がないのである。加えて上記意見書では「装置を小型に形成し得ない欠陥」についても指摘されているが、「上下方向に幾度も反転蛇行」する構成よりも「横方向に幾度も反転蛇行」する構成の方が装置をより小型にしうるとは考えられないから、前記意見書は、公知技術(特許出願公告昭39-20203号公報)が「上下方向に幾度も反転蛇行するので」「装置を小型に形成し得ない欠陥」があるのに対し、本件第2特許発明は「多孔容器したがつて回動チエンを往と復との唯1回の上下反転にとどめた」が故に「装置を小型に形成しうる」ことを強調したものというべきであろう。そして本件第2明細書の「多孔容器3は茹湯中を往復するから装置を小型にし得る実益がある」(別添特許公報(乙)4欄14、15行)という記載はまさにこの趣旨を表現しているものと解されるのである。のみならず、多孔容器が熱湯水面下を横方向に移動すること自体は本件第2特許発明の先願である本件第1明細書、さらにその他の公知資料にも開示されている技術であつて、特に本件第2特許発明の特徴とするに足らない。かようにみてくると、本件第2特許発明の出願人である原告大和が、前記意見書において、多孔容器したがつて回動チエンの上下反転の回数を唯1回にとどめた効果を強調している事実は否定し難いし、少なくとも公知技術(特許出願公告昭39-20203号公報)と本件第2特許発明の差異として、バケツトあるいは多孔容器の移動方向が上下方向か横方向かの相違と共にバケツトあるいは多孔容器の上下反転回数が唯1回か多数回かの相違をも強調していることを否定することはできない。しかして、本件第2明細書の「特許請求の範囲」にいう「茹槽の内部に至り、水面下を横向に移動した後上下反転して反対向となりさらに横向に水面下を移動した後再び茹槽の上部に至る」という文言自体、回動チエンの移動方向が横方向であることを示すと共に茹槽内部における回動チエンしたがつて多孔容器の挙動が往と復だけであること、すなわち、回動チエンの「上下反転」は唯1回にとどめるという技術思想を表現しているものといえる。もつとも、原告らは、本件第2明細書の「特許請求の範囲」にいう「水面下を横向に移動した後上下反転して反対向となりさらに横向に水面下を移動した後再び茹槽の上部に至る循環動作を繰返す」という意味は、上下反転を含む循環動作を何回も重複して記載する代わりにこのように「繰返す」という文言をもつて簡略に表現した旨主張するが、上記にいう「繰返す」とは、茹槽の上部から茹槽の内部に至り再び茹槽の上部に至る「循環動作」を繰返すことを意味するものである。
してみると、原告らの本件第2特許発明についての回動チエンの「上下反転」に関する主張は失当である。
(2) ところで、本件物件においては、チエン11は、第1槽1の上部から同槽の内部に入り、チエンホイル81を迂回して横向きとなり、次にチエンホイル82を迂回して上下反転して反対向きとなり、更に横向きとなり、順次チエンホイル83、84、85を迂回することによつて上段から下段にわたつて横向きに二往復半した後、更にチエンホイル86を迂回して再び第1槽1の上方に向い、槽外に出た後連結部のチエンホイル8bを経て第2槽3内に導かれ槽内を上下縦方向に移動する如く張架された後槽外に出て連結部のチエンホイル8bを経て第3槽4内に導かれ、以下殺菌槽7に至るまで上記と同行程を経るものであり、すなわち本件物件において、いわゆる茹麺を製造する場合には第1槽1から第n槽まで熱湯を充満させ、これらがすべて茹槽となる。この点に関して、原告らは、「本件物件の第1槽1では実際には熱湯水面がチエンホイル85から83の上面あたりまでの間に存在するのが通常であるから、熱湯水面下ではせいぜい1回か2回余分に上下反転するかしないかであり、唯一回の上下反転も可能である」旨主張するけれども、これは事実に反するのであつて、いわゆる茹麺を製造する場合には第1槽1の最上段のチエン11まで熱湯水面下にあるから、唯一回の上下反転ということはありえないのである。
(3) しかして、前記のとおり、本件第2特許発明では回動チエンの「上下反転」は唯一回の上下反転を意味すると解すべきところ、本件物件においては、チエン11及びバケツト10は少なくとも第1槽1ないし第n槽の茹槽内を蛇行線上に、横方向にあるいは上下方向にジグザグ状に移動するものであるから、チエン11、バケツト10及びバケツト10に収容された麺線は10数回に及ぶ上下反転を繰返すが、第1槽1の茹槽内だけでも数回の上下反転を繰返すから、本件第2特許発明の構成要件Aを具備しない。ところで、原告らは、第2槽3ないし第n槽は任意的補助ないし附加装置にすぎないから、本件第2特許発明と本件物件との対比においては、第2槽3ないし第n槽は考慮すべきではない旨主張する。しかし、第1槽1においてすでに必要充分な茹上げが可能であるならば、第2槽3ないし第n槽における茹上げは全く不要のことであり、装置をあえて大型にしてまで「後処理工程」をなす必要はないのである。本件物件においては第1槽1の茹上げだけでは足りず、第n槽までの茹上げ作業を要するが故に第n槽まで茹槽を設けているのであつて、第n槽を経てはじめて茹上げ作業が完了するのである。よつて、原告らの上記主張は失当である。
(4) 本件第2特許発明の構成要件Aにおいては、回動チエンは茹槽内の水面下をすべて横方向にのみ移動することを要するのに対し、本件物件の第2槽3ないし第n槽の各茹槽においては、チエン11は上下方向に幾度も繰返し蛇行しているから、本件物件は本件第2特許発明の構成要件Aを具備しない。
(5) 本件第2特許発明の構成要件Cにいう「水面に向う上向多孔容器」とは、単に生麺を多孔容器に収容する際に多孔容器が上向きであれば足りるというものではなく、水面に向う際に多孔容器が上向きであることを要する趣旨であると解すべきところ、本件物件においては、バケツト10は第1槽1内の水面に向う際も、また第2槽3ないし第n槽の各水面に向う際もいずれも横向きであつて、「水面に向う上向多孔容器」は存在しないから、本件物件は本件第2特許発明の構成要件Cを具備しない。
(6) 本件第2特許発明の構成要件Dにいう「水面から上方に向う下向多孔容器」とは、単に茹麺を排出する際に多孔容器が下向きであれば足りるというものではなく、水面から上方に向う際に多孔容器が下向きであることを要する趣旨であると解すべきところ、本件物件においては、バケツト10は第1槽1内で上段より下段に向けて横方向に二往復半して上下反転を繰返し、しかる後最下段から垂直に水面に向うため、水面から上方に向う際は横向きであり、また第2槽3ないし第n槽内ではバケツト10は上下方向に繰返し蛇行する結果、チエンホイル8の周囲を回転する場合以外には常に横向きであつて、いずれにしても「水面から上方に向う下向多孔容器」は存在しないから、本件物件は、本件第2特許発明の構成要件Dを具備しない。
第4被告の主張に対する原告らの反論
1 被告は本件第1特許発明と本件物件中の第1槽1との対比についての原告らの主張に対し、本件物件において第2槽3以下を除外して第1槽1だけを考えるのであれば、チエン11は本件第1特許発明にいう「閉鎖湯槽内を循環する」とはいえない旨主張するが、本件第1特許発明において無端チエンが閉鎖湯槽内を循環するというのは必ずしも無端チエンがその閉鎖湯槽外に一たん出て他の部分を循環してくることを除外する趣旨でないことは本件第1明細書の図面によつて明らかであつて、この「循環」とは、要するに無端チエンが閉鎖湯槽内に再び戻つてくるという程度の意味である。
2 更に被告は、本件第1特許発明の構成要件Bと本件物件との対比についての原告らの主張に対し、本件物件の第1槽1ではその最上段側のチエン11が常に熱湯水面の上にあるものでも、また最下段側のチエン11が常に熱湯水面の下にあるものでもなく、水位は水位調節装置23により零から満の範囲で多様に調節できる旨主張する。しかしここで重要なことは、本件物件が本件第1特許発明の構成要件Bを充足するかどうか、換言すれば、本件物件が任意の位置に水面を設定するような装置を備えているかどうか、そして同じ湯槽内で熱湯水面上の空間に蒸気を絶えず供給し、しかも熱湯を供給保持しておく装置となつているかどうかであり、かような装置を備えていればそれで足るということである。そして本件物件における第1槽1は、蒸気と熱湯の供給が可能なように配管され、かつ、任意の水面を保持調節できる構造となつている以上、本件物件は本件第1特許発明の構成要件Bを充足する。
3 被告は、「本件物件は、第1槽1が麺の素材、用途に応じて、任意に(イ)熱湯による加温茹上げのみ、(ロ)蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げ、(ハ)蒸気による蒸熱加温のみ、の3種類に使い分けることができるという可変性を有するから、本件第1特許発明の構成要件Bを具備しない。」旨主張する。しかしながら、本件第1特許発明の実施例として示されている閉鎖湯槽を用いたとしても、その用法として給水を止め、蒸気だけを出した場合、上下に区別する区画はないのであるから、蒸気噴出パイプを備えている以上、蒸気のみの処理は当然可能であり、また逆に熱湯を一杯に満たせば、加温茹上げのみも可能であるから、このように他の用法も可能かどうかということは本件第1特許権の侵害の有無の判断基準とはならないのである。しかして、本件物件が本件第1特許権に抵触するかどうかは、本件物件が本件第1特許発明の構成要件を充足するかどうかの点にかかつているところ、本件物件は閉鎖湯槽である第1槽1において蒸気噴出管9、給湯管14を兼備するうえ、水位調節装置23、水面計24などをもつて、その通常の用法において、チエン11に架設されたバケツト10が上段において熱湯水面上にあるように調節することのできる構造となつているから、本件物件は本件第1特許発明の構成要件Bを充足する機構を有し、かつ、蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げを行うのが最も通常の用法なのである。もつとも、被告は、本件第1特許発明は構成要件AないしCの構成をとるものとして具体的一義的に構造を特定された物(装置)の発明であり、かかる装置と前記(イ)、(ロ)又は(ハ)の工程を可変的に行いうる装置とは、装置として別個のものである旨主張するけれども、物(装置)の発明であると方法の発明であるとを問わず、本件のようないわゆる特許権の直接侵害を問題にする場合においては、特許発明の構成要件を充足すれば足り、これに附加的要素が加わり改良進歩が行われても、また同じ装置が事実上他の用途に転用されても、これらのことは何ら特許権侵害を免れる理由にはならないから、被告の上記主張は失当である。
4 更に被告は、「本件第1特許発明は唯一個の閉鎖湯槽内において蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げを連続して行うことにより茹麺製造のための加温(熱)工程を完了することを特徴とするものであつて、このことは本件第1特許発明の構成要件Cなどから明らかであるところ、本件物件は、第1槽1のみで加温(熱)工程は完了せず、引き続き第2槽3ないし第n槽においても熱湯に浸漬して茹上げるという構造であるから、本件第1特許発明の構成要件Cを具備しない」旨主張するけれども、本件第1明細書の特許請求の範囲の欄には、閉鎖湯槽が「1つ」しかない茹麺の製造装置によつて茹麺を「完了」するという記載はなく、蒸熱加温と加温茹上げが可能であれば足り、必ずしもその完了することを要しない。もつとも、被告は、本件第1特許発明の出願人である原告大和が審査官に提出した意見書中で、本件第1特許発明の特徴として湯槽は1個であることを強調している旨主張するけれども、上記意見書中の「本発明のものは湯槽を閉鎖して蒸気を逃がさないようにし、かつその蒸気を利用して生麺線を予め蒸熱してα化した後同麺線を熱湯に浸漬するようにしたので麺線の溶出が少く歩留を向上し、均質で美味でかつつやのある茹麺が得られるものであり、又このような茹上作業を湯槽1槽で行うことができるようにし」たことが特徴である旨の記載は、同一湯槽内で蒸熱加温と熱湯加温の茹上げ作業を行いうるということであつて、それが完了を意味するとか他の湯槽を附加することを除外するとかいう趣旨でないことは明らかであつて、本件第1特許発明の特徴は、麺線が蒸気による蒸熱加温から熱湯による加温茹上げに移され、これを一たん湯槽外に出す必要がないという点にあり、完全に茹麺の加温茹上げを完了するまでこの湯槽内で行うということは必ずしも必要ではないのである。
ところで、本件物件は、その第1槽1それ自体だけで蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げが可能なように構成されている装置であり、更に必要ならば加温茹上げを完了することができる構造となつている。
すなわち、上蓋2により閉鎖された第1槽1内には蒸気管12と給水管13、給湯管14があり、しかも水面を人為的に調節しうる水位調節装置23及びこれを制御するために絶えず監視しうる水面計24を備えており、本件第1特許発明が期待する作用効果を第1槽1自体で奏しうるのである。しかして、第2槽3以下の各茹槽においても麺線を熱湯に浸漬して加温茹上げが可能であるとしても、第1槽1のみで生麺線を茹上げることが可能な構造となつている以上、第2槽3ないし第n槽は生産の速度を上げる際に熱湯加温の場所をより多くしておくための第1槽1の単なる附加的装置にすぎないというべきである。
かように本件物件が、蒸気による蒸熱加温装置と熱湯による加温茹上げ装置とを別個のものとせずに少なくとも第1槽1という同一湯槽内において両者を行いうるような構造となつているのには、それなりの理由があるのである。つまり、本件第1明細書の詳細な説明の欄の記載から明らかなように、同一湯槽を用いると、(1)場所をとらず装置を簡潔にしうること、(2)熱効率を上げうることのほかに、(3)「蒸熱によつて予めα化した麺線が茹湯3に入れられるので麺線の溶出が少く製品歩留を著しく向上し得ると共に美味でつやのあるきわめて品質のよい製品が得られる実益がある。」(別添特許公報(甲)3欄14行ないし4欄4行)からである。すなわち、はじめからいきなり熱湯で加温すると、冷たい生麺線が熱湯の温度を下げることがあるのみならず、α化しないところの生麺線が熱湯に入ることにより麺の一部が溶けて熱湯の中に溶出するのである。そこでこれを防止するために予め蒸気によつて蒸熱加温しておき、これを熱湯で加温することによつて、上記のような欠点を除去することができるのである。被告の主張によれば、槽を分けてまず第1槽1において蒸気による蒸熱加温のみをすることが可能ということにはなるが、それは、蒸気による蒸熱加温のみの槽を設け、蒸熱加温を終了してから次の熱湯による加温茹上げの装置へ移行することであり、その移行の間に麺線が癒着し塊となつて、麺線をほぐすことが難しくなるという重大な欠陥が存在する。いずれにしても、前記のとおり、本件物件は、第1槽1のみで蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げをなしうる構造を備えているのであるから、本件物件は本件第1特許発明の前記作用効果を奏しているものといわなければならない。よつて被告の主張は失当である。
5 被告は、本件第1特許発明は先願にかかる実用新案出願公告昭43-5594号公報の考案と実質的に同一であるから、本件第1特許発明についての特許は無効とされるべきであるが、かかる明白な無効原因を有する本件第1特許発明の技術的範囲は明細書の記載に従い最も狭く実施例そのものに限定して解釈すべきものである旨主張する。ところで、特許発明と考案とが同一か否かは、その目的、技術課題のみならず技術思想の実体ともいうべき技術課題を解決する手段を共通にするかどうかによつて決すべきところ、本件第1特許発明と実用新案出願公告昭43-5594号公報の考案とは、閉鎖湯槽内において蒸熱加温と熱湯加温を行うという目的ないし技術課題を共通にするけれども、技術思想の実体ともいうべき技術課題を解決する手段の点において異なる。すなわち、上記考案においては、上記技術課題を解決する手段として金網コンベア外周へ水車状に金網区画板を設けてあるのに対し、本件第1特許発明においては、その特許請求の範囲の欄の記載から明らかなように、上記技術課題を解決する手段として水車状の金網区画板を用いておらず、無端チエンに麺線収容バケツトケースを設けてあるのである。したがつて、目的とするところは同じく湯槽内の蒸し及び茹で装置といつてもその技術手段、効果において異なるところがあるのである。よつて本件第1特許発明と上記考案とは同一でない。
6 被告は、本件第2特許発明の構成要件Aの回動チエンの「上下反転」とは、唯一回の上下反転を意味するとし、本件物件は幾度も繰返し上下反転するから、本件物件は上記構成要件Aを具備しない旨主張する。そして、その根拠として本件第2特許発明の出願人である原告大和が、審査官に提出した意見書において、本件第2特許発明と特許出願公告昭39-20203号公報の自動ゆで麺製造装置とを比較し、「特許出願公告昭39-20203号の公報記載の自動ゆで麺製造装置では半円筒形バケツト13が湯槽6内を上下方向に幾度も反転蛇行するので収容麺が水中で幾度も繰返し反転し」としているのをとらえて、これと本件第2特許発明との差異は、上下反転の回数が唯一回に限られるか否かの点にあるという趣旨の主張をしている。
しかしながら、出願人たる原告大和は上記意見書中で「バケツト13が湯槽6内を上下方向に幾度も反転蛇行するので………麺線の表面に無理な力が加わり、表面が荒れて澱粉質が溶出し」と主張しているのである。すなわち、前記公知技術(特許出願公告昭39-20203号公報)では、半円筒形バケツト13はチエンホイルの部分を迂回する以外は熱湯水面下をすべて上下方向に移動しているのに対し、本件第2特許発明では多孔容器は熱湯水面下を常に実質的に横方向へ移動するように構成されていることが特徴であつて、ただスプロケツトの所だけで上下反転するが、これは湯槽内の空間を節約する以上、無限に一方向のみに移動させることが場所的に不経済を伴うからである。以上に述べた前記公知技術(特許出願公告昭39-20203号公報)と本件第2特許発明との差異及び上下反転の意義からするならば、本件第2特許発明において多孔容器したがつて回動チエンが横方向へ行く限り、スプロケツトにおける上下反転が一回に限定されなければならない理由は上記意見書からは見出しえない。そして他方、本件第2明細書の特許請求の範囲の記載中の「水面下を横向に移動した後上下反転して反対向となりさらに横向に水面下を移動した後再び茹槽の上部に至る循環動作を繰返す」という意味は、上下反転を含む循環動作を何回も重複して記載する代わりにこのように「繰返す」という文言をもつて簡略に表現したにすぎないことが明らかであるから、被告の前記主張は特許請求の範囲の欄の記載に基づかない主張として排斥されるべきである。
もつとも、被告は本件第2明細書の「多孔容器3は茹湯中を往復するから装置を小型にし得る実益がある。」(別添特許公報(乙)4欄14、15行)という記載をとらえて、往と復との唯一回の上下反転にとどめたが故に装置を小型に形成しうることを表現した旨主張するが、この主張は誤つている。なぜならば、本件第2特許発明では熱湯水面下の横向き移動により、麺線の表面の溶出やこれによる表面の荒れを防止するのが一つの特徴であるが、横向き移動を一方向のみに限定すると、著しく速度を遅くしない限り、相当長大な茹槽が必要になる。そこでスプロケツトで回動チエンを反転することにより多孔容器を上下反転して反対方向に向けることを「往復」と呼んでいるのである。そして「場所の節約」という観点のみからいえば、上下反転の回数はむしろ多い方が茹槽の長さを短くし、場所をとらなくてすむのであつて、上記の趣旨から考えても、往復は唯一回という必要はないからである(因みに、茹槽の高さは、作業に差支えさえなければ、場所の広さとは関係がない。)。
ところで、本件物件におけるバケツト10したがつてチエン11の上下反転の回数についていえば、第1槽1では形式的にはチエンホイル81~6の迂回を何回も繰返すようにみえるが、実際には熱湯水面はチエンホイル85から83の上面あたりまでの間が通常であるから、熱湯水面下ではせいぜい1回か2回余分に上下反転するかしないかであり、唯一回の上下反転も可能であつて、この上下反転の回数によつて本質的な違いはなく、要は熱湯中での加温時間をどう調整するかの問題にすぎない。もつとも、本件物件では、第2槽3ないし第n槽においてバケツト10は上下方向にジグザグ状に移動するが、第1槽1においてすでに必要充分の茹上げが可能であるから、仮に第2槽3以下を補助的に茹上げに使う場合も、基本的茹上げが第1槽1で行われ麺線表面がすでにα化しているから、後処理工程である第2槽3以下で上下反転蛇行を繰返しても麺線の表面の溶出も荒れも起きないのである。そしてこのような方法を第2槽3以下で採りうること自体、実に第1槽1だけで必要充分な装置であつて、第2槽3ないし第n槽は任意的補助ないし附加装置にすぎないことを如実に物語つているのである。したがつて、本件第2特許発明と本件物件との対比においては、第2槽3ないし第n槽は考慮すべきではない。
7 被告は、本件物件においては、本件第2特許発明の構成要件Cの「水面に向う上向多孔容器」は存在しない旨主張するが、上記にいう多孔容器が上向きであるというのは、麺線収容装置21との関係で麺線収容装置21から落下する生麺を受けるために上向きに蓋10aが開いているという趣旨であり、水面に向うというのは水面に向う前にこの麺線収容装置21において生麺を受け取るために麺線収容装置21を通過するという趣旨である。
また、被告は、本件物件においては、本件第2特許発明の構成要件Dの「水面から上方に向う下向多孔容器」は存在しない旨主張するが、上記にいう下向多孔容器とは、茹麺排出装置22において茹麺を排出するために口を下へ向けて開くという趣旨であり、水面から上方へ向うとは、水面から引き上げられた後に茹麺排出装置22を通るということである。
してみると、本件物件は本件第2特許発明の構成要件C、Dを具備しているから、被告の前記主張は失当である。
第5証拠関係
1 原告ら
1 甲第1ないし第10号証、第11号証の1ないし6、第12号証の1ないし5、第13ないし第17号証を提出
2 乙号各証の成立(乙第1、第2号証については原本の存在及び成立)はいずれも認める。
2 被告
1 乙第1ないし第18号証、第19号証の1、2、第20ないし第23号証を提出(乙第1、第2号証は写をもつて提出)。
2 甲第12号証の1ないし3の成立は不知、その余の甲号各証の成立はいずれも認める。
理由
第1主位的請求について
1 原告大和が本件第1特許権の特許権者であること、原告会社が本件第1特許権についての専用実施権者であつたこと、本件第1明細書の特許請求の範囲の欄の記載が原告ら主張のとおりであること(ただし、特許請求の範囲の欄の記載中、「湯槽上面閉鎖部の間を蒸気」とあるは「湯槽上面閉鎖部の間の蒸気」の誤記と認める。)、被告が本件物件を製造販売していることは当事者間に争いがない。
2 上記に確定した本件第1特許発明の特許請求の範囲の欄の記載と成立に争いがない甲第2号証によれば、本件第1特許発明は次の構成要件からなるものと認められる。
A 閉鎖湯槽内を上段から下段にわたつて循環する無端チエン又は金網に麺線を収容するバケツトケースを取付けてあること。
B 上段側のバケツトケースは熱湯水面と湯槽上面閉鎖部の間の蒸気の中を移行し、かつ、下段側のバケツトケースは熱湯水面下を移行するようにしてあること。
C バケツトケースに収容した麺線をまず蒸気で蒸熱し、次に熱湯に浸漬して連続して同一湯槽内にて加温するようにしてあること。
D 茹麺の製造装置であること。
3 本件物件の構造を表示するものであることについて当事者間に争いがない別紙物件目録の記載、成立に争いがない甲第10号証、乙第19号証の1、2、第20号証、本件口頭弁論の全趣旨によれば、本件物件は次の構造からなるものと認められる。
A' チエン11はチエンホイル8aを通じて取外し自在の上蓋2を有する第1槽1へ入り、チエンホイル81~6を迂回しつつ第1槽1内の上段から下段にわたつて移動し、次いで以下順次第2槽3ないし第n槽、冷却シヤワー室6、殺菌槽7を経て、更に茹麺排出装置22、麺線収容装置21を通つて再びチエンホイル8aを通じて第1槽1へ戻るように循環し、しかもこのチエン11には麺線を収容するバケツト10が架設されてあること。
B' 給水管13と蒸気管12がエジエクター19(気水混合器)で合流して熱湯を作り、この熱湯を、エジエクター19(気水混合器)に接続されている給湯管14から第1槽1の内部に開口している給湯口14aにより第1槽1に導き、同槽に熱湯を供給するようにしてあり、他方第1槽1の内部に下部から上部にかけて五段にわたつて設けられた蒸気噴出管9はそれぞれ直接蒸気管12に接続されていて、上記蒸気噴出管9によつて第1槽1内に蒸気を供給するようにしてあり、また第1槽1には水位調節装置23、水面計24が取付けられていて水位を任意の位置に調節できるようにしてあること。
C' 第1槽1は水位調節装置23により同槽内の熱湯水面を調節できるようにしてあつて、約13分間で、バケツト10に収容された麺線をまず上蓋2と熱湯水面との間において蒸気により蒸熱をし、続いて熱湯に浸漬して加温茹上げを完了しうるようにしてあること。
D' 第1槽1は茹麺の製造装置であること。
4 そこで、本件第1特許発明と本件物件の構造とを対比する。
1 前記認定の本件物件の構造A'によれば、本件物件の構造中、取外し自在の上蓋2を有する第1槽1は本件第1特許発明の「閉鎖湯槽」に該当し、チエンホイル8aを通じて第1槽1の上段から下段へわたつて移動し、以下第2槽3ないし第n槽などを経て再びチエンホイル8aを通じて第1槽1へ戻るように循環するところのチエン11は本件第1特許発明の「閉鎖湯槽内を上段から下段に互つて循環する無端チエン」に該当し、バケツト10は本件第1特許発明の「麺線を収容するバケツトケース」に該当し、そしてチエン11にバケツト10が架設されている構造部分は本件第1特許発明の「無端チエンに麺線を収容するバケツトケースを取付けてある」という要件部分に該当するから、本件物件は本件第1特許発明の構成要件Aを充足する。
ところで、被告は「第1槽1のみを本件第1特許発明にいう「閉鎖湯槽」としてとらえるならば、本件物件におけるチエン11は、第1槽1以外の第2槽3ないし第n槽などにもそれぞれ連結部のチエンホイル8bを介して各槽(室)内を上下縦方向に移動する如く張架されているのであるから、本件第1特許発明にいう「閉鎖湯槽内を循環する」とはいえない」旨主張する。しかし、本件第1特許発明において、無端チエンが閉鎖湯槽内を循環するというのは、無端チエンが閉鎖湯槽内を繰返し通過することを意味するにすぎず、無端チエンが閉鎖湯槽外に出て、他の構造部分を通つて再び閉鎖湯槽内に戻つてくることを除外するものでないことは、前掲甲第2号証によつて認められる本件第1明細書の「発明の詳細な説明」の欄の記載及び添附図面から明らかである。
2 前記認定の本件物件の構造B'によれば、本件物件の構造中、第1槽1は同槽内に供給される熱湯の水位を水位調節装置23により調節することによつて下部に熱湯部分を構成できるように、またその上部である熱湯水面と上蓋2との間に蒸気部分を構成できるようになつているから、してみれば上段側のバケツト10は熱湯水面と上蓋2の間の蒸気の中を移行し、かつ、下段側のバケツト10は熱湯水面下を移行するようになつている。したがつて、本件物件は本件第1特許発明の構成要件Bを充足する。
ところで、被告は、「本件第1特許発明は上段側のバケツトエースは常に熱湯水面と湯槽上面閉鎖部との間の蒸気の中を移行し、かつ、下段側のバケツトケースは常に熱湯水面下を移行するように構成されているのに対し、本件物件はかかる構成をとるものではなく、前記第3、2(被告の主張)1(3)(1)(イ)、(ロ)又は(ハ)の工程を可変的に行いうるものであり、熱湯の注入度合により、上段側のバケツト10が熱湯水面下を移行することもあるし、逆に下段側のバケツト10が蒸気の中を移行することもあり、いずれの用法も可能であるから、本件物件は本件第1特許発明の構成要件Bを具備しない」旨主張する。
しかし、いわゆる物の発明において、ある物件が特許発明の技術的範囲に属するかどうかは、当該物件がその構造において当該特許発明の構成を具備するか否かにかかつているのであつて、当該特許発明の構成を具備する限り、その用法の態様の如何あるいは当該特許発明の構成を具備する構造以外の構造部分の単なる附加はこれを問わないものと解すべきところ、前説示のとおり、本件物件はその構造すなわち第1槽1によつて本件第1特許発明の構成要件Bを充足していることが明らかである以上、本件物件が被告主張の如く前記(イ)、(ロ)又(ハ)の工程を可変的に行いうるとしても、それは本件物件の用法の態様にすぎないかあるいは本件第1特許発明の構成要件を具備する構造に別の構造部分を単に附加したものにすぎないと解されるから、この点をもつて本件物件が本件第1特許発明の構成要件Bを欠如し、その技術的範囲に属しないとすることはできない。よつて被告の前記主張は採用することができない。
3 前記認定の本件物件の構造C'によれば、本件物件では第1槽1という同一湯槽でバケツト10に収容された麺線をまず蒸気により蒸熱をし、続いて熱湯に浸漬して加温茹上げを完了しうるようになつているから、本件物件は本件第1特許発明の構成要件Cを充足する。
4 前記認定の本件物件の構造D'によれば、本件物件が本件第1特許発明の構成要件Dを充足することは明らかである。
5 ところで、被告は、「本件物件は茹槽(第1槽1ないし第n槽)、冷却シヤワー室6、殺菌槽7が全体として一個の装置(本件第1特許発明の発明の名称に従えば茹麺の製造装置)を形成するものであり、いわゆる茹麺の場合には第n槽を経て加温(熱)工程が完了し、またいわゆる蒸茹麺(ソフト麺、スパゲテイ)の場合でも第2槽3を経てはじめて加温(熱)工程が完了するのであるから、第2槽3以下を第1槽1に対する単なる附加的装置とみることはできない。したがつて、本件物件を本件第1特許発明と対比するにあたつては、第1槽1ないし第n槽を通じての茹上げ機構と本件第1特許発明の構成とを対比すべきである」旨主張する。しかしながら、前記3の認定から明らかなとおり、本件物件は、いわゆる蒸茹麺(ソフト麺、スパゲテイ)を製造するには本件第1特許発明の「湯槽」に該当する第1槽1のみでいわゆる加温(熱)工程である、麺線の蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げとを完了しうる構造となつているから、本件物件を本件第1特許発明の構成と対比するにあたつては第1槽1のみで足るものというべく、更に第2槽3以下の茹槽を加えることを要しないものといわなければならない。そして、被告が主張するように、いわゆる蒸茹麺(ソフト麺、スパゲテイ)の場合において第2槽3を経てはじめて加温(熱)工程が完了するとしても、以上の説明から明らかなように、それは本件物件の用法の一態様にすぎないかあるいは上記第2槽3が本件第1特許発明の構成要件を具備する構造(第1槽1)に単に附加された構造部分にすぎないと解されるから、被告の上記主張は理由がないものといわなければならない。もつとも、この点について被告は更に「蒸茹麺につき、もしこれを第1槽1のみで蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げという加温(熱)工程とを完了しえたとしても、上記加温(熱)工程において麺線の癒着を避けることができないから、第1槽1のみの蒸し茹ででは癒着の生じた、商品価値のない蒸茹麺しか製造することができない。したがつて、本件物件においては、麺線に癒着を生じさせないために、第1槽1の茹時間の不足の補充と癒着状態のほぐし作用をするように設計されている第2槽3ないし第n槽は必須の装置であつて、第1槽1に対する附加的装置とみることができない」旨主張するけれども、本件第1特許発明の前記特許請求の範囲の欄の記載に前掲甲第2号証によつて認めうるところの発明の詳細な説明の欄の記載、特に「生麺線を収容したバケツトケース5は入口15から湯槽2の上段蒸気部に入り………蒸気の中を移動する間に麺線は高温蒸気で加温されて同麺線の温度は上昇し表面から順次α化されてゆく。その後バケツトケース5が………下段側に移り茹湯3の水面下に浸漬し………麺線は充分加温されて茹上げられるものである。茹湯3の内部を通過した下段側のバケツトケース5は………出口16から槽外に移行し………冷水シヤワー19の下を通過して冷水を浴びて冷却され………バケツトケース5の蓋が自動的に開き茹上げられた製品を落下シユート17に排出することができる。」(別添特許公報(甲)2欄12行ないし28行)との記載及び図面に示されたところを参酌し、かつ、上記詳細な説明の欄の記載及び図面中に、麺線の癒着を生じないようにするための構成を示唆する記載を見出しえないことに徴すれば、本件第1特許発明は「バケツトケースに収容した麺線をまず蒸気で蒸熱し、次に熱湯に浸漬して連続して同一湯槽内にて加温するようにしてあること」を構成要件(構成要件C)とするけれども、上記にいう「加温するようにしてあること」というのは、単に生麺線を茹上げるようにしてあることを意味するに止まり、茹上げる際に麺線に癒着を生じさせないようにすることまでその構成要素とするものではないといわなければならない。しかして、前掲甲第2号証によれば、本件第1明細書の発明の詳細な説明の欄に、本件第1特許発明の作用効果の1つとして「美味でつやのあるきわめて品質のよい製品が得られる」(別添特許公報(甲)4欄3、4行)という記載のあることが認められるけれども、上記作用効果は、前掲甲第2号証によつて認めうるところの発明の詳細な説明の欄の記載及び図面に徴しても、麺線に癒着を生じさせない構成によるものとは認め難い(もつとも、本件第1特許発明の実施品であるとするもののなかに、癒着を生じさせないような構成を具備した物件があつたとしても、それは本件第1特許発明の構成に上記構成を単に附加した物件にすぎないというべきである。)。してみると、被告が主張する前記理由により本件物件において第2槽3ないし第n槽が必須の装置であるとしても、そのことは本件第1特許発明と本件物件の構造との対比に関する前記判断を左右するものではない。
6 以上の次第であるから、本件物件は、本件第1特許発明の構成要件をことごとく具備しているから、その技術的範囲に属するといわなければならない。
5 ところで、被告は、「本件第1特許発明は先願にかかる実用新案出願公告昭43-5594号公報の考案と実質的に同一であるから、本件第1特許発明についての特許は無効とされるべきであるが、かかる明白な無効原因を有する本件第1特許発明の技術的範囲は明細書の記載に従い最も狭く実施例そのものに限定して解釈すべきものである。けだし、このような解釈の仕方は構成要件が当該特許発明の特許出願前全て公知である特許発明の技術的範囲の解釈について一般に承認されているところであつて、この理は構成要件の全てが先願にかかる考案のそれと同一である特許発明の技術的範囲の解釈についても妥当するからである。」旨主張する。
よつて、検討するに、前記1で確定した本件第1特許発明の特許請求の範囲の欄の記載、前掲甲第2号証、成立に争いがない乙第16号証を総合すれば、本件第1特許発明、実用新案出願公告昭43-5594号公報の考案は、いずれも麺線を収容する装置に収容した麺線を蒸気により蒸熱加温し、次に熱湯による加温茹上げを湯槽内で連続して行う装置であること、上記考案の実用新案登録出願前の先行技術として、「1連のワイヤー又はレールを平面的に巡回配設し、これより垂下がつたまゝのバケツトを運行させてバケツト中の生麺を高温の湯面上及湯中を巡回させ連続処理を行う」(別添実用新案公報左欄18行ないし21行)茹麺装置があつたこと、上記考案は、「従来の茹上装置におけるバケツト巡回運行を改良し金網を横置式に循環させて蒸、茹上工程を順行させ」(同公報左欄27行ないし29行)るものであるが、本件第1特許発明は麺線収容装置として上記の先行技術と同様にバケツトケースを設けてあること、麺線収容装置として、上記考案では循環する金網コンベアーの外周に直接金網区画板を水車状に固定してある構成であるのに対し、本件第1特許発明では循環する無端チエン又は金網にこれとは別個にバケツトケースを取付けてある構成であること、がそれぞれ認められ、上記認定を権すに足る証拠はない。
以上の認定事実によれば、上記考案は、麺線収容装置として、先行技術におけるバケツトの代わりに金網コンベアーの外周に水車状に金網区画板をもつて構成した点に一つの特徴があるものと解されるところ、本件第1特許発明の麺線収容装置はバケツトケースであること、そして、上記考案において、金網コンベアーの外周に水車状に金網区画板をもつて構成する代わりに本件第1特許発明におけるようなバケツトケースを設けることは単なる慣用手段の転換と認めるに足る証拠はないことに徴すれば、上記考案と本件第1特許発明とが同一とは解しえないから、これが同一であることを前提とする被告の主張は採用できない。
6 以上のとおりであるから、被告が本件物件を製造販売する行為は本件第1特許権並びに本件第1特許権についての専用実施権を侵害するものというべく、そして特許法第103条の規定により被告は上記侵害行為について過失があつたものと推定されるので、被告は原告らに対し、上記侵害行為によつて原告らが被つた損害を賠償すべき義務がある。
そこで進んで原告らが被つた各損害につき検討するに、原告らはいずれも被告に対し、本件第1特許発明の通常受けるべき実施料相当額を損害として請求することができるものであるところ、被告は本件物件を昭和49年6月ころから昭和50年8月末日ころまでの間に14台を、昭和50年9月11日から昭和51年3月8日までの間に13台を、1台当たり金1200万円で販売したこと、本件第1特許発明の実施に対する通常受けるべき実施料は販売価額の3パーセントであることは当事者間に争いがない。
上記事実によれば、原告大和が被告に対し損害として請求することができる実施料相当額は、1台当たりの販売価額金1200万円に販売台数14と実施料率100分の3を乗じて得た金504万円であり、原告会社が被告に対し損害として請求することができる実施料相当額は、1台当たりの販売価額金1200万円に販売台数13と実施料率100分の3を乗じて得た金468万円である。
第2結論
以上の次第であるから、本件第1特許権に基づく、原告大和の被告に対する本件物件の製造販売の差止め並びに上記侵害行為を組成した本件物件の廃棄及び侵害の予防に必要な行為としての半製品(別紙物件目録記載の構造を具備しているが、自動蒸し茹上装置として完成するに至つていないもの)の廃棄を求める各請求、損害金504万円及びこれに対する不法行為の後の日である昭和50年11月22日(訴状送達の日の翌日であること記録上明らかである。)から支払ずみまで民事法定利率年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求、本件第1特許権の専用実施権に基づく原告会社の被告に対する損害金468万円及びこれに対する不法行為の後の日である昭和52年5月12日(訴変更の申立書の送達の日の翌日であること記録上明らかである。)から支払ずみまで民事法定利率年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求、すなわち本訴主位的請求はいずれも理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第89条の規定、仮執行の宣言について同法第196条の規定を適用して主文のとおり判決する。
(秋吉稔弘 塚田渥 水野武)
<以下省略>