東京地方裁判所 昭和51年(ワ)2967号 判決 1979年1月25日
主文
一 原告らの被告三名に対する請求はいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告渡辺武陽、被告大沢奈津雄は原告宮階律子に対し、各自五五〇万円とこのうちの五〇〇万円に対する昭和四九年八月一〇日から、五〇万円に対する昭和五二年八月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告渡辺武陽、被告大沢奈津雄は原告宮階かおりに対し、各自一、一〇〇万円とこのうち一、〇〇〇万円に対する昭和四九年八月一〇日から、一〇〇万円に対する昭和五二年八月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告安田火災海上保険株式会社は原告宮階律子に対し、三三三万三、〇〇〇円とこれに対する昭和五〇年一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
4 被告安田火災海上保険株式会社は原告宮階かおりに対し、六六六万六、〇〇〇円とこれに対する昭和五〇年一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は被告らの負担とする。
6 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故の発生
昭和四九年八月九日午前一時三〇分、埼玉県越ケ谷市谷中町一丁目一一五番地先国道四号線バイパス上で、被告大沢が運転する大型貨物自動車(練馬一一や八一〇号)と訴外宮階清が運転する普通自動車(品川四四も三五八五号)とが衝突し、その衝撃によつて宮階清が死亡した。
2 被告らの責任原因
(一) 被告渡辺
被告は加害自動車を保有し、自己のため運行の用に供していた。
(二) 被告安田火災海上保険株式会社
被告会社は、加害自動車につき一、〇〇〇万円を保険金額とする自動車損害賠償責任保険契約を締結した。
(三) 被告大沢
事故現場は駐停車が禁止され、信号もなく、深夜照明もない暗い場所であること、加害トラツクは道路に対し右斜め六〇度前後の角度で停止し、しかも、荷台の幌のシートの端を垂れ下げて尾灯が覆い隠されるような状態にしてあつたこと(この点は道路交通法五五条二項積載方法違反の過失を構成する)、右折(もしくは右折転回)しようとした中央分離帯の切れ目はわずかで、対向車も多く、土砂を満載して進退の自由も十分ききにくい加害トラツクは一気に右折できない状況下にあり、したがつて右折のための停車によつて第二通行帯を塞ぎ、後続車の進行に危険を生じさせるおそれが十分にあつたから、被告大沢としては右折およびこれに伴う停止を回避すべき注意義務があり、また右折を開始した以上は後続車に対し警音器を十分鳴らすなどして事故防止に尽すべき注意義務があつたのに、これらを怠つた。
3 損害関係
(一) 亡清の損害と相続
(1) 逸失利益 二、三四五万八、〇〇〇円
基準収入一九五万三、〇〇〇円(昭和四九年賃金センサス中の高卒男子労働者平均賃金)、就労可能年数二六歳から六七歳までの四一年、生活費は右収入の三割、中間利息はライプニツツ式で控除
(2) 慰謝料 八〇〇万円
(3) 相続
原告律子は亡清の妻、原告かおりはその娘で、右損害賠償請求権を法定相続分に従つて相続した。
(二) 葬祭費 三五万円
原告律子が負担した。
(三) 弁護士費用
(1) 原告かおり負担分 一〇〇万円
(2) 原告律子負担分 五〇万円
4 まとめ
よつて、原告らはそれぞれ、被告ら各自に対し、不法行為に基づく右損害賠償金の内金とこれに対する民法所定の年五分の割合による遅延損害金として、請求の趣旨記載の金員の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 被告渡辺
請求原因1の事実は知らない、2の(一)の事実は認める、3の事実は知らない。
2 被告会社
請求原因1の事実は知らない、2の(一)、(二)の事実は認める、3の事実は知らない。
3 被告大沢
請求原因1の事実は認める、2の(三)の事実は否認する、3の事実は知らない。
三 被告渡辺、被告会社の抗弁
被告大沢は、右折するにあたり、合図灯を点滅させ、あらかじめ道路中央部分に寄つて徐行したうえ、対向車両の通過を待つため停止していた。亡清の先行車二台は車線を変更して加害トラツクの左側を通過したのに、清は居眠り運転をしていたために追突した。したがつて、本件事故は同人の一方的過失に起因し、被告渡辺も加害トラツクの運行に関し注意を怠つた点はないし、右車両に構造上の欠陥も機能の障害もなく、かつ、いずれも本件事故と因果関係を有しない。
四 抗弁に対する認否
否認する。
第三証拠〔略〕
理由
一 交通事故の発生
請求原因1の事実は原告らと被告大沢の間では争いがなく、その余の被告らに対する関係でも、成立に争いがない乙第一号証、証人荒井一平の証言によつて右事実を認めることができる。
二 被告らの責任原因
1 請求原因2(一)、(二)の事実は関係当事者間に争いがない。
2 事故原因
乙第一号証、証人宮田、荒井の証言、被告大沢本人の供述によると、南(東京方面)北(春日部方面)に走る国道四号線草加バイパスは中央分離帯によつて各二車線の上り、下りに区分されたアスフアルト舗装道路で、これに対して東方から幅員四メートルの砂利道が交つた交差点が事故現場であること、この交差点は信号機がなく、また、照明施設もないため、付近一帯がひどく暗かつたこと、バイパスにおける駐停車は禁止されていたが、右折や転回は禁止されていなかつたこと、被告大沢が運転していたトラツクは、車長七八五、幅二四五、高さ二七六センチメートル、車両重量九・一一、最大積載量一〇・五トンの大型車で、土砂を満載していたこと、被告大沢は東京方面から草加バイパスを北上しながら一つ手前の交差点を通過してから第二通行帯に移り、この交差点につき、ここで右折して砂利道に入つていくつもりだつたが、対向車があつたため、中央分離帯の切れ目のところに右斜めになり、第二通行帯を塞ぐ形で停止したこと、そしてまた対向車の通過をまつていた段階で、訴外宮階清が運転する普通貨物自動車(ライトバン型)の前部右寄り部分がトラツクの後部左寄りに衝突してきて、トラツクにめりこんで停止したこと、そこまでの路面上にライトバンのスリツプ痕や車轍痕などは一切印象されていなかつたこと、亡清の前にも同じ第二通行帯上を北進していた数台の車両があつたが、それらの先行車は皆、停止中のトラツクを避け第一通行帯に進路をかえて通過したこと、乙第一号証に証人赤岩の証言、これによつて真正に成立したと認められる甲第五号証を総合すると、トラツクのシートの止め方は右側尾灯を覆うような形になつていて、後方からみる角度次第では尾灯がかくれてしまうこともある状態になつていたことが認められる。以上の事実を前提として、まず被告大沢の過失の有無を検討する。被告がトラツクを事故現場に停止させた態様については、当時の諸状況からいつて事故を誘発する危険を否定できないが、右折車両にとつては事柄の性質上不可避的な行為態様であつて、この種類の危険の回避は相手方車両に期待する外行動しようがなく、その点で被告を非難することはできない。また、後続車に対し警音器を鳴らして注意を喚起する義務も認められない。問題視されるのは、シートの止め方が右尾灯を方向次第では確認できないような仕方になつていたことくらいである。しかし、その点がトラツクの発見を不可能ないし困難にさせて、事故原因を形成したという関係は否定される状況にある。従つて、事故原因形成の防止という見地から要求される運転上の諸注意を、被告大沢は怠らなかつたと判断してよい。次に、亡清については、かなりの高速で走行していたことがうかがわれる。急制動や転把操作から生ずる痕跡がなかつたことからすると、居眠りでないとすれば、停止中のトラツクに気付くのがひどく遅れて自己に分配された危険に対する回避措置がとれなかつたからで、その原因としては高速走行や車間距離不保持、先行車の前方に存在するかもしれない危険に対する配慮や注意の欠如が一体化してあつたと考えられ、交通の危険が分配されている原則からは、要するに亡清が自から全面的に招いた事故と総括するより外なく、他に事故原因はない。
三 結論
以上によれば、原告らの被告三名に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから棄却する。民事訴訟法八九条。
(裁判官 龍田紘一朗)