東京地方裁判所 昭和51年(ワ)4132号 判決
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【説明】
本件は、判旨事項に掲げた継続的取引契約の解消を理由に買主に対し債務不履行責任を、その代表取締役に対し商法二六六条の三の責任を追求した事案である。
【判旨】
2 同(二)の事実のうち、原告会社と被告会社との間で、食品関係の各種香料の販売につき、被告会社は原告会社に対し、「富士香料化工株式会社東京出張所」なる名称を肩書として使用することを許諾すること、被告会社は原告会社から製品についての注文があり次第原告会社の指示した送付先に直送の方法で送付すること、原告会社は被告会社から購入した購入代金については一定の決算時期を単位として精算すること、但し、被告会社は原告会社の得意先から直接被告会社に送金があつたときは、これを販売代金に充当すること、以上の合意をなしたことは当事者間に争いがない。
<証拠>ならびに弁論の全趣旨によれば、原告水野は、昭和三五年六月頃、境野香料店の従業員となり食品関係の香料の販売業務に携わつていたが、昭和四〇年頃、同店を退職して個人で食品関係の香料の販売を営むようになつたこと、被告会社は、その頃、得意先の酒井佐太郎の紹介で原告水野と食品関係の香料の取引をするようになつたが、その際、原告水野と被告会社代表者中村との間において、右取引に関し、前記認定した如き合意をなしたこと、原告水野は、その後、被告会社が当時小規模で東京以北の地域に販路を拡張する能力もなかつたところから、専ら東京以北の地域に販路を開拓し、被告会社との取引を順調に発展させていつたこと、原告水野は、昭和四四年頃、これまでの個人営業を会社組織に改めて原告会社を設立し、被告会社との取引関係も従前どおり原告会社との間で行われるようになつたこと、そして、原告会社の販売地域は専ら東京以北に、被告会社のそれは主にそれ以外の地域に限られるようになり、原告会社と被告会社との取引関係は順調に発展を遂げてきたことを認めることができる。<中略>
他に以上の認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定事実によると、原告水野(原告会社設立後は原告会社)と被告会社との間で、昭和四〇年頃、食品香料の取引に関し、右認定した合意の下での継続的販売契約が成立したものということができる。
3 ところで、被告会社が原告会社に対し、昭和五一年三月六日、同日到達の内容証明郵便をもつて、「富士香料化工株式会社東京出張所」なる名称を使用してはならない旨及び取引関係を全面的に解消する旨の通告をなし、爾後原告会社との取引関係を一方的に解消したことは当事者間に争いがない。
4 そこで、原告会社は、被告会社のなした右取引関係の一方的解消は原告会社の元従業員と被告らとが共謀のうえ、原告会社の得意先を被告会社の支配下に置かんがためになしたものであつた旨主張するので、以下、これにつき検討する。
<証拠>によると、次の事実を認めることができる。
被告会社と原告水野との食品関係の香料についての取引は前記認定の経緯で推移し、原告会社設立後も順調に発展してきたことも前記認定のとおりである。ところで、原告会社は、昭和四七年頃、被告会社の食品関係の香料と類似した香料の製造業者である東京香料化学株式会社の経営危機を救済するとともに同会社製造にかかる香料を全て仕入れて販売するようになつたのであるが、その頃からその製品に被告会社の製造した製品であることを表示したラベルを貼付するようになつた。もともと右ラベルは、被告会社の原告会社との取引を担当していた従業員島谷則久が、その頃、原告会社代表者水野の要請に従い、被告会社が原告会社に販売した香料製品に貼付されていたラベルの破損等の張替用として送付するようになつたのであるが、原告会社は、このように送付されたラベルを被告会社の了解を得ることなく勝手に右に認定した如く東京香料化学株式会社の製造した香料製品に貼付し、あたかも右製品が被告会社の製造した製品であるかの如く装つて、これを原告会社の得意先に販売していたものである。被告会社の原告会社に対するラベルの送付はその後徐々に増加し、島谷は、原告会社が被告会社のラベルを他社製品に貼付し販売しているのではないかとの疑問を抱きつつも、原告会社代表者水野にその点の確認をしたところ、同人は、そのようなことをしていない旨答えていたので、確証を得ることができずに年月が経過した。被告会社専務取締役植木は、昭和四九年八月頃から原告会社との取引関係を担当するようになつたのであるが、同人は、昭和五〇年七月頃、原告会社を訪問した際、他社製品に被告会社の送付したラベルが貼付されているのを発見し、そこで、当初被告会社代表者中村には右の事実を報告せずに自己の責任において処理しようとし、原告代表者水野に善処方を要請したのであるが、同人はこれの改善には応じようとしなかつた。そこで、植木は、同年暮頃、被告会社代表者中村に右の経緯を報告した。被告会社は、その頃、役員会を開催し、右ラベル貼付問題に対する対処方を協議した結果、原告会社は被告会社のラベルを不当に利用して安価な製品を購入し利益を企図しようとしていること、香料は食品添加物であるため、人体に対する悪影響が発生するようなことになれば被告会社の存立問題になること、以上の判断から原告会社との取引関係を解消せざるをえないとの結論に達した。そこで、被告会社代表者中村と植木とは、昭和五一年三月上旬頃、原告会社を訪問し、原告会社代表者水野に対し、他社製品に被告会社のラベルを貼付して販売していることは万一事故が発生した場合被告会社の責任となるので認めることはできないこと、このままでは取引関係を継続することはできない旨述べた。原告会社代表者水野は、これに対し、これまでどおり取引関係を継続したい旨述べたに止まり、ラベルの使用問題についてはそれ以上論議されることなく、会談は物別れとなつた。このようなことから、被告会社は、同月六日、原告会社に対し、先に認定したとおり取引関係の解消を通告するとともに爾後取引関係を打切つたものである。<中略>
右認定事実によると、原告会社のなした被告会社のラベルを他社製品に貼付し、これを得意先に販売したということは、被告会社に対する重大な背信行為であるといわなければならない。そして、被告会社が、原告会社のなした右の如き行為につき人体に対する悪影響の発生による被告会社の存立自体を憂慮したということももつともなことであるということができる。
以上の諸点に鑑みると、被告会社のなした原告会社との取引関係解消の措置は相当であり、その責任はそもそも原告会社にあつたものというべきである。
してみると、原告会社の被告らに対する本訴請求は、その余の点についての判断を進めるまでもなく理由がないものというべきである。
(林豊)