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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)5586号 判決 1976年11月30日

原告 株式会社富士見電化サービス

右代表者代表取締役 突々啓行

右訴訟代理人弁護士 飯野仁

被告 株式会社静岡銀行

右代表者代表取締役 中村實

右訴訟代理人弁護士 平井廣吉

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し金五〇万円およびこれに対する昭和五一年七月六日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

主文第一、二項と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  訴外ニューエレックレコード株式会社(以下、訴外会社という。)は、被告(新宿支店扱い)に対し、訴外会社が左記約束手形の不渡処分を免れるため、社団法人東京銀行協会に提供させる目的で被告に預託した金五〇万円の預託金返還請求権を有していた。

金額 金五〇万円

満期 昭和五〇年六月三〇日

支払地 東京都新宿区

支払場所 被告新宿支店

振出地 東京都新宿区

振出日 昭和四九年一二月二八日

振出人 訴外会社

受取人 林茂松

2  原告は、訴外会社に対する東京地方裁判所昭和五〇年(手ワ)第二一二号約束手形金請求事件の執行力ある判決正本に基づき前記預託金債権について東京地方裁判所に債権差押および転付命令を申請し、これによる債権差押および転付命令(以下、本件転付命令という。)は、昭和五一年一月一四日第三債務者である被告に、同月一六日債務者である訴外会社に送達された。

3  よって、原告は、被告に対し被転付債権金五〇万円およびこれに対する本訴状送達の翌日である昭和五一年七月六日から支払ずみまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因事実は、すべて認める。

但し、つぎのとおりの理由で本件転付命令の効力を争う。

三  被告の主張

被告は、すでに昭和五〇年一二月二三日、原告主張の被転付債権について、債権者訴外城北信用組合、債務者訴外会社、第三債務者被告とする債権差押および取立命令(東京地方裁判所昭和五〇年(ル)第四五二三号、(ヲ)第七四一九号事件)の送達を受けている。目的債権について差押が競合しているので原告の受けた本件転付命令は、無効である。

第三証拠《省略》

理由

一  請求の原因1および2の事実は、いずれも、当事者間に争いがない。

二(転付命令の効力)

そこで本件転付命令の効力について検討する。

《証拠省略》によると、被告は、昭和五〇年六月三〇日訴外会社から本件預託金五〇万円の提出を受け、これを通常の処理手続に従い、訴外会社のための別段預金のうち不渡異議申立預託金口として処理していたこと、昭和五〇年一二月二三日、被告に、債権者城北信用組合、債務者訴外会社、第三債務者被告とし訴外会社の被告に対する預金債権を目的とする債権差押および取立命令(東京地方裁判所昭和五〇年(ル)第四五二三号、同年(ヲ)第七四一九号事件)が送達されたこと、右債権差押および取立命令添付の差押債権目録においては、差押をなすべき債権の種類、および数額の開示として、訴外会社が第三債務者である被告に対して有する預金債権金九一四万二、六一三円としたうえ、差押の順序として「(一)数種または数口の預金のうち先行の差押、仮差押のある預金があるときは、次の順序による。1、先行の差押、仮差押のないもの。2、先行の差押、仮差押のあるもの。(二)数種の預金があるときは、次の順序による。1、普通預金2、通知預金3、当座預金4、定期預金5、定期積金6、別段預金(三)同種の預金が数口あるときは、口座番号の若いもの。」とする記載があること、ならびに右差押の順位によると、別段預金のうち不渡異議申立預託金口として処理されていた本件預託金返還請求権が、右債権差押および取立命令の目的債権となることなどが認められる。

ところで、執行債権者が預金債権につき差押命令を申請するにあたって、被差押債権をどの程度特定すべきかに関しては、問題なしとしないが、債権者において債務者の有する預金債権の内容を具体的に確知することが通常、非常に困難であることに鑑みると、前示認定のごとく債務者の有するであろう預金債権について、種別と順位を付す方法によって特定の要請を充すものとし、これによる差押を容認せざるをえないものと解する。

そうすると、訴外城北信用組合を債権者とする右債権差押命令は、被告に送達された昭和五〇年一二月二三日の時点でその効力が生じたものであり、本件被転付債権である預託金返還請求権については、原告のほかに、これから配当を受けうる競合差押債権者がいることになる。

右のごとく差押が競合するときは、平等主義の建前上、原告のみに対して独占的に弁済を得させるところの転付命令は許されないから、被転付債権につき要件を欠く本件転付命令は、無効であって、転付の効力を生じない。

三  以上のとおりであるから、本件転付命令によって被告に対し金五〇万円の預託金返還請求権を取得したことを前提とする原告の本訴請求は、失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 舟橋定之)

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