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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)5913号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一請求原因1ないし3の事実<編注、原・被告の地位、原告に対する無期停学処分の通告>はいずれも当事者間に争いがない。

二そこでまず、抗弁1の処分事由の存在の主張につき検討するに、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができ<る。>

オレンジフラクは、学生の自治活動を右翼体育会系の暴力から守り自治活動の発展を保障し、学生の自治権を確立していくことを目的として掲げ昭和四六年頃から活動を開始した団体であること、被告大学商学部には、商学部から公認された学術文化サークルの唯一の自治組織として学文連が存在し、学文連はオレンジフラクの構成員がその主導権を握つていたこと、原告は、昭和四九年秋頃オレンジフラクの目的、運動に共鳴し、その後主要な構成員として活動していたこと、昭和五〇年五月三一日にオレンジフラクの構成員である渡部隆が山本周也に対し暴行を加えたことを理由に、被告大学は、同年六月一二日、渡部隆を無期停学処分にしたこと、右処分に対し、オレンジフラクは、右五月三一日の行為は、学生の自治活動を保障するためのオレンジフラクの右翼暴力追放の活動に対して敵対行動を取り始めた生学連に属する山本周也に対する追及行動であつたにもかかわらず、被告大学は事実関係を十分に調査せず、しかも山本周也の行為を単なる宗教活動と認め右不当な処分をしたとして、右処分の撤回を求める運動を始めたこと、そして原告も右運動の一環として、オレンジフラクの一員として被告大学へ右処分の白紙撤回を求めるともに、山本周也に対して自己批判を求める運動を開始したこと、すなわち、原告は、(1) 昭和五〇年六月一七日、他のオレンジフラクの構成員七、八人と、小林講師の授業を受講中の山本周也を室外に連れ出し、一般学生の前で生学連の運動方針に対する見解及び五・三一処分の見解を強いて求め、(2) 同月二五日、他のオレンジフラクの構成員らと共に、被告大学構内において、ヘルメットを被つて鉄パイプを持ち歩き、(3) 同年九月二二日、午前一二時二五分から一二時五〇分まで、他のオレンジフラクの構成員約一〇名と山本周也を、一号館階段付近で前記と同様の事項につき見解を強いて求め、(4) 同月二六日、他のオレンジフラクの構成員五名と、中間テスト受験後の山本周也に対し自己批判を求め、(5) 同年一一月九日、他のオレンジフラクの構成員一七名と、午前九時四〇分頃から被告大学事務長室において、学生課長橋井博、学生課長補佐工藤恒雄に対し、五・三一処分の撤回を要求し、殺すなどと怒号して脅迫し、(6) 同月一三日、他のオレンジフラクの構成員約一四名と、午後四時四〇分から六時二〇分まで三号棟付近で、出戸一幸教授に対し、覆面をし、ヘルメットを被り、鉄パイプを持つたうえ、五・三一処分が不当であるといつて追及し、(7) 昭和五一年一月一二日、覆面をし、ヘルメットを被つたうえ、本館、一号館及び五号館の建物に、ポスターカラーで「五・三一処分紛砕」等の文字を書きつけ、(8) 同月一三日午後、他のオレンジフラクの構成員らと、三号館付近及び学監室において、景山久仁夫教授に対し五・三一処分の不当性を追及などと言つて脅迫し、(9) 同月一四日、尾浪正雄教授の研究室の入口ドアに木材を打ちつけ、(10) 同年二月二日、他のオレンジフラクの構成員六名と、学監室内で、覆面をし、ヘルメットを被つて、杉井弘和教授に対し五・三一処分の不当性を追及するなどと言つて問いつめ、(11) 同年五月七日、他のオレンジフラクの構成員らと、被告大学構内に入構を禁止されているのにこれを強行突破したうえ、右構内で覆面とヘルメットを被り、竹竿を持つて集会をし、更に午後三時頃、職員会議中の第一会議室に乱入した。

更に、<証拠>を総合すると、被告大学は、昭和五一年四月九日、一〇日の両日にわたりオレンジフラクの構成員によつて、教員、学生に対する暴行など学内において暴力、示威行動がおこなわれたことを契機に、従来からの同構成員による学内における行動に照らし、学内の秩序維持等のため同構成員に対し、断固たる処分をとらざるを得ないと決断し、同年五月二〇日開催された商学部教授会で、原告に対し前記認定の(1)ないし(11)の行為を理由に本件処分を決定したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

なお、原告は、本件処分の処分事由は抗弁に対する認否1(一)(1)記載の、昭和五一年四月九日、一〇日の両日における行為のみであると主張する。なるほど<証拠>によれば、本件処分に先立つておこなわれた事情聴取に呼び出すための原告あての通知書には、「去る四月九日、一〇日の両日における当商学部内での貴君の行動に関して、事情を聴取したいので、左記日時に、当商学部に出頭されたい」旨の記載があること、そして後記のように右事情聴取は、主として原告が四月九日、一〇日の行動に参画したかどうかに重点がおかれたことが認められるが、一方、<証拠>によれば、右両日の行動に原告が参画したかどうかは、原告に対しいかなる処分をするかを決する上で重要な問題であつたこと、前記(1)ないし(11)の原告の行動については、被告大学側で既に調査済みであり、被告大学側からみれば、あらためて右各事実の有無を原告から聴取することは必要ではなかつたこと、右事情聴取の席でも、原告に対し、一般的なかたちではあるが、本件処分事由とした一連の行動につき反省の有無を聴取していることが認められるのであつて右事実からみれば、前記通知書の記載及び事情聴取をもつて、本件処分の処分事由が四月九日、一〇日の行為に限られていたものと認めることはできない。

また、<証拠>を総合すると、本件処分を決定した教授会は、本件処分を決定するに際し、オレンジフラクの構成員による右四月九日、一〇日における行為に原告が直接参加していなかつたことを確認していたことが認められる。そうであるならば、教授会が原告主張の事実を処分事由とすることは通常考えられないことであり、右事実に照らしてみても、原告主張の行為が処分事由となつていなかつたことは明らかである。

三<中略>

四1 原告は、本件処分は裁量権の範囲を逸脱した権利の乱用であり、無効である旨主張するので判断する。ところで、懲戒権者が学生の行為に対して懲戒処分を発動するにあたり、その行為が懲戒に値するものであるかどうか、また、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかの決定については、その判断が社会通念上合理性を認めることができないようなものでない限り、懲戒権者の裁量に任されているものと解するのが相当である。

そこで、右観点から本件処分が社会観念上合理性を認めることができないかどうか検討する。

<証拠>によれば、原告を含むオレンジフラクの構成員六名に対する懲戒処分は、昭和五一年四月九日、一〇日におけるオレンジフラクの行為を契機としてなされたものであること、右処分の内容は、渡部隆が退学処分、他の五名は無期停学処分であつたが、右五名のうち、四月九日、一〇日の行為に参加していなかつた者は原告のみであつたことが認められるが、前記認定のとおり、原告はオレンジフラクの構成員の一員であり処分事由とされた原告の各行為は五・三一処分撤回を掲げ、オレンジフラクの活動の一環として、自己の一方的な主義、主張を押しつけるため他の学生を吊し上げ、教員、職員に対して暴行を働き、学内の建物に落書をし、あるいは研究室を封鎖するという、いずれも学内の秩序を乱すと評価しうる暴力的な行為であり、また、原告は、昭和五〇年八月二六日には過激な行動はしないよう説諭を受け、同年七月一五日付け及び昭和五一年二月五日付け各文書でも学内の秩序を乱す行為をしないよう警告を受けていたにもかかわらず、右各行為に及んだものであつて、更には、同年四月一六日の事情聴取においても反省の態度はみられなかつたのであるから、右のような状況の下で、原告を無期停学処分に付したことには、他の学生の処分と権衡を失したものとは認められないばかりか十分合理性が認められるというべきである。

また、原告は、右各行為は動機、目的において正当なものであると主張する。しかしながら、<証拠>を総合すると、昭和五〇年五月三一日、渡部隆が山本周也に対し暴行を加え傷害を負わせたこと、そして右暴行傷害事件は刑事事件となつて渡部隆は有罪判決を受けたことが認められるから、そのような行為をした渡部隆を無期停学処分にしたことを不当ということはできず、従つて、渡部隆に対する処分の撤回という動機、目的を正当なものとみることはできない。また、オレンジフラクは学生自治の確立を目的として掲げており、その限りにおいてはその目的自体は正当なものということができるが、目的が正当であるからといつてそれを達成する手段がすべて正当化されるわけではなく、ことにその手段が、原告の前記各行為のごとく、暴力的行為で学内の秩序を乱す行為であるような場合には、たとえその目的が学生の自治権の確立にあつたとしても、それが正当化されるものではない。

また、原告は、原告の前記各行為には手段、態様の面において斟酌すべきものがあると主張するが、それを斟酌しないことが裁量権の逸脱、乱用につながるといえる程度の手段、態様に関しての事情は、本件全証拠によるも到底これを認めることはできない。

更に原告は、処分後における原告の反省の有無の判断の公正さが十分に担保されないから本件処分は文字どおり無期限なものであり本件処分は著しく不公平であると主張するが、前記三4(四)で認定したとおり、被告は本件処分を決定するに際し、原告に反省の実さえ上がれば解除することを予定していたと認められ、当初から回復処置を封じたうえで本件処分をなしたものとは認められないから、本件処分時において、反省の有無の判断の公正さが担保されていなかつたということはできない。

また、原告は、事案の性質上反省が期待できないと主張するが、既に認定したところで明らかなとおり本件処分は原告の学生活動の目的、理念を対象とするものではなく、その活動と称してなされた学内の秩序を乱した行為を理由としてなされたものであつて、反省を期待する余地がないものということはできない。

また、原告は、学内のサークル活動や自治活動の参加、学友との交流ができず、かつ、授業料の納入は継続しなければならないことをもつて、著しい不利益を受けたと主張するが、右不利益はいずれも無期停学処分を受けた者が無期停学処分の通常の効果として等しく甘受しなければならない不利益であるから、そのような不利益を与えたことをもつて、裁量権の逸脱、乱用ということはできない。

3 以上のとおり、原告の裁量権の逸脱、乱用の主張は理由がなく、1で判断したとおり、本件処分は社会通念上合理性を認めることができる有効な処分であるというべきである。

(川上正俊 満田忠彦 山田俊雄)

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