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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)9597号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二 結局本件においては、右更新を拒絶するに足りる正当事由の存否についての争いであるのでその点について判断する。

<証拠>によると次のとおりの事実が認められる。

原告はもと、特殊法人全国農業会議所に勤務していたところ、昭和四九年に同会議所の縮小により退職するのやむなきに至り、以後農政問題に関する著述等を職業とするいわゆる農政ジヤーナリストとして活動することとなつたが、収入に安定性がないとの不安からその保障策を考えるに至つた。他方、現在原告およびその家族が居住している建物は原告所有の建物であるところ、右建物は昭和一〇年に建築し、昭和三五年に二階部分を増築した建物であるため相当に老朽化し建替えを考えるに至つた。そこで右建物を取りこわして、その敷地部分と、これに隣接する本件土地および訴外高橋新吉に賃貸中の土地部分を含めてこれらの土地上に三階ないし四階建の店舗兼共同住宅を建てて一部を自宅とし、他を賃貸して自宅を新たにすると共に収入の安定を図ることを考えるに至つた。右計画土地から本件土地を除いた場合は残地の面積と建築規制の関係から二階建程度の建物しか建てられないため、原告の意図する建物を建てることができない。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

これに対し被告側の事情についてみるに<証拠>によると、次のような事情が存することが認められる。

被告は、昭和三一年八月に、訴外古沢泰治が本件土地上に分譲建物として建てた本件建物を買受けた。被告は当時勤務していた会社を退職することとなつたため、店舗用建物として売り出されていた本件建物を買受けて食料品等を販売する商店を経営し、安定した生活の根拠としたいものと考えてこれを買受けた。当時本件土地を含む原告所有者であつた亡啓太郎は、住家の修理代金等金銭の必要が生じたため、本件土地のほか別紙図面中②、③の土地を賃貸し、これによつて金策を図ろうと考え、不動産業を営んでいた訴外青山義信に相談し、同訴外人の助言等により本件土地および別紙図面中②の部分を訴外古沢に、3.3平方メートルに当り一万二五〇〇円の契約金を徴して賃貸し、同図面中③の部分を訴外高橋新吉に、3.3平方メートル当り一万六五〇〇円を徴して賃貸した。右訴外高橋に対する契約金は、当時における土地の更地価格の七割として算定され、訴外古沢に対する契約金は、同訴外人がいわゆる建売り業者であつたところから、右高橋に対する契約金を割引いた額で決定され、授受された。被告は以後本件建物で果物および食料品の販売を営み併せて居宅として使用し、その後一年余を経て右営業を廃して専ら住宅として使用し、現に被告夫婦およびその長男の三人が居住している。被告は鉄骨業を営み、所沢市内にその作業用建物およびその敷地を所有しているが、右建物は居住用に建てられたものではないため現状のままでは住宅として使用することはできないし、右敷地は、市街化調整区域の指定を受けているためこれを住宅に建て替えることもできない。被告は、他に住宅にあてるべき土地或は建物を所有しておらず、他にこれを求めて移転すべき資力もない。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

そこで、右原告側の事情と被告側の事情を対比し検討してみるに、原告が農政問題の著述という必ずしも一定の収入がない職業にあるところから、自己の財産を最大限に活用して安定した収入を得ようと企図し、かつ自己の居宅が老朽化し建替えの必要を感じているためこの二つの問題を一挙に解決する方策として被告に本件土地の明渡しを求めようと考えることは一応もつともなところと考えられる。しかし、被告は本件建物を安定した生活の根拠とするため買い受け、本件土地を賃借したものであり、しかも亡啓太郎はその借地権を設定するに当つては、判時における本件土地の更地価格の七割に相当する価格、すなわち一般に借地権の取得価格と考えられている価格を基準とし、それが建売り建物であるとの事情から割引きした金額を徴しており、このような事情のもとにおいて賃貸借契約をした土地については、その契約期間が満了しても、契約当初予見されなかつたような特段の事情がない限り、その期間が更新されるものとするのが賃貸借契約の際の当事者の意思に合致するところであり、また借地法四条の定めるところと解される。原告本人尋問の結果によつても、原告はその妻が高等学校の教諭として稼働して収入を得、原告も昭和五一年度において年収三四〇万円程度の収入があり、現在、特に生活に不安があるという状態にはないものと認められるのであるから、前記原告側の事情をもつてしては、未だ、期間の更新を拒絶するに特段の事情があるものということはできない。

加うるに、<証拠>によると、原告所有地内には、被告の他に訴外高橋新吉に対し賃貸中の土地があり、同土地についても明渡しが得られるのでなければ原告の意図する建物は建てられない事情にあるところ、訴外高橋に対し賃貸した事情も、それが訴外古沢を経てなされたものでなく直接賃貸された点を除いては被告におけると全く同様であり、容易にその明渡しを得られる事情にはないものと認められる。

これらの点を総合勘案すると、原告において、未だ期間の更新を拒絶するに足りる正当な事由はないというのほかない。

なお、原告は正当事由の補正として、四〇〇万円の支払いの申し出をなし、これをもつて正当事由が補正されたと主張するが、前記事情に照らすと、右程度の金員の支払いをもつてその正当事由を補正し得るものとは到底考えられない。

(川上正俊)

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