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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)9748号 判決 1982年4月28日

原告 東急住宅販売株式会社

右代表者代表取締役 松尾英男

右訴訟代理人弁護士 田宮甫

同 堤義成

同 齊喜要

同 濱崎正己

被告 平島真七

主文

一  被告は原告に対し、原告が、別紙(一)記載の建物を引渡すのと引換に、金七、七七二、〇〇〇円及びこれに対する昭和五一年一一月一二日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文同旨

2  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、不動産の売買、仲介、建物建築等を主たる営業目的とする株式会社である。

2  原告は、被告との間で昭和五一年四月二一日、鎌倉市大字腰越字初沢一、二五一番一一、一、二七一番二四、一、〇二八番二九の土地上に左記の内容を要旨とする別紙(一)記載の建物(以下「本件建物」という。)の新築工事請負契約を締結した。

(一) 工期

着工予定 契約締結後三〇日以内

完成予定 着工日より三ヶ月以内

(二) 請負代金 金一七、七七二、〇〇〇円

(三) 右代金支払方法

契約時に金五、〇〇〇、〇〇〇円

上棟時に金五、〇〇〇、〇〇〇円

建物引渡時に金七、七七二、〇〇〇円

(四) 建物型

東急フレックスホームフリー型S―12

3  原告は昭和五一年一〇月五日本件請負工事を完了し、本件建物を完成させた。

4  原告は、請負代金一七、七七二、〇〇〇円のうち、金一〇、〇〇〇、〇〇〇円を受け取った。

5  よって、原告は被告に対し、本件建物を受領するのと引き換えに、残代金七、七七二、〇〇〇円及びこれに対する弁済期後で訴状送達の翌日である昭和五一年一一月一二日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実を認める。

2  同3の事実を否認する。

本件建物の建築工事は、外観からすると、一応工事が終了しているようにみえるが、実際には、その基礎工事に割栗を入れていないなど杜撰な部分、あるいは、設計図どおりの施工をしていない等未完成部分が別紙のとおりあるので、これらの不完全な工事を補修すると共に、設計図どおりに、やり直さない限り、本件建物は完成したとはいえない。

3  同4の事実は認める。

4  同5を争う。

三  抗弁

1(一)  本件建物には別紙記載のとおりの瑕疵があり、その補修には合計金一、三三〇、〇〇〇円の費用を要するので、被告は同額の損害を被っている。

(二) 本件請負工事における土盛工事は、土入が不足しており、その補修と工事現場に存した大谷石を原告が持ち出したことによって、被告は、少なく見積っても金一五三、〇〇〇円相当の損害を被っている。

(三) 被告は昭和五三年五月三一日の本件口頭弁論期日において右(一)、(二)の各損害賠償債権をもって原告の本訴債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

2(一)  本件建物は、その基礎工事に割栗が入っていない等その基礎・土台工事が杜撰なもので、到底、建物として居住に耐えるものではない。直ちに、これを取り毀し、再建築する以外に方法がない。本件建物の取り毀し、建築に要する費用は、少なく見積っても、金四〇〇〇万円を下ることはないので、被告は同額の損害を被っている。

(二) 被告は、昭和五六年九月一日の口頭弁論期日に於いて、右損害賠償債権をもって原告の本訴債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)(二)(三)の事実は否認する。

2  抗弁2(一)の事実は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因について

1  請求原因1および2の事実はいずれも当事者間に争いがない。

2  請求原因3の事実について判断する。

被告は原告のなした工事中に被告の意に満たない不完全な部分があることを多数挙げて、工事が未完成だから請負代金の支払義務がない旨主張する。

そこで本件建物が未完成か否かを検討する。

まず一般的にいかなる場合に建物が完成したといえるかであるが、民法がその瑕疵が隠れたものか否かを問わないで、瑕疵修補請求を認めるなど請負人に厳格な瑕疵担保責任を課しているのは、一方では注文者に完全な目的物を取得させるためであるが、他方ではそれによって請負人の報酬請求権を確保するためである。即ち、目的物が完成しないと請負人は報酬を請求しえないことから、民法は請負人に重い瑕疵担保責任を課して注文者を保護する一方、それとの均衡から、できるだけ目的物の完成をゆるやかに解して、請負人の報酬請求を確保させ不完全な点があればあとは瑕疵担保責任の規定(民法六三四条)によって処理しようと考えているのである。(ほんのささいな瑕疵があるために請負人が多額の報酬債権を請求しえないとすれば、あまりにも請負人にとって酷である。)

そこで目的物が不完全である場合に、それを仕事の未完成とみるべきか、又は仕事の目的物に瑕疵があるものとみるべきかは次のように解すべきである。即ち、工事が途中で中断し予定された最後の工程を終えない場合には、仕事の未完成ということになるが、他方予定された最後の工程まで一応終了し、ただそれが不完全なため補修を加えなければ完全なものとはならないという場合には仕事は完成したが仕事の目的物に瑕疵があるときに該当するものと解するのである。

これを本件についてみると、被告の主張する別紙の不完全工事と称するものは、右にいう仕事の目的物の瑕疵に当るというべきであり、また、鑑定の結果によれば、本件建物の東側部分の基礎には当初の設計図と異なり割栗が入っていないが、基礎工事としては、ベタ基礎及び一部連続フーチング基礎、鉄筋コンクリート造りで一応の工程が終了していることが認められる。

すると、本件建物が完成していないことを理由にしては、被告は原告に対し本件建物の受領と請負残代金の支払いを拒むことはできないというべきである。

二  抗弁1について

1  抗弁1(一)については、《証拠省略》によれば別紙(二)の瑕疵については、補修を要すべきものについてはすべてその工事を完了しており、もはや瑕疵とよぶべきものは存在していないことが認められる。

2  抗弁1(二)の事実についてはこれを認めるに足りる証拠はない。

3  以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく抗弁1は理由がない。

三  抗弁2について

1  抗弁2(一)については、《証拠省略》によると本件建物の基礎に割栗が入っていないことが認められるが、そのことによって、本件建物の基礎・土台工事が杜撰であったことを認めるに足りる証拠はない。

かえって《証拠省略》によると、本件建物の基礎工事は厳密な構造計算によって設計されていて、割栗が入っている場合に比べてその強度においてなんら遜色のない状態であることが認められる。

2  よって、抗弁2も理由がないこと明らかである。

四  結語

以上の事実によれば、本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用し、仮執行の宣言の申立は相当でないからこれを却下して主文のとおり判決する。

(裁判官 畔柳正義)

<以下省略>

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