東京地方裁判所 昭和51年(刑わ)3485号 決定 1981年1月22日
所得税法違反、外国為替及び外国貿易管理法違反 児玉譽士夫
強要、外国為替及び外国貿易管理法違反 大刀川恒夫
議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律違反 小佐野賢治
右三名に対する頭書各被告事件につき検察官のした証拠調べの請求に対し、当裁判所は、弁護人らの意見を聴き、次のとおり決定する。
主文
被告人児玉譽士夫、同大刀川恒夫に対する関係で、右両名に対する検察官請求証拠目録請求番号甲(一)303ないし306及び322並びに同甲(二)61ないし152を、被告人小佐野賢治に対する関係で、同被告人に対する検察官請求証拠目録請求番号甲(一)203、204及び207並びに同甲(二)56ないし93を、別紙一覧表「立証趣旨」欄記載のとおりの立証趣旨により、いずれも証拠として採用する。
理由
第一請求証拠の特定方法及び略語の使用について
一 請求証拠の特定方法
検察官請求証拠はきわめて多数(一八種一五八点)に上り、かつ、(一)同一請求番号の下に数十点の証拠が一括請求されている場合があること、(二)被告人児玉誉士夫、同大刀川恒夫に対する関係においてと、被告人小佐野賢治に対する関係においてとでは、(1)その請求の範囲を異にするばかりか、(2)同一証拠であっても、その請求番号を異にしていること等の事情が窺われるので、当裁判所は、個々の請求証拠を特定し、かつ、統一的にこれを表示する目的で、別紙一覧表記載の符号番号を用いることとする。
二 略語の使用
当事者から提出された書面の引用は、左の略語による。
1 被告人児玉誉士夫、同大刀川恒夫関係
請求書
検察官作成の昭和五三年六月二三日付証拠調べ請求書
<検(一)>
検察官作成の昭和五三年一〇月二六日付意見書
<検(二)>
検察官作成の昭和五四年七月二六日付意見書
<検(三)>
検察官作成の昭和五四年七月二七日付意見書
<児>
弁護人作成の昭和五三年一〇月四日付意見書
<児補(一)>
弁護人作成の昭和五三年一一月九日付補充意見書(一)
<児補(二)>
弁護人作成の昭和五四年七月一二日付補充意見書(二)
<児補(三)>
弁護人作成の昭和五四年七月二〇日付補充意見書(三)
<児補(四)>
弁護人作成の昭和五四年九月一二日付補充意見書(四)
<児補(五)>
弁護人作成の昭和五五年九月一一日付補充意見書(五)
2 被告人小佐野賢治関係
請求書
検察官作成の昭和五三年七月一七日付証拠調べ請求書
<検(小)>
検察官作成の昭和五三年一一月四日付意見書
<小>
弁護人作成の昭和五三年一〇月二六日付意見書
第二原本の写による証拠調請求の適否について
一 写による証拠調請求許容の要件
検察官の証拠調請求は、すべて原本の写(別紙一覧表A1ないし53及びB1は原本のカラー写真、その余は原本のゼロックス・コピー)によるものである。弁護人らは、いずれもかかる写による証拠調の請求は違法である旨主張しているので(<児>一、<児補(一)>一、<小>一参照。)、まず、この点について検討する。
原本の写による証拠調の請求は、相手方がこれを証拠とすることに同意し、又はその取調に異議がない場合は格別、そうでない場合には、(一)原本が存在し又は存在したこと(写存立の根拠)、(二)写が原本を正確に再現したものであること(写としての適格性)、(三)原本の提出が不可能又は困難であること(写提出の必要性)の三つの要件を充足するときに限り、許容されるものと解するのが相当である。
ところで、弁護人らは、「本件の場合は、原本自体を法廷に顕出しなければ証拠調の目的を達し難い場合」であるとして、かかる場合は写による証拠調の請求は違法である旨主張している(<児>一1、<児補(一)>一2、<小>一)。これは、当裁判所が右に説示した写による証拠調請求許容の三要件とは相容れない(とくに、右(三)の要件とは矛盾する)観念を持ち込むものである。たしかに、弁護人主張のような文言を使用した最高裁判所の判例(昭和三一年七月一七日三小判、刑集一〇巻八号一一九三頁)はあるが、それは、当該事案における検察官の写による証拠調請求に対する弁護人の異議申立が理由のないものであることを説示するに際して、弁護人において何らかかる事由に言及していない点を指摘しているに止まり、積極的にかかる事由の不存在を写による証拠調請求許容の要件として掲げたものでないことは、その判文に照らし明白である。そもそも、原本による証拠調の請求が可能な場合には原本によって取調請求をなすべき筋合いであるから、写による取調請求がなされるのは原本の提出が不可能又は困難な場合に限られるのであって(前記要件(三)参照。)、かかる場合にあくまで原本による証拠調に固執することは、当該立証事項に関しては一切立証を拒否するにひとしいこととなる。事案によっては、そのような結果を甘受しなければならない可能性も考えられないではないが、真実発見を目的とする刑事裁判においては、性急にオール・オア・ナッシングの択一に走ることなく、次善の方策を探究するのがより理性的態度と言えよう。
そこで、弁護人らの所論に即して問題をさらに分析してみると、「原本自体を法廷に顕出しなければ証拠調の目的を達し難い場合」とは、原本の写が立証事項との関連において最低限の証明力すなわち自然的関連性を欠くような場合にほかならない。従って、ことは立証事項との相関関係において考察されなければならない。
およそ写とは原本を再現するための手段であるが、その作成方法(たとえば手書による謄写、カーボン紙又はノンカーボン式複写紙による複写、各種複写機器による複写、モノクローム写真又はカラー写真等)の多様なことに応じて、写としての機能(原本の有するどのような性状が忠実に再現され又はされないか)には自ずと差異を生ずることとなる。そして立証事項が原本の有するどのような性状を必要とするかによって、写としての適格性も左右されるのである。たとえば、原本の記載内容のみが立証事項であるならば、手書による謄写でも十分その目的を達し得るのに対し、記載された文字、図形の形状が立証事項である場合にはその証明力はゼロにひとしく、複写機器による複写の場合には原本の記載事項の形状、寸法は再現できるが色彩は再現不能であり、カラー写真の場合には形状、色彩は略々再現できるが寸法は必ずしも原寸大とは限らないのである(かかる一般的特質のほか、作成された特定の写については、その正確性、完全性、鮮明性等が個別に吟味されるべきことは言うまでもない。)。かように、立証事項が先に決っている場合には、その目的に副う写の種類を選択すれば足りることになるが、既に写が作成されていてその証拠能力を論ずべき場合には、逆に、当該写の有する原本再現能力の限界に応じて立証事項を限定し、その範囲内で証拠能力を認めるのが相当である(後記B1、B2に関する判断参照。また、かかる方法によった結果、限定された立証事項では罪となるべき事実の存否の認定に全く役立たない場合には、証拠としての関連性が否定されることとなる。)。
叙上の如く、写の機能を立証事項との関連において相対的に捉えるならば、原本の写による証拠調請求許容の要件としては、さきに説示した三要件で足り、弁護人主張の如き事由の不存在を独立の要件としてこれに加えることは必要でないと解すべきである(そもそも、ある証拠が原本であるか写であるかの区別すら、立証事項との関連において相対的に決せられることに留意すべきである。たとえば、ひそかに機密文書を写し取ったという立証事項である場合には、その写は原本としての性格を有することとなるし、さらに、右の場合において写し取った文書の写を大量に販布したことが立証事項であるときは、写の写が原本としての性格を帯びることとなるのである。)。
二 要件充足の有無に関する判断
1 原本の存在及び写としての適格性(要件(一)、(二))
(一) 要件(一)、(二)は互いに関連するので、便宜一括して判断することとする。
まずA1ないし53(児玉領収証)及びB1(摘要)は、いずれも原本のカラー写真であり、写真としての性質上、その存在、形状(仔細に観察しても合成等の痕跡は窺われない。)自体からも、被写体である原本の存在を窺うことができるのみならず、関係疎明資料により認められるその作成の経緯、すなわち、A1ないし37、42ないし51については米連邦捜査局写真部が各原本から撮影し原寸大に引き伸ばしたものであること、A38ないし41及びB1は検察官堀田力において各原本を撮影したものであること並びにその後の原本と写真との比較対照による写真の写としての正確性確認の状況に照らし、要件(一)、(二)の存在は優にこれを肯認することができる。
次ぎに、その余の請求証拠はいずれもフォト・コピーであり、機械的な写真複写の方法によって作成された写の存在自体及びその形状に照らしても、写に相応する原本の存在すること、及びそれを正写したものであってその存在、形状、記載内容等を殆どそのまま伝えるものであることをある程度推認できるものであり、かつ前記B1との比較対照の結果、B2については、いずれも同一物からの写であって、その内容、形状も一致すると認められるところから、その原本の存在及び写としての適格性を肯認することができる。
次ぎに、C1ないし7(児玉、ロッキード社間のマーケッティング・コンサルタント契約書)については、検察官摘示にかかる、各々契約書の作成に関与したと目される福田太郎、アーチボルト・C・コーチャン及びジョン・W・クラッターのC1ないし7を示された上での各供述内容に照らし、要件(一)、(二)の存在を認めることができる。
D1ないし26(外国送金受領証)のうち、D5ないし11については、検察官東条伸一郎、D12ないし18、20ないし24については、ロッキード社首席法律顧問ジョン・H・マーチンが、それぞれ右写と各原本との比較対照による点検作業を行ったうえで、各原本の存在及び写がその正確な機械的複写物であることを確認しており、これによって要件(一)、(二)の存在は優に肯認し得るものである。さらに、その余のD1ないし4、19、25及び26には、いずれも作成、発行名義人たるロスアンゼルス・ディーク社副社長トーマス・F・ケリーの署名が見うけられるところ、同人はD1ないし4、6ないし26についていずれも同社がロッキード社に対して発行した実際の文書である旨供述するほか、Dlないし4についてはそれらと同一物のコピーと認められるアメリカ合衆国上院外交委員会多国籍企業小委員会(いわゆるチャーチ委員会。以下「チャーチ委」という。)が昭和五一年二月一三日公表した文書のコピー、D19("AC-COUNTING COPY"と記されている。)については、それと用途表示文言の点を除けば形状、記載内容において全く同一で後記(第三、四、1)の如く同一機会に数枚複写の方式により作成されたものと認められるチャーチ委公表資料("CUSTOMER'S RECEIPT"と記されている。)及びD25、26をそれぞれ示されて検討したうえで、いずれも同人がその原本を同社の業務の過程において作成したものである旨供述しており、右によれば作成者自らその原本の作成の事実を確認するとともに各提示資料がその真正な写であることをその当然の前提として承認しているものと推認され、これに右各写が前記原本の正確な写であることが確認されている書面(D5ないし18、20ないし24)と同一の形状、同種の内容のものであって、それらと同様に米証券取引委員会(以下「SEC」という。)がロッキード社から一括押収したものから作成したコピーであり、SECによる同一の表示、及び司法省による一連の特定番号が付されていること(D1ないし4、19及び26)あるいはチャーチ委においてロッキード社等から提出を受けたものとして同様の取扱の下に一括して公表した資料中に存すること(D25)等の諸般の事情を総合して勘案すれば、前記D1ないし4、19、25及び26についても、同様に要件(一)、(二)の存在を認めることができる。
次ぎにE1ないし6及びF1については前記ジョン・H・マーチンにおいて、G1ないし4及びH1ないし8については前記東条伸一郎において、それぞれ各原本と写との比較対照を行い、その結果原本の存在及び写の正確性を確認していることが関係疎明資料から明らかに認められるのであるから、それぞれについて要件(一)、(二)を充足していることは明らかである。
最後に、その余のE7ないし9、F2ないし10、G5ないし16、H9、I1、J1ないし3、K1、2、L1ないし3、M1ないし3、N1、2、O1ないし3、P1ないし3、Q1ないし3及びR1ないし3については、いずれも各葉ごとにその余白に、これはロッキード社に代り、ジョージ・C・スミスから一九七六年八月二六日当職に提供された書類の正確な写である旨のスタンプが押され、アメリカ合衆国連邦司法省特別検事ロバート・G・クラークのイニシャルが記されているところ、同人作成の同年一一月八日付証明書によれば、右スタンプ及びイニシャルは、同人が同年八月二六日ロッキード社顧問弁護士ジョージ・C・スミスから提供を受けた同社ファイル中に存した書類の原本と請求にかかる各写とを比較対照したうえ、同点検作業の結果写がその原本の真正かつ正確な写であることを確認した場合に、その認証手段として記入したものであることが認められる。そうであるとすれば、前記各請求証拠については、いずれもその原本が存在し、かつそれぞれ原本の正確な写であることが明らかであると言わねばならない。
(二) これに対し、各弁護人はA1ないし53及びC1ないし7についてその原本の成立の真正が争われていることを理由に、原本によって押印状態等その形状、形質を仔細に検討する必要があるとして、原本自体によらなければ証拠調の目的を達し得ない旨主張する(<児>一1、<児補(一)>一2、<小>一)が、これについては既に前記一で説示したとおりであって、所論は要するに検察官請求にかかる立証事項は原本による証拠調を前提とするもので、写によっては完全に立証され得ない(すなわち証拠としての自然的関連性すら欠く。)ということに帰し、要は立証事項と写の機能との相関関係においてその間の逸脱を防げばよいのであるから当該証拠の立証趣旨を後述のB1の如く、カラー写真ないしフォト・コピーという当該写の有する原本再現能力の限界に応じて、関連性を有する限度において減縮する(従って原本の形質等は当然除くことになる。)ことにより(その他のものについては、原本自体の証拠能力の観点から右の範囲に減縮される。)、弁護人の所論はその前提を欠くこととなる。
その余の弁護人の主張(<児>二、<児補(一)>二1、<児補(三)>一、二、三1、<小>一)は、要するに、原本の存在確認がなされていないとして論難するものに過ぎず、前記(一)に説示したところからして、いずれも理由なきことが明らかである。なおSEC資料とされている各写についてその作成者等が一切不明であることを主張する論旨(<児補(三)>一3)は、そもそも各写が、フォト・コピーであって機械的複写の方法により作成されたものであるところから具体的な作成者如何よりも正確に複写し再現されているかどうかが問題なのであって、しかも検察官堀田力作成にかかる昭和五二年一〇月一五日付「『米側資料の原本対照に関する報告書』補充」と題する書面によって、その作成、入手経緯が窺われるところからすれば、理由がないものと言わねばならない。
2 写提出の必要性(要件(三))
請求にかかる各証拠の原本がいずれも日本国外にあることは関係疎明資料よりこれを認めることができる。
弁護人は、その具体的所在、保持者が明らかでない旨主張する(<児>一2、<児補(一)>一1、<児補(三)>一1、2)が、原本が国外にあること、ひいてはそれが何人の手元に存するかということ自体が要件(三)の存否の判断にあたって問題となるのではなく、そのような原本の存在状況その他の諸事情に照らして原本を公判廷に提出することが不可能又は困難であるか否かが問題となるのである。従って原本の具体的所在が明らかにならないとしても、その他の事情によって要件(三)の存在が認められれば足りるのであるから、所論は直ちに採用し難いものであるのみならず、前述のとおり関係疎明資料によれば各原本が少なくともアメリカ合衆国及びスイス国内に存すること、そしてその大部分はLAIAGを含むロッキード社保管にかかるものであることを充分推認しうるのである。
そこで更に検討を進めるに、右各原本が我国裁判権の及ばない外国に所在する以上、現行法制下ではこれを強制的に入手し、公判廷に提出する法的手段はないものと言わざるを得ない。すなわちアメリカ合衆国連邦法典第二八編一七八二条に照らしても、原本の所持者がこれを任意に提出しない限り、我国捜査機関において原本を取得する途はないものの如くであるうえ、昭和五一年三月二三日取極にかかる「ロッキード・エアクラフト社問題に関する法執行についての相互援助のための手続」二条によっても、我国検察官が直ちに右各原本を取得し得ないことは、アメリカ合衆国司法省より数次に亘って提供された資料が、いずれも写真ないしフォト・コピーに止まることよりみても明らかと言わざるを得ない。そうだとすれば、現行法上検察官において各原本を入手する法制上の手段は、原本所持者の同意を前提としない限り、もはや存しないものと言っても過言ではない。しかるに、ロッキード社は、ジョージ・C・スミス作成の一九七六年八月二六日付書面によっても明らかな如く、司法省に対してさえ一旦提出した原本を、写の正確性を確認した後には返還するように求めている他、SEC等に対しても会計監査のため必要であるとして原本の提出を拒んでおり、ましてその性質上、同社において保管しておくべき業務に関する証憑書類、内部文書等の原本を、任意に我国へ送付されるべく提出するものとは到底考えられない。クラッター所携にかかるA38ないし41及びB1、2の各原本については、クラッター証言調書第三巻及び第七巻より窺われる、嘱託証人尋問手続に際して文書提出命令付召喚状により一旦持参した右各原本を、尋問手続終了とともに再び自己の手元において保管すべく返戻を受けたクラッターの態度、その他諸般の状況に照らせば、前同様、任意提出の可能性は極めて小さいものと考えざるを得ない。また、仮りに、各原本が、SEC、司法省の保管にかかるとしても、提出者たるロッキード社等の同意のない限り我国に直ちにそれらを送付し得ない事情は同様であるし、前記取極に基づく資料送付の実情その他関係疎明資料に照らせば、これら関係機関自身において調査のため未だ原本所持の必要ありとして現に使用していることも窺われ、そうだとすると、我国への送付を容易に実行しないことも十分あり得ることである。
以上論じてきたところよりすれば、検察官にとって各請求証拠の原本を入手したうえ証拠調請求することは、不可能もしくは著しく困難な事情にあるものと認められ、要件(三)の存在を肯認することができる。
果して然らば、本件各請求証拠は、それが原本の写に過ぎないことの故を以て、その証拠能力を否定さるべきいわれはないこととなるから、進んでその原本の証拠能力につき判断すべきこととする(本件請求証拠はすべて原本の写であるから、以下の叙述においては、「写」との表示を省略することがある。)。
第三各証拠の証拠能力に関する個別的判断
一 児玉領収証(A1ないし53)
1 児玉領収証は、大別して二種に分けられる。その一(A1ないし37、A42ないし53)は、いずれも市販の領収証用紙(コクヨ製、縦書のもの)を使用し、「児玉譽士夫」と刻した記名ゴム印(以下「ゴム印」という。)及びその名下に「児玉」と刻した丸印(以下「丸印」という。)が押捺され、金額欄に漢数字の縦書チェックライター、右下隅にアラビヤ数字の横書チェックライターで金額が記載され、縦書の日付ゴム印が押捺されているもの(但し、A52、53のみは日付欄はペン書の手書であり、また、この分については、英訳文が添付されている。)のカラー写真であり、さらに仔細に点検すると、A1ないし22とA23ないし37、A42ないし53とではその地模様を異にし、また、標題部分は、A1ないし7は不動文字の「証」をそのまま利用し、A8、9、23ないし37、42ないし53は右不動文字を生かしてその上部に「仮領収」と刻したゴム印が押捺され、A10ないし22は、右不動文字に重ねるようにして「仮領収証」と刻したゴム印が押捺されていることが認められる。その二(A38ないし41)は、「メモ・レシート」と呼ばれるもので、縦一〇センチ余、横一五センチ弱の紙片にクラッターの筆跡と思われるペン書で右上隅に"Received"と記載してアンダーラインを施し、日付及び金額をアラビヤ数字で四段に横書し、四段目の金額の下に横線を入れてその下に合計金額を記載したものであり、一段目と三段目の金額の右横に毛筆で「誉士夫」、合計金額の右横にペン書で「児玉誉士夫」の署名が顕出され、二段目の金額及び合計金額横の「児玉誉士夫」の署名の各右横に前記丸印が押捺されているもののカラー写真である。
2 検察官は、児玉領収証につき、その立証事項として「児玉が各領収証記載の日時ころ、各記載の金額の金員を受領した事実」を掲げ、その証拠能力に関しては、右は児玉譽士夫の記名押印又は署名もしくは押印の存する領収証形式の書面であって、いずれも児玉がロッキード社のコンサルタントとしての業務に関し証憑書類として作成しクラッターに交付したものであるから、特に信用すべき情況の下に作成された書面として刑事訴訟法(以下「法」という。)三二三条三号により証拠能力を有する旨主張する(請求書)。
これに対し、弁護人らは、児玉領収証原本の成立の真正を争い、その偽造であることを極力主張しているのであるが(<児>三、<児補(一)>一3、<小>二1(一)(三))、その点に対する判断は暫く措き、検察官主張のとおりの作成経過であることを仮定して検討しても、右各領収証が法三二三条三号所定の書面に該当するものとは到底認められない。蓋し、領収証の如きは、たとえ本人の業務に関連して発行される場合であっても、業務の通常の過程で自己の業務施行の基礎として順序を追い継続的に作成されるものではなく、その交付を受ける相手方のために個々的にその都度作成されるものであるから、それが他の商業帳簿類たとえば入金伝票と同時に同一内容の複写として作成されるような特段の事情のある場合(後記外国送金受領証D1ないし26参照)を除いては、法三二三条二号所定の業務過程文書に該当しないのはもとよりのこと、書面自体の性質上これらと同程度に類型的に信憑性の高い文書として、同条三号により証拠能力を認めるに由ないものだからである。
従って、法三二三条三号を根拠法条とする検察官の証拠調請求は、これを認めることができない。
3 法三二三条三号は、伝聞証拠を許容する場合における特則的規定であるから、その適用が認められないときは、供述代用書面としての検察官の立証事項を維持しようとする限り、その原則的規定である法三二一条一項三号に立返って、同号所定の書面としての証拠能力を検討するのが筋道である。しかしながら、同号所定の書面に該当するとするためには、先ず以て当該書面の成立の真正であることを確定しなければならない。しかるに、児玉領収証については、その成立の真正が強く争われ、ゴム印、丸印の作成、保管、使用状況、署名の顕出されるに至った経緯、日付欄の筆跡等が争点とされ、鑑定をはじめ多数の証拠調がこの点に集中されているのである。従って、それは、本件の実体形成上最大の争点の一つとして、本案判決中において判断するのを相当とする事項である。
そうだとすれば、検察官の証拠調の請求がその目的を失うようなことにならない限り、手続過程に過ぎない証拠採否の場面においては、暫くその点の判断を留保し、他の証拠方法を援用することなく、児玉領収証それ自体(疎明資料を含む。)から直接抽き出し得る限度に立証事項を減縮することによって、非供述証拠としてこれを採用するのが相当である。従って、本件写がいずれも略々原寸大の鮮明なカラー写真であって、原本の存在、形状、記載事項、保管状況等を忠実に再現しているものと認められる状況に鑑み、これを別紙一覧表立証趣旨欄記載のとおりの立証趣旨により、非供述証拠として採用することとする。
4 もっとも、弁護人らの偽造の主張は、児玉領収証の非供述証拠としての関連性を争う趣旨を包含するものと解されなくはないので、この点につき検討するに、非供述証拠の公訴事実(冒頭陳述によって具体的に明確化された事実を含む。)との関連性は、証拠能力の存否を判断する限度においては、形式的に存在すれば足りるものと解すべきであるから、本件各領収証の作成名義人が児玉譽士夫とされており、検察官において同人がロッキード社から金員を受領したと主張している日時、金額に符合する日時、金額が記載されているという事実自体によって、その真実の作成者が何人であるかを追究するまでもなく、公訴事実との関連性を肯認することは許されるものと言うべきである(もとより、関連性を肯認することと証明力を認めることとは別個の事柄であるから、成立の真否が重大な争点として残される事情に変りはない。)。
なお、被告人児玉譽士夫に対する関係においては、児玉領収証を法三二二条一項所定の書面と解する余地がないではないが、この点についての判断は、さきに法三二一条一項三号所定の書面に関して説示したところと同様である。
二 摘要(B1、2)
1 摘要は、クラッター作成にかかる"Recap"と題する書面の写であり、B1はそのカラー写真、B2はそのゼロックス・コピーである。検察官は、その立証事項をいずれも「クラッターの児玉に対する支払資金の出納状況」とし、かつ、証拠能力の根拠法条についても、摘要の原本は、クラッターが一九六九年六月一九日から一九七五年七月二九日までの間のロッキード社東京事務所における簿外資金の出納を記録したものであり、金銭出納簿に準ずる書面として、法三二三条二号に該当するものと主張している。
右の如く、同一証拠の二種類の写を同一立証事項、同一根拠法条によって取調請求することは、明らかに重複請求である。
しかし、このような取調請求がなされたについては、当初、検察官においてB1のカラー写真のみを取調請求したところ、弁護人から、右写真はあまりにも規格が小型であるうえ、写の状態が不鮮明であるため、その記載内容を解読できない(写としての適格性を欠く)との主張がなされたので(<児>五、<小>二1(二))、あらためて同一の立証事項、根拠法条の下にB2のゼロックス・コピーを取調請求するに至ったという経緯が存するのである。検察官としては、弁護人の意見を斟酌してB2の取調請求をした段階において、B1の立証事項等を再検討するのが適切な態度であったと考えられるが、必ずしも弁護人の意見を全面的に容認した訳ではないということで、従前の請求を維持したものと思われる。
そこで、提示にかかるB1の状態を検討するに、B1は摘要のカラー写真であって、摘要原本が、表面にペン書きで"JWC"及び"Recap"と二段に記載し、それぞれにアンダーラインを施してある角封筒に納められており、横に三個所、縦に二個所折目のついた西洋紙二葉の表裏に日付、金額等を記載した書面であって、一葉目冒頭に"Special Account"と標題が付され、また、前記A38ないしA41の児玉領収証(メモ)が添付されていること等、摘要原本の存在、形状及びその保管状況等を感知することのできる資料であるが、弁護人主張の如く、その規格が小型過ぎ、かつ、露出及びピントの状態が不良であるため、封筒表面及び児玉メモ領収証の部分を除いては、その記載事項を判読するに困難な状況であることが窺われる。従って、原本を右の程度にしか再現する能力のないB1については、検察官主張の如き立証事項を認めるのは相当でないから、その原本再現力の程度に応じ、「摘要原本の存在、形状及びその保管状況」を立証事項とする非供述証拠として、その証拠能力を認めるのが相当である(かく解することによって、冒頭で指摘した重複請求の問題は解消した。)。
2 次ぎに、B2のゼロックス・コピーにつき検討するに、クラッター自身、嘱託尋問において、摘要は、同人がその業務として保管していたロッキード社の特別資金の収支をその都度自ら記載したものであるとして、各記載につき個別に説明している(クラッター証言調書四巻、同五巻)のみならず、その書面の記載内容、形状に照らしても金銭の出入を、日時を追って順次機械的に記入していったものであることが窺われ、その記載の六年余に亘る継続性、使途等をも併せ考えると、右摘要は、形式的な体裁こそ必ずしも整っているとは言い得ないものの、商業帳簿(ことに、金銭出納帳)に類する書面と認められ、その作成状況、形状からみて商業帳簿類と同程度の類型的に記載の正確性を担保し得る情況の下に作成された書面と解するのが相当である。
3 これに対し、各弁護人は、摘要の作成情況の特信性、記載内容の正確性を種々争うので、以下順次判断する。
(一) クラッターが在日していない日付で、同人が日本国内で児玉に現金を交付した旨の記載が存する(<児>五2(一)(1)、<小>二1(二)(5))との主張については、かかる事例は多数回に亘る金銭出納記録中のごく一部に過ぎないから、その一事を以て金銭の出入を日時を追って順次機械的に記入していったものであるとの摘要の証拠としての基本的性格に何らの消長をももたらすものではないばかりか、そもそも、摘要は、特別資金の収支関係一切を記載したものであって、クラッター自ら関与した収支に限定されていないのであるから、所論は既にその前提において誤っているものと言うべきである。
(二) 原資が存在しないのに資金受入れの記載をしている部分がある旨の所論(<児>五2(一)、(二)、<小>二1(二)(9))は、原資に関する証拠が請求されていないということを、原資が存在しないとすり変えて主張するものに過ぎず、長年月、多数回に亘る資金授受のごく一部につき原資関係の資料による裏付けを欠く部分があったとしても、そのことの故を以て摘要の証拠能力を否定すべきいわれはない。
(三) 摘要の記載と児玉領収証とを比較対照すると、日付、金額、枚数等に相違するものが存する旨の主張(<小>二1(二)(1)ないし(4))は、そもそも摘要の作成状況と全く無関係な他の証拠との不一致を論難するものであって、専ら証拠の証明力に関する主張に過ぎないものと認められるうえ、その相違自体些細な事項に関する少数事例に止まり、領収証交付の記載に対応する領収証の不存在も、前記原資に関する資料と同様に、その当該領収証自体が紛失等の理由により顕出されない状況にある蓋然性も存することよりすれば、いずれも証拠能力を否定する主張としては採用の限りでない。
(四) 一九七二年一〇月一六日付シャッテンバーグ発クラッター宛書簡(クラッター証言調書四巻添付副証2号。以下「シャッテンバーグ書簡」という。)の記載によれば、クラッターとロッキード社会計担当副社長アール・H・シャッテンバーグとの間で資金出納について事後調整が行われ、その結果に基づいて摘要が作成されている旨主張する(<児>五2(二)(1)、<小>二1(二)(7))が、摘要の記載に徴すると、クラッターは何ら右書簡の記載にそう如き事後調整を加えていないことが明らかであって、却ってクラッターが摘要を金銭出納の都度記載していたことを肯認できる。所論は摘要の記載内容の信用性を云為するものに過ぎない。
(五) 更に、前記書簡添付の一覧表に照らせば、児玉領収証の発行日付より前にそれがシャッテンバーグの手元に存在し、それに合わせて摘要が作成されている旨の所論(<児>五2(二)(2)、<小>二1(二)(6))については、同書簡及びその返信である一九七二年一〇月二四日付クラッター発シャッテンバーグ宛書簡(前記証言調書添付副証3号)の各本文中の記載に照らすも、未到来日付での金銭出納及び調整に関する事項を見出し得ないのみならず、却ってクラッターが、右返信中で、所論指摘にかかる児玉領収証の一部を同封した旨記述している事跡が窺われるのであって、以上によれば、所論指摘のシャッテンバーグ書簡添付一覧表中の一九七二年一〇月一六日以降分の記載は、シャッテンバーグが手元に残しておいた同書簡の控に、書簡発送後SECに提出するまでの間に事後的に追加記入したものと解するのが相当である。結局所論は、シャッテンバーグ書簡添付一覧表に、同書簡日付以降の日付の分の記載があることから、それに相当する児玉領収証が事前にシャッテンバーグの手元に存していたと速断するものであって、理由がない。
もっとも、弁護人は、前記一覧表の記載は、その記載状態からみて同一時期になされたものであり、前記クラッター書簡に同封したとされる児玉領収証中には、シャッテンバーグ書簡作成日付前の日付で、かつ、前記一覧表記載分と日付が異なっているものがある旨主張する(<児補(一)>二3)ところ、同一覧表の記載は、その形状自体からみてすべて同一時期に記入されたものとは速断できないし、却って、同一覧表中には、同年一一月一五日付でのディーク・アンド・カンパニー・ロスアンゼルス・インコーポレイテッドからの小切手による五八万〇四三二ドル(一億七五〇〇万円)の入金事実が記載されている点に徴すれば、シャッテンバーグが一〇月一六日以降も、同一覧表の控を手元に保管して追加記入していたことが明らかであり、また一覧表記載済の分について、事後にクラッターからシャッテンバーグの下へ児玉領収証が送られたとしても、金銭出納の連絡のみを先に行い、証憑書類たる領収証等については、クラッターの手元で保管しておいて数通程度まとまった段階で一括してシャッテンバーグの下へ送付することも十分考えられるし、所論指摘の日付の相違も金額は合致しており、日付だけ一日ずれているのみであって、しかも摘要の記載に一致していることよりすれば、単なるクラッターの誤記に過ぎないものと解されるのであるから、いずれも採用の限りでない。
(六) 最後に、摘要には後日記入したことが明らかな記載が存する旨の主張(<小>二1(二)(8))は、所論後日記載なるものは、当時の為替レートの記入に過ぎず、摘要の本来の記載内容である金員の出納とは全く無関係かつ無害的な余事記載であって、かかる事実の存在を以て、摘要の証拠能力を否定するに由ないところと言うべきである。
4 以上の次第であるから、B2については検察官主張どおりの立証事項で法三二三条三号所定の書面として採用することとする。
ちなみに、前記A38ないし41及びB1は、証拠方法としての形式上検察官作成にかかる同一の捜査報告書の添付資料とされているに過ぎないが、右報告書本文の記載及び検察官請求の趣旨に照らせば、その実質はA38ないし41及びB1自体をそれぞれ報告書とは別個独立の証拠として請求しているものであることが明らかであるから、前記の如く各々別個の証拠として採用することとした。
三 マーケッティング・コンサルタント契約書(C1ないし7、N1、2)
1 検察官は、マーケッティング・コンサルタント契約書は、いずれも「児玉とロッキード社間(C1ないし7)又はブラウンリー社とロッキード社との間に記載内容どおり(但し、C1、2については、作成年月日の点を除く。)の契約が締結されていた事実」を立証趣旨とするものであるから、それが非供述証拠であることは明らかであると主張するが(請求書及び<検(一)>四、<検(小)>五)、かかる立証趣旨は、弁護人らの主張(<児>四1、<小>二2(一))をまつまでもなく、記載内容の真実であることを前提として、記載内容どおりの契約が締結された事実を報告する供述証拠としてこれらを利用しようとするものに外ならない。
従って、これら非供述証拠として請求している検察官の意図を貫徹するためには、その立証趣旨を、「契約条項が記載され、かつ、契約当事者であるロッキード社代理人の署名並びに児玉譽士夫の署名(C1、2)及び/若しくは記名押印(C1ないし7)又は大刀川恒夫の署名(N1、2)が顕出されている契約書の存在、形状及びその記載事項」と訂正する必要があり、かく訂正された立証趣旨の限度において、非供述証拠としての検察官の証拠調請求は、これを認容することができる。
2 なお、弁護人は、C1ないし7の各契約書原本の成立の真否に関し、いずれも偽造の主張をなしていたところ(<児>四2)、検察官請求の如く、本件各契約書の記載内容の真実までも立証趣旨に含めるのであれば格別、立証趣旨を前示のように減縮する以上、各契約書の成立の真否は、非供述証拠としての証拠能力の存否に何ら影響を及ぼすべきものではなく、また、その関連性の有無を左右するものでもないことは、さきにA1ないし53につき説示したところと同様である。
次ぎに、N1、2に表示されている大刀川恒夫の記名は明らかに同人の署名ではなく(<児>四3)、仮りにN1、2の原本に同人の署名が存在すると言うのであれば、N1、2は右原本の写ではなく、他の書類(原本の控)の写に過ぎないこととなるから、証拠能力が認められない旨の主張(<児補(一)>二2)について検討するに、関係証拠によれば、N1、2は原本と同一機会に作成された同一内容の控であって、クラッターにおいて保管し、原本上に大刀川の署名があることを示す趣旨で該当個所に同人の名を記載しておいたものの写であることが認められるから、N1、2が「原本の写」ではなく、「原本と同一内容の控の写」であることを念頭においてその証明力を評価すれば足りることであって、所論の如く、その証拠能力まで否定すべきいわれはない。
四 外国送金受領証(D1ないし26)
1 検察官は、外国送金受領証につき、いずれも外国送金業務を行うディーク・アンド・カンパニー・ロスアンゼルス・インコーポレイテッド(以下「ディーク/LA」という。)がロッキード社から東京あてに日本円の送金を依頼されてその金額に相当する米ドルを受領した旨の文書であって、同社の会計伝票として業務の通常の過程において作成されたものであるから、法三二三条二号所定の書面に該当する旨主張する(各請求書)。
よって検討するに、関係証拠によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) ディーク・アンド・カンパニー・インコーポレイテッドは世界各地に多数の関連会社を持ち、これらを通じて外貨交換、国外決済、国際送金等の金融活動を行う世界的な企業組織であり、ディーク/LAも、その子会社の一つとして同様の業務にあたっていたものであること。
(二) 本件請求にかかる各外国送金受領証(うちD25のみはチャーチ委公表資料であり、その余の二五通はいずれもSEC資料)の右下隅には"CUSTOMER'S REC-EIPT"(顧客用領収証。以下「顧客用」という。)か"ACCOUNTING COPY"(会計用控。以下「会計用」という。)もしくは"FILE COPY"(保存用控。以下「保存用」という。)のいずれかの表示が印刷されているところ、ディーク/LAでは顧客から外国送金の依頼を受けた都度右表示を除いて全く同一内容をあらかじめ印刷してある右「顧客用」「会計用」「保存用」の三種が一組となった複写式の三枚綴の用紙にタイプ等で送金先、金額等依頼内容の必要事項を記入して、三枚同時に作成したうえ、うち「顧客用」は依頼人たる顧客に送金資金支払の領収証を兼ねて交付し、「会計用」は同社の送金業務及び会計処理のため使用し、「保存用」は同社において備付、整理のため綴って保管していたものであること(このことは、「会計用」又は「保存用」と表示のあるD12ないし24といずれも「顧客用」と表示のあるチャーチ委公表資料中の同一FX番号のものとをそれぞれ対比検討するに、まず右用途表示文言を除いてその書式形状、不動文字の記載内容が全く同一であるところ、具体的な外国送金の依頼を受けてその依頼内容に即してタイプ印書された記載事項についてもその内容はもとより、文字の配置、形状まで一致しているのみならず、署名についてすら合致するものと認められること、同一内容の用紙が三種類併存すること及びその表示自体に照らして明らかである。)。
(三) 各外国送金受領証には、送金依頼者、送金先、送金の日時、方法、送金額、外貨換算率等送金についての必要事項及び外国送金に関する具体的取引内容の一切が記されているうえ、各外国送金受領証の右上隅には「FX」の表示のもとに一連番号が付されていること。
(四) ディーク/LAの副社長兼支配人であるトーマス・F・ケリーが、本件各外国送金受領証について、業務の通常の過程で作成されたものであって、一九六九年から一九七五年に至る間にディーク/LAがロッキード社に対して国際送金の為に発行した領収証の写であり、ロッキード社から日本への送金の依頼を受けると、その一枚にタイプをして、番号や日付を入れ、これを番号順に保管しておく旨供述していること。
(五) ディーク/LAが昭和五一年四月まで、少なくともD5を除くその余の本件外国送金受領証の「会計用」もしくは「保存用」を保管していたこと(このことは、トーマス・F・ケリーが昭和五一年四月二七日SECに対し、提出命令に応じてディーク/LA保管にかかる「実際の文書」("the actual documents")を提出した経緯に照らして明らかである。)。
以上の各事実及び本件各外国送金受領証自体の内容、形状に照らせば、本件外国送金受領証は顧客の要請あるいはディーク/LA内部の都合等により個別的に作成、発行されるものではなく、同社の外国送金業務の通常の過程で右業務施行の基礎として、顧客からの外国送金依頼の都度継続的かつ機械的に所定の三枚複写式の用紙にその依頼内容を記入することにより作成されたものの一枚であり、「会計用」は同社の送金伝票としてその業務の用に充てられ、「保存用」は同社の売上伝票的な書面として、順を追って付せられる一連のFX番号に従って編綴保管されていたものと考えられる。そうだとすれば、少なくとも「会計用」及び「保存用」は、商業帳簿類似の書面であって、法三二三条二号所定の業務過程文書に該当するものと解するのが相当である。また、「顧客用」も、その本来の機能はもとより顧客に対する外国送金のための金員受領についての領収証であるとしても、前示のとおり、その記載内容、形状等は「会計用」「保存用」のそれと用途表示文言の部分を除き全く同一であって、しかも同時に作成されるというその作成状況に徴すれば、書面の表示の一事を以て後者と証拠法上の取扱を峻別すべきいわれはなく、後者に準じて法三二三条二号所定の書面に該当するものと解するのが相当である。
2 これに対し、各弁護人は、いずれも本件外国送金受領証は真実の外国送金取引に基づいて、業務の通常の過程において作成されたものではないとして縷々の主張を展開しているので、以下これについて判断を示すこととする。
(一) 外国送金受領証が順序を追いながら継続的に記載された書面でなく、個々的に作成されたものに過ぎない旨の主張(<児>六1、<児補(二)>一1)は本件各受領証がそれぞれ一枚の書面であることに拘泥した主張であって、個々の書面はたとえ個別的に作成されたものであっても、それが継続的に日々の業務遂行の過程でその都度作成され、一連のFX番号のもとに順次編綴されていけば、一冊の帳簿となることに思いを至せば理由なきこと明らかである。
(二) 記載の基礎となるロッキード社からディーク社、同社から東京宛の送金方法及び外国送金の具体的取引条件が一切不明である旨の主張(<児>六2(一)(三)、<児補(二)>一2(五)、<児補(四)>一、<小>二2(二)(1)、(3))は、外国送金の具体的方法如何及び具体的取引条件如何が、外国送金受領証自体の証拠能力の存否に全く関係ないことよりすれば主張自体失当たるを免れない。このことは取引内容が詳かにされない限り、その取引関係を記した商業帳簿に証拠能力が認められないものではないことからすれば明らかである。
(三) 作成名義人たるトーマス・F・ケリーが外国送金受領証について「金額が多額であることは不自然に感ずる」旨供述しているとの主張(<児>六2(二))は、当該証拠の英文原本に即してみれば、金額が多額であることを除けば、何ら通常のものと変わった点は認められない旨述べているに過ぎず、その他関係証拠中の同人の供述に照らしても、同人が本件各外国送金受領証の内容について疑問を抱いている形跡は窺われないのであるから理由がない。
(四) 一九七三年分送金にかかるD12ないし17に関し、クラッターの翌一九七四年一月四日付シャッテンバーグ宛「受入、支払一覧表」(クラッター証言調書七巻添付副証七号)に右送金に見合う受入の記載が全くないので、実際には右送金はなかった旨の主張(<児>六2(四)、<児補(一)>二4、<児補(四)>二3(四))については、他の証拠との不一致を言う点において既に信用性に関する主張に過ぎないばかりか、受入の記載と受入の事実、受入の事実と送金の事実を順次すりかえることによって送金の事実の存在を否定し、これによって右送金に対応する外国送金受領証の証拠能力まで否定しようと試みるものであって、その論理にはあからさまな飛躍があり、到底採用の限りではない。のみならず、クラッター自身同一覧表において「私は、手許に他のロッキードの所有する円を持っています」旨記載していることに照らし、所論は、その前提自体において肯認し難いものがあると言わなければならない。
(五) 弁護人らは、(ア)本件外国送金受領証中D8、9、12、14ないし19については、受領証として最も重要かつ基本的要素である"Received"(領収しました)との受領文言がことさら抹消されているのであるから、真実外国送金のための金員払込がなされたか否かも疑わしい旨主張するが(<児>六2(五)、<小>一2(二)(5))、提示にかかる外国送金受領証を検するに、たしかに、受領文言が抹消されていることは所論の如くであるとしても、所論は、ひたすら右抹消の事実を主張するに急であって、抹消された文言の上部に"WE AWAIT PAYME-NT"(お支払をお待ちしています)との訂正文言がタイプ印書されている事実をことさらに無視しようとするものと言わざるを得ない。右訂正文言の存在は、ディーク/LAにおいて、ロッキード社との間の取引に関し、外国送金のための原資があらかじめ払込まれない場合であっても、いわゆる「与信取引」を行っていたものであることを推測させるに足るものであり、右推測はケリーももしロッキード社が送金依頼日に外国送金のための小切手を持って来なかった場合には、ディーク/LAとしてはおそらく次の日にそれを貰うが、時には同じ日に小切手を貰えない場合もある旨供述しているうえ、ロッキード社はディーク/LAと長期間に亘り継続的な取引を行っており、その外国送金依頼額が極めて多額であったことから、ディーク/LAとしても通常顧客から徴収する手数料等も無料にするなど、ロッキード社を上得意先として取扱っており、その支払能力につき全幅の信頼をおいていたことが窺知できることによって、十二分に裏付けられるものと言うべきである。
弁護人は、次ぎに、(イ)D20ないし23については、受領文言とこれと相矛盾する払込みを待つ趣旨の文言とが同時に併存していることの不合理性を攻撃するが(<児補(一)>二5)、あらかじめ印刷されている不動文字による受領文言と、後日タイプ印書された払込みを待つ趣旨の文言との先後関係、一般・特別関係は一見して明白であり、態々前者を抹消するまでもなく、後者が前者に優先することは自明の理であって、前記(ア)の場合と同様、与信取引であったものと解するに何らの支障はないものと言うべきである。
弁護人は、さらに(ウ)D10については、受領文言及び払込みを待つ趣旨の文言がともに抹消されているほか、"VOIDED"(無効とされた)との文言が新たに手書されているのは不可解である旨主張するが(<児補(五)>二2)、健全な良識を以ってすれば一見して明らかな如く、右記載は、当初にロッキード社からの払込みがなかったため、不動文字の受領文言を抹消して「お支払をお待ちしています」旨の訂正文言を記入したところ、後日ロッキード社からの払込みがあったため、右訂正文言が「無効とされた」ことを注記してこれを抹消し、当初の受領文言を復活させたものと解するのが相当であり、かく解する以上、そこには何ら不自然不合理な点は見出せないのである。
(六) 一九七二年一〇月一六日現在、シャッテンバーグの手元に未到来の日付分の外国送金受領証が存在していた旨の主張(<児>六2(六)、<児補(二)>一2(三)(3))については、既に摘要に関する同様の所論に対して詳細説示したとおり、シャッテンバーグが事後に手元にあった控に記入したものと解するのが相当であって、理由がない。
なお、シャッテンバーグが所論指摘にかかる同月一七日付のD11についても赤で星印を付している旨の主張(<児補(四)>二1(三))については、シャッテンバーグ書簡添付一覧表の記載に徴するに、D11に付されている星印は、それ以前の七通の外国送金受領証に付されている星印とやや形状が異なり、むしろ後日、別の機会に付されたものと認められるところからすれば、理由のないこと明らかと言わねばならない。
(七) D9、10、14、21、24については、いずれもケリーと別人の署名が存在しているところ、その署名者及びディーク/LAとの関係は一切不明のため、同社作成の外国送金受領証であるか不明である旨の主張(<児>六3、<児補(二)>一2(四)(2)、<小>二2(二)(4))は、所論指摘の分についても、ケリーにおいてディーク/LAが発行した業務文書である旨供述していることに照らせば理由がない。
(八) 一九七三年五月一一日付金額七五万七五七五ドル七六セント(FX三二〇八、D12)と同月三一日付金額九〇万九〇九一ドル二四セント(FX三四二七、D13)の二通については、同月一八日付で香港所在のディーク・アンド・カンパニー・(ファー・イースト)・リミテッド(以下「ディーク/極東」という。)からロッキード社に宛て右合計金額に相当する一六六万六六六七ドルの領収証(クラッター尋問調書四巻添付副証27D)が二重に発行されているうえ(<児補(二)>一2(二)、<児補(四)>二3、<小>二2(二)(6))、五月三一日付D13に基づくクラッターに対する支払の一部がこれより先同月二八日、同月三〇日になされている(ダーク・M・ブリンク発F・ジョン・アンドリュー・ジュニア宛書簡、G1)(<小>二2(二)(2))旨の各主張につき検討する。
提示にかかるD12、13(いずれも会計用)にはそれぞれ所論の日付、金額(但し、D12の文字による金額の記載は、明白な誤記と認められる。)が記載されているほか、D12には「お支払をお待ちしています」旨、D13には「領収しました」旨の記載、両者に「一ドル当り二六四円」との為替レートの記載及びトーマス・F・ケリーの署名の存することが認められ、また、前記副証27Dは、ディーク/極東がロッキード社から東京への送金のため前記金額を領収した旨を記載し、ダーク・M・ブリンクの署名及び社印の押捺されている前記日付の領収証であることが認められる。
右各書面の記載に関係疎明資料を総合すれば、右各書面作成の経緯は概ね次の如くであるものと推認できる。
すなわち、ロッキード社において総額一六六万六六六七ドルに相当する日本円(四億四〇〇〇万円)を東京のクラッター宛に送金することとし、まず、一九七三年五月一一日、その一部(二億円)の送金方をディーク/LAに対し与信取引で依頼したところ(D12)、当時の為替レートは香港の方が有利であったため、送金資金を一括してディーク/極東に支払うこととし、同月一八日、ディーク/極東に対し全額の支払がなされ(副証27D)、右金員の受領を確認したディーク/LAにおいて、同月三一日、残額二億四〇〇〇万円分につき領収済である旨の外国送金受領証(D13)を作成したことが窺われる。
右の如き経過であるとすれば、D12、13と副証27Dが併存したとしても何ら怪しむに足りないところである。すなわち、先にD12が発行されていたとしても、それは与信取引であって資金を領収した趣旨ではなく、また、総額の一部についてのものに過ぎないから、全額を現実に領収した時点でディーク/極東が副証27Dを発行したのは当然であり、さらに、ディーク/LAは、ディーク/極東と別会社であるうえ、副証27Dが単なる領収証に過ぎないのに対し、外国送金受領証は、前記の如く、顧客に対する領収証であるに止らず、ディーク/LAの業務過程で作成される商業帳簿類としての機能をも果しているのであるから、副証27Dの存在にもかかわらず、同社において残額につき改めて外国送金受領証を作成したことには、合理性と必要性が認められるのである。
また、右の如き経過であれば、クラッターに対する送金の一部がD13の作成日付前になされていたとしても、何ら異とするに足りないこととなる。
(九) クラッターがディーク社から三〇〇〇万円受領しているにもかかわらず、ロッキード社には送金の事実が記録されていない旨の主張(<小>二2(二)(7))は、当該送金に関する記録、資料が見当らないというに過ぎず、該当する外国送金受領証自体証拠調請求されていないのであるから、本件外国送金受領証の証拠能力に関する判断については全く無関係な主張である。
(一〇) ケリーのSECにおける証人尋問調書添付の一覧表(以下「K1表」という。)の記載と本件各外国送金受領証との間に符合しないものが存在する旨の主張(<児補(二)>一2(一)、<児補(四)>二2)は、SECからの召喚状及び提出命令が証言期日の直前に届いたため、ケリー及びディーク/LAにおいて同社保管にかかる長期間、多数回に及ぶロッキード社との取引関係の資料を充分調査、検討のうえ準備する時間的余裕がなかったこと、ディーク/LAにおいては、対ロッキード社との取引について一括して「ロッキード」とのみ限定して処理しており、ロッキード関係であればその系列会社も全て、本にして取扱っており、ケリー自身は専らシャッテンバーグと取引するだけでLAIあるいはLAIAG等の個々の会社についてまでは関知していなかったことよりすれば、LAIとLAIAGの表示違い等は充分考えられること及び所論が比較対照にあたって前提としているロッキード社側においても、外国送金受領証の保管、取扱上の過誤の存したことが考えられること、所論指摘のケリー作成にかかる書簡写(いわゆるケリー送付書。<児補(四)>二2(一))は、ケリーにおいてシャッテンバーグの要請に従い一九七四年一二月までの外国送金受領証を同封、一括送付したものであること等の諸事情に照らせば、本件各外国送金受領証の証拠能力を否定する根拠としては、採用の限りでない。
なお、弁護人は、D11については、前記シャッテンバーグ書簡添付一覧表の記載上は、ディーク/LAからロッキード社に対し送金依頼分の半額が後日払戻されたことになっているのにかかわらず、前記K1表の記載上はその全額が日本宛に電信送金されたことになっており、両者は明らかに矛盾している旨主張するが(<児補(二)>一2(三)(3))、前記K1表の記載状況及びケリーの供述等によれば、前記K1表は、ケリーにおいてディーク/LAに保管されていた外国送金受領証を収集し、その記載事項を取纒めたものに過ぎないことが窺われるから、外国送金受領証作成後の事情変更により所論の如き半額払戻の事実が後日発生したものとしても、その点の記載が欠如していることは何ら怪しむに足りず、そのことの故を以て外国送金受領証の証拠能力を否定するに由ないところである。
(一一) ケリー送付書によれば、ケリーがシャッテンバーグの要請によって一九七五年六月二七日付で同人宛に、D12ないし24を含む一九七三年五月から一九七四年一二月までの間の外国送金受領証一九通を、事後に一括送付していることが窺われるから、ディーク/LAが送金依頼ないし資金受領の都度外国送金受領証を送金委託者たるロッキード社に交付していたのか疑わしい旨の主張(<児補(二)>一2(二)(3)、(三)(2)、<児補(三)>三2(二)、<児補(四)>二1(一))について検討するに、外国送金受領証は「顧客用」、「会計用」、「保存用」の三枚を一組として複写式で作成されるものであること、チャーチ委が文書提出命令付召喚状によってロッキード社の書類綴から入手した書類中、D12ないし24と各々同一FX番号で同一の内容、形状を持つ各外国送金受領証は、いずれも「顧客用」であること、SECがロッキード社から押収したD12ないし24の原本は、それぞれ「会計用」又は「保存用」のいずれかであること、一九七一年一月までの分であるD1ないし4を除いてSECが入手した外国送金受領証中「会計用」もしくは「保存用」であるのはケリー送付書によりディーク/LAから改めてロッキード社へ外国送金受領証が送付された分に限られていること、ケリー送付書作成前の一九七五年一月二〇日付のD25は、前記小委員会が入手した「顧客用」であるところ、これについてはケリー送付書によって送付された形跡がなく、SECも入手していないこと、D12ないし24の原本は一九七六年六月ないし九月当時ロッキード社の会計監査のため同社の手元に保管されていたこと等の諸事実を総合すれば、ロッキード社はディーク/LAからD12ないし24を含むケリー送付書記載の一九通の外国送金受領証(「顧客用」)を受領し保管していたものの、前記召喚状に基づきチャーチ委に提出したため、その後の会計監査等の必要のために、改めて「会計用」ないし「保存用」を保管していたディーク/LAに対しその送付を要請し、これをうけてケリーがケリー送付書記載のとおり同社保管にかかる前記一九通の「会計用」ないし「保存用」をロッキード社へ送付したところ、これまたSECに押収されるところとなった経緯を認めることができるのであって、右事情に照らせば所論は理由なきものに帰することとなる。
なお、弁護人は、右の点に関連してチャーチ委公表資料中一九六九年六月一一日付ないし一九七一年一月一九日付の四通の外国送金受領証(D1ないし4に相応)はいずれも「保存用」である旨指摘する(<児補(四)>二(一)(2)、(4))が、これらはいずれも相当期間以前のものに限られており、ロッキード社において紛失、保管上の過誤等の理由により「顧客用」を失い、改めてディーク/LAに依頼して「保存用」の交付を受けたものとも解されるところからすれば、何ら異とするに足りないものである。
(一二) 外国送金受領証の保管状況及びSEC等に対する提出状況について極めて不自然な点が多い旨の主張(<児補(三)>三2)は、要するにロッキード社からSECに対し外国送金受領証の原本の一部が提出されなかったというに過ぎず、その原因が不明であるとしても外国送金受領証の作成自体を疑うに由ないものであるから、証拠能力と何らの関係もないものと言わざるを得ない。
(一三) 外国送金受領証の一部については、事後に各日付を付して一括作成されたうえ、「顧客用」「会計用」「保存用」の三種の一組全部がロッキード社に交付されていた疑いが強く、本件外国送金受領証は真実の取引と無関係に、専らロッキード社に交付するためにのみ作成されたものである旨の主張(<児補(四)>二1(二))は、D12ないし24についてロッキード社において、チャーチ委に対しては「顧客用」の写を、SECに対しては「会計用」又は「保存用」の写を提出していることをその前提とするものであるが、既に説示した如く、ロッキード社は少なくとも「顧客用」についてはその原本を提出したものと認められ(所論は一九七六年九月二日現在、ロッキード社が「顧客用」原本を保有していたとするが、マーチンが対照した書面は、D13、19を除いて、いずれも「会計用」又は「保存用」であり、D13についても「会計用」同様、再度ロッキード社の手元に移管された可能性も存するのであるから、にわかに肯認し難い。)、そうだとすれば、同社がSECに対してはディーク/LAに要請して新たに送付を受けた「会計用」又は「保存用」を提出したものと考えることもでき、ロッキード社において同一の外国送金受領証につきチャーチ委とSECに対しそれぞれ異なる種別のものを提出した理由を合理的に推認できるのである。またディーク/LAがロッキード社に対し、同一の外国送金受領証について本来同社において保管すべき「会計用」「保存用」の双方をともに送付したとする事実は何ら窺えないし、D12ないし24のFX番号は日付の順序に、かつ日時の間隔に応じて適宜離れた数字で付記されており、ジョン・H・マーチン宣誓供述書の冒頭説明第二項の記載は以下のすべての資料についての説明であって、同供述書添付の外国送金受領証がすべてSEC同様チャーチ委に対しても提出されたものとは解されない。以上の諸事情に照らせば、論旨は理由のないことが明らかである。
(一四) D20ないし24についてはその用紙に印刷されている本店所在地、電話番号が、いずれも同一の外国送金受領証の「顧客用」用紙に印刷されているそれと異なっており、異なる用紙を使用して別の機会に作成されたものである旨の主張(<児補(五)>二1)は、所論指摘にかかる「顧客用」五通の形状を詳細に検討すれば理由のないことが明らかである。すなわち、右五通の前後の日付の外国送金受領証を対照すれば、ディーク/LAの本店所在地及び電話番号は従来D20ないし24に印刷されているとおりのものであったが、その後前記「顧客用」五通に記載されているそれらに変更したものと解されるところ、右各「顧客用」の本店所在地及び電話番号の記載は従前のそれが印刷されていた個所の上に新たに変更部分のみを印刷した紙片を貼付したものであることが、右記載部分の隅に従前の印刷部分が若干はみ出しているものが見受けられたり、貼付の形跡が残存していること等から窺えるのである。他方ディーク/LAがD20ないし24については同様の処置をとらず、変更前の記載のままに放置しておいたことも、D20ないし24がいずれも「会計用」又は「保存用」であって、同社内に保管され本来外部の者に交付すべき筋合の書面でないことに照らせば首肯できるのである。以上のとおりであって、所論の如き同一の外国送金受領証における本店所在地及び電話番号の相違も合理的な理由の存するところであるから、論旨は理由がない。
(一五) 最後に、D25は、その送金先、受取人の記載が客観的事実と相反し、指示どおりの送金を行うことが物理的に不可能な内容であって、真実の取引に基づいて作成されたものではない旨の主張(<児補(五)>三)について検討するに、所論指摘の事態はロッキード社内部における相互連絡の不十分に起因するに過ぎないものと考えられ、その一事を以て証拠能力を否定する根拠とはなし難いところであるうえ、関係証拠によればD25にかかる送金は実際にはその指定期日よりはるかに遅れてなされていることが窺われるのであって、所論は採用の限りでない。
以上の次第であって、各弁護人の主張はいずれもその主張する事実自体が認められないか、本件外国送金受領証の証拠能力を否定する根拠となし難いところに帰するのであって、縷々の所論にもかかわらず、すべて採用の限りではない。
3 よって、本件各外国送金受領証は、これをいずれも法三二三条二号所定の書面として採用することとする。なお、D25については、検察官において検事小林幹男作成の捜査報告書として証拠調請求をなし、D25は形式上同報告書の別添資料として添付されているものに過ぎないが、請求書の記載及び同報告書の本文部分の内容に照らせば、その実質はD25自体を証拠方法として請求しているものと同視することができ、他の外国送金受領証(D1ないし24、26)と証拠法上の取扱を区々にする必要も認められないものであるから、D25を含む前記報告書についても前記法条によって証拠として採用することとした。
五 借方記入通知(E1ないし6)
検察官は、借方記入通知(写)六通につき、スイス・クレジット銀行が米ドル又はスイスフラン建小切手の振出についてLAIAGの借方に記入した旨の同社宛通知書であって、同行の会計伝票に準ずるものであり、業務の通常の過程において作成された書面として法三二三条二号により証拠能力を有する旨主張するところ(請求書)、これに対し弁護人は、本件書面は個々の取引につき個別的になされた措置に関して作成された通信文であって、継続的、機械的に記載されるものではないから、同法条所定の書面に当らない旨反論している(<小>二2(三))。
よって検討するに、本件各書面はスイス・クレジット銀行において持参人払い自己宛小切手を振出したことに伴い、同額を同行のLAIAGの口座の借方勘定に記帳する措置をとったことを同社宛に通知した書面であって、同行における日常の銀行業務の遂行過程において作成されたものであることは明らかと言わねばならない。
もっとも、弁護人指摘のとおり、法三二三条二号所定の書面と認めるためには、それがある程度継続的に作成されたものであることを要するところ、本件各書面は、持参人払自己宛小切手の振出という事態が生じた場合にのみ、相手方のため個々的に作成されるものと解されるから、右要件を欠くかの如くである。しかしながら、本件各書面は、その作成主体、作成状況、使途及び書面の形状自体に照らすとき、銀行が、顧客の口座の処理という最も慎重かつ正確に取扱うべき本務遂行にあたって、その一環として、業務の通常の過程において、極めて機械的にかつ正確を期して作成した書面であって、それ自体の性質上商業帳簿に類する程度の記載の信用性を有するものと認めることができる。
従って、本件借方記入通知(写)については、いずれも法三二三条二号所定の書面に該当するものとして、証拠として採用する。
六 借方記入通知票(E7ないし9)
検察官は、借方記入通知票三通は、いずれもジョンソン・ストークス・アンド・マスター弁護士・公証人・商標及び特許代理人事務所の業務の通常の過程において作成されたものであって、法三二三条二号所定の書面に該当する旨主張する(請求書)が、その記載内容、形状及び関係証拠を検討するに、右書面は、要するに、ジョンソン・ストークス・アンド・マスター事務所所属のロバート・S・N・ベイリーにおいてクラッターに対し同事務所の提供した役務の対価及び諸経費の支払を請求した書面に過ぎず、弁護人指摘(<児>八1)のとおり、順序を追い継続的に記載されたものではなく、請求の相手方に対し個々的にその都度作成されたものであることが明らかであるうえ、その書面の性質上、商業帳簿等に比肩するだけの記載の正確性を期待し得るものとも認められない。
従って、E7ないし9については、法三二三条二号あるいは三号所定の書面として証拠能力を認めることはできず、また、その作成者すら不明であることからして、法三二一条一項三号所定の書面としての要件を充たさないことも明らかである。
そこで、E7ないし9については、その立証趣旨を別紙掲記のとおり各々「ジョンソン・ストークス・アンド・マスター弁護士・公証人・商標及び特許代理人事務所所属のロバート・S・N・ベイリーが一九七五年一一月七日付でクラッターに宛て送付したブラウンリー社に対する特定金額の請求文書の存在、形状及びその記載事項」と減縮し、その限度において非供述証拠としてこれを採用することとする。
七 クラッター領収証(H1ないし8)
1 検察官はクラッター作成にかかる領収証写八通について、クラッターが特定の日に特定量の「ピース」を受領した旨の領収証であって、同人がその業務に関し作成し証憑書類としてディーク社に交付したものであり、特に信用すべき状況下に作成された書面として法三二三条三号所定の書面に該当する旨主張する(請求書)。
2 クラッター証言調書中には、検察官の主張にそうかの如き同人の供述も存するものの、同人が日常その業務の通常の過程において自己の業務施行の基礎として順序を追い継続的にこれを作成、発行していたものとは認められず、相手方であるディーク社の求めに応じて送金受領の都度個々的に作成、交付していたに過ぎないものであることが窺われるから、法三二三条二号所定の業務過程文書に該当するものと解するに由なく、また、その体裁を見ても、メモ用紙に"Received forty(40)pieces.5/18/73"(H1)等と筆記体で記載しているだけのものであり、クラッター自身の供述に徴しても、他にその作成情況、記載の正確性等本件書面自体の類型的信憑性を高めるような特段の事情も全く窺われないところからすれば、本件クラッター領収証に法三二三条一号、二号所定の書面に匹敵する程度の高度の信用性の情況的保障を認めることはできず、到底これを同条三号所定の書面と解すべき余地はない。
3 してみれば、本件各領収証写については、検察官請求にかかる立証事項の趣旨を著しく逸脱しない範囲においてその立証趣旨を「領収ピース数、領収文言、作成日付が記載され、クラッターの署名が顕出されている書面の存在、形状及びその記載事項」と修正することにより、非供述証拠に転化して採用する他ないものと解すべきである。
従って、法三二三条三号所定の書面であることを前提としてその証拠能力を争う弁護人の主張(<児>七、<児補(二)>二、<小>二2(五))は、いずれもその前提を欠き、敢えて判断の要を見ない。
なお、H2のうち、一九七三年五月二四日付の領収証は、H6と全く同一の原本からとられた写であると認められるところ、H6はG3の書簡に添付されたものであって、H2とはその証拠方法としての形状を異にするものであるから、これらについては、それぞれ前記の立証趣旨の下に証拠として採用することとした。
八 ジョンソン・ストークス・アンド・マスター領収証(H9)
検察官はジョンソン・ストークス・アンド・マスター事務所作成名義の領収証について、同事務所がその業務に関し作成し証憑書類としてクラッターに交付したものであり、特に信用すべき状況の下に作成された書面であるとして、法三二三条三号所定の書面に該当する旨主張する(請求書)が、関係証拠によれば、右事務所が領収証作成をその通常の業務とするものではないことが明らかであるから、本件領収証もその記載が日常的、機械的に行われたものとは言い難いところ、右書面はそれ自体の性格上同条前二号に類する程度の信憑性を有するものとも認められず、またその具体的な作成経緯、状況等も明らかでないことよりすれば、論旨は肯認し難い。
更に、現実の作成者、作成状況が不明確であるところからして、法三二一条一項三号所定の書面としての要件を認められないことも明らかである。
そこで、本領収証については、その立証趣旨を「同事務所がブラウンリー社から一九七五年一一月一八日四二〇〇香港ドル、同月一九日一一四六香港ドルを各々受領した旨の記載がある書面の存在、形状及びその記載事項」と修正することにより、非供述証拠として採用することとする。
九 設立証書(I)
検察官は、本件設立証書は、香港の登記官シャム・フェの署名のあるブラウンリー社の設立を証明する文書であり、外国の公務員が職務上証明することができる事実につきその公務員が作成した書面に該当する旨主張する(請求書)ところ、関係証拠とりわけ法務省刑事局長作成名義の「外国公務員であること等の調査について(回答)」と題する書面によれば、本件設立証書は、検察官主張の如く、外国の公務員(香港政庁登記部副登記官)による公の証明文書であることが認められるから、法三二三条一号所定の書面に該当するものとして採用する。これに反する弁護人の主張(<児>九)は、証拠に照らし理由のないことが明らかである。
一〇 その他(F、G、J、K、L、M、O、P、Q、R)
1 検察官は、その余の通信文(F1ないし9)、書簡(G1ないし16)、特別総会通知案(K1)、第一回取締役会議録(K2)、名義株主契約書(L1ないし3)、被指名経営者契約書(M1ないし3)、遵守の証明書(O1ないし3)、小切手申請書(P1ないし3)、小切手(Q1ないし3)、送金通知状(R1ないし3)の各写について、いずれも立証事項との関連において非供述証拠である旨主張している(各請求書、<検(一)>二、四、<検(小)>五)のに対し、各弁護人は、これらの立証事項は、当該証拠の存在のみならずその記載内容をも包含しているから、各証拠はいずれも「証拠物中書面の意義が証拠となるもの」であって、非供述証拠ではないと主張している(<児>四1、一〇2、一一、<小>二2(四))。
2 各請求証拠は、その立証事項に鑑み、単にその存在、形状(記載事項からその意義を除いたものを含む。)のみならず、その記載の意義をも証拠としようとするものであるから、法三〇七条所定の「証拠物中書面の意義が証拠となるもの」に該当することは論をまたない。しかし、右は証拠調の方式の点からする証拠の分類に過ぎず、証拠物たる書面に該当するものがすべて供述証拠の性質を有するものと言えないことも明白である。すなわち、ひとしく書面の意義を証拠とする場合であっても、その記載内容の真実性を立証しようとするのではなく、真実性とは関わりなしにその記載の意義それ自体を立証趣旨とするものであるときは、当該書面を以って人の供述に代用しようとするものではないから、非供述証拠と解して妨げないのである。
3 かかる見地から各請求証拠の立証趣旨を検討するに、(ア)F1ないし3、5ないし7、10、G1ないし16、J1、2、K1、2及びQ1ないし3についての立証趣旨は、措辞やや不明瞭のものも存するが、いずれも各記載事項の存する書面の存在、形状及びその記載事項を証拠としようとするものであると解されるから、検察官主張のとおり、非供述証拠に該当するものと言うべきである。これに反し、(イ)F4、8、9、L1ないし3、M1ないし3、O1ないし3、P1ないし3及びR1ないし3についての立証趣旨は、結局各記載内容の真実性をも証拠としようとするものにほかならないから、供述証拠として伝聞法則の適用を免れない。そこで、これらを非供述証拠とする検察官の請求意図を善解し、別紙一覧表立証趣旨欄記載のとおりにその立証趣旨を補正することとして、その限度において非供述証拠と認めるのが相当である。
よって、各請求証拠は、いずれも非供述証拠としてこれを採用する。
なお、大刀川が本件各遵守の証明書(O1ないし3)に署名等をしたのは、これらの書面の各原本作成年月日にではない旨の弁護人の主張(<児>一〇2)は、立証趣旨を前記のように補正した以上、証明力に関する主張に帰することとなるから、その理由のないことは明らかである。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 半谷恭一 裁判官 松澤智 裁判官 井上弘通)
<以下省略>