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東京地方裁判所 昭和51年(特わ)11号 判決 1976年3月12日

本藉

東京都港区西麻布四丁目一七六番地

住居

同都同区西麻布四丁目一八番一一号

歯科医師

武井信

大正七年八月二二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官細田美知子出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役六月および罰金五〇〇万円に処する。

右罰金を完納できないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都中央区銀座三丁目八番一六号所在武井ビル二階において、武井歯科医院を経営し歯科医業を営む歯科医師であるが、自己の所得税を免れようと企て、二重帳簿を作成し、自由診療収入の大部分を除外して簿外で無記名の貸付信託を購入する等の方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和四七年分の実際総所得金額が一、七二〇万四、五一七円あつたのにかかわらず、昭和四八年三月一四日、東京都中央区新富二丁目六番一号所在の所轄京橋税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が三一七万七、五五五円でこれに対する所得税額が二二万六、二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により昭和四七年分の正規の所得税額六五六万八、〇〇〇円と右申告税額との差額六三四万一、八〇〇円を免れ(修正損益計算書および税額計算書は別紙(一)(四)のとおり)

第二  昭和四八年分の実際総所得金額が二、〇七九万二、八七七円あつたのにかかわらず、昭和四九年三月一五日、前記京橋税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が四七五万三、四五八円でこれに対する所得税額が四八万五、二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により昭和四八年分の正規の所得税額八三一万九、一〇〇円と右申告税額との差額七八三万三、九〇〇円を免れ(修正損益計算書および税額計算書は別紙(二)(四)のとおり)

第三  昭和四九年分の実際総所得金額が一、九八六万三三七円あつたのにかかわらず、昭和五〇年三月一四日、前記京橋税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が四五五万一、七一七円でこれに対する所得税額が二四万五、八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により昭和四九年分の正規の所得税額六六九万九、三〇〇円と右申告税額との差額六四五万三、五〇〇円を免れ(修正損益計算書および税額計算書は別紙(三)(四)のとおり)

たものである。

(証拠の標目)

判示全般の事実につき

一、被告人の検察官に対する供述調書

一、被告人の収税官吏に対する質問てん末書(五通)

一、押収してある自由診療ノート六冊(当庁昭和五一年押第四一六号の一)、金銭出納帳五冊(前同押号の二)、確定申告書三通(前同押号の三ないし五)

一、京橋税務署長作成の証明書

別紙記載の各科目につき

一、大蔵事務官作成の自由診療収入調査書(別紙(一)(二)(三)の各番号<1>売上金額につき)

一、大蔵事務官作成のたな卸金額調査書(別紙(一)(二)(三)の各番号<2>期首たな卸高、別紙(一)(二)(三)の各番号<4>期末たな卸高につき)

一、大蔵事務官作成の仕入金額調査書(別紙(一)(二)(三)の各番号<3>仕入金額につき)

一、大蔵事務官作成の公租公課調査書(別紙(一)の番号<5>、別紙(二)の番号<21>、別紙(三)の番号<19>各租税公課につき)

一、大蔵事務官作成の燃料費等調査書(別紙(一)の番号<20>、別紙(二)の番号<22>、別紙(三)の<20>各燃料費につき)

一、大蔵事務官作成の自動車取得等調査書および「什器、備品の減価償却費および期末残高」調査書(別紙(一)の番号<21>、別紙(二)の番号<23>、別紙(三)の番号<21>の各減価償却費につき)

一、大蔵事務官作成の雑収入調査書(別紙(一)の番号<23>、別紙(二)の番号<25>、別紙(三)の番号<23>の各雑収入につき)

一、大蔵事務官作成の給与および不動産収入調査書(別紙(一)の番号<29>、別紙(二)の番号<31>、別紙(三)の番号<31>の各不動産経費につき)

一、河原一夫作成の上申書(貸付金について)と題する書面(別紙(一)の番号<35>、別紙(二)の番号<37>の各貸付金利息につき)

一、河原一夫作成の上申書(自由診療分の診療実日数について)と題する書面および押収してある青色申告書類一綴(当庁昭和五一年押第四一六号の六)(別紙(三)の番号<27>措置法二六条差額につき)

(法令の適用)

一、該当罰条と刑種の選択

判示第一ないし第三の事実 所得税法二三八条(懲役刑、罰金刑併科)

一、併合罪加重 刑法四五条前段

懲役刑につき 刑法四七条本文一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に加重)

罰金刑につき 刑法四八条二項

一、換刑処分 罰金刑につき刑法一八条

一、執行猶予 懲役刑につき刑法二五条一項

(情状について)

被告人は老後の資金あるいは長男(日本大学歯学部在学中)の開業資金等を得たいと考え、主として自由診療収入を大部分正規の金銭出納帳に記帳せず、申告の際には自らが適当と考えた実際より少額の自由診療収入を設定し、これに見合うよう金銭出納帳に虚偽の記入をし、仮空の患者のカルテを作成するなどの方法を用いて、簿外資金を畜積し、おもに無記名の貸付信託に投資していたものである。その方法は必ずしも単純とは言えず、しかも三ケ年の合計ほ脱税額は二、〇六二万九、二〇〇円におよぶものが、他方本件摘発後は十分反省して調査にも積極的に協力し、三ケ年分の税額についても修正申告をして本税その他を納付済であることなど被告人に有利な諸般の情状をも考慮して主文のとおり量刑する。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 安原浩)

別紙(一)の(1) 修正損益計算書

武井信

自 昭和47年1月1日

至 昭和47年12月31日

<省略>

<省略>

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

武井信

自 昭和48年1月1日

至 昭和48年12月31日

<省略>

<省略>

<省略>

別紙(三) 修正損益計算書

武井信

自 昭和49年1月1日

至 昭和49年12月31日

<省略>

<省略>

<省略>

別紙(四)

税額計算書

武井信

<省略>

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