東京地方裁判所 昭和51年(特わ)1625号 判決 1986年8月27日
本店所在地
東京都中野区中野四丁目七番七号
鹿島商事株式会社
(右代表者取締役 鹿島成浩)
本籍
東京都杉並区西荻北三丁目一番地
住居
同都三鷹市井の頭五丁目八番三一号
会社役員
鹿島成浩
昭和一一年一月二七日生
右の者らに対する各法人税法違反、物品税法違反、関税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官上田勇夫出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
一 被告人鹿島商事株式会社を罰金四二〇〇万円に、被告人鹿島成浩を懲役一年六月にそれぞれ処する。
二 被告人鹿島成浩に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
三 訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
第一 被告人鹿島商事株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都中野区中野四丁目七番七号に本店を置き、貴石・美術品等の販売を営業目的とする資本金四八〇万円の株式会社であり、被告人鹿島成浩(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、期末商品たな卸高の圧縮、二重仕入の計上などの方法により所得を秘匿した上、
一 昭和四七年五月一日から同四八年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億四九四五万九一一七円であった(別紙<1>修正損益計算書参照)のにかかわらず、同四八年六月三〇日、東京都中野区中野四丁目九番一五号所在の所轄中野税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三四八〇万九一六三円でこれに対する法人税額が一二五二万九八〇七円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五六年押第一六八七号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右の事業年度における正規の法人税額五四六六万三六〇〇円と右申告税額との差額四二一三万三八〇〇円(別紙<3>法人税額計算書参照)を免れ、
二 昭和四八年五月一日から同四九年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億九四二三万五九五五円あった(別紙<2>修正損益計算書参照)のにかかわらず、同四九年七月一日、前記中野税務署において、同税務署に対し、その所得金額が八〇〇五万五三四八円でこれに対する法人税額が二九一五万七七一二円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五六年押第一六八七号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億七八六万八八〇〇円と右申告税額との差額七八七一万一一〇〇円(別紙<3>法人税額計算書参照)を免れ
第二 被告会社は、東京都中野区中野四丁目七番七号(昭和四八年三月三一日以前は同区大和町一丁目三一番二号)に販売場を置き、物品税法一条別表(課税物品表)記載の第一種の課税物品である貴石製品等の販売業を営んでいるものであり、被告人は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、
一 被告人は、鹿島商事会社の業務に関し、物品税を免れようと企て、昭和四七年七月、一二月、同四八年一月、七月、一一月、同四九年二月、三月、の各月において、同会社が右販売場で実際に小売販売した貴石製品等は、別紙<4>一覧表記載のとおりの数量(合計一一〇個)、小売販売金額(合計七五三二万二三〇〇円)、課税標準額(六五一六万七〇〇〇円)であったのにかかわらず、右一覧表申告日欄記載の日に、いずれも前記中野税務署において同税務署長に対し、右販売場において各月に小売販売された貴石製品等の課税標準額及びこれに対する物品税額はそれぞれ右一覧表記載の申告課税標準額、申告税額のとおりである旨の虚偽の物品税納税申告書を提出し、そのまま法廷納期限を徒過させ、もって不正の行為により、右一覧表記載のとおり、同会社の右各小売月における正規の物品税額合計一〇一四万四四〇〇円と右申告税額合計二七二万七五〇〇円との差額合計七四一万六九〇〇円を免れ
二 被告会社は、同社代表取締役鹿島成浩において、同会社の業務に関し、物品税を免れようと企て、昭和四九年二月、三月、の各月において、同会社が右販売場で実際に小売販売した貴石製品等は、別紙<4>一覧表記載のとおりの数量(合計四八個)、小売販売金額(合計四九七六万八四〇〇円)、課税標準額(四三二七万三〇〇〇円)であったのにかかわらず、右一覧表申告日欄記載の日に、いずれも前記中野税務署において、同税務署長に対し、右販売場において各月に小売販売された貴石製品等の課税標準額及びこれに対する物品税額はそれぞれ右一覧表記載の申告課税標準額、申告税額のとおりである旨の虚偽の物品税納税申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、右一覧表記載のとおり、同会社の右各小売月における正規の物品税額合計六四九万八〇〇円と右申告税額合計一七九万五六〇〇円との差額合計四六九万五二〇〇円を免れ
第三 被告会社は、東京都中野区中野四丁目七番七号に本店を置き、貴石製品・美術品等の輸出入及び国内販売等を営む株式会社であり、被告人は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括するかたわら、香港所在のクローバー・ジュエリー・カンパニーの会長及び同ゴールド・ライン・ジュエリー・カンパニーの社長として両者を支配しているものであるが、被告会社がクローバー・ジュエリー・カンパニーから絵画を輸入し、ゴールド・ライン・ジュエリー・カンパニーへ絵画を輸出するに当たり、右輸出入した絵画は、被告会社の従業員が有名画家の絵画を模写するなどして製作した商品価値のないものであったのにかかわらず、被告会社の業務に関し、
一 別紙<5>輸出入申告一覧表輸出欄記載のとおり、昭和四九年四月四日から同五一年四月一六日までの間前後二六回にわたり、通関業者である株式会社阪急交通社を介して、東京都港区港南五丁目五番三〇号所在の東京税関において、同税関長に対し輸出申告するに際し、右一覧表品名欄、インボイス価格欄記載のような有名画家の真正作品を輸出する旨の虚偽のインボイスを提出するとともに、申告価格の合計が一二億三四五八万五五九一円である旨の虚偽の申告をし
二 右一覧表輸入欄記載のとおり、昭和五一年六月一日、二回にわたり、前記株式会社阪急交通社を介して、千葉県市川市原木二五二六番地の四所在の東京税関東京航空貨物出張所において、同出張所長に対し輸入申告するに際し、右一覧表品名欄、インボイス価格欄記載のような有名画家の真正作品を輸入する旨の虚偽のインボイスを提出するとともに、申告価格の合計が九六八二万五六〇八円である旨の虚偽の申告をし
たものである。
(証拠の標目)
なお、例えば、「甲一・1」は、検察官請求証拠目録(甲一)記載の請求番号1を、「甲二・43」は、検察官請求証拠目録(甲二)記載の請求番号43を、「符117」は、昭和五六年押第一六八七号の符号117を意味する。
判示全部の事実につき
一、公判調書(第五七回ないし第六〇回)中の被告人の供述部分
一、被告人の収税官吏に対する質問てん末書五通
一、公判調書中の証人小田切英明(第一六回、第一七回)及び同山下玲子(第二四回、第三一回)の各供述部分
一、小田切英明の検察官に対する供述調書(昭和五一年五月一〇日付)
一、登記官作成の登記簿謄本(昭和五一年一月一六日付)(甲一・1)
判示第一の一及び二並びに判示第二の一及び二の各事実につき
一、公判調書中の証人広瀬徳子(第三四回)、同芝岡登(第四九回)及び同木村浩一路(第五〇回)の各供述部分
一、証人野呂晶子及び同菊池健に対する当裁判所の各尋問調書
一、山田裕保及び小泉明作成の各供述書(甲一・63及び69)
一、登記官作成の閉鎖登記簿謄本(昭和五一年八月一一日付)二通(甲一・3及び4)
一、押収してある仕入台帳四綴(甲二・32、符106)、売上帳一綴(甲二・35、符109)、小売伝票(免税)一綴(甲二・43、符117)、水戸小売資料一袋(甲二・45、符119)、売上報告六綴(甲二・46ないし50及び247、符120ないし124及び186)、売上入金帳一綴(甲二・51、符125)、棚卸表(48・4・30現在)一袋(甲二・67、符141)、棚卸表(昭和四八年)一袋(甲二・68、符142)
判示第一の一及び二並びに判示第三の一及び二の各事実につき
一、公判調書中の証人皆木久美子(第二六回、第二八回)、同萩原真由美(第二七回)、同横山和夫(第三〇回)、同濱島透(第三三回)、同増田敬子(第三五回)及び同徳大寺公英(第三七回)の各供述部分
一、証人岸本志保子及び同栗田久美子に対する当裁判所の各尋問調書
一、岸本志保子(昭和五一年六月二〇日付)、萩原真由美(昭和五一年五月二〇日付)、増田敬子(昭和五一年六月一六日付)、栗田久美子(昭和五一年五月一二日付)の検察官に対する各供述調書
一、 徳大寺公英作成の絵画鑑定書(甲一・80)
一、 押収してある報告書写等一袋(甲二・54、符128)、輸出商品台帳一綴(甲二・55・符129)、輸入商品台帳一綴(甲二・56、符130)、香港インボイス等一綴(甲二・111、符183)、インボイス写等一綴(甲二・112、符184)、輸出関係書類一綴(甲二・170、符67)及び輸出絵画一覧表一冊(甲二・248、符187)
判示第一の一及び二の各事実につき
一、 公判調書中の証人政田左衛子(第一八回、第一九回、第五一回、第五二回)、同花田美代子(第二〇回、第二一回)、同杉浦勝(第二二回、第二三回)、同笠井信雄(第二二回、第二三回)、同内村貴子(第二七回)、同三木雄介(第三二回)、同広瀬一隆(第三三回)、同前島学(第三四回)、同吉田篤子(第三六回)、同松尾隆雄(第三八回)、同関道子(第三九回)、同高野光司(第三九回)、同尼ヶ崎彬(第四二回)及び同倉田武俊( 第五四回)の各供述部分
一、 政田左衛子(昭和五一年五月一五日付)、宇都木貴子(昭和五一年五月二九日付)の検察官に対する各供述調書
一、 三木雄介作成の「鹿島物産(株)及び鹿島商事(株)との取引について」と題する書面(甲一・68)
一、 高野光司作成の上申書(甲一・71)
一、 杉並都税事務所萩原秀雄作成の回答書(「法人の事業税及び都民税の納付状況照会に対する回答」と題する書面)(甲一・110)
一、 中野税務署長作成の「法人税歴表の写について」と題する書面(甲一・116)
一、 中野税務署長作成の証明書(甲一・117)
一、 登記官作成の登記簿謄本(昭和五一年八月二日付)(甲一・5)
一、 押収してある法人税確定申告書三綴(甲二・1、2及び5、符1、2及び5)、総勘定元帳三綴(甲二・3、4及び6、符3、4及び6)、法人税確定申告書控等二綴(甲二・7、符7)、法人税決議書一綴(甲二・8、符8)、税金関係書類一綴(甲二・9、符9)、会計伝票(48年4月期)一二袋(甲二・10、符84)、振替伝票(49年4月期)一三綴(甲二・11、符85)、振替伝票(50年4月期)一四綴(甲二・12、符86)、入出金伝票(49年4月期)一二綴(甲二・13、符87)、入金伝票チェックノート48年度一冊(甲二・14、符88)、決算修正伝票一綴(甲二・15、符89)、決算資料等二袋(甲二・16及び17、符90及び91)、精算表等二袋(甲二・18及び19、符92及び93)、手形受払帳二冊(甲二・20及び21、符94及び95)、銀行勘定帳二綴(甲二・22及び23、符96及び97)、金銭出納帳三綴(甲二・24ないし26、符98ないし100)、仕入帳五綴(甲二・27ないし31、符101ないし105)、売上帳四綴(甲二・33、34、36及び37、符107、108、110及び111)、売上報告五綴(甲二・38、符112)、売上報告一袋(甲二・39、符113)、売上報告書等一綴(甲二・40、符114)、売上報告二綴(甲二・41、符115)、小売伝票二綴(甲二・42、符116)、小売伝票(課税)一綴(甲二・44、符118)、輸出関係書類一綴(甲二・57、符131)、輸入関係書類三綴(甲二・58、符132)、輸出入関係書類一綴(甲二・59、符133)、絵画関係書類一綴(甲二・60、符134)、絵画買付精算メモ書一袋(甲二・61、符135)、四八年四月棚卸表一綴(甲二・62、符136)、棚卸表一綴(甲二・63、符137)、棚卸表(四七年)一袋(甲二・64、符138)、棚卸表(47・4・30現在)一袋(甲二・65、符139)、棚卸表写二袋(甲二・66、符140)、棚卸関係書類一綴(甲二・69、符143)、棚卸表等一袋(甲二・70、符144)、棚卸表写等一袋(甲二・71、符145)、棚卸表一綴(甲二・72、符146)、棚卸表一袋(甲二・73、符147)、49年度在庫(絵画)一冊(甲二・74、符148)、絵画在庫台帳一冊(甲二・75、符149)、絵画台帳二綴(甲二・76及び77、符150及び151)、絵画元帳一綴(甲二・78、符152)、委託絵画一覧一冊(甲二・79、符153)、絵画関係書類一袋(甲二・80、符154)、貴石画台帳一綴(甲二・81、符155)、日本陶器台帳一綴(甲二・82、符156)、ペルシャ陶器台帳一綴(甲二・83、符157)、ペルシャ陶器棚卸表等一綴(甲二・84、符158)、商品管理ノート一袋(甲二・85、符159)、商品管理表綴二綴(甲二・86、符160)、商品管理カード一四袋(甲二・87ないし100、符161ないし174)、納品書等一綴(甲二・101、符175)、重要書類および覚書一綴(甲二・102、符176)、報告書(一九七二・一二・五付)一綴(甲二・103、符177)、出勤簿(47年度)一綴(甲二・104、符178)、出勤簿一綴(甲二・105、符179)、及び経理メモ(五枚綴)一綴(甲二・249、符188)
判示第二の一及び二の各事実につき
一、 証人平山洋子、同上野忠、同小澤みさを及び同佐川藤太に対する当裁判所の各尋問調書(殊に別紙<4>一覧表番号4の事実につき)
一、 富士銀行高円寺支店支店長作成の確認書(甲一・61)
一、 検察事務官作成の捜査報告書(甲一・62)
一、 石川雅勝及び長見俊彦作成の各写真撮影報告書(甲一・64及び70)
一、 中野税務署長作成の物品税納税申告書(一九通)、同修正申告書(一通)、物品税加算税賦課決定決議書(二通)の謄本(なお、物品税調査せんの謄本を除く。)(甲一・121)、
一、 中野税務署長作成の物品税小売業開始申告書等謄本(甲一・122)、
一、 押収してある小売売上帳一綴(甲二・52、符126)、小売伝票一綴(甲二・53、符127)、領収書三五枚(甲二・107、符83)、メモ二枚(甲二・108、符180)、メモノート一冊(甲二・109、符181)、物品税第一種物品税免税引取業者証明書交付申請書綴一綴(甲二・110、符182)、及び名刺一枚(甲二・250、符189)
判示第三の一及び二の各事実につき
一、公判調書中の証人横井道雄(第二九回)及び同中山正信(第二九回)の各供述部分
一、登記官作成の閉鎖登記簿(役員欄)謄本(昭和五二年五月二日付)(甲一・2)
一、株式会社埼玉銀行中野支店作成の「捜査関係事項照会について(回答)」と題する書面三通(甲一・124ないし126)
一、検察事務官作成の写真撮影報告書(甲一・127)
一、押収してある輸出申告書二六枚及びインボイス五三枚(甲二・113ないし164、符10ないし61)、輸入申告書六枚、インボイス四枚及び内容品説明書四枚(甲二・241ないし246、符76ないし81)、古美術品輸出鑑査証明書一二冊(甲二・165ないし169、172ないし177及び179、符62ないし66、69ないし74及び82)、輸出関係書類二綴(甲二・171及び178、符68及び75)、売上台帳一三枚(甲二・180、符185)
一、油絵六〇点(甲二・181ないし240)
(争点に対する判断)
第一公訴棄却の申立について
弁護人は、本件法人税法違反の訴因は、法人税法一五九条一項所定の偽りその他不正の行為に該当する被告人の行為として、単に期末商品たな卸高の圧縮、二重仕入の計上を掲げるのみで極めて抽象的であり、その行為についての具体的摘示を欠くので訴因として不特定であり、仮に検察官の釈明や冒頭陳述によって訴因の不特定性が補完しうるとしても本件では検察官の釈明や冒頭陳述によっても訴因の特定を欠くので本件公訴提起は違法かつ無効であり、公訴は棄却されるべきであると主張する。
そこで検討するに、本件訴因のうち、偽りその他不正行為に関する部分をみると、その内容は、「被告人鹿島は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、期末商品たな卸高の圧縮、二重仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、(中略)虚偽の法人税確定申告書を提出し」というものであり、期末商品たな卸高の圧縮、二重仕入の計上などの所得秘匿の具体的内容が訴因自体において特定されていないことは所論のとおりである。
ところで、いわゆる過少申告ほ脱犯において、脱税の意図をもってする税務署長に対する虚偽過少申告行為がほ脱犯の実行行為に該当することは明らかであるが、虚偽過少申告の前提として通常行われる事前の所得秘匿行為も虚偽過少申告と共に罪となるべき事実を構成するのか、又は事前の所得秘匿行為は対内的な準備行為に過ぎず、罪となるべき事実を構成しないのかについては見解の分れるところであるが、たとえ、事前の所得秘匿行為が虚偽過少申告とともに罪となるべき事実に含まれると考えても、右所得秘匿行為の内容は実行行為たる虚偽過少申告行為の内容となるものであるから、右のような関係にあるほ脱犯の訴因の特定方法としては、租税ほ脱の結果に対する最も直接的な手段となる虚偽過少申告行為が、日時、場所及び方法をもって具体的に特定されている限り、その申告行為の内容となる事前の所得秘匿行為については、必ずしも具体的な秘匿行為の日時、場所、金額、方法等を明示する必要はないものというべきである。
本件においては、起訴状記載の訴因において、虚偽過少申告行為の内容が、日時、場所及び方法をもって具体的に記載されており、しかも、事前行為としての所得秘匿行為のうち、重要なものとして期末商品たな卸高の圧縮、二重仕入の計上の行為が掲げられているのであるから、他の事実との識別は十分であり、訴因の記載としてはこれで特定されているということができる。のみならず、検察官は、各勘定科目ごとの実際金額と公表金額との増差額及びその原因等を冒頭陳述において明らかにしており、被告人らの防禦権の保障に欠けるところはない。
以上のとおり、本件訴因(変更後の訴因についても)は、刑訴法二五六条三項に違反するものではなく、したがって本件公訴提起は適法かつ有効なものであるから所論は採用できない。
第二法人税違反事件について
一 被告会社とクローバー・ジュエリー株式会社及びゴールド・ライン・ジュエリー株式会社との関係について
公判調書(第五七回ないし第六〇回)中の被告人の供述部分、被告人の収税官吏に対する各質問てん末書、公判調書中の証人皆木久美子(第二六回及び第二八回)、同萩原真由美(第二七回)、同増田敬子(第三五回)及び同小田切英明(第一六回及び第一七回)の各供述部分、証人栗田久美子、及び同岸本志保子に対する当裁判所の各尋問調書、岸本志保子、萩原真由美、増田敬子、栗田久美子及び小田切英明の検察官に対する各供述調書、報告書写等一袋(甲二・54、符128)などによれば、本件各犯行当時、被告人及び被告会社の関係する会社として、香港に、クローバー・ジュエリー株式会社(以下「クローバー社」という。)とゴールド・ライン・ジュエリー株式会社(以下「ゴールド・ライン社」という。)の二社があったこと、クローバー社は、一九七二年(昭和四七年)二月二三日に、被告会社が資本金の全額を出資して設立された資本金一万八〇〇〇香港ドルの会社であり、ゴールド・ライン社は、同年五月二三日に、ルク・シン・ファン(香港の市民権を有する被告人の現地名)が資本金の全額を出資して設立された資本金一〇〇万香港ドルの会社であるが、両会社とも被告人(ゴールド・ライン社はルク・シン・ファンこと被告人)がチェアマン、被告人の実母、妻あるいは被告会社の従業員がダイレクターとなっており、いずれも貴石の輸出入などを営業目的としていたこと、そして、クローバー社とゴールド・ライン社(以下両社を「香港法人」ともいう。)は、香港におけるいわゆる二LDKタイプのマンションの一室を事務所として共同で使用していたが、いずれも固有の事務員はおらず、香港法人の業務のために、入社後間もない被告会社の女子従業員二、三人が数カ月交替で香港に出張していたこと、しかし、右女子従業員らは、現地における貴石の仕入等の業務を行うものではなく、被告会社及び被告人からの指示、命令に基づいて輸出入業務等の日常事務に携っていたもので、ゴールド・ライン社の仕入れた貴石等の商品は、全てクローバー社に転売された上で、被告会社に輸出されていたことの各事実が認められる。
以上のとおり、香港法人二社は、人的、組織的あるいは資金的に完全に被告会社ひいては被告人の支配下に置かれていたものであり、この点については、弁護人もこれを争わないが、弁護人は、香港法人を介在させたことにより被告会社は、仕入額を過大計上したことはないと主張し、被告人もこれに沿う供述をしている。
しかし、被告会社と香港法人の日常事務に携わっていた被告会社の従業員との間で取り交された事務上の指示、連絡文書のファイルと認められる報告書写等一袋(甲二・54、符128)中のケイコ・ウサミ作成名義の書面には、クローバー社とゴールド・ライン社の存在理由について、との表題の下に、「一〇〇円のものを買ったとして、日本でそれを五〇〇円で売ると四〇〇円もの粗利が出て日本ではばくだいな税金を支払わなくてはならないが、被告会社が香港法人から四〇〇円で買うことにすると、粗利が一〇〇円ですむことになり、他方香港法人に三〇〇円たまることになるが、香港は税金が安いので好都合である」旨香港法人の存在理由についての具体例をあげた上で、「クローバー社だけだったならば、香港で架空の仕入先を立てて香港の税金を節税しても、クローバー社は被告会社の子会社であるから、日本の日銀、大蔵省、通産省、国税庁の干渉、調査が及ぶので、被告会社やクローバー社と資本的にも人事的にも表面上は関係のない、したがって日本政府の介入する余地のないゴールド・ライン社を介在させる」旨説明し、さらに、香港法人から被告会社に対する報告書は、クローバー社関係のことのみを書いた表面的なものと、ゴールド・ライン社を中心とした、すべての裏操作に関するものに分けること、香港の事務所における書類も、クローバー社のものとゴールド・ライン社のものとを別個の会社のものとして区分整理し、後者の書類、東京との通信文は即座に処分できるようにしておくことなどの指示が発せられていることが認められるのであって、以上の事実に前掲各証拠をも総合すれば、被告人又は被告会社の従業員らが、被告会社の商品仕入のために海外で買い付けた貴石等は、香港に送られ、ゴールド・ライン社が架空の仕入先から仕入れた処理をした上で書類上形式的にクローバー社に転売され、クローバー社が被告会社へ輸出していたものであるが、このように被告会社が、海外から商品を輸入するに当たって香港法人を介在させていたのは、被告会社の商品仕入価額を増額させることによって被告会社の利益の減少を図るという税務上の対策からであったことが認められる。(もっとも、本件においては、ゴールド・ライン社における貴石仕入の実際額を明確にする証拠は蒐集されておらず、香港における利益の行方についても解明されていない。)また、香港法人は、後記のとおり、模写絵の輸出入を利用することによって、被告会社が銀行融資を得たのと同様の資金調達を実現する手段として利用されていたことが認められる。
なお、国内には、被告会社の関係する会社として鹿島物産株式会社(以下「鹿島物産」という。)がある。同社は、昭和四五年一二月一二日に被告会社と本店所在地を同じくして設立された貴石、絵画等の輸出入、販売等を営業目的とする資本金一〇〇〇万円の会社であり、同社の代表取締役は被告人の妻であるが、被告人も取締役に名を連ねており、香港法人を利用して被告会社が模写絵を輸入した際、クローバー社と被告会社との間に介在するなどしている。
二 売上高(昭和四九年四月期)について
検察官は、被告会社の昭和四九年四月期における公表売上高一七億二二〇七万四八六四円のうち絵画等の架空売上分と貴石の売上除外分を差引きした二億九六九八万七七二一円が過大計上となると主張し、弁護人は、右架空売上分について架空であることを争うものではないが、これに対応する仕入計上分の控除が必要であり、画廊売上名目で貴石の売上除外があったとする分は、現実の入金がないか、又はあったとしてもいまだ売上前の預り金にすぎない等と主張する。
当裁判所の認定した被告会社の昭和四九年四月期における売上高の当期増減金額及びその内訳は次表のとおりである。
(売上高当期増減金額内訳表)
<省略>
1 前受輸出等(架空売上)について
関係証拠によれば、被告会社は、昭和四九年四月期中に香港法人との間で、主に絵画を対象として、前受輸出等(インボイスK1及びK2については、L/C付手形の一覧払決済による輸出である。)を行っていた。なお、前受輸出とは、貨物の輸出申告日の一定期間前に輸入者から輸出貨物代金(前受金)の支払を受ける方法により決済をする輸出の形態を意味するものである。
昭和四九年四月期中の香港法人に対する前受輸出等の公表売上処理の状況は、輸出関係書類一綴(甲二・57、符131)、振替伝票(49年4月期)一三綴(甲二・11、符85)、輸出関係書類一綴(甲二・170、符67)、輸出商品台帳一綴(甲二・55、符129)、銀行勘定帳一綴(甲二・23、符97)などによれば、次表のとおりである。
<省略>
輸出関係書類一綴(甲二・57、符131)、輸出関係書類一綴(甲二・170、符67)、輸出商品台帳一綴(甲二・55、符129)、輸出関係書類三綴(甲二・58、符132)、四九年度在庫(絵画)一冊(甲二・74、符148)、絵画在庫台帳一冊(甲二・75、符149)、絵画台帳一綴(甲二・77、符151)、仕入帳三綴(甲二・27ないし29、符101ないし103)などによって、前受輸出等の対象となった絵画の仕入状況、輸入・再輸出の状況、いわゆる「C絵画」としての存在の有無等を検討すると、
(ア) 香港法人へ輸出された後、間もなく被告会社に輸入され、その後再び香港法人へ輸出されているが、それにもかかわらず「C絵画」として被告会社の在庫中にあると認められるものがある、
(イ) 香港法人へ輸出する以前に、被告会社が当該絵画を仕入れたり、被告会社の在庫中に当該絵画が存在した形跡が全く認められないものがある、
(ウ) 被告会社の在庫中に存在していた絵画と同一題名の絵画が香港法人から輸入され、その後また香港法人へ輸出されたものがある、
など、いずれの絵画についても極めて不自然な事実が認められる。
被告人は、当公判廷において、香港法人との間の前受輸出等につき、対象となった絵画は、インボイスのk1及びk2を除き、いずれも本物の絵画ではなく、被告会社の従業員が製作した商品価値のない模写絵であり、右取引は、いわゆる輸入ユーザンスを利用した被告会社の資金調達を目的としたものであることを認めている。すなわち、香港法人からまず模写絵を輸入し、その輸入代金については外国為替銀行からの輸入ユーザンスによって決済した上、香港法人に支払われた資金を被告会社から香港法人に対する模写絵の輸入代金の名目で後日被告会社に導入し、前記輸入金融の支払い期限までの間被告会社の資金として運用するという操作を繰り返すことにより、銀行融資を受けることが難しかった当時の状況下において、香港法人との間の輸出入を利用する方法によって実質上銀行融資を得たのと同様の資金調達を実現させていたものである旨を供述し、香港法人との間の前受輸出による売上が架空であることを認めている。
以上の事実については、証人岸本志保子及び同栗田久美子に対する当裁判所の各尋問調書、公判調書中の証人萩原真由美(第二七回)、同増田敬子(第三五回)及び同山下玲子(第二四回及び第三一回)の各供述部分、岸本志保子、栗田久美子、萩原真由美及び増田敬子の検察官に対する各供述調書、報告書写等一袋(甲二・54、符128)中のケイコ・ウサミ作成名義の書面、重要書類および覚書一綴(甲二・102、符176)などによっても裏付けられる。
ところで、インボイスk1及びk2の絵画について、被告人は、輸出の対象となったのは本物の絵画である旨主張するが、公判調書(第二四回及び第三一回)中の証人の山下玲子の供述部分、栗田久美子の検察官に対する供述調書、輸出絵画一覧表一冊(甲二・248、符187)、などによれば、右k1及びk2で輸出の対象となった絵画も模写絵ではなかったかとの疑いが存するのであるが、仮に被告人の主張するとおり右の場合には本物の絵画が輸出の対象となっていたとしても、右k1及びk2に係る輸出も前記のとおりの資金調達を目的としたものであること自体は争いのないところであり、しかも輸出の対象となったそれらの絵画も同一の事業年度内にインボイスkS22及びkS24によって香港法人から被告会社に戻っているのであるから、右k1及びk2に係る輸出の売り上げが架空であるとの認定を左右するものではない。
以上のほか前認定の香港法人の性格、業務内容及び被告会社との取引形態を総合すれば被告会社が昭和四九年四月期において、香港法人に対し前記各インボイスに対応する前受輸出等を行ったものとして公表売上に計上した金額は、絵画輸出を内容とするものはもちろん、その余の分を含めて売上としては架空であると認められる。
2 画廊売上(絵画等美術品の架空売上及び貴石等の売上除外)ついて
検察官は、被告会社において昭和四九年四月期に画廊売上ないし小売として絵画等美術品の売上を公表し、その入金の事実が認められるのは、検察官作成の昭和五八年七月二八日付証拠説明書(以下単に「証拠説明書」という。)添付の別表<3>ないし<7>と証拠説明書本文中における「不明分」のとおりであり、その合計は次表のとおり一億三一九九万円であると主張する。
<省略>
そして、小売伝票二綴(甲二・42、符116)、小売伝票(免税)一綴(甲二・43、符117)、入出金伝票(49年4月期)一二綴(甲二・13、符87)、振替伝票(49年4月期)一三綴(甲二・11、符85)、銀行勘定帳一綴(甲二・23、符97)、金銭出納帳一綴(甲二・26、符100)、絵画台帳一綴(甲二・77、符151)、ペルシャ陶器台帳一綴(甲二・83、符157)、日本陶器台帳一綴(甲二・82、符156)、などによれば、検察官主張どおりの絵画等美術品の画廊売上ないし小売の事実(売上の公表処理及びこれに対応する入金の事実)が認められる。
なお、弁護人は、インボイスks25ないしks27でクローバー社から輸入された浅井忠「少女」などの絵画(証拠説明書添付の別表<4>の絵画)が模写絵であること、被告会社にはこれらの本物の絵画が存在してはいなかったこと、右輸入後これら模写絵について画廊売上がたてられていることについては争わないが、この画廊売上に対応する入金の事実はないと主張するが、入出金伝票(49年4月期)一二綴(甲二・13、符87)、銀行勘定帳一綴(甲二・23、符97)、金銭出納帳一綴(甲二・26、符100)、などによれば、右画廊売上に対応する入金の事実が明らかに認められる。
検察官は、前記表の1ないし4(証拠説明書添付の別表<3>ないし<5>及び「不明分」)については、売上の対象となっている当該商品についてみるとその売上は架空であるが、真実は貴石等の売上を絵画等美術品の売上に仮装したものであり、その金額は一億一九四二万六〇〇〇円である、また、前記表の5及び6(証拠説明書添付の別表<6>及び<7>)については、当該商品についての売上が真実であると認められるか又は売上が架空であると認めるに足りる証拠のないものである、と主張する(前記表の適用欄参照)。
前記表の1ないし4(証拠説明書添付の別表<3>ないし<5>及び「不明分」)については、売上の対象となっている当該商品についてみるとその売上が架空であることは弁護人も争わず、また関係証拠によっても認められるところである。問題となるのは、真実は貴石等の売上であるものについてこれを絵画等美術品の売り上げに仮装したものであるか否かであるが、前記のとおり、売上に対応する入金の事実が認められることから、被告会社の事業内容を考慮すれば、絵画等美術品の画廊売上ないし小売としての売上は、当該商品についてみるとその売上は架空であるが、被告会社はその保有する貴石等の商品の売上を仮装処理していたのではないかと一応考えられるところ、証拠説明書添付の別表<3>中の浅井忠「歯簿式典図画稿」の(1)、(2)の二点の絵画については、入出金伝票(49年4月期)一二綴(甲二・13、符87)、金銭出納帳一綴(甲二・26、符100)、売上報告書等一綴(甲二・40、符114)、売上入金帳一綴(甲二・51、符125)などによれば、被告会社の従業員小田切英明が販売し、入金したこととなっているが、公判調書(第一六回及び第一七回)中の証人小田切英明の供述部分、小田切英明の検察官に対する供述調書によれば、小田切は、被告会社において専ら貴石等の販売に従事し、少なくとも右絵画の販売には従事していないこと、また、前記別表<3>中の浅井忠「ぶどう静物」、「朝鮮街頭風景」の二点の絵画についても、これらの売上の入金として処理されている六〇〇万円は、公判調書(第三四回)中の証人広瀬徳子の供述部分、富士銀行高円寺支店長作成の確認書(甲一・61)、検察事務官作成の捜査報告書(甲一・62)、小売伝票(免税)一綴(甲二・43、符117)、小売伝票(課税)一綴(甲二・44、符118)、入出金伝票(49年4月期)一二綴(甲二・13、符87)、銀行勘定帳一綴(甲二・23、符97)などの証拠によれば、広瀬徳子に対して販売されたブルーサファイアの代金として同人から振り出された小切手に関する入金であり、被告会社からの取立依頼により被告会社の当座預金口座に入金されたものであるが、被告会社では、この六〇〇万円を前記二点の絵画の売上として処理していること(右サファイアの販売が被告会社の小売であるか否かについては、後記のとおり争いがある。)さらに、前記別表<3>中の浅井忠「湖畔の富士(一)」については、後記のとおり一六一〇万六〇〇〇円で売上げた旨の処理をし、四〇〇万円の入金の事実が認められるところ、この四〇〇万円について、被告人も、預り金であると主張しながらも、貴石等の販売に係る入金を絵画の売上に仮装したことを認めていることなどからも裏付けられる。
そして、弁護人も、前記表の1(証拠説明書添付の別表<3>)のC絵画の売上について、これが絵画の売上としては架空であることは争わないが、この売上は、顧客から預託された将来貴石の販売代金に充当されるべき前渡金の入金であり、被告会社がこの前渡金の入金を画廊での絵画の売上に振替えたものである、このような場合には、本来は預り金として処理するのが正しい経理と言えるが、「預り金とした場合には、預託の主体である顧客の氏名を明示せねばならず、それは営業上の支障を招く」旨の被告人の供述には十分信用性が認められるべきであり、C絵画の売上に対応する入金は預り金と認めるのが合理的である(前記表の3(証拠説明書添付の別表<5>)の陶器の売上もこれと同様である。)、仮に、右の画廊売上に対応する入金が貴石等の売上であるとするならば、売上の対象となった貴石等は被告会社の期末のたな卸から排除しなければ筋が通らない、と主張する。
しかし、預り金であるとの主張は、被告会社に対する顧客からの前渡金の預託という内容からも明らかなとおり、被告会社の小売に係る貴石等の販売についてのものであるが、たな卸資産の販売については、分割払いによるものであったとしても売買契約の成立の時にその商品が顧客に引き渡されるのが通常であると考えられるところ、公判調書(第一六回)中の証人小田切英明の供述部分、小田切英明の検察官に対する供述調書によれば、被告会社では、その貴石等を販売した場合に、買主に直ちにそれを引き渡す場合もあるが、サイズ直しのため預って後日引き渡す場合もあり、預っている場合にも買主の買う旨の意思表示があった場合には、販売員が口頭又は電話で直ちに被告会社に売上として報告していると認められる上、証人平山洋子及び同上野忠に対する当裁判所の各尋問調書によれば、被告会社では、貴石等が分割払いによる販売となった場合でも直ちに商品を引き渡していると認められる。しかも、前記のとおり、広瀬徳子に対して販売されたブルーサファイアの代金については、総額が入金されているにもかかわらず、被告会社ではこの入金を浅井忠の絵画二点の画廊売上に仮装しているのである。
被告人は、貴石代金総額の入金時には、新たに貴石の売上を計上するとともに、(架空の)画廊売上の対象となったため簿外化していた絵画について返品等の処理をしていわゆる「表商品」に戻す旨弁解するが、仮に、被告会社における画廊売上がそのような内容のものであるとすれば、公表経理とは別に、被告会社の内部処理上どの貴石の代金の一部に対応するものかを明確にする必要が生ずると考えられるところ、被告会社においてそのような処理をした形跡は認められない。のみならず、被告会社においては、昭和四八年四月期の事業年度においてはC絵画の売上は全く行われていなかったところ、C絵画の売上と入金状況をみると、昭和四八年六月から同四九年四月にかけて集中的に行われており、個々のC絵画等の売上金額、売上日、入金日の関係をみると、被告会社の小売に係る貴石の前渡金、割賦代金ないし預り金のごときものとは到底考えられない。そして、被告人は、収税官吏に対する昭和五〇年一〇月二〇日付質問てん末書において、投資向けで買う顧客の名前を出せないのでこのような処理をした旨供述している。そうすると、被告会社においては、貴石等の売上の一部をC絵画の売上に仮装して計上したものと認むべく、その理由は、顧客の名前を秘匿することのほか、被告会社の伝票上、非課税物品である絵画売上として処理することにより物品税の負担を軽減するためでもあったものというべきである。
また、弁護人の後段の主張に関し、売上の対象となった貴石等が期末たな卸に計上されているか否かを検討すると、画廊売上分に係る貴石等は、個々の入金状況に照らしても相当の高額商品であり、絵画等美術品の売上として計上している以上、当該売上に係る貴石等が期末たな卸に混入すればかなり大幅な利益が出でしまうことになるから、経営者としては混入を極力さけるべきは当然のところ、被告人は、前記質問てん末書において、従業員に対し、会社が保管している顧客の在庫を区分するよう指示した旨供述しているのであり、公判調書中の証人政田左衛子(第一八回及び第一九回)及び同花田美代子(第二〇回及び第二一回)の各供述部分などにより認められる被告会社の商品管理の状況及び期末たな卸の方法、すなわち、被告会社では、商品一個ごとに商品番号を付し、管理カードによって厳重に管理していたこと、商品管理部員らが実地たな卸表を作成するにあたっては、商品管理部で現実に保管、管理を行っている商品を確認するほか、営業部員が販売の目的のために社外に持ち出しているものについては、持ち出しの際作成する搬入伝票等に基づいて在庫の確認を行い、加工に出しているとか委託販売に出している商品については、相手先に照会して在庫の確認をしていたことに徴し、画廊売上分に係る貴石等は商品管理部の在庫管理の対象から除外されることになるから、これが期末たな卸に計上されることはないと認められる。
3 山本義雄に対する売上「湖畔の富士(一)」の架空売上及び貴石等の売上除外)について
検察官は、被告会社は、浅井忠(「湖畔の富士(一)」を一六一〇万六〇〇〇円で山本義雄なる人物に売上げ、その代金中一二一〇万六〇〇〇円を右山本からの貴石(八九本)の仕入代金と相殺し残金四〇〇万円については現金で入金された形の公表処理をしているが、「湖畔の富士(一)」の売上は、架空売上であるから、現金入金分四〇〇万円については前記画廊売上のC絵画分の架空売上の一部として取り扱い、貴石仕入との相殺分一二一〇万六〇〇〇円のみを山本義雄に対する架空売上と認定する。と主張する。
そこで検討すると、入出金伝票(49年4月期)一二綴(甲二・13、符87)、金銭出納帳一綴(甲二・26、符100)、銀行勘定帳一綴(甲二・23、符97)、売上報告書一綴(甲二・40、符114)、小売伝票(免税)一綴(甲二・43、符117)、仕入帳一綴(甲二・29、符103)、絵画台帳一綴(甲二・77、符151)、49年度在庫(絵画)一冊(甲二・74、符148)、などによれば、小売伝票(免税)(甲二・43、符117)中に浅井忠「湖畔の富士(一)」を昭和四八年一一月六日、代金一六一〇万六〇〇〇円で小売したことを示す、いわゆる「上様伝票」が存在すること、入金伝票(甲二・13、符87)には、昭和四八年一〇月三一日に、一六一〇万六〇〇〇円の売上に対応する現金入金があったことを示す記載があること、出金伝票(甲二・13、符87)、金銭出納帳(甲二・26、符100)及び仕入帳(甲二・29、符103)には、昭和四八年一〇月三一日に、山本義雄なる人物から貴石(八九本)を一二一〇万六〇〇〇円で仕入れたことを示す記載があること。売上報告書(甲二・40、符114)のファイルメモ中には、浅井忠「湖畔の富士(一)」の代金一六一〇万六〇〇〇円を、一二一〇万六〇〇〇円と四〇〇万円とに分割して決済したことを示すメモが存在すること、銀行勘定帳(甲二・23、符97)には、昭和四八年一一月六日、被告会社預金口座(富士銀行)に小売代金四〇〇万円が入金された旨の記載があることなどが認められ、以上の事実を総合すれば、被告会社では、検察官主張どおりの公表処理をしているものと認められるのであるが、浅井忠「湖畔の富士(一)」は、絵画台帳(甲二・77、符151)、では画廊で代金一六一〇万六〇〇〇円で小売した旨の記載となっているものの、49年度在庫(絵画)(甲二・74、符148)には、C絵画の欄に記載されており、結局いわゆる「C絵画」として管理されていたことが認められ、前記画廊売上のC絵画と同様に「湖畔の富士(一)」の売上は架空であると認められる。そして、被告人も、四〇〇万円の現金入金は貴石等を販売した際の預り金であると主張はするものの、山本義雄が架空名義であり、「湖畔の富士(一)」の売上が架空であること自体は認めている。
ところで、検察官は、現金入金分四〇〇万円については前記画廊売上のC絵画分の架空売上の一部として取り扱い、貴石仕入との相殺分一二一〇万六〇〇〇円のみを山本義雄に対する架空売上と認定する、と主張するが、これは、後記の社長からの貴石仕入に関し、貴石八九本一二一〇万六〇〇〇円の仕入認容を前提とする処理と整合性を欠くものと言えよう。この点は、弁護人が、「一二一〇万六〇〇〇円を架空売上として否認するのであれば、これと相殺された貴石八九点の仕入およびそれに連動する期末のたな卸からも排除しなければ、到底それは筋の通った処理とは言えないであろう。」と指摘するとおりである。
そして、後記のとおり、社長からの貴石仕入で検討するように、貴石八九本、一二一〇万六〇〇〇円の仕入については、架空仕入とは認められず、むしろ真実であると認められる以上、これに対応する売上一二一〇万六〇〇〇円についても、「湖畔の富士(一)」の売上としては架空であるが、貴石等の売上として認めるべきであり、その理由については前記C絵画の画廊売上と同様である。
以上によれば、被告会社の昭和四九年四月期の売上高は、検察官主張額より一二一〇万六〇〇〇円増加することとなり、後記認定のとおり右売上に対応して社長からの仕入計上洩れ分を仕入に加算しても、なお、所得額の増加をもたらすこととなるので、この点は訴因による所得額の範囲を越えないように修正損益計算書において調整することとする。
三 商品仕入高(昭和四八年四月期)について
当裁判所の認定した被告会社の昭和四八年四月期の商品仕入高の当期増減金額及びその内訳は次表のとおりである。
(昭和四八年四月期商品仕入高当期増減金額内訳表)
<省略>
1 クローバー社からの過大仕入について
(一) クローバー社からの公表仕入金額(昭和四八年四月期)
香港インボイス等一綴(甲二・111、符183)、輸入関係書類三綴(甲二・58、符132)、決算修正伝票一綴(甲二・15、符89)、会計伝票(48年4月期)一二袋(甲二・10、符84)、輸入商品台帳一綴(甲二・56、符130)などによれば、昭和四八年四月期において、被告会社が公表計上したクローバー社からの商品仕入金額は、次表のとおり三億二一四五万七〇三一円(インボイスKS5ないしKS8、KS11、KS18、期末計上分及び期末修正分)である。
<省略>
弁護人は、クローバー社からの商品の公表仕入金額の具体的算定方法を明らかにするべきである旨主張するが、被告会社の売上高及び商品仕入高の公表金額は、同社がいわゆる伝票関係を採用しているところから、いずれも振替伝票と入出金伝票の記載額を累計することにより求められるものであり、実際に商品仕入高について各伝票記載の仕入金額を合計すると法人税確定申告書添付の確定決算報告書の仕入高の金額に合致することが認められる。
なお、検察官は、公表計上した商品仕入金額は、前記内訳表の各インボイスに対応する仕入額及び期末計上分の合計三億二六九七万八六七七円であると主張するが、決算修正伝票一綴(甲二・15、符89)によれば、被告会社では、期末にクローバー社関係で二億一一三〇万六九三〇円の仕入一括計上(借方・仕入―貸方・買掛金)をしているほか、五五二万一六四六円の仕入を減額(借方・借入金―貸方・仕入)していることが認められ、総勘定元帳一綴(甲二・4、符4)及び精算表等一袋(甲二・18、符92)によってもこれが裏付けられるので被告会社のクローバー社からの公表仕入金額は、検察官主張の三億二六九七万八六七七円ではなく、右期末修正分を控除した三億二一四五万七〇三一円である。
(二) クローバー社からの実際仕入金額(昭和四八年四月期)
検察官は、被告会社では、クローバー社から貴石、絵画等を輸入するに当たって、委託期間一年間という約定で、いわゆる委託輸入形式の取引を行い。右委託輸入商品については、委託期間満了に伴う代金決済時点において仕入を計上していたことが認められるが、右委託輸入商品の仕入台帳への記帳、あるいはたな卸への計上などに関する被告会社の処理、さらには被告会社・クローバー社間の取引の実態等に照らせば、右輸入は委託輸入の形式こそ採られているものの、それは代金決済時期を一年後に延ばすという意味だけのもので、実質的には被告会社の買取り仕入であったものと解するのが相当であるから、クローバー社からの実際仕入金額の確定に当たっては、商品引取時に仕入を計上するべきであると主張する。
これに対し、弁護人は、代金の支払を一年後に延ばすためには、当時、東京通産局の特殊決済を受けることを要したが、委託輸入の形式及び実質を備えない限り、右特殊決済を受けることができなかったこと、そのため被告会社は、ゴールド・ライン社との間で委託に関する契約書を作成した上で。東京通産局の特殊決済を毎回受けていたこと、委託輸入が可能となるためには、クローバー社も香港において現地の業者から委託で仕入れることが可能でなければならなかったこと、中間に介在するクローバー社及びゴールド・ライン社をとばして直接現地の業者と被告会社との関係とみれば、委託輸入である方が被告会社にとってはるかに有利なことなどの事情を考えてみれば、検察官の主張は誤りであり、仮に委託輸入ではないとしても、被告会社は、ほ脱の目的のために、殊更代金決済時に仕入を計上するという方法を採ったのではない、と主張する。
そこで検討するに、クローバー社から輸入された商品は、クローバー社の前にゴールド・ライン社を経由しているところ、被告会社と香港法人との関係については前述したとおり、被告会社の商品仕入価額増額させることによって被告会社の利益の減少を図るという税務上の対策及び模写絵の輸出入を行うことによって、いわゆる輸入ユーザンスを利用した被告会社の資金調達を実現するためであったことが認められ、香港法人の実態、存在理由などに照らせば、クローバー社と被告会社との間に商品委託の関係が真実発生するということは考えられないところである。そして、仕入台帳四綴(甲二・32、符106)、各棚卸表など(甲二・66ないし68、符140ないし142)によれば、被告会社では。クローバー社から委託輸入の形式で輸入した貴石についても、商品引取時を仕入年月日とし、その時点の為替レートで個々の貴石の仕入原価を算出して仕入台帳に記載し、さらに、昭和四八年4月期末の未売却の商品はすべて期末たな卸に計上するなど買取り仕入の場合と全く同様の処理をしていたことが認められる。他方、会計伝票(48年4月期)一二袋(甲二・10、符84)、輸入商品台帳一綴(甲二・56、符130)、などによれば、被告会社では、委託期間満了の時点ですべての委託輸入商品について代金決済をして、そのとき仕入を計上しているが、その処理は、代金決済時期を一年後に延ばすという意味だけのものであったことが認められる。
以上のとおり、被告会社とクローバー社との委託輸入形式の取引の実質は買取り仕入であったものと認められるので、商品引取時を基準として仕入額を確定するのが相当である。そして、商品引取時を基準として昭和四八年四月期に仕入を計上すべき金額は、検察官主張のとおりであると認められ、その内訳は次表のとおりである。
<省略>
(公表計上との関係では、KS5が前期分として、期末計上及び期末修正が架空分として当期から除かれ、未計上のKS9及びKS12、翌期に公表計上されていたKS10及びKS13ないしKS17が当期に加わることになる。)
2 為替レートの調整に伴う仕入れについて
被告会社では、クローバー社からの輸入をドル建で行い、昭和四八年四月期に仕入計上すべきものについて、昭和四九年四月期の代金決済の時点の為替レートで決済し、その金額で仕入を計上していたので、昭和四九年四月期の決済金額で表示されている前記表の仕入金額を昭和四八年四月期の商品引取時の為替レートで調整するものであり、その金額及び内訳は次表のとおりである。
<省略>
なお、<1>決済金額については、振替伝票(49年4月期)一三綴(甲二・11、符85)、銀行勘定帳一綴(甲二・23、符97)によって、<2>引取時代金総額については、輸入関係書類三綴(甲二・58、符132)、仕入台帳四綴(甲二・32、符106)によって、<3>関税手数料等については、、輸入関係書類三綴(甲二・58、符132)輸入商品台帳(甲二・・56、符130)によって認められる。
検察官は、為替レートの調整に伴い昭和四八年四月期の実際仕入高から控除すべき金額を一四〇八万二二四七円と算出しているが、検察官の主張はKS10の計算に誤りがあるので右表のとおりの金額となる。
3 事業税・都民税関係仕入
税金関係書類一綴(甲二・9、符9)、手形受払帳一冊(甲二・20、符94)、銀行勘定帳一綴(甲二・23、符97)、会計伝票(48年4月期)一二袋(甲二・10、符84)によれば、被告会社は、昭和四七年七月二五日杉並都民税事務所長から昭和四五年四月期及び同四六年四月期の事業税及び都民税の更生を受け、同年一〇月六日、約束手形二通をもって更生にかかる税額二八七万一一九〇円を納付したが、その経理処理としては、同四七年一二月三〇日付で買掛金の支払に充たものの如く処理し、さらに決算修正伝票一綴(甲二・15、符89)によれば、期末において、期中発生漏れ分として二四〇〇万円余りの仕入に基づく買掛金を計上しており、この処理は、右の地方税納付に伴う経理処理と関連を有していると認められるので、被告会社は、昭和四八年四月期において、右地方税納付分を全額仕入高に含めて計上したものと認めるほかはない。
したがって、昭和四八年四月期の実際商品仕入高から右二八七万一一九〇円を減額することとなる。
四 商品仕入高(昭和四九年四月期)について
当裁判所の認定した被告会社の昭和四九年四月期の商品仕入高の当期増減金額及びその内訳は次表のとおりである。
(昭和四九年四月期商品仕入高当期増減金額内訳表)
<省略>
1 クローバー社からの過大仕入について
(一) クローバー社からの公表仕入金額(昭和四九年四月期)
輸入関係書類三綴(甲二・58、符132)、輸入商品台帳一綴(甲二・56、符130)、振替伝票(49年4月期)一三綴(甲二・11、符85)などによれば、昭和四九年四月期において、被告会社が公表計上したクローバー社からの商品仕入金額(鹿島物産経由を含む。)は、次表のとおり二億九二三一万九二〇二円(インボイスKS10、KS13ないしKS17、KS22、KS24、KB1ないしKB3及び一括計上分)である。
<省略>
右のうち一括計上分について説明を補足すると、検察官は、期末一括計上額として、クローバー社と鹿島物産に対する買掛金残高の変動等を検討すると、期末決算において、クローバー社関係(KS)で九五〇七万四四九〇円の仕入減額修正を行い、鹿島物産関係(KB)で一〇六七万一七八三円の仕入増額修正を行い、その結果として差引き八四四〇万二七〇七円の仕入減額修正を公表したと主張する。
そこで、クローバー社に対する買掛金の増減を検討すると、法人税確定申告書(四八年四月期)(甲二・1、符1)、法人税確定申告書(四九年四月期)(甲二・2、符2)によれば、昭和四八年四月期末に二億一一三〇万六九三〇円であったものが、昭和四九年四月期末には三七五五万四〇〇四円となり、差引き一億七三七五万二九二六円減少していることが認められる。しかし、振替伝票(49年4四月期)一三綴(甲二・11、符85)によれば、借方・買掛金―貸方・当座の仕訳で一五〇五万七六三六円(インボイスKS9及びKS12に関するもの)と六三六二万八四三六円(インボイスKS22に関するもの)の合計七八六七万八四三六円の減少は明らかであるが、残余の九五〇七万四四九〇円については買掛金の減少の理由が不明である。そこで、昭和四八年四月期末に借方・仕入―貸方・買掛金として一括計上(期末計上)した二億一一三〇万六九三〇円の一部を昭和四九年四月期末に借方・買掛金―貸方・仕入として一括戻入したものと考えると、クローバー社からの仕入の一括計上額は△九五〇七万四四九〇円(仕入減少)となる。
他方、鹿島物産に対する買掛金の増減を検討すると、前記各法人税確定申告書によれば、昭和四八年四月期末に八〇〇万円であったものが、昭和四九年四月期末には一億四九四万七七八二円となり、差引き九六九四万七七八二円増加していることが認められる。しかし、振替伝票(49年4月期)一三綴(甲二・11、符85)によれば、借方・仕入―貸方・買掛金の仕訳で合計八六五七万五九九九円(インボイスKB1ないしKB3に関するもの)の増加は明らかであるが、残余の一〇三七万一七八三円については買掛金の増加の理由が不明である。そこで、鹿島物産からの仕入の一括計上額は一〇三七万一七八三円(仕入増加)となる。
以上の仕入の一括計上を裏付ける伝票について検討すると、振替伝票(49年4月期)一三綴(甲二・11、符85)によれば、クローバー社からの仕入の訂正分として、借方・買掛金―貸方・仕入の仕訳で四九五〇万三六九〇円が、また、内訳は明らかではないが、「期中発生訂正分」として、借方・買掛金―貸方・仕入の仕訳で六七一六万四三七三円と四四八五万四〇八二円の合計一億一二〇一万八四四五円が公表処理されていると認められるが、鹿島物産からの仕入の増額を裏付ける伝票の存在は明らかではない。しかし、この点については、クローバー社及び鹿島物産に対する期末買掛金残高の内容も不明である上、両者と被告会社との関係からクローバー社と鹿島物産の混同も十分考えられることから、両者に対する買掛金の増減を一括して検討するのが相当であるので、両者からの仕入の期末一括計上額を△八四〇七万二七〇七円(仕入減少)として考えるならば、伝票による裏付けも特に問題はない。
そうすると、被告会社の昭和四九年四月期のクローバー社からの公表仕入金額は検察官主張の二億九二六一万九二〇二円より三〇万円少ない二億九二三一万九二〇二円であると認めるべきである。
(二) クローバー社からの実際仕入金額(昭和四九年四月期)
前記のとおり、被告会社とクローバー社との取引については、委託輸入形式の取引についても商品引取時を基準として仕入額を確定するのが相当であり、商品引取時を基準として昭和四九年四月期に仕入を計上すべき金額及び内訳は次表のとおりである。
<省略>
(公表計上との関係では、KS10、KS13ないし17が前期分として当期から除かれ、当期の公表仕入に計上せず、翌期に公表計上されていたKS19ないしKS21及びKS23が当期分の仕入となる。)
なお、KS19ないしKS21及びKS23の金額は、商品引取時における関税等込みの金額であるが、輸入商品台帳一綴(甲二・56、符130)、輸入関係書類三綴(甲二・58、符132)、振替伝票(49年4月期)一三綴(甲二・11、符85)によれば、KS19ないしKS21及びKS23の関税、手数料等については、合計三五六万一七七五円が既に昭和四九年四月期に仕入として公表計上済みであるので、右金額を控除する。
また、当期公表分のKS22、KS24及びKB2によってクローバー社から輸入された絵画のうち、KS22で輸入された一一点とKS24で輸入された三点(香月泰男「みずひき草」、岸田劉生「自画像」及び向井潤吉「民家」)は、いずれも被告会社からK1、K2で架空輸出されたものの輸入であり、商品の売買という営業取引としての実体を有せず、前記の前受輸出等と同様に損益に影響のない架空取引である。KS24で輸入された浅井忠「風景」四点とKB2で輸入された浅井忠の作品三〇点についても、公判調書中の証人萩原真由美(第二七回)及び同増田敬子(第三五回)の各供述部分、萩原真由美及び増田敬子の検察官に対する各供述調書、絵画関係書類一綴(甲二・80、符154)中の浅井忠回顧展パンフレットによれば、すべて模写絵であったと認められ、商品の売買という営業取引としての実態を有せず、前同様の架空取引である。さらに、KS25ないしKS27で輸入された浅井忠「少女」などの絵画が模写絵であったことについては、前記のとおり争いがない。
なお、KS20による仕入金額について補足すると、輸入関係書類三綴(甲二・58、符132)中には、一九七三年六月四日付のクローバー社からのKS20のインボイスがCIF価格で一三万九一五〇ドルのものと一五万七〇〇〇ドルのものが存在し、通産省への輸入許可申請書、運送業者や通関業者発行の領収書等からみると前者が仕入価格となるべきもののようであるが、同書類中の八月二日付のクローバー社からの書簡により後者が真実のCIF価格であると訂正されているので、これを基礎とした検察官主張の四三八三万四四八円を実際仕入額と認定する。
次に、輸入商品台帳一綴(甲二・56、符130)、仕入帳一綴(甲二・29、符103)、輸入関係書類三綴(甲二・58、符132)、振替伝票(49年4月期)一三綴(甲二・11、符85)などによれば、被告会社では、前記のとおり、インボイスKS14、KB1及びKB3によってクローバー社から(KB1及びKB3については鹿島物産を経由して)イタリア絵画、ピカソセラミック等を委託輸入形式の取引で輸入し、昭和四九年四月期にそれらの仕入を公表計上している。(合計一億一五二九万二七三円)ところ、検察官は、これらの仕入分は、昭和四八年四月期において仕入計上済みであるから、当期においては二重計上となると主張する。
そこで検討すると、まず、証人栗田久美子に対する当裁判所の尋問調書、公判調書中の証人尼ヶ崎彬(第四二回)、同吉田篤子(第三六回)及び増田敬子(第三五回)の各供述部分、栗田久美子及び増田敬子の検察官に対する各供述調書、絵画買付精算メモ書一袋(甲二・61、符135)、絵画関係書類一綴(甲二・60、符134)、中の尼ヶ崎彬作成の報告書、報告書(一九七二・一二・五付)一綴(甲二・103、符177)、出金簿(47年度)一綴(甲二・104、符178)などによれば、被告会社の従業員であった尼ヶ崎彬及び吉田篤子の両名が、被告人の指示に基づき、昭和四七年一二月から同四八年一月にかけてヨーロッパに出張し、マツセリーアの作品などイタリア絵画六四点、グレコの絵画一一点、ピカソセラミック、藤田嗣治のリトグラフなど総額六四三万九四〇〇円の買い付けを行ったこと、右買い付け資金として、日本から持参した四四四万四〇七八円相当のトラベラーチェックとあらかじめ香港法人からパリに送金されていた五〇〇万円(合計九四四万四〇七八円)が充られたこと、右買い付けに係る絵画等は、その後吉田の手荷物などとして香港に持ち込まれた後、クローバー社からKS14(イタリア絵画など)、KB1(ピカソセラミックなど)及びKB3(藤田嗣治のリトグラフなど)によって輸出されたことが認められる。そして、前記のとおり、被告会社では、昭和四九年四月期にそれらの仕入を公表計上しているのであり、以上の事実は被告人もこれを認めている。
ところで、右イタリア絵画、ピカソセラミック等の買い付けに要した費用についての被告会社における経理処理の状況は以上のとおりである。すなわち、総勘定元帳(四八年四月期)一綴(甲二・4、符4)、会計伝票(48年4月期)一二袋(甲二・10、符84)、銀行勘定帳一綴(甲二・23、符97)、決算修正伝票一綴(甲二・15、符89)、法人税確定申告書(四八年四月期)一綴(甲二・1、符1)、法人税確定申告書(四七年四月期)一綴(甲二・五、符五)などによれば、尼ヶ崎及び吉田の両名がヨーロッパに出張した際の航空運賃七六万七七六〇円が昭和四七年一二月一五日に旅費交通費として損金処理されていること、昭和四七年一二月一六日に、被告会社の当座預金講座(埼玉銀行新宿支店)に香港(クローバー社)から四九六万六六五五円の入金があったこと、被告会社では、これを借入金として処理(借方・当座預金―貸方・借入金)しているところ、振替伝票(会計伝票、甲二・10、符84)の上では、クローバー社からの借入金であるかのごとき記載となっているが、総勘定元帳(甲二・4、符4)の上では、「クローバー」という文字を抹消して「社長への借入」という記載となっており、総勘定元帳の借入金勘定の記載内容と法人税確定申告書(甲二・1及び符1及び5)の借入金残高との対照により、右借入金は明らかに被告人からの借入金として処理されていること、被告会社では、同日(昭和四七年一二月一六日)、前記当座預金口座に入金された中から四四四万四〇七八円を被告人への仮払金として支出(借方・仮払金―貸方・当座預金)し、これが、尼ヶ崎らが持参した前記トラベラーズチェックの購入に充てられていることが認められる。
そして、被告会社では、その後の昭和四七年一二月二六日、被告人への貸付金として五〇〇万円を支出(借方・貸付金―貸方・当座預金)しているのであるが、右の処理は、イタリア絵画、ピカソセラミック等の買い付け資金として香港法人からパリに送金されていた五〇〇万円と関係があると認められる。すなわち、香港法人からパリに送金された直後の昭和四七年一二月五日付で香港法人に出張中であった被告会社の従業員高梨敬子から、被告会社宛に、「パリ送金分五〇〇万円の返金がなされていないがどうなっているのか」という趣旨の書簡が出されており、香港法人ではパリに送金した五〇〇万円は被告会社のために立替送金したものとして処理していたと認められるが、被告会社ではその後も五〇〇万円を香港法人に送金したり、あるいはクローバー社からの借入金等としての経理処理を行った形跡が認められない。しかも、前記のとおり、イタリア絵画、ピカソセラミック等の買い付け資金の一部であるトラベラーズチェックの購入については、クローバー社から送金のあったものを被告人からの借入金として処理した上、再度被告人への仮払金として支出したものを充ているのであり、被告人への五〇〇万円の貸付の時期、金額、後期の期末決算修正の内容等を総合すれば、香港法人からパリに五〇〇万円を送金する傍ら、被告会社では被告人への貸付金として五〇〇万円を支出し、実質的には、被告会社の被告人への貸付金が香港法人を経由してパリに送金された処理をしたものと認められる。
その後、被告会社では、昭和四八年四月期の期末において被告人との間の貸借関係をすべて精算し、一〇二七万三一二四円の仕入を計上している。すなわち、被告人への貸付金のうち四四一万三三九〇円を仮払金に振替え(貸方・仮払金―貸方・貸付金)たことにより、被告人への貸付金は前記の五〇〇万円だけとなったが、新たに被告人からの仕入及び借入金四四一万三三九〇円を計上(借方・仕入―貸方・借入金)するとともに、前記トラベラーズチェックの購入に関する被告人への仮払金のうち四三八万四五円を被告人からの借入金の返済に充て(借方・借入金―貸方・仮払金)、残余(六万四〇三三円)を被告人からの仕入に振替え(借方・仕入―貸方・仮払金)たことにより、被告人からの借入金も五〇〇万円なった。そして、被告人への貸付金五〇〇万円(パリ送金分)と被告人からの借入金を相殺して(借方・借入金―貸方・貸付金)被告人との間の貸借関係をすべて精算し、また、被告人への仮払金のうち五七九万五七〇一円を仕入に振替え(借方・仕入―貸方・仮払金)ている。
以上のとおり、被告人会社では、イタリア絵画、ピカソセラミック等の買い付け資金を支出するに当たって、被告人からの借入金、被告人への仮払金、貸付金を発生させ、期末に被告人からの仕入を計上してこれらを精算する処理をしているものであり、イタリア絵画ピカソセラミック等の買い付けの精算が被告会社に対してなされていることなどこれらの仕入は既に昭和四八年四月期に計上済みであることが認められる。
そして、被告会社は、右イタリア絵画、ピカソセラミック等を香港のクローバー社を経由してKS14、KB1及びKB3のインボイスで送らせているところ、その目的は、前記模写絵等の輸入と同様に、主として輸入ユーザンスの利用等にあり、したがってインボイス上の仕入価格は、実際額に比して甚だ過大な額となっていることが明らかであり、被告会社は、それぞれのインボイス上の金額を昭和四九年四月期の仕入に計上したものである。
弁護人は、この点に関し、昭和四八年四月期の期末の仕入は、イタリア絵画の仕入ではあるが、KS14などで輸入されたイタリア絵画等とは別個の商品である、すなわち、ヨーロッパに出張した尼ヶ崎及び吉田の両名が持参したトラベラーズチェックの四四四万四〇七八円について、右両名、特に吉田が帰国後も経費の精算をせず、昭和四八年四月期の期末まで精算ができなかったため、窮余の策として、被告人への仮払金となっていたトラベラーズチェック購入のための支出を被告人からのイタリア絵画の仕入で精算する処理をしたものである、この時被告人から仕入れたイタリア絵画は、昭和四六年中に被告人がイタリアで購入した絵画であり、昭和四八年四月当時、いわゆるC絵画として、被告人が個人所有していたものであると主張する。
確かに、絵画関係書類一綴(甲二・60、符134)中の尼ヶ崎彬作成の報告書には、被告人が、かつてイタリアにおいてタルタグリア・アルテ及びガレリア・デグリ・アルテイステイという画廊から絵画を買い付けたことを窺わせる記載があるが、検察官も主張するように、輸入商品台帳一綴(甲二・56、符130)によれば、昭和四六年七月一三日にそれぞれ輸入した、タルタグリア・アルテからの三四点の絵画及びガレリア・デイグリ・アルテイステイからの二点の絵画には右台帳上個々に仕入金額及び商品管理部の管理番号等が付されており、被告会社の買い付けであると認められる上、絵画台帳一綴(甲二・76、符150)によっても、タルタグリア・アルテからの三四点の絵画については仕入年月日が昭和四六年八月二〇日、ガレリア・デイグリ・アルテイステイからの二点の絵画については仕入年月日が同年七月一六日と右絵画台帳に記載されているばかりか、それらの絵画は、昭和四六年中からつい逐次販売されていることが認められるのであり、以上によれば、被告人が昭和四六年中に購入したイタリア絵画は被告会社の昭和四七年四月期の仕入に係るものである。したがって、弁護人の主張は採用できない。
また、弁護人は、検察官の主張自体に矛盾点があるとして、KS14の商品引取時は昭和四八年一月二七日であるから、委託輸入の仕入計上に関する検察官の主張に従うならば、被告会社は同日に仕入計上しなければならないことになり、期末の仕入計上の方がその後になるから、この期末の仕入計上の方を二重仕入として否認するのでなければ論理が一貫しない、と主張するが、被告会社がKS14、KB1及びKB3のインボイスで委託輸入した形式をとったイタリア絵画、ピカソセラミック等の仕入については、一括して前記のとおり昭和四八年四月期の期末に仕入計上されているものであり、KS14の金額それ自体は実際の仕入額ではなく、被告会社の仕入金額を水増ししたものであって、商品引取時が昭和四八年四月期の期末以前であるか否かにかかわらず、被告会社の仕入れとして計上すべきものにあたらないから、この主張も採用できない。
2 社長からの貴石仕入れについて
公判調書(第一八回及び第一九回)中の政田左衛子の供述部分、証人栗田久美子に対する当裁判所の尋問調書、政田左衛子の検察官に対する供述調書、棚卸表写等一袋(甲二・71、符145)、棚卸表綴一綴(甲二・72、符146)、C棚卸表一袋(甲二・73、符147)などによれば、被告会社にはC貴石と称される貴石が存在し、これについては、被告人の所有貴石なのか、又は被告会社の簿外商品なのかは必ずしも明確でないが、いずれにしろ、これを販売する際の経理処理としては、被告会社が被告人から委託を受けて販売するいう形式をとっており、この関係でC貴石を被告会社が被告人から仕入れるという取扱もなされていたことが認められる。
ところで、被告会社では、前記のとおり、昭和四八年一〇月に、山本義雄なる人物から貴石八九本、一二一〇万六〇〇〇円の仕入を計上しているのであるが、山本義雄が架空名義であることについては被告人もこれを認めているところ、政田左衛子の検察官に対する供述調書によれば、山本義雄からの貴石の仕入と棚卸表写等(甲二・71、符145)記載の合計金額とは関係があると認められる。そこで仕入台帳四綴(甲二・32、符106)を検討すると、昭和四八年一〇月三一日ころの日付で、貴石八二本、一一一九万五〇〇〇円の仕入(現金仕入)が計上され、そのうちの四一本、八二〇万六〇〇〇円が棚卸表(甲二・63、符137)に記載されていることが認められ、これらの貴石は、種類及びその原価と棚卸表写等(甲二・71、符145)の新原価が一致していることから前記の関係は裏付けられる。しかし、右棚卸表写等には「Cから表へ」として被告人から被告会社が仕入として公表するべき貴石が一八二本ある旨の記載となっているところ、そのうち旧原価の判明するものは一五四本(一二一〇万二八四七円、新原価にして二〇五九万六〇〇〇円)あるが、旧原価の判明しないものが二八本(新原価にして一〇八一万一〇〇〇円)あることが認められる。検察官は、右一八二本のうち、旧原価判明分が、山本義雄なる人物からの貴石の仕入として仕入計上されているとし、旧原価不明分を仕入計上もれとして認容すると主張するが、仮に、この仕入計上を被告人からの仕入として認容するべきものとすれば、仕入帳(甲二・29、符103)等によって被告会社が仕入計上しているのは、貴石八九本(一二一〇万六〇〇〇円)にすぎないから、旧原価判明分一五四本のすべてが計上されているわけでなく、また、右八九本の仕入価格についてもむしろ新原価によっていると認められる。したがって、右一八二本の貴石の新原価合計三一四〇万七〇〇〇円のうち、被告会社が仕入計上していると認められる八九本、一二一〇万六〇〇〇円を除いた九三本について仕入計上漏れがあったものとして認容すべきであり、その金額は、新原価により一九三〇万一〇〇〇円である。
五 商品たな卸高(昭和四八年四月期及び昭和四九年四月期)について
1 貴石の期末たな卸高について
公判調書(第五七回ないし第六〇回)中の被告人の供述部分、公判調書中の証人政田左衛子(第一八回、第一九回、第五一回及び第五二回)、同内村貴子(第二七回)及び同花田美代子(第二〇回及び第二一回)の各供述部分、各棚卸表など(甲二・62ないし72、符136ないし146)によれば、被告会社における貴石の期末たな卸の方法及び公表たな卸額の決定方法は以下のとおりである。
被告会社では、貴石の期末商品たな卸作業は、商品管理部の従業員が行っていたが、具体的には、前年度期末のたな卸表の写し等を作業表とし、前期の期末在庫商品で当期中に販売された商品を右作業表から抹消していくなどの方法により、前期以前の仕入に係る在庫商品を確認するとともに、当期に仕入れた商品についても、そのリストを作成した上で、当期中に販売された商品をリストから抹消していくなどの方法で在庫商品を確認していた。そして、右作業の結果に基づき、当期の期末の在庫商品一覧表を作成し、個々の商品ごとに仕入台帳に記載されている仕入価額(取得価額)を付記することによって、いわゆる実際たな卸表を作成したが、この後、被告人の個別的な指示に基づき、個々の商品ごとに仕入台帳記載の仕入価額よりも減額した金額を現在評価額として決定し、この現在評価額を個々の商品(貴石)の期末たな卸評価額としたいわゆる公表たな卸表を作成してこの集計金額をもって貴石の公表たな卸金額としていた。
このように、仕入台帳上の仕入価額よりも減額した金額をもって貴石のたな卸金額とすることを、被告会社では「ふみ分け」と称していたが、検察官の主張する貴石の期末たな卸除外額の大部分は、右のふみ分けと称するたな卸評価方法から生じている。
この点につき、弁護人は、被告会社では、当時貴石の仕入方法として「ロット仕入」、すなわち数個あるいは数十個の貴石をまとめて仕入れる方法をとっていたが、この場合、一つのロットは原則として同一種類の貴石で構成されてはいるものの、各個の品質(グレード)、大きさ(カラット)などはバラバラであった、しかし、ロット仕入の場合も、販売は一品ごとに行われるから、商品管理の必要上個々に仕入価額を付ける必要があるので、被告会社では、貴石の大きさ(カラット)にのみ着目し、ロットの総カラット数でロットの仕入価額を割って一カラット当たりの価額を出した上、それに各貴石ごとのカラット数を乗じて貴石の仕入台帳上の価額としていたが、貴石の価値は大きさ(カラット)によってのみ決まるものではなく、例えば、ダイヤモンドの場合には、カラット(大きさ)、クラリティー(きず、内包物の有無)、カラー(色)、カット(姿)の四つの要素(四C)によって価値が決まってくるなど、多数の要素の組み合せにより極めて複雑に決定されるものであるから、前期のようにカラット数だけを基準として決定された仕入台帳価額は、貴石の真実の価値を正確に反映しているものではない、そして、実際にロット仕入をした貴石を販売した場合、品質の優れたものから売れていくため、期末に在庫として残った商品は品質が劣悪なものばかりとなるが、仕入台帳価額はカラット数だけを基準としているので不当に高いものとなっている。それにもかかわらず、期末のたな卸において仕入台帳価額をたな卸評価額とすれば、実態から遊離した高い評価額を計上することになるので、「ふみ分け」を実施し、適正な評価額への評価換えを行っていたものである、と主張する。
しかし、公判調書(第五七回ないし第六〇回)中の被告人の供述部分、公判調書(第五四回)中の証人倉田武俊の供述部分などによれば、ロット仕入をした場合に、個々の貴石の仕入価額の決定に当たって、前期のカラット数だけを基準とする方法を採っているのは、被告会社ばかりではなく、右方法は貴石を販売する業界において相当広く用いられているものと認められ、右業界内で通用する程度の一般的な合理性は有しているものと認められる。しかも、右方法とは異なる仕入価額の決定方法が存在するとしても、被告会社では、ロット仕入の場合にその方法を選択せず、前記のカラット数だけを基準とする方法を選択して、これにより仕入価額を決定し、帳簿書類に記載したのであるから、この帳簿価額をみだりに変更したのでは企業会計の連続性、継続性が否定されることになる。弁護人の前記主張をたな卸資産についての評価損の計上の主張と解したとしても、たな卸資産の評価損の計上については、現行法上極めて限られた場合にのみ認められるにすぎず、本件のふみ分けの対象となっている貴石がその要件を充足していないことは明らかである。
また、被告会社では、貴石の期末たな卸の際、前記のとおりふみ分けと称するたな卸評価方法によって、仕入台帳上の仕入価額よりも減額した金額をもって貴石のたな卸金額としていたにもかかわらず、当該貴石の売価の決定は、仕入台帳価額を基準とし、販売するデパート等によって定まった数値を乗じて行われており、そのようにして決定された売価で実際に貴石が販売されているのであって、弁護人の前期主張とは異なりふみ分けが貴石の適正な評価とは全く無関係であったことが窺われるのであるが、被告人も公判廷において(第五九回公判調書中の被告人の供述部分)、決算時にふみ分けをやるとしても、被告人自身が全部の商品を一点ごとにあたるのは不可能であるが、被告会社としては、大体粗利益率は二〇パーセントを確保できればいいので、期首たな卸金額、期中仕入金額、期中売上金額を前提として粗利益率が二〇パーセントになるようにすれば全体としての期末たな卸金額が出るから、この期末在庫商品全体としての期末たな卸金額を個々の貴石に配分することになる旨供述しており、被告会社の行ったふみ分けが、貴石の客観的な適性な評価とは無関係に、まさしく利益調整という脱税目的で行われていたことは明らかである。
したがって、弁護人の前記主張は採用できず、貴石の期末たな卸金額は、特段の事情のない限り、原則として、仕入台帳に記載されている貴石の取得価額(仕入台帳価額)によるべきである。
2 絵画等美術品の期末たな卸高について
被告会社では、絵画等美術品に就いても実際の取得価額よりも減額した金額をもってたな卸金額としていたものであるが、いずれもこれを正当とする特段の事情は認められず、貴石と同様、利益調整という脱税目的で行われていたことが明らかである。
また、前期の画廊売上、前受輸出等の絵画等美術品の架空売上が行われたことにより、期末のたな卸から除外されたものについては、これが、期末のたな卸に計上されるべきであることはもちろんである。
3 検察官作成の昭和五四年七月一三日付冒頭陳述書(追加)(同五五年三月二一日付冒頭陳述書により変更後のもの)のたな卸除外額品種別明細表(別表1)及びたな卸商品個別明細書(別表3)のうち、当裁判所が認定を異にするものの内訳及びその理由は、別紙<6>たな卸除外額修正一覧表のとおりである。
(1) 前記たな卸商品個別明細表二五〇頁から二五三頁にかけての浅井忠「蘇鉄写生の図」以降「瀞」までの作品のうちには、証拠上仕入金額が不明のものがあるので、これらを検察官の主張する実際額から減額すると、右作品の関係での減額の総額は、昭和四八年四月期末で七六五万円、昭和四九年四月期末で八五五万円である。
(2) 弁護人は、検察官が前記冒頭陳述書(追加)において、B表示を付して、たな卸そのものを除外した旨主張する貴石のうちKD四九六以下一〇点(合計一九九万三三五四円)は被告会社の昭和四八年四月期の公表たな卸高に計上されていると主張し、棚卸表(昭和四八年)(甲二・68、符142)によれば、右貴石はいずれも被告会社の公表たな卸高に含まれていると認められるのであるが、右金額は、前記冒頭陳述書(追加)別表1提記の昭和四八年四月期末公表金額三億一五一九万一六九四円に含まれるものであるから、ほ脱所得の算出に影響を及ぼすものではない。
六 所得のまとめ
以上認定したところによって、被告会社のほ脱所得の内容を示す修正損益計算書上の各勘定科目のうち検察官主張額(当期増減金額)と異なる部分を摘記する。
1 昭和四八年四月期
<2>期首商品たな卸高
検察官主張額 二億三八八万 一六八円
認定額 二億三七四万三二九五円
差額 一三万六八七三円
<3>当期商品仕入高
検察官主張額 七六一五万七三六四円
認定額 七〇八三万五八一八円
差額 五三二万一五四六円
<4>期末商品たな卸高
検察官主張 二億七二六〇万八八八五円
認定額 二億六〇二三万六六八五円
差額 一二三七万二二〇〇円
右のとおりであり、その結果、所得額において、
検察官主張 一億三二二〇万六八二七円
より一七五五万六八七三円少
認定額 一億一四六四万九九五四円
2 昭和四九年四月期
<1>純売上高
検察官主張額 二億九六九八万七七二一円
認定額 二億八四八八万一七二一円
差額 一二三七万六六八五円
<2>期首商品たな卸高
検察官主張額 二億七二六〇万八八八五円
認定額 二億六〇二三万六六八五円
差額 一二三七万二二〇〇円
<3>当期商品仕入高
検察官主張額 一億八一八九万四七五四円
認定額 一億七七八三万六五二九円
差額 四〇五万八二二五円
(差額分の内訳)
<ア>クローバー社への公表仕入高の差 三〇万円
<イ>クローバー社からの実際仕入高
のうちの関税等の仕入計上済分 △三五六万一七七五円
<ウ>社長からの貴石仕入計上洩れの分の差 七三二万円
<4>期末商品たな卸高
検察官主張額 六億一九三〇万七二七四円
認定額 六億 七七二万 九〇八円
差額 一一五八万六三六六円
<51>為替差益
検察官主張額 一四〇八万二二四七円
認定額 一三八八万二一四七円
差額 二〇万 一〇〇円
右のとおりであり、その結果所得額において
検察官主張額 二億一四一八万 六〇七円
より八六三万三五〇九円多い
二億二二八一万四一一六円
が実際所得額として算出されるが、検察官が訴因において主張する額を越える認定は許されないので、
訴因による調整額 八六三万三五〇九円
を計上することにより、検察官主張をもって認定所得額とする。
第三物品税法違反事件について
一 小泉明への売上の除外について
弁護人は、小泉明に対するWGダイヤ入カフスタイピンセット一組ほか二点の売上については、該当する商品を被告会社の在庫中に見出だすことができず、同人に対して発行された領収書の形式からして、販売にあった小田切英明が同人の個人所有の商品を販売したものと思われる、と主張する。
公判調書(第16回及び第一七回)中の証人小田切英明の供述部分、小田切英明の検察官に対する供述調書、小泉明作成の申述書(甲一・69)、領収書三五枚(甲二・107、符83)、メモ二枚(甲二・108、符180)などによれば、被告会社の社員小田切英明が顧客である小泉明の自宅を訪問し、同人に対し、(一)昭和四七年七月にWGダイヤ入カフスタイピンセット一組を四万五〇〇〇円で、(二)同年一二月にPTサファイアリング一個を七四万円で、(三)昭和四八年一月にPTキャッツアイリング一個を四二三万円でそれぞれ販売したが、(一)の代金は、販売した他の貴石等の代金と併せて分割払いにより昭和四七年七月一九日までに、(二)、(三)の代金も、分割払いにより同年一二月一五日から昭和四九年一〇月二九日までにいずれも小田切が集金済みであり、かつ小田切が被告会社に入金していることが認められるので、小泉明に対する右物品の販売は、いずれも被告会社の販売(小売)であると認められる。
弁護人は、該当する商品を被告会社の在庫中に見出すことができないと主張するが、前記のとおり被告会社では販売と同時に被告人個人から仕入を立てるべき貴石等又は被告会社が簿外で管理していた貴石等被告会社の在庫として明らかとなっていない商品についても販売をしていたことが明らかであるから、弁護人の右主張は前記認定を左右するものではない。
二 平山義夫への売上の除外について
弁護人は、平山義夫に対して販売されたPTダイヤリング(KD四四〇六)は、八木橋デパートの小売であり、被告会社は、同デパートに対し、昭和四八年九月二〇日付で下代四一七万三六〇〇円の売上(卸売)を計上し、右下代は入金済みである、また、同人に対して販売された純金小判(一九枚)は、被告会社所有の商品ではなく、被告人個人の商品である、と主張する。
証人平山洋子及び同菊池健に対する当裁判所の各尋問調書、公判調書(第二四回)中の証人山下玲子の供述部分、売上報告一綴(甲二・48、符122)、水戸小売資料一袋(甲二・45、符119)、売上帳一綴(甲二・35、符109)などによれば、昭和四八年七月、被告人及び被告会社の社員山下(旧姓宮城)玲子らが常陸太田市を訪れ、同市において、被告人の知人で同市の特定郵便局長菊池健から紹介を受けた者らに対し貴石等を販売したが、その後、平山義夫に対しPTダイヤリング(KD四四〇六)一個ほか貴石、陶器等を販売し、右PTダイヤリングは同月一一日ころ同人に引き渡されたが、右PTダイヤリングの代金六五〇万円を含む販売に係る商品の代金は、同月から一〇〇万ずつの分割払いとされ、毎月被告会社の従業員が平山の自宅まで集金に行き、被告会社名義の領収証と引き換えに受領し、全部支払い済みとなっているが、右販売及び代金受領の過程に八木橋デパートの従業員が関与した形跡は全くないことが認められる。
ところで、商品番号KD四四〇六のPTダイヤリングは、売上帳(甲二・35、符109)によれば、昭和四八年九月二〇日八木橋デパートに四一七万三六〇〇円で売上(卸売)になっていることが認められるが、平山に対する貴石等の販売の経緯に照らすと、PTダイヤリングだけが同人に対する八木橋デパートの売上(被告会社にとっては同デパートの小売の代行)であるとする特段の事情はないと認められる上、被告会社から八木橋デパートに対する売上の年月日が平山に対する販売の約二か月後となっているなどその売上報告及び売上計上の時期の点において不自然かつ納得できないものがある。もっとも。関係証拠によれば、被告会社がデパートに販売を委託した商品を被告会社において販売した場合に、デパートの成績を考慮してデパートの売上(したがって、被告会社のデパートへの卸売)として処理することもあったと認められるので、右KD四四〇六のPTダイヤリングについても被告会社が六五〇万円で小売したにもかかわらず、公表帳簿上は八木橋デパートに四一七万三六〇〇円で卸売したものとして処理した疑いもある。
しかし、いずれにせよ、被告会社は平山に対し、KD四四〇六のPTダイヤリングを昭和四八年七月中に販売(小売)したのであるから、被告会社に物品税納付義務があることは明らかである。
ところで、平山に対して販売された純金小判(一九枚)について、検察官は、昭和四八年七月中に被告会社によって販売(小売)されたものであり、同月の物品税の申告除外であると主張するが、証人平山洋子に対する当裁判所の尋問調書によれば、同人の作成した購入事実申述書には、昭和四八年七月中に購入した前記PTダイヤリング一個のほかの貴石等の記載に続き純金小判(一九枚)についても同月中に購入した旨記載されているが、同人は、右申述書作成当時には購入年月を厳格に考えていなかったので、購入年月欄に、前の記載と同様の意味で「〃」と記載したにすぎず、記憶では純金小判は、昭和四八年七月中に購入した貴石等の代金をその後分割で支払う時に購入したものであり、したがって購入の時期は昭和四八年七月から何か月か後である旨供述している。しかも公判調書(第二四回)中の証人山下玲子の供述部分によっても、同人は、昭和四八年七月中に平山義夫に対し大桶年郎作の茶わん、ダイヤ、エメラルドを売った記憶はあるが、純金小判を売った記憶はない旨供述していること、水戸小売資料(甲二・45、符119)、によっても、PTダイヤリング一個ほかの貴石等の販売と同時に純金小判が販売されたものと認定することができないことなどの事情を総合すれば、純金小判の販売時期が昭和四八年七月中であることを前提として同月の物品税の申告除外であるとする検察官の主張は採用できない。
しかし、被告会社については、昭和四八年七月中に販売(小売)した他の貴石等の物品税の申告除外につき物品税のほ脱の罪が成立するので、主文において無罪の言い渡しをしない。
三 上野忠及び小澤みさをへの売上の除外について
弁護人は、上野忠に対して販売した二点(D二一七六、E一〇三五)及び小澤みさをに対して販売した一点(R三六八)は、いずれも被告会社所有の商品ではなく、いわゆるC商品であって、被告人個人の所有の商品であると主張する。
証人上野忠、同菊池健及び同小澤みさをに対する当裁判所の各尋問調書、公判調書(第二四回)中の証人山下玲子の供述部分、売上報告一綴(甲二・48、符122)、水戸小売資料一袋(甲二・45、符119)などによれば、昭和四八年七月中の常陸太田市における貴石等の販売の際、被告会社の社員は、上野忠に対してPTダイヤリング(D二一七六)、PTエメラルドリング(E一三〇五)各一個ほか陶器、絵画を販売し、代金は合計一三〇万円であった(内訳は、ダイヤが八〇万円、エメラルドが二〇万円、陶器が二個で二〇万円、絵画が一〇万円である。)が、代金のうち六五万円が昭和四九年一月に被告会社に支払われ(残金については上野が手形を振出しているが決済はされていない。)、被告会社名義の代金の領収証が渡されていること、また、小澤みさをに対してもPTルビーリング(R三六八)一個を三〇万円で販売し、代金はその場で被告会社の社員に渡されたことが認められ、右各販売は、いずれも被告会社の販売(小売)であると認められる。
ところで、弁護人主張のC商品なるものの性格は、前記のとおりであって、仮に右販売に係るPTダイヤリング等が被告個人の所有の商品であったとしても、前記のとおり、被告会社の販売(小売)であるとの認定を左右するものではない。
四 広瀬徳子への売上の除外について
弁護人は、広瀬徳子に対して販売されたブルーサファイア裸石の商品番号の特定は困難であるが、大きさ(カラット)からみてKS一九七一と考えられるところ、右貴石は、日本橋三越に納入され、昭和四八年八月末又は九月初めに下代六〇〇万円で売上(卸売り)として計上され、右下代は入金済みとなっていると主張する。
公判調書(第三四回)中の証人広瀬徳子の供述部分、富士銀行高円寺支店長作成の確認書(甲一・62)、小売伝票(課税)一綴(甲二・44、符118)などによれば、広瀬徳子は、昭和四八年一一月一九日ころ、三越の外商担当の課長であった近藤康秀から、広瀬の自宅において、「鹿島さんの持っている石」という説明で、ブルーサファイアの裸石を六〇〇万円で購入し、代金支払いのため、振出日同年一一月一九日、金額六〇〇万円、振出人広瀬徳子の小切手を近藤に渡したところ、同小切手については、同月二〇日、被告会社からの取立依頼があり。同月二六日、富士銀行高円寺支店の被告会社の当座預金口座に六〇〇万円が入金となったことが認められる。ところが、小売伝票(免税)一綴(甲二・43、符117)、入出金伝票(49年4月期)一二綴(甲二・13、符87)、銀行勘定帳一綴(甲二・23、符97)、絵画台帳一綴(甲二・77、符151)によれば、被告会社は、右六〇〇万円の入金について、浅井忠の絵画二点(「ぶどう静物」、「朝鮮街頭風景」)の売上(画廊売上)として処理していることが認められ、被告人は、この点につき、私個人のものを売ったが枠付の問題が残っており売上が確定していないので、絵画を売ったことにした旨弁解していた(昭和五〇年四月七日付てん末書)ものであるところ、当公判廷(第六〇回公判調書)において、小切手六〇〇万円のもの一枚とゴルフクラブの会員権二枚(四〇〇万円)の合計一〇〇〇万円で販売したものでありかつ三越の売上である旨の弁解になったものである。しかも、弁護人の主張する商品番号KS一九七一のサファイアは、昭和四八年七月九日にハマチヤンドラから仕入れた一〇・九五カラットのものであるが、同年八月二五日ころから同月末ころにかけて三越本店に下代六〇〇万円で売上げられ、その代金は、広瀬へ販売されたサファイアの代金の入金とは別にそれ以前に入金されていることが認められる。
以上の事実によれば、広瀬に対して販売されたサファイアと弁護人の主張する商品番号KS一九七一のサファイアとは同一の商品であるとは見取られず、また、広瀬に対するサファイアの販売には三越の担当者が介在するものの、代金の入金状況等に照らしてみると、その売買は被告会社の販売(小売)であると認められるのが相当である。
五 氏名不詳者への売上の除外について
弁護人は、小田切英明が氏名不詳者に対して販売したというダイヤモンド裸石は、被告会社ではすでにヤマトヤシキに納入済みであり、担当者である小田切が、個人的にヤマトヤシキから返品を受けてこれを甲府で販売し、私的に利益をあげたものと思われるのであって、この代金一一〇〇万円が被告会社に入金された形跡はまったくないと主張する。
公判調書(第一六回及び第一七回)中の証人小田切英明の供述部分によれば、同人は、山田裕保にアレキサンドライトを二五〇〇万円で売ったころの昭和四九年三月ころにやはり小売で知り合いの人にダイヤモンドを一一〇〇万円で売ったことがあり、代金は全額受け取って被告人に渡していると思う、売りに行ったときもう一人社員がいたと思うが、芝岡清美が売上報告を書いたのならば同人ではないかという旨の供述をし、売上報告一綴(甲二・49、符123)には、昭和四九年二月二七日に、芝岡清美がPTゴールドダイヤ(品番不明)を一一〇〇万円で小売りした旨の記載があり、小売売上帳一綴(甲二・52、符126)にも同旨の記載があることが認められる。売上報告によれば、右販売に係るPTゴールドダイヤの仕入金額は六三一万八九七〇円、仕入先はZ(クローバー)となっているところ、仕入台帳(甲二・32、符106)によれば、右ダイヤは昭和四七年七月一〇日にクローバー社から仕入れた商品番号KD三五九八のゴールドダイヤ一一・七九カラット、仕入金額六三一万八九七〇円であることが明らかである。そして、被告会社は、昭和四八年四月期の棚卸において右ダイヤの棚卸高を五〇一万八九七〇円と圧縮していた(甲二・67、符141、及び甲二・68、符142)が、昭和四九年四月期の棚卸表には右ダイヤの記載がなく、他方、売上帳一綴(甲二・35、符109)によれば、KD三五九八は、昭和四九年二月二日にヤマトヤシキから五〇八万六九五六円で返品されたこととなっているが、これを他に売上げた旨の記帳はされていない。
以上の事実によれば、小田切による氏名不詳者に対するダイヤモンドの販売は、弁護人が主張するように小田切が個人的にヤマトヤシキより返品を受けて、私的に利益をあげたものではなく、被告会社の販売であることが明らかである。
六 山田裕保への売上の繰延べ申告について
弁護人は、山田裕保に対するアレキサンドライトリングの小売は、代金全額が納入された昭和四九年一二月に売上計上すべきものであるところ、被告会社はそのとおり実行していると主張する。
公判調書(第一六回及び第一七回)中の証人小田切英明の供述部分、小田切英明の検察官に対する供述調書、山田裕保作成の申述書(甲一・63)、石川雅勝作成の写真撮影報告書(甲一・64)、メモノート一冊(甲二・109、符181)、小売売上帳一綴(甲二・52、符126)、小売伝票一綴(甲二・53、符127)、売上報告一綴(甲二・49、符123)などによれば、小田切英明は昭和四九年三月中にPTアレキサンドライトリング(KA二〇一)を山田裕保に代金二五〇〇万円で販売(小売)し、被告会社に対して、三月二五日小売、としてその販売事実の報告がなされていること、右代金については、同年九月二五日までに割賦により現金と割引債で二〇〇〇万円が支払われており、小田切を介し、小口のものは経理担当者に渡されているが、それ以外のものについては被告人に渡されていること、小売伝票(甲二・53、符127)では、昭和四九年一二月二七日に全額入金として処理されていることが認められる。
弁護人は、分割払いの場合には、代金全額が納入された昭和四九年一二月に売上計上すべきものである旨主張するが、山田裕保に対するPTアレキサンドライトリング(KA二〇一)の販売については、割賦販売をするにあたり被告会社に当該商品の所有権を留保しかつ販売した月の翌月である昭和四九年四月以降に商品の引渡があったとの特段の事情は窺われず、販売と同時に山田裕保に当該商品の所有権が移転しかつ引渡もあったものと認められるから、昭和四九年三月中に当該商品の販売(小売)があり、物品税の納税義務が成立するものである。
七 佐川藤太への売上の過少申告について
弁護人は、担当した被告会社従業員のミスとしか考えられないと主張する。
証人佐川藤太及び同菊池健に対する等裁判所の各尋問調書、公判調書(第二四回)中の証人山下玲子の供述部分、中野税務署長作成の物品税納税申告書謄本(甲一・122)、売上入金帳一綴(甲二・51、符125)、水戸小売資料一袋(甲二・45、符119)などによれば、昭和四八年七月の常陸太田市における貴石等の販売の際、被告会社の社員は、佐川藤太に対しPTエメラルドリング(KE六六六)を二九万円で販売し、代金は即時に全額支払われていること、それにもかかわらず、売上入金帳(甲二・51、符125)には昭和四八年七月に一五万円で販売した旨の記載がなされ、これに基づいて物品税の申告がなされていることが認められる。
弁護人は、右の食い違いについて、担当した被告会社従業員のミスとしか考えられないと主張するが、前記のとおり常陸太田市において販売された貴石等のうち多数が売上除外されていること、被告会社においては、被告人の指示により、貴石等の小売販売の多くを絵画等美術品の小売販売に仮装し、貴石等の売上除外を行っていること、佐川藤太に販売されたPTエメラルドリングの代金は即時に全額支払われたものであることなどの事情を総合すれば、本件売上の過少申告も、被告人の指示に基づき殊更に販売金額を圧縮して行われたものと認められる。
なお、これは、弁護人が申告除外を争っている小泉明への売上の除外ほか(平山義夫への小判の売上を除く)すべての事例についても同様であり、当該各申告除外は、いずれも被告人の指示に基づき、殊更になされたものであると認められる。
なお、別紙<4>一覧表番号5及び7の物品税額について説明を補足すると、番号5及び7の小売販売数量、金額及び課税標準額はいずれも検察官主張のとおりであるが、納付税額の算出にあたっては当該月に販売された貴石製品等について個々に法定税率を適用して算出すべきものであるから、右の方式に従い算出した結果、検察官主張額と異なるものとなる。
第四関税法違反について
弁護人は、本件輸出、輸入の対象とされた絵画、美術品は、もともと非課税物件であり、「税関手続の適正な処理」という観点からは、申告価格は重要視されるものではなく、また、申告すべき「当該貨物の品名」についても、課税物件であるか非課税物件であるかの特定のためであるから、前期絵画がいかなる作者の作品であるかとの点は右品名に含まれないと解すべきである。したがって、被告人の所為は、関税法一一三条の二所定の虚偽申告罪にあたらない、と主張する。
関係証拠によれば、別紙<5>輸出入申告一覧表記載の輸出、輸入の対象とされた絵画は、いずれも本物の絵画ではなく、商品価値のない模写絵であり、右輸出、輸入は、前記のとおり輸入ユーザンスを利用した被告会社の資金調達を目的として行われていたことが認められ、弁護人もこれを争わないところ、被告会社では、被告人の指示のもとに、右模写絵について、右一覧表品名欄記載の作者ほか有名画家の本物の絵画であり、価格は右一覧表各価格欄記載のとおりである旨の虚偽の申告をなしたものであることは明らかである。そして、輸出又は輸入貨物の申告、検査及び許可という一連の通関手続の際、関税の確定、納付、徴収等が行われることはもちろんであるが、このほかこの通関手続の過程において、税関は、貨物の実体に即し、貨物の輸出入に関する諸法令の規定による最終的な取締りを行うものであり、この観点から関税法六七条は、「貨物を輸出し又は輸入しようとする者は、政令で定めるところにより、当該貨物の品名並びに数量及び価格(中略)その他必要な事項を税関長に申告」するべきこととし、関税法施行令五八条及び五九条が具体的に輸出申告及び輸入申告書に記載すべき事項を定めているのである。したがって、貨物の実体を偽るため、「当該貨物の品名」、「価格」につき、虚偽の事実を申告した以上、関税法一一三条の二の虚偽申告罪の構成要件に該当することはもちろんであるから、所論は採用できない。
(法令の適用)
一 罰条
1 被告会社
判示第一の一及び二の各事実につき、いずれも昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条、一、二項、一六四条一項
判示第二の二の事実につき、各月ごとに物品税法四七条(一項)、四四条一項一号、二項
判示第三の一及び二の各事実につき、いずれも各申告ごとに関税法一一七条、一一三条の二
2 被告人
判示第一の一及び二の各所為につき、いずれも行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一項、裁判時においては右改正後の同法一五九条一項、刑法六条、一〇条により軽い行為時法を適用
判示第二の一の各所為につき、各月ごとに物品税法四七条一項、四四条一項一号
判示第三の一及び二の各所為につき、いずれも各申告ごとに関税法一一七条、一一三条の二
二 刑種の選択
被告人につき、いずれも懲役刑を選択
三 併合罪の処理
1 被告会社
刑法四五条前段、四八条二項
2 被告人
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(刑法及び判情の最も重い判示第二の一の別紙<4>一覧表番号7の刑に加重)
四 刑の執行猶予
被告人につき、刑法二五条一項
五 訴訟費用
被告会社及び被告人につき、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条
(量刑の事情)
本件は、貴石・美術品等の販売を目的とする被告会社において、その代表取締役であった被告人が、判示第一記載のとおり、昭和四八年四月期及び同四九年四月期の二事業年度において、合計一億二〇〇〇万円余の法人税を免れ、また判示第二記載のとおり、被告会社の小売にかかる貴石製品の物品税合計七四一万円余を免れ(判示第二の一については被告会社は訴追されていない。)、さらに判示第三の記載のとおり、輸入ユーザンス等を利用するための手段として、香港における関連法人との間に資金を移動するため、有名画家の模写絵を輸出又は輸入するに際し、税関長に対し虚偽の申告をしたという事案であって、とりわけ法人税法違反事件においては、そのほ脱額が違反当時としては多額にのぼること、税務調査の困難な海外法人を利用した脱税事犯であり、その犯行の手口は二重仕入の計上に限ってみても甚だ悪質、巧妙であると認められること、被告人は、第一回公判以来本件犯行終始否認し、弁護人らと共に検察官の公訴追行を批判し、不当な求釈明を反覆するなどして円滑な訴訟追行を妨げその間自己の納税義務を認めることなく推移し、ために公訴提起から証拠調に入るまでに実に五年弱の期間を空費したものであって、被告人の刑事責任は軽視できないものがある。
しかしながら、他面、本件法人税違反事件については、被告会社の帳簿が杜撰であるのに関係者の供述が充分得られなかったことや香港法人との取引の全容が解明されなかったことなどの事情があるにせよ、捜査が充分でないまま公訴を提起した事情も窺われ、それが第一回公判以来の審理の紛糾の一因をなしたと認められるのであり、審理長期化の責任を被告人のみに課することは適当でないと考えられること、本件ほ脱所得を構成するものの大部分は、期末たな卸の大幅な圧縮によって生じたものであり、犯行手段としてはとくに悪質とはいえない面も存することなど被告人のため斟酌すべき事情も存するうえ、本件違反当時の脱税刑事事件に関する一般的量刑傾向をも加味して考えると、被告人に対する懲役刑については刑の執行を猶予するのが相当である。しかし被告会社に対する罰金刑については貨幣価値の変動を考慮すれば、主文程度の罰金刑はやむを得ない。
(求刑被告会社につき罰金四五〇〇万円、被告人につき懲役一年五六月)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 石山容示 裁判官 鈴木浩美)
別紙<1> 修正損益計算書
No.1
鹿島商事株式会社
自 昭和47年5月1日
至 昭和48年4月30日
<省略>
No.2
<省略>
別紙<2> 修正損益計算書
No.1
鹿島商事株式会社
自 昭和48年5月1日
至 昭和49年4月30日
<省略>
No.2
<省略>
別紙<3>
法人税額計算書
<省略>
法人税額計算書
<省略>
別紙<4> 一覧表
<省略>
別紙<5> 輸出入申告一覧表
<省略>
別紙<6> たな卸除外額修正一覧表
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>