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東京地方裁判所 昭和51年(特わ)329号 判決 1976年3月05日

本籍

東京都江戸川区小岩三丁目一〇〇四番地

住居

ドイツ連邦共和国ハンブルグ七六アイルベカーヴエグ一八七

歯科医師

今井利廣

昭和六年八月二〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官神宮寿雄出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役六月および罰金六五〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都千代田区丸の内三丁目三番一号新東京ビル地下一階において、丸の内今井歯科診療所を経営していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、保険診療差額および自由診療収入の一部を除外し薄外預金として蓄積するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和四七年分の実際総所得金額が三二三九万一三三〇円あつたのにかかわらず、昭和四八年三月一三日東京都千代田区錦町三丁目三番地所在の所轄麹町税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一八三〇万四四六九円でこれに対する所得税額が四七六万九三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同年分の正規の所得税額一三〇八万七二〇〇円と右申告税額との差額八三一万七九〇〇円を免れ(修正貸借対照表および税額計算書は別紙(一)(四)のとおり)

第二  昭和四八年分の実際総所得金額が二七一〇万二四一三円あつたのにかかわらず、昭和四九年三月八日前記麹町税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一四八八万七一六九円でこれに対する所得税額が三五三万四八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同年分の正規の所得税額一〇四五万一二〇〇円と右申告税額との差額六九一万六四〇〇円を免れ(修正貸借対照表および税額計算書は別紙(二)(四)のとおり)

第三  昭和四九年分の実際総所得金額が三七四一万五九六五円あつたのにかかわらず、昭和五〇年三月一五日前記麹町税務署において同税務署長に対し、総所得金額が一三八四万五〇四八円でこれに対する所得税額が一八六万二四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同年分の正規の所得税額一四九四万六〇〇〇円と右申告税額との差額一三〇八万三六〇〇円を免れ(修正貸借対照表および税額計算書は別紙(三)(四)のとおり)

たものである。

(証拠の標目)

判示全般の事実につき

一、被告人の検察官に対する供述調書

一、被告人の収税官吏に対する昭和五〇年一一月三日付、同月八日付各質問てん末書

一、麹町税務署長作成の証明書

一、押収してある総勘定元帳四冊(当庁昭和五一年押第三九三号の一ないし四)、確定申告書三通(前同押号の五ないし七)

別紙(一)(二)(三)の各科目につき

一、大蔵事務官作成の預貯金の残高調査書

(別紙(一)(二)(三)の各番号<3>定期預金、各番号<4>その他の預金につき)

一、蓑輪昭二作成の上申書(記録第七七号と表示されているもの)(別紙(一)(二)(三)の各番号<5>未収入金につき)

一、大蔵事務官作成有価証券等調査書

(別紙(一)(二)(三)の各番号<6>有価証券につき)

一、検察事務官作成の捜査報告書

(別紙(一)(三)の各番号<8>前払費用につき)

一、大蔵事務官作成の貸付金調査書

(別紙(二)の番号<8>貸付金、別紙(三)の番号<9>貸付金につき)

一、大蔵事務官作成の減価償却費調査書

(別紙(一)の番号<9>建物造作、番号<11>工具、器具、備品、別紙(二)の番号<9>建物造作、番号<11>工具、器具、備品、別紙(三)の番号<11>造作、番号<13>工具、器具、備品につき)

一、大蔵事務官作成の事業主貸(店主勘定)調査書および蓑輪昭二作成の上申書(記録第七八号と表示されているもの)(別紙(一)の番号<14>事業主貸、別紙(二)の番号<15>事業主貸、別紙(三)の番号<17>事業主貸につき)

一、大蔵事務官作成の銀行借入金調査書合計表および個人借入金調査書(別紙(一)の番号<15>借入金、別紙(二)の番号<16>借入金、別紙(三)の番号<18>借入金につき)

一、措置法第二六条経費差額調査書(別紙(一)の番号<21>措置法第二六条経費差額、別紙(二)の番号<23>措置法第二六条経費差額、別紙(三)の番号<26>措置法第二六条経費差額につき)

一、大蔵事務官作成の預金利子等調査書(別紙(一)の番号<22>利子所得((分離課税))および利子所得、別紙(二)の番号<24>利子所得((分離課税))および利子所得、別紙(三)の番号<27>利子所得((分離課税))および利子所得につき)

別紙(四)につき

一、蓑輪昭二作成の上申書(記録第七八号と表示されているもの)

(別紙(四)の昭和四九年分生命保険料控除につき)

一、大蔵事務官作成の納付源泉税調査書および預金利子調査書(別紙(四)の源泉徴収税額につき)

(法令の適用)

一、該当罰条と刑種の選択

判示第一、第二、第三の各事実……所得税法二三八条懲役刑、罰金刑併科

一、併合罪加重……刑法四五条前段

懲役刑につき……刑法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)

罰金刑につき……刑法四八条二項

一、換刑処分‥‥‥‥罰金刑につき刑法一八条

一、執行猶予‥‥‥‥懲役刑につき刑法二五条一項

(情状について)

被告人は昭和四四年に学内粉争が原因で、東京大学附属病院歯科口腔外科外来医長の職を辞し、歯科医を開業したが、大学における研究生活に戻りたいとの気持もあり、海外への留学を考え、その資金を蓄積するため本件脱税におよんだものである。その結果、三ヶ年で合計二八三一万七九〇〇円におよぶ税額をほ脱し、その資金で現在留学中でありその情状は軽いとは言えないが、他方脱税の方法は差額診療分、自由診療分のうち患者に領収書を発行していない分の収入を薄外預金として蓄積するもので、さほど功妙とは言えず、本件摘発後、自己の非を深く反省し、昭和四六年分以降の修正申告をして加算税等を含めて全額納税した結果、薄外資金もほとんど底をつき、留学の継続も危ぶまれる状態となり、さらに本件有罪判決により研究生活の復帰も当分断念せざるを得ない状況であることなど諸般の情状を考慮して主文のとおり量刑する。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 安原浩)

別紙(一)

修正貸借対照表

今井利廣

昭和47年12月31日

<省略>

<省略>

別紙(二)

修正貸借対照表

今井利廣

昭和48年12月31日

<省略>

<省略>

別紙(三)

修正貸借対照表

今井利廣

昭和47年12月31日

<省略>

<省略>

別紙(四)

税額計算書

今井利廣

<省略>

(注1) 31,652,000×60%=18,991,200-3,284,000=15,707,200

(注2) 26,282,000×60%=15,769,200-3,284,000=12,485,200

(注3) 36,617,000×60%=21,970,200-4,761,000=17,209,200

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