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東京地方裁判所 昭和51年(行ウ)119号 判決 1978年1月23日

原告

山田隆雄

被告

渋谷区長

天野房三

右指定代理人

嶋本全宏

外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和五一年五月一九日付で原告に対してなした休職処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二  当事者双方の主張

一  請求の原因

1  原告は渋谷区代々木八幡区民会館に単純労務者として勤務する一般職の地方公務員であるが、昭和五一年四月九日別紙記載の暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、傷害の罪により東京地方裁判所に起訴されたため、原告の任命権者である被告は原告に対し、同年五月一九日右起訴を理由として地方公務員法二八条二項二号により分限処分として休職を命じた。<後略>

理由

一請求原因1の事実については当事者間に争いがない。

二そこで本件休職処分の取消事由について検討する。

1  地方公営企業労働関係法一三条違反について

原告が地方公務員法五七条所定の単純労務者であること、渋谷区に原告主張の苦情処理共同調整会議が設置されていないことについては当事者間に争いがない。そして地方公営企業労働関係法附則四項によれば、地方公務員法五七条所定の単純労務者の労働関係その他身分取扱については同法(第一七条を除く)及び地方公営企業法三七条から三九条までの規定が準用され、地方公営企業労働関係法一三条の規定は使用者及び組合に対して職員の苦情処理機関として前記調整会議の設置を義務づけてはいるが、同法附則四項、同法五条及び一三条の各規定の趣旨を総合すれば、右調整会議の設置が義務づけられるのは、地方公務員法上の単純労務者が、すくなくともその主体となつて構成している労働組合が存在している場合に限られ、右のような労働組合が存在しない場合に、なおかかる調整会議を設置するかどうかは、全く使用者等の自由に委ねられているものと解されるところ弁論の全趣旨によれば渋谷区には地方公務員法五二条以下の規定に基づき結成された職員団体が存在するが、前記のように単純労務者が主体となされ構成された労働組合は存在しないことが認められるのであつて、渋谷区に苦情処理共同調整会議を設置すべき義務が存しないことは明らかであり、また単純労務者については地方公営企業法三九条により、地方公務員法四九条の適用が排除されていることは原告主張のとおりであるが、同時に不利益処分に対する訴願前置主義の適用も排除されている結果、不利益処分を受けた単純労務者は直ちにその取消訴訟が提起でき、従つて苦情処理共同調整会議を設置しないことによつて原告の不服申立の道を閉しているともいえないからこの点からみても原告の右主張は理由がない。

2  諮問手続の瑕疵について

原告は被告が本件休職処分をなすにあたり審査委員会になした諮問手続に瑕疵があり、又、右審査委員会の構成が不公正であるから本件休職処分は違法である旨主張するので、この点について見るに、審査委員会の設置を定めた懲戒分限規程が昭和五一年五月一日から適用されるものと定められていること、被告が右適用日前の昭和五一年四月三〇日に審査委員会に対して本件休職処分に関する諮問をし、審査委員会が同年五月四日に答申したことは当事者間に争いがなく、この事実と<証拠>を総合して考えると、審査委員会は同年五月一日以前には存在しなかつたのであつて、同年五月四日になされた審査委員会の答申は、同年四月三〇日になされた被告の諮問を審査委員会が発足と同時に受理したものと解することができるから、諮問手続に瑕疵があつたということはできないし、また、懲戒分限規程において審査委員長を渋谷区長とする旨定めていることは当事者間に争いのないところであるが審査委員会自体が任意的な意見具申機関であつて、その答申が被告を拘束するものではないことが明らかであるのみならず、右の審査委員会の性格にかんがみれば、審査委員長が処分権者である被告だからといつて、直ちに答申の公正が害されるものとはいえない。従つてこの主張も理由がない。

3  不当労働行為について

原告が渋谷区職員労働組合の構成員であることについては当事者間に争いがないが、本件休職処分は前述のとおり、原告が刑事事件に関し起訴されたため、地方公務員法二八条二項二号に従つてなされたものであり、原告が右組合の構成員であることを理由に本件休職処分をなしたものと認めるに足りる証拠はない。

4  地方公務員法二七条一項違反について

原告は渋谷区には処分基準を明示した条例等が定められておらず、又、被告は本件休職処分をなすにあたり前記公訴事実の存否を全く考慮していないので、本件休職処分は公正を欠く旨主張するが、地方公務員法二八条三項の規定によれば、職員の分限処分の手続及び効果については、法律に特別の定がある場合を除くほか、条例で定めることが要求され、<証拠>によれば、渋谷区は、この規定に基づき「職員の分限に関する条例(昭和二七年条例第七号)」を制定しているが、それ以外の原告主張にかかる条例の制定は法の要求するところではなく、又起訴休職制度の設けられた所以は、起訴された公務員も有罪判決が確定するまでは無罪の推定を受けるものの、当該公務員の地位、職務内容、公訴事実の内容、罪名身柄拘束等のいかんによつては、刑事訴追を受けたことそれ自体によつて、その職務の遂行、職場秩序、規律の維持に対する支障を生ずることがあるばかりか、その職務の遂行に対する住民の信頼をゆるがせ、ひいては官職全体の信用を失墜させるおそれがあり、これらの支障を排除するために当該公務員をその刑事事件が裁判所に係属する間に限り一時的にその職務執行から排除し、官職全体に対する信用を保持するにあるが、他方起訴休職処分を受けた公務員は休職期間中俸給その他の面において諸種の不利益を蒙るのであるから任命権者は、起訴休職処分をするに当つては、刑事訴追を受けたことのほかに前記休職制度の趣旨、目的、休職者の受ける不利益等を十分考慮したうえ事を決すべきは当然であるが、前記記訴休職制度の趣旨、目的に照らすと、公訴事実の存在が明らかでなければ起訴休職処分をなしえないものではなく、従つてまた任命権者は公訴事実の存否についてまで立入つて詳細に調査する必要がないのであるから、被告が右の調査をしなかつたらといつて本件休職処分が違法となるものではない。

5  裁量権の濫用について

本件処分が裁量権の行使についてその範囲を著しく逸脱し、これを濫用するものであるか否につき検討する。地方公務員法三三条は職員の信用失墜行為を禁じているところ、原告が前記公訴事実及び罪名で起訴されたことについては当事者間に争いがなく、公訴事実の存否は刑事訴訟において確定されるものであるにせよ右公訴事実として摘記された原告の行為は、一般社会人としての節度を著しく逸脱した違法不当な行為で国民一般の強い非難に値する内容のものであることが明らかであり、右公訴事実が公務に基因するものでないとしても原告がそのような犯罪の嫌疑を受けて起訴されたということそれ自体が原告に職員としての信用失墜行為があつたという疑惑を生じさせるに充分であつたといわざるを得ない。又、地方公務員法三〇条、三五条は職員の職務専念義務を定めているが、原告が前記公訴事実記載の日時に現行犯逮捕され、昭和五一年六月一六日に保釈されるまで勾留が継続されていたことについては当事者間に争いがなく、右事実によれば、原告は本件休職処分の発令当時(同年五月一九日)、既に六〇日余も勾留を継続されていたのであるから、職務に従事することは不可能であり、公務員として職務専念義務を完遂できず、職務の遂行に重大な支障を生じさせていたことが明らかである。

(三)(ママ) 右のとおり、公務に対する住民一般の信頼及び職務の遂行等いずれの点から考えてみても、被告が原告を従前どおり職務に従事させることを不適当と判断し、休職を命じたことには十分な合理性があり、必要性があるというべきであり、他に別段の立証のない本件においては本件休職処分につき被告において裁量権の行使の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法はなく、原告の右主張は理由がない。

三よつて、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(原島克己 福井厚士 仲宗根一郎)

公訴事実

原告は、革命的労働者協会に所属する者であるが、原告ほか多数の者と共謀のうえ、昭和五一年三月一九日午前一一時二九分ころから同一一時三二分ころまでの間、東京都新宿区霞岳町一番地明治公園において、かねて対立抗争中の国鉄動力車労働組合青年部所属の野々瀬徳志郎ら三六名に対し、共同して所携のコーラびん等を投げつけ、手挙あるいは竹竿等で殴打するなどの暴行を加え、もつて右野々瀬ら三一名に対し数人共同して暴行を加えるとともに、大久保孟ら五名に対し全治三週間ないし一週間の各傷害を負わせたものである。

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