東京地方裁判所 昭和51年(行ウ)149号 判決 1979年7月25日
東京都荒川区西尾久一-三一-一五
原告
大関直吉
右訴訟代理人弁護士
田口穣
東京都荒川区西日暮里六-七-二
被告
荒川税務署長
伊藤他喜蔵
右指定代理人
藤村啓
同
三上正生
同
小笠原忠
同
吉岡榮三郎
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
(当事者の求めた判決)
第一請求の趣旨
被告が昭和五〇年三月七日付でした原告の昭和四六年分及び昭和四八年分所得税についての更正処分及び重加算税賦課決定処分を取り消す。
訴詮費用は被告の負担とする。
第二請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
(当事者の主張)
第一請求原因
一 原告は、昭和四六年分の所得税について昭和四七年三月一五日確定申告をしたところ、被告は、いったんこれを減額する更正処分を行った後、昭和五〇年三月七日付で増額再更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をした。原告は、これに対し異議申立て及び審査請求をしたが、過少申告加算税賦課決定処分が取り消されたのみで、その余はいずれも棄却された。その経緯は次表(一)のとおりである。
また、原告は、昭和四八年分の所得税について昭和四九年三月一五日確定申告をしたが、被告は、これについても昭和五〇年三月七日付で増額更正処分及び重加算税賦課決定処分を行い、これに対する原告の異議申立て及び審査請求は棄却された。その経緯は次表(二)のとおりである。
表(一)(昭和四六年分)
<省略>
表(二)(昭和四八年分)
<省略>
二 しかし、原告の昭和四六年分所得税についてなされた再更正処分及び重加算税賦課決定処分(以下、これらを一括して「本件更正処分(一)」という。)は、原告の分離短期譲渡所得を過大に認定した違法があり、また、昭和四八年分所得税についてなされた更正処分及び重過算税賦課決定処分(以下、これらを一括して「本件更正処分(二)」という。)は、原告の事業所得を過大に認定した違法があり、いずれも取消しを免れない。
よって、本件更正処分(一)(二)の取消しを求める。
第二請求原因に対する認否
一 請求原因一の事実は認める。
二 同二の主張は争う。
第三被告の主張
一 昭和四六年分
被告が本訴で主張する原告の分離短期譲渡所得金額は、次表(三)のとおり一一八八万一七一〇円であり、本件更正処分(一)において被告が認定した額はその範囲内である一一二二万一七〇〇円であるから、本件更正処分(一)は適法である。
表(三)
<省略>
1 譲渡所得金額について
(一) 原告は、藤平利雄を代理人として原告所有の甲府市平瀬町三一七〇番地一外四筆の山林(以下「本件山林」という。)を埼玉県鳩谷市三ツ和二九三〇番地(契約書記載の住所地)の木村宏司に対し代金一三五〇万円で売却したとし、右譲渡代金一三五〇万円から本件山林の取得費一二九七万八八九〇円と譲渡費用七九万九四一〇円との合計一三七七万八三〇〇円を差し引き、二七万八三〇〇円の譲渡所得の損失があるとして申告した。
(二) しかしながら、被告の調査したところによれば、原告は本件山林を代金二五〇〇万円で山岸修和に譲渡しているものであり、申告された取引は、買主の木村なる者が契約書記載の住所地に居住していないことからも明らかなように、架空の取引である。
また、譲渡費用も、旅費三万九四〇〇円及び松本勝男に対する名義手数料一〇万円の合計一三万九四〇〇円が認められるにすぎない。
(三) したがって、原告の分離短期譲渡所得金額は、収入金額二五〇〇万円から取得費一二九七万八八九〇円と譲渡費用一三万九四〇〇円を控除した一一八八万一七一〇円である。
2 重加算税について
前記のとおり、原告は架空の取引に基づき所得金額の一部を除外して確定申告書を提出したものであり、右行為は国税通則法六八条一項に規定する課税標準等の計算の基礎となる事実の仮装又は隠ぺいに該当するから、被告は同条の規定を適用して重加算税の賦課決定処分を行った。
二 昭和四八年分
被告が本訴において主張する原告の事業所得金額は、次表(四)のとおり一八五九万九六六六円であり、本件更正処分(二)において被告が認定した額はその範囲内である一七四八万二六六六円であるから、本件更正処分(二)は適法である。
表(四)
<省略>
1 収人金額(売上計上漏れ九〇万円)について
(一) 原告は、昭和四八年において原告所有の埼玉県北葛飾郡鷲宮字前野一〇三六番地(以下「前野」という。)の建売住宅(土地付き)五棟及び同町大字鷲宮字宮前一四五〇番地(以下「宮前」という。)の建売住宅(土地付き)一一棟合計一六棟を売却したが、確定申告においてその売却代金総額は一億〇二八五万円であると申告し、そのうち岡安康良に売却した一棟については、昭和四八年三月一〇日に七〇〇万円で売却したとしている。
(二) しかしながら、原告と岡安との建売住宅一棟の売買契約は昭和四八年七月八日に代金八〇〇万円で締結され、その後一〇万円が値引きされて結局七九〇万円で売却されているのであり、岡安に対する売却による原告の収入金額は七九〇万円である。したがって、原告の譲渡所得に係る総収入金額は、原告との間に争いのないその他の売上金額九五八五万円(申告額一億〇二八五万円から岡安に対する売却代金七〇〇万円を減算した金額)に右岡安に売却した売上金額七九〇万円を加算した一億〇三七五万円となる。
2 必要経費(外注費否認一二〇六万七〇〇〇円)について
(一) 原告は、前記建売住宅一六棟を建設するに際し、外注費として山喜工務店(領収書記載の所在地・埼玉県幸手町下吉羽一二四二)に一二七〇万円、中井工務店(領収書記載の所在地・千葉県市川市北方三-六-五)に二六五万円、増田建設株式会社(以下「増田建設」という。)に二八七二万二〇〇〇円、その他に一五二二万一三二四円、合計五九二九万三三二四円を支払ったとして申告した。
(二) しかし、被告の調査によれば、前野の建売住宅五棟の全部及び宮前の建売住宅一一棟のうち九棟は増田建設が、宮前の残り二棟は内田春吉がそれぞれ工事を請け負って建築したものであり、山喜工務店、中井工務店は架空の業者(領収書記載の所在地に存在しない。)であって、右建売住宅の建築に関係しているとは認められず、両工務店に支払われたとする一五三五万円の外注費は架空の経費である。
ところで、増田建設が前記一四棟の建売住宅を建築したことに伴って同建設に支払われた外注費は合計二七九六万一〇〇〇円であり、原告の申告額二八七二万二〇〇〇円との差額七六万一〇〇〇円は重複して計上されていたものであるので否認した。また、内田春吉に対する支払額は調査によっても明らかにできなかつたため、同人の請け負つた二棟と仕様及び建築時期をほぼ同じくする増田建設の建築に係る宮前の建売住宅九棟の建築費一八二〇万円を基礎にして一棟当たりの本体工事費を算出すると二〇二万二〇〇〇円(千円未満切り捨て)となるので、内田に対する外注費は二棟分四〇四万四〇〇〇円と認定した。
(三) そうすると、外注費の金額は、増田建設分二七九六万一〇〇〇円、内田分四〇四万四〇〇〇円、その他の分一五二二万一三二四円の合計四七二二万六三二四円となり、原告申告額五九二九万三三二四円との差額は一二〇六万七〇〇〇円となる。
3 必要経費(支払手数料加算四〇万円)について
前記岡安に建売住宅一棟を売却するについて、竹内義雄がこれを仲介し、同人に手数料として四〇万円が支払われているので、これを必要経費に加算した。
4 事業所得金額について
以上に基づき原告の昭和四八年分の事業所得金額を算出すると、必要経費の金額は、前記外注費四七二二万六三二四円と支払手数料四〇万円に原告との間に争いのない経費三七五二万四〇一〇円を加算した八五一五万〇三三四円となるので、前記事業所得金額に係る総収入金額一億〇三七五万円から右必要経費を控除した一八五九万九六六六円が原告の事業所得金額である。
5 重加算税について
前記のとおり、原告は架空の外注費等を計上して所得金額を過少に申告したものであり、右行為は国税通則法六八条一項に規定する課税標準等の計算の基礎となる事実の仮装又は隠ぺいに該当するから、被告は同条の規定を適用して重加算税の賦課決定処分をした。
第四被告の主張に対する認否と原告の反論
一 被告の主張一の冒頭の主張は争う。同一1(一)の事実は認めるが、同一1(二)(三)及び同一2の事実と主張は争う(ただし、木村宏司が契約書記載の住所地に居住していないことは認める。)。
二 同二の冒頭の主張は争う。同二1(一)の事実は認めるが、同二1(二)の事実は否認する。同二2(一)の事実は認めるが、同二2(二)(三)の事実と主張は争う(ただし、山喜工務店と中井工務店が領収書記載の所在地に存在しないことは認める。)。
同二3のうち、岡安に建売住宅一棟を売却するについて竹内が仲介したことは認めるが、その余は争う。同二4、5の主張は争う。
三 本件山林の売買について
木村は現在その所在が不明であるけれども、原告は真実本件山林を木村に代金一三五〇万円で売却したのであり、被告が買主と主張する山岸とは一度も会ったことがない。本件山林の所有権が登記簿上原告から山岸に直接移転しているのは、いわゆる中間省略答記によったものであると思われる。また、原告は、藤平に本件山林の売却に対する報酬として五〇万円を支払っており、売却に要した費用は七九万九四一〇円である。
四 岡安に対する建売住宅の売却について
原告は、岡安に売却した建売住宅一棟の販売を竹内に依頼したが、その依頼内容は、売買代金、塀の工事、宣伝広告等はすべて竹内に一任する代わりに、原告の手取額は七〇〇万円とし、その額と実際の代金額との差額は竹内の収入とするというものであり、現実にも原告は七〇〇万円を取得したのみである。
五 外注費について
前野の建売住宅五棟のうち、増田建設が当初から請け負つて完成させたのは三棟であり、残り二棟は、最初中井工務店に工事を請け負わせたが、中途で工事を放棄したので、その後は増田建設に依頼して工事を完成させたものである。また、宮前の一一棟についても、増田建設が当初から請け負って完成させたのは六棟で、残りの五棟は、山喜工務店に請け負わせたが、そのうち二棟は完成したものの三棟は中途で山喜工務店が工事を放棄したので、その後は増田建設に工事を引き継がせて完成させたものである。そして、原告は中井工務店、山喜工務店、増田建設に確定申告書記載のとおりの金額を工事代金として支払っているのであり、中井工務店、山喜工務店が現在行方不明であるからといつて、両工務店に対する支払いを否認するのは不当である。また、当時は、木材を中心とした物価が急騰していた時期であり、いかに建売住宅とはいえ、建坪約一七坪の建物一棟を被告主張のように僅か二〇二万円(坪単価一一万八〇〇〇円)程度で建築するなどということは不可能である。
(証拠)
第一原告
一 甲第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第五号証の一ないし九、第六号証、第七号証の一ないし四
二 証人内田春吉、同竹内義雄、同藤平利雄、同山岸修和、同坂巻良夫の各証言及び原告本人尋問の結果
三 乙第六ないし第一二号証、第二五、第二六、第三〇、第三一号証、第三五ないし第五〇号証の成立及び第二一号証、第二二号証の一ないし三、第二三、第三二号証、第五一ないし第五四号証、第五五号証の一、二の原本の存在と成立は認める。乙第三、第四号証の各一、二、第一三ないし第一五号証、第一八ないし第二〇号証、第二四号証、第二七ないし第二九号証、第三三、第三四号証の成立及び第一号証、第二号証の一、二、第一六号証、第一七号証の一、三の原本の存在と成立は不知。乙第五号証の原本の存在及び官公署作成部分と原告名下の印影が原告の印章によるものであることは認めるが、その余の成立は不知。乙第一七号証の二の原告の署名押印部分の成立は否認し、原本の存在とその余の部分の成立は不知。
第二被告
一 乙第一号証、第二ないし第四号証の各一、二、第五ないし第一六号証、第一七号証の一ないし三、第一八ないし第二一号証、第二二号証の一ないし三、第二三ないし第五四号証、第五五号証の一、二
二 証人平尾昇、同下福透の各証言
三 甲第七号証の一ないし四の原本の存在と成立は認め、その余の甲号各証の成立は不知。
理由
一 請求原因一の事実は当事者間に争いがない。
二 本件更正処分(一)の適否
1 被告の主張一1(一)の事実は当事者間に争いがない。
2 証人山岸修和の証言により原本の存在と真正に成立したことが認められる乙第一号証、第二号証の一、二、同証言により真正に成立したと認められる乙第三、第四号証の各一、二、第一三号証、原本の存在と官公署作成部分が真正に成立したことは争いなく、その余の部分も同証言により真正に成立したと認められる(なお、原告名下の印影が原告の印章によるものであることは争いがない。)乙第五号証、成立に争いのない乙第六号証、第一〇ないし第一二号証、第三〇、第三一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一四、第一五号証並びに証人平尾昇、同山岸修和の各証言によれば、原告は、昭和四六年一月二二日都内豊島区池袋にある知人の事務所で山岸修和と会い、同人に対し本件山林を代金二五〇〇万円で売却する契約を締結し、同人よりその場で一〇〇〇万円、同年三月三一日甲府市内で一五〇〇万円を受領したこと、右売買契約書の売主名義及び代金領収書の作成名義は原告ではなく大和スキー観光不動産部となつているが、これは、原告が右売買に関して自己の名が書類上に顕われるのを避けるため知り合いであつた大和スキー開発株式会社の松本勝男から名前を貸してもらつたものであり、真実の売主(所有者)が原告であることは当事者間で十分了解されていたことが認められる。
原告は、本件山林を山岸に売却したことはなく、そのころ藤平利雄を代理人として木村宏司に代金一三五〇万円で売却したと主張し、甲第一ないし第三号証、乙第二五号証、証人藤平利雄の証言、原告本人尋問の結果はこれにそうものであるが、右木村なる者が契約書(甲第一号証)の住所に居住していないことは当事者間に争いがないばかりでなく、木村が実在の人物であることを窺わせる客観的証拠も全く提出されていないこと並びに右証人及び原告本人の供述は重要な点において著しく不自然かつ曖味で相互に矛盾がみられることなどに加え、前記認定の際に引用した前掲乙第一号証以下の証拠を勘案すれば、原告の主張にそう右証拠は到底措信することができず、かえって、原告の主張する木村との取引は架空の取引であって、右甲第一ないし、第三号証の契約書等は原告が前記認定の売買の事実を隠ぺい、仮装するために作成した虚偽のものであると認めるのが相当である。
3 前掲乙第一四号証によれば、原告は、本件山林を山岸に売却するについて前記のとおり売主名義に大和スキー観光不動産部という名称を使用させてもらったことに対する謝礼として松本勝男に一〇万円を支払ったことが、また、成立に争いのない乙第二五号証によれば、本件山林売却のため旅費三万九四〇〇円を支出していることが、それぞれ認められる。
原告は、本件山林の譲渡費用は七九万九四一〇円であり、そのうち五〇万円は本件山林の木村に対する売却の仲介をした藤平に支払った旨主張するが、前記認定事実からすると、藤平に対する仲介料五〇万円の支出はもとより架空というべきであり、また、本件全証拠によっても、前記認定の一三万九四〇〇円(一〇万円+三万九四〇〇円)以外に原告が山岸に対する本件山林の譲渡について経費を支出したことを認めることはできない。
4 そこで、原告の昭和四六年分の譲渡所得金額を計算すると、前記のとおり収入金額は二五〇〇万円、譲渡費用は一三万九四〇〇円であり、取得費が一二九七万八八九〇円であることは当事者間に争いがないから、譲渡所得金額は収入金額から取得費と譲渡費用との合計一三一一万八二九〇円を控除した一一八八万一七一〇円となるところ、本件更正処分(一)の認定した額はその範囲内である一一二二万一七〇〇円であるので、右認定は適法である。
また、前記認定事実によれば、原告は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい、仮装して、その隠ぺい、仮装したところに基づいて納税申告書を提出していたものというべきであるから、重加算税の賦課を免れない。
三 本件更正処分(二)の適否
1 収入金額(売上計上漏れ九〇万円)について
(一) 被告の主張二1(一)の事実は当事者間に争いがない。
(二) 証人竹内義雄の証言により原本の存在と真正に成立したことが認められる乙第一六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる乙第一八号証、同号証と弁論の全趣旨により原本の存在と真正に成立したことが認められる乙第一七号証の一ないし三、成立に争いのない乙第二六、第四八号証並びに証人平尾昇、同竹内義雄(一部)の各証言によれば、原告は株式会社大建の名をもつて宮前の建売住宅一棟を昭和四八年七月八日竹内義雄を代理人として岡安康良に代金八〇〇万円で売却したが、その後一〇万円を値引きしたため代金額は七九〇万円となつたこと、そして、岡安は同年一〇月一日までに代金七九〇万円全額の支払いを了し、竹内は、その中から四〇万円を自己の手数料として差し引き、残り七五〇万円を原告に交付したことが認められる。
原告は、右建売住宅の販売については、竹内と原告との間で、販売費用等は竹内が負担する代わりに原告の手取額を七〇〇万円とし、その額と実際の代金額との差額は竹内の収入とする旨の合意があつたと主張し、甲第六号証、証人竹内義雄の証言及び原告本人尋問の結果はこれにほぼ符合するものであるが、右甲第六号証は、本件全証拠によってもその作成経過が不明であるうえ、これに記載された契約日と前掲乙第一七号証の一ないし三、第四八号証によって明らかな代金受領日及び登記の日とがかけ離れていることなどから証拠としての価値にとぼしく、また、右証言及び本人尋問の結果も前掲各証拠に照らして措信することができない。かえって、前記認定事実を勘案すれば、右甲第六号証の契約書は原告が真実の売買代金を隠ぺい、仮装するために作成した虚偽のものであると推認すべきである。
(三) そうすると、原告の岡安に対して建売住宅一棟を売却したことによる収入金額は売買代金額に相当する七九〇万円と認むべきであり、これに争いのない他の事業所得に係る収入金額九五八五万円を加算すると、その合計の収入金額は一億〇三七五万円となる。
2 必要経費(外注費否認一二〇六万七〇〇〇円)について
(一) 被告の主張二2(一)の事実は当事者間に争いがない。
(二) 前掲乙第二六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一九、第二〇、第二七、第三三、第三四号証、証人下福透の証言により真正に成立したことが認められる乙第二八、第二九号証並びに証人平尾昇の証言によれば、原告は、前野の建売住宅五棟全部及び宮前の建売住宅一一棟のうち九棟の建築(建物の本体工事)を増田建設に、宮前の残り二棟の建築(建物の本体工事)を内田春吉にそれぞれ請け負わせ、増田建設は請け負った分をすべて完成させたが、内田は仕上がり途上で工事を増田建設に引き継ぎ、増田建設において内田が当初請け負った二棟の工事も完成させたことが認められる。
原告は、前野の二棟は中井工務店に、宮前の五棟は山喜工務店に請け負わせたと主張し、甲第四号証の一、二、第五号証の一ないし九、証人竹内義雄、同内田春吉、同坂巻良夫の各証言及び原告本人尋問の結果はこれに符合するものであるが、中井工務店、山喜工務店が右甲号証(領収書)に記載された所在地に存在しないことは当事者に争いがなく(原本の存在と真正に成立したことが争いのない乙第二一号証、第二二号証の一ないし三、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第二四号証及び証人平尾昇の証言によれば、右領収書に記載された山喜工務店の所在地は田地であり、中井工務店の所在地は畑地であること、また、中井工務店の所在地とされている市川市内の建設業者を主体として構成されている市川建設業組合の会員名簿には中井工務店という業者は見当たらないことが認められる。)、両工務店が実在することを窺わせる客観的証拠も全く提出されていないこと並びに中井工務店作成名義の領収書(甲第四号証の一、二)と山喜工務店作成名義の領収書(同第五号証の一ないし九)とが同一筆跡で同一人の作成に係るものと推認されることなどからすれば、原告の主張にそう右証拠は措信することができず、かえって、前記認定に供した証拠を勘案すると、両工務店は架空の業者であって、右甲号証の領収書は原告が経費の支出を仮装するために作成した虚偽のものと認めるに十分である。
(三) 前記(二)の事実並びに前掲乙第二七、第二八号証、原本の存在と真正に成立したことが争いのない乙第五四号証、第五五号証の一及び証人平尾昇、同下福透の各証言によれば、前記建売住宅の請負工事代金(水道工事費、ブロック工事費、浄化槽工事費等を除く。以下同じ)として原告が増田建設に支払った金額は、前野の五棟分が九七六万一〇〇〇円、宮前の九棟分が一八二〇万円合計二七九六万一〇〇〇円であることが認められる(原告は増田建設に二八七二万二〇〇〇円を支払ったと申告しているが、七六万一〇〇〇円は重複計上であると認められる。)。
ところで、内田春吉が当初請け負った宮前の二棟に関する工事代金(内田に支払われた分だけでなく、増田建設が後に工事を引き継いだことによるその工事代金も含む。)の具体的金額は、本件全証拠によつても明らかでないので、他の資料からこれを推計するほかないが、成立に争いのない乙第四〇ないし第五〇号証によれば、宮前の一一棟は、昭和四八年二月から同年九月までに建築されたものであって、ほぼ同構造・同規模(建坪約一七坪)であることが認められ、また、同一人の発注に係る建売住宅であることからすれば、ほぼ同じ仕様、材質によるものと推定されるから、宮前における増田建設の一棟当たりの工事代金から右二棟の工事代金額を推計することが最も合理的であるというべきところ、増田建設に支払われた宮前の工事代金は前記のとおり九棟で一八二〇万円であるので、これを一棟当たりの工事代金に引き直してみると、その金額は二〇二万二〇〇〇円(千円未満切り捨て)となる。したがって、前記二棟の工事代金は四〇四万四〇〇〇円であつたと認めるのが相当である。
原告は、木材等の物価が急騰していた当時においては、右のような低廉な金額で建物を建築することは不可能であると主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない(前記のとおり、水道工事費、ブロツク工事費、浄化槽工事費等は右認定の工事代金の中に含まれていない。)。
(四) そうすると、前記建売住宅一六棟(前野五棟、宮前一一棟)の外注費は、請負工事代金総額三二〇〇万五〇〇〇円(二七九六万一〇〇〇円+四〇四万四〇〇〇円)に争いのない他の外注費一五二二万一三二四円を加算した四七二二万六三二四円となり、原告申告額五九二九万三三二四円との差額一二〇六万七〇〇〇円は架空の外注費であると認められる。
3 必要経費(支払手数料加算四〇万円)について
前記1のとおり、原告は、岡安に売却した建売住宅一棟の売買代金七九〇万円のうちから四〇万円を手数料として竹内義雄に取得せしめているから、右四〇万円は必要経費とすべきである。
4 以上に基づき原告の昭和四八年分の事業所得金額を計算すると、事業所得に係る総収入金額は前記1(三)のとおり一億〇三七五万円であり、それについての必要経費は、前記2(四)の外注費四七二二万六三二四円、同3の支払手数料四〇万円及びその他の当事者間に争いのない経費三七五二万四〇一〇円合計八五一五万〇三三四円であるから、原告の事業所得金額は前者から後者を控除した一八五九万九六六六円となるところ、本件更正処分(二)の認定した額はその範囲内である一七四八万二六六六円であるから、右認定は適法である。
また、前記認定事実によれば、原告は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい、仮装して、その隠ぺい、仮装したところに基づいて納税申告書を提出していたものというべきであるから、重加算税の賦課を免れない。
四 結論
以上のとおりであるから、本件更正処分(一)(二)に原告主張の違法はなく、原告の本訴請求は理由がない。よって原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する
(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 川崎和夫 裁判官 菊地洋一)