東京地方裁判所 昭和52年(ワ)10185号・昭52年(ワ)6232号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
二次に予備的請求について判断する。
(一) 被告の被用者であつて営業を担当していた池田が、別紙一売掛金目録の(一)ないし(八)記載の年月日頃、被告のためにすることを示して、原告から、同目録の(一)ないし(八)記載の各商品を同記載の代金で買受けて引渡しを受けたが、右当時池田は、被告から右買受けの代理権を授与されておらず、右商品買受け後直ちにこれを他に転売してその転売代金を回収してこれを被告に納入せずみずから費消することをひそかに企図して右買受けをなしたものであることは前記一の(一)及び(三)において認定のとおりであるところ、<証拠>によれば、原告は、池田がひそかに右のとおり企図していたことを知らなかつたことが認められる。右認定事実によれば、被告の被用者の池田は、原告に対し、被告から代理権を授与されているものと装つて、原告を欺罔し、その旨誤信した原告に右商品の売渡しをさせてこれを詐取したものであると認めるを相当とし、池田の右行為はその事業の執行につきなしたものといわなければならない。
(二) そこで、被告主張の抗弁について検討する。
1 被用者がなした不法行為がその権限外の行為であることを被害者が知つていたか、又は重大な過失によつてこれを知らなかつた場合においては、使用者は右被害者に対し民法七一五条一項本文の使用者責任を負わないものであると解するを相当とする。
2 ところで、被告会社の定款に記載され、登記された目的は「事務機械の販売業及びこれに附帯する一切の業務」であり、被告は、右目的遂行のため従来事務機械(事務所で使用する事務用の機械器具)の売買業務(その買受、転売、及び売却の業務)を営み、原告との間で右取引をなして来たこと、しかし、池田が原告から買受けた前記商品は右事務機械にあたらず、原告は、池田から右商品の引渡先として虚偽の引渡先を告げられるやこれを納品控に記載して被告あてこれを送付してその代金を請求し、被告から右取引は被告営業とは関係なく池田個人が行つたものであることを理由に右代金の支払いを拒否されるや、直ちに池田個人にその支払いを請求して同人から支払いを約した確認書を差入れさせていることは前記一の(二)及び(三)において認定のとおりである。そして、<証拠>によれば、原告は、被告会社の右目的及び右商品が被告会社の従来の取扱い商品でないことを知つており、池田が右商品をその転売先(そこは事務機械を使用する事務所ではなく個人の住宅)へ納入した際原告会社の社員が一部右納入に協力していること、原告会社の代表者と池田とは個人的にも親密な交際をしていたことが認められる。そこで、右認定の諸般の事実を総合して勘案すると、原告(その代表者)は、池田の前記商品買受け当時右買受け行為が池田の代理権限外の行為であることを薄々感ずき、あるいは少なくともこれに疑念を抱いたのはではなかろうかと推測せられるので、このような状況においては、当然、原告は被告(その代表取締役)に対し池田の右代理権限の有無を質すべきであり(それは電話を使用すればまさに一挙一手一投足の労にすぎない)、若し原告が右措置をこうじていたならば、たちまち原告は池田が右代理権を有しないことを確認できた筈であると考えられるところ、<証拠>によれば原告は何ら右措置をこうじていないことが認められるから、少なくとも、原告は、池田の前記商品買受け行為がその代理権限外の行為であることを知らなかつたことにつき重大な過失があつたものといわなければならない。前記商品買受け前に池田が被告のためにすることを示して原告から買受けた宝石の代金については後日被告から支払われた事実があることは前記一の(三)の2の前段において認定のとおりであるが、これについては前記一の(三)の2の後段において認定の事情(わずか一回だけのことである等)があるから、右宝石代金支払いの事実があることによつて右認定を覆すことはできない。また、原告代表者はその尋問において、原告は、被告の営業部員から他にも度々被告の前記取扱い商品にあたらない商品の買受け注文を受けてこれを売渡しその後被告から右代金の支払いを受けた旨供述しているが、右供述は、他にこれを裏付ける証拠はないことや<証拠>に照しにわかに措信し難い。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
3 そうすると、被告の抗弁2の(1)の主張は理由があるから、被告は原告に対しその主張の使用者責任を負わないものといわなければならない。
(三) してみれば、その余の点につき検討を加えるまでもなく、原告の予備的請求も理由がない。
(山崎末記)