東京地方裁判所 昭和52年(ワ)10869号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
一<証拠>を総合すると、被告幸二は鳶職を営み、被告桂子は昭和五二年六月当時被告幸二の妻で(以上の事実は原告と被告幸二との間では争いがない。)、被告幸二と同居していたこと、被告桂子は、昭和五二年六月上旬ごろ訴外長谷川玲子(以下「訴外長谷川」という。)を介して原告に対し、被告幸二の代理人と自称し、同人の仕事上の支払に充てるためと申し向けて金員の借用方を申し入れ、そのころ訴外長谷川を介し原告との間に元金三三〇万円、弁済期同月三〇日とする消費貸借契約を締結し、被告幸二の代理人として右金三三〇万円の金員を原告から受領するとともに、原告に対し、みずからも被告幸二の右借受金債務につき連帯保証する旨を約諾した事実が認められる。<中略>
二そこで、被告桂子が原告のため前認定の借入行為をする代理権を有していたか否かについて判断する。
原告は、被告幸二は当時被告桂子に対し家計及び営業上の経理に関する包括的な代理権を授与していた旨主張し、<証拠>中には右主張に添うような供述ないし供述記載部分がある。しかしながら、<証拠>を総合すると、被告幸二の営業上の支払はすべて現金で行われ、手形、小切手を使用することはなく、営業上の資金繰りの必要性はなかつたこと、被告幸二の営業に関する請求書、領収書その他の書類の作成は、被告幸二本人が一切を取り仕切つていたこと、他方、被告桂子は、昭和四六年ころ訴外朝日信用金庫豊島町支店から被告幸二名義で金員を借り入れたが、右借入れは被告桂子の実家の建築資金を調達するため、被告幸二に無断でしたものであり、被告桂子は担保として被告桂子とその実母の共有名義の土地、家屋に根抵当権を設定することにより右信用の供与を受けていたものであること、被告桂子は、被告幸二に無断で、訴外住友銀行神田駅前支店に被告幸二名義の当座預金口座を開設して小切手を取得し、昭和五〇年ごろから被告幸二の実印、記名印等を使用して被告幸二名義の小切手、借用証書を作成し、被告両名が離婚した昭和五二年には五〇〇〇万円にものぼる借金をしていたこと、被告両名は昭和五二年一〇月に、被告桂子が被告幸二に無断で多額の借入を行つたことを原因として離婚し、右借入金返済の資に充てるため被告桂子とその実母の共有名義の土地、家屋が他に処分されたことが認められるのであつて、以上認定の諸事情に照らすと、<証拠判断略>他に被告桂子が被告幸二の家計及び営業上の経理に関する包括的な代理権を有していたと認めるに足りる証拠はない。
そうすると、被告桂子が被告幸二を代理してした原告からの金員の借入れは、無権代理人の行為と認めるほかはないので、本人である被告幸二に対しては、何らの効力も生じないものというべきである。
三以上のように、原告と被告幸二との間の本件消費貸借は無権代理人による契約として無効であるとしても、被告桂子は、被告幸二の代理人と稱して本件消費貸借契約を締結するとともに、みずから被告幸二のため連帯保証契約を締結したのであるから、被告桂子において代理権の不存在を主張して主債務の成立、ひいては連帯保証債務の成立を否定することは、信義則に反し、許されないものというべく、被告桂子は本件消費貸借上の債務につき連帯保証人としての責任を負わなければならない。
(近藤浩武)