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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)11311号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一本件手術に至る経過

1 原告が、昭和四四年一月一〇日右足第一指に第四度の火傷を負い、当時、日赤松山赤十字病院、愛媛県伊予郡広田村所在の広田村国保診療所において治療を受け、同年七月二五日、愛媛県立中央病院において医師大西紀夫の執刀により右足第一指の切断手術を受けたことは当事者間に争いがない。

<証拠>によれば、大西医師によりなされた右切断手術は、当時右足第一指の一部が壊死の状態にあり、同指の皮膚、皮下組織のみでなく同指末節骨及び基節骨の一部も炭化していたためになされた同指中足指節関節離断手術であり、これによつていわゆる右拇指にあたる同指の末節骨及び基節骨部分が失われたことが認められ、これに反する証拠はない。

2 <証拠>を総合すると、原告は、愛媛県立中央病院における前記中足指節関節離断手術を受けた後も広田村国保診療所で治療を受け続けたが、依然切断端に痛みがあり、そのため歩行が困難であるとして、昭和四五年一二月末には当時国立姫路病院に転勤していた大西医師を訪ね、また昭和四六年初め松山市内の桑原病院で診療を受けた後、同年六月一六日右桑原病院医師河原泰道の連絡文書を持参して大阪大学医学部附属病院整形外科を訪れ、被告の診察を受けたこと、被告の初診時の所見においては、右足第一指は中足指節関節から遠位が離断され、断端には瘢痕が形成され、その中心は陥凹し、右足底内側に圧痛があり、その原因は瘢痕部に末梢神経切断により生じた神経腫があることによると判断されたこと、原告が激痛を訴え、その取り除きを求めたため、被告は右神経腫を探索し、瘢痕除去、切断端形成の手術を行なうこととし、早期に入院可能な大阪市内の多根病院にその手続をとつたこと、以上の各事実を認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

二被告がなした手術内容

1 <証拠>によれば、被告は、昭和四六年七月九日大阪市内の多根病院において、原告に対し前記の瘢痕切除及び断端形成の手術を行なつたのであるが、右手術内容は、右足第一指中足指節関節断端部の皮切をして皮下の瘢痕を切除し、伸筋腱、屈筋腱、内転筋腱の各断端を瘢痕の中から取り出してそれぞれ剥離し、屈筋腱の先端にあつた種子骨二個を摘出したうえで、中足骨の遠位端に溝を作り、そこに屈筋腱及び伸筋腱の先端を縫合してはめ込み、更に内転筋腱を内側から引きよせて縫合し、その上から脂肪組織をかぶせて皮膚縫合をし、手術を完了したというものであつたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

2 <省略>

三本件手術の違法性の有無

1 種子骨摘出について

<証拠>によれば、

ア 被告が摘出した種子骨は、原告の右足第一指中足指節関節に存したものである。この種子骨は腱に包まれて中足骨に乗つかつた状態にある粒状の二個の小骨片で、その機能については腱が足指の運動に作用するのに効果があるとか、中足骨に直接体重がかからない働きをするとか、足の裏がドーム状を保持するのに有効であるなどの諸説があるが、必ずしも定説はない。

イ 前示認定のとおり、多根病院における被告の手術以前に既に原告の右足第一指は中足指節関節のところで切断され、中足骨の遠位が断端に接し、そこに瘢痕が形成されていて、しかも伸筋腱・屈筋腱等の断端が瘢痕の中に埋れている状態であつたから、被告が瘢痕切除・端断形成の手術をするにあたつては、腱に包まれ、瘢痕中に埋れていた種子骨の処置が必要であつた。被告は、種子骨の機能一般については、足指の運動に有効な作用があるとの考えを有していたが、既に中足指節関節は切断されていてその作用の大半が失われており、他方原告の疼痛の原因の一端が瘢痕形成による皮膚の緊張にあると考えられたので、皮膚の下にある種子骨を除去することにより緊張が緩和され、痛みが軽減すると判断し、瘢痕中にあつた種子骨二個を摘出した。

ウ 原告は、昭和五〇年五月六日、東京大学医学部附属病院において医師園嵜秀吉の診察を受け、そのころ足立民衆病院において同医師の執刀により瘢痕組織除去の手術を受けた。その後同月一三日、同医師は、原告の求めに応じ、「原告の右足第一指中足指節関節離断に際し種子骨二個が除去されているが、種子骨は原則として温存すべきであり、切除は理由がない。」との趣旨の意見書(甲第二号証)を書いた。

しかし、右書面は、原告から同医師に対し、種子骨はあつた方がよいか否かの質問があり、かつ種子骨摘出の必要性については執刀医から全く聞いていないという原告の説明であつたから、原告が種子骨を摘出した医師からさらに詳しい説明を受けるための便宜を考えて作成されたものであり、かつ種子骨摘出は右足第一指中足指節関節離断手術の際同時になされているとの前提に基づくものであつた。

以上の事実を認めることができ、右各認定を左右するに足る証拠はない。右によれば、被告がその瘢痕切除・断端形成の手術にあたつて、原告の種子骨二個を摘出したのは、被告が右手術によつて企図した原告の右足第一指断端部疼痛除去という治療目的に合致した適切な処置というべきであり、甲第二号証中、種子骨を摘出すべきではなかつた旨の記載は、前示のような事情、前提のもとでなされたものであるから、被告のなした本件手術の相当性を左右するに足るものではない。他に右種子骨摘出が違法であることを認めるに足る証拠はない。

2 その他<省略>

四被告のなした手術と原告の障害との因果関係について

原告が現に右足第一指中足指節関節部より遠位を喪失し、その断端部に疼痛があり、その歩行に障害があることは、原告本人尋問の結果及び本件口頭弁論の趣旨により充分認めることができる。

しかしながら、叙上認定のように、原告は被告の手術を受ける約二年前に、既に大西医師の執刀により右関節部離断の手術を受けており、原告の受傷が第四度の火傷で当時足趾の一部は炭化していたのであり、また大西医師の執刀以前に、患部に木材を落してその損傷を大きくしたことが原告本人尋問の結果により認められるのであつて、これらの事実を勘案すれば、原告に発生した右各障害が、被告の手術によるものとたやすくいうことはできない。被告のなした種子骨の除去が、原告の歩行上の機能障害をもたらしたものであることを認めるに足る証拠もない。

そうしてみれば、被告のなした手術と原告に発生した障害との間に因果関係があるものということはできない。

(大石忠生 大淵武男 奥田正昭)

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