東京地方裁判所 昭和52年(ワ)12386号
原告
山下勇
右訴訟代理人弁護士
二瓶和敏
同
戸張順平
同
小野寺利孝
同
山下登司夫
同
服部大三
同
友光健七
同
上柳敏郎
右二瓶和敏訴訟復代理人弁護士
滝澤修一
被告
漆原不動産株式会社
右代表者代表取締役
漆原德蔵
右訴訟代理人弁護士
田中紘三
同
須賀貴
主文
一 原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
二 被告は原告に対し、金一八八六万六六六〇円及びこれに対する昭和五九年八月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに同年八月以降この判決の確定に至るまで毎月二五日限り金二〇万円を支払え。
三 原告の賃金請求のうち、この判決の確定後のものに係る訴えを却下する。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
五 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が、昭和五一年九月一四日原告に対してなした解雇の無効なることを確認する。
2 被告は、原告に対し、金一八八六万六六六〇円及びこれに対する昭和五九年八月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに同年八月二五日以降毎月二五日限り金二〇万円宛の金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 第2項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、昭和二一年七月九日設立され、不動産の売買及び仲介業のほか、貸ビル及びアパートの経営等を営んでいる会社であり、総務部及び経理部、不動産部、ビル管理部の三部門から構成され、不動産部は更にガソリンスタンド用地の仲介を担当する第一営業部と右以外の一般不動産の仲介を担当する第二営業部に分かれている。
原告は、昭和四九年一一月一日、被告に雇用され第二営業部に配属され勤務していた。
2 しかるに被告は、昭和五一年九月一四日原告を解雇したとして、同月一五日以降原告の労働契約上の権利を認めない。
3 原告の昭和五一年度における一か月の平均給与額は二〇万円であり、被告は原告に対し、毎月二五日右賃金を支給していた。
4 よって、原告は被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認と昭和五一年九月一五日以降昭和五九年七月分までの未払賃金合計一八八六万六六六〇円及びこれに対する最終履行期の後である昭和五九年八月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払い並びに同年八月分以降毎月二五日限り月額二〇万円宛の平均賃金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1、2、の事実は認め、同3の事実は否認する。
三 抗弁
1 (即時解雇)
被告は、以下のとおり原告に雇用関係上解雇を相当とする懲戒事由があるものと認め、労働基準法二〇条一項但書に基づき、昭和五一年九月一四日原告に対し解雇の意思表示をした。
(一) (報告義務違反)
被告の運営はすべて代表取締役である漆原德蔵(以下「漆原」という。)を中心に行われ、同人がすべての契約に自ら調印する等している。しかも被告では、漆原のみが宅地建物取引業法一五条の一に基づく専任の取引主任者であり、不動産取引において物件説明義務が課せられているため、被告の従業員が不動産取引に関係する折衝・交渉したときは、その一部始終の報告をうけ、資料の提出をうけておく必要があり、したがって被告は従業員に対し厳しく報告することを義務づけている。しかるに原告は、昭和五〇年頃不動産業立地こと木原芳之から不動産情報(浦和市常盤所在のガソリンスタンド適地)を被告へ持参し、被告の取扱い物件とするよう委託されたにもかかわらず、その情報を漆原に報告せず、そのため右情報に基づく営業活動の機会を奪われ、更には右木原に対する営業上の信用を失った。しかも、他の営業部員を扇動して報告することを妨げるとともに、自らもとりわけ昭和五〇年一一月ころから、漆原の意に反して原告担当職務の遂行状況についてほとんど全くといってよいほど報告をせず、また被告は同月二六日張紙をして漆原へ日報の提出等書面報告をする旨の指示をうけてもこれに従わず、その態度は右解雇当日には最悪となり、もはや被告の営業秩序とは両立する余地がなくなるに至った。
(二) (ニチイの件)
原告は、株式会社ニチイ(以下「ニチイ」という。)の開発部の橋川豊司と共謀して、ニチイから正式に地上げ(賃貸借契約の交渉等土地取得のための仲介)の依頼をうけていないのに、漆原に対して、「当社が紹介した静岡県の物件につきニチイでは買受けの禀議が通っている、いつでも契約調印にこぎつける体制ができている」旨、また右橋川は平社員であるにもかかわらず、故意に常務取締役である旨の虚偽の報告をしたうえ、昭和五〇年六月から一〇月にかけて前後七回会社業務と偽り静岡へ出張し、その出張費用名下に被告から合計六万六五三六円を不当に受領し、しかも原告の言を信頼してニチイと交渉した被告は、長年の顧客であるニチイに対する業務上の信用を失うに至った。
仮に原告が橋川豊司と共謀したものではなく、同人を常務取締役と誤信したため、そのような報告を被告にしたとしても、原告には橋川豊司がそのような役職にないことは容易に分るはずであり、しかもそのような誤信が被告の誤信を招いてその結果ニチイに対する信用を失うに至らしめたのである。
(三) (マルエツの件)
原告は、昭和五一年六月当時事実上部長職にあり、被告の不動産営業部員を指導監督し被告が営業上の損失を蒙らないよう適切な措置をなすべき義務があるのに、被告が株式会社マルエツ(以下「マルエツ」という。)から依頼された千葉県柏市所在の土地の地上げ業務につき、部下従業員根本隆に対する監督を怠ったため、あるいは右根本隆と共謀したため、マルエツは希望する物件を入手することができず、その結果、被告も仲介手数料約一八〇万円を得る可能性を奪われた上、長年の顧客であるマルエツに対する業務上の信用を失った。
(四) (西友ストアの件)
被告は株式会社西友ストア(以下「西友ストア」という。)から地上げ交渉の依頼をうけ被告従業員三田静雄が担当していたが、原告は、昭和五一年九月初めころ、被告からの業務上の命令もなく、また西友ストアから直接依頼を受けていないのに無断で西友ストアに押しかけて地上げ交渉に加わり、しかも自宅を連絡場所として被告の営業につき西友ストアと無断接触を続け、その内容、経過に関する報告書を全く被告に提出しなかった。
(五) (経歴詐称)
原告は、昭和四六年三月一六日ころ梶山一郎に土地を売却し代金を受領しながらその引渡しをしないでこれを横領し、また同人から二〇〇万円を詐取するなど宅地建物取引業法五条一項五号に該当するような不正不誠実行為の前歴があり、これは被告が原告を雇用する際当然に報告すべきであるにもかかわらず、右重要事項を告知せずにこれを秘して被告を雇用関係に入らしめたものであり、被告がこのような前歴を知っていれば原告は雇用することはなかった。
2 (通常解雇)
仮に労働基準法二〇条一項但書の事由に該当しないとしても、被告は右但書に基づく即時解雇に固執するものではないから、右解雇の意思表示は同条一項本文にいう解雇として有効であり、右意思表示の日から三〇日経過した昭和五一年一〇月一四日には、原被告間の雇用契約は終了した。
そして被告が原告を解雇するに至った理由は、前記懲戒解雇事由と同一である。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1前文の事実のうち、被告が昭和五一年九月一四日被告を解雇する旨の意思表示をしたことは認め、その余は争う。
(一) 抗弁1(一)の事実のうち、被告の運営が代表取締役である漆原を中心に行われていることは認め、原告が報告を怠ったこと、また原告が漆原の書面報告する旨の指示に従わなかったことは否認する。
(二) 抗弁1(二)の事実のうち、原告が静岡へ出張したことは認め、その余の事実は否認する。
(三) 抗弁1(三)の事実のうち、被告がマルエツから千葉県柏市所在の土地の地上げを依頼されたことは認め、その余の事実は否認する。
(四) 抗弁1(四)の事実のうち、被告が西友ストアから地上げ交渉の依頼を受けたこと、当初被告従業員三田静雄が右交渉を担当していたこと、原告が右地上げ交渉に関与したことは認め、その余の事実は否認する。
(五) 抗弁1(五)の事実は否認する。
2 抗弁2は争う。
被告は昭和五一年一〇月二〇日飯田橋労働基準監督署宛「解雇予告除外認定」の申請をしたが同署は同年一一月九日これを却下した。それにもかかわらず被告は同月二六日飯田橋職業安定所宛に原告の私印私署を偽造して「離職理由、背任行為による解雇、予告手当ナシ」と記載した書面を提出してあくまで即時解雇に固執している。また漆原も終始一貫して懲戒解雇を主張しているのであって、被告が懲戒解雇に固執していることは明らかである。
五 再抗弁
被告の解雇事由は以下のとおり理由がなく、即時解雇にしろ、通常解雇にしろいずれにしても解雇権の濫用である。
1 (報告義務違反について)
原告は入社以来一貫して文書報告等を軸に漆原に対し報告を行ってきたのである。また、原告主張の木原芳之からの不動産情報に関する担当は、田中健であって、同人は右情報を被告に伝えるとともに、全営業部員にも物件説明し、客付を依頼していたのであり、原告は右依頼に基づき昭和五〇年五月七日ころ客付交渉をしたが不調に終ったこともあり、右のことは被告に報告済みであるから、原告に右木原からの情報を伝える義務もなく、原告とは全く関係がない。そして被告が昭和五〇年一一月二六日掲示した張紙は、原告が部長職を解かれたことを第二営業部部員に知らせるとともに、これまで同部部員の営業報告は部長であった原告に対してなされていたものを、今後は漆原に直接報告するように求めたものであって、原告が報告義務を尽さないことからなされたものではない。
2 (ニチイの件)
(一) 被告は、ニチイから正式の地上げ交渉の依頼を受けて交渉に関与していたものである。即ち、ニチイの地上げ交渉は、原告の入社以前に被告がニチイから東海地区の用地買収の依頼を受け当時第二営業部部長であった三田静雄が担当し、物件資料も被告の名においてニチイの担当者橋川豊司に提出していたものであり、原告入社前にすでに被告はニチイの委託を正式に受け、被告の了解の下に担当者も決定承認され、業務を開始していた。
そして原告は、入社直後、三田静雄からニチイの件の引き継ぎをうけて担当していたが、その間担当者として昭和四九年一二月五日から同五〇年一〇月一〇日まで右橋川と同行出張四回、単身出張四回計八回にわたって静岡市や清水市等に出張し、用地買収の交渉にあたり、その都度漆原に対し文書又は口頭で出張報告をなしている。
したがって、被告自身ニチイの依頼による地上げ交渉であることは十分知悉した上で、しかも被告の了解の下に原告は右交渉に関与したものである。
(二) そして原告は、ニチイの橋川豊司を常務取締役と誤信したことから漆原にそのように報告したのであって、故意に虚偽の報告をしたものではない。しかも、原告にはそのように誤信するにつき、以下のとおりの事情があり、やむを得ないものであった。即ち、原告は入社後、三田静雄に連れられてはじめてニチイ本社を訪問したが、その際右橋川は個室で執務している状況に見えたし、その後数回訪問した時も個室から出入りしており、その態度も重役のような応対態度であった。また原告は三田静雄から「橋川常務と聞いたような気がする、多分そうだろう」と聞いていたので原告はそのように思い込んでしまったのである。しかも橋川自身常務取締役であることを肯定するような対応をしていたのである。
(三) 原告には、被告のためニチイからの地上げ交渉を成功させる目的以外に静岡まで出張しなければならない必要性は全くない。即ち右出張当時妻子は東京で生活していたもので原告が妻子訪問のため静岡に出張したということはなく、出張先ではホテルに宿泊していたものである。
また原告は、右出張に要した費用について、その都度漆原に報告し、その報告に基づいて漆原及び岡田太郎経理部長の決済を受けており、使途不明な金員の支出は全くない。
(四) しかも原告が橋川豊司を常務と誤信したことと、被告がニチイに対し信用を失ったこととの間には因果関係がない。即ち被告がニチイに対し信用を失うに至ったのは、漆原が原告旅費や接待費等を多く費消した上、地上げが容易に成立しないことに腹を立て、ニチイに直接乗り込んで非常識な言動をとったためである。したがってニチイの件については、原告の報告が橋川豊司の身分について間違っていたというにすぎないのであって、被告がニチイに対する信用を失うに至った原因ではない。
3 (マルエツの件)
原告は昭和五一年六月当時、単なる営業部員にすぎなかったものであり、形式上も事実上も不動産営業部員を指導監督し、その営業報告をなす地位になかったものである。況んや、その権限も義務もなかったものであるから、原告がマルエツの件に関して部下の指導監督を問われる理由は全く存在しない。
しかも原告はマルエツの件については全く関与していない。
4 (西友ストアの件)
原告が西友ストアからの依頼を担当したのは、昭和五〇年五月ころからであり、昭和五一年九月当時には大詰めの交渉に入っていた。そこで原告は、被告から解雇の意思表示をうけた後、岡田太郎経理部長に「現在担当している西友関係の仕事は担当責任者として先方に迷惑をかけることになり、また会社の信用をなくすこともできないから今後も継続する」旨話し、以後その交渉状況はその都度頻繁に右岡田に報告し、被告も就業を認めていたものである。
更に、右西友ストアの依頼をまとめるには原告は不可欠であり、むしろ西友ストアに歓迎されその面でも被告の信用を保持して来たものである。原告は西友ストアに対し業務上の信用を喪失させないために努力して来たのであって、仮に信用喪失があるならばその原因は被告特に漆原の非常識な言動に起因するものである。しかも被告は、右のとおり原告が引き続き仲介業務を責任をもって処理したことによって、被告は西友ストアから仲介手数料四六〇万円の支払を受けたのである。
六 再抗弁に対する認否
再抗弁は争う。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載のとおりであるから、これらを引用する。
理由
一 解雇について
1 請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。
2 被告が原告に対し、昭和五一年九月一四日解雇の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。
被告は、右解雇は原告の責に帰すべき事由によるものであり、即時解雇として有効である旨主張するので、まずこの点について判断する。
(一) (ニチイの件について)
被告は、原告がニチイの担当者橋川豊司と共謀してニチイからの売込み依頼がないのにあるかの如く被告を欺いて業務と偽り静岡へ出張し、その出張費用名下に被告から六万六五三六円を不当に受領し、また原告は故意又は過失により担当者の右橋川豊司はニチイの単なる営業部員にすぎないのに、これを常務取締役と漆原に報告する等したため被告のニチイに対する信用は失墜した旨主張するのでこの点について判断する。被告代表者本人の供述中には右被告の主張に沿う「原告は出張費に託けて郷里への出張費をとった」旨の供述があり、また(証拠略)によれば、原告は被告がニチイから依頼された出店のための用地買収等の仲介を担当していたこと、原告がニチイ側の担当者橋川豊司を真実は単なる開発部の営業部員にすぎないにもかかわらず、同人を常務取締役であると被告に報告したこと、原告は昭和四九年一二月五日から同五〇年一〇月一〇日にかけて右橋川豊司とともに四回、原告単独で四回計八回静岡に出張し(原告が静岡に出張したことは当事者間に争いがない。)、その間の諸経費として合計一六万二五四三円使用したこと、被告では橋川豊司は常務取締役であると誤信していたことから、単なる営業部員とは異り、社長専用車で出張する等の便宜を図ったこと、昭和五〇年一一月一七日ころ漆原がニチイに問い合せたところ、右橋川豊司は常務取締役でないことが判明し、直ちに被告は原告が静岡へ出張することを中止したこと、ニチイ内部では、既に昭和五〇年三月ころ橋川豊司の所属する開発部の会議において静岡への出店は行わない旨の決定がなされていたこと、原告は以前静岡に家族とともに居住し、不動産業を営んでいたことが認められる。しかし他方、(証拠略)によれば、右ニチイの用地買収等の件はもともと被告従業員の三田静雄が担当していたものを原告が引き継いで、昭和四九年一一月ころから担当するに至ったものであること、原告が橋川豊司を常務取締役と報告したのは、右三田静雄の「橋川豊司は、常務取締役かも知れない」旨の発言や橋川豊司の態度から常務取締役と誤信した結果であったこと、また原告はその後も橋川豊司と行動をともにしていたが、橋川自身常務取締役と紹介されてもこれを否定しなかったことから、漆原に指摘されるまで橋川豊司を常務取締役と誤信していたこと、そして原告の静岡出張についてはいずれもその経路が明らかにされ、裏付けのある資料に基づいて経費の請求がなされ、漆原の決裁を経て支出されていること、橋川豊司はニチイの開発部における会議では静岡出店は否定されたものの、その後もなお静岡方面への出店に執着して活動を行っていたこと、またニチイ出店にかかわる用地の買収については静岡のみではなく清水市、横浜市のほか宇都宮方面の土地もあり、それぞれ出張の上調査等をしていること、原告及びその家族は昭和四九年一二月から同五〇年一〇月にかけて静岡に居住していなかったこと、原告が静岡に出張した際もホテルに宿泊していたことが認められ、これら静岡出張が、ニチイ側の静岡出店希望に基づくものであったこと、出張経費に特に不自然な支出がみられないこと、原告の静岡出張に業務以外の目的があったとは認められないこと、ニチイ内部で静岡出店が拒否されてもなお橋川豊司としては静岡出店に執着していたことからすれば、前示被告代表者本人の供述部分は俄に措信し難く、また原告が橋川豊司と共謀してその必要がないのに出張して出張費名目で出張費を受領したものとは到底認めることはできない。そして原告が橋川豊司を常務取締役と誤信したことについては、ニチイとの取引が巨額なものになる可能性があったことからすれば右橋川の役職に関心を払い、その確認をすれば容易に常務取締役でないことは明らかになったのであり、そのような確認を行うことなく、その旨の報告を行ったことには重大な過失があり、そのため多少の経費がかかったことは認められるものの、これがために被告に多額の損害を与えたり、ニチイとの取引や被告のニチイに対する信用に影響があったものとは認められず、結局、被告主張の事実はこれを認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(二) (マルエツの件)
被告は、原告には昭和五一年六月当時事実上の部長としての権限があったのであるから、部下である根本隆に対する指導監督を行い、根本隆が担当していたマルエツからの用地買収の依頼を完全に遂行させるように指導監督すべきであったのにこれを怠ったため、マルエツは希望する物件を入手できずその結果、被告がマルエツから取得するはずであった仲介手数料一八〇万円を取得することができなかった旨主張するのでこの点について判断するに、証人根本隆の証言、原告及び被告代表者の各本人尋問の結果によれば、被告は昭和五一年六月マルエツから用地買収等の仲介を依頼され(以上の事実は当事者間に争いがない。)、被告従業員根本隆が担当としてその業務を行っていたこと、根本隆はマルエツの担当者大門らとともに柏市旭町の土地を探し出し地元の京栄商事を介して地主と交渉していたところ、マルエツの大門らが直接地主に対して売却の交渉を行ったが、地主がマルエツを知らなかったことから売却を拒否されたこと、そのため地主は右京栄商事を介して長崎屋不動産部を通じて同土地を株式会社プリマートに売却するに至ったことが認められるものの、本件全証拠によるも原告に被告主張の如き指導監督権限があったものと認めるに足りず、しかも右認定の経緯からして根本隆がその職務に反してマルエツに仲介した物件を株式会社プリマートに仲介したとも認められず、被告に手数料収入が期待できる状況ともいえない。また被告は原告が根本隆と共謀してマルエツに仲介した物件をプリマートに仲介した旨主張し、被告代表者本人の供述中には右主張に沿う部分も存するが、右の供述は一貫性がなく、前示プリマートに仲介するに至る経緯、右根本隆の証言及び原告本人尋問の結果に照らし俄に措信し難く他にこれを認めるに足りる証拠はない。
以上のとおりであるから被告主張の前示事実を認めるに足りない。
(三) (西友ストアの件)
被告は、被告が西友ストアから依頼された用地買収仲介の業務に原告が業務命令もないのに無断で関与し、その仲介に関する内容や経過に関する報告を全くしなかった旨主張するので判断するに、(証拠略)、原告及び被告代表者各本人尋問の結果によれば、被告は西友ストアから小売業のための店舗建設用地の買収等の仲介を依頼され、当初これを三田静雄が担当していたが(以上の事実は当事者間に争いがない。)、昭和五〇年八月ころからは原告が担当することになったこと、その後昭和五〇年一二月二六日には仲介した土地の地主と西友ストアとの間で停止条件付売買契約が成立したこと、その後原告は右停止条件たる道路つけ換え問題外について西友ストアのために仲介業務の一環として行動していたことが認められるが、他方(証拠略)、原告及び被告代表者の各本人尋問の結果によれば昭和五〇年一二月二六日付の売買契約書には仲介業者として、また同日被告と西友ストアとの間で取り交わされた仲介手数料の支払についての覚書にも漆原により、被告の本店所在地と社名及び代表取締役を表示した印が押捺され、その名下に同人の印が押捺され、更に、昭和五一年六月一六日に地主と西友ストア間になされた変更契約書にも漆原により右同様の押捺がなされていること、これら売買契約の成立に当たっては原告が被告側の担当者として行動し地主及び西友ストアの信頼を得ていたこと、昭和五一年九月一四日以後も原告は被告会社の社員として地主・西友ストア間の売買契約の成立に努力し、その結果被告は昭和五四年一一月三〇日右仲介手数料を受領したこと、西友ストアとしては停止条件付売買契約成立後もその後の諸々の手続等についても被告の仲介業務に含まれるとして被告の従業員としての原告の関与を期待していたことが認められ、これらの事情を考慮すると、原告は被告了解の下で西友ストアに関する件を担当し、その業務の進行状況、内容等を報告し、これを漆原自身了解した上で契約書等に押捺したものと推認されるのであって、前記被告主張の如き事実を認めるに足りる証拠はない。
(四) (報告義務違反について)
被告は、漆原中心の会社であり、日々の営業報告が不可欠であるのに、原告はその担当業務について報告しなかった旨主張するのでこの点について判断するに、成立に争いのない(証拠略)及び被告代表者本人尋問の結果によれば、被告では漆原のみが取引主任者であり、被告の扱う物件についてはその担当者から詳細な報告をうける必要があり、昭和五〇年八月五日に原告が部長に就任する以前は、各従業員が直接漆原に報告していたこと、ところが、原告が部長に就任して以降は各従業員からの報告がなくなったこと、昭和五〇年一一月二五日原告が部長職を解かれた際、漆原が各営業部員は今後毎日必ず営業報告をする旨の張紙を社内に掲示したことが認められるが、他方(人証略)、原告本人尋問の結果によれば原告は第二営業部部長に就任した際、それまで漆原に直接行っていた営業報告を原告がまとめて漆原に提出していたこと、そして昭和五〇年一一月二五日に掲示された張紙は原告が部長職を解任されたことにともなって各営業部員に直接漆原に営業報告をするように指示したものと認められ、また前示の如くニチイの件、西友ストアの件についても営業報告していたことを考慮すると、いまだ原告に被告主張の如き営業報告を怠ったと認めるに足りず、また原告は、木原芳之からの不動産情報を漆原に報告せずそれがために被告は右情報に基づく営業活動の機会を奪われ営業上の信用を失った旨主張するが、本件全証拠によるもこれを認めるに足りる証拠はなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(五) (経歴詐称の件について)
被告は、原告を採用するにあたり、原告には宅地建物取引業法五条一項五号に該当すると判断されるような前歴がありながら、原告はこれを被告に告知せず、被告はそのような前歴があることを知っていれば採用することはなかった旨主張するのでこの点について判断するに、成立に争いのない(証拠略)及び原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和三九年頃から静岡市内において会社を設立して不動産業を営んでいたが、昭和四九年九月ころ約四〇〇〇万円の負債をかかえて倒産したこと、そして被告に採用された当時原告には約一〇〇〇万円の負債があったこと、原告は被告に採用された当時千葉県市川市に居住し、また原告の最終学歴も佐賀高等小学校を卒業した後佐賀簿記学校を修了したにすぎないのに、採用時被告に提出した原告の履歴書中住所欄には大阪府八尾市の住所表示が、また学歴欄には旧制県立佐賀商業学校卒業と記載されていたことが認められるが、他方被告代表者本人尋問の結果によれば、原告を採用するにあたって、漆原は原告を被告に紹介した佐藤の言を信頼し、原告の経歴、取引主任資格の有無、家族関係、住居等について全く関心がなく、履歴書も一瞥したのみであることが認められ、右事情に照らすと前示の如き事情については原告の採否につき被告として全く考慮していなかったものと推認され、いまだ原告の採用を左右しうる事情とは認められない。また(証拠略)には原告が昭和四六年三月一九日梶山一郎に対し、静岡市内の土地を売却したにもかかわらず、同土地の権利書を利用して金融機関から融資を受けた旨また原告は昭和四八年一一月二日梶山一郎から土地投資用資金として二〇〇万円を借り受けたがこれを返済しなかったとの趣旨の記載があるが、右記載は、原告と梶山一郎との関係、取引に至る経緯、金融機関名及びそこから借用した額等明らかではなく、具体性に欠け、未だこれをもって被告の主張事実を肯認し難く他に被告の主張を認めるに足りる証拠はない。
以上のとおりであるから、被告が原告を採用するにあたって、原告にその採用を誤らせるほどの経歴詐称があったものとは認められないばかりでなく、被告代表者本人の供述中にも原告の経歴詐称はその解雇事由ではないとの趣旨の部分がみられる。
以上のとおり被告の主張する懲戒事由はいずれも認めるに足りず、結局労働基準法二〇条一項但書にいう責に帰すべき事由が原告にあるものとはいえないので、被告の即時解雇の主張は理由がない。
3 (通常解雇)
次に被告は、即時解雇に固執するものではないので、被告の解雇の意思表示は通常解雇として有効である旨主張するが、被告の主張するその解雇理由はいずれも懲戒解雇の事由と同一であり、右事由はいずれも前示のとおりであってそれ自体通常解雇事由としても不十分なものというべきであるから、結局被告が即時解雇に固執していたか否かを判断するまでもなく、原告の解雇の意思表示は解雇事由を欠き正当なものとはいえず、したがって解雇権の濫用であってその効力を生ずるに由ないものといわざるを得ない。
4 以上のとおり、原告に対する解雇は無効であるから、同人は被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあるものというべきである。
二 賃金請求について
前記のとおり原告は被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあるものというべきところ、成立に争いのない(証拠略)及び原告本人尋問の結果によれば原告は昭和五一年四月から同年八月までそれぞれ賃金として月額二〇万円の支払いを毎月二五日受けていたこと、解雇された昭和五一年九月分の賃金は同月一四日までの分一三万三三四〇円が同月二五日に支払われたことが認められ、解雇がなければ、原告は昭和五一年九月以降少なくとも月額二〇万円の賃金を毎月二五日に得ていたであろうと推認され、右認定を左右するに足りる証拠はない。したがって被告は原告に対し昭和五一年九月一五日以降同五九年七月までの賃金合計一八八六万六六六〇円及び同年八月分以降毎月二五日限り二〇万円の賃金を支払うべき義務があるものというべきである(なお、原告が昭和五九年八月二三日以降の賃金を求めている趣旨は、同月二五日に支払いを受ける同月分以降の賃金の支払を求めているものと解される。)。しかしながら、原告の本訴請求賃金のうち、本件口頭弁論終結の日(昭和五九年八月二二日)以降の分は、将来の請求であるところ、うち本判決確定に至るまでの分は予め請求する利益と必要があるものと認められるが、本判決確定後の分については、本判決により原告が被告の従業員としての地位を有することが確定されることとなり、特段の事情のない限り、被告の対応も現在とは異なるであろうことが予想されるところ、右特段の事情が存するものと認められないので、現時点において予めその請求をする利益はないものと認めるを相当とする。
三 よって、原告の本訴請求は本判決確定後の賃金請求分を除いて理由があるので、正当として認容し、その余の請求に係る訴えは不適法として却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渡邊昭 裁判官 遠山廣直 裁判官近藤壽邦は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 渡邊昭)