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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)2096号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一原告が昭和四一年四月一日に被告会社に雇傭され、昭和五一年一一月三〇日同社を解雇されたものであること、被告会社の給与規程四条には「賞与については毎年六月および一二月に会社の業績を考慮した上、暦日による過去六ケ月の従業員個々の勤務成績等に応じ、賞与支給の有無および支給額を決定する。賞与の支給日はその都度定める。」と規定されていること、被告会社が昭和五一年一二月当時被告会社に在籍していた従業員全員に対し昭和五一年度冬季賞与として基本給の1.5ないし2.2ケ月分の賞与を支給していること、退職当時における原告の基本給が一ケ月金二〇五、〇〇〇円であつたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二そこで先ず原告主張の慣行の存否および被告主張の取扱いの効力について検討する。被告会社の給与規程四条には前記のごとき規定があり、<証拠>によれば右規定は被告会社における賞与についての唯一の規定であるが、右規定は「……(会社は)過去六ケ月の従業員個々の勤務成績等に応じ、賞与支給の有無および支給額を決定する。……」となつているので、これを一見すると、被告会社における賞与は会社が任意的恩恵に与えるものであつて、会社は賞与の額および支給時期はもちろん支給対象者についても自由にこれを選択決定することができるように見られないわけでもなく、さらに<証拠>によれば、被告会社における賞与は被告会社の指定する支給日に在籍する従業員に対してのみを支給される取扱いであり、これまで支給日に在籍しない者に対して支給された例のないこと、そして現に昭和五一年度冬季賞与についても昭和五一年一二月一四日当時被告会社に在籍していた従業員を支給対象者と定め同日これを支給したことが認められる。

しかしながら他方<証拠>を綜合すれば、被告会社においてはすくなくとも原告が入社した昭和四一年以降は従業員全員に対し毎年六月には当年一月ないし六月まで、一二月には当年七月ないし一二月までを各支給対象期間とし、その間の会社の業績、従業員の成績等を考慮して支給率等を定めそれぞれ賞与を支給して来たこと、原告も入社以来退社に至るまで賞与支給の際は欠かさずこれを受給し、昭和五一年六月には同時期における最高の支給率である二ケ月分(金四一〇、〇〇〇円)を受給していること、なおその際被告会社においては上司の指示に従わず、かつ総額九〇〇万円にのぼる回収不能の売掛債権を発生させ会社に多大の損害をもたらした従業員に対してさえ1.2ケ月分の賞与を支給していること、以上の事実が認められる。<証拠判断略>。しかして右認定の事実に照らすと、被告会社においては経営状態が著しく劣悪で賞与の支給により事業の維持経営が危くなるなど特段の事由のないかぎり、毎年六月および一二月に従業員全員に対し賞与を支給する慣行になつていたものと解するのが相当であり、また右事実によれば、被告会社における賞与中に収益分配的、功労報償的性格を有する部分の存することはこれを否定しえないけれども、生活給的な性格を有する部分も決してすくなくなく、これら諸事情を勘案すると、被告会社における賞与はすくなくとも使用者たる被告会社が単に恩恵または任意に支給するものではなく、従業員がその対象期間内に提供した労務に対する賃金の一種として支払われて来たものと認めるのが相当である。しかして賞与の性格が右に見たようなものであるとすると、これを別異に解すべき就業規則等の規定あるいは確立した慣行の存在しないかぎり、従業員はその支給対象期間の全部を勤務しなくとも、またその支給日に従業員たる身分を失つていたとしても、原則として支給対象期間中勤務した期間の割合に応じて賞与の支給を受けるものと解するのが相当である。従つて被告会社における取扱のごとく、被告会社が一方的に賞与の支給日を指定し、支給日に在籍する者のみを支給対象者と定めて、その者にのみ賞与を支給することは、支給対象期間の全部または一部を勤務しかつ支給日に在籍しない従業員の権利を不当に奪うことになるものであるから、前記のごとく特別の社内規定または社内慣行の存しないかぎり許されないことになるところ、本件全証拠を検討するも被告会社には右取扱の根拠となる社内規定は存しない。従つて被告会社の右取扱が慣行と認められないかぎり、被告は原告に対し、その勤務成績および勤務期間に応じた賞与を支給すべき義務を有するものといわなければならないところ、本件全証拠を検討するも右取扱が社内慣行として確立していることを認めるにたる証拠はない。従つて支給日に在籍しないことを理由として昭和五一年度冬期賞与の支給対象期間のうち五ケ月を勤務した原告に右賞与を支給しないことは不当であり、許されないものである。

三そこで原告に支給すべき賞与の額について検討する。被告会社における賞与が生活給的色彩の強いものであるとはいえ、その中に功労報償的性格を有している部分の存することは前叙のとおりであり、しかもその割合を決定することは困難である。しかしながら本件全証拠を検討するも、支給対象期間中における原告の勤務成績すなわち会社に対する功労が、昭和五一年一二月の冬季賞与につきその最低の支給率をもつて遇された従業員より劣るものであつたと認むべき証拠はないから、原告に対する右賞与の支給率はすくなくとも右の者に対すると同率のそれを適用すべきものであり、また昭和五一年度冬季賞与支給対象期間六ケ月中原告が勤務した期間は前記のごとく五ケ月であるが、<証拠>によれば、被告会社においては支給日に在籍する従業員に対してはその者の勤務期間が支給対象期間の六ケ月に満たない場合でも、右勤務期間の支給対象期間中に占める割合に比例して賞与を支給していることが明らかであるから、特段の定めのない本件についても同様の方式をもつて支給割合を定めるのが相当であると考える。しかして昭和五一年度冬季賞与の支給率の最低が基本給の1.5ケ月分であつたこと、支給対象期間が昭和五一年七月一日から同年一二月三一日であり、原告が同年七月一日から同年一一月三〇日まで勤務したこと、退職時における原告の基本給が一ケ月金二〇五、〇〇〇円であつたことはいずれも前記のとおりである、右賞与支給対象期間に占める右勤務期間の割合が六分の五にあたることは計数上明白であるから原告が被告会社から支払を受けるべき昭和五一年度冬季賞与は基本給金二〇五、〇〇〇円の1.5倍の六分の五すなわち金二五六、二五〇円であるというべきである。そして昭和五一年度冬季賞与の支給日を同年一二月一四日に定めたこと、また現に被告会社は同日その従業員に対し右賞与を支給したことは前記のとおりであるから、被告の原告に対する前記賞与の弁済期も昭和五一年一二月一四日であつたと認めるのが相当である。 (福井厚士)

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