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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)2118号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。

原告は、昭和三三年二月二五日に旧建物を建築し、この工場の一階部分で風呂敷の製造加工業を営み、その二階部分を従業員(一名)の宿舎として利用してきたが、昭和四一年末ころ右従業員が独立して右二階部分を明け渡したので、以後同所を空室としていたところ、昭和四二年二月初めころ、被告から右二階部分と工場の一部分とを賃借したい旨申し込まれたので、先に認定したとおり、同月二二日、旧建物のうち約37.37平方メートル(一階工場の部分約二五平方メートル、二階居宅の部分約12.37平方メートル)を賃貸して引き渡した。被告は、爾来右賃借した一階工場部分で金属研磨業を営み、右二階部分を家族と共に住居として利用してきたが、賃料については、昭和五一年三月まで増額されることなく、当初の金額の月額金一万五〇〇〇円のままであつた。

ところが、昭和五〇年一〇月に至り旧建物の敷地が旧地主である坂下幸太郎に国から払い下げられることが決定し、原告は、そのころ被告にその間の事情を説明して旧建物を明け渡して貰いたい旨要請したところ、被告は、一旦はこれを了承した。その後原告は、同年一二月末に右坂下から旧建物の敷地部分を含む土地を学校法人オリンピア学園に譲渡したので、昭和五一年三月末までに旧建物の敷地を明け渡して欲しい旨の要求を受け、同年一月ころ被告に旧建物からの退去時期を尋ねたところ、被告は、右退去を拒否する旨返答した。原告は、同年三月以降右坂下から連日のように右敷地の明渡しの要求を受け、同年三月末までにこの明渡しをしない場合には同人が譲受人に支払うべき違約金を原告が負担して欲しい旨要求を受け、原告としては被告の移転先として数個所を物色したがいずれも被告の容れるところとならず、そこで、同年三月一〇日、実力行使として旧建物のうち被告が賃借していない部分の取毀しを強行しようとしたのであるが、前記認定のとおり、被告からの処分禁止の仮処分申請がなされて原告と被告間に和解が成立し、本件建物を賃貸することとなつた。なお、本件建物についての賃料が月額金一万五〇〇〇円と決定されたことについては、被告が右に述べたような原告側の事情によつて旧建物から退去せざるを得なかつたという点を考慮して旧建物についての賃料を基準としたことによるものであつたが、このことについては原告が右に述べたような事情から窮地に陥つて被告の要求を容れざるを得なかつた面のあつたことも否定し得ない。そして、旧建物についての敷金三万五〇〇〇円は本件賃貸借契約においてそのまま流用されることとなつた。<証拠判断略>。

二原告が被告に対し、昭和五一年一二月三〇日に到達した同月二九日付内容証明郵便で本件建物の賃料を昭和五二年二月一日(但し、同年一月二二日に到達した同二一日付内容証明郵便で同年二月九日と訂正した。)以降月額金六万円に増額する旨の意思表示をしたこと、被告が右増額請求の効果を争つていることはいずれも当事者間に争いがない。

ところで、<証拠>によれば、本件賃貸借契約には、被告が主張するとおり、「賃料値上げに際しては本件賃貸借契約が旧建物の賃貸借契約の立退きの一条件であるということを考慮のうえ双方協議して妥当な金額を定める。」との特約の存することを認めることができ<る。>しかし、右特約の趣旨とするところは必ずしも明確ではないが、先に認定した本件賃貸借をなすに至つた経緯、<証拠>を総合考慮すると、本件賃貸借契約は、従前の旧建物についての賃貸借契約とは別個に締結されたものではあるが、これも原告側の事情によつて被告が右建物から止むなく退去せざるを得なくなつたという状況にあつたことによるものであるから、将来の賃料増額に際してもこの点を考慮して原告と被告とが協議のうえ相当な金額を定めることとするという趣旨であつて、これ以上に将来の原告の賃料増額請求を拘束するものではなく、ましてや被告の同意なくして右増額請求が認められないという趣旨までをも含むものではないと認めることができる。そして、原告が本件建物の賃料を月額金一万五〇〇〇円としたことについては被告の要求をある程度容れざるを得ない事情にあつたことによるものであることは前述したとおりであり、<証拠>によると昭和五二年以降右賃料は近隣の賃料と比較してかなり低額であることが認められる。<中略>

そうであるから原告の本件増額請求時の本件賃料は不相当となつていたものと認めることができ、右賃料は、右増額請求によつて該請求にかかる時点における相当額に増額されたこととなるということができる。

三そこで、原告のなした右増額請求に基づく相当賃料額について検討する。

ところで、建物の適正賃料を定める方法には種々のものがありうるが、本件賃料月額金一万五〇〇〇円は前述した経緯から定められたものであること、この賃料額は、前述したとおり、昭和五二年度以降についてであるが、近隣の賃料と比較してかなり低額であることから、必ずしも本件賃貸借契約締結当時の適正賃料を反映したものとみることには疑問があり、したがつて右賃料額をもつて基礎となるべき賃料としてスライド方式により本件適正賃料を算出するのは原告に不利で妥当といい難く、むしろ本件建物の経済価値を適正に把握し、純賃料に必要諸経費を加えて求める積算賃料と本件建物の近隣及び周辺の地域内における類似の建物の最近における新規及び継続の賃貸事例から場所的環境の格差、建物の品等などの格差を考量し、更に契約の新旧を考慮して求める比準賃料との双方を比較検討したうえ、前記認定の本件賃貸借に至る経緯等の当事者間の個別的主観的事情を加味して総合的な見地から算出するのが相当であるというべきである。そこで、以下、この見地から検討することとする。

1 <証拠>を総合すれば、次の事実を認めることができ<る。>

本件建物は、国電新小岩駅北西約一二〇〇メートルに位置し、都道補助一四〇号線を経て、巾員約三メートルの舗装公道を約三〇メートル入り、さらに巾員四メートルの未舗装私道を約一四メートル入つた奥で、準工業地域にあり、周囲は一般住宅、小規模工場が多く、建ぺい率六〇パーセント、容積率二〇〇パーセントの準防火地域でもあり、その位置交通条件としてはやや劣るが、小作業併用住宅に適する環境にある。そして、本件建物は、木造厚型スレート葺、カラー鉄板張りの二階建で、その総床面積は約49.576平方メートル(各階24.788平方メートル)であり、施工は基礎布コンクリートに米栂、ラワン材、ベニヤ新建材を主とした普通品等よりやや劣る程度であるが、建築後一年を経過しておらず、被告は、一階を作業所、二階を居宅に使用しており、本件建物とその敷地との関係からみて最有効使用の状態にある。

2 本件建物の積算賃料を試算すると、前掲鑑定の結果によれば、別紙二のとおり月額金五万七〇〇〇円となる。

3 次に、本件建物の比準賃料を求めてみると、前掲鑑定の結果によれば、近隣の事例は別紙三の①②に掲記のとおりであり、この実質賃料を求めると(但し、権利金はその性格が不詳で、償却期間も不明であるから、運用益のみを年六分と見込む。)、右①は月額四万〇六〇〇円(3.3平方メートル当り三六九一円)、同②は月額六万七七五〇円(3.3平方メーチル当り三七六四円)であり、右事例と本件建物との場所的環境、品等等による修正を加味すると、本件建物の比準賃料は、3.3平方メートル当り、それぞれ三八五七円、三六一三円となる。なお、右①の事例の賃料は価額時点に契約された新規のものであり、同②の事例のそれは契約時期がやや古い周辺地域のもので、継続賃料である。

そして、右二つの事例の賃料を比較すると本件建物の比準賃料は、右①の事例より若干低く、同②の事例より若干高く3.3平方メートル当り三八〇〇円が相当であり、月額五万七〇〇〇円が試算評価される(算式3800円/坪×15坪=5万7000円)。

4 なお、前掲鑑定人は、前掲鑑定書において、本件建物の実質賃料は、積算賃料の点からみても比準賃料の点からみても月額金五万七〇〇〇円が相当賃料といえるが、本件賃貸借契約が旧賃貸借契約の継続的要素をもつていること等を考慮すれば旧賃貸借契約締結時(昭和四二年二月二二日)から昭和五二年二月九日までの約一〇年間の継続による賃料の下降率を年約2.1パーセントとみて、月額金四万七一〇〇円から敷金運用益一〇〇円を差し引いた金四万七〇〇〇円が相当な賃料というべきであるとの見解を述べている。

5 以上認定した諸点を総合考慮して本件増額請求にかかる昭和五二年二月九日当時の適正賃料を勘案するに、本件建物についての積算賃料と比準賃料とはいずれも月額金五万七〇〇〇円となるが、もちろんこれを右適正賃料と断定するのは相当でなく、前述した本件賃貸借契約締結の経緯等を考慮すると、これらの点を斟酌した前記鑑定の結果である月額実質賃料金四万七〇〇〇円をもつて適正賃料と認める。

(丹野達 林豊 岡原剛)

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