東京地方裁判所 昭和52年(ワ)2309号 判決 1982年1月27日
原告
水上良介
外一五名
右原告一六名訴訟代理人
佐伯幸男
昭和五六年(ワ)第一四〇〇号事件
参加人
川崎玲子
外一〇名
右参加人一一名訴訟代理人
浅井利一
昭和五二年(ワ)第二三〇九号事件原告
昭和五六年(ワ)第一四〇〇号事件被参加人(脱退)
松原好江
外八名
昭和五二年(ワ)第二三〇九号事件被告
昭和五六年(ワ)第一四〇〇号事件被参加人
東宝工業株式会社
右代表者
田中清夫
右訴訟代理人
大西保
同
横幕武徳
同
西村常治
右訴訟復代理人
今泉政信
主文
一 原告ら及び参加人らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告ら及び参加人らの負担とする。
事実《省略》
理由
一請求原因1、2の各事実は、当事者間に争いがない。
二そこで、原告らは、本件管理人室、本件第一、第二車庫が、いずれも法三条一項にいう「建物の部分」に該当すると主張するので、以下この点について検討する。
1 本件管理人室にっいて
本件管理人室は、本件建物の一階にあつて入口が本件建物の玄関ホール、階段室に接し、室内には本件建物建設の当初から、地下揚水ポンプ警報器、火災警報集中受信板、エレベーターの緊急電話装置及び本件建物一階部分の電話配線板が取り付けられていたこと、右各装置中電話配線板を除く各装置は、被告が、昭和五二年四月ころ、本件管理人室の西側隣りにある管理人詰所内に移設したこと、右管理人詰所の広さが3.3平方メートルしかないうえ、便所の設備もないことについては当事者間に争いがない。また、<証拠>を総合すると、本件建物には、一階部分に飲食店が五店あつて、二階は主として事務所、三階以上は住宅という、五八区分、六〇世帯の共同住宅で、かつ、本件建物に隣接する通称田村ビルと構造上接続していて、火災警報装置を共通にしていること、本件管理人室は、周囲を鉄筋コンクリートの壁に囲まれた床面積24.91平方メートルの建物で、中には四畳半の和室と約六畳のダイニングキッチンに便所、浴室、玄関、下駄箱及び押し入れが付いており、同室から共用部分を通つて本件建物の玄関に至ることができること、扉は密閉式になつていて本件建物管理のための受付窓口等はなく、前記電話配線板は、一階部分の電話配線が増加する見込みが当面ないから、実際に利用される可能性は低く、また、それが本件管理人室の壁にしめる面積も極くわずかであること(右管理人室の間取、面積については当事者間に争いがない。)が認められ、以上の認定に反する証拠はない。
以上の事実によれば、本件管理人室は、法一条にいう構造上区分された部分に該当するものといわなければならない。
また、本件管理人室は、独立の出入口を有し、内部構造は住宅として独立に利用しうるものとなつているので、利用上の独立性を有することも明らかである。ところで、前記共用部分たる設備が取り付けられていたこと及び現在も前記電話配線板が存在することによつて利用上の独立性が否定されるように考えられないではないが、右共用部分たる諸設備は、本件管理人室の小部分をしめるにとどまつていたものであり、本件建物の建設当初から移動不可能なものとして固定的に取り付けられていたわけではなく、その後、本件管理人室の西側隣りに前記管理人詰所が設置されたのに伴ない、右諸設備は、現在は、殆んど利用されていない電話配線板を除いて、同所に移設されたことを考慮すると、本件管理人室に、従前、右諸装置が取り付けられていたこと及び現在も右電話配線板が取り付けられていることをもつて、本件管理人室の利用上の独立性が妨げられるものということはできない。
以上のとおりであるから、本件管理人室は、法三条一項のいう「建物の部分」には該当しないものと解するのを相当とする。
なお、原告らは、前記管理人詰所は面積が3.3平方メートルしかないうえ、便所の設備もないので、管理人が夜間詰めることが困難である。そのため、本件管理人室に、前記共用設備を取り付け、管理人を常駐させる管理方式をとることが地下揚水ポンプ、エレベーターの故障、火災に対処する上で必要である旨主張するが、<証拠>を総合すると、夜間エレベーターが故障しても、容易に他の者によつて発見し得ること、地下揚水ポンプが故障する可能性も数年に一度あるかどうかの程度であつて、しかも、故障が水の使用量の少ない夜間に発生する可能性はさらに低いうえ、仮に故障した場合の応急措置も、管理組合によつて自治的に行うことが可能であること、また、火災警報装置は各階に備え付けられているから、前記管理人詰所に管理人の在勤していない夜間に火災が発生した場合にも、各階の住民が火災警報に容易に気付き得る状況にあることが認められる。右認定に反する<証拠>は採用することができない。
右認定の事実によれば、前記共用部分である各装置を本件管理人室に取り付けて、管理人を常駐させることが不可欠とまでは言えないから、右原告ら主張の理由によつて本件管現人室の利用上の独立性が妨げられるものとは言えない。
また、原告らは、被告が本件建物部分の分譲に際して、本件管理人室を管理人室としてパンフレットに明記し、当初は、管理人を雇つて本件管理人室に常駐させていたから本件管理人室は法三条一項にいう「建物部分」に該当する、と主張するが、法三条一項にいう「建物の部分」に該当するかどうかは、当該建物部分の構造上及び利用上の独立性がないかどうかによつて決せられるものであるから、本件建物の分譲に際して、本件管理人室を管理人室としてパンフレットに明記したり、当初当該部分が管理人室として利用されていたことをもつて、前記認定判断の妨げとはならないものというべきである。
さらに、原告ら主張の請求原因3、(一)、(3)記載の事実、すなわち、本件管理人室の表示登記及び所有権保存登記が経由されたのは、原告ら及び脱退原告らが本件建物の区分所有権を取得した後であることは、当事者間に争いがないが、原告ら及び脱退原告らの大部分が区分所有権を取得し、所有権保存登記をした時点で、法の適用があるものと解しても、その当時に、本件管理人室が完成していたことは弁論の全趣旨により明らかであるから、同部分の表示及び保存登記が後れても区分所有権の成立に支障はないというべきである。従つて、原告らの右主張も失当として排斥を免れない。
2 本件第一車庫について
(一) 本件第一車庫は、本件建物の地下一階にあつて、車両六台の収容能力があることは、当事者間に争いがない。
また、<証拠>を総合すると、本件第一車庫は、地上への出入口を除いて周囲をコンクリートの壁で囲われ、地上への出入口の部分はシャッターで区切られている。さらに、隣接の東京電力の所有管理する変電室、共用部分であるポンプ室、階段室及びエレベーター室との境界は、それぞれ壁、または引戸式の鉄製扉等によつて明確に区分され、天井及び床は、コンクリートでおおわれていることが認められ、右認定に反する証拠はない。
以上の事実によれば、本件第一車庫は、周囲、天井及び床について、右のとおりコンクリート壁、シャッター、扉等によつて本件建物の他の部分と明確に区分されているので、法一条にいう構造上区分された部分に該当するものというべきである。
また、本件第一車庫の床下には、共用部分である排水槽及び受水槽が埋設されていて、床には右各水槽の入口にあたるマンホールのほか、排水ポンプが設置されており、天井には、受水管及び排水管が張りめぐらされていることは当事者間に争いがないところ、原告らは、本件第一車庫には、これらの共有部分が設置されているので、構造上の独立性を欠く旨主張する。ところが、区分所有権の対象となる部分は、壁、天井及び床によつて画される空間、壁、天井及び床の各上ぬり部分と解されるところ、前記各証拠によれば、本件第一車庫とその床下の各水槽とが、コンクリートの床により画されており、また、右各水槽以外の設備は、本件第一車庫の小部分を占めるにとどまるので、これらが存在するからといつて、構造上の独立性が否定されるものとは到底いえない。従つて、原告らの右主張は採用することができない。
(二) 本件第一車庫が車庫及び倉庫として利用されていることは当事者間に争いがなく、また、<証拠>及び弁論の全趣旨を総合すると、本件第一車庫からは、共用部分たるスロープを通つて区道に出ることができることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定の事実によれば、本件第一車庫は利用上の独立性を有することが明らかである。
原告らは、本件第一車庫には、前記共用設備が取り付けられているので、これらの点検、維持、管理のため一日数回も同車庫を通行しなければならないから、同車庫には利用上の独立性がないと主張する。ところが、前記のとおり、本件第一車庫には共用部分である前記諸装置が取り付けられてはいるが、同車庫の床に存在する四個の共用部分であるマンホールの蓋の占める面積は、同部分の床上の極くわずかな部分であること、また、右各証拠を総合すると、右諸設備があつても、本件車庫はその余の部分をもつて独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ、かつ、<証拠>によれば、前記諸設備の点検、維持、管理のために本件第一車庫を一日約二回通行することがあるが、このことによつても、右の排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずることがなく、反面、車庫としての使用によつて右共用設備の保存及び他の区分所有者らによる利用に影響を及ぼすことも考えられないことが認められ、右認定に反する<証拠>は採用することができず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、本件第一車庫に共用部分である前記諸装置が取り付けられていること、これらの諸装置の点検、維持、管理のために、本件車庫を通行しなければならないことをもつて、本件第一車庫には利用上の独立性がある旨の前記認定判断を妨げることはできないものというべきである。
(三) なお、原告らは、本件建物には、駐車場を設けることは当然のことであつて、本件建物の分譲の際の物件説明書にも地下駐車場を設ける旨明記されていたと主張する。そして、右事実は当事者間に争いがないが、前記のとおり、本件第一車庫の収容能力は、僅か六台だから、これが共用部分となつても、本件建物の住人の大半はこれを利用することができないことを考慮すると、右原告らの主張事実が存在することをもつて、前記認定判断を妨げることができないものというべきである。
3 本件第二車庫について
本件第二車庫は、東側の壁面並びに南側のコンクリート壁を除いて、周囲に壁等の遮蔽物がないこと及び同部分を被告が車庫として賃貸していることは当事者間に争いがない。
また、<証拠>及び弁論の全趣旨を総合すると、本件第二車庫は、東側と南側は、高さ約一メートル五〇センチのコンクリート壁で仕切られており、西側は直接区道に通じ、北側は地下の車庫への通路に接している。右西側及び北側部分には隔壁等はないが、それぞれ本件第二車庫のコンクリート打ちの床面と二〇ないし三〇センチの段差を設けて仕切られている。以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。
ところで、法が構造上の独立性を欠く建物の部分について区分所有権の成立を認めない趣旨は、物権の客体は特定独立のものでなければならないから、右構造上の独立性を欠く建物部分を他の部分から外形上区別し得ない場合には、当該部分についての所有権ないしその他の物権の及ぶ範囲を明確にできず、従つて、右物権の客体たる要件を充足しないこと及び一定の構造を持つた隔壁の存在しない場合には、利用上の独立性を確保しえないことにあるものと解するのを相当とする。そうすると、前記認定のとおり、第二車庫は、同部分を二つの壁面、北側の地下車庫への通路及び西側区道との段差によつて他の部分から明確に区別されており、右事実及び弁論の全趣旨によれば、本件第二車庫が車両の保管、その出し入れ等の用に供するためのものであることを合わせ考えると右の様な開放的な構造をもつていることは、むしろ必要なことであるから、これによつて、本件第二車庫の構造上の独立性が妨げられるとは到底いい難い。この点について、原告らは、本件第二車庫は、東側の壁面及び南側のコンクリート壁を除いて、周囲に壁等の遮蔽物がなく、構造上の独立性がない旨主張するが、隔壁を設けるかどうかは、それぞれの利用目的に即して決すべき事柄であつて、要は、その範囲が明瞭である以上、区分所有権の目的たりうると考えて差し支えないものというべきである。
さらに、本件第二車庫が区道に面し、車両二台収容しうることは、前記甲第一一号証によつて認められるので、利用上の独立性にも欠けるところはない。
三以上のとおりであるから、本件管理人室及び本件第一、第二車庫が法三条一項にいう「建物の部分」であることを前提とする原告らの本訴各請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことが明らかである。
よつて、原告らの本訴各請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(永吉盛雄)
物件目録<省略>