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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)2443号 判決 1981年9月28日

原告 甲野春子

<ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 中村敏夫

同 山近道宣

被告 山田義雄

<ほか三名>

右四名訴訟代理人弁護士 井上福太郎

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告らと被告山田義雄(以下「被告山田」という。)との間の別紙目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)を目的とする賃貸借契約は存在しないことを確認する。

2  被告山田は、原告らに対し、本件土地を明渡し、かつ昭和五一年一二月一六日から本件土地の明渡ずみまで一か月金四万五四四四円の割合による金員を支払え。

3  被告山愛不動産株式会社(以下「被告山愛不動産」という。)は、原告らに対し、別紙目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)を収去して同目録(三)記載の土地を明渡せ。

4  被告山田産業株式会社(以下「被告山田産業」という。)は、原告らに対し、本件建物中の附属建物及び別紙目録(五)記載の建物部分から退去して本件土地を明渡せ。

5  被告株式会社愛誠堂(以下「被告愛誠堂」という。)は、原告らに対し、別紙目録(五)記載の建物部分から退去して同目録(三)記載の土地を明渡せ。

6  訴訟費用は被告らの負担とする。

7  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因(所有権に基づく請求)

1  甲野太郎は本件土地の所有者であったが、昭和三四年一〇月二日死亡したので、その相続人である原告ら及び甲野花子が本件土地の所有権を相続により取得し、昭和五六年一月一四日甲野花子も死亡したので、原告らがその持分権を相続により取得し、現在原告らが本件土地の所有者である。

2  昭和五一年一二月一六日以降、被告山田は本件土地を、被告山愛不動産は本件建物を所有して別紙目録(三)記載の土地を、被告山田産業は本件建物中の附属建物及び別紙目録(五)記載の建物部分を使用して本件土地を占有し、被告愛誠堂は別紙目録(五)記載の建物部分を使用して同目録(三)の土地を占有している。

3  本件土地の昭和五一年一二月一六日以降の相当賃料額は一か月金四万五、四四四円である。

よって、原告らは、被告らに対し、所有権に基づき、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実のうち、本件建物の附属建物及び別紙目録(五)記載の建物部分中二階Kの一部の使用状況は否認するが、その余は認める。右附属建物、Kの建物部分の一部は被告山田産業でなく、被告愛誠堂が使用している。

三  抗弁

1  甲野太郎は、被告山田に対し、昭和二一年一二月一六日本件土地を、普通建物所有の目的、期間三〇年、賃料三、三平方米当り八五円等の約定で貸し渡した。

2  右太郎は昭和三四年一〇月二日死亡したので、その相続人である原告ら及び甲野花子が本件賃貸借契約における賃貸人の地位を承継し、その後昭和五六年一月一四日甲野花子が死亡したので、その相続人である原告らが甲野花子の共同賃貸人の地位を承継した。

3  原告らは、被告山田との間で、昭和五一年六月一日以降、賃料を一か月三、三平方米当り金三五〇円に改定することに合意した。

4  被告山田は、本件土地のうち別紙目録(三)記載の土地を被告山愛不動産に賃貸し、同被告は同土地上に本件建物を所有し、本件土地のその余(別紙目録(四)記載の土地)は被告山田産業に賃貸しているが、本件土地を昭和五一年一二月一六日以降も使用を継続し、右賃貸期間は法定更新されている。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実はすべて認める。但し、本件賃貸借契約が法定更新されていることは争う。

五  再抗弁

1  期間満了による終了

(一) 原告らは、被告山田に対し、昭和五一年一二月二一日本件土地の使用継続に対し、遅滞なく異議を述べた。

(二) 原告らには、本件土地の使用を必要とする次のような正当事由がある。

(1) 原告甲野一郎(大正一〇年一一月二六日生)は、学生のころ精神分裂症にかかり、昭和三五年より昭和三九年三月ころまで入院し、現在においても通院治療を受けており、通常人と同様の社会生活は困難な状況にあり、原告甲野二郎(大正一三年一〇月一六日生)も学生のころ精神分裂症にかかり、昭和三九年三月二九日より現在まで入院しているが、最近通院治療に切りかえる見透しがついてきた、原告甲野一郎及び退院後の原告甲野二郎の治療及び社会復帰のためには、病院という保護的な環境から離れて、医師、精神科ソシアル・ワーカーの監督、指導のもとに退院後のアフター・ケア、作業療法、集団療法を行う施設が必要であり、そのために病院と社会との間の「中間施設」を本件土地に建設する必要がある。

(2) 原告甲野春子は、右両名の後見人として面倒を見てきているが、五七才の独身であり、生活費、医療費その他の経費を捻出するのに原告ら所有の不動産の管理や一切の社会的活動をするとともに家事のすべてを処理しているため疲れ切っており、原告甲野春子のためにも右両名の面倒を見てくれる「中間施設」が必要である。

(3) 原告甲野一郎が入院していた昭和大学附属烏山病院の医師も、右「中間施設」の建設、運営に協力することを約束しており、「中間施設」の規模も鉄筋コンクリート陸屋根付二階建共同住宅(床面積一階五五・九八平方メートル、二階五七・八七平方メートル)で、原告甲野一郎、同二郎の兄弟の他に男子一〇名、女子一〇名の入居を予定しており、本件土地に「中間施設」が建設されることは、右烏山病院にとってもメリットがあり、社会的にも大きな寄与である。

(4) 原告らは本件土地の外にも土地を所有しているが、ほとんどの土地は第三者に賃貸していて建物の敷地となっており、また建物の存しない土地についても住宅地域であるため、近隣住民の反対が激しく、「中間施設」を建設することができない状況にある。また、原告らの賃料収入から必要経費を控除すると、実質収入は原告甲野一郎、同二郎両名の療養費と生活費に追われる状況にある。

(5) 本件土地は、高田馬場の繁華街を離れたところにあり、地形も線路下の行き止まりになっているので、近隣住民の白い眼に囲まれた他の土地よりはるかに回復期の精神障害者に適しており、また、本件土地のような準工業地区は地域環境として周辺企業の下請ないし内職的業務を取り込むことができて作業療法により適している。

(6) 被告山田は、本件土地のうち別紙目録(四)記載の土地に車を駐車させているにすぎず、被告山愛不動産も本件建物を使用せず、右両被告は賃料収入をあげているのみであり、また被告山田産業は本件建物を物置、脱衣場として使用し、被告愛誠堂は倉庫、脱衣場として使用しているにすぎない。また本件土地に隣接する山愛ビルに、被告山田及及び同山田産業は区分所有権を有しており、被告愛誠堂も同ビルの一階の一部を賃借しており、本件建物の使用に代わるスペースは十分にある。

(7) 被告らが主張する本件土地の必要性(六項2(二))のうち、(1)ないし(4)の事実は不知。同(5)の事実のうち、原告らが本件土地附近に土地を所有すること及び土地の賃貸や共同住宅や駐車場として賃貸経営していることは認めるが、その余は否認する。原告らが所有している土地は、三九八四・五六平方メートルである。同(6)の事実のうち、原告らが居住する母屋の敷地が三七〇坪余あり、庭の部分だけでも二〇〇余坪あり、かつ閑静な住宅地であり、駅への便宜もよいことは認め、その余は否認する。この土地のうち約九〇坪は第三者に賃貸しており、またこの土地上に「中間施設」が建てられるとしても、この地域に建てることは、近隣住民の反対が厳しく、これを実行することができない。同(7)の事実のうち、本件土地が準工業地区であり、入り組んだ袋小路の国鉄線路下の土地であることは認め、「中間施設」などを設置したならば患者の症状がかえって悪化してしまうことは否認し、その余は不知。近隣住民の厳しい反対に囲まれた土地より、準工業地区である本件土地の方が回復期の精神障害者にとって適している。同(8)の事実は否認する。

2  無断転貸による解除

(一) 原告ら及び甲野花子は、被告山田との間で、昭和四八年九月一八日本件土地のうち別紙目録(四)の土地を被告山田が駐車場として使用することを合意した。

(二) 被告山田は被告山田産業に対し、昭和四八年九月一八日別紙目録(四)の土地を転貸し、被告山田産業は貸駐車場として第三者に使用させている。

(三) 原告らは、被告山田に対し、昭和五二年五月一六日の本件口頭弁論期日において、無断転貸を理由に本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

3  使用目的違反による解除

(一) 被告山田は、訴外日綿実業株式会社が本件土地の隣接地である豊島区高田馬場《番地省略》に鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根一〇階建総床面積四九五八・五九平方メートルの建物(以下「山愛ビル」という。)を建築するにあたり、山愛ビルを本件建物の増築とし、かつ本件土地を山愛ビルの敷地として確認申請をするについて承諾を与え、山愛ビルが昭和四八年九月一二日に完成したことによって、本件土地を堅固な建物の敷地として使用するに至っている。

(二) 原告らは、山田に対し、昭和五五年九月二九日の本件口頭弁論期日において、使用目的違反を理由に本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1(一)の事実は、認める。

2(一)  再抗弁1(二)の事実のうち、(1)ないし(5)の事実は不知。同(6)の事実のうち、被告山田産業は本件建物を物置と脱衣場として使用し、被告愛誠堂は倉庫と脱衣場として使用しているにすぎないこと及び本件建物の使用に代わるスペースが十分にあることを否認し、その余は認める。本件建物を、被告山田産業は右以外にも研究室及び倉庫として、被告愛誠堂は右以外にも漢方薬調合、包装等の作業場及び休養室として使用している。また、山愛ビルは住居又は事務所用として築造されたものであり、仕様上、本件建物に代えて作業所や倉庫として使用することは不可能である。

(二) 被告らには、次のように本件土地を使用する必要性がある。

(1) 被告山田産業は、千葉県流山市の工場において製造した洗剤を本件建物に格納し、建物内の作業所において袋詰、罐詰作業、梱包作業及び発送作業を行い、常時三〇〇ないし四〇〇万円の洗剤の倉庫としてここから一〇〇店舗位の得意先に送り出しており、また、研修のための社員会合後の臨時宿泊施設として使用するほか、薬事法上の研究室として本件建物を使用しているため、被告山田産業にとって本件建物は経営上不可欠である。

(2) 被告愛誠堂は、三、〇〇〇種類位の薬品、五、〇〇〇万円余の製品を本件建物内の倉庫の棚に分類格納し、これを同社の都内七店舗に梱包発送しており、その分類作業、梱包作業、発送作業のため、各店舗の中心地として本件建物が必要であり、また薬事法上の研究室としても使用している。

(3) 別紙目録(四)記載の土地は駐車場として使用されているが、夜間は満車となることがあるが、昼間は駐車してある車が少ないため、被告山田産業及び同愛誠堂の商品の搬入積下ろし、積込み、搬出等のための作業及び貨物自動車の駐車等のために使用されており、本件空地部分も被告山田産業及び同愛誠堂の経営上必要なものである。また被告山田産業の経営上、経済市況が回復すれば、事業拡大の必要があり、大量緊急に原料資材を購入した場合、ドラム罐その他の原料や製品を空地部分に収納する必要も予想される。

(4) 被告山愛不動産、同山田産業、同愛誠堂は、いずれも被告山田が代表取締役として経営しており、被告山田個人としても各会社を経営するにあたって、右に述べたように本件土地が必要不可欠である。

(5) 原告らは、本件土地附近に四二一五・九八平方メートルの土地を所有する大地主であり、土地の賃貸や共同住宅や駐車場として賃貸経営しており、これらの経営から原告らは一か月金一四〇ないし一五〇万円位の収入を得ている。したがって、「中間施設」を建設する用地を他にも多数有しており、敢えて本件土地上に建設するため、本件建物を収去して本件土地を明渡させる必要はない。

(6) 特に、原告らが居住する母屋の敷地(新宿区高田馬場《番地省略》)は、三七〇坪余もあり、庭の部分だけでも二〇〇余坪あり、かつ閑静な住宅地であり、駅への便宜もよく、正に「中間施設」の敷地として最適である。近隣住民に反対する人がいるという程度であり、この程度の反対は本件土地についても当然予想されるところであり、本件土地より反対が激しいという訳ではない。

(7) 本件土地は準工業地区であり、入り組んだ袋小路の国鉄線路下の土地であり、殊に目白駅を中心とした貨物列車の入れ替え作業が深夜まで継続している。山手線の通過貨物列車のポイントの切り換えにより騒音、振動が深夜も激しく、テレビ映像も乱れ、前記山愛ビルから数家族が逃げ出したほど一般住居としても環境の悪い土地である。精神病治療のための「中間施設」などを設置したならば、患者の症状がかえって悪化してしまう環境である。

(8) 原告らは、被告らに対して、昭和五一年一一月ころ、本件土地の底地を買うように交渉して来たが、売買金額が折り合わず売買は成立しなかった。もし、本件土地を「中間施設」として使用する必要があるならば、このような交渉をもちかけることはないはずであり、原告らの請求は、「中間施設」の建設に藉口して、本件土地の明渡を求めているものである。

3  再抗弁2の事実は、認める。

4  再抗弁3の事実のうち、被告山田が訴外日綿実業株式会社が建築した山愛ビルを本件建物の増築として、かつ本件土地を山愛ビルの敷地として建築確認申請するにつき承諾を与え、本件土地を堅固な建物の敷地として使用したことを否認し、その余は認める。

七  再々抗弁(転貸についての承諾)

原告らは、被告山田に対し、昭和四八年九月一八日別紙目録(四)記載の土地を駐車場として使用することを承諾する際、被告山田が右土地を被告山田産業に転貸し、同社が貸駐車場として使用することを承諾した。同日、原告らは、被告山田から右承諾料として金一〇万円を受領している。

八  再々抗弁に対する認否

すべて否認する。ただし、昭和四八年九月一八日原告らが被告山田から承諾料として金一〇万円を受領したことは認めるが、その趣旨は否認する。被告山田が駐車場として使用することを承認したものにすぎない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因について

請求原因事実のうち、本件建物の附属建物及び別紙目録(五)記載の建物部分中二階Kの一部の使用状況を除き、当事者間に争いがない。

《証拠省略》によると、別紙目録(五)記載の建物部分のうち二階Kはすべて山田産業が、本件建物の附属建物は被告愛誠堂がそれぞれ占有していることが認められ(る。)《証拠判断省略》

二  抗弁について

抗弁事実はすべて当事者間に争いがない(本件賃貸借契約が法定更新されているかどうかは、再抗弁の項で判断する。)。

三  再抗弁、再々抗弁について

1  期間満了による終了について

(一)  再抗弁1(一)の事実は、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、再抗弁1(二)の事実(更新拒絶の正当事由の有無)について判断をする。

(1) 《証拠省略》を総合すれば、次の事実を認めることができる。

原告甲野一郎(大正一〇年一一月二六日生)は学生のころ精神分裂症にかかり、昭和三五年から昭和三八年まで、その半年後から昭和三九年三月ころまで二回昭和大学附属烏山病院へ入院し、さらに昭和三九年一〇月二六日より現在まで国立武蔵療養所で通院加療を受け、現在は食堂の洗い場で働いているものの、なお通常人同様の社会生活は困難な状況にあり、また原告甲野二郎(大正一三年一〇月一六日生)も、学生のころ精神分裂症となり、昭和二三年に二回及び昭和二七年から昭和三九年にかけて右烏山病院に入院し、さらに昭和三九年三月二九日より国立武蔵療養所に入院し現在に至っているが、最近は通院治療に切りかえる見透しもつくようになってきている。

右両名の社会復帰を図るためには、「社会療法」すなわち医師、ソシアル・ワーカー、心理員、看護者、作業指導員らの監督指導のもとで閉鎖病棟から開放病棟へ、開放病棟から社会へと、寛解者が社会生活に接触することによって日常生活の自立訓練や作業訓練を集団的に行ない、また職親のもとで軽作業を通して生活能力の回復をはかる療法を実施することができる社会復帰施設たる「中間施設」を設置し、そこでの治療を行なう必要がある。

原告甲野春子は、その母の甲野花子が昭和五二年八月から脳動脈硬化症及び精神分裂症で右烏山病院に入院し、花子が死亡した昭和五六年一月一四日までその面倒を見てきたが、さらに兄である右一郎及び弟である右二郎の後見人として両名の面倒を見てきており、また生活費、医療費その他の経費を捻出するのに原告ら所有の不動産の管理や一切の社会的活動をしており、加えて、最近健康を害したため、自分に万一のことがあっても右両名が困らないような生活状態にしておくために、右両名の面倒を見てくれる「中間施設」を建設して両名の生活を安定させておく必要が生じた。予定している「中間施設」の規模は、鉄筋コンクリート陸屋根付二階建共同住宅で、右一郎、二郎兄弟の他に、寛解者である男子一〇名、女子一〇名の入居を予定しており、またこの施設の運営には昭和大学附属烏山病院の医師、ソシアル・ワーカーらが協力を約束しており、このような「中間施設」の例は日本国内においても例が少なく、「中間施設」の建設は、烏山病院にとってもメリットがあり、社会的にも大きく寄与するものである。

原告らは、本件土地附近に三九八四・五六平方メートルの土地を有し、土地、共同住宅、駐車場の賃貸をしているが、その賃貸経営から得る収入から一郎、二郎兄弟の療養費や生活費にあてている。また、本件土地以外に原告らが所有する土地で「中間施設」建設の可能な広さの土地は、原告らが居住する母屋の敷地(新宿区高田馬場《番地省略》所在、一七二七・〇七平方メートル)であり、環境としても閑静な住宅地であり駅への便宜もよいが、近隣住民の中に、この土地に「中間施設」を建設することに対し反対する人がいる。

本件土地は、高田馬場駅からそれ程離れてはおらず、医師やソシアル・ワーカーが訪問し指導するのに交通の便がよく、また準工業地区であるため、職親を開拓しやすく、周辺企業の下請ないし内職的業務を取り入れた作業療法に適した地域環境である。

(2) 他方、《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

被告山田産業は、化学洗剤メーカーで、主に化学洗剤を製造しているが、千葉県流山市の工場において二〇種類位の洗剤を製造し、それを本件建物に運び保管し、この建物において荷造り、レッテル貼り、梱包作業を行い、常時三〇〇万円位の商品の倉庫として、ここから都内、近県にある約一〇〇店位の問屋、小売店に配送しており、また月二ないし三回会社の幹部が勉強会を開くときに臨時宿泊施設として用いるほか、洗剤の研究室としても用いている。

被告愛誠堂は、医薬品、化粧品、雑貨の小売を業務としているが、本件建物を薬事法で定められた設備の試験室として用い、さらに、本件建物所在地が都内七店舗の支店の中心に位置し、配送の便がよいため、時価五、〇〇〇万円余の商品の倉庫として用い、本件建物内には約三、〇〇〇種類の商品が分類格納され、各支店からの注文に従って選別、梱包し、発送作業を行っている。また、社員の更衣室、物置としても用いている(《証拠省略》によると、本件建物は相当老朽化し、被告山田産業、同愛誠堂の本件建物の使用方法は雑然としたものであることがうかがえるが、それでも前述のとおり本件建物を営業上利用していることは否定できない。)。

別紙目録(四)記載の土地は駐車場となっているが、本件土地前の道路が狭いため、その道路上では商品の搬入、搬出作業ができず、したがって被告山田産業、同愛誠堂とも右駐車場内に貨物車輛を入れて商品の積み降ろし、搬入、搬出をしている。

被告山田は、被告山愛不動産、同山田産業、同愛誠堂の代表取締役をしており、実質的に被告山田がこれらの会社を経営している。

本件土地は、目白駅と高田馬場駅の中間の入り組んだ袋小路の国鉄線路下にある工場地帯であり、非常に騒音、震動がある土地であり、特に明け方には目白駅のポイントの切り替えで震動、騒音が大きく、テレビは殆んど見えない状態であり、昼間でも山手線の行き来で騒々しい所である。

原告甲野春子は、昭和五一年一一月ころ、本件賃貸借契約の期間満了に際し、被告山田産業の取締役である笹目邦夫に対して、本件土地の底地を買い取るよう交渉してきたが、被告山田に購入する意思がなく、売買は成立しなかった。

(3) 以上の認定事実によれば、原告甲野一郎及び同甲野二郎の社会復帰及び両名の将来の生活の安定を図るために、「中間施設」の建設が必要であることは認められるが、本件土地の周辺の環境から考えて、原告らが所有する土地のうち、特に本件土地に「中間施設」を建設しなければならないとする理由はさほど大きいものと認めることができず、これに対し、被告らのうち、被告山田産業及び同愛誠堂は、現実に本件建物を営業活動に利用し、両社にとって本件建物がそれぞれの営業活動において重要な機能を有していることが認められ、また別紙目録(四)の土地についても、被告山田産業にとって貸駐車場として利用しているばかりではなく、被告愛誠堂と共に、商品の積み降ろし、搬入、搬出等のための貨物車輛の出入口として用い、右両社にとって本件建物の利用ができなくなることは、その企業活動に大きな打撃を与えるであろうことが認められる。

正当事由の存否は、賃貸借当事者双方の諸般の事情を考慮しその比較考量により決すべきものであるが、さきに認定した原・被告らの諸事情を比較考量すると、原告らの「中間施設」の必要性は十分に認められるものの、本件土地にそれを是非とも設置することが必要であるとする根拠に乏しく、これに対して被告らの本件土地に対する営業上の必要性はこれを過少視するわけにはいかないので、諸般の事情を合せて考えても、本件の更新拒絶には正当の事由があるとするには足りないというべきである。

2  無断転貸による解除

(一)  再抗弁2の事実は、当事者間に争いがない。

(二)  再々抗弁(転貸の承諾の有無)について判断をする。

昭和四八年九月一八日原告らが被告山田から承諾料として金一〇万円を受領した事実は、当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すれば、原告甲野春子は、被告山田及び同山田産業が既に別紙目録(四)記載の土地を貸駐車場として使用し、車が八台位入っているのを黙認する趣旨で右承諾料金一〇万円を被告山田産業の取締役である笹目邦夫から受領したこと、笹目邦夫は被告山田産業が駐車料の収入があることから円満に解決しようとして、原告らに右承諾料を支払ったこと、原告甲野春子は右承諾料を受取るにあたって被告山田に、屋根付駐車場として「第三者使用させる」ことを承諾したことが認められ(る。)《証拠判断省略》

これらの事実を総合すれば、原告らは、被告山田が貸駐車場として使用することを承諾したこと及びその承諾には被告山田産業への転貸の承諾も含まれていたことを推認することができる。

そうすると、原告らの無断転貸を理由とする解除の主張は採用できない。

3  使用目的違反による解除

(一)  再抗弁3の事実のうち、訴外日綿実業株式会社が本件土地の隣接地である豊島区高田《番地省略》に山愛ビルを建築したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、訴外日綿実業株式会社が山愛ビルを本件建物の増築として、かつ本件土地を山愛ビルの敷地として建築確認申請したこと、山愛ビルが完成したことによって、本件土地上には山愛ビルがなければ一二八七・七二平方メートルの建物の建築ができたところ、三五九・五二五平方メートルの建物しか建築できなくなったことが認められる。

(二)  そして、《証拠省略》によれば、昭和四五年一〇月二七日頃被告山田と被告山田産業は右隣接地に地上一〇階地下一階のビルを建築しようとし、右二七日付で新宿区に対し建築確認申請をなし(同年一二月八日付で建築確認処分がされている。)、その後自前で右ビルを建築することを取り止め、土地を提供し日綿実業株式会社にビルを建築してもらいそのビルに土地提供者の持分を取得すること(いわゆる等価交換方式)に変更し(このビルの規模は、さきに計画していたものとほぼ同じである。)、日綿実業は昭和四七年四月一八日建築確認処分を受けて前記山愛ビルを建築したことが認められる。

右認定事実によれば、隣接地に山愛ビルのような規模のビルを建築するには本件土地をその敷地に取り込まなければ建築基準法には適合しないのであるが、このことは被告山田らが昭和四五年一〇月に自前のビルの建築を企図したときに十分承知していたものと推認できることであり、そしていわゆる等価交換方式で山愛ビルが建築されるにあたっても、本件土地をその敷地の中に取り込むことを被告山田らは日綿実業に承諾を与えていたものと推認することができる。《証拠判断省略》

(三)  右認定事実によると、本件土地が山愛ビルの敷地に取り込まれ建築がされてしまったため、本件土地上には三五九・五二五平方米の建物しか建築できなくなり、本件土地の利用度、価値は減少してしまったことが認められるのであるが、このことがあったからといって、本件土地自体は従前どおり被告らが使用を継続しているのであるから、ただちに本件土地について使用目的の違反が生じたということはできない(本件土地の利用度、価値の減少は、別途、損害賠償の問題として取上げられるべきである。)。

四  結論

よって、本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田二郎)

<以下省略>

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