東京地方裁判所 昭和52年(ワ)6263号 判決
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【判旨】
三1 不動産仲介契約における受託者の報酬請求権は仲介によつて売買契約が成立した場合にはじめて発生するのであり、不動産の売却又は購入を希望する者が複数の業者にその仲介を依頼し各業者とも仲介行為をなし、そのうち特定業者の仲介のみが効を奏して売買契約成立をもたらした場合にはその業者のみが報酬請求権を取得し、他の業者はこれを取得することはできない。即ち、不動産仲介契約にあつては売買契約を成立させることが目的であり、右目的が達成されない限り業者の仲介行為は委託者にとつては無価値のものとしか評価することができないから、その場合にまで委託者に報酬支払義務を負わせるのは相当でなく、他面、右のように売買契約成立に至らしめた業者のみが報酬請求権を取得したとしても、それは業者間の取引上の競争のしからしめるところに過ぎないのであつて、業者にとつてこれをあえて不当とまではいうことはできないのである。
また、不動産仲介を依頼した者は損害賠償義務を負うことなくいつにても仲介契約を解約できるものと解すべきである。もし、原告が主張するように民法六五一条二項、六四八条三項又は六四一条の準用により委託者の解約権に制約を加えるとすれば、委託者が複数業者と仲介契約を締結した場合各業者がそれぞれ独自に仲介行為を開始した以上は委託者としては損害を賠償しない限りたとい仲介行為が自己にとつて無価値なものであつても仲介契約を解約し得ないという不当な結果を招きかねないことになるのである。
2 しかし、以上の場合を通じ外観上は他の業者の仲介により売買契約が成立したごとくみられても、実質上当該業者の仲介の成果と同視し得る場合とかその他信義則上の見地から原告主張の法条を根拠に業者が報酬請求権又は損害賠償請求権を取得するものと解する余地が生じ得る。
3 ところで、前記二に認定した事実によれば、被告阿部は内藤地所及び原告に南鳥山住宅内の住宅購入の仲介を依頼し、被告菅根は京王不動産及び原告に本件物件の売却の仲介を依頼していたところ、たまたまほぼ時を同じくして右仲介業者三者が本件物件に関与することとなつたが、原告の仲介によつては価格について被告らの意思の合致をもたらすことができなかつたため、売買契約は不成立に終り、他方内藤地所及び京王不動産の仲介は効を奏し売主たる被告菅根の譲歩を得ることにより売買契約を成立させるに至り、また、右成立以前に被告菅根は原告との仲介契約を解除したものということができるのである。
このように、原告の仲介によつて被告らの売買契約が成立したものではなくまた、被告菅根との関係においては仲介契約が解除された以上前記2に述べた信義則上の見地から原告の請求の当否の検討が残るに過ぎないのであるが、右のような事実関係のもとにあつては、原告が主張するように、被告ら間の本件物件売買契約が原告の仲介を契機としたものであるとか、被告らが原告に対する支払義務を免れるためことさら原告を除外し他の業者と結託したという事実は認めることはできないのであり、原被告間の仲介契約に民法一三〇条を適用する余地はない。その他右仲介契約において原告に報酬請求権又は損害賠償請求権を取得せしむべき信義則上の事由を見出すことはできない。
(松野嘉貞 佐藤道雄 高橋正)