東京地方裁判所 昭和52年(ワ)6872号 判決 1979年5月29日
原告
東京信用保証協会
右代表者理事
田中猛
右訴訟代理人弁護士
高橋英一
被告
株式会社国民相互銀行
右代表者代表取締役
松田文蔵
右訴訟代理人弁護士
黒田松寿
主文
一 東京地方裁判所昭和四九年(ケ)第五九〇号不動産任意競売事件について昭和五二年七月一五日付で作成された売却代金交付計算書のうち、債権者原告及び債権者被告の各欄を次のとおり変更する。
(一) 債権者原告欄
(1) 貸付元金代位弁済債権の債権額を「一〇〇〇万円」と、これに対する交付額を「八六四万五九一〇円」とそれぞれ変更する。
(2) 債権の種類欄の「昭和四九年六月二六日より」及び「年六パーセントの利息」を「昭和四九年六月二七日より」及び「年一四パーセントの遅延損害金」と、その債権額及びこれに対する交付額を各「四二七万二八七六円」とそれぞれ変更する。
(二) 債権者被告欄
債権者被告の貸付元金及び損害金の各債権に対する交付額をそれぞれ「零」と変更する。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
理由
一 請求原因(一)項の事実、同(二)項の3の事実及び同項の1、2、4、5、11において原告が主張する登記の存する事実は当事者間に争いがなく、原告が代位を主張する都民銀行の担保権が被告に優先するものであることは明らかに被告において争わないところである。
二 《証拠》を総合すると、請求原因(二)項の1ないし11のうち前示争いがない事実以外のその余の各事実(ただし、都民銀行と誠電社との消費貸借による本件被担保債権についての遅延損害金の約定利率は、年一四・六パーセントではなく日歩四銭)も、これを認めることができ、また、被告は本件不動産につき昭和四五年二月一二日受付をもつて根抵当権の設定登記を受けた後順位の抵当債権者であることが認められ、右各認定を覆すに足りる証拠はない。
三 本件の事実関係は、主債務者誠電社が債権者都民銀行に対し負担していた消費貸借債務(遅延損害金約定利率日歩四銭)につき保証人原告東京信用保証協会において元本金一〇〇〇万円を代位弁済し、物上保証人藤岡三名(そのうち藤岡誠登は保証人を兼ねる)共有の本件不動産に対し都民銀行が有していた債権極度額一五〇〇万円の根抵当権(元本が確定し、代位の付記登記を経たもの)及び被担保債権につき、原告は同銀行に代位してその代位権の範囲内で求償権の満足を得ようとするものであるところ、本件配当手続において作成された売却代金交付計算書においては、民法五〇一条但書五号により原告は藤岡三名との計四名の頭数に応じてのみ代位できるものとされ、原告の代位債権を前記元本の四分の一である二五〇万円及びこれに対する年六分の割合による法定利息の限度で認めるにとどめた結果、別紙のとおり後順位債権者である被告に対する交付額が定められたものである。
しかし、原告が誠電社のため都民銀行に対して保証を約束するに当たり、原告と誠電社及び藤岡三名との間において締結された信用保証委託に関する契約においては、原告が同銀行に対し代位弁済をした場合誠電社及び藤岡三名は連帯して右代位弁済金全額及びこれに対する代位弁済の翌日から年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金を償還すること、藤岡三名が同銀行に保証人として弁済をし又は右三名が同銀行に提供した担保が実行された場合でも、右三名は原告に対し求償権を有しないこととするほか、原告が代位弁済をした場合原告は藤岡三名が同銀行に提供した担保の全部につき同銀行に代位し求償権の範囲で同銀行の有していた一切の権利を行使することができる旨の合意があることは、前認定のとおりであるから、原告と藤岡三名との間において、原告の負担部分を零と約し、かつ、右遅延損害金の特約のほか民法五〇一条但書五号の適用を排除して頭数に応ずることなく原告が全部につき代位すべきことの特約をしたものと認めることができる。
そして、右のように債権発生の原因たる契約の関係当事者間において民法五〇一条但書五号と異なる特約及び求償債権について法定利息を上回る利率の遅延損害金支払の特約をすることを禁ずる法的根拠はなく前記各特約は有効であり、原告は、代位弁済の結果、弁済元本一〇〇〇万円及びこれに対する弁済の翌日たる昭和四九年六月二七日以降の約定遅延損害金の求償権を取得し、その限度において、都民銀行が有していた貸付元金一〇〇〇万円及び日歩四銭の割合による遅延損害金の債権及びこれを担保する本件根抵当権を代位行使することができることとなつたものと解すべきである。
その場合、担保の目的物につき利害関係ある第三者たる後順位根抵当権者被告と原告との対抗関係については、被告は、求償債権及び代位の目的債権自体については取引関係等正当な第三者の立場にあるわけではないから、それらの存否、内容について被告との対抗問題を生ずる余地はなく、被告に対し原告が優先弁済を主張しうる権利の範囲は、公示された都民銀行の先順位根抵当権の登記によつてのみ決すべきである。民法五〇一条但書五号の規定は、保証人・物上保証人相互間の代位関係調整を目的としその間のいわば内部的関係を定める趣旨の規定であつて、後順位債権者等第三者の利益を保護する趣旨の規定ではなく、保証人と物上保証人との間に代位に関する特約がない場合に代位弁済をした保証人が頭数に応じ一部についてのみ代位することとなる結果その限りにおいて当該担保物に対する後順位担保権者が利益を受けることになるが、代位弁済がなされないまま先順位担保権が実行される通常の場合を考えれば右利益はもともと生じないのであるから、後順位担保権者の右の利益はたまたま保証人による代位弁済がなされたことによる事実上の反射的利益にすぎず、代位行使される先順位担保権による優先弁済の範囲が登記により公示された担保の範囲に限定されるものである以上、前記特約が有効とされても後順位担保権者は法律上の利益を害されることはない。
また、代位弁済により取得される求償債権と代位行使される被担保債権とが別異の債権であることは、もともと法律上当然に予定されていることであり、弁済による代位の制度自体が、弁済により消滅する被代位債権を特に代位弁済者の求償権確保のために存続させ代位弁済者に移転するものとしこれを代位行使することによつて別異の求償債権を満足させようとする技術的法制であるから、代位行使される債権の限度内であれば、特約による遅延損害金をも含めて代位弁済者が取得した求償債権の全部について代位権行使により満足を得ることができるものと解すべく、被代位債権と求償債権とが別異の債権であることは、なんら結論を左右するものではない。
以上の解釈と異なる判例は変更されるべきものである。
四 そうすると、原告は、代位取得した都民銀行の根抵当権の極度額一五〇〇万円の限度において、かつ、求償債権元本一〇〇〇万円及び約定遅延損害金(年一八・二五パーセント)の範囲内で、代位取得した同銀行の誠電社に対する貸付元金一〇〇〇万円及び日歩四銭の割合による約定遅延損害金の各債権を行使し本件売却代金からの優先弁済を求めることができるものであり、本件売却代金中本件配当異議に関しない交付額を除く残金一二九一万八七八六円は、右極度額の限度内であるから、元本一〇〇〇万円に対する代位弁済翌日(昭和四九年六月二七日)より配当期日昭和五二年七月二五日まで求償債権及び代位行使債権の両者の約定利率の範囲内である原告請求の年一四パーセントの割合による遅延損害金四二七万二八七六円並びに元本内金八六四万五九一〇円に全部配当交付されるべきものであり、その結果後順位債権者たる被告に対し配当交付すべき売却代金は存しないことになる。
よつて、右のとおり本件売却代金交付計算書を変更するよう求める原告の本訴請求は理由があるから、これを正当として認容
(裁判官 渡辺惺)